「しぶといね。まるでゴキブリのようだ」
「第一声から言ってくれるさ……」
レイフォンは心底残念そうに言い、ハイアを軽蔑のこもった眼差しで見ていた。
「フェリに感謝しろ。もしフェリが止めなかったらお前は死んでいたんだからな」
「はっ、それはどうも。相変わらずレイフォン君はあの嬢ちゃんの尻に敷かれているようさ」
「ああ、そうだね」
レイフォンの脅しに、ハイアは軽口で答える。
それにあっさりと同意したレイフォンだが、次の瞬間には錬金鋼が復元され、ハイアの首筋に突きつけられていた。
「フェリの言葉がなければ、僕は戸惑うことなくお前を殺していた。今でも十分に殺したいと思っている。それでもお前が生きているのはフェリの慈悲だと言う事を忘れるな?そして、次にフェリに危害が及ぶようなことがあったら……その時はフェリがなんと言おうとお前を殺す」
「怖い怖い」
「あ~、ゴホン」
緊迫した空気を作り出すレイフォンとハイアに向け、カリアンは咳払いをしてそれを制す。
「レイフォン君、私達は交渉に来たのだよ。そのように挑発するのはやめたまえ」
「……すいません」
「すまないね、ハイア君。なにせレイフォン君は妹のことをとても大事にしてくれているようだからね」
「それはよ~く理解したさ」
レイフォンが錬金鋼をしまったのを確認し、カリアンはハイアに向け心のこもっていない謝罪をする。
それに頷きながら、ハイアは問いかけた。
「で、予想は付いてるけど都市のトップが俺っちに何の用さ?」
「ふむ、なら話は早く済みそうだ。おそらくその予想通り、今後の君達の扱いについてだよ」
ハイアがやっぱりかと内心でつぶやく。
今回、ハイアが起こした事件はそういうものだ。この都市のトップに暴行を働き、その妹を誘拐して人質とした。
テロリストと変わらないその行いに相応する罪が問われるのは当然のことだ。
だけどひとつだけ腑に落ちない。そんなもの、それ相応の役職に付く下の者が動けば済む話だ。それなのに何故都市のトップが、生徒会長自らが動く必要がある?
それがハイアには理解できなかった。
「ああ、話はそのままの状態で聞いてくれて構わないよ。君は重傷だ、起きるのも辛いだろう?」
「心遣い、感謝するさ……」
起き上がろうとしたハイアをカリアンが止め、ハイアはベットに横になったまま耳を傾ける。
暴行を加えられた相手を目の前にしていると言うのに、カリアンの表情は相変わらず何を考えているのか分からない笑顔を浮かべていた。
「確かに君がしたことは許されないことだろうね。本来なら財産などを全て没収し、都市外強制退去ってところだろうけど、私は君と良好な関係を築きたいと思っているよ」
とても爽やかに見えるその笑顔で、カリアンは次のような条件を示してきた。
一つは罰金。都市のトップを襲い、妹を攫っただけにその金額は高かった。これにより、傭兵団がツェルニで得た稼ぎは殆どが吹き飛ぶ。むしろ、金銭でそれらを水に流すと言うのは破格の条件だろう。
だがその代わり、負傷した傭兵達は完治するまで、責任を持ってツェルニが面倒を見るらしい。
次に二つ目、教導の継続。未熟者ばかりの学園都市ではサリンバン教導傭兵団のような教官役は貴重であり、今後とも贔屓にしたいと言うのがカリアンの思惑だ。
殆どの傭兵達はレイフォンの手によって負傷したが、擬態として宿泊施設に泊まっていた傭兵達は無傷だ。教導はそんな彼らにお願いするつもりだ。
そして最後に三つ目、人を喰ったような黒い笑みを浮かべ、カリアンは言う。
「ハイア君、学生になってみる気はないかい?」
「はぁ!?」
ハイアは思わず問い返してしまう。それも当然だ。カリアンはサリンバン教導傭兵団の団長だった自分に学生にならないのかと問いかけてきたのだ。
「……冗談?」
「まさか、私はこういった冗談は嫌いでね。本気だよ」
カリアンは変わらない笑みを浮かべているが、その隣ではレイフォンが明らかに不服そうな顔をしていた。
どうやら冗談や嘘の類ではなく、ハイアを本気で学生にするつもりらしい。
「直接教導をした君なら分かるだろうけど、ツェルニのレベルは全体的に低くてね。武芸大会の貴重な戦力として活躍してくれると助かるんだよ。もっともその怪我では今回の試合には間に合わないだろうから、次回からになるだろうけどね。悪い話じゃないだろう?聞くと、君はもう傭兵団にはいられない立場らしいからね」
その上、カリアンはハイアの事情を知っている。フェルマウスか他の傭兵達にでも聞いたのだろう。
今のハイアに居場所はなく、行く当てすらない。
だが、だからと言ってその話を受けるかどうかは別の話だ。
「……断る、って言ったらどうするさ?」
「その場合は残念だけど……」
ハイアの問いかけにカリアンは視線を逸らし、横目でレイフォンを見ていた。ハイアもそれにつられ、レイフォンへと視線を向ける。
レイフォンからは不服そうな表情が消え失せ、とてもいい笑顔を浮かべていた。そのあまりにも清々しく、そして禍々しい矛盾する笑顔には悪寒を覚えるほどだ。
「都市外強制退去だね。ただ、運ぶのが大変だろうから手足をばらばらにして、運びやすくしようと思っているけど」
笑顔で言い切ったレイフォンに、ハイアは戦慄した。
実際に四肢の内3本を切断された身としては、今の話を冗談として捕らえることができない。
「で、どうする?僕としては是非とも受けないで欲しいんだけど」
白々しく問いかけるレイフォンにハイアは舌打ちを打った。
そんな話を聞かされたあとでは、ハイアに選択の余地はない。
「……わかったさ」
今まで傭兵として過ごし、生きてさえいれば負けじゃないと思っていたハイアだが、先の戦闘で完膚なきまでにレイフォンに敗北してしまった。
まったく勝てる気がせず、その上この体では抵抗すら間々ならない状況だ。
せっかく運良く生き残ったのだから、手足を再び切断されて都市外に捨てられると言う事は避けたい。
故にハイアはカリアンの申し出を受け、この日この時、彼はツェルニの学生となった。
頷くハイアに、今度はレイフォンから舌打ちが聞こえた。ハイアは背中に冷たい汗を掻きつつ、どす黒いものを腹の底に隠し持っているカリアンに向き直る。
「賢明な判断だ。生徒会長として、私は君を歓迎するよ」
「はんっ!」
その言葉を白々しいと思いながら、ハイアは目を瞑る。なにせこの重傷だ。ボロボロのハイアの体は休息を欲しがっている。
「君も辛いだろうから、今回はここまでにしよう。詳しい話や手続きは後日ということで」
それを察したカリアンはハイアを気遣い、レイフォンを促して退室して行った。
この時のレイフォンは、嫌悪感を微塵も隠さずにハイアを睨んでいた。だが、目を瞑っているハイアにそんなレイフォンの表情が見えるわけがない。
扉の閉まる音を聞き、ハイアは深い眠りへと落ちて行く。予想外の展開に戸惑いながらも、襲ってくる睡魔には抗えなかった。
こうして夜は更けていく。日付は既に変わり、武芸大会当日となった。
ツェルニの存続が懸かった、大会と銘打たれた戦争。それが始まろうとしていた。
轟音と共に二つの都市が足を絡ませるようにして外縁部を接触させたのは、早朝のことだった。
既に接触点近くに待機していた両都市の生徒会同士が面会し、戦闘協定に署名を行っていた。
学園都市ツェルニと、学園都市マイアスの戦争。この戦争が一般の都市で行われる血の流れる戦争ではなく、学園都市連盟の定めたルールによって行われる試合であることを宣言し、それを順守することを誓約し、同時にルールの誤認がないかを確認することが目的だ。
この協定書は後に試合結果と共に両方の都市から学園都市連盟に複写したものが送られ、戦闘記録が付けられることになっている。
署名が終了した後、お互いの都市の大まかな地図が提出され、戦闘地区と非戦当地区の確認、そして試合開始時間が協議される。
その結果、試合開始時間は正午からとなった。
「よい試合になればいいですね」
カリアンはマイアスの生徒会長の後ろに控える武芸者達を見ながらそう言い、握手を求めた。
既にカリアンの背後にもツェルニの武芸者達が揃っている。
「ええ、そう思います」
マイアスの生徒会長はカリアンの笑みに僅かに呑まれながらも、握手に応じた。
そして両者とも背を向け、自分の都市へと戻っていく。
「どう思う?」
カリアンは背後に控えていた武芸者達、ヴァンゼとレイフォンに意見を求めた。
「士気は高そうだな」
「ええ、うまく言えませんが勢いがあります」
「そうだね。うちの戦績は向こうも調べただろうから、楽勝の相手と思われたかな?」
マイアスは前回の武芸大会では2戦しており、1勝1敗と五分の結果を残していた。
特に目立ったところはなく、強くもなく、弱くもないといった感じだろう。
ツェルニは前回の武芸大会では全敗しているため、マイアスには舐められているかもしれない、
「そうかもしれん。だが、それだけではないかもしれん」
慎重なヴァンゼの意見にカリアンは同意した。
マイアスの生徒会長は、やや気弱な面があるとカリアンは判断したが、それは性格的なものだろう。
マイアスの生徒会長の窺うような瞳の奥には、勝てるという強気が見え隠れしていた。
「それに……」
カリアンは今度は人物ではなく、マイアスという都市そのものに視線を向けた。
ここから見える外縁部の何箇所かで舗装が剥げていたり、明らかに大きいものを動かしたような傷があった。
「剄羅砲でも動かしたような跡だね」
「ああ。最近汚染獣と戦ったか?」
「そして勝った。となるとあの士気の高さも頷けるのだけど」
「そう言えば……マイアスにいた時、汚染獣が襲ってきました」
「ん、ああ……そうだったね。あの騒動でレイフォン君はマイアスにいたと言っていたね」
冷静に分析をしていたところで、レイフォンとカリアンが思い出したようにつぶやく。
レイフォンは廃貴族に憑りつかれ、どういったわけかマイアスにいたのだ。
そこでは狼面衆と名乗る集団と対峙し、サヴァリスとの遭遇、汚染獣の討伐を行っていた。
とても重要なことだったが都市が接近し、それがマイアスだと明らかになったのは昨日の事で、傭兵団による騒動で気を取られていたレイフォンはそんなことをすっかり忘れていた。
それはカリアンも同じで、今更ながらレイフォンにマイアスについて尋ねる。
「君から見て、マイアスの戦力はどうだい?」
「僕を抜いた上で戦力を総合的に考えると、ほんの僅かですがツェルニが上回っていると思います。もっともこれは対抗試合時点の考えなので、それなりに戦場を踏み、傭兵団に教導を受けた現在のツェルニならかなり優勢に戦局を進められると思いますよ」
「ふむ、なるほどね……それにレイフォン君が加わるわけだから、勝てるよね?」
「勝ちますよ、絶対に。むしろ負ける要素が見当たりません」
自信に満ち溢れたレイフォンの言葉に、カリアンはこれ以上ない頼もしさを感じる。
元だが、グレンダン最強の一角、天剣授受者だったレイフォン。そんな反則紛いの戦力を有しているツェルニが負けるはずなんてなかった。
「期待しているよ、レイフォン君」
「ええ、その期待に応えてみせます。そして証明します、ハイアなんて必要ないと」
「私としては仲良くして欲しいのだけどね。なにせ、これから同じ学び舎の仲間となるのだからね」
レイフォンとカリアンはそんな会話を交わしている間も、試合開始の時刻は刻々と迫ってくる。
「本当に行くんですか?」
「ええ、そう言いましたよね?」
シェルの問いかけに、サヴァリスは平然と言い返す。
ここはマイアスの外縁部近く。本来ならシェルターに避難しなければならないサヴァリス達は、この機にツェルニに渡ろうと企てていた。
「本来なら都市警として止める立場なんですけど、なんだかんだでサヴァリスさんにはお世話になりましたし、私なんかが止められるとは思ってませんからいいですけどね……」
「ごめんなさい……」
諦めたように言うシェルに対し、リーリンは申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
だが、だからと言って今更ツェルニにいくのをやめようとは思えない。
リーリンはレイフォンに会うためにグレンダンを出た。放浪バスに載って、長い旅をしてきた。そして今、すぐ側に、目の前の都市にレイフォンがいるのだ。
少しでも早く会いたかった。暢気に放浪バスを待つなんてことは出来なかった。だからリーリンは申し訳なく思っていても、今更止まるつもりはない。
「まぁ……別にいいですけどね。それよりもレイフォンさん、元気でやっているといいですね」
「そうですね……レイフォンって不器用だから、少しだけ心配です」
シェルの気遣いに同意するリーリンだったが、彼女は知らない。
レイフォンはツェルニで、元気すぎるほど元気にやっていることを。
「もうすぐ試合が始まりますね……そろそろ配置に付かなければいけないので私はこれで」
「あ、はい」
「頑張ってくださいね」
シェルは時刻を確認し、都市戦の配置に付くために立ち去ろうとする。
おそらくこれが今生の別れ。隔絶された都市では二度と会う機会がないだろうと思い、シェルは笑顔を浮かべてリーリン達を見送った。
「リーリンさん、クラリーベルさん、お元気で。サヴァリスさんには本当にお世話になりました。お世話になりすぎてお礼参りのひとつやふたつしたいところですけど、命が大事なのでやめておきます」
「そうですか?僕は大歓迎ですよ」
サヴァリスの大胆不敵な笑みを受け流し、一礼をしてシェルは背中を向ける。
一緒に過ごした日々は少なくとも友となった少女達に別れを告げ、少しの間だけ教導を受け持った教官に僅かながらの憎悪を抱き、シェルは戦場に赴く。
試合開始時刻、戦争が始まる正午は、すぐそこだった。
「俺達は騎士だ!女神、フェリ・ロスを守護する選ばれた戦士だ!!」
ツェルニの外縁部では50を超える集団が円陣を組み、その中心である人物が堂々と宣言する。
彼らはフェリ・ロス親衛隊。ツェルニで最も暑苦しく、大規模な集団だ。
「その誇りに賭けて勝利を誓え!そう、俺達は敵と闘いに来たんじゃない!倒しに来たんだ!!都市戦に勝利し、女神に平穏を捧げるために!」
「「「うぉぉおおおおおおおおっ!!!」」」
「フェリ・ロスに栄光あれ!!」
「「「フェリ・ロスに栄光あれ!!!」」」
全てはフェリのためと言う心情で彼らは存在し、彼女のためだったら強固な一枚岩と化す。
そんな彼らは都市戦を前にし、隊長のエドワードを中心に士気を高めていた。
「お前達ィ、分かってるんだろうな!?ツェルニに残る鉱山はひとつだけだ!!」
「「「おおおおおおっ!」」」
「もし今回の都市戦で敗北すれば鉱山はゼロとなり、ツェルニは緩やかな滅びを迎える!」
「「「おおおおおおおおおお!!」」」
「そうなれば俺達はここにはいられない。それどころか俺達の女神であるフェリちゃんもここにはいられない!皆、元の都市に戻るなり他の学園都市に行くなり離れ離れになってしまうだろう。そんなことが許せるのか!?女神と離れ離れになるのを耐えられるのか!?」
「「「許せません!耐えられません!!」」」
「そうだろう!ならば勝て!絶対に勝利し、敵を打破しろ!!俺達にはには女神が付いているんだ!恐れるものなど何もない!!」
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」
エドワードの鼓舞に刺激され、フェリ・ロス親衛隊の熱気が一段と盛り上がる。
ツェルニの存続が懸かったこの試合、その中でもフェリ・ロス親衛隊の士気は群を抜いて高かった。
「セイ、お前には期待しているぞ!」
エドワードは高まった士気に満足し、新たに加入したフェリ・ロス親衛隊の1人に声をかける。
彼の名はセイ・オズマ。1年生でありながら並外れた実力を買われ、フェリ・ロス親衛隊の中でも精鋭のこの集団にスカウトされた。
「期待には応えたいと思いますが……自分には未だにこの集団がなんなのか理解しかねます」
だが、彼自身は別にフェリのファンだというわけではない。
同じ都市の出身であるエドワードにスカウトされ、ほぼ無理やりフェリ・ロス親衛隊に入れられた、ただの一武芸者だ。
故に右も左も分からず、この熱気に付いていけないというのが現状だ。
「なに、お前はその腕っ節を存分に発揮してくれればそれでいい。それよりどうだ、お前用に作らせた特注品の錬金鋼は?我らがフェリ・ロス親衛隊には優秀な技師も揃っているからな」
エドワードがセイに期待しているのは戦力としてだ。彼らの女神であるフェリをたぶらかす存在、怨敵のレイフォン・アルセイフを打破するための。
確かにこの間の汚染獣戦では彼の圧倒的な実力を見せ付けられたが、セイならば彼に対抗できるのではないかとエドワードは考えている。
一対一の一騎打ちでは分が悪いかもしれない。今のセイではレイフォンの実力に遠く及ばないだろう。
だが、それでもエドワードがセイならレイフォンに対抗できると思っている理由……それは。彼の圧倒的な才能による将来性。
ツェルニの殆どの者が迎えた初の汚染獣、幼生体戦。
あの時はセイはフェリ・ロス親衛隊には所属しておらず、また1年生と言うこともあって自らの錬金鋼を所持していないために戦闘には参加していなかった。レイフォンのように小隊に所属していたら話は別だが、あのような例外は早々起こるものではない。
エドワードが注目しているのはむしろその後、つい最近の汚染獣戦で、数十体もの雄性体が襲ってきた時の攻防戦。
出身都市にいた時からセイの才には一目置いていたが、錬金鋼もなしに雄性体の汚染獣を打倒する姿には驚きを隠せなかった。
インパクトや他者を引き付ける魅力は後のレイフォンの活躍には及ばないが、それでも汚染獣の尻尾をつかみ、それを振り回すことによって他の汚染獣を薙ぎ払う光景はエドワードを虜にしていた。
活剄による驚異的な身体の強化。汚染獣を振り回すほどの怪力は、エドワードにひょっとしたらレイフォンを打倒しえるのではないか、と思わせるには十分だった。
実際にレイフォンを倒せるかどうかは置いておき、セイに実力があるのは確かである。
ただ、そんな彼にはひとつだけ問題があった……
「それなんですが……エドワードさん、この錬金鋼おかしいです。復元しようとしたら何故か壊れました」
「ちょ、おまっ……どうやったら黒鋼錬金鋼がこんな風に壊れるんだ!?」
それは極度の機械音痴。通信機器や撮影機はもちろん、機械と名の付くものはまったく扱えない。というか壊す。
操作や取り扱いをどうやっても理解が出来ず、無理に動かそうとして破壊してしまうことが屡。
この間の戦闘も錬金鋼を使わず(使えず)に素手でやっていたのはこれが原因である。また、才能のある武芸者であるセイが学園都市に来たのも、錬金鋼すら扱えない機械音痴っぷりが原因だった。
「錬金鋼って特殊合金なんだぞ!?それを粉々に破壊するってどんな力してるんだ……ってか、ただレストレーションって言って剄を流すだけで復元完了だろ?どうしてお前は復元すらまともに出来ないんだ?」
「さぁ……?」
エドワードの突っ込みはもっともだったが、セイは素であり、どうしてなのか自分でも理解できていない。そもそも、理解出来ていたら学園都市に来る必要すらなかった。
そんな馬鹿馬鹿しい騒動が行われている中、ついに訪れる。都市の存続を懸けた、都市戦開始の時刻。
合図とし、正午を告げるチャイムが鳴る。それは何時もなら昼休憩を告げるのどかな音だったが、今日、この時は意味が違った。
これから起こる戦闘、その激しさを予感させる殺伐とした音が、両都市中に響き渡った。
開始の合図と共に、両都市の武芸者達が咆哮を上げる。活剄の威嚇術が織り交ぜられた数百人の武芸者による大音響は、大気そのものを揺るがして衝突した。
そんな中、両者の総司令が進撃の指示を飛ばす。
「かかれぇ!」
ツェルニの総司令、ヴァンゼの咆哮のような指示の下、第二小隊を中心とした先鋒部隊が前に出る。
旋剄などの高速移動によって生まれる衝撃波がぶつかり合い、上空には巨大な波紋が描かれていた。
「数は互角か」
その様子を眺めながらヴァンゼはつぶやく。
外縁部に集結しているマイアスの武芸者は200前後で、ツェルニとあまり差はなさそうだった。問題はここではない場所に配置されている武芸者の数だ。
ツェルニでは都市内に進入された場合を考えて、30名の武芸者と多数の念威繰者を抱えた後方防衛部隊を第十一小隊に預けている。
第十一小隊は都市中に配置した念威繰者による情報支援を得て、侵入したマイアスの部隊を迎撃するのが目的だ。
現在、先鋒部隊同士の激突は互角のまま続いている。これがどう変化するかによって、都市戦の流れがどちらに傾くか決まる。
ツェルニとしては、ここでしっかりと流れをつかんでおきたいところだ。そう考え、ヴァンゼはここからでも見えるマイアスの中央を見た。そこには彼らが目指すべきもの、マイアスの都市旗が掲げられている。
都市の中央にある生徒会棟ではためく旗。それを奪取することが学園都市同士の戦争での勝利条件だ。
その他にも相手都市の機関部を破壊すると言う勝利条件もあるが、それは通常の都市戦でも避けられる行為だ。
レギオス(移動都市)において機関部の破壊はその都市の実質的な死を意味する。何の罪もない一般市民を戦争の巻き添えにすることは後味の悪さを残すため、どちらの都市の武芸者もそんなことをしたくはない。
例え相手都市が敗北し、セルニウム鉱山を全て失って緩やかな破滅を迎えることになっても、直接的に止めを刺すよりは遥かに罪悪感を軽減できる。
故に勝利条件は基本的に敵側司令部の占拠となり、先ほど言ったように学園都市の争いでは生徒会棟の天辺にある旗の奪取によって決着が付く。
要するに対抗試合の大規模版と考えればいい。だからこそ、ここでの戦いの優劣も大事だが、最重要事項ではない。潜入した少数部隊によって旗を奪われればそれで終わりだからだ。
「タイミングを見て先鋒部隊を第二部隊と後退させる。砲撃部隊用意。交代の隙を突かれるな」
ヴァンゼの指示に従い、砲撃部隊が準備を始める。
第十六小隊が指揮する第二部隊は合図を待ちながら剄を練っていた。
「今だ!」
合図が下り、それと同時に先鋒部隊が下がる。追撃をかけようとするマイアスの先鋒部隊をツェルニの砲撃部隊が牽制し、足を止める。
そこに機動力が売りな第十六小隊が、得意の旋剄によって中央突破を図った。
「させません!」
が、それは真正面から叩き伏せられてしまう。
戦場に響く、甲高い少女の声。活剄で強化された武芸者の聴力は、騒がしい戦場でもしっかりと少女の声を捉えていた。
それが聞こえた次の瞬間、旋剄によって高速で敵陣に突っ込んだ第十六小隊の隊員達は全滅する。
「なっ……!?」
ヴァンゼには何が起きたのか分からない。第十六小隊が指揮するはずだった第二部隊にも動揺が走り、場は騒然としていた。
総大将であるヴァンゼは逸早く落ち着きを取り戻し、冷静であろうとする。作戦は失敗だ。その失敗した原因すら分からない。
だが、総大将である自分がそれではいけないと、状況を理解するために辺りを見渡す。
狙撃、一番可能性が高いのはこれだろう。ならばどこから銃弾が飛んできたのか把握しなければならない。そうでなければ、また同じように味方がやられてしまうからだ。
だけど、それだと戦場に響いた少女の声の意味が分からない。狙撃ならば居場所を悟らせないため、声を上げるなんてことは間違ってもしないはずだ。
ならば何故?どうして?ヴァンゼがそう考えていると、一陣の風が吹いた。
「はぁぁっ!」
「!?」
同時に金色の影が飛んでくる。息を呑むほどに美しく、鮮やかな金髪をポニーテールにした少女が、何時の間にかヴァンゼの目の前にいた。
少女は刀を武器とし、スカートのタイプの戦闘衣の下に長ズボンを穿いている。
今は戦争時だと言うのに、それを忘れてしまうような美貌を少女は持っていた。10人いれば10人が間違いなく少女を美人だと認めるだろう。
そんな美少女が、その見た目に似合わない鋭い蹴りをヴァンゼに放つ。目にも止まらぬ風のような一撃。
故にこれは運。条件反射によって棍を前に突き出したことによって偶然、ヴァンゼはその一撃を防いでいた。
「ぐっ……」
「あなたが総大将ですね?討ち取らせていただきます」
少女がにやりと笑う。彼女の美しさもあって妖艶な魅力を持った表情だが、それを正面から見たヴァンゼは悪寒以外感じなかった。
少女は再びヴァンゼに蹴りを放つ。蹴り蹴り蹴りの連打。数えることすら出来ない神速の足技。
ヴァンゼは棍によってそれを何とか受け止めているが、それも長くは持たないだろう。
理解する、自分ではあの速度についてはいけないと。そして、第十六小隊を全滅させたのは彼女なのだろうと。
接近すら気づかせなかった圧倒的な速度、強靭な脚力。それが彼女の武器だ。少女は第十六小隊の隊員より速く動き、彼らを打破した。その次は総大将である自分を狙ってきたのだろう。
蹴りの連打がヴァンゼを絶え間なく襲う。少女の足は手のように器用であり、ヴァンゼに休む暇を与えない。
「ぐっ、うぅお……」
強烈な蹴りを受け続けることによってヴァンゼの腕が痺れ、何より武器である棍が限界を迎えようとしていた。
強固なはずの錬金鋼が少女の蹴りに耐えられず、皹が入り、今にも砕けようとしている。
少女の笑みが深まり、勝利を確信しているようだった。だが甘い、ここは敵陣、ツェルニの領域だ。
ヴァンゼは冷や汗を掻きながらも、冷静に対応する。
「武芸長に加勢しろ!」
遅れて状況を把握したツェルニの武芸者が、今更ながらヴァンゼの加勢をする。
少女は単独で乗り込んできたのだ。幾ら速くともこの数の武芸者を1人で相手取れるわけがない。数で押し、囲めば仕留められる。誰もがそう思っていた。
「はぁああああああっ!」
「おっと、危ない」
が、そうはいかない。何人かがヴァンゼの下に駆け寄り、少女を仕留めようと武器を振り下ろす。それを少女は上に跳ぶことで回避した。
羽のように軽く、優雅な跳躍。少女は空中に滞空したまま、下にいるツェルニの武芸者に向けて衝剄を放った。
「ごはっ……!?」
衝剄に撃たれたツェルニの武芸者は地に倒れ、少女は衝剄の反動を利用して距離を取ってから着地した。
地面に足が付くや否や、少女は再び神速の速度でヴァンゼに襲い掛かる。一歩目で既にトップスピード、その脅威の加速力にヴァンゼは反応することすら出来ず、一瞬で懐までの侵入を許してしまった。
棍を短く持ち、防御しようとするが間に合わない。例え間に合ったとしても、このボロボロの錬金鋼で少女の強力な一撃を受け止めることは出来ないだろう。
(くそっ)
ヴァンゼに打つ手はない。試合開始早々、総大将である自分がこうもあっさり退場するのかと悔しい思いでいっぱいだった。この試合にツェルニの存続が懸かっているのなら尚更だ。
6年生であり、武芸長でもある彼はそれだけにツェルニに対する愛着は大きい。
今までの学生生活、後輩や卒業していった先輩達、ここで学んだことを思い出し、ヴァンゼは決意する。
(このまま終わってたまるか!!)
かっ、と目を見開き、ヴァンゼは棍を捨てた。武器である棍を自分から手放したのだ。
ヴァンゼはここが好きだ、学園都市ツェルニが大好きだ。失いたくない、護りたいと思っている。それが出来ずに何が武芸長だ。
カリアンはレイフォンがいれば都市戦に勝てると言い、確かにレイフォンの実力ならそれも可能だとヴァンゼも認めている。その証拠に、これまでツェルニを汚染獣の脅威から幾度も救ってきたのはレイフォンなのだ。
自分が、自分達が何も出来ない状況で、レイフォンは何度もツェルニを救ってくれた。護ってくれた。そのことについては、ヴァンゼは武芸長としてレイフォンに心から感謝している。
だが後輩に、1年生に全てを任せられるほどヴァンゼのプライドは低くない。これでも武芸者で、ツェルニの武芸長だと言う意地がある。
先日の汚染獣戦では、結局レイフォンの手を煩わせてしまった。まだまだ実力不足は否めず、自分ではレイフォンの役に立てないことも理解している。
だが、だからこそ、こんなところで、都市戦で足を引っ張るわけにはいかない。先輩の意地として、ツェルニの武芸者を背負う立場として、ヴァンゼはこんなところで終わるわけにはいかない。
「なっ!?」
「ぐっ……」
少女は棍を捨てたヴァンゼに不審に思いながらも、彼の腹部に強烈な蹴りを放った。
鉄をも撃ち抜き、錬金鋼すら破壊する少女の強烈な一撃。それが決まれば、大抵の者は成す術もなく昏倒するだろう。ヴァンゼには見事に少女の蹴りが決まり、彼もまた昏倒するはずだった。
だが……
「捕らえた……ぞ」
ヴァンゼは立っている。それどころかがっしりと少女の足をつかんでおり、とてつもない力で押さえつけていた。
「正気……ですか?」
「もしかしたら狂っているのかも知れんな……だが、俺には退けない理由がある!」
ヴァンゼは少女の蹴りをあえて受け、その一撃に耐えながら足をつかんだ。
例えどんなに速くとも、これならば攻撃を避けるなんてことはできない。その代償としてかなりのダメージを負ったが、ヴァンゼは気合と意地で耐える。
「このっ!?」
「無駄、だ……この手は、絶対に放さん……」
少女はヴァンゼの手を振り払おうと必死に暴れる。だがヴァンゼは、万力のような力で決して足を放さなかった。
周りにいたツェルニの武芸者が、ゆっくりと少女に向けて距離を詰めてくる。
かなりの痛手を負ったが、この時ヴァンゼは勝利を確信していた。自分が押さえ、少女をツェルニの武芸者が討つ、それで決まりだと思っていた。
それはあまりにも早計で、過信で、油断だった。だからヴァンゼは気づかない。抵抗を諦めた少女の顔が、笑みに歪んでいるのを。
少女の風のような動きに翻弄され、ツェルニの武芸者達は決定的な隙を見せてしまったのだ。攻め込む好機、均衡が崩れるこのタイミング。それを狙われ、マイアスの武芸者達が一気に攻め込んでくる。
「作戦成功」
「なっ……!?」
少女のつぶやきに、ヴァンゼは己の失態を悟る。
この少女は囮だった。敵地に乗り込み、掻き乱し、翻弄するのが役目だったのだ。総大将を、指揮官であるヴァンゼを狙うことによって彼の指示を阻害するのが目的であり、少女の対応のために出来た隙を突いて、大量の軍勢が一気にツェルニに雪崩れ込んでくる。
こうなってしまえばもはや止められない。数は互角だろう。だが、勢いが違う。不意を突かれた形となったツェルニの布陣は崩れ、何人かに都市内の進入を許してしまう。
「くそっ!」
ヴァンゼは舌打ちを打ち、せめて目の前にいるこの少女は討ち取ろうとした。超人的な身体能力を持つ彼女を自由にしてしまえば、更なる被害につながる。
目配せをしたツェルニの武芸者が、ヴァンゼが押さえている間に少女を打ち倒そうと武器を振りかぶった。振りかぶり……そのまま地面に倒れていく。
「くそっ、くそ……」
ヴァンゼは棍を捨て、少女を抑えなければならないために対応が出来ない。この手を放せば少女は鬼神の如く暴れまわるだろう。
ならどうすればいい?ここまで接近し、少女の加勢に来た存在を。少女に止めを刺そうとしたツェルニの武芸者を妨害し、倒した少年をどうすればいい?
「遅いよ、ロイ君」
「助けてもらって偉そうに。大体シェルは突っ込みすぎだ。もう少しで討たれるところだっただろ」
「む~、それはそうだけど……なんにしてもありがとう、助かったよ」
少年の名はロイと言い、少女の名はシェルと言うらしい。
だが、そんなことなどどうでもいい。大事なのは今、どうするのかと言う事だ。
武器がなく、手が塞がれているこの状況。ヴァンゼにはシェルとロイを止める方法など存在しなかった。
まさに無人の野を行くが如く。
誰も彼を倒せない。誰も彼を止められない。誰も彼に追いつけない。マイアスにいる武芸者を何の障害にもせず、レイフォン・アルセイフはマイアスを疾走していた。
「何だよアレ!」
「本当に人間か!?」
「誰か止めろ!止めてくれ!!」
防衛に回っているマイアスの武芸者達の悲鳴染みた声が聞こえる。
レイフォンは一直線に生徒会棟を目指し、罠や防衛に回るマイアスの武芸者をものともせずに突き進んでいた。
「がっ……」
阻もうとし、レイフォンの前に立った者は一太刀によって切り伏せられる。
刃引きをされた刀のために血は流れないが、レイフォンの強烈な一撃を受けた者は暫く起き上がれないだろう。
そう、レイフォンは剣ではなく刀を使用していた。
『フォンフォン……本当にいんですか?』
「大丈夫です、むしろ調子がいいんですよ。やっぱりこっちの方が馴染みます」
レイフォンの周りを漂う念威端子から心配するフェリの声が聞こえたが、レイフォンは弾んだ声で返した。
今まで刀に対する未練、養父であるデルクに負い目を感じ、サイハーデン刀争術を使うのを拒んでいた。そんなレイフォンだったが、今は何の迷いもなく刀を使い、サイハーデン刀争術の技を使っていた。
「案外、ハイアの件がいい転機になりました。もっとも、次にあんなことをやったら殺しますけど」
『……………』
レイフォンは念威端子越しにフェリと会話しながらも敵を蹴散らし、マイアスの武芸者を歯牙にもかけずに突き進んでいく。
彼本来の武器を使っているからなのか、その様子は少しだけ浮かれているように見えた。
「確かに刀に対する未練はありました。サイハーデンの技や養父さんに対する負い目がありました。でも僕にはそんなものの何倍も、何十倍も、何百倍も大事なものがあるんです。失いたくないものがあるんです。それを護るために必要だと言うのなら、僕は出し惜しみなんかしません」
未練や罪の意識なんて、今のレイフォンにとってはとても些細なことだ。
大事なのは今。過去の出来事に気を取られ、それで護りたいものを護れなかったとなれば目も当てられない。
「そのために力が必要だと言うのなら、そのために刀が必要だと言うのなら、僕は迷わずに刀を振るいます。フェリを護るためだったら、もっともっと強くなります」
『それ以上強くなってどうするんですか……』
「最強を目指してみるのも面白いかもしれません。正直、今の僕は陛下以外に負ける気がしないんですよ」
レイフォンの表情が子供っぽい笑みに染まる。無邪気に振る舞いつつ、その瞳には強固な決意を抱いていた。
目指すは最強。何者からもフェリを護れる、無敵の存在。レイフォンやその身内に手を出すのが馬鹿馬鹿しいと思えるほどの絶対的な力。それを目指してみるのも面白いかもしれない。
『さて、無駄話はここまでにしましょう。前方から10人ほどこちらに向かってきます』
「たった10人ですか?少ないですね」
『後方の守りを疎かにするわけにはいきませんから、これくらいじゃないですか?隊長達が良い具合に暴れているのも原因かもしれません』
「そうですか。それじゃあ、突っ切ります!」
会話を打ち切り、レイフォンは加速する。風どころではなく、突風、嵐のような進撃。
レイフォンを迎え撃とうと出てきたマイアスの武芸者10人を瞬殺し、レイフォンは生徒会棟を襲撃した。
あとがき
都市戦開幕!
ハイアに関してはあっさりしすぎた気もしますが、次回はその辺りについて少し書こうと思っています。ミュンファとハイアの絡みで。
とりあえずマイアス戦後にツェルニと都市戦する学園都市、本当に終わったw
ついに幼馴染がツェルニ上陸!?
サヴァリスやクララといった戦闘狂達はツェルニでどんな暴走を見せてくれるのか……
そして今回、フェリ・ロス親衛隊も登場しました。新たにセイと言うオリキャラが出てきましたが、彼は次回活躍する予定?
もともと『シン』と言う名のキャラにするつもりだったんですが、第十四小隊の隊長がそんな名前だったんですよね。モデルはジャンプに連載されていたあのアメフト漫画の高校アメフト史上最強最速のLBであるあの人です。
そしてそして、次回はここ最近影の薄かったロリコンも防衛線で登場すると思います。
それにしてもニーナ達の出番が……原作では彼女が主役級の活躍をしてますが、ここでは本当に扱いが悪いですね(汗
原作といえば本日新刊を購入しました。ですがまだ読んでません。
明日はバイトなので、それが終わったらゆっくり読みたいと思います。
さて、次回はクララ一直線の更新だ!その前にとある作家の一方通行を更新するかな?
なんにしても頑張ります。