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No.15685の一覧
[0] フォンフォン一直線 (鋼殻のレギオス)【一応完結?】[武芸者](2021/02/18 21:57)
[1] プロローグ ツェルニ入学[武芸者](2010/02/20 17:00)
[2] 1話 小隊入隊[武芸者](2011/09/24 23:43)
[3] 2話 電子精霊[武芸者](2011/09/24 23:44)
[4] 3話 対抗試合[武芸者](2010/04/26 19:09)
[5] 4話 緊急事態[武芸者](2011/09/24 23:45)
[6] 5話 エピローグ 汚染された大地 (原作1巻分完結)[武芸者](2010/05/01 20:50)
[7] 6話 手紙 (原作2巻分プロローグ)[武芸者](2011/09/24 23:52)
[8] 7話 料理[武芸者](2010/05/10 18:36)
[9] 8話 日常[武芸者](2011/09/24 23:53)
[10] 9話 日常から非日常へと……[武芸者](2010/02/18 10:29)
[11] 10話 決戦前夜[武芸者](2010/02/22 13:01)
[12] 11話 決戦[武芸者](2011/09/24 23:54)
[13] 12話 レイフォン・アルセイフ[武芸者](2010/03/21 15:01)
[14] 13話 エピローグ 帰還 (原作2巻分完結)[武芸者](2010/03/09 13:02)
[15] 14話 外伝 短編・企画[武芸者](2011/09/24 23:59)
[16] 15話 外伝 アルバイト・イン・ザ・喫茶ミラ[武芸者](2010/04/08 19:00)
[17] 16話 異変の始まり (原作3巻分プロローグ)[武芸者](2010/04/15 16:14)
[18] 17話 初デート[武芸者](2010/05/20 16:33)
[19] 18話 廃都市にて[武芸者](2011/10/22 07:40)
[20] 19話 暴走[武芸者](2011/02/13 20:03)
[21] 20話 エピローグ 憎悪 (原作3巻分完結)[武芸者](2011/10/22 07:50)
[22] 21話 外伝 シスターコンプレックス[武芸者](2010/05/27 18:35)
[23] 22話 因縁 (原作4巻分プロローグ)[武芸者](2010/05/08 21:46)
[24] 23話 それぞれの夜[武芸者](2010/05/18 16:46)
[25] 24話 剣と刀[武芸者](2011/11/04 17:26)
[26] 25話 第十小隊[武芸者](2011/10/22 07:56)
[27] 26話 戸惑い[武芸者](2010/12/07 15:42)
[28] 番外編1[武芸者](2011/01/21 21:41)
[29] 27話 ひとつの結末[武芸者](2011/10/22 08:17)
[30] 28話 エピローグ 狂いし電子精霊 (4巻分完結)[武芸者](2010/06/24 16:43)
[32] 29話 バンアレン・デイ 前編[武芸者](2011/10/22 08:19)
[33] 30話 バンアレン・デイ 後編[武芸者](2011/10/22 08:20)
[34] 31話 グレンダンにて (原作5巻分プロローグ)[武芸者](2010/08/06 21:56)
[35] 32話 合宿[武芸者](2011/10/22 08:22)
[37] 33話 対峙[かい](2011/10/22 08:23)
[38] 34話 その後……[武芸者](2010/09/06 14:48)
[39] 35話 二つの戦場[武芸者](2011/08/24 23:58)
[40] 36話 開戦[武芸者](2010/10/18 20:25)
[41] 37話 エピローグ 廃貴族 (原作5巻分完結)[武芸者](2011/10/23 07:13)
[43] 38話 都市の暴走 (原作6巻分プロローグ)[武芸者](2010/09/22 10:08)
[44] 39話 学園都市マイアス[武芸者](2011/10/23 07:18)
[45] 40話 逃避[武芸者](2010/10/20 19:03)
[46] 41話 関われぬ戦い[武芸者](2011/08/29 00:26)
[47] 42話 天剣授受者VS元天剣授受者[武芸者](2011/10/23 07:21)
[48] 43話 電子精霊マイアス[武芸者](2011/08/30 07:19)
[49] 44話 イグナシスの夢想[武芸者](2010/11/16 19:09)
[50] 45話 狼面衆[武芸者](2010/11/23 10:31)
[51] 46話 帰る場所[武芸者](2011/04/14 23:25)
[52] 47話 クラウドセル・分離マザーⅣ・ハルペー[武芸者](2011/07/28 20:40)
[53] 48話 エピローグ 再会 (原作6巻分完結)[武芸者](2011/10/05 08:10)
[54] 番外編2[武芸者](2011/02/22 15:17)
[55] 49話 婚約 (原作7巻分プロローグ)[武芸者](2011/10/23 07:24)
[56] 番外編3[武芸者](2011/02/28 23:00)
[57] 50話 都市戦の前に[武芸者](2011/09/08 09:51)
[59] 51話 病的愛情(ヤンデレ)[武芸者](2011/03/23 01:21)
[60] 51話 病的愛情(ヤンデレ)【ネタ回】[武芸者](2011/03/09 22:34)
[61] 52話 激突[武芸者](2011/11/14 12:59)
[62] 52話 激突【ネタ回】[武芸者](2011/11/14 13:00)
[63] 53話 病的愛情(レイフォン)暴走[武芸者](2011/04/07 17:12)
[64] 54話 都市戦開幕[武芸者](2011/07/20 21:08)
[65] 55話 都市戦終幕[武芸者](2011/04/14 23:20)
[66] 56話 エピローグ 都市戦後の騒動 (原作7巻分完結)[武芸者](2011/04/28 22:34)
[67] 57話 戦いの後の夜[武芸者](2011/11/22 07:43)
[68] 58話 何気ない日常[武芸者](2011/06/14 19:34)
[70] 59話 ダンスパーティ[武芸者](2011/08/23 22:35)
[71] 60話 戦闘狂(サヴァリス)[武芸者](2011/08/05 23:52)
[72] 61話 目出度い日[武芸者](2011/07/27 23:36)
[73] 62話 門出 (第一部完結)[武芸者](2021/02/02 00:48)
[74] 『一時凍結』 迫る危機[武芸者](2012/01/11 14:45)
[75] 63話 ツェルニ[武芸者](2012/01/13 23:31)
[76] 64話 後始末[武芸者](2012/03/09 22:52)
[77] 65話 念威少女[武芸者](2012/03/10 07:21)
[78] 番外編 ハイア死亡ルート[武芸者](2012/07/06 11:48)
[79] 66話 第十四小隊[武芸者](2013/09/04 20:30)
[80] 67話 怪奇愛好会[武芸者](2012/10/05 22:30)
[81] 68話 隠されていたもの[武芸者](2013/01/04 23:24)
[82] 69話 終幕[武芸者](2013/02/18 22:15)
[83] 70話 変化[武芸者](2013/02/18 22:11)
[84] 71話 休日[武芸者](2013/02/26 20:42)
[85] 72話 両親[武芸者](2013/04/04 17:15)
[86] 73話 駆け落ち[武芸者](2013/03/15 10:03)
[87] 74話 二つの脅威[武芸者](2013/04/06 09:55)
[88] 75話 二つの脅威、終結[武芸者](2013/05/07 21:29)
[89] 76話 文化祭開始[武芸者](2013/09/04 20:36)
[90] 77話 ミス・ツェルニ[武芸者](2013/09/12 21:24)
[91] 78話 ユーリ[武芸者](2013/09/13 06:52)
[92] 79話 別れ[武芸者](2013/11/08 23:20)
[93] 80話 夏の始まり (第二部開始 原作9巻分プロローグ)[武芸者](2014/02/14 15:05)
[94] 81話 レイフォンとサイハーデン[武芸者](2014/02/14 15:07)
[95] 最終章その1[武芸者](2018/02/04 00:00)
[96] 最終章その2[武芸者](2018/02/06 05:50)
[97] 最終章その3[武芸者](2020/11/17 23:18)
[98] 最終章その4[武芸者](2021/02/02 00:43)
[99] 最終章その5 ひとまずの幕引き[武芸者](2021/02/18 21:57)
[100] あとがき的な戯言[武芸者](2021/02/18 21:55)
[101] 去る者 その1[武芸者](2021/08/15 16:07)
[102] 去る者 その2 了[武芸者](2022/09/08 21:29)
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[15685] 52話 激突
Name: 武芸者◆8a2ce1c4 ID:a5553e4d 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/11/14 12:59
「痴れ者どもがっ!」

病室内にニーナの怒鳴り声が響く。感情と共に剄の波動がニーナから発せられていた。
怒りにより剄脈が敏感に反応したのだろう。それはニーナの剄量が増し、成長した証でもあった。だが今は、そのことを喜ぶ雰囲気ではない。

「落ち着け、ニーナ」

「これが落ち着いていられるか!?」

「ここは病室だ。落ち着かなくてもいいから声を下げろ」

「……すまん」

シャーニッドに宥められ、ニーナはここがどこなのかを思い出す。
ここは病院のとある一室。中央に位置するベットの周りにニーナ達は第十七小隊のメンバーは陣取っていた。とは言っても、その中にレイフォンとフェリの姿はない。
この部屋の主であるカリアンは中央のベットに横になっており、彼の隣には武芸長のヴァンゼが立っていた。

「都市戦を前にして、厄介なことになったね」

ベットに横になっているとはいえ、カリアンの意識は既に覚醒していた。
割れた眼鏡は予備のものに変えてあり、苦りきった表情で言葉をつむぐ。
午前中に都市発見の報が都市中に伝わり、明日には学園都市マイアスと遭遇、戦争になる予定だ。
その前日、つまりは今日、正確には昨日の夜に起きた事件。この都市の長であるカリアン・ロスの襲撃と、妹であるフェリ・ロスの拉致。
犯人はわかりきっている。カリアンは実際に犯人を目撃し、残された置手紙にはご丁寧に名前が書かれていた。
犯人の名はハイア・サリンバン・ライア。サリンバン教導傭兵団三代目の団長だ。

「目的はなんだ?レイフォンの中にいる廃貴族なのか?」

ヴァンゼは厳しい顔つきで自分の考えを口にするが、カリアンは首を横に振った。

「確かに傭兵団は廃貴族を求めている。だけど、この手紙を見るにハイアはレイフォン君との一騎打ちを望んでいるようだ。それに、彼ら(傭兵団)が廃貴族がレイフォン君の中にいることを理解しているとも限らないしね」

「信じられません」

口調は丁寧だが、吐き捨てるような声がカリアンの言葉を否定する。
言ったのはダルシェナだ。

「目的のためなら他人を利用するのをなんとも思わないような連中です。言葉を額面どおりに受け取ってなんていられません」

傭兵団が目的とするのは廃貴族の捕獲。
その犠牲となり、ディンを拉致されそうになったため、彼女の言葉にはどこか棘があった。

「都市警察に連絡しますか?」

「してもなんにもならん。傭兵団の戦力を考えれば、都市警察程度の戦力では相手にならない。それは俺達、小隊員でも同じことだ」

ナルキの提案に、ヴァンゼは現実を突きつける。
サリンバン教導傭兵団。数多の都市を渡り歩き、傭兵として活躍してきた熟練の武芸者の集団。
そんな彼らに、未熟者の集まりである学生武芸者が勝てるわけがない。

「なら、どうすれば……」

「そんなもの、こっちが聞きたい!」

ナルキの問いに、ヴァンゼは病室の壁を殴ることで答えた。
ドン、と言う鈍い音が室内に響き渡り、ヴァンゼの体が小刻みに震えている。顔は強張っており、怒りを必死に噛み殺していた。
悔しいのだろう、何も出来ないこの現実に。生徒会長を襲われ、妹のフェリが拉致された。
この場合は報復、またはフェリ奪還の作戦を立てなくてはならない。だが、相手はあのサリンバン教導傭兵団。
強大な戦力を前にし、自分達は何も出来ないのだ。これが悔しくないわけがない。
ツェルニでサリンバン教導傭兵団に対抗できるのはただ1人、元天剣授受者であるレイフォン・アルセイフだけだ。

「……そうか」

そこで、ニーナが何かに気がついた。

「ふむ、気づいたかね?」

ニーナの反応に、カリアンは確認するように問い質す。

「ということは会長も?」

それも当然だろう。ニーナはそれなりに頭が切れるが、彼女が気づいたことをこの都市の長であるカリアンが気づけないわけがない。
フェリを拉致されたと言うのにあくまで冷静で、現状をどう打破するべきか考えている。
その落ち着きように、ニーナは思わず舌を巻いた。

「おい、どういうことだ?」

シャーニッドの問いかけに、ニーナは答える。

「ハイアの目的は、手紙に書かれていた通りレイフォンとの一騎打ちだ。最初、私はマイアスと傭兵団が手を組んでいると考えていた。だが、その可能性はかなり低い」

「どうしてだ?」

ダルシェナの問いに、ニーナは自分の推論を続ける。
都市戦は明日であり、ハイアが要求してきたレイフォンとの一騎打ちも明日だ。これが偶然であるはずがない。ならば、レイフォンが都市戦に参加できないようにするためと考えるのが普通だろう。
だが、ハイアからすればそんなことはどうでもいいことで、彼はこの現状を利用したに過ぎない。
ツェルニの最大戦力であるレイフォンを都市戦に参加させないために、マイアスと手を組んだとはまず考えられない。

「例えマイアスに教導の過去があったとしても、マイアスとツェルニが戦うということを事前に察知するなんて真似が出来るとは思えない。それに学園都市同士の戦いに傭兵団と言う第三勢力を絡ませるやり方、証拠をつかまれたら後日窮地に陥るのはマイアスの方だ。例え傭兵団の方から話を持ちかけたとしても、マイアスがそれを受けるとは思えない」

「そうだね。彼ら(傭兵団)はフェリの誘拐に対して、マイアスとの戦いを前にした今の状況を利用したに過ぎないだろう。傭兵団の対処にこちらが力を注げば、それだけマイアス戦が不利になる。何しろ向こうは熟練者ぞろいだ。半端な戦力を向けたところで、返り討ちになるだけだろうね」

ニーナの言葉をカリアンが引き継ぎ、ヴァンゼが悔しそうにつぶやく。

「あいつらの言うことに、従うしかないと言うことか……くそっ、教師面の裏でよくもそんなことを!」

「しかし、考えたもんだ」

「感心してる場合か!」

シャーニッドの言葉に、ダルシェナが怒鳴る。
今は、この状況を打破するために結論を出さなければならない時なのだ。

「聞くまでもないと思うが、どうする?奴らの要求どおり、レイフォンと一騎打ちをさせるのか?」

「それしかないだろうね。生徒会長という立場にいるが、私は妹が可愛くってね。君は感情で命を下す長を軽蔑するかい?」

「するわけがない。もし妹を見捨てると言ったら、その時は存分に軽蔑してやる」

「はは、そんな君だからこそ、私は武芸長として君を望んだんだ」

結論は出た。後は本人にその旨を伝え、当日に実行するだけなのだが……

「で……レイフォン君はどこにいるのかな?」

本人がいない。最後に見たのはヴァンゼで、禍々しい剄を発しながら外へ出て行ったという話だ。
もしかしたらカリアンの結論を聞くまでもなく、フェリを助け出すために準備をしているのかもしれない。

「あいつは……」

まただ、レイフォンはまた1人で事態を解決しようとしている。
二度目の汚染獣襲撃、老生体戦から始まり、傭兵団と共闘での汚染獣の迎撃、そして機関部にいる廃貴族の対応、それらを1人で行い、仲間を頼らず、レイフォンはツェルニから姿を消したのだ。
それがニーナには悔しかった。まるで自分達を軽んじられているようで、仲間として見てもらえていないよう思えるから。

「レイフォンを捜せ!あいつめ……一体何を考えているんだ!?」

悔しさと怒りを織り交ぜた感情で、ニーナは部下達に指示を出す。
またレイフォンが1人で無茶をする前に彼を探し出す。ニーナも指示を飛ばすだけではなく、自らレイフォンを捜すために病室を出て行った。

「……もっとも、フェリのことはレイフォン君に任せれば心配する必要はなかったかな?」

「ずいぶん信頼しているな」

病室に取り残されたカリアンとヴァンゼは、言葉を交えていた。

「私の義弟になるんだ。信頼して当然さ」

「そうか……」

ヴァンゼは既に、レイフォンとフェリの関係を知っている。
むしろ彼らの結婚式の準備を、カリアンによって手伝わされているために嫌でも理解していた。
カリアンに振り回される身としては厄介なことだが、後輩達の幸せは素直に祝福するべきことだろう。だが、その幸せを前にして、2人には今、試練が訪れていた。

「意外にも私はシスコンでね」

「意外でもなんでもない。とっくに理解している」

「そうかい?まぁ、フェリに嫌われてはいても、私はフェリのことが大好きなんだよ。フェリには幸せになって欲しくってね。レイフォン君ならフェリを幸せにしてくれると、大切にしてくれるだろうね。何せ私と同じくらい、もしくはそれ以上フェリを愛してくれているんだ。だからこそ、信頼している」

「……確かにな」

カリアンの言葉に、あの時すれ違ったヴァンゼは同意する。
レイフォンは憤怒していた。フェリを拉致したハイアに本気で殺意を向け、その余波でヴァンゼが恐怖を感じてしまうほどに。
それほどまでに彼はフェリを大切に想っており、フェリを誘拐した傭兵団に敵意を抱いている。
そんなレイフォンだからこそ、フェリを助けるためならば全力を尽くすことだろう。

「だが、それが危険でもある」

「そうだね。きっと彼は名前のない大衆が何人死んでも、心が痛むぐらいの気分にしかならないのかもしれないね」

ヴァンゼが不安に感じるのは仕方がない。レイフォンのことを信頼してはいるが、カリアンも同じだからだ。
天剣を剥奪され、孤児院の者達から嫌われ、グレンダンを追われたレイフォン。そんな彼は今、フェリ・ロスと言う掛け替えのない存在を手に入れた。
誰よりも大切で、誰よりも愛しくって、とてもとても大切な存在。
ありえないだろうが、フェリがもしツェルニの壊滅を望むのなら、レイフォンは迷わずにツェルニを壊滅させるだろう。
もしフェリの身に何かあれば、レイフォンは暴走し、ツェルニを破壊するかもしれない。
もしフェリが死のうものなら、フェリのいない世界に興味はないと暴れまわり、やはりツェルニは再起不能な打撃を受けることだろう。
フェリの意思一つで、レイフォンは敵に変わる可能性が十分にある。

「でも、大丈夫だろうね」

フェリはそんなことは望まないだろうし、フェリに何かあれば、きっとレイフォンが護ってくれる。
そう確信し、カリアンはポツリとつぶやいた。

「我々に出来るのは、彼を信じることぐらいだね」





































フェリは窓越しに、ツェルニの巨大な足が動くのを見ていた。

「困ったことになりました」

ぼんやりとつぶやき、辺りを見渡す。
狭い室内は、今腰掛けているベット以外には小さなテーブルしかない。椅子がないということはベットがその代わりになるのだろう。

「……兄さんは無事でしょうか?最も殺しても死なないような兄ですから、今頃は何かろくでもないことを考えているかもしれませんね……フォンフォンには、心配をかけてしまいました」

独り言をつぶやきながら、フェリは何もない室内に視線をさ迷わせる。
ここは放浪バスの中だ。サリンバン教導傭兵団の保有する大型の放浪バス。フェリはその一室に閉じ込められていた。
昨夜ハイアに襲われ、気を失っている間にここへと連れてこられた。

「さて……どうしたものでしょうか?」

錬金鋼は当然没収され、手足は縛られてはないが、鍵をかけられているために外へ出ることは出来ない。
フェリが武芸者ならば扉を蹴破り、脱出することは可能だったかもしれない。だが彼女は念威繰者であり、一般人とあまり変わらない身体能力では、あの頑丈そうな鉄製の扉を壊すことは不可能だ。
それでもこの状況を打破しようと、フェリは考え込む。思考中、不意にガチャリという音が聞こえた。
鉄製の扉の鍵が開けられた音だ。

「あのう……」

扉を開け、部屋の中に入ってきた人物は眼鏡をかけた少女だった。
彼女の顔には見覚えがある。確か、ハイアと共にいた傭兵団の人間だ。

「……名前を覚えてはいませんが、知ってます。やはり傭兵団の放浪バスですね」

「あ、はい。そうなんです」

ミュンファはどうしていいのかわからない顔のまま、トレイを持って部屋の中へ入ってきた。

「食事を持ってきました。遅くなってごめんなさい」

「いえ……」

フェリが小さく首を振る。
その時、

「どういうことだ!」

「ひゃっ!?」

開きっぱなしになっていた扉の向こうで男の怒鳴り声が響いた。
今まさにテーブルの上に置かれようとしたトレイが音を立て、載せられていた容器の中でスープと水が跳ねた。
もう少し大声が早ければ、トレイに乗っていたものは床にばら撒かれていたかもしれない。

「なんだか、大事になっているようですね」

「あ、ははあは……」

ミュンファは引き攣った笑いを浮かべ、フェリの問いに関する答えを言おうとはしない。

「あの、食事が終わったら言ってくださいね、取りに来ますから。他にもトイレとか、困ったことがあったら言ってください。私、すぐ側にいますから」

「待ってください」

「ふぇ……」

フェリは部屋から出て行こうとしたミュンファの肩をつかんで制止し、止められたミュンファは困ったような顔をする。
それに対して無表情な顔を浮かべていたフェリは、当然のように口を開いた。

「勝手にこんなところに連れてきて1人にする気ですか?暇つぶしに話し相手にでもなってください」

「え?え……」

戸惑うミュンファの答えすら聞かず、フェリはベットに彼女を座らせる。
ミュンファは未だに口論の絶えない部屋の外が気になるようだ。だけどそんなこと、フェリには関係がない。

(今、どうなっているのか……傭兵団が何を考えているのか、探る必要がありますね)

傭兵団の目的は、おそらく廃貴族のはずだ。彼らはレイフォンの中に廃貴族がいると情報をつかんだのだろうか?
ならば自分が捕まったのも納得がいく。自分で言うのもなんだが、レイフォンに対して自分以上に有力な人質はいないだろう。それにフェリは生徒会長の妹だ。これほどの価値がある人質なんて他には存在しない。

(屈辱です。私が足を引っ張るだなんて……)

フェリの身柄と引き換えに傭兵団は廃貴族を、レイフォンの引渡しを要求するつもりなのだろうか?
だが、レイフォンはグレンダンを追放された身であり、グレンダンに帰るなんてことは出来ないはずだ。
廃貴族が憑いたと言う事で例外として帰れるのだとしても、フェリはそんなことをさせるつもりはない。レイフォンと離れ離れになることなど許容できるはずがなかった。

(彼らが何を企んでいるのか探り、この状況を打破する。または隙を見て逃げ出す……大丈夫、私になら出来ます)

無表情な仮面の裏に、フェリは起死回生の策を考えていた。







「どういうつもりだ!?」

フェリのいる部屋の外で怒声を浴びていたのはハイアだった。怒鳴ったのは傭兵団の中で年長の、フェルマウスの次に発言力のある男だ。
その背後には主要な傭兵達の殆どが集まり、この事態に怒りや困惑を示し、ハイアにきつい視線を送っていた。
フェリの誘拐を、他の傭兵達はこのときになって知ったのだ。ハイア以外誰も知らなかった。だからミュンファが食事を持っていくのが遅れた。
ハイアを除く全員が放浪バスから宿泊施設に移動していたため、気づくのが遅れた。

「生徒会長の血縁だぞ。そんなものを誘拐して、何を考えている。しかも生徒会長を襲った?ツェルニを敵に回す気なのか!?」

フェリを監禁している部屋からミュンファの悲鳴染みた声が聞こえ、男は声を落とそうとしたが次第に荒くなってくる。
生徒会長を襲い、その妹を攫ってきた。弁明の余地もない犯罪行為である。

「俺っちが望むのはあいつとの決着さ」

あいつが誰を示すのか、今更言うまでもない。

「ハイア……お前は傭兵団を潰すつもりか?」

男の言葉にハイアは薄く笑った。

「どっちにしたって、もうじき解散さ」

そう答えると、ハイアはグレンダンから送られてきた手紙を示し、その内容を口頭で伝えた。
内容を聞いた傭兵達は動揺する。自分達が傭兵として諸都市を放浪した目的が完遂したと認められ、褒賞を授けるとされているのだ。
それを目的に傭兵になった者も、王家の命として従っていた者も、一様に複雑な顔をしつつもどこか喜びが見え隠れしている。

「後のことは天剣授受者がやってくれるって言ってるのさ。なら、俺っち達はグレンダンに行けばいいだけの話。明日には起こる都市戦が終われば、ここからおさらばするさ。それでここでの問題とはおさらばだ」

「しかし……」

「で、俺っちは別にグレンダン王家がくれる褒賞なんかに興味はないさ」

だが、それでこの問題が都合よく片付くはずがない。
ハイアは堂々と明言するが、傭兵達の不安は払拭されない。

「ここにきて、俺っちが望むのはあいつとの決着さ。それが出来るなら後はどうでもいい。俺っちをここから追い出したいんなら、そうすればいいさ。だが、それは明日の勝負が始まった後でのこと。それまでは誰にも邪魔はさせないさ」

ハイアは笑みを収め、その眼光で傭兵達を威圧した。
傭兵達の中にはハイアを我が子、我が弟に思っている者もいる。先代団長であるリュホウが拾い、リュホウが育てた。この放浪バスの中でハイアは大きくなり、ここまで成長し、他の傭兵達はそれを見届けてきた、
ハイアは自分達を指揮する団長であると同時に、保護すべき家族だった。ハイアがこのような問題を起こすまでは。

「ハイア、何を考えている?」

言葉を詰まらせながら、男は更に尋ねた。
だが、ハイアはもはや何も言わない。その沈黙に、男は苛立ちを感じていた。

「ハイア……今まで俺達はお前のことを家族だと思ってきた。だがこんな真似をしたお前を団長として、家族として見ることは出来ない」

針のように尖った鋭い言葉がハイアに突き刺さる。ここにいる傭兵達の心境を代弁するように、男は宣言した。

「明日なんて悠長なことは言っていられない。今直ぐここから出て行け」

それは決別の言葉。明日だなんて待ってられない。ハイアが何を企んでいるのか知らないが、それらは一切傭兵団には関わりのないことだ。
故に、何か揉め事が起こったとしても傭兵団は一切関知しない。それを示すためにこの件はハイアの独断だとツェルニに弁解し、けじめをつける必要がある。そのけじめがハイアを傭兵団から追放、またはその身柄を引き渡すことだ。
厳しい視線に晒される中、ハイアはまたも薄く笑った。周りの視線に負けないほどに鋭く、厳しい視線で傭兵達を見渡す。それでも彼らは怯まなかった。
今、傭兵達が何を考えているのか、どんな風に考えているのかハイアには理解できる。傭兵達は、彼らは恐れているのだ。レイフォン・アルセイフと言うただ1人の人間を。
彼らの殆どはツェルニにやってくるまで天剣授受者の強さを信じてはいなかった。だが、二度の汚染獣との戦いでレイフォンの強さを存分に見せ付けられ、更には初遭遇の時にハイアがちょっかいをかけた時は返り討ちにあったと言う話しだ。
しかも、誘拐してきたフェリがレイフォンの恋人であることは傭兵団には周知の事実。その怒りの矛先が自分達に向くのは間違いない。
だからこそハイアを追い出し、自分達傭兵団が無実であることをツェルニに、なによりレイフォンに示す必要がある。故にハイアの存在が邪魔であり、今すぐにハイアを追い出したかった。例え、ハイアが家族のような存在だとしても、傭兵達は自分達の命の方が惜しかった。

「……誰に言ってるさ?」

だから気に入らない。傭兵達が保身に走ったことではなく、ハイアは彼らがレイフォン1人に怯えていることが気に入らなかった。
それはハイアが勝負に負け、自分達がレイフォンに殺されると思っているということだ。
グレンダンの名を知らしめた自分達が、最強の傭兵集団であるサリンバン教導傭兵団が、たった1人の学生を恐れている。その事実を情けなく思いつつ、ハイアは自分を追い出そうとする男に向けて殺意にも近い視線を向けた。

「言っただろう、誰にも邪魔はさせないって。明日までは俺っちが団長さ。団長の言うことは絶対。どうしてもって言うのなら、俺っちを倒して止めるさ」

「ぐっ……」

ハイアが男の胸倉をつかみ、ドスの利いた声で宣言する。
子供のような言い分で、我侭だとはわかっている。だが、それでもハイアは止まる気はない。ここまでやって、今更後に退くわけにはいかない。
決着を付ける。必ずレイフォンに勝ってみせる。ハイアはギラギラした瞳で、男を睨みつけていた。






「あなたは、ハイア・サリンバン・ライアのことが好きなんですね」

「ふぇ……あ、その、えっと……………はい」

監禁されている部屋の中で、ミュンファと会話を交わしながらフェリは思う。何でこんなことになったのだろうと。
最初は情報を探り出し、この状況を打破することを考えていた。だけど正直に尋ねても教えてくれるわけがなく、世間話を織り交ぜながら情報を引き出そうとフェリは奮闘していた。
それがどうやったらこのような話題に変化してしまった?
疑問を感じつつも、顔を赤らめて同意するミュンファにフェリは不思議な感情を抱いていた。

(……可愛いですね)

初々しい反応を示すミュンファに、フェリは僅かながら興味を感じる。
フェリにそちらの趣味があるわけではないが、顔を赤くして取り乱し、下を向いてぼそぼそとしゃべり、あわあわと身振り手振りで表現するミュンファはまるで小動物のように可愛らしかった。
彼女は幼い頃からハイアに好意を寄せていたらしく、顔を赤面させながらもこの話題に喰いついていた。

「フェリさんとレイフォンさんは……その、恋人なんですよね?」

「そうと言えばそうですけど、違うと言えば違います」

「え……?」

「結婚することになったんです、私達。ですからフォンフォンと私は恋人ではなく、夫婦になります」

「ええっ!?」

最初は戸惑っていたミュンファも、今ではこの会話をすっかり楽しんでいる。
顔を真っ赤に染めて驚くミュンファを見て、思わずフェリの頬が緩む。

「それに、子供がいるんです。生まれるのはまだまだ先になりますけど」

「わわっ、凄いです!あの、その……触ってみてもいいですか?」

「いいですけど……まだ一月位ですから大きくないですよ?」

羨望の眼差しを向けてくるミュンファにフェリは苦笑を浮かべる。
許可を貰ったミュンファは恐る恐る、丁寧にフェリの腹部をなでた。
ここに新しい命が、レイフォンとフェリの子供がいる。

「凄いです。本当に凄いです!」

「そうですか」

きらきらした表情を浮かべるミュンファに、フェリは微笑ましそうに相槌を打つ。
こんなところに連れて来られ、落ちてしまった気分だが、そんなものが段々とどうでもよくなってくる。
フェリはミュンファの反応を、心置きなく楽しんでいた。

「あ、でも……」

「どうしました?」

不意に、ミュンファの表情が沈んでしまう。きらきらした表情が輝きを失い、申し訳なさそうに下を向く。
フェリは何事かと首を傾げ、ミュンファの答えを待った。

「団長が迷惑をかけてしまって……ごめんなさい」

「そのことですか……」

それは謝罪。フェリはハイアに攫われ、ここへと連れてこられたのだ。その役割は人質。これほど迷惑な話はないだろう。
ハイアに好意を寄せ、彼の幼馴染であるミュンファは、ハイアに代わって深々と頭を下げた。

「別にあなたが気にすることではありません」

「ですが……」

「こちらも兄を襲われて、こんなことになってしまったのでハイア・サリンバン・ライアに対する苛立ちは隠せませんが、あなたに落ち度はまったくないのですから。むしろ、あんな団長を持って気苦労が絶えないでしょう?」

「そうでもないです……今回、この都市に来てからの団長はちょっと変でしたけど、何時もは優しくって、頼りになる団長なんですよ」

多少の皮肉が込められたフェリの言葉に、ミュンファは困りながらもハイアのフォローを入れる。
ツェルニに来て、正確にはレイフォンにあってから様子のおかしいハイアだが、彼は普段ならば本当に頼りになる団長なのだ。
それは傭兵団に所属する誰もが認めている事実である。

「そうですか。あなたは本当にハイア・サリンバン・ライアが好きなんですね」

「ふ、ふぇぇ……」

フェリにからかうように笑われ、ミュンファはまたもあたふたと取り乱す。
彼女をからかうのが癖になってしまうほどに面白い。

「でも、その……こんな目に遭わせてしまった私達が言うのもなんですが、不安じゃないんですか?攫われて、こんなところに監禁されて……私ならとても心細いと思います」

顔を赤くしたまま、ミュンファがフェリに尋ねてくる。
何時の間にかこのような会話を交わしており、誘拐されたことなどまるで気にしていないような反応をするフェリに違和感を感じたのだろう。
フェリは最初こそレイフォンに申し訳なく思い、この状況を打破するべきか考えていたが、今ではかなりの余裕を持っていた。

「そうですね。錬金鋼も奪われた状態で傭兵達から逃げられるとは思っていませんし、この状況では待つしかありませんから」

何を待つのか?
ミュンファの考えを予測し、フェリは当然のように答えた。

「フォンフォンが助けに来てくれるのをです」

フェリは確信していた。傭兵団に攫われた彼女を、必ずレイフォンが助けに来てくれる。
それならば心配する必要はなく、フェリは客観的な態度でその時を待っていた。
レイフォンに対する絶対的な信頼。それをフェリから感じ取り、ミュンファは感心したように息を吐いた。

「はぁ……フェリさんも、レイフォンさんのことが好きなんですね」

「ええ、大好きです」

フェリの堂々とした宣言に今度はミュンファが微笑み、座っていたベットから腰を上げる。

「すいません、そろそろ行かないと……」

「そうですか。呼び止めてしまってすいません、楽しかったですよ」

「いえ」

そろそろハイアたちの元へ戻ろうと、ミュンファは立ち上がって扉へと向かった。

「あの……絶対に悪いようにはしませんから。ですから、心配しないでください」

そういい残して、ミュンファはがちゃりと扉を閉める。
鍵のかけられる音を聞き、フェリは小さくため息をつく。

「面白い子ですね。そしていい子です……まぁ、ハイア・サリンバン・ライアは気に入りませんけど」

僅かな悪態をつきながらも、フェリは微笑ましそうに笑っていた。







「当然の結果だな」

放浪バスの屋根に座っているハイアに向け、フェルマウスは冷めた声をかける。
相変わらずの機械音声で感情を感じ取ることは難しいが、その声は確かにハイアを責めているように感じた。

「あの、フェルマウスさん……一体何が?」

今までフェリの部屋にいたミュンファは、その異質な空気に疑問を持つ。
外に出て何時もとは違う雰囲気に不安を持ち、フェルマウスにその答えを求めた。

「ミュンファか。実はな……」

その異質な空気の正体、それはハイアと傭兵達との決別。
レイフォンとの勝負を望むハイアだったが、レイフォンとは敵対したくない傭兵達はハイアの望みに対して非協力的だった。
勝負は明日だと手紙には書いたが、レイフォンがフェリを取り返しに攻めてくる可能性だってある。見張りとして放浪バスで待機する者、擬態としてこれまでどおりに宿泊施設に待機する者と分かれたが、レイフォンと生徒会長を監視するための人員は割けなかった。
もし見つかりでもしたら、これ以上ないほどにレイフォンを刺激してしまうからだ。正直な話、今すぐにでもハイアを引き渡してこの厄介ごとに蹴りをつけたいと思っている傭兵が殆どだ。
だけど傭兵達にハイアを取り押さえるほどの実力はなく、出来るのは無言の抵抗くらいなものだ。見張りだってレイフォンが攻めてきて、自分達の足である放浪バスを壊されては困るからであり、別にハイアのためではない。
家族の様な関係だった傭兵達は、ハイアの行動一つで他人の様な存在になってしまった。
それがこの異質で、ぎすぎすした空気の正体だった。

「……正直、悪かったとは思っている。だけどこればっかりは俺っちとレイフォンの問題で、口出しはしないで欲しいさ」

「違うな。これはもはやお前だけの問題ではない。ヴォルフシュテインは……レイフォンは必ず傭兵団に報復に来るぞ」

「はっ、むしろ好都合さ。そのために嬢ちゃんを、レイフォンの恋人を攫ってきたんだからな。あの甘ちゃんなら、絶対に来るさ」

フェルマウスの言葉に、ハイアは軽い笑みを浮かべて返答する。
手は尽くした。後はレイフォンを待つだけだ。フェリが囚われたこの状況、レイフォンなら間違いなく条件を飲む。
明日の一騎打ちを受け入れ、刀を使ってハイアと相対することになるだろう。何せ彼は甘ちゃんだ。
ハイアはそう思いながら、笑っていた。

「あの、団長……そのことなんですけど、恋人じゃないらしいです」

「はぁ?どういうことさ、ミュンファ」

笑っていたハイアは、ミュンファの言葉に笑いを止めた。
恋人じゃないと言う彼女の発言に、もしやこの策は失敗してしまったのかとハイアは戸惑う。
だが、これまでのレイフォンやフェリの関係を見るに、これで恋人でなければなんなのかと思ってしまう。
首を捻るハイアに向け、ミュンファは先ほどフェリと話した内容をハイアへと話した。
子供が出来、結婚することとなり、レイフォンとフェリは夫婦になると言う事。
それを聞いたハイアは、口をあんぐりと開けて呆けていた。

「………俺っち、もしかして悪者じゃね?」

「今更過ぎるな」

ハイアのつぶやきに、フェルマウスの冷めた視線が更に気温を下げた気がした。
つまりハイアは義兄を襲い、妻を攫い、必然的に子供までも攫っていた。その事実に今度は乾いた笑みを浮かべるハイアだったが、あえて前向きに考える。

「まぁ、これでレイフォンが来る確実性が増したってことさ。どの道嬢ちゃんを攫った時点で俺っちは悪者さ。今更後には退けない。前に進むしかないさ」

「ハイア、お前は何を考えている?」

「あん?」

そんなハイアに向け、フェルマウスは男と同じ事を尋ねた。
ハイアが望むのはレイフォンとの勝負だ。その舞台にレイフォンを引き寄せる方法に問題があるが、それは別に良い。フェルマウスが問いたいのはその考えにいたった訳であり、自分なりの推測を述べた。

「あの手紙の通りなら、もうすぐ傭兵団は解散だ。だから、他人に壊されるなら自分で壊してしまえと考えたわけではないだろうな?」

「アホらしい」

フェルマウスの推測染みた冗談を、ハイアは一笑した。

「では、どうして先走った?」

「……ここは俺っちの家さ」

腰掛ける放浪バスの屋根をなでながら、ハイアは答えた。

「ここで育ってきた。生まれた都市には良い思いでなんかない。ここが俺っちの家さ」

「ああ、そうだな」

フェルマウスの脳裏に、ハイアを拾ってからの日々が流れた。
孤児だったハイアが傭兵団で暮らすようになり、リュホウに懐き、サイハーデンの技を磨き、団長となった思い出深い日々。
フェルマウスは厳しい視線でハイアを見つめていたが、それはハイアを本当に大切に思っているからこそだ。

「だけど、故郷を持ってる連中にとってはここよりも生まれた場所が、育った家のベットのほうが気持ちいいだろうさ。だけどさ、そのベットが気持ちいいからって、何時までもそこに居座るわけにはいかないさ」

「ハイア……」

屋根をなでる手が止まる。
フェルマウスは理解した。ハイアは独り立ちしようとしているのだ。傭兵団と言う家から、家族から。失われる前に自ら旅立とうとしているのだ。
だが、普通に独り立ちした者には帰る家が残る。独りに疲れた時に迎えてくれる家族がある。
ハイアにはそれがない。傭兵団がグレンダンに戻る時、それはサリンバン教導傭兵団がなくなる時だ。事実がどうなるかはわからないが、ハイアはそう思っている。

「ここを出て、どうするつもりだ?」

「さあ?」

振り返ったハイアは、何時もの顔に戻っていた。

「とりあえずは適当にいろんなところをぶらついてみるさ。流れ者らしくさ~」

「私もっ!」

今まで黙って話を聞いていたミュンファが、不意に大声を上げた。
大声を上げたことに顔を赤くして俯いてしまったが、すぐに決心を固めた表情でハイアを見る。

「私も……一緒に行きます」

「えー」

ミュンファの勢い込んだその言葉に、ハイアは渋い顔をした。

「未熟者のミュンファは邪魔さ~」

「う……」

その言葉に涙目になった彼女を見て、ハイアは思いっ切り笑った。

「あはははは!嘘嘘。好きにすればいいさ」

「え……本当に?」

「俺っちはもう団長じゃなくなるさ。それなら、ミュンファに命令する権利もない。好きにすればいいさ」

「うん……うん」

涙を拭いながら笑みを作るミュンファに、ハイアは肩の力を抜いて笑いかけた。

「ハァァァイア!!」

その瞬間、絶望が舞い降りた。

「……………え?」

ミュンファの胸から刀身が生える。彼女は何が起こったのか理解することができなかった。それはハイア達も同じようだ。誰もレイフォンの殺剄に気づかず、ここまでの接近を許してしまった。
気が付けば血を吐き、意識が遠のいていく。正面に居たハイアの表情が驚愕に染まっていた。

「フェリを攫っておいて、そっちは暢気にラブコメだなんていいご身分だな……殺したくなるだろ?」

冷たい声が聞こえた。ミュンファの背筋にゾクリと悪寒が走った。
彼女の後ろでは刀を突き刺した人物、レイフォン・アルセイフが歪んだ笑みを浮かべている。
その存在を認識し、遅れて現状を把握したハイアは感情の限り叫んだ。

「レイフォォォン!てめぇぇぇ!!」

その感情は憤怒。激情のままにハイアは錬金鋼を復元させ、レイフォンに切りかかる。
対するレイフォンは冷静で、ミュンファを突き刺した刀を抜くと、彼女の髪を乱暴につかんで盾の様に構えた。

「くっ……」

ミュンファを盾にされた以上、ハイアはその手を止めるしかない。
動きの止まったハイアに向け、レイフォンはにやりと笑って強烈な蹴りを放った。

「がっ!?」

まるで大質量の物体に撥ね飛ばされたようにハイアは吹き飛び、地べたを転がった。
腹部から鈍い痛みがする。もしかしたら肋骨が2,3本は折れたかもしれない。

「はっ、愉快な真似をしてくれるさ……」

それでもハイアは立ち上がり、負傷を隠しながらレイフォンへと立ち向かう。
口元がつりあがり、怒りを噛み殺しながら虚勢を張る。

「勝負は明日だと書いてあっただろうが、レイフォン!今まで武芸一筋だった馬鹿は字すら読めないのかさ!?」

「素敵な招待状を貰って、あまりにも楽しみで早く来すぎてしまったんだよ。こう見えても僕は繊細で、ツェルニの入学式の前日は全く眠れなかったんだ」

レイフォンの口元もつりあがっていた。
ハイア同様に、もしくはそれ以上怒りを噛み殺した雰囲気が存分に伝わり、思わず背筋が震える。
今まで何度かレイフォンとはもめたが、ここまで感情的になったレイフォンと対面するのは初めてだ。餌(人質)が良く利いたとハイアは判断し、更に感情を昂らせようと挑発的に口を開いた。

「ふざけた真似をしてくれるさ。そんな事して、あの嬢ちゃんが無事でいられると思ってるのか?」

それはもちろんブラフだ。人質は無事でないと人質の価値は無い。
本来なら要求の日時を破り、ミュンファにこのような危害を加えた時点で破綻しているが、少なからず効果はあるはずだ。

「……は?」

そして効果は、十分すぎるほどにあった、ありすぎてしまった。
ハイアは決して言ってはならないことを、冗談でも口にしてはならないことを言ってしまった。

「レストレーション02」

一言、たったの一言でレイフォンが持っていた刀が姿を変え、刀身が鋼糸へと変化した。
汚染獣戦であの鋼糸の恐ろしさを見せ付けられたハイアは接近戦はやばいと判断し、レイフォンから距離を取ろうとする。
如何に刀に自信があるとはいえ、数百数千、または数万にも及ぶ鋼糸の斬撃をかわしきるなんてことはできない。
鋼糸による遠距離攻撃をされては、ハイアに打つ手はない。
だけど、鋼糸の斬撃はハイアには向かわなかった。

「ぐあっ!?」

「フェルマウスッ!」

鋼糸の先が向かったのはフェルマウス。鋼糸の斬撃は容赦なく、フェルマウスの右腕を切り飛ばした。
宙を舞うフェルマウスの腕。それが地面に落ちた時、ハイアは新たな激情をレイフォンへ向ける。

「レェェェイフォォォォンッ!!」

「やってみろよ、その後でお前が、お前達がこの世に一欠けらでも存在してられると思っているなら!フェリに傷ひとつでもあったら、お前らを一万回殺しても足りないぞ!!」

腕を切り飛ばしただけで、フェルマウスは死んではいない。これはあくまで牽制だ。
その効果は存分にあったようで、ハイアの怒りを煽ることに成功した。
彼が冷静な判断力を失えば、それは何かと都合が良い。
だが、こちらも熱くなっていることに気づき、レイフォンは息を吐いて落ち着こうとする。

「……人質を取っているのはお前だけと思うな。鋼糸が届く限り、そこにいる奴は全員人質だと思え」

「ぐっ……」

レイフォンの言葉に、ハイアは歯噛みをする。
ミュンファは髪を乱暴につかまれて持ち上げられており、完全に意識を失っているようだ。だが、命に別状は無い。
胸を貫かれはしたものの心臓は外れ、肺の辺りを刀身は貫いていた。このまま放っておくのはまずいが、急を要すると言うことはないはずだ。
フェルマウスに関しては右腕を切断されただけだ。出血は酷いが、傭兵でも年長組みであるフェルマウスは落ち着いて止血している。
病院に行けば斬られた腕も縫合できるため、焦る必要は無いだろう。
だが、レイフォンの無数の鋼糸から2人を護り切る事はできない。アレはただでさえ厄介だと言うのに、防衛戦になってしまえば万に一つの勝ち目も無くなる。

「ハイア!」

「っ!?」

異変を感じ取り、見張りとして散っていた傭兵達が戻ってくる。
レイフォンの存在に気づいた者達は動揺しながらも、錬金鋼を復元して臨戦態勢を取っていた。
その反応を、レイフォンは嘲笑う。

鋼糸が動いた。視認すら難しい凶悪な凶器。
それらが地を走り、傭兵達を取り囲んでいた。

「ぎゃっ!?」

「あ……」

「はっ……?」

次の瞬間、鋼糸が一斉に天を突く。
鋼糸による針の柱がいくつも出来上がり、それが傭兵達の体を貫いた。
どんなに数が増えようと関係ない。リンテンスに教えられた鋼糸の技は、集団を倒すときにこそ真価を発揮する。

「お前達!」

ハイアが叫んだ時はもう遅い。ハイアを除いて傭兵達は皆、鋼糸によって貫かれていた。

「レイフォン!レイフォン!!レィィフォオンっ!!!」

「前に自分の事を戦場の犬と言っていたが、本当に犬みたいに吠えてうるさい。別に殺してはいない、急所は外している」

ハイアの殺気が増してくる。だけどレイフォンはそれをあっさりと受け流し、要求を述べた。

「フェリを返せ。さもないと止めを刺す」

気を失っているミュンファを乱暴に引き寄せ、ハイアを睨み付ける。
つまりはここにいる傭兵、全てが人質だ。レイフォンは鋼糸を操り、一瞬で全員の息の根を止めることができる。
つまり、手詰まりだ。

「てめぇ……そいつらは関係ないだろうが」

「フェリを誘拐したお前が言うのか?早くしろ、僕はあまり気が長くないんだ」

悪態をつくが、全くの正論だ。先に人質を取ったのはこちらであり、言い返すことができない。
ここまで傭兵達を巻き込んで言うことではないが、ハイアが望むのはレイフォンとの一騎打ちだ。
決着をつけ、後腐れなく傭兵団から去るのが目的だ。故にこんな馬鹿馬鹿しいことで、関係の無い傭兵達を犠牲にするつもりは無い。

「……………………わかったさ。嬢ちゃんを連れてくる。それで、こいつらには手を出すな……」

それは苦渋の選択だった。せっかくフェリを攫ってきたと言うのに、レイフォンの脅しに屈してフェリを差し出す。
まるで負けてしまったようだとハイアは唇を噛み締める。

「わかった、フェリが無事に戻ってくるなら僕も文句は無い。その上で受けてやるよ、刀を使ったお前との本気の一騎打ちを」

「………はっ?」

その言葉に、ハイアは呆けてしまう。
レイフォンは刀を使うことを拒んでいたはずだ。それにハイアから見たレイフォンの甘い性格では、勝負を真剣にやらない可能性だってある。
だけど今のレイフォンは、そんなハイアの予想を吹き飛ばすほどに闘志に溢れていた。

「まさかこんなことをして、ただで済むと思っているのか?二度とこんなことができないように、犬を徹底的に躾けてやるよ」

「くっ、はは……言ってくれるさ、レイフォン!」

フェリを誘拐したことがそこまでレイフォンを怒らせていたようだ。
レイフォンはハイアを徹底的に叩きのめそうとしている。だがそれこそがハイアの望んでいることであり、目的だった。
ハイアは溢れてくる笑みを隠せずに、レイフォンを睨み付けた。

「上等さ。やれるもんならやってみろ!」

そう言い残し、ハイアは監禁しているフェリの元へと向かった。






「フォンフォン」

「大丈夫でしたか?フェリ」

レイフォンは笑う。先ほどの不気味な笑顔や、殺伐とした雰囲気は一切なくなっていた。

「さて、要求は呑んだんだ。今すぐ俺っちと戦えと言いたいところだが、マズはこいつらを病院に連れて行かないと……」

ハイアはそんなレイフォンに向け、この場はこれで収めるように促した。
急所が外れているとはいえ、腕を切断されたフェルマウスだっている。早いところ病院へ連れて行った方がいい。

「ああ、ハイア。さっき言った事だけど……」

レイフォンは笑う。意地の悪い、まるで悪人のような微笑を浮かべていた。

「ごめん、アレは嘘だ」

「はあ?」

ハイアが間の抜けた声を上げる。彼が状況を理解するよりも早く、レイフォンの鋼糸が辺りを走り回った。
レイフォンが気がかりだったのはフェリの身の安全のみ。彼女が無事なら、後は何の興味も無い。
傭兵団がいても邪魔なだけなので、この機にまとめて処分する。そもそもレイフォンに躾を行うつもりは皆無であり、二度とフェリにちょっかいをかけないように傭兵団を壊滅させるのがレイフォンの目的だった。
鋼糸の嵐は、地に横たわっていた傭兵達の体を容赦なく切り刻んだ。

「くくくっ、ははは!」

「は、え……?」

レイフォンは笑う。ハイアは何が起こったのか理解できないでいた。
飛び散る傭兵達の手足。その光景を見て、ハイアの表情は青白く染まっていた。

「安心しろ、ハイア。切ったのは手足だけだ。まだ生きている。けど、このまま放っておいたら間違いなく出血多量で死ぬね」

「ふざけろぉぉ!!レイフォンっ!」

ハイアは完全に切れた。何時もの余裕のある態度は完全に吹き飛び、怒りのままにレイフォンに刀を向けてくる。
だけどそれはあまりにも無謀で、あまりにも愚かな行為だ。

「スクラップにしてやる」

レイフォンの宣言と共に鋼糸を刀身へと戻し、ハイアの刀とレイフォンの刀が交錯した。
ぶつかり合う刃と刃。だけど力の差は歴然だった。

「ぐがっ!?」

一撃、たった一撃でハイアが吹き飛ぶ。
あまりにも膨大な剄によって強化されたレイフォンの身体能力。どんなに剄を流しても決して壊れない、天剣にすら匹敵する錬金鋼。
その一撃はもはや人間の限界を優に超えている。

「このっ、化け物が……」

そして気づいた、自分の刀に走った亀裂に。
武器破壊の技である蝕壊を使わずに、純粋な破壊力のみで、力技のみでレイフォンはハイアの錬金鋼を破壊しかけていた。
腕に響いた重い手応えに、ハイアは背筋に冷たいものを感じた。

「よそ見していていいのか?」

「っ……そうか、そう言う事か!レイフォォォォン!!」

追撃をかけてくるレイフォンの姿を確認し、ハイアは確信した。
ツェルニを襲った異変、その終わりと同時に姿を現したレイフォン。
そして何より、彼の背後にいる存在にハイアは絶叫を上げる。

「廃貴族を……」

ハイアは確かに見た。レイフォンの後ろにいた黄金の牡山羊、廃貴族の存在を。
だが、それを確認することはできても、レイフォンの斬撃を確認することはできなかった。

「らあぁっ!」

気合い一閃。レイフォンの叫びと共にハイアの左腕が宙を舞う。
刀は右腕に持っていたから無事だが、ハイアの左腕は完全に使えなくなった。

「達磨の様にしてやる」

「っ!?」

腕を切断された痛みにもだえる暇も無く、ハイアは全身の毛穴から冷や汗を噴出し、すぐさまレイフォンから距離を取る。
絶え間なく出てくる血の存在すら忘れ、レイフォンの新たな姿に目を見開いていた。

「なんだそれ……なんなんだそれはさぁ!?」

レイフォンの新たな姿、それは漆黒の翼だった。
背中から半物質化した剄を噴射し、翼の形状を形作っている。

「絶望しろ」

この宣言と共に、レイフォンの憎悪がハイアに襲い掛かった。



























あとがき
修正版その2です。


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