フォンフォン一直線 番外編
「おはよう、リフォン。愛してるよ」
爽やかな目覚めとは程遠い朝。リフォンと言う少女は、少年の声によって目を覚ます。
睡魔によって未だにハッキリしない意識。寝惚けきった瞳を開け、リフォンは横になったまま正面を見つめる。
そこにいたのは声の主、少年である。腰まで届く白銀の髪を後ろで纏め、藍色の大きな瞳をしている。
色素が抜けたように白い肌は女性が嫉妬しそうなほどの美白で、少年には中性的な魅力がある。
女物の服を着て、少し化粧をすれば十分に少女を演じることが可能だろう。それほどまでに整い、魅力的な顔をしていた。
文句なしの美形。だがリフォンは、そんな少年の顔を間近で見てもなにも感じない。
おはようと言う挨拶。その延長のように自然な動作で、少年はリフォンの顔へと自分の顔を近づけていた。
少年の吐息がリフォンの顔に当たる。綺麗な朱色の唇が、リフォンの唇をついばもうと近づいてくる。そんな展開にもリフォンは動じず、近づいてくる少年の顔を手で押さえた。
「おはようございます、レイリー兄さん。とりあえず死んでください」
「がっ!?」
冷たく言い放ち、リフォンは馬乗りの体勢で自分の上にいる少年の股間を膝で蹴り上げた。
思わぬ不意打ちを喰らった少年は顔を真っ青に染め、脂汗を掻きながら蹲る。
「僕の息子が……まだ未使用なのに……リフォンの中に入れてないのに……」
不穏なつぶやきをするレイリーと呼ばれた少年だったが、リフォンは相変わらず動じない。
何も感じさせない冷たい表情で、レイリーに向けて厳しく言い放った。
「再起不能なまでに叩き潰しますよ?それよりレイリー兄さん、いい加減にどいてくれませんか?」
レイリーは馬乗りになった状態で蹲ったため、下にいたリフォンは胸元にレイリーの頭を押し付けられている。
それが鬱陶しく、邪魔なのでレイリーにどくように告げた。
だが、言われて現状に気づいたレイリーは……
「こ、これは!?なんと言う幸運!リフォンの胸が、胸が……未発達とはいえ柔らかな乳が……たまらない!」
頭を、そして顔を更に押し付け、思う存分にリフォンの胸を堪能した。
「……………」
リフォンは動じていない。ため息すら付かず、冷酷で、軽蔑するような絶対零度の視線をレイリーへと向けていた。
レイリーはそんな視線すら無視し、リフォンの胸に頬擦りをしている。お世辞にもあまり大きいとは言えないリフォンの胸だが、彼にはそんなことなどあまり関係ない。むしろ気に入り、次第に行為がエスカレートしていった。
腕が伸び、それがリフォンの胸をつかんだ。少々乱暴に、だけど痛くないように気遣いながら彼女の胸を揉んでいる。レイリーの表情は緩みきっており、とても幸せそうな表情をしている。
だけどリフォンは当に我慢の限界を迎えており、無表情なままもう一度膝でレイリーの股間を蹴り上げた。
「はうっ」
「本当にお願いですから死んでください。と言うか、何を朝っぱらから実の妹に、しかも双子である私に欲情してるんですか?」
股間を押さえ、ベットの上を転げ回るレイリー。
その隙にリフォンは起き上がり、転げまわっているレイリーに追撃の蹴りを放った。
「ちょ、痛い!マジで痛い、洒落にならないくらい痛い!!横腹はやめて!ちょ、ごめ……本当にごめんなさい!」
この身は武芸者だと言うのに、一般人とあまり身体能力の変わらない念威繰者のリフォンに蹴られて痛みに悶えるレイリー。
だが、リフォンは的確にレイリーの弱点を突いてくるために実際に痛い。
「生憎、私はレイリー兄さんに微塵も好意を抱いていません。むしろ嫌悪すら感じています。私が愛しているのはお父様だけです」
「それもおかしくない?ファザコンじゃん!今時15にもなって父親と一緒に風呂に入る娘なんていないよ?それよりも健全に、僕とシスコンブラコンなラブラブの毎日を……」
「どこが健全なんですか?」
「あうっ……」
最後に止め。蹴ると言うよりも踏んだ。
レイリーの股間を思いっ切り踏み潰し、レイリーは切ない呻き声と共に意識を手放した。
ぴくぴくと痙攣し、口から泡を吹いている。如何に強靭な肉体を持つ武芸者とはいえ、急所をこのように何度も攻められてはたまったものではない。
「汚らわしい」
リフォンはレイリーを軽蔑するように見詰め、すぐに興味を失って洗面所へと向かった。
まずは顔を洗う。レイリーとは双子なだけあり、似たような顔立ちをしていた。
膝まで届きそうな髪をストレートに下ろし、藍色の綺麗な瞳をしている。髪は母親似で、藍色の瞳は父親似だ。
リフォンは父と同じ色をした瞳が大好きであり、自慢だった。どうせなら髪も同じ色だったらいいのにと思うが、この白銀の髪が嫌いなわけではない。
むしろ母に似て、綺麗なこの髪は大好きである。ただそれ以上に父のことが大好きで、父とお揃いだったらいいのにと思うだけだ。
顔を洗い終え、身嗜みを整える。髪を櫛でとかし、寝癖を直す。歯を磨き、朝の準備を終えた。
部屋に戻って気絶しているレイリーを無視し、寝巻きから普段着へと着替える。
着替え終わると、そのままキッチンへと向かった。今頃キッチンでは、大好きな父が朝食の準備をしているはずだ。
その証拠にキッチンからは朝食の匂いが漂い、レイリーのおかげで最悪だったリフォンの気分は次第に浄化されていく。
「おはようございます、お父様」
朝の爽やかな挨拶。
フライパンを片手に料理をしていた父は、柔らかな笑みを浮かべてリフォンに挨拶を返した。
「おはようリフォン、今日も早起きだね。もう少しで出来るから、ちょっと待ってて」
「はい」
リフォンとレイリーの父、レイフォン・ロス。
旧姓はアルセイフと言うらしく、婿養子と言う形でロス家にやって来た。
ロス家の家事を完璧にこなし、戦争や汚染獣襲撃の危機にはその武芸の才を惜しみなく発揮する最強無敵の父親である。
母とは学生時代に出来ちゃった婚で既に結婚15年を迎えたが、今でも新婚気分が抜けていない。
常にラブラブであり、父が大好きなリフォンとしては実の母が最大のライバルである。
(でも、お母様は嫌いじゃないし……いっそ親子丼でもいいか)
不穏なことを考えながら、リフォンは大人しくリビングへと向かい、席へと座る。
それから暫くして、話題に出た母が起きてきた。
「早いですね、リフォン」
「おはようございます、お母様」
「おはよう」
リフォンとレイリーの母親、フェリ・ロス。
自分達の元となった白銀の髪はやはり綺麗で、それを誇らしくすら思う。
父とラブラブなのは先ほども述べたが、現在は妊娠6ヶ月。かなり大きくなった彼女のお腹の中には、自分達の弟が眠っている。
だが、リフォンは今更弟や妹が出来ようとなんとも思わない。また、家族が増えるのかと言う認識程度だ。
何故なら……
「おはようございます、お母さん」
「おはよう、レイ」
「おはようございます」
「おはよう……」
「おはぁよう……」
「おはよう、フェレナ。フェルとフェイはまだ眠そうですね。フェンはどうしましたか?」
「……………」
「立ったまま寝ていますね。相変わらず器用なことです」
「ママ、おはよー」
「おはよー」
「はい、おはよう。イリヤ、イリア」
大家族であり、弟や妹なら売るほどにいるからだ。
長男、レイリー・ロス。15歳。
長女、リフォン・ロス。15歳。
次男、レイ・ロス。10歳。
次女、フェレナ・ロス。9歳。
三男、フェイ・ロス。8歳。
三女、フェル・ロス。8歳。
四女、フェン・ロス。8歳。
五女、イリア・ロス。6歳。
六女、イリヤ・ロス。4歳。
合計9人にも及ぶ兄弟達。
今更1人増えたところで、リフォンは特に何も思わない。相変わらず父と母は盛んで、仲が良いということだ。出来ればそれに混ぜて欲しいと思うが、リフォンはそれを決して口には出さなかった。
学生時代に生まれたのがレイリーとリフォンの双子。
それから5年後、母の故郷であるこの都市、流易都市サントブルグで生まれたのが次男のレイ。その1年後に次女のフェレナが生まれた。
更に1年後にはフェイ、フェル、フェンの三つ子が生まれ、その2年後には五女のイリア。更に2年後には六女のイリヤが生まれた。
そして現在は、妊娠6ヶ月と言う新たな兄弟。生まれてくるのは確かに楽しみだが、リフォンからすればそこまで目新しさを感じることが出来なかった。
「ご飯の用意が出来たよ。みんな手伝って」
「「「はーい!」」」
レイフォンの声に従い、兄弟達は朝食を運ぶ手伝いを始める。
兄弟はその殆どが、と言うか全員が武芸者か念威繰者である。数も数だが、武芸者はもとよりかなりのカロリーを摂取するので、朝食の量は1人で運ぶにはあまりにも多すぎた。
もっとも数人がかりで運べば何の問題もなく、大きめのリビングのテーブルには大量の料理が並ぶ。
レイフォンの料理は絶品だ。学生時代から磨いてきた料理の腕はもはや鉄人並みである。
食欲を誘う匂いがリビングに充満し、空腹のお腹が刺激される。
「あれ、レイリーは?相変わらずまだ寝てるの?」
「はい。レイリー兄さんは未だに夢の中ですね。先に食べてしまっていいのでは?」
レイフォンの問いかけに、レイリーを夢の中に招待したリフォンはそっけなく答える。
「そうだね……それじゃ、みんな」
レイリーが未だに夢の中なのは何時ものことなので、レイフォンは家族を促し、手を合わせる。
促された家族達は手を合わせ、次のレイフォンの言葉を復唱した。
「いただきます」
「「「いただきます!」」」
これが、ロス家の朝の風景だった。
あとがき
短いですが、番外の短編と言うことで一つ。
レイフォンとフェリの子供の話ですね。双子の兄、レイリーはシスコンで、リフォンはファザコンですw
設定ではレイがマザコンで、フェルとフェンはフェイに対してのブラコンであり、フェイは唯一のノーマル。
イリアとイリヤは百合気味なんて言う設定を考えていましたが、設定だけにしました。SSに書こうとしたら収拾つかないんですよ……
そもそもやりすぎたかなと思わなくもありませんが、これはこれで書いてて楽しいんですよね。
何時か都市戦の話とかで大暴れするロス家のメンバーを書いてみたいです。
ちなみに、リフォンとフェレナが念威繰者で、後は全員武芸者ですね。脳内設定ではそんな感じです
カリアンとかも出したかったなぁ……
次にちょっとした雑談を。皆さんって漫画を描く一方さんをどう思います?
いや、新年あたりに記念で書こうと思っている短編の構成なんですが、一方さんの中の人ってバクマン。でエイジをやってるんですよ。そのネタで。
ちなみに上条さんの中の人がサイコー役。これは漫画家一方さん、アシスタントの上条さんで是非ともSSを書きたいw
NHKは本当にやりますね。去年、紅白に水樹奈々さんが出た時から支持してましたが、バクマン。のアニメ化には俺が狂喜乱舞です。
そして声優さんの起用には大変大満足。今年は良い年でした。
後は紅白を見てのんびり過ごしたいです。水樹奈々さん最高です!
さて、これが今年最後の更新ですね。いつも感想ありがとうございます。たくさんの感想、とても励みとなっております。
来年も更新を頑張りますので、応援よろしくお願いします。皆さん、良いお年を。