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No.15685の一覧
[0] フォンフォン一直線 (鋼殻のレギオス)【一応完結?】[武芸者](2021/02/18 21:57)
[1] プロローグ ツェルニ入学[武芸者](2010/02/20 17:00)
[2] 1話 小隊入隊[武芸者](2011/09/24 23:43)
[3] 2話 電子精霊[武芸者](2011/09/24 23:44)
[4] 3話 対抗試合[武芸者](2010/04/26 19:09)
[5] 4話 緊急事態[武芸者](2011/09/24 23:45)
[6] 5話 エピローグ 汚染された大地 (原作1巻分完結)[武芸者](2010/05/01 20:50)
[7] 6話 手紙 (原作2巻分プロローグ)[武芸者](2011/09/24 23:52)
[8] 7話 料理[武芸者](2010/05/10 18:36)
[9] 8話 日常[武芸者](2011/09/24 23:53)
[10] 9話 日常から非日常へと……[武芸者](2010/02/18 10:29)
[11] 10話 決戦前夜[武芸者](2010/02/22 13:01)
[12] 11話 決戦[武芸者](2011/09/24 23:54)
[13] 12話 レイフォン・アルセイフ[武芸者](2010/03/21 15:01)
[14] 13話 エピローグ 帰還 (原作2巻分完結)[武芸者](2010/03/09 13:02)
[15] 14話 外伝 短編・企画[武芸者](2011/09/24 23:59)
[16] 15話 外伝 アルバイト・イン・ザ・喫茶ミラ[武芸者](2010/04/08 19:00)
[17] 16話 異変の始まり (原作3巻分プロローグ)[武芸者](2010/04/15 16:14)
[18] 17話 初デート[武芸者](2010/05/20 16:33)
[19] 18話 廃都市にて[武芸者](2011/10/22 07:40)
[20] 19話 暴走[武芸者](2011/02/13 20:03)
[21] 20話 エピローグ 憎悪 (原作3巻分完結)[武芸者](2011/10/22 07:50)
[22] 21話 外伝 シスターコンプレックス[武芸者](2010/05/27 18:35)
[23] 22話 因縁 (原作4巻分プロローグ)[武芸者](2010/05/08 21:46)
[24] 23話 それぞれの夜[武芸者](2010/05/18 16:46)
[25] 24話 剣と刀[武芸者](2011/11/04 17:26)
[26] 25話 第十小隊[武芸者](2011/10/22 07:56)
[27] 26話 戸惑い[武芸者](2010/12/07 15:42)
[28] 番外編1[武芸者](2011/01/21 21:41)
[29] 27話 ひとつの結末[武芸者](2011/10/22 08:17)
[30] 28話 エピローグ 狂いし電子精霊 (4巻分完結)[武芸者](2010/06/24 16:43)
[32] 29話 バンアレン・デイ 前編[武芸者](2011/10/22 08:19)
[33] 30話 バンアレン・デイ 後編[武芸者](2011/10/22 08:20)
[34] 31話 グレンダンにて (原作5巻分プロローグ)[武芸者](2010/08/06 21:56)
[35] 32話 合宿[武芸者](2011/10/22 08:22)
[37] 33話 対峙[かい](2011/10/22 08:23)
[38] 34話 その後……[武芸者](2010/09/06 14:48)
[39] 35話 二つの戦場[武芸者](2011/08/24 23:58)
[40] 36話 開戦[武芸者](2010/10/18 20:25)
[41] 37話 エピローグ 廃貴族 (原作5巻分完結)[武芸者](2011/10/23 07:13)
[43] 38話 都市の暴走 (原作6巻分プロローグ)[武芸者](2010/09/22 10:08)
[44] 39話 学園都市マイアス[武芸者](2011/10/23 07:18)
[45] 40話 逃避[武芸者](2010/10/20 19:03)
[46] 41話 関われぬ戦い[武芸者](2011/08/29 00:26)
[47] 42話 天剣授受者VS元天剣授受者[武芸者](2011/10/23 07:21)
[48] 43話 電子精霊マイアス[武芸者](2011/08/30 07:19)
[49] 44話 イグナシスの夢想[武芸者](2010/11/16 19:09)
[50] 45話 狼面衆[武芸者](2010/11/23 10:31)
[51] 46話 帰る場所[武芸者](2011/04/14 23:25)
[52] 47話 クラウドセル・分離マザーⅣ・ハルペー[武芸者](2011/07/28 20:40)
[53] 48話 エピローグ 再会 (原作6巻分完結)[武芸者](2011/10/05 08:10)
[54] 番外編2[武芸者](2011/02/22 15:17)
[55] 49話 婚約 (原作7巻分プロローグ)[武芸者](2011/10/23 07:24)
[56] 番外編3[武芸者](2011/02/28 23:00)
[57] 50話 都市戦の前に[武芸者](2011/09/08 09:51)
[59] 51話 病的愛情(ヤンデレ)[武芸者](2011/03/23 01:21)
[60] 51話 病的愛情(ヤンデレ)【ネタ回】[武芸者](2011/03/09 22:34)
[61] 52話 激突[武芸者](2011/11/14 12:59)
[62] 52話 激突【ネタ回】[武芸者](2011/11/14 13:00)
[63] 53話 病的愛情(レイフォン)暴走[武芸者](2011/04/07 17:12)
[64] 54話 都市戦開幕[武芸者](2011/07/20 21:08)
[65] 55話 都市戦終幕[武芸者](2011/04/14 23:20)
[66] 56話 エピローグ 都市戦後の騒動 (原作7巻分完結)[武芸者](2011/04/28 22:34)
[67] 57話 戦いの後の夜[武芸者](2011/11/22 07:43)
[68] 58話 何気ない日常[武芸者](2011/06/14 19:34)
[70] 59話 ダンスパーティ[武芸者](2011/08/23 22:35)
[71] 60話 戦闘狂(サヴァリス)[武芸者](2011/08/05 23:52)
[72] 61話 目出度い日[武芸者](2011/07/27 23:36)
[73] 62話 門出 (第一部完結)[武芸者](2021/02/02 00:48)
[74] 『一時凍結』 迫る危機[武芸者](2012/01/11 14:45)
[75] 63話 ツェルニ[武芸者](2012/01/13 23:31)
[76] 64話 後始末[武芸者](2012/03/09 22:52)
[77] 65話 念威少女[武芸者](2012/03/10 07:21)
[78] 番外編 ハイア死亡ルート[武芸者](2012/07/06 11:48)
[79] 66話 第十四小隊[武芸者](2013/09/04 20:30)
[80] 67話 怪奇愛好会[武芸者](2012/10/05 22:30)
[81] 68話 隠されていたもの[武芸者](2013/01/04 23:24)
[82] 69話 終幕[武芸者](2013/02/18 22:15)
[83] 70話 変化[武芸者](2013/02/18 22:11)
[84] 71話 休日[武芸者](2013/02/26 20:42)
[85] 72話 両親[武芸者](2013/04/04 17:15)
[86] 73話 駆け落ち[武芸者](2013/03/15 10:03)
[87] 74話 二つの脅威[武芸者](2013/04/06 09:55)
[88] 75話 二つの脅威、終結[武芸者](2013/05/07 21:29)
[89] 76話 文化祭開始[武芸者](2013/09/04 20:36)
[90] 77話 ミス・ツェルニ[武芸者](2013/09/12 21:24)
[91] 78話 ユーリ[武芸者](2013/09/13 06:52)
[92] 79話 別れ[武芸者](2013/11/08 23:20)
[93] 80話 夏の始まり (第二部開始 原作9巻分プロローグ)[武芸者](2014/02/14 15:05)
[94] 81話 レイフォンとサイハーデン[武芸者](2014/02/14 15:07)
[95] 最終章その1[武芸者](2018/02/04 00:00)
[96] 最終章その2[武芸者](2018/02/06 05:50)
[97] 最終章その3[武芸者](2020/11/17 23:18)
[98] 最終章その4[武芸者](2021/02/02 00:43)
[99] 最終章その5 ひとまずの幕引き[武芸者](2021/02/18 21:57)
[100] あとがき的な戯言[武芸者](2021/02/18 21:55)
[101] 去る者 その1[武芸者](2021/08/15 16:07)
[102] 去る者 その2 了[武芸者](2022/09/08 21:29)
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[15685] 40話 逃避
Name: 武芸者◆8a2ce1c4 ID:bc62b363 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/10/20 19:03
今回はちょっとやりすぎたと言いますか、人によっては憂鬱な展開を含みます。それでもいいと言う方はどうぞ。




































「なんで君がここにいるのかなんて理由はまったくわからないけど、そんなことは僕にはどうだっていいんですよ」

「はぁ……僕からすれば大問題で、今すぐツェルニに帰りたいんですが……ってか、ここ、どこです?」

実際に他人事だが、サヴァリスの他人事のような言葉に呆れながらもレイフォンが疑問を投げかける。

「学園都市マイアスさ」

「マイアス……」

サヴァリスの返答、学園都市マイアスと言う都市の名。
聞いたことはないが、学園都市と付くあたり、やはりツェルニと同じなのだろう。
だが、そんなことはどうでもいい。問題なのは、何故レイフォンがここにいるのか?
そして、どうすればツェルニへ帰れるのかと言うことだ。

「それよりも、せっかくの再会だ。どうだい、僕とやらないかい?」

そんなレイフォンにお構いなしに、サヴァリスが拳を握り締めてレイフォンに問いかけてくる。
清々しいほどの純粋な笑みを浮かべ、サヴァリスは戦闘意欲を全面的に放出していた。

「相変わらず、そんなことばかり考えているんですか?」

「これは天剣授受者として当然の考えだと思うけどな、僕は」

サヴァリスの戦闘狂っぷりに呆れるレイフォンだったが、彼の言葉はもっともだ。
天剣授受者は強くなければ務まらない。女王が求めるのは強さのみ。
だからこそ強さや戦いを求めるのは間違いではなく、サヴァリスの考えは正しい。
だけど彼はあまりにも極端で、度が過ぎていることもあった。
どちらにせよ、金のために天剣授受者となり、戦っていたレイフォンにはわからない話だ。
今のレイフォンだって、フェリのことしか考えていない。
彼女のために戦う。彼女のために武芸を続ける。彼女を護るためだったら何だってする。ただ、それだけだ。

「それに、錬金鋼を3つも持っているなんて面白そうじゃないか」

「え?」

ニヤリとした笑顔を浮かべるサヴァリスに、レイフォンは疑問を感じて剣帯を見下ろす。
確かに、レイフォンは複数の錬金鋼を使っている。その方が状況に合わせて臨機応変に使えるし、鋼糸を使うに時に都合がいいからだ。
だが、レイフォンが使う錬金鋼は複合錬金鋼と鋼糸用の青石錬金鋼の2つだ。3つ目の錬金鋼など存在しない。

「これは……」

だと言うのに、3つ目の錬金鋼が存在した。
本来なら複合錬金鋼に組み合わせるための媒体、スティック状の錬金鋼を入れる場所に見覚えのない、だけどとても馴染みの深い錬金鋼がひとつ。
レイフォンはこの錬金鋼を初めて見た。だと言うのにこれは、この錬金鋼は、まるで自分のためにあるかのように思えてしまう。

「僕は君と戦えれば満足なんだよ。しかし参ったね、今は錬金鋼を没収されてて、手元にはない」

「そうなんですか。ならばやめませんか?」

「しかし、素手で君に勝負を挑むのも面白いかもしれない。如何に僕が天剣授受者とは言え、錬金鋼持ちの元天剣授受者に素手だなんて自殺行為もいいところだが、それはそれで面白そうだ」

「僕は全然面白くありません」

サヴァリスは更に笑みが濃くなり、レイフォンとの戦いを求めていた。
そんなレイフォンは面白いはずがなく、こんなわけのわからない状況で例え素手とはいえサヴァリスと戦うのはごめんである。
彼には確かに錬金鋼はないが、ルッケンスは体術基本の武門である。
錬金鋼なしでも使用できる咆剄殺に千人衝、そのどれもが厄介な剄技だ。

「だが、まぁ……錬金鋼があった方が更に楽しいのも事実だ。レイフォン、少し待っていてもらっていいかな?ちょっと忍び込んで、錬金鋼を取ってくるよ」

「嫌です」

「ふふ、楽しくなりそうだ」

レイフォンが即答で断るが、サヴァリスは話を聞かずに背を向け、錬金鋼を取りに向かった。
その後姿はまるで無邪気な子供のようで、これから起こるイベントに胸を高鳴らせているようだった。

「……………逃げよう」

そしてレイフォンは、当たり前だが待つわけなかった。
サヴァリスとの戦闘などやってられるわけがなく、こんなわけのわからない状況では尚更だ。
即断即決で行動を決め、レイフォンは廊下の窓を開けて外へと飛び出すのだった。





「さて、どこにあるのかな?」

サヴァリスは没収された荷物が保管されている部屋へと忍び込み、自分の錬金鋼を探していた。
その探し方は乱暴で、他人の荷物をひっくり返したり、放り投げたりしながら探している。
もちろん、散らかったからと言って、それを元に戻すはずがない。

「あった」

物が散乱している中、目的のものを見つけてご満悦の表情を浮かべるサヴァリス。
まるで失くした玩具を見つけた子供のような笑みを浮かべ、錬金鋼を手にする。

「何があったんです?」

だが、そんなサヴァリスに向けて声がかけられる。
とても好意的には聞こえず、また、サヴァリスがやっていたことからして当然の反応。
荷物をあさり、一歩間違えれば泥棒とやっている行為は変わらないのだ。それ相応の対応として、声の主は錬金鋼を構えてサヴァリスに敵意を向けていた。

「殺剄はまるでなってないけど、なかなか気配を消すのがうまいね。一瞬、そこにいるのがわかりませんでしたよ」

「それは感知はしたけど、あえて気づかない振りをして荷物をあさっていたと言う事ですか?」

「そのほうが面白そうだろう?」

サヴァリスは慌てずに、余裕すらうかがわせてゆっくりと振り返る。
そんな彼の視線の先にいたのは、長い金髪をポニーテールに括った少女。歳はリーリンと同じか、少し上くらいだろう。また、剄の流れを感じることから間違いなく武芸者だ。
美麗な顔立ちと、髪と同じ綺麗な金色の瞳をした美少女が刀を手にしている。その芸術的なほどに美しい刀身が、かなりの業物なのだろうと告げていた。
彼女もまた都市警察の者のようで、都市警察を示す服を着ている。
ただ、女性と言うことでスカートを穿いているのだが、その下には足を隠すように長ズボンを穿いている。
サヴァリスはファッションに疎いが、下着を隠すためにスカートの下に短パンやスパッツを穿く場合があるが、それでも長ズボンは珍しいはずだ。

「面白そうって……あなたの目的は何なんですか?」

「僕の望みは戦いだね。血が沸きあがり、肉踊る戦い。好みを満足させてくれる戦いこそがこそが僕の求めるもの。だから、これが必要なのさ」

錬金鋼を手にし、サヴァリスは少女に言う。

「泥棒ではないと言うことですか……確か、サヴァリス・ルッケンスさんでしたよね?」

「そう言う君は、確か、僕の事情聴取をした子だったかな?」

少女はサヴァリスの事情聴取を担当した人物で、確か、シェル・ファイムと言う名だった。
シェルはサヴァリスの名を確認し、錬金鋼を構えたまま忠告する。

「申し訳ありませんが、このマイアスは緊急事態なんです。ですので、危険物の所持は認められないんですよ。錬金鋼は元の場所に戻してもらえませんか?」

「それは困るな。僕としては錬金鋼が必要なんですよ。それに、確かにこの都市は緊急事態ですね。だから、もし、汚染獣が襲って来た時用に錬金鋼が欲しい。この都市は今、足が止まっているんでしょう?」

「なっ……!?」

だが、サヴァリスが忠告なんて聞くはずがなく、むしろ諭すようにシェルに言う。
本来なら汚染獣から逃げるように移動する都市、レギオス。
だが、この都市は現在、足を止めていた。それでは汚染獣から逃れることはできない。
人間の臭いを嗅ぎつけ、汚染獣がやって来たら戦わなければならないのだ。

「このことが宿泊客達に知れたら、大パニックだろうねぇ」

「なんであなたがそれを知っているんですか!?」

ニヤリと笑うサヴァリスに、シェルは怒鳴り声に近い声量で問う。
宿泊者達の部屋は、窓から都市内部しか見えないところしか使用しておらず、食事の時意外は部屋から出るのを禁じている。だと言うのにサヴァリスはこの都市の危機を、この都市が足を止めていると言うことを知っていた。
完全に取り乱しているシェルの疑問に対し、サヴァリスは笑みを浮かべたまま答える。

「あの程度の監視で僕を見張れるとは思わないで欲しいな。実際にこの目で見てきたんですよ、都市が足を止めているのを。それに、あの音を誤魔化すのは無理な話でしょう?」

そうだ。サヴァリスは食堂にも見張りがいるはずなのに、それも抜け出して今、ここにいる。
それだけ殺剄に優れており、優秀な武芸者だと言うことだろう。シェルがサヴァリスを見つけたのだって、彼が乱暴に部屋を探索していたからだ。
その物音がなければ、この部屋に入ろうとすら思わなかったはずだ。
それにサヴァリスの言うとおり、都市が足を止めていることにより、本来なら聞こえるはずの音が聞こえない。足が大地を駆けるはずの音が。
だから長時間誤魔化すのは不可能で、勘の良いものなら気づくだろうとも予想はしていた。
サヴァリスは勘もよく、そして実際にその目で確認もしてきた。ただ、それだけの話だ。

「……ですが、だからと言って例外は認められません。汚染獣が攻めてきたら、私達マイアスの武芸者が迎撃します。ですから錬金鋼は……」

「御託はいいですから、やり合いましょう」

忠告を続けるシェルに対し、サヴァリスは挑発するように、煽るように笑顔を浮かべ、くいくいと手招きをする。

「貴方も、結構楽しませてくれそうですね。暫く放浪バスでじっとしていたし、まともな鍛錬もできなかったからレイフォンと戦う前の錆び落としにちょうどいいかもしれません。僕と遊んでくれませんか?」

「……これはとんだお誘いを受けてしまいました」

「で、どうします?」

楽しそうなサヴァリスに比べ、シェルは天を仰ぐようにしてポツリとつぶやく。
本来ならこんな経緯で戦いをするのはごめんなのだが、だからといって危険物の持ち出しを許すわけには行かない。

「こちらファイムです。保管庫に侵入者が。至急、応援を頼みます」

無線機を使って短く連絡を入れ、シェルは刀を構える。
見逃すなんて考えはない。だが、自分1人で相手を倒せるとは思っていない。例え倒せたとしても、念のために救援を要請しておく。
自分の役目はサヴァリスの確保。だが、無理をする必要はない。最低限、応援が駆けつけるための時間、数分ほど足止めをすればいいのだ。

「すいません、見逃したとなればロイ君に怒られちゃうんで」

「ロイって言うのは、確か隊長だったね。ずいぶん親しげに呼ぶけど、恋人かい?」

「こ、恋人!?……幼馴染です」

「そうですか」

ククク、と小さく笑うサヴァリスに苛立ちを覚えつつ、顔が赤いままにシェルはじりじりと距離を詰める。
サヴァリスも応援を呼ばれたので、のんびりはできないと構えを取った。
最も、彼ならばその応援ごと打倒するのは簡単だし、そちらも面白いかと思った。
だが、制限時間以内にシェルを倒すのも面白そうだ。何より、今は早くレイフォンと戦いたい。
そう決意して、まずはサヴァリスから動く。

「いきますよ」

正拳突き。
錬金鋼すら復元せずに、サヴァリスはまずは拳を突き出す。
体術や格闘技において基本の突きだが、それをサヴァリスが行えば話は違ってくる。まさに必殺。
一応手加減はしているのだが、学生武芸者にとってそれはまさに必殺技の域。まともに喰らえば意識が飛ぶには十分すぎる一撃。

「へぇ」

その一撃を、シェルは華麗な足運びでかわす。
その動作に感心し、サヴァリスが思わず声を漏らす中、シェルは手に持った刀を勢いよく振り下ろす。
薪を斧で一刀両断するかのような一撃。それがサヴァリスの脳天へと向かって振り下ろされた。
これが通常の刀で、直撃すれば容易に人を真っ二つにできただろう。だが、学園都市で使用される錬金鋼には基本的に刃引きがされており、刀や剣などで人を斬ることはできない。せいぜい、鈍器で殴ったようなダメージを与える程度だ。
それでもその一撃は強烈で、まともに当たれば気絶させるには十分だろう。
そう、まともに当たればの話だが。

「なかなかいい動きをするね。才能ならうちの弟よりありそうですよ」

「っ!?」

サヴァリスは平然と、その斬撃を受け止めていた。
真剣白刃取りを片手で成している。指でがっちりと刀身をつかんでおり、シェルが刀を引くがびくともしない。
まるで万力にでも締め付けられたような圧迫感だ。

「……どんな握力してるんですか!?」

「さて、次はどうするのかな?」

冷や汗を垂れ流すシェルに対して、サヴァリスは心底楽しそうな笑みを浮かべる。

「調子に乗るなぁ!!」

その余裕の態度が癇に障り、シェルはあっさりと刀を持っていた手を放し、サヴァリスへと向けて思いっきり上段回し蹴りを叩き込んだ。
まさか自分の得物をこうもあっさりと放棄するとは思わず、僅かながら拍子抜けしてしまう。
だけどその程度のことでサヴァリスが蹴りを喰らうはずがなく、頭部を狙ったシェルの上段回し蹴りは刀を投げ捨てたサヴァリスの腕によってあっさりと防がれた。

「これはこれは……」

シェルの上段回し蹴りを防ぎ、頭部には喰らわなかったのだがサヴァリスは驚きの表情を浮かべる。
みしみしと腕がきしみ、骨が悲鳴を上げ、ボキリと言う鈍い音も聞こえていた。折れたのだ。
如何に武芸者、天剣授受者とは言え所詮は人間。汚染獣を1人で圧倒するとは言え、人の身でありながらそれに値する強度を持っているわけがない。
金剛剄などの防御用の剄技を使えば話は別だが、油断していたサヴァリスはそんなもの使用していなかった。
シェルの蹴りを素手だと思い、サヴァリスは同じく素手で、腕で彼女の蹴りを防御した。これが流石に錬金鋼だったらそんな愚かな行為はしなかっただろうが、サヴァリスは結果的にそんな愚かな行為を、錬金鋼を素手で受け止めてしまったのだ。

「なっ!?」

「驚きました。その足、錬金鋼なんですね」

すぐに足を引こうとしたシェルだが、それよりも早くサヴァリスが無事なほうの手でシェルの足をつかむ。
ズボンの布越しだが、手に伝わる金属の感触が素足ではないと告げていた。

「僕の故郷には140まで生きた天剣授受者、まぁ、高名な武芸者がいましてね。彼は生涯現役だったんですよ。脳と剄脈以外を全て取り替え、骨を錬金鋼に変えてまで肉体の維持を努め、脳死するその時まで戦場にいた武芸者だ。貴方はそれと似ていますね」

足の代わりとなる錬金鋼。それは義足でありながら、彼女の武器である。彼女が穿いていたスカートの下の長ズボンには、それを隠す意味があったのだ。
油断をしていたサヴァリスは腕の骨を折られたと言うのに、痛みに悲鳴を上げることもなく、苦痛に表情を歪めることもなく、笑みを浮かべたまま値定めするようにシェルに語りかけた。

「道理で学生武芸者にしてはかなりの剄を持っていると思った。それに殺剄がなってないはずだ。これが足の代わりだというのなら、錬金鋼を復元し、動かさなければならないから常に剄息をしている状態となるわけですか。だから剄を潜めることができない。ですが、動きを見る限り、日常生活には苦労していないようですね?」

「……それはどうも。特注品の錬金鋼なんですよ。数年前に、本物の足は汚染獣に食い千切られましてね……」

「それはそれは、災難ですね」

足をつかまれているために、シェルは動けない。
サヴァリスに足をつかみ上げられ、股を開いてる姿を見せ付ける形となり、忌々しいほどに情けない体勢だ。だけどサヴァリスはそんなことにはまったく興味がなく、むしろシェルに向けて講義するように言う。

「だけど、せっかくの素晴らしい足だと言うのに今の蹴りはいただけませんね。腰がまったく入っていません。しっかり入っていれば、僕の腕は完璧に粉砕されていたでしょうに」

「うわっ!?」

サヴァリスはシェルの足を放り投げるように放し、いきなりの出来事にシェルはバランスを崩してよろめく。

「いいですか?こうするんです」

そして実演を兼ねるように、腰を入れ、シェルには視認すら不可能な速度で上段回し蹴りを放った。

「がっ!?」

視界が高速でぶれ、蹴られたのだと気づかずにシェルは吹き飛ぶ。
こめかみにピンポイントで叩き込まれた蹴りに、シェルは成す術もなく意識を手放した。

「手加減はしましたが、今のが本物の蹴りです。蹴りもそうですが、基本は何事も下半身が大事ですよ……って、聞こえてませんね」

講義を続けていたサヴァリスだが、あれでは聞こえないだろうと理解して頬を掻く。
やりすぎてしまったと少しだけ反省しながら、廊下から聞こえてくる足音に耳を傾けた。

「おっと、そう言えば応援が来るんでしたね。ここはひとまず退散しますか」

窓を開け、そこから外に出ようとするサヴァリス。
ちらりとシェルへ視線を向けたが、彼女は完全に気を失っており、サヴァリスの散らかした荷物の中に埋まっている。
そんな彼女が折った自分の腕に、今度は視線を向ける。

「まったく、やってくれますよ。数日ほど活剄を治療に向ければ完治するでしょうが、これではレイフォンと戦うのは無理ですね。まぁ、手負いでと言うのも面白そうではありますが」

それだけをつぶやくと、サヴァリスは窓の外へと飛び出した。
活剄で強化した聴力では、部屋に入ってきた都市警察の者達がシェルを心配する声が聞こえてくる。
だけどすぐさま興味を失い、サヴァリスはマイアスの街並みへと姿を消すのだった。




































ツェルニの暴走は止まらない。それはつまり、汚染獣との攻防戦が止まらないことも示している。
都市の外には、予想よりも遥かに多くの汚染獣がいるようだ。あるいは、ツェルニが汚染獣の群れを探し出して突進しているのか?
あるいは、汚染獣の群生地へと迷い込んでしまったのか?

「事情はどうあれ、ツェルニが未だかつてない危機にあると言うのは、覆せない事実だ」

生徒会会議を終え、会長室に戻ったカリアンはつぶやく。

「しかし、どうやってそれを改善する?問題が本当に機関部の中枢にあるのだとしたら、我々ではどうしようもないぞ」

「そうだね……」

カリアンは両手を組んで考えに浸る。
ツェルニの暴走。その原因が都市の意思である電子精霊にあることは、もはや疑いようの無い事実だ。
都市の移動に人の手が介在することはなく、電子精霊が自ら汚染獣の存在を探知し、回避するように動くのが普通だ。
それが真逆の行動を取り出したのだから、そう考えるのが妥当だ。
レギオスが生み出されたのは遥かなる過去、今の都市主体の人類形態以前の錬金術師達の手によってだ。
現代の人類は都市の機械部分の修復を行うことはできても、中枢部分には手を出すことすらできない。そのための技術は、既に失われてしまったのだ。

「やはり、廃貴族が今の状況を生み出している……そう考えるのが妥当だね」

廃貴族。元は電子精霊だったのだが、汚染獣によって都市を滅ぼされ、それに対する怨念によって狂った存在。
それが武芸者を飛躍的に強くする力も持っているらしく、言わば汚染獣に対して敵対意思を持つエネルギー型の知性体と言うことだろう。
その敵対意思が、この都市をおかしくしたのかもしれない。

「ディン・ディー1人の犠牲で済むなら、そちらの方が安かったか?」

その廃貴族を引き取ろうとして現れたのがサリンヴァン教導傭兵団だ。
廃貴族は武芸者に寄生するため、それを利用してディンごと廃貴族を連れ去ろうとハイア達は企てた。
だけどそれを生徒会長として容認できるわけがなく、カリアンはレイフォンに指示を出してそれを阻止した。

「いや……」

それに後悔はしていない。カリアンはゆっくりと首を振った。

「誰かの犠牲を元に都市を護ると言うやり方は間違っているよ。少なくとも、学園都市ではね」

「だが、こちらの方が多くの人が死ぬかもしれん」

少数の犠牲で多くを救うなんて詭弁はよく聞く話だが、そういったことを言う人物は自分が犠牲のための少数に入ることを考えない者が殆どだ。
それに学園都市という性質上、学生全てが護るべき存在であり、犠牲にするなんてもってのほかだ。

「それとこれでは問題が違うよ。こちらは、今の世界に生きる我々の、逃げられない宿命と言うものだ」

それに、汚染獣の脅威と言うのはこの世界では決して逃れられぬ存在だ。
だからこそ、汚染獣の襲撃による犠牲の責任を1人の人間に押し付けることなんてできない。

「そうかもしれんがな」

今のところツェルニに犠牲者は出ていない。
重傷者はたくさん出ているが、死者はいないと言うことだ。
これはやはり、サリンバン教導傭兵団の働きによるところが大きいだろう。
ピンチとなれば彼らを投入し、今までやってこれたのだ。
だが、彼らも慈善事業やボランティアではない。傭兵と言うのは商売であり、故に報酬を請求される。
正直な話、もうツェルニにはその報酬を払える余裕がなかった。完璧なる崖っぷち。
次に汚染獣が襲撃してきたら、自分達だけの力で撃退しないといけないのだ。例え死者が出ようと、もう彼らの手を借りることはできない。

「もう、頼れるのは自分達の力のみだ。ヴァンゼ、教導の方はうまくいっているのかい?」

「ああ、安心しろ、連携の課題はクリアできた。もうこの前のような無様はやらかさないさ」

「そうかい、頼んだよ」

これで会話は終わり、本来ならカリアンは山積みとなった案件の処理をしなくてはならない。
だが、彼にはそれよりも優先すべきことがある。都市の責任者としてはあまり正しい行動とはいえないが、それでも彼はまだ20代前半の若者だ。
それにこの程度の案件なら、期限までに片付けることは十分に可能である。
今は生徒会長としてではなく、1人の少女の兄として準備をする。

「見舞いか?」

「まぁ、ね。私だって血が通った人間だ。肉親は可愛いよ」

「それは知っている……お前の暴走に付き合わされたことがあるからな」

シスコンとも呼べるカリアン。
前にレイフォンとフェリのデートの後を付けさせられ、フェリの念威爆雷によって酷い目に遭ったことがあるのだ。
普段は清ましているが、カリアンはフェリのこととなると人が変わるのをヴァンゼは知っている。
あれはあれで新鮮だったが、そんな彼の暴走に付き合うのは二度とごめんである。

「それじゃあ、行って来るよ」

そう言い残して、カリアンは病院へと向かった。
ヴァンゼはそれを見送り、自分の仕事を成すために会長室を後にするのだった。






フェリが倒れた。考えてみれば当然の話である。
フェリには常に汚染獣の探査をしなければならないのだ。でなければ、万が一の時に都市内部への侵入を許してしまうかもしれないからだ。
そうなればまず、一般人が危ない。避難が間に合わないかもしれないし、戦闘で都市内部の施設や建物が破壊されてしまうかもしれない。
だからこそ、長距離に念威を飛ばすことができるフェリに汚染獣の探査をしてもらわなければならなかった。
その上、武芸者を戦場へ誘導、念威による視界や感覚などの補助、それらは一体どれだけの負担を彼女にかけていたのだろうか?
更には私用ではあるが、フェリは常にレイフォンを探していた。何度も念威で探して、その足でもツェルニ中を歩き回ってレイフォンを探していた。それでもレイフォンは見つからない。
今のフェリは肉体的にも精神的にも、一体、どれほどの疲労を蓄積しているのだろうか?

「……兄さん?」

「やあ、目が覚めたかい」

剄脈疲労により倒れ、今まで寝ていたフェリは目を覚ます。
その視線の先にはカリアンがおり、その手には購入してきた見舞いの花束が握られていた。
カリアンは一旦それをベット脇のテーブルへと置き、フェリに優しく笑いかける。
その笑みは生徒会長としての腹の底を伺わせない笑みではなく、妹を心から気遣う、兄としての微笑だった。

「……錬金鋼は?」

だと言うのに妹は、兄の心配を他所にそんなことを言う。
カリアンは少しだけ表情をゆがませ、だけどすぐに優しい笑みに戻して、優しく語りかける。

「医者が預かっているよ。フェリは今までがんばってくれたからね。とりあえず今は、ゆっくりと休むといい」

「そんなわけにはいきません……」

「フェリ」

聞き分けのない妹にも怒鳴らず、優しい声音でカリアンは彼女を案じた。
今のフェリは儚く、そしてとても脆い。
今すぐにでも壊れてしまいそうで、ただでさえ白い彼女の肌は、病的なほどに青白かった。
フェリは言うまでもなく美少女で、良く人形のように綺麗だと言われる。だけど今の彼女は本物の人形よりも人形らしい顔で佇んでいる。
その姿は兄として、胸が締め付けられるほどに心配だった。

「フォンフォンは……見つかりましたか?」

縋るように、フェリが尋ねてくる。
フォンフォンと言うのはレイフォンの愛称だ。フェリがレイフォンのことをそう呼んでいると知った時にはなんとも微妙な表情をしたカリアンだったが、今は別の意味で微妙な表情を作る。
ここで嘘さえつけば、フェリは少しでも休んでくれるのだろうか?
だけどフェリに嘘が通じるとは思えないし、ならば会わせろと言われればお手上げだ。
妹の僅かな希望を踏みにじるようで罪悪感が芽生えるが、カリアンは正直に答えた。

「レイフォン君は、未だに行方不明だ」

「そうですか……」

言葉には力がないが、フェリはそこまで落ち込んだようには見えない。
聞いてはみたが、わかっていたのだろう。レイフォンがまだ見つかっていないことを。
都市警察があれほどまでに必死で捜索し、フェリ自身も隈なくレイフォンを捜したのだ。そう簡単に見つかるはずがない。

「なら、錬金鋼を……」

「フェリ」

ならば今一度、自分で捜す。
そう決意し、錬金鋼の返却を求めるフェリだったが、それをカリアンが名前を呼ぶことで制する。

「今の君には休息が必要だ。生徒会長として、何より君の兄として、それは認めることができない」

「ですが……」

一瞬だけ硬くした表情をすぐに戻し、カリアンは優しくフェリの髪をなでる。兄が妹を慰める行為だ。
普段のフェリならば嫌がり、この手を払い除けそうだが、今の彼女は色々と溜まった疲労でそんな気力もないようだった。
武芸科に無理やり転科させたのは自分とはいえ、ここまでフェリを酷使してしまったことに罪悪感を覚える。

「フェリ……君はその念威の才能を嫌悪していたんだろう?念威繰者以外の道を探していたはずだ。だから、もういい。もういいんだ。この件が終わったら君は好きにしていい。だから、今は休んでくれ……」

この都市を、ツェルニを護るためにフェリの念威の才能が必要だと思った。
フェリのためにカリアンなりに考えての選択でもあったが、カリアンだって生徒会長の前に兄だ。
家族は大切だし、妹は可愛い。だからこんなフェリは見てられず、彼女が嫌がると言うのなら武芸に関わらせるのをやめさせたっていい。
ツェルニを護りたいと言う気持ちは本物だ。だけどそれは、妹をここまで追い詰めてまでしたいものではない。
もう彼女は、限界なのだ。

「ならば、今、好きなようにします」

だけどフェリは、そんなカリアンの言葉を、自分にとっては都合のいいはずの言葉をよしとはしなかった。
どこか虚ろな瞳をしていたが、その眼には固い信念のようなものが宿っている。
それは前まで、彼女にはなかったものだ。

「確かに私は、兄さんの言うとおりこの才能が嫌で、念威繰者以外の道を探していました」

幼いころから圧倒的な念威の才能を持ち、周りから念威繰者になることを期待されていた。
だけどフェリは、自分の将来をこんな才能のために決められるのは嫌だった。欲しくもなかった才能のおかげで、念威繰者以外の道を歩めないと言うのが。
だから一般人として、普通の少女として、それ以外の、念威繰者以外の道を探していた。
だからこそツェルニには、一般教養科として入学したのだ。

「ですが、最近の私は念威に嫌悪を抱かなくなった。嫌だったこの才能が、嫌ではなくなった。それどころか、もっともっと研磨したいとさえ思っているんです。何故だかわかりますか?」

それはフェリの才能を知る者としては嬉しい言葉だろう、彼女が念威繰者としての道を歩もうとしているのだから。
だけどカリアンには、それを素直に喜ぶことができなかった。

「フォンフォンがいたからです……私は、フォンフォンのためだったら何だってできます」

その理由はレイフォンだ。レイフォンはフェリの支えとなっており、彼がいるからこそフェリは念威繰者となることを嫌がっていない。むしろ最近では、積極的に念威の力を使っている。
レイフォン自身も武芸をやめようとツェルニに来たのだが、最近では武芸に前向きだ。
そんな彼を支えたいからこそ、フェリは必然的に、その身にある念威の才能を磨いた。

「私には、念威でフォンフォンをサポートすることしかできません。ですが、それだけはできるんです。だから私は、この才能を磨きたいと思った。フォンフォンの役に立ちたいと思ったんです」

フェリには才能がある。天才と呼ぶにふさわしい才能がだ。
念威繰者と言う才能。念威繰者は知識的に優れている。だからこそ勉学には優れ、努力らしい努力をしたことがない。
裕福な家に育ち、暮らしに苦労したこともない。その才能故に、成しえることができない辛さもしらない。
そんな彼女だからこそカリアンは手放しで外には出すことができず、両親もカリアンがいるツェルニにフェリの入学を許した。
そんな考えがあったからこそ、ツェルニの現状もあってカリアンは武芸科にフェリを入れたのだ。

だけどそのフェリは、既に目的を定め、努力をしている。
料理にまったく興味を持たなかった彼女が、必死になって料理の練習をしていた。その実験(味見)に何度も付き合わされて地獄を見たカリアンだったが、今では上達して食べられるものを、美味しいと思えるものを作れるようになった。
それはとても良い事のはずだ、フェリが1人で巣立とうとしている。兄として、家族として、喜ばしいことなのだが、カリアンは表情を暗くする。

「だから私は……」

「フェリ……」

フェリの言葉を遮るように、カリアンは彼女の名を呼んで手を握る。
ぎゅっと、力強くフェリの手を握った。自分の手が柄にもなく震えているのがわかる。
何故ならカリアンは、そんなフェリの支えを壊さなくてはならないからだ。

「本当はわかっているはずだ……レイフォン君はツェルニにいないと」

「……何を、言っているんですか?」

フェリにはカリアンの言っていることがわからない。
ここはレギオスだ。いや、どこに行こうとも結論は変わらない。
汚染物質に覆われ、隔絶された世界。それが自立型移動都市、レギオスなのである。
人は都市の中でしか生きられない。汚染物質に晒されれば5分で死ぬからだ。大地は乾き、荒廃した世界。そんな世界を唯一移動できるのが放浪バス。
だが、暴走と言うこの現状、ツェルニには放浪バスが訪れていない。なのにどうやってレイフォンは都市の外に出たと言うのだ?
レイフォンがこの都市にいないはずがない。

「君は優秀な念威繰者だ。それだけじゃない。都市警察だって必死になってレイフォン君を捜したさ。それでも彼は見つからない」

いや、違う。理解できないのではない。本当は理解したくなかった。
カリアンの言っていることがわからないのではなく、考えたくもなかった。
レイフォンが殺剄まで使って本気で隠れれば、如何にフェリとはいえ発見は困難だろう。
だけどそんなことをする意味がないし、こんな冗談にしては性質が悪すぎることをレイフォンがするとも思えない。
考えられるのはやはり事故だが、それならその場を動けないはずだ。だと言うのに何故発見できない?

「現実から目を逸らすな。レイフォン君はこの都市にはいない。これは事実だ」

ならばどこにいる?どうすれば会える?
外は汚染物質に覆われた死の世界。出ることは不可能のはずだ。
なのに?

「彼は……」

「っ……!?」

その先は聞きたくなかった。自分の耳を押さえ、ガタガタとフェリは震えている。
最悪の想像をしてしまった。幾度となく考えそうになったが、無理やり考えないようにしていたことを考えてしまった。
最悪の結末、レイフォンの死と言う想像。
そんなことを考えてしまい、フェリの瞳からは涙が溢れて来る。

「そんな、そんなことは……」

ボロボロと、決壊したようにフェリの瞳からは雫が流れてきた。
カリアンは自分自身を忌々しく思いながら、慰めにもならないことを口にする。

「だが、死体が見つかったわけでもない。だけど間違いなく、レイフォン君はこの都市にはいない。だからひょっとしたら、生きている可能性だって……」

そんなわけがなかった。この都市にはいない。移動する手段の放浪バスも訪れてはいない。
ならば都市の外に出て、どうやって生きることができる?
この死の世界で、どうやって他の都市に渡る?
ここまでやって発見できなかったのだ。レイフォンはもう……

「フェリ……」

「……………」

フェリは泣いている。カリアンの呼びかけに答える余裕なんてない。
彼女を泣かせたカリアンは罪悪感に押しつぶされそうになるが、こうしないわけにはいかなかった。
フェリが希望を持つ限り、事実を受け入れない限り、何度だってレイフォンを捜そうとするだろう。
無駄だとわかっているのに、またも念威を酷使する。そうすれば今度は彼女の身が危ない。
今でも十分にドクターストップの域だ。剄脈疲労とはいえ、無茶をすれば剄脈を壊して障害が残る可能性がある。場合によっては、命を落とすかもしれない。
だからこそカリアンは、フェリに諦めさせる必要があった。無駄だと、はっきり言う必要があった。
強引すぎる手だったが、これでフェリが少しでも休んでくれるのなら悪魔にでもなろうと決意した。その結果、フェリが泣いている。
泣くどころか表情の変化が乏しかった彼女が、レイフォンがいなくなってこうも涙脆くなってしまった。
そんな彼女にかける言葉が見当たらず、カリアンはテーブルの上に置いた花束へと視線を向ける。

「花を生けてこよう。フェリ……」

フェリに声をかけるが、カリアンの言葉にはまったく反応しない。
それも仕方のないことだと思いながら、カリアンは花瓶と花束を手に部屋を出る。
今は少しの間でも1人にするべきだと思ったのだろう。
花瓶に水を入れるべく、カリアンはフェリの病室を後にした。




「フォンフォン……」

信じられなかった、信じられるわけがなかった。
だけどカリアンが言ったことの信憑性は高い。自分でも何度もそう考えそうになったが、その度にことごとく否定してきた。だと言うのに、今は否定できない。

「フォンフォン、フォンフォン……」

ここにはいない、愛しい人の名を呼ぶ。
いつも自分に笑いかけてくれて、自分を護ると決意してくれた強くて優しい恋人。

「フォンフォン……」

声を聞かせて欲しかった。姿を見せて、抱きしめて欲しかった。
そうしてくれれば、この不安はすぐさま飛散するだろう。だけど、それは無理な話だった。レイフォンはここにはいないのだから。

「うっ、う……」

涙が止まらない。思考が麻痺してくる。
どうすればレイフォンに会える?
どうすればこの悲しみと不安から解放される?
フェリは視線をさ迷わせ、テーブルの上の果物と果物ナイフへと視線を向けた。

「フォンフォン……」

フェリのお見舞いの品だ。
そういえばとフェリはレイフォンが怪我で入院した時のことを思い出す。あの時、自分が剥いた果物を差し出したらレイフォンは呆れていた。
料理の腕は上達したフェリだが、未だに不器用で野菜や果物の皮剥きで、指を切ってしまうことがある。
だから危ないからと、そういうことはあまりレイフォンがやらせてくれなかった。
そんなことを思い出しながら、フェリはその手に果物ナイフを手に取る。

「フォンフォン……フォンフォン……」

果物ナイフを見つめる瞳はどこまでも虚ろなものだった。
レイフォン以外のことを考えられずに、そして最悪の想像から思考は鈍り、冷静な判断など下せるはずがない。
どうすればレイフォンに会えるのかを考え、どうすればこの悲しみと不安から解放されるのかを考える。

「こうすれば……会えますか?」

そんなフェリが考えた結論は……






「フェリ」

カリアンがノックし、病室の扉を開ける。
その手には生けてきた花がある。
病室が静かで、泣き声が聞こえなかったことから少しは落ち着いたかと考えるカリアンだったが……

「え……?」

この光景を見て、カリアンは絶句した。
持っていた花を落とし、花瓶の割れる音が響き、花と水、花瓶の破片が床にぶちまけられる。
だけどそんなことを気にする余裕はなく、カリアンの瞳はベットで横たえるフェリの姿を捉え、寸分たりとも視線を逸らさせない。
何故ならフェリは右手に果物ナイフを握り、それで左手首を……

「うわああああああああっ!?」

カリアンが絶叫を上げる。
すぐさまフェリの元へと駆け寄り、左手首を確認した。
手首は切り裂かれ、血がどんどんと溢れて来る。それはベットのシーツと、フェリの服を赤く染めていた。
フェリは未だに意識があるようで、虚ろな視線をカリアンへと向けてくる。

「フォンフォン……」

カリアンの姿を見て、そうつぶやいた。
まるで、レイフォンが本当にここにいるかのように。

「フォンフォン、フォンフォン、フォンフォン、フォンフォン、フォンフォン」

一心不乱にレイフォンの名を呼び、フェリはカリアンに抱きついてくる。
カリアンの服も赤く染まるが、そんなこと気にしている余裕なんてない。
今のフェリは、幻覚を見ている。ここにレイフォンがいる幻覚を。

「いったいどうしたんです……きゃああ!?」

看護師が花瓶の割れる音と、カリアンの絶叫を聞きつけて病室へやってきて、すぐさまカリアンと同じような絶叫を上げる。取り乱し、慌てて走って医者を呼びに行った。
カリアンは自分に抱きついてくる、虚ろな瞳の少女を見て理解した。

「フェリ……」

もうフェリは手遅れだった。そして自分が、止めを刺してしまった。
彼女はレイフォンに依存してて、もはやなくてはならない存在となっている。そんなレイフォンがここにはいない。ならばフェリは壊れるしかない。

「フォンフォン……」

フェリは安心したのか、ゆっくりと意識を失っていく。その瞳には、ここにはいないレイフォンの姿を映して。
そんなフェリを、カリアンはただ抱きしめることしかできなかった。




































あとがき
フェリが壊れました(滝汗
ヤンデレと言う以上、こういう展開は前々から考えてたんですけど、どうなんでしょう?
個人的にヤンデレを勘違いしてないかな、なんていう不安がありつつ、こんな展開に。
次回はレイフォンサイドを予定してますが。ついにあの、アニメに出た意味はあったのかと言われている卒業生の方が登場する『予定』です。
あくまで予定なので、場合によって変わるかもしれませんが……

そしてオリキャラ出しちゃいましたw
オリキャラはなんだかんだで書くの面白いですね。ロリバーとかも個人的に書いてて面白いんですが。
しかし、錬金鋼の義足とかありなんでしょうか?
作中ではサヴァリスの言っているとおり、ティグリスの前の天剣授受者が骨まで錬金鋼にしてたから可能だとは思うんですが……
そんなことを不安に思いつつ、これからも更新を頑張りたいと思います。では!


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