「本当に1人で来てくれたんですね」
「……はい」
放課後、錬金科の近くにある公園で2人の少女が向かい合う。
1人は、銀髪に整った容姿の小柄な少女、第十七小隊念威繰者で生徒会長の妹、2年生のフェリ・ロス。
もう1人は黒髪で、おどおどとした態度が小動物を思わせる可愛い系、一般教養科でレイフォンのクラスメイト、メイシェン・トリンデン。
互いにある少年に想いを寄せており、ここ最近は一緒に昼食を取る仲、友人と言う関係の彼女達なのだが、その雰囲気はとても殺伐としたものだった。
いや、殺伐としているのはフェリだけで、メイシェンはびくびくと怯えているのだから。
どうしてこうなってしまったのだろうと、メイシェンはこれまでの経緯を思い出す。
考えるまでもない。自分が、正確にはミィフィが天剣授受者について尋ねたからだ。
誤配で送られてきたリーリンの手紙に『天剣授受者』と言う単語が書かれており、メイシェンはそれが気になったのだ。
自分が知らないある少年、レイフォンのこと。
想いを寄せる相手のことなら知りたいと思うのは当然だし、知って、もっと近づきたいと思った。
自分の知らないレイフォンのことを知っているリーリンのことを妬み、その存在を恐れ、知らないと言う差を埋めるためだけに知りたい。
そんな自分でも呆れるほどに醜い理由でレイフォンのことを知りたがり、ミィフィの週刊ルックンの取材に付いて来て、天剣授受者がなんなのかと聞いてしまった。
だからこそ、今、このような状況に置かれている。
朝、学校に来ると机の中にフェリからの手紙が入っていたのだ。
『2人だけで話したい事がある』と書いてあり、時間と場所が指定されていた。
それ故にメイシェンは1人でここに来た。念威繰者であるフェリに嘘なんてつけるはずがない。
その気になればこの公園の虫の数を正確に数える事ができるのが念威繰者だ。ナルキやミィフィがそんな念威繰者(フェリ)相手に隠れていられるわけがない。
「……もしかしたら、来てくれないかもしれないと思っていました」
「本当は、そうしたかったです」
手紙を机の中から出した時点で、ナルキとミィフィにはばれた。
それ故に手紙の中身は3人で読み、その結果、ここにメイシェン1人で来る事に決まったのだ。
ミィフィは付いていこうと最後まで言っていたが、それをナルキが反対した。
「瀬戸際だよ。ここで約束を守らなければ、手を伸ばすこともできなくなる。そういう気がする」
ナルキの言うとおり、それは瀬戸際だった。
実際、教室で会ったレイフォンはいつもどおりに振舞っていてはくれたが、明らかに無理をしている雰囲気が伝わってきた。それが辛い。
手を伸ばす事ができなくなるのは嫌だ。これでレイフォンとの関係が終わってしまうのは嫌だ。
あの背を見ていたい。
そして何より、フェリを前にして逃げ出すわけには行かない。
たぶん、ツェルニで一番レイフォンに近い女性。
いつの間にか一緒に昼食を取る仲となり、知人とも、友人とも言えるが、メイシェンにとって一番の強敵。
ミス・ツェルニであり、週刊ルックンでは一度レイフォンとの仲を取り上げられたこともあるほどだ。
そのことにショックを受けたメイシェンだが、ナルキと、記者であるはずのミィフィもルックンは根も葉もない噂を記事にするからと慰められていた。
レイフォン本人とフェリには確認を取っていない……答えを聞くのが怖かったからだ。
「単刀直入に言います。昨日のあの言葉は、忘れてください」
昨日、取材の時にミィフィが天剣授受者と言った瞬間、気温が一気に下がった気がした。
ミィフィの質問は爆弾だった。その爆発は巨大な亀裂を作り、明確に第十七小隊とメイシェン達を分けた。
フェリ達は知っている。天剣授受者がなんなのか、それがレイフォンとどう言う関わりを持っているのかを。
メイシェンは知らない。
その差が、この瞬間にはっきりとわかってしまった。それがとてつもなく悲しく、そして悔しい。
「……どうして、ですか?」
「あなた達には関係のないことですし、フォンフォンに余計な負担をかけたくないからです」
「……でも」
知りたい。レイフォンに近づきたい。そう思ってしまう。
フェリの言う言葉ももっともだが、忘れる事でレイフォンに近づく事ができるのか?
それは違う。よりいっそう距離が離れてしまう。そんな気がする。
「興味本位で他人の過去を暴くのが楽しいですか?」
それを言おうと、口を開こうとした瞬間に、フェリにそう言われてしまった。
「……違います」
「でも、あなた達がしていることはそういうことです。知る必要のない他人の過去を暴いて、自分の気持ちだけを満足させる。それで一体、その先でどうするつもりなんですか?」
そんなことはわかっている。自分がどれだけ醜いことを考えているのかなんて。
レイフォンの秘密を知っているリーリンやフェリ達のことが羨ましく、その差を埋めたいがために自分は知りたいと思っている。
レイフォンに対する迷惑なども考えずにだ。自分でも嫌になるくらいに醜く、自分勝手だ。
「……満足できると思っているわけじゃないです」
でも、それでも、
「それでも、知りたいんです。知ればどうなるかなんてわかりません……考えると、怖いです。なんで、そんなに秘密にしてるのか、それを考えるととても怖いです」
知りたい。引きたくない。忘れたくない。
「……どうしてですか?」
フェリの問いかけにメイシェンは思う。
知れば気持ちが変わるかもしれない。メイシェンの中にあるレイフォンへの気持ちが変わるかもしれない。
それが怖い。怖くて怖くて仕方がない。
掌を返したように自分の気持ちが変わったとしたら、メイシェンはもっと自分が醜くなってしまったように思うだろう。
今のままでも、嫉妬でたまらなくなる。自分の知らない事を、第十七小隊の面子は、フェリは知っている。知っていて、その上でレイフォンのことを仲間だと思っている。
そのことが悔しい。
今では武芸を続ける事に迷いのないレイフォンだが、当初はその武芸をやめようとすらしていた。
武芸科ではなく、一般教養科としてこのツェルニに入学したのだ。
何故、レイフォンは武芸をやめようとした?
あんなに強いのに。小隊員最強と呼ばれるほどに、ナルキの話では熟練の武芸者相手に圧倒できるほど強いと言うのに、なんでレイフォンは武芸をやめようとしていた?
それは天剣授受者と言う言葉に関係があるのか?
もしそうだとしたら、メイシェンはレイフォンの未だに癒えていない傷に触れようとした事になる。
「どうして、それでも知りたいんですか?」
「私は……」
それでもメイシェンは引かない。
おそらくレイフォンには気軽に人には話せない、重たい過去がある。
それを知った上で、第十七小隊の者達はレイフォンを仲間として扱っている。守ろうとしている。
それがとてつもなく悔しく、妬ましい。
まるで、レイフォンの輪の外側に弾き出されてしまったようだから。
「私は……」
声が震える。
だが、それは嫌だから、輪の外側に弾き出されるのが嫌だから、メイシェンは言い切る。
「……私は、レイとんが好きなんです……好きでいたいんです」
メイシェンはレイフォンのことを知りたい。
だけど知ってしまえば、現状の関係性が壊れてしまいそうで怖い。
教室で何気ない会話を交わしたり、一緒に昼食を取れなくなるのが怖い。
だが、だからこそこの気持ちは自分の中だけで終われない。レイフォンが関わってくる。
だけどレイフォンには一方的なことで、自分の我侭でしかいない。
確かにリーリンやフェリ達との差を埋めたいと思った。だが、レイフォンの過去を知ろうとするのは、レイフォンのことを深く知りたいからではない。
そんな気持ちもあるのだろうが、メイシェンは試したいのだ。レイフォンの過去を知っても、自分はレイフォンを好きでいられるのか?
醜くないのかを。
壊れる事に怯えながら、それでも自分の気持ちが真正のものなのかどうかを知りたい。
「そうですか……試さなければ自分の気持ちに自信が持てないんですか?」
「……はい」
レイとんが、レイフォンの事が好きだと言い、好きでいたいと言ったメイシェンに厳しい視線を向けつつ、フェリは尋ねる。
その問いに、メイシェンは何とか頷いた。
「……おっかなびっくりにつま先で地面を確かめながら歩くようなやり方ですね。一歩先のことしか考えてない。その先になにがあるのかまるで考えてない。賢いやり方ではありませんね」
「……う」
知ろうとする事でレイフォンがメイシェンをどう思うか……フェリはこのことが言いたいに違いない。
そして、その結果が今日のレイフォンだとしたら……
「これは忠告です。昨日のあの言葉は、忘れてください」
もう一度同じ言葉を、フェリはメイシェンに言う。
冷め切った声で、刺すような視線をメイシェンに向けた。
「あなたがどうなろうと構いませんが、結果的にフォンフォンを傷つけるようなら……私はあなたを許しませんよ」
メイシェンが知ろうとしていることは、そう言う事だ。
一歩間違えれば、レイフォンを追い詰めかねない。傷つけかねない。
そんなこと、フェリは許さない。させるわけには行かない。
「……………」
メイシェンは答えられなかった。
視線を落とし、俯く。『嫌です』と一言言うだけでいい。
レイフォンを傷つけるつもりはないが、だからと言って引くつもりは、忘れるつもりはない。
だと言うのに言えない。フェリの顔を正面から見ることが出来ない。
ただ黙って、下を向いていることしかできなかった。
「いいですね?」
そう言って、フェリは背を向けて去って行く。
その様子を見送る事ができずに、メイシェンは地面を見つめているだけだった。
「到着」
「ありがとうございます、オリバー先輩」
「なに、気にすんな。第十七小隊には前回の件では世話になったからな」
大荷物を積み、技術科から借りてきた、オリバーの運転する車は農地の一区画を訪れていた。
果樹園を抜け、養殖湖が近くにある農業科の扱う農地。だが、今は農閑期で使用はしていないらしい。
そんな辺り一面、平野の大地にポツリと建っている一軒家がある。本来は農業科の者達が泊り込めるように設けられた宿舎だ。
今回、レイフォン達第十七小隊はこの土地と宿舎を利用する。
「すまんな、オリバー」
「いえいえ、これくらいならお安い御用ですよ」
車に詰まれた荷物を宿舎に運ぶ中、ニーナに声をかけられてなんともないようにオリバーは返答する。
オリバーやレイフォンにて室内に運ばれているものは、訓練の機材や宿泊用の衣類、食材などだ。
その理由、目的は合宿。
色々あり、正式にナルキも加入したためにニーナの提案で合宿を行うことになったのだ。
そのこと自体は廃都の調査のころから計画し、セルニウム鉱山での補給期間中を予定していたのだが、前回の違法酒騒ぎで中止となってしまったのだ。
そのため、本来なら文武両道が主義のニーナは授業をサボるのをよしとしないが、次の試合相手はツェルニ最強と名高い第一小隊。
さらには、正確にはわからないが武芸大会も間近へと迫っている。
それ故に、是非とも合宿を行いたい。
授業についてもニーナが事務課で申請し、第十七小隊は授業の一環として合宿が出来るようになったために授業をサボらなくともよい。
ただ、日程は二泊三日で休日をはさんでいたため、なにやらシャーニッドが愚痴っていたがニーナはそれを無視した。
なんにせよ、そう言った経緯でレイフォン達はここにいる。
荷物を運び込み、まずは準備をしていた。
「それにしても、大きいですね」
「ああ。ここは農業科の人達が泊り込むときに使う場所だからな。20人くらいは寝泊りできるようになってる」
「凄いですね」
「ここら辺一帯でツェルニの食糧を賄っているんだからな、広くもなるさ。こういう施設は生産区のあちこちにある……こっちだ」
かなり大きな宿舎に驚きつつ、レイフォンはニーナの説明と案内でキッチンへ向かい、持って来た食材を冷蔵庫へと仕舞う。
その作業後、レイフォンは持ってきた荷物を割り当てられた部屋へと運ぶ。
一応、1人一部屋を与えられており、レイフォンは荷物を置いた後オリバーの元へと向かう。
「おう、レイフォン。これはどこに置けばいいんだ?」
「あ、それは外にでも出しててください。どうせすぐに訓練で使いますし」
「了解、っと」
練習機材を運び、レイフォンの指示通りの場所に置く。
その作業で一段落を付き、汗を拭ってオリバーは小さく息を漏らした。
「ふぅ……それにしてもお前達も大変だな。合宿って言うが、お前みたいな奴が合宿で学ぶようなことなんてないだろ?」
「そうでもないですよ。やっぱり集団戦で一番大切なのはチームワークですからね。こうやって一緒に練習するだけでためになりますし、こういったことはグレンダンにいたころ体験したことがなかったので、結構楽しみなんです」
チームワークや連携の建て前はさておき、レイフォンは合宿などと言った事をしたことがない。
武芸は養父であるデルクに教わったが、そもそも孤児院で経営ギリギリの道場が合宿などと言う金がかかるイベントを行えるはずがなく、また天剣授受者になってからは、合宿などせずとも最高の鍛練場を与えられる。
それに、天剣授受者が皆揃って合宿をやると言うのも、シュール過ぎてあまり意味はない。
例外を除けば天剣授受者が共に戦う事はなく、基本は単騎なのだ。
中にはコンビを組んで戦う天剣授受者もいるが、それは例外の部類である。
レイフォンも例外として、老生六期の汚染獣に天剣授受者3人がかりで挑んだ事はあるが、アレとて到底連携やらチームワークと言った言葉は程遠い。
なんにせよ、少々本題がずれたが合宿はレイフォンにとって初めてであり、どこか期待し、わずかに胸を高鳴らせていた。
「まぁ、それはいいけど……ところで、ミィフィさんは来ないの?」
「来ませんよ。今日は普通に平日じゃないですか。って言うか、オリバー先輩は授業に出なくていいんですか?」
「いいんだよ、サボったから。ってかマジ!?ミィフィさん来ないの?ああ……授業出ればよかった」
「いやいや、最初からそうしてください」
休日を挟んで行うこの合宿だが、今日は本来なら授業の日程だった。
第十七小隊の面々はニーナが手を回し、ナルキも正式に第十七小隊に入隊したので参加、メイシェンは料理を担当してくれると言うことなのでこれもニーナが手回しをし、合宿に参加できるようにしたのだ。
いつもミィフィと一緒にいるこの2人が参加するとのことなので、必然的にミィフィもくると思ったオリバーはだからこそ無断で授業をサボり、無償で手伝ってくれたのだが、当てが外れてがっくりと肩を下ろす。
「でも、手伝ってくれて助かりましたし、隊長も後で話を通してくれると思いますから」
「そんなことはどうでもいいんだけどさ……」
オリバーが手伝うと申し出たのは当日であり、いきなりだったのでニーナも話を通す暇はなかったが、後日、こう言う理由で授業を休んだと報告すれば欠席にはならないだろう。
だけど、オリバーは普段から徹夜作業などで授業をよくサボるのであまり意味はなかったりする。
「ま、せっかくだし今日は最後まで付き合うか。バイトは休みだから暇なんだよ」
「あ、ありがとうございます……」
ならば授業に出ろと思いつつ、笑顔を引きつらせ、レイフォンは苦笑するようにオリバーに礼を言う。
「レイとん、ちょっといいか?」
「あ、ナルキ。なに?」
レイフォンはナルキに呼ばれ、彼女と共に去って行く。
おそらくは、合宿の荷物を運び込むための手伝いに呼ばれたのだろう。
取り残されたオリバーは少し休憩をしようと、ロビーに当たる部屋に置いてあったソファに腰掛ける。
「さてと、一休みしたら作業を再開するか」
伸びをし、独り言を漏らしながら宣言した。
「今……なんて?」
合宿の3日ほど前、メイシェンはナルキによってとんでもないことを聞かされてしまう。
ここは彼女達が暮らす寮のキッチンだ。
3LDKで、それぞれの部屋の中央に位置するようにロビーがあり、その奥にキッチンがある。
そのキッチンで夕食の支度をしていたメイシェンは、ナルキに確認を取った。
「うん、昨日言ったけど小隊で合宿があるんだ。そこで料理の担当にメイを推したから。もう決定かな?」
「ま、待って……」
ナルキは当たり前のような顔をして野菜の皮むきをしているが、メイシェンにはそれどころではない。
要は店も何もないところで合宿を、つまりは自給自足をやるのだが、料理を担当するレイフォンも合宿に参加するため、大変だろうからとナルキはメイシェンを推薦した。当初はニーナの友人がやるはずだったらしいが、それが駄目になったらしい。
その旨を聞かされ、メイシェンはエプロンの胸の辺りをぎゅっとつかんだ。
「私が……?」
「他に誰がいるのさ?ミィを呼んだって話にならない」
話題に出たミィフィは、現在部屋にこもってバイト先で任された記事を書いている。
そもそも小隊の食事を任されるほどの腕を持つのは、子の3人の中ではメイシェンしかいない。
ナルキも簡単な料理はできるが、メイシェンとは比べるまでもない。
「でも……」
「授業の方は隊長さんが話を付けてくれるらしいから、欠席にはならないそうだぞ」
「あう……」
逃げ道を封じられ、メイシェンは呻くように肩を落とした。
「なんで?こういう機会は滅多にないと思うぞ?」
メイシェンの態度に、ナルキが首を傾げる。
確かにメイシェンを推薦したのはレイフォンが大変だろうと思ったからでもあるが、別の狙い、意図がある。
それは彼女の親友、メイシェンが想いを寄せる相手、レイフォンのことだ。
レイフォンが参加する合宿に、メイシェンも連れて行こうというナルキなりの気遣い。合宿と言うイベントによって2人の距離が縮まるとはいかなくとも、触れ合わせようという考えがある。
「でも、だって……いきなり……」
「いきなりって……別にレイとんと2人っきりになるわけでもないんだし」
「それは。そうだよ」
2人っきり……ナルキにそういわれたとたん、メイシェンの頬が熱くなる。
それを誤魔化すように、メイシェンは否定するように言った。
「まぁ、2人っきりになるチャンスはあるだろうけどね。レイとんは料理ができるからな。それにあの性格だ。絶対に手伝うって言うね。他の連中は駄目らしいし……」
「え……うあ……」
ナルキはそう言うと、スティック状に切った野菜を1本取って齧った。
対するメイシェンは、顔を真っ赤に染め上げる。
「だから、そんなに上がる必要はないって」
「でも、でも……」
「大丈夫だって。何も一日中一緒なわけじゃないんだから。訓練もあるし」
内気なメイシェンは慌てふためき、それをナルキが宥める。
それが効いたのか、メイシェンは少しだけ冷静になれた。
「でも、いいのかな?邪魔じゃない?」
「邪魔じゃないからこうして言ってるんだ。料理をメイに担当してもらえるなら、レイとんも助かるだろうし、食事のことをあたしらが心配する必要もなくなるわけだし」
「そっか……」
だんだんと、メイシェンの中で自分の立ち位置がハッキリしてきた。
料理を作る。ただそれだけのことだ。そして、何時もやっていることだ。
それでレイフォン達の合宿の手伝いをすればいい。それだけのことで、何か特別なことをするわけではない。
ただ、心の準備がまだできなかった。
「ご飯を作ればいいんだね?」
「最初からそう言ってるじゃないか」
確認を取り、心の準備をするメイシェンにナルキが苦笑して頷いた。
「あまーいっ!」
が、そこに乱入者が現れる。
「ミィ……話がややこしくなるから、大人しく待ってろ」
「うわっ、ひど!なにその扱い?断固抗議します」
乱入者にうんざりして、めんどくさそうに言うナルキ。
その扱いにミィフィは頬を膨らませて文句を言った。
「いいから。これやるから、大人しくしてろ」
「子ども扱い!?でももらう……そうじゃなくて」
しっかりとナルキにもらった野菜スティックを齧りつつ、ミィフィは叫んだ。
「それだけで終わらせてどうするのよ?思いっ切りチャンスじゃん」
「チャンスがって、なにがだ?」
「天剣なんとかってのこと」
ミィフィが言ったその言葉に、メイシェンは胸が締め付けられた。
思い出されるのは先日の出来事。
フェリとの相対。そして、いつもどおりではいてくれたが、どこか無理をしていたレイフォンのこと。
ミィフィの言う天剣なんとか、天剣授受者と言う話題は、気軽に聞いていい類の話ではない。
だが、それでも気になる。
天剣授受者と言うのは、武芸者としての称号か何かだろう。
都市によっては、優れた武芸者にそういった称号を贈ることがあるし、それはメイシェン達の故郷である交通都市ヨルテムにも、交叉騎士団という称号、地位があった。
その交叉騎士団に入ることが優れた武芸者の証明で、ヨルテムの武芸者はみんなそれを目指す。
おそらく、天剣授受者もそれと同じようなものなのだろう。
レイフォンのことを強いと思っているメイシェンにとって、そんなだいそれた称号を与えられていても驚かない。いや、メイシェンだけではない。
ナルキだって、ミィフィだってレイフォンが学生武芸者に比べて圧倒的に強い事を知っている。
実際にナルキは見ているのだ。熟練の武芸者5人をレイフォンが圧倒するところと、この間の対抗試合で小隊員4名を瞬殺するところを。
それ故にレイフォンの強さは知っている。だけど、それならどうしてレイフォンはツェルニにやってきたのか?
優れた武芸者と言うのは、汚染獣の脅威に怯える都市としては外に出したがらない。
いくら武芸の本場グレンダンとはいえ、天剣授受者と言う称号を持つかもしれない人物を都市の外に出すとは考えられない。
ならばどうして?
一度その事を、天剣授受者の事について聞き出そうとしたメイシェン達だが、言うまでもなく結果は失敗に終わった。
あの時はこれでレイフォンとの関係が終わってしまうのかと不安になったが、そうはならなかった。だけど、あの時と々失敗はしたくなく、ずっと聞けないでいた。
それに、フェリからの忠告もある。
「そのことはもういいだろ」
うろたえるメイシェンを庇うように、ナルキが顔をしかめて言った。
「誰だって話したくないことのひとつやふたつあるだろう?話しても構わない事なら、レイとんはもう話してくれるはずだ」
「それも一理あるね。けどさ……そうやって内緒ごとにされてるの知ってて、これからもうまく付き合えるわけ?」
「む……」
ミィフィの言葉に、ナルキが唸る。
確かにナルキの言葉には一理あるだろう。
話さないと言うのは、レイフォンが話したくないと思っているからだ。気軽に話せることではなく、秘密にしたいからだ。それを無理に聞き出すのはよくはない。
だが、ミィフィのその言葉にも一理はあった。
秘密を持ったままで、これまでと同じようにやっていけるのか?
「知ってんだよ。この前の試合が終わった後さ、ナッキはなんか考えてたよね?あれって、レイとんが関わってんじゃないの?」
「そんなことはない。それに、もしそうならあたしはそれを言わないとミィ達に信用してもらえないのか?」
言葉では否定するが、流石は付き合いの長い幼馴染だと内心で感心する。
ナルキが考えていたのは、前回の第十小隊との試合の事。
廃貴族などと言う訳が解らず、そう簡単には話せない内容のことや、サリンバン教導傭兵団。
そして直接の戦闘はなかったが、学生武芸者を未熟と言っていた傭兵団の団長、ハイアがどことなく意識していたレイフォンのこと。
この時、ハイアはレイフォンにこう言ってはいなかったか?
『元天剣授受者』
『グレンダンに戻れない』
このふたつの単語を。そしてハイアは、間違いなくレイフォンのことを知っている。
もっとも、それはグレンダンと深い関わりを持つサリンバン教導傭兵団だから、グレンダン出身で、特別な地位を持っていたレイフォンのことを知っていてもなんらおかしくはないのだろうが。
「話せることなら話しているでしょ」
「ほれ見てみろ。それを、どうしてレイとんにも適用できない?」
「そんなの当たり前じゃん。私とナッキと、私とレイとんじゃ、関係性の土台が違うもん」
「なにが違う?」
深くを聞いてこないミィフィに感謝しながらも、それを何でレイフォンにもできないのかナルキは尋ねる。
それに対し、ミィフィは当然の様に返答した。
「私は、ナッキがおもらしして泣いてることとか知ってるもん」
「なっ!」
いきなりの言葉に、ナルキが昔のことを思い出してか顔を真っ赤に染め、うろたえていた。
「な、泣いてなんかいないぞ!それに、そもそもあんなことは1回だけで……」
「泣いてました~。全身プルプルさせて泣くの我慢していただけじゃん。目にびっちり涙溜めてさ。ああ、今でも鮮明に思い出せる。あの時のナッキは……」
「やめんか!」
怒鳴るナルキと、それをおちょくるミィフィ。
メイシェンにはそれを見ていることしか出来ず、あうあうと唸っていた。
ナルキに捕まり、首を締められたミィフィは、締めている腕を叩きながら叫んだ。
「って言うか!そんなことを言いたいわけじゃなくて、私らはそれぞれ、ちっさい時から知ってるわけじゃん。そんなんなのに今更隠し事のひとつやふたつされたって、根っこを知ってるから信じられるわけ。でも、レイとんは違うよね。レイとんのことを私らは知らない。ツェルニに来る前の事とか、全然。だから知りたいんじゃないわけ?気になるんじゃないわけ?」
「む……」
その言葉にナルキが反応し、動きが鈍る。その隙にミィフィは腕から逃げ出した。
「とにかく、レイとんのことを知りたかったらグレンダンでのレイとんも知ってないといけないんじゃないのって言いたいわけ。以上、終了!お腹が空いた!」
言いたいことを言い、ミィフィはそのままキッチンを出て行った。
「……まったく、あいつは好き勝手なことを言う」
その言葉に思わず納得してしまいそうになったが、それを口から出たでまかせだと判断し、ナルキは未だに顔を赤くしながらリビングに消えて行ったミィフィへと視線を向ける。
「メイ、気にしなくていいんだからな」
「……うん」
だけど、ミィフィが言う言葉も正しくはあった。
ツェルニに来てまだ半年ほど。レイフォンと出会ってまだ半年しか経っていない。メイシェンはまだ、半年分のレイフォンのことしか知らない。
レイフォンが育ったグレンダンのことなんて、何も知らないのだ。
だからこそ気になる。そして知りたい。
その時間を共に過ごしたであろうリーリンという女性に嫉妬し、事情を知っているフェリ達に嫉妬する。
なぜなら自分はレイフォンのことが好きなのだから。好きだからこそ、その相手のことをもっと知りたい。
(でも……これってわがままなのかな?)
だけど、その不安が拭い去れない。
自分の我侭で、都合によってレイフォンの過去を暴こうとしている。このことにおいては、先日フェリに忠告されたばかりだ。
フェリは言った。『あなたがどうなろうと構いませんが、結果的にフォンフォンを傷つけるようなら……私はあなたを許しませんよ』と。
別にレイフォンを傷つけるつもりはない。だが、結果的にそうなってしまうのだとしたら?
でも、それでも……
考え事をしながら調理をしていたメイシェンは、その所為か夕食の味付けに少し失敗した。
ナルキやミィフィは気づいていたようだが、特に何も言わなかった。
(これは信頼?それとも同情?)
よくわからなくなりつつ、メイシェンは力のないため息をついた。
そんなやり取りがあり、メイシェンは今、ここにいる。
建て前では料理の担当として合宿の手伝い。
ただ、ミィフィの言うとおりに天剣授受者について聞くかどうか……それについて頭を悩ませていた。
初日と言う事もあり、その日の訓練は簡単に済んだ。
錬武館のような訓練室はないので、当然野外での訓練になる。
日が沈めば辺りには建物から零れる電灯以外に、照明になるものはない。故に暗闇での乱取りを暫くして、終了となった。
その日の夕食、
「うめっ!」
「マジうまっ!!」
メイシェンが用意した夕食は好評であり、シャーニッドとオリバーががっついている。
授業をサボったオリバーも訓練に協力したため、そのまま夕食をご馳走になっている。
明日は休日だし、このままここに泊まる予定だ。
「あの……お代わりもありますからたくさんたべてくださいね……」
「お代わり!」
「は、はい……」
おどおどとしたメイシェンに言われ、さっそくオリバーが食べ終えた食器を差し出す。
その声量に驚いたメイシェンだが、返事を返してオリバーの食器に料理をよそった。
人見知りをする彼女なのだが、おいしそうに料理を頬張るオリバーや他の一同の姿を見てほっとする。
そして何より、レイフォンもおいしいと言ってくれたのが嬉しかった。
「お代わり!」
「いやはええって。お前どんだけ食うんだ?」
再びお代わりを要求するオリバーにシャーニッドが軽く突っ込みつつ、シャーニッド本人も空になった食器をメイシェンに差し出す。
そんな風に、騒がしくも楽しい夕食は終わった。
「Bの6周辺に念威端子」
その後は大広間で暫く雑談し、今はニーナとシャーニッドが指揮官ゲームと言うボードゲームをしている。
なんでも戦術思考の育成のために武芸科が開発したものらしい。
それをなんとなく、レイフォンとフェリは眺めていた。
「残念、な~んにもなし」
「なんだと?くそ……終了だ」
このゲームはマスで分けられた盤上に駒を配置し、敵の駒の動きを読みながら自分の駒を動かし、敵の指揮官を倒すゲームだ。
それぞれに独自の盤があり、相手の盤上が見えないように作られている。
背中合わせにニーナとシャーニッドは座り、床に置かれた盤上にそれぞれの駒を配置し、動かしていた。
「んじゃ、俺ね。Eの3に念威端子」
「……Eの2に前衛1体」
念威端子と言うのは念威繰者の駒の能力であり、相手の盤を探索することができる。
念威端子を飛ばした近辺に敵がいなければ無駄に終わるが、この様に発見できれば有利にゲームを進められる。
「ういさ、狙撃……っと」
シャーニッドとニーナがお互いに六面ダイスを振り、結果を言い合う。
狙撃が成功するかどうかは、ダイスの出た面によって決まるのだ。
「よし、かわしたな」
「甘い、もう一回狙撃」
「なっ…………くそっ」
その結果、かわした事に安堵するニーナだったが、今回シャーニッドとやっているゲームは駒の構成自由(フリールール)。
一度狙撃をかわしたからと言って、念威繰者2,3体、残りは全部狙撃手と言う現状油断はできない。
あまりに極端で偏ったシャーニッドの構成だが、それが驚くほどにはまり、まさにやりたい放題。
再びのダイスの振り合いの結果、ニーナは渋い顔をして盤上から前衛の駒を外した。
「うい……終了」
「私だな。なら……」
2人は駒を動かし、念威端子で相手の駒を探し出し、狙撃、または近くの駒で攻撃をしていく。
が、主に攻撃をしているのはシャーニッドだけで、面白いようにニーナは狙撃で駒を潰されていく。
そのまま、始終シャーニッドの優勢でゲームは進み、シャーニッドの勝利に終わった。
「えーい……くそっ」
「だ~から、フリールールで通常構成の小隊組んだってしかたねぇって言ったろ?念威繰者が2か3、残り狙撃手でやりたい放題ができるんだから」
盤上を睨んで次の作戦を考えているニーナに、シャーニッドはダイスを弄びながら悠々と声をかけた。
「うるさい、ちょっと黙ってろ」
「次はちゃんと構成決めてやろうぜ」
「いや、もう一度同じ構成だ」
「そっちが勝つにはダイス運に頼るしかないぜ?」
それに反発するニーナに、シャーニッドはやれやれとボヤキながらも駒を並べる。
むきになったニーナが頑固で、人の話を利かないのをよく知っているからだ。
そしてもう一度、先ほどと同じ構成で戦い、当たり前のようにシャーニッドが勝った。
それが後2回ほど続いた。結果はもちろん、シャーニッドの勝利だ。
「ここまで負け続けるとは……隊長が隊長でいいのか、本当に不安です」
「うるさいぞフェリ!」
ゲームとはいえ、戦術思考を育成するためのゲームにこうもボロ負けするニーナを見てフェリが辛辣な言葉を吐く。
正直な話、これは隊の長としてどうなのだろうか?
こうも連敗が続けば、駒となる隊員として隊長に付いていっていいのか疑問が生まれてしまう。
故に、このフェリの言葉は無理なからぬものだった。
「もう少しなんだが……」
「もう止めようぜ、いい加減だるい」
今まで付き合わされていたシャーニッドがうんざりとつぶやき、駒を放って両手を挙げた。
「む……そうだな、もうこんな時間か。風呂に入って引き上げるか」
「あ、風呂があるんですか?」
時間ももう遅いので、ニーナは意外にもあっさりとシャーニッドの言葉を受け入れる。
そのニーナの返答に、ナルキが反応した。
「ああ、大きな風呂がある……が、そうかしまった、湯を入れる暇がない」
もっとも、それは当然のことだろう。
ここは農業科の生徒20人以上が泊まれる宿舎なのだ。そのため当然風呂もあり、大浴場となっているのだ。
だけど、今までゲームに夢中になってすっかりそのことを失念していたニーナ。
時間はもう夜遅く、風呂を入れている暇はない。
「すまんな、今日はシャワーで済ませてくれ。明日は湯を張ろう」
「まったく……なんでそんな大事なことをもっと早く言わないんですか?ゲームに夢中で忘れていただなんて、子供じゃあるまいし」
「ぐっ……悪かったとは思っている」
またも辛辣な言葉をフェリに吐かれ、ニーナは表情を歪める。が、正論故に反論することすらせず、渋い表情のままシャワーの準備を始めた。
「あ、風呂なら俺が沸かしてきましたよ」
「ホントかオリバー!?」
「はい」
だけどそこで、オリバーが会話に割り込んだ。
その内容は彼が浴室を発見し、せっかくだから風呂でも沸かすかと言うことで沸かしてくれたらしい。
ニーナに一応報告しようとも考えたのだが、ゲームに夢中になっていたために見送ったのだとか。
「えっと……余計なお世話でした?」
「そんなことはない。助かったぞオリバー」
ニーナはオリバーに感謝し、それならばと女性陣を引き連れ浴場へと向かった。
この宿舎の風呂場に男女の区別はなく、とりあえずは先に女性陣が入ることになったのだ。
風呂を沸かしたオリバーに先に入るかとはたずねたが、本人が後でゆっくり入ると言ったからその言葉に甘えることにした。
そして、オリバーとシャーニッド、レイフォンの3人の男性は風呂場へと向かう女性陣を部屋で見送っていた。
「ナイスだオリバー!」
「いやぁ、それほどでも……」
女性陣が去った後、シャーニッドがオリバーを褒めちぎり、それにオリバーが照れ臭そうに相槌を打つ。
なぜかテンションが高い2人にレイフォンはついていけず、とりあえずはフェリに風呂上りのデザートでも用意しようかなどと考えながら、キッチンに残っていた食材を思い出す。
その思考の片隅で、確かにレイフォンは2人の会話を聞いた。
「となればすることはひとつ……」
「ええ、もちろん……」
楽しそうに何かを企む2人の会話を。
「大きいですね……」
「そうだろう」
そして場所は風呂場。
やはり20人以上が寝泊りすることを考えれば風呂も大きくなり、見事な大浴場だ。
湯気が充満する室内で、タオル1枚に身を隠す少女達の裸体が露になる。
「ふむ、いい湯加減だな」
湯船に触れ、最初にニーナが湯に浸かった。
「あ、本当ですね」
その後にナルキが続く。
「メイもホラ」
「う、うん……」
ナルキに呼ばれ、メイシェンもおどおどとしながら湯船に浸かるために歩みを進める。
その姿を、フェリはどこか含みのある視線で見つめていた。
視線は主に胸に集中する。集中して、今度は自分の胸へと視線を落とす。
そしてまた、メイシェンの胸へと視線を向けた。そして再び自分の胸へと視線を落とす。
「……………」
言いようのない感情が胸の奥底から湧いてくる。
服を纏わず、あまりにも凶悪で大きなそれが纏っているのは1枚のタオルのみ。
それ故に見せ付けられてしまう。彼女の、メイシェンのあまりにも強大で凶悪な兵器に。
それは自分にはないものであり、それを持っているメイシェンが妬ましかった。
レイフォンは別に胸の大きさなんて気にしないと言って、愛してはくれたが、それでもやはり女性として胸の大きさは気になるものである。
「大きい……ですね」
それは浴槽ではなく、もちろんメイシェンの胸に実るふたつの果実。
それを忌々しげに見つめながら、フェリは湯船に浸かった。
「絶対にヘマすんじゃねぇぞ。ニーナにばれたらどぎつい制裁を喰らうからな」
「だからってやらないと言う選択肢はありませんね」
「当然」
声を潜め、浴場へと向かうシャーニッドとオリバー。
殺剄までも使い、気配を完全に消していた。
そんな彼らの目的は言うまでもなく、
「風呂と言えばもちろん、女の子同士の裸の付き合い、思わぬタッチアクシデント……それを覗く俺達!」
「いいですね、最高ですよ。これでこそ来た甲斐があった!!」
覗き。
ハイテンションな2人は、目的の理想郷を目指して互いに足を進める。
「で、お前は誰が狙いなんだ?俺はニーナも悪くはねぇと思うが、やっぱりメイシェンって言うナルキの友達かな?あの顔であの胸は凄いね、うん。どんな果実が隠れているのか楽しみだ」
「俺はもちろんフェリちゃんですね。無表情なのが玉に瑕だけど、最近は稀に笑うし、その笑顔が可愛いし、何よりあの幼い体付き!容姿はもう完全に俺のストライクゾーンですよ!」
互いの獲物を、目的の少女を口にし、シャーニッドとオリバーは胸を高鳴らせていた。
「今日はもう遅いですよ。そろそろ寝ましょうか……永遠に」
その2人に、冷酷で絶対零度の視線と声が降り注ぐ。
「へ……ぶらべらっ!?」
瞬間、オリバーが飛んだ。
顔面を強打され、言葉にならない呻きを上げながら数メルトルほど吹き飛ぶ。
それも当然だろう。よりによって彼の前で、フェリに目的があると言ったのだから。
「は……?」
シャーニッドが呆気に取られる中、この原因を作った人物は冷たい笑みを浮かべながら今度はシャーニッドへと錬金鋼を向ける。
刃引きが施された剣ではあるが、それで思いっ切り強打されれば簡単に死ねるだろう。
「次はシャーニッド先輩の番ですね。安心してください、永遠に安らかな眠りへと案内しますから」
もっとも本人からすれば、レイフォンからすれば最初からそのつもりだ。
永眠させる気で錬金鋼をシャーニッドに向け、その威圧感に当てられてシャーニッドの表情が引き攣る。
「待て、待て待て……悪かった、俺が悪かった。なんだ、そんの事に興味なさそうなツラして実際はあるんだな?お前を誘わなくて悪かったよ。だからさ、その物騒なモンを仕舞え」
「そう言う事じゃないんですよ。それに、覗きだどうだかでとやかく言うつもりはないんですけどね……普段なら」
レイフォンは感情を感じさせない声で、ゆっくりとシャーニッドへとにじり寄る。
「ただ、フェリも入っていると言うなら話は別です。徹底的に、容赦なく殺りますよ?」
「おぃ、落ち着けレイフォン!」
半ば悲鳴を上げるように、シャーニットは後退しながら言う。
「別に俺はそこで寝てる変態とは違うからよ。別にフェリちゃんに狙いがあるわけじゃねぇ。それにはホラ、もう少し成長しないと」
だから見逃せと言うシャーニッドだったが、
「……それはフェリを侮辱してるんですか?知りませんでしたよ、シャーニッド先輩が自殺志願者だったなんて」
「ならなんて言えばいいんだよ!?」
余計にレイフォンの怒りを煽ってしまい、まさに絶体絶命のピンチを迎えていた。
「くっ……こうなりゃ戦略的撤退!!」
即逃げの一手。
悔しいが、汚染獣とガチで戦って打倒する後輩に勝てるわけがない。
それに、今のレイフォンはヤバイ。なんだか瞳が濁っている。
感情が感じ取れず、まるでどこか病んでいる感じだ。
そんなのを相手にしたくなく、また命も懸かっているために懸命に逃げだすシャーニッドだったが……
「どこに行くんです?」
回り込まれてしまった。
それも数十を越えるレイフォンによって。
活剄衝剄混合変化 千斬閃
分身し、シャーニッドを取り囲む。
そして、その分身全員が体をひねり、剣を背中に隠すように構えていた。
天剣技 霞楼
それは、老生体すら退けたレイフォンの連携技である。
剣身に集まる剄が、これでもかとシャーニッドを威圧していた。
「ちょ、待て……それは洒落になら……」
シャーニッドは一瞬で悟る、これは避けられないと。
そして考える、どうしてこうなったのかと?
剄の圧力を受けつつ、これって生きていられるのかとまるで他人事の様にも考えていた。
「それでは、さようなら」
レイフォンのこの言葉を最後に、シャーニッドの意識は深い闇へと沈むのだった。
あとがき
ゲームはやっぱりパワプロだよなと思うこのごろ……
実況パワフルプロ野球2010をやってて更新が遅れました(滝汗
しかも9月の15日は新作のポケモンが出るとのこと。やりたいゲーム、そしてバイトと大忙し。
大学が夏休みとはいえ、更新が難航しそうです(汗
合宿に突入の5巻編。
原作の5巻ではメイシェンのイベントが目立ちましたが、この作品はフェリが既にレイフォンの恋人と言う設定ですからね。次回は激突必至、修羅場となる予定です。
とはいえ修羅場や激突も、ただ一方的なものとなるかもしれませんが……ここのレイフォンはなによりフェリ一直線ですからね(苦笑
とりあえず……シャーニッドとオリバーは次回生きているのでしょうか(爆
相変わらず雑談しますが、やはりリリカルなのはは最高ですねw
管理局アンチ系SSも多いですが、そういう作品が多いと言う事はそれだけリリカルなのはが人気のある作品と言う事なのでどこか嬉しくもあります。
まぁ、だからと言ってそういうSSが面白いかどうかは別ですが。度が過ぎるのも引いてしまうんですよね……
最近では前回巻末に書いたお遊びのおまけの影響か、レギオス(この作品の設定)とのクロスのアイデアが……
やはり、ロリバーが動かしやすいからでしょうかw
一度真面目に構成ねって、外伝やろうかなって。その前にありえないIFの物語や、刀語や、1話で放置してるなのはSSやれって感じですが……
こう、創作意欲だけ次々湧いてきて、書くスピードがそれに追いつかなくて大変です(汗
まぁ、色々言いましたが、これからも更新をがんばります。
そう言えばなのはSSと言えば兄が……
なんか最近はテンションが上がらないとのこと。やはり作家と言うのは感想を頂くとテンションがあがり、やる気も出ますからね。
人を選ぶ作品でもありますが、一度目を通してやってください。
よし、宣伝バッチリ(爆
いい加減余計なことを言いすぎたので、今回はこれで失礼します(笑