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No.15685の一覧
[0] フォンフォン一直線 (鋼殻のレギオス)【一応完結?】[武芸者](2021/02/18 21:57)
[1] プロローグ ツェルニ入学[武芸者](2010/02/20 17:00)
[2] 1話 小隊入隊[武芸者](2011/09/24 23:43)
[3] 2話 電子精霊[武芸者](2011/09/24 23:44)
[4] 3話 対抗試合[武芸者](2010/04/26 19:09)
[5] 4話 緊急事態[武芸者](2011/09/24 23:45)
[6] 5話 エピローグ 汚染された大地 (原作1巻分完結)[武芸者](2010/05/01 20:50)
[7] 6話 手紙 (原作2巻分プロローグ)[武芸者](2011/09/24 23:52)
[8] 7話 料理[武芸者](2010/05/10 18:36)
[9] 8話 日常[武芸者](2011/09/24 23:53)
[10] 9話 日常から非日常へと……[武芸者](2010/02/18 10:29)
[11] 10話 決戦前夜[武芸者](2010/02/22 13:01)
[12] 11話 決戦[武芸者](2011/09/24 23:54)
[13] 12話 レイフォン・アルセイフ[武芸者](2010/03/21 15:01)
[14] 13話 エピローグ 帰還 (原作2巻分完結)[武芸者](2010/03/09 13:02)
[15] 14話 外伝 短編・企画[武芸者](2011/09/24 23:59)
[16] 15話 外伝 アルバイト・イン・ザ・喫茶ミラ[武芸者](2010/04/08 19:00)
[17] 16話 異変の始まり (原作3巻分プロローグ)[武芸者](2010/04/15 16:14)
[18] 17話 初デート[武芸者](2010/05/20 16:33)
[19] 18話 廃都市にて[武芸者](2011/10/22 07:40)
[20] 19話 暴走[武芸者](2011/02/13 20:03)
[21] 20話 エピローグ 憎悪 (原作3巻分完結)[武芸者](2011/10/22 07:50)
[22] 21話 外伝 シスターコンプレックス[武芸者](2010/05/27 18:35)
[23] 22話 因縁 (原作4巻分プロローグ)[武芸者](2010/05/08 21:46)
[24] 23話 それぞれの夜[武芸者](2010/05/18 16:46)
[25] 24話 剣と刀[武芸者](2011/11/04 17:26)
[26] 25話 第十小隊[武芸者](2011/10/22 07:56)
[27] 26話 戸惑い[武芸者](2010/12/07 15:42)
[28] 番外編1[武芸者](2011/01/21 21:41)
[29] 27話 ひとつの結末[武芸者](2011/10/22 08:17)
[30] 28話 エピローグ 狂いし電子精霊 (4巻分完結)[武芸者](2010/06/24 16:43)
[32] 29話 バンアレン・デイ 前編[武芸者](2011/10/22 08:19)
[33] 30話 バンアレン・デイ 後編[武芸者](2011/10/22 08:20)
[34] 31話 グレンダンにて (原作5巻分プロローグ)[武芸者](2010/08/06 21:56)
[35] 32話 合宿[武芸者](2011/10/22 08:22)
[37] 33話 対峙[かい](2011/10/22 08:23)
[38] 34話 その後……[武芸者](2010/09/06 14:48)
[39] 35話 二つの戦場[武芸者](2011/08/24 23:58)
[40] 36話 開戦[武芸者](2010/10/18 20:25)
[41] 37話 エピローグ 廃貴族 (原作5巻分完結)[武芸者](2011/10/23 07:13)
[43] 38話 都市の暴走 (原作6巻分プロローグ)[武芸者](2010/09/22 10:08)
[44] 39話 学園都市マイアス[武芸者](2011/10/23 07:18)
[45] 40話 逃避[武芸者](2010/10/20 19:03)
[46] 41話 関われぬ戦い[武芸者](2011/08/29 00:26)
[47] 42話 天剣授受者VS元天剣授受者[武芸者](2011/10/23 07:21)
[48] 43話 電子精霊マイアス[武芸者](2011/08/30 07:19)
[49] 44話 イグナシスの夢想[武芸者](2010/11/16 19:09)
[50] 45話 狼面衆[武芸者](2010/11/23 10:31)
[51] 46話 帰る場所[武芸者](2011/04/14 23:25)
[52] 47話 クラウドセル・分離マザーⅣ・ハルペー[武芸者](2011/07/28 20:40)
[53] 48話 エピローグ 再会 (原作6巻分完結)[武芸者](2011/10/05 08:10)
[54] 番外編2[武芸者](2011/02/22 15:17)
[55] 49話 婚約 (原作7巻分プロローグ)[武芸者](2011/10/23 07:24)
[56] 番外編3[武芸者](2011/02/28 23:00)
[57] 50話 都市戦の前に[武芸者](2011/09/08 09:51)
[59] 51話 病的愛情(ヤンデレ)[武芸者](2011/03/23 01:21)
[60] 51話 病的愛情(ヤンデレ)【ネタ回】[武芸者](2011/03/09 22:34)
[61] 52話 激突[武芸者](2011/11/14 12:59)
[62] 52話 激突【ネタ回】[武芸者](2011/11/14 13:00)
[63] 53話 病的愛情(レイフォン)暴走[武芸者](2011/04/07 17:12)
[64] 54話 都市戦開幕[武芸者](2011/07/20 21:08)
[65] 55話 都市戦終幕[武芸者](2011/04/14 23:20)
[66] 56話 エピローグ 都市戦後の騒動 (原作7巻分完結)[武芸者](2011/04/28 22:34)
[67] 57話 戦いの後の夜[武芸者](2011/11/22 07:43)
[68] 58話 何気ない日常[武芸者](2011/06/14 19:34)
[70] 59話 ダンスパーティ[武芸者](2011/08/23 22:35)
[71] 60話 戦闘狂(サヴァリス)[武芸者](2011/08/05 23:52)
[72] 61話 目出度い日[武芸者](2011/07/27 23:36)
[73] 62話 門出 (第一部完結)[武芸者](2021/02/02 00:48)
[74] 『一時凍結』 迫る危機[武芸者](2012/01/11 14:45)
[75] 63話 ツェルニ[武芸者](2012/01/13 23:31)
[76] 64話 後始末[武芸者](2012/03/09 22:52)
[77] 65話 念威少女[武芸者](2012/03/10 07:21)
[78] 番外編 ハイア死亡ルート[武芸者](2012/07/06 11:48)
[79] 66話 第十四小隊[武芸者](2013/09/04 20:30)
[80] 67話 怪奇愛好会[武芸者](2012/10/05 22:30)
[81] 68話 隠されていたもの[武芸者](2013/01/04 23:24)
[82] 69話 終幕[武芸者](2013/02/18 22:15)
[83] 70話 変化[武芸者](2013/02/18 22:11)
[84] 71話 休日[武芸者](2013/02/26 20:42)
[85] 72話 両親[武芸者](2013/04/04 17:15)
[86] 73話 駆け落ち[武芸者](2013/03/15 10:03)
[87] 74話 二つの脅威[武芸者](2013/04/06 09:55)
[88] 75話 二つの脅威、終結[武芸者](2013/05/07 21:29)
[89] 76話 文化祭開始[武芸者](2013/09/04 20:36)
[90] 77話 ミス・ツェルニ[武芸者](2013/09/12 21:24)
[91] 78話 ユーリ[武芸者](2013/09/13 06:52)
[92] 79話 別れ[武芸者](2013/11/08 23:20)
[93] 80話 夏の始まり (第二部開始 原作9巻分プロローグ)[武芸者](2014/02/14 15:05)
[94] 81話 レイフォンとサイハーデン[武芸者](2014/02/14 15:07)
[95] 最終章その1[武芸者](2018/02/04 00:00)
[96] 最終章その2[武芸者](2018/02/06 05:50)
[97] 最終章その3[武芸者](2020/11/17 23:18)
[98] 最終章その4[武芸者](2021/02/02 00:43)
[99] 最終章その5 ひとまずの幕引き[武芸者](2021/02/18 21:57)
[100] あとがき的な戯言[武芸者](2021/02/18 21:55)
[101] 去る者 その1[武芸者](2021/08/15 16:07)
[102] 去る者 その2 了[武芸者](2022/09/08 21:29)
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[15685] 31話 グレンダンにて (原作5巻分プロローグ)
Name: 武芸者◆8a2ce1c4 ID:9a239b99 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/08/06 21:56
『郵送でもかまわんが、直接渡しに行ってもいいぞ』

授業中だと言うのに集中しきれず、リーリンは祖父の言った言葉を思い出す。
渡すものは養父に渡された木箱で、サイハーデンの刀技を全て修めた証となる錬金鋼のことだ。デルクはそれをレイフォンに渡してきて欲しいと言った。
郵送でもいいと言われ、ならばそうするかと思ったのだが、なぜかそれすらも出来ずに既に一月が過ぎている。
もったいないと思ったのだろう。何せ、レイフォンに会いに行けるチャンスがあると言うのにそれを郵送で済ませるなんて。
だが、だからと言って気軽にツェルニまで行けるわけがない。
そのまま悩みながら、既に一月。

(送る?行く?)

教師が白板に書いた内容を教鞭で叩く音で我に返り、慌ててそこを写すがリーリンはまたも思考に耽る。
行きたいと言う気持ちはある。だけど、行けば学校を休まなければならない。グレンダンからツェルニへ、都市の外へ出るのだから当然のことだ。
レイフォンがツェルニに旅立った半年前ならば片道一月ほどで行けたが、今はどうだろう?
都市は常に移動する。故にその距離も常に変わる。
だからこそ都市の間を唯一わたる方法、放浪バスでの移動は常に遅く見積もるべきだと誰かが言っていたし、それは当然の見解だ。そうなると片道で三ヶ月ほどと考えるべきか?
そうなると往復で半年以上かかり、確実に学校の出席日数が足りなくなるので、来年、同じ学年をやり直すことになってしまう。
一年も時間を無駄にするということも問題だが、学費を一年余分に負担させてしまうことも問題だ。レイフォンが闇試合に手を出してまで稼いだお金を、だ。
それはレイフォンに対して、とても申し訳ないし、自分のような孤児がこのような学校に通わせてもらっていることから、学費を無駄にするというのは極力避けたい。
だが、デルクは簡単に言っていたし、それぐらいの余裕は今のデルクにはあるのかもしれない。
それでもリーリンは、そう簡単に決断を下すことは出来なかった。

それは、レイフォンがああなってしまった原因をリーリンは察することが出来るからだ。
何しろ幼馴染で、レイフォンとは常に同じ時間を生きてきたから。ずっと側にいたから。
そしてその原因は、レイフォンがああなってしまった原因は、レイフォンがまだ天剣授受者になる前にあった食糧危機だ。
グレンダンの生産プラントで原因不明の病気がはやってしまい、食料の生産力が一気に落ちてしまったのだ。
全ての都市は自給自立で成り立っている。この隔絶させられた都市は輸入やら貿易は実質不可能であり、故に緊急の際に他の都市などから食糧を輸送してもらうということも出来ない。だからこそ自給自足は当たり前で、レギオスならば当然と言える。
だが、もしそれが出来なくなったら?
このように事故で、食料の生産力が落ちてしまったら?
他都市からの援助を頼れず、対処がとても難しい。不可能と断言してもいいほどに。

あの時は多くの餓死者が出た。
食料は配給制となり、なるべく全ての市民に回るようにはしたが、やはり無理があったのだろう。
都市を護る武芸者に優先的に配給されるようにもしたため、あちらこちらで市民の暴動が起きたりもした。
だが、多い時には月に何回も、それこそ毎日のように汚染獣と遭遇するグレンダンにとってこの対応は当然とも言える。
武芸者が空腹で戦えなければ、それこそこの都市は全滅してしまうのだから。

そして、デルクは武芸者だったが既に前線を退いており、配給される食糧は少なかった。孤児院の子供達、それも武芸者でもない者達に配給されるものなど言わずもがなだ。
レイフォンの場合は天剣授受者になるほどの武芸者であり、周りにも期待されていたために貰える食料は多かった。
それらのことが原因だったのかもしれない。レイフォンのあの優しい性格で、自分だけがこのような待遇を受けることに負い目のようなものを感じていたのだろう。
それでも、一番苦しかった半年が終わり、グレンダンの食糧不足は何とか持ち直してきた。レイフォンが天剣授受者になったころには、元に戻っていた。
だが、流通が再会したころにはまだまだ物価が高く、孤児院の経営が苦しかったのも確かだ。
デルクが経営に無頓着だったこともあり、そのことからレイフォンはあのようなことをしたのだろう。
闇試合にまで出て、食料に困ることがないようにお金を稼ぐという。
あの事件はそれほどまでにレイフォンの心に、なにかを植えつけたのだ。
そしてそのころのレイフォンを知っているからこそ、リーリンはレイフォンのことを想うのだが……

(ああ、うじうじしてる)

自分でもわかっている、会いたいのだ。
レイフォンに会いたい、今すぐに。とてもとても会いたいのだ。

(でも……レイフォンのお金で通ってるのに)

だが、その考えはすぐに冷めてしまう。
そんな理由でこの一年を、お金を無駄にしてしまっていいのか?
なにより……

(そんなことして、レイフォンがどう思うかな……?)

本当に、ずっとリーリンが気になっているのはこのことだった。
喜んでくれるのか?
行って、迷惑じゃないのか?
そんな心配と共に、レイフォンは自分のことを忘れてやいないかと不安になってしまう。
いや、物理的に忘れるとか、そういったことではなく、そうでなければ手紙のやり取りはしないだろう。
リーリンが心配していることとはその手紙に書かれた女性、レイフォンの彼女であるフェリ・ロスについてだ。
レイフォンから来る手紙には必ずフェリのことが書かれており、その手紙を読むたびにリーリンの胸の内に黒い何かが宿る。
レイフォンは向こうで楽しくやっている、それは十分にわかった。わかったのだが……どうしてこのように不安になるのだろうか?
どうしてこんなにもツェルニに行きたいと思うのか?
どうしてこんなにもレイフォンに会いたいと思うのか?
そんなことを考え、思い、リーリンは教師やクラスメートにばれないようにこっそりとため息をつく。

(レイフォンの……馬鹿)

ここにはいない、鈍感すぎる幼馴染のことを想いながら……






































届けられた手紙をテーブルの上に広げ、シノーラはめんどくさそうに頬杖を付きながら眺めている。

「いかがなさいます?」

そう問うのはシノーラの隣に控える女性だ。
黒髪で、女性にしては長身の美女。ソファでめんどくさそうに手紙を眺めているシノーラに似ている。いや、似すぎている。
それも当然だろう。問いかけたこの女性は、カナリス・エアリフォス・リヴィン。
整形までしたその顔で女王の代わりを務める影武者であり、グレンダン王家に絶対の忠誠を誓っている。
そして、グレンダンの誇る12人の天剣授受者の1人、最強の一角。
その彼女は、自分の主であるシノーラの返答を待った。

ここは槍殻都市グレンダンの中央に位置する王宮。その王家が暮らす区画の一室だ。
シノーラ・アレイスラ。リーリンの先輩であり、高等研究員に通う院生と言うのは仮の姿。
その本名はアルシェイラ・アルモニス。その正体は12人の天剣授受者の頂点に立ち、グレンダンを支配する女王。
その力は、例え天剣授受者が束になろうとも敵わない。まさにグレンダン最強の人物。
いや、この全世界でもまさしく最強の人物。人類最強と言う言葉は、彼女のためにある。
そんなアルシェイラことシノーラは、気だるげなままの瞳で手紙を見つつ、唇は柔らかく閉じて、沈黙を続けていた。

「ツェルニで発見された廃貴族。グレンダンに招くのが得策だと思いますが?」

カナリスが促すように口を開く。
手紙の送り主はハイア・サリンバン・ライア。先代サリンバン教導傭兵団団長が死亡したために後を継いだ、若き三代目だ。
送り元はツェルニ。かつて、自らが都市外退去を命じた天剣授受者、そしてシノーラの可愛い後輩であるリーリンの想い人がいる都市。
そこで廃貴族が発見されたと言うのが文面の内容だ。

「廃貴族の力を存分に操れる者など、グレンダンの外にいるとは思えません」

カナリスの言葉は淡々としており、それだけグレンダンの武芸者に絶対的な自信を持っているのだろう。
それも当然のことで、廃貴族を存分に操れる者がグレンダン以外にいるとは思えない。
あれは滅びを呼ぶ。だからこそグレンダン以外での制御には骨が折れるはずだ。
それが今はツェルニにいると言う。未熟な者達がそろう学園都市ではさらに手におえないだろう。

「………」

シノーラはそれでも沈黙を保つ。
頬杖を付いていた手で、自分の髪を指に絡ませながら。

「陛下……」

カナリスに促され、シノーラは吐息を混ぜて唇を開いた。

「……………め」

「もしかして、『めんどくさい』とか言うつもりじゃないでしょうね?」

「……駄目じゃん。先にそういうこと言っちゃ」

が、言葉を先回りされ、言うことがなくなったシノーラは唇を尖らせて抗議する。

「駄目でも何でもありません」

それを冷ややかに見下ろしながら、カナリスは言った。

「天剣が12人揃わない以上、手に入れられるものは手に入れておくべきです」

レイフォンが天剣を剥奪されてから幾度か武芸者の試合は行われており、また汚染獣の襲来に武芸者が借り出されてはいるが、その姿に天剣授受者となれるような実力者の姿はない。
シノーラの従妹が現在のところ天剣に最も近い実力を持つと言われているが、要は今のグレンダンで天剣を除いて一番強いと言うことで、天剣授受者になるには遠く及ばない。
歳はレイフォンとはあまり変わらないのに大した技量を持つが、それでも天剣授受者に絶対的に必要なもの、剄量が足りない。
通常の錬金鋼では耐え切れない、天剣と言う特殊な錬金鋼を扱い切れる膨大な量の剄がない。
それ故に彼女が天剣授受者に選ばれることはなく、また彼女の祖父で、天剣授受者の1人でもあるティグリス・ノイエラン・ロンスマイアも孫娘のことをまだまだ未熟だと思っている。
なんにせよ、依然、天剣が一振り空いている状態が続いているのだ。

「レイフォンが天剣を持った時には、ああ、ついに来たのかなって思ったけど、もしかしたらそうじゃなかったのかもね」

「陛下、その時がいつ来るかなど、誰にもわかりません。過去にも天剣が12人が揃った時がありました。しかし、その時には現れなかった」

「このハイアってのはどうだろう?なれないかな?」

「陛下……問題を先送りにしようとしてますね」

「だってめんどくさいんだもん」

再び唇を尖らせるシノーラ。
その態度に怒るでもなく、カナリスは宣言するように言った。

「我ら天剣授受者、陛下の言葉とあれば命も捨てます」

「……レイフォンはたぶん、そうは言わないよ」

その重すぎる言葉に呆れながら、シノーラはため息を付く。

「だからこそ、あれは天剣を捨てざるを得なくなりました」

「だといいんだけどね」

気負いこんだカナリスの返事を、シノーラは頭を掻きながら聞き流した。
だが、シノーラもカナリスも知らない。現在レイフォンに、そう言う相手がいることを。
それこそその人物のためなら、簡単に命を捨てるだろうという相手が。

「……陛下がお決めにならないと言うなら、私達で勝手に選びますが?手紙にあるよう、学園の生徒を利用したやり方ではレイフォンを敵に回す可能性があります。そうなれば傭兵団では経験不足」

サリンバン教導傭兵団の報告では、廃貴族の宿った学生を捕らえようとしてツェルニの学生達を敵に回したらしい。
当然サリンバン傭兵団が学生武芸者に負けるなどと言うことはありえないが、それが原因で捕捉した廃貴族を逃がしてしまい、現在目下捜索中との事だ。今回の手紙はその報告書。
直接にレイフォンとの戦闘はなかったようだが、それでも元とは言え天剣授受者が相手となれば、サリンバン教導傭兵団には荷が重い。

「リンテンスはあれとは縁がありすぎますので外すとして、他の者ならば……」

ならば、天剣授受者には天剣授受者。
そう言う結論を下し、カナリスは天剣授受者をツェルニに送ろうという考えに至った。

「……私の許可もなく、天剣を扱おうと言うのかい?カナリス」

だが、それはタブー(禁句)だ。シノーラを前にして、言ってはいけない言葉だった。
シノーラはソファの背もたれに体を預け、仰向けにカナリスを見上げていた。

「い、いえ……そのような」

頬を緩ませたシノーラの視線に怯え、カナリスは震えていた。
まるで空気を失ったように喘いでいる。
そこまで怖がらせるつもりはなかったので、シノーラはその笑みと共に威圧を少しだけ緩め、柔らかく、言い聞かせるように言葉を続けた。

「確かに、私がここにいない間の執政権は君に預けているけどね。うん、君はとても役に立っている。ありがたい存在だ……だけど、天剣をどう使うか、それを決めるのはあくまで私だよ」

「もうしわけ……ありません」

謝罪を聞き、シノーラは威圧をやめる。

「わかってくれて嬉しいよ」

ニッコリと、優しくて美しい笑みを投げかけ、体を起こして視線を外す。
隣ではカナリスが崩れ落ちる音がした。
膝をついて震えるカナリスを横目で見て、シノーラはソファに置いていた鞄をつかむと立ち上がる。

「さて、私は研究室に行って来るね」

「へ、陛下。お待ちを……」

震えながらも諦めないカナリスに、シノーラは苦笑した。

「ま、おいおい考えておくよ」

そう言い残すと、シノーラは部屋を出た。





部屋を出て、王宮の廊下を歩く。
この廊下は王宮の主要部分から外れた場所のため、警護の武芸者の姿はない。
シノーラが移動しやすいように、わざと人を置かないようにしているためでもある。
あまり使われないことを示すように、証明も最低限しか灯されていない。太陽の位置が悪いらしく、窓からの日の光も弱い。
そんな薄闇の廊下の端に、1人の姿があった。

「何か用かい?」

シノーラに声をかけられ、気配の主は窓の前に移動して、身にまとっていた影を払った。
男なのに長く、綺麗な銀髪。後姿だけなら女性を思わせるかもしれないが、逞しく鍛え上げられた肉体がその考えを吹き飛ばす。
その鍛え上げられた肉体を使い、化錬剄と格闘技を得意とする天剣授受者、サヴァリス・クォルラフィン・ルッケンスだ。

「陛下においては、ご機嫌もよろしく……」

「やれやれ、今日は忙しい日だよ」

型どおりの挨拶をして礼をする見た目、好青年に、シノーラはため息を吐きかけた。

「……よろしくはなかったようで」

「まったくね。今日は珍しく頭を使ったんで機嫌が悪いんだ」

「それは大変ですね」

くっくっと笑いをこぼすサヴァリスに一睨みするも、サヴァリスは動じなかった。

「ご不快の原因は、手紙ですか?」

差し出された言葉に、シノーラは瞳を引き絞るように細めた。
なぜそのことを知っている?
王宮に自分の手駒でも潜ませているのか?
もしそのようなことをしているのなら、サヴァリスは見た目どおりの笑顔のように調子に乗っているのだろうか?
さらに不機嫌そうな表情を浮かべるシノーラに、サヴァリスは満面の笑みを浮かべていた。

「……ルッケンスの家は、少し調子に乗っているのかな?それとも天剣授受者全員が調子に乗っているのかな?だとしたら、少し引き締めてやらないといけないね」

「とんでもない!陛下に捧げた僕達の忠誠に、一片の曇りもありません」

慌てて後ろに下がるサヴァリスを冷ややかに見つめる。それが、一度自分を暗殺しようとした奴の言うことかと。
もっとも、その時は容易く返り討ちにしてやったが。

「ツェルニの一件を知ったのは偶然です。弟があちらにいますもので……」

サヴァリスの釈明をシノーラは黙って聞いた。
弟、ゴルネオ・ルッケンスがツェルニの武芸科に所属していること。
小隊と言うツェルニの制度の中で、小隊長の1人となっていること。

「つい先ほど、そのゴルネオから手紙が届きましてね。あちらでの事態を知りました。おそらく、傭兵団は陛下にも手紙を送っているだろうと推測しまして。知らなければそれはそれで、陛下にお伝えしなくてはとここで待っていたんですよ」

その弟から送られてきた手紙なのだが、移動する都市間を結ぶ大変不定期なもののため、ゴルネオが前に出した別の手紙と同着で届いた。
その手紙の内容は、ガハルドがレイフォンが追放される原因となった試合で、天剣を得るためにレイフォンを脅したのが本当かと言う内容の手紙だった。
それに対し、サヴァリスは本当だとそっけなく返信してやった。さらには、兄としての親切心でガハルドが死んだ事も。
結果的には自分が殺したのだが、それは彼が汚染獣に体を乗っ取られていたからであり、仕方のないことだった。
なんにせよサヴァリスはガハルドを殺した事をまったく気にすらしておらず、建て前的には汚染獣戦での戦死と手紙に書き記し、まとめて返信をした。
その事に関してはシノーラに言っておらず、またプライベート、兄弟間でのやり取りであるため言う必要もないが、何にせよサヴァリスはツェルニにいる廃貴族のことを知っていた。

「カナリスに言えばいいじゃない」

そう言う事は自分ではなく、執政権を任せているカナリスに言えと言うシノーラだが、

「僕は彼女に嫌われていますからね。それに、僕が忠誠を誓っているのは陛下御一人にです。カナリスでもなければ、グレンダンと言う都市にでもない」

サヴァリスはどこか軽い調子で言う。
シノーラを暗殺しようとした者の1人がどの口でそのようなことを言うのかと思ったが、今更そのようなことで咎めるつもりはないし、そんなことは当の昔に不問にしている。
ただサヴァリスの言葉が、自分に忠誠を誓っていると言う言葉がどうにも信じられないだけだ。

「それで、どうなさるおつもりです?」

「……私が不機嫌だといってる意味、わかってる?」

「ははぁ、その様子だとカナリスとやりあったようですね」

シノーラの言葉にまた笑うサヴァリスを、シノーラは一睨みで怯ませた。

「おっと……できましたら、僕を使っていただければと思って参ったのです」

「行きたいの?」

サヴァリスがシノーラの前に現れた理由は志願。
カナリスにはああ言ったが、廃貴族を放っておくわけにはいかない。
気は進まないが、グレンダン王家として廃貴族を回収するのも立派な勤めだ。
だが、そうなればやはり傭兵団では荷が重い。ここはやはり、だれか天剣授受者を送るべきなのだが……

「向こうには弟もいますし、協力者と言う点では他の誰よりも勝っているかと。それに、レイフォンとやり合うようなことにでもなった場合、他の連中だとツェルニが壊れてしまいますよ」

確かにサヴァリスは適任かもしれない。
協力者と言う点もそうだが、レイフォンとやり合う場合リンテンスはカナリスの言うとおりに除外したとして、間違ってでもルイメイ・ガーラント・メックリングでも送ってしまえばツェルニは崩壊するだろう。
もっともサヴァリスの場合は、見た目は好青年な彼だが、その好戦的な性格が災いしないかと言う不安もある。
そして、彼が行きたがる理由の一端として、ふと思いついたことをシノーラは尋ねる。

「もしかして、レイフォンを殺したい?」

「何故です?」

サヴァリスは相変わらず、ムカつくほどに清々しい笑みを浮かべたままだ。
だが、その表情の温度が下がったのは確かである・
殺したいとは行かなくとも、好戦的な正確から戦いたい、殺し合いたいと思っているのかもしれない。

「この間囮に使ったのって、確かレイフォンにだめにされたルッケンスの門人だったよね?アレの恨みとか」

「アレは、ガハルドが未熟だっただけです」

そっけない返事が、シノーラの推測は的外れだと告げている。

「それなら……なんだろうね?」

「陛下……僕は別にレイフォンを憎んではいませんよ。ただ、廃貴族には強い関心があります」

「欲しいんだ」

「欲しいですね」

シノーラの問いにサヴァリスは即答し、その笑みが濃くなる。

「陛下に並ぶその力、使ってみたいとは思います」

その笑みは狂気。
強さだけを求めた、禍々しく冷たい感情。

「天剣授受者はただ強くあればいい。陛下が常々、仰っている言葉です」

「ま、一般常識は欲しいけどね」

「それはもちろん」

「ふうん……ま、考えておくよ」

言い捨てると、シノーラは歩き出した。
サヴァリスは道を譲り、禍々しくも美しい笑みで言う。

「楽しみにしています」

「はいよ」

振り返る事もなく、シノーラは手をひらひらと振ってそれに答えた。




































雄性一期。
幼生体からの成り立てであり、比較的弱い部類に入る汚染獣。
だからとは言えその1体を1人で相手にするのは難しい。本来なら数人の武芸者でかかり、安全確実に倒すのが最良の手段だ。
だが、それは通常の都市での話。固体としてそんなに強くないとは言え、通常の都市では汚染獣は恐ろしい脅威なのだ。
だが、それがグレンダンなら、汚染獣を逆に襲うように遭遇する都市ならば、その基準は違ってくる。
グレンダンにとって、雄性一期は若い武芸者の初陣の相手としてはちょうど良いのだ。
そして例に漏れず、グレンダンの王家、ロンスマイアの少女が初陣として戦場に立つ。グレンダンでは初陣の際に熟練の武芸者が後見として見守る決まりごとのようなものがあった。
だが今回の後見人は、少女とはひとつしか違わない少年。当時11歳だった少女に対し、彼は12歳だった。
だけどこの少年は史上最年少で天剣授受者となった天才、レイフォン・ヴォルフシュテイン・アルセイフ。
それ故にレイフォンの実力は噂で聞き、自分と歳もそれほど変わらない事からどこか意識していた。
幼くして天剣となった少年。そう言った憧れと共に、自分でも不可能ではないと思う若い武芸者はいくらだっているのだ。少女だってその1人だ。
だからこそ、突如少女の後見人となったレイフォンに驚きはしたものの、その内心は高揚し、戦意が駆り立てられた。
レイフォンの前で無様な姿は曝せないと意気込むと共に、彼を後見人に指名した祖父のティグリス・ノイエラン・ロンスマイアに感謝する。
少女の名はクラリーベル・ロンスマイア。
天剣授受者、不動の天剣ことティグリスの孫だ。



「っ……」

汚染獣の巨大な尻尾が振り下ろされ、それをクラリーベルがかわす。
相手は雄性一期。
トカゲのような体躯のそれは、昆虫のような翅を羽ばたかせて上空にいる。
かわしたクラリーベルは活剄の密度を上げ、跳躍する。
空を飛ぶ汚染獣。故に狙いはその昆虫のような翅を切り、地に落とす。

武芸者の汚染獣に対するアドバンテージは速度。
仮にも人間である武芸者が、体力や力で人外である汚染獣に敵うはずがない。そんな事ができるのは、それこそ膨大な剄を持つ天剣授受者くらいだ。
故にその速度を生かし、鈍重な汚染獣の翅を瞬く間に切り裂く。
翅を切られた汚染獣はなすすべなく地に落ち、体をうねらせていた。
これにより相手の制空権を奪う。だが、油断はできない。
地に落ちたとは言え、巨大なのはそれだけで武器だ。汚染獣の体躯はそれだけで脅威なのだ。
周囲に渦巻くのは汚染物質。都市外装備に身を包んでいなければ肺が5分で腐る死の世界。
そんな場所でかすり傷ひとつでも負ってしまえば、そこから肌を焼かれる。時間制限を突きつけられ、全力では戦えなくなってしまう。
だからこそ汚染獣の攻撃を受け、かすり傷すら負わないようにクラリーベルは避ける。
避け、隙をついて反撃する。

次に厄介なのが、汚染獣の防御力、生命力だ。
半端な一撃は通らず、そのあまりにも硬い甲殻によって守られている。
如何に相手が雄性一期とはいえ、その甲殻、鱗は新人武芸者にそう簡単に破れるものではない。
かわし、少しずつ切り刻んで行く、削り取って行く。
そして甲殻を剥ぎ、そこに大技を叩き込む。

「……まだ生きてますか」

削り取った汚染獣の鱗に衝剄を放つも、未だに汚染獣は生きている。痛みに身を悶えさせ、飢餓と怒りをクラリーベルに向けてきた。
その視線に怯むことなく、胡蝶炎翅剣(こちょうえんしけん)と名づけられた、クラリーベル考案の紅玉錬金鋼製の奇双剣が振られる。
この錬金鋼が紅玉錬金鋼製と言う事からもわかるが、クラリーベルは化錬剄を得意とする武芸者だ。
天剣授受者であるトロイアット・キャバネスト・フィランディンに指示し、その技を学んだ。
錬金鋼に剄を通し、クラリーベルはその化錬剄により汚染獣に止めを刺そうとするが……

「あら……?」

体が言う事を聞かない。
錬金鋼を持った腕がだらりと下がり、猛烈な気だるさがクラリーベルを襲う。

(うそ……嘘!?)

体に動けと命じるが動かない。
これには流石に慌てて、クラリーベルは冷や汗を流す。
原因はわかっている、剄脈疲労だ。意外に汚染獣との戦闘が長引いてしまい、スタミナ配分を間違えてしまったのだ。
この程度、普段の鍛練や試合などではまだまだ大丈夫と思っていたのだろうが、実際に汚染獣の前に立って戦うのと試合は違う。
傷ひとつついたら終わりの状況で神経をすり減らしつつ戦うのは、鍛練や試合なんかとは比べ物にならないほど消費するのだ。

(まずい……)

これでは戦えない。ならば生き残るために逃げようとするが、それすらも体が言う事を聞かずに地に倒れてしまう。
いくら戦闘中だったとは言え、ここまで消耗していた事に気づかなかった自分を罵倒する。
大丈夫だとは思っていたのだが、考えではまだ行けたのだが、思考に体がついていけずに動けない。
このままではまずい、非常にまずい。目の前には止めを刺し切れていない汚染獣。
クラリーベルの運命など、その汚染獣の餌となる以外道はない。そう、ここにクラリーベル以外の人物がいなければの話だが。

「………あ」

その光景は、あまりにも鮮烈だった。
いや、鮮烈だどうとか言う以前に何が起こったのかすら理解できなかった。
ただ気がつけば、自分の目の前にいた汚染獣の首が飛び、辺りには汚染獣の体液が飛び散っている。
それをやった人物が誰かなんて、そんなことは考えるまでもない。
天剣を復元させた後見人、レイフォン以外にありえないのだから。

「ご苦労様です、レイフォンさん」

「はい」

蝶のような念威端子から老婆の声が聞こえる。
天剣授受者唯一の念威繰者、デルボネ・キュアンティス・ミューラの声だ。
その念威越しの会話にうなずき、レイフォンは天剣を剣帯に仕舞った。

「惜しかったですね、クラリーベルさん。ですが、初めてにしては筋がよかったですよ。次はきっとうまくいきます」

「はい……」

デルボネに慰められるが、クラリーベルの心ここにあらずと言った感じで、呆然としたように言葉に覇気が無い。

「大丈夫ですか?クラリーベル様」

「あ、大丈夫です、レイフォン様……」

レイフォンにとって、クラリーベルはグレンダン王家の跡取り。
クラリーベルにとって、レイフォンは天剣授受者。
故に互いに敬語を使いながら、クラリーベルはレイフォンによって差し出された手をつかんで立ち上がろうとする。

「あ……」

だが立ち上がれない、体に力が入らない。
あまりの気だるさに体が言う事を聞かず、筋肉痛のような痛みが鈍く走る。
これではとてもグレンダンまで戻ると言う事は出来なさそうだった。

「少し失礼しますよ?」

「え……って、きゃあ!?」

それに気づいたレイフォンは一言クラリーベルに謝罪し、クラリーベル自身も自分でも驚くほどに甲高い悲鳴のような声を上げる。
レイフォンがクラリーベルの背と足に手を回し、抱え上げたのだ。
これは俗に言う、お姫様抱っこである。

「あらあら」

その光景を念威越しに見て、デルボネの微笑ましい声が聞こえる。
都市外装備をしているために顔は見えないが、クラリーベルの表情は赤面していた。
だが、それをまったく意に返さずにレイフォンはクラリーベルをランドローラーのサイドカーに乗せる。
自分はそのまま、何事も無かったかのようにランドローラーにまたがり、クラリーベルに言った。

「それじゃ、帰りましょうか」

これが、レイフォンとクラリーベルの出会い。
だが、レイフォンはこのことを覚えているだろうか?
彼にとっては、幾度と無く戦った戦場のひとつとしか認識していないのだろう。
だが、クラリーベルは覚えている。今でも鮮明に思い出せる。
レイフォンにはなんともない戦場でも、クラリーベルにとっては忘れることのできない思い出深い戦。
自分にはあのようなことが出来るのか?
今は出来なくとも、将来できるようになるのか?
たった一太刀で、一撃で汚染獣を倒すことが出来るようになるのか?

たまらない。その日から、レイフォンの事ばかりを考えるようになってしまった。
1日たりともレイフォンの事を忘れることが出来なくなってしまった。
何時だって思う。そして、3年経った今だって思う。
レイフォンを超えたくて仕方が無い。超えて、自分を認めて欲しい。
そのためには腕を磨いた。3年前に比べて、比べ物にならないほど強くなったという自覚もある。
グレンダンでは、天剣や女王を除いて自分に勝てる者はいないだろう。
だが、だと言うのに……その想い人、超えるべき相手がいない現状に、クラリーベルは深く、切ないため息を付くのだった。







































「油断大敵」

「………っ」

鍛錬中、師であるトロイアットに隙を突かれ、クラリーベルの敗北が決定する。
現在、軽い組み手と言った感じで対峙していたクラリーベルとトロイアット。
決着は一瞬だった。無数のトロイアットの幻がクラリーベルを囲み、あっという間に間合いを詰められて投げ飛ばされる。
その投げ飛ばした動作の後、トロイアットの右腕がクラリーベルの胸の小さい果実をしっかりと揉んでいた。

「鍛錬中に考え事とは感心しないな。それにしても……相変わらず小さいな」

鍛錬中に思考にふけっていたのは確かに悪かったと思う。
そもそも、本来天剣授受者とは強さにだけ固執する者が多く、トロイアットのように弟子を取る者は少ない。
そのトロイアットも、弟子入りを志願したのが女性だったからこそ受けたのであって、そんな境遇で弟子入りした身とあっては師の指導を聞き流すなんて失礼に当たるだろう。
だがこれは、流石にいくらなんでも……

「言いたい事は……それだけですか?」

セクハラを働いた師に殺意を抱き、体をプルプルと震わせる。
師の実力は尊敬しているが、人としては女王と同様、最低だと思うクラリーベルだった。





「そういや、さっきカナリスがなんか泣いてたな。また我らが陛下にいじめられたのかね?」

「知りません」

鍛錬を終え、師と弟子の何気ない会話。
だけどクラリーベルは不機嫌そうで、その会話に棘がある。
もっとも、あのようなことをされれば当然だろうが。

「なんだよ……ちょっとした冗談じゃねぇか」

「トロイアットさん。女性にあのような冗談は感心しませんよ」

「デルボネ……」

開き直ったように言うトロイアットに、蝶のような念威端子から咎めるような言葉がかけられる。デルボネである。
彼女の念威は膨大で、常にグレンダン中に端子が飛び交っているらしい。
つまりは、彼女にはグレンダンで起こっていることが手に取るようにわかるらしい。
かなりの高齢で、ほとんどを病院のベットで寝て過ごしているらしいが、このように念威での会話は可能だ。

「まったく、トロイアットさんはその女癖の悪さを失くせばいい人なんですけどね」

「これは俺の生き様だからな」

重度の女好きであり、幾多の女性に手を出しているトロイアット。
師のその部分を軽蔑しつつ、クラリーベルは小さくため息を付いた。

「それはそうと、デルボネならカナリスが何で泣いてたのか知ってんじゃないのか?」

話をそらすように、何気なくトロイアットがした質問。
その質問に対し、蝶のような念威端子から返答が返ってきた。

「なんでも、廃貴族が見つかったらしいですよ。それも学園都市ツェルニで」

「ツェルニ?ツェルニっていや確か……」

「ええ、レイフォンさんのいる都市ですね」

その言葉を聞き、クラリーベルがピクリと反応する。
レイフォンと言う名を聞いて、この話に興味を持ったのだろう。

「それでもし、レイフォンさんを敵に回した場合を考えて天剣授受者を1人向かわせるらしいですが、どうやらサヴァリスさんに決まりそうですね」

「そんなことか。まぁ、俺にはどうでもいいことだけどよ」

サヴァリスが志願していたと告げるデルボネだったが、自分には関係ないともう興味を失いつつあるトロイアット。
その様子に呆れたように微笑むデルボネだったが、クラリーベルがポツリと口を開いた。

「先生……先生は志願する気、ありませんか?」

「ないね。放浪バスなんて狭っ苦しい乗り物に篭ってられっかよ。その移動が無けりゃ、新しい女の子を求めて行ってみるのも面白いけどな」

「聞いた私が間違いでした」

問いかけたことを後悔し、再びため息が漏れる。

「なんだ、意中の相手にでも会いに行きたいってのか?」

「あらあら、そうなんですか?クラリーベルさん」

その様子を見て、トロイアットとデルボネがクラリーベルをからかうように言ってきた。

「ええ、会いたいですね」

「へぇ……」

「あらあら」

だが、あっさりとしたクラリーベルの返答に2人は拍子抜けするも、それはそれで面白い答えだと感嘆の声を漏らす。

「私がどれだけ強くなったのかも気になりますし、レイフォンに強くなった私を見てもらいたいです。そして、私はいつかレイフォンを超えてみます」

が、あくまで予想通りというか、サヴァリスほどとは行かなくとも戦闘中毒者な弟子に呆れつつ、トロイアットは言った。

「別にクララがどうしよーかは勝手だが、そこまでする必要あんのか?グレンダンを追放されて学園都市に行って、すっかり骨抜きになっているかもしれないぜ」

レイフォンがグレンダンを出て、もうずいぶん経つ。
しかも彼は武芸を続ける意味を失くし、武芸をやめようとすらしていた。
そんなレイフォンが学園都市というぬるま湯に浸かり、腕が落ちたのではないかと危惧するトロイアット。
だがクラリーベルは、そんな事どうしたとばかりに言ってのけた。

「そうなっていたら、そうなっていたです。行ってみないことにはわかりません。ですが、レイフォンが本当にそうなっているでしょうか?」

それは希望、もはや願望だ。
レイフォンにはそうなって欲しくないと願い、強いままの、あのころのレイフォンのままでいて欲しいと願う。
自分が憧れ、超えたいと思うレイフォンのままで。
そして自分は、そんなレイフォンに会いたい。

「ま……お前がどう思っていようと勝手だけどな」

そう言って、トロイアットは立ち上がって去って行く。
今日はデートだからと言っていたので、どこぞの誰かは知らないが女性に会いに行ったのだろう。
どうでもいいことだと思考を破棄しつつ、クラリーベルはレイフォンの事を想った。

「レイフォン……あなたは今、どうしていますか?」






























あとがき
見事にレイフォンとフェリが出てきませんでした(汗
そんなわけで今回はグレンダンサイド。いかがだったでしょうか?
うぅ、自分でも思いますがフェリ成分が足りない……それはまぁ、次回?
書けるかな……?

それはさておき、クララが原作に比べて比較的早く登場。
しかし、クララが書くの難しい……
せりふやら心境やら。
今回、たびたび赤面してますがクララも女の子です。そして陛下にセクハラされて怒っていたりもしました。
だからこんな場面があってもいいではないかと思いますが、いかがでしょう?

さて、ところで今後の展開ですが、別にクララが介入してもいいですよね?
マイアスいっちゃってもいいですよね?
ツェルニ行っちゃってもいいですよね?
ぶっちゃけると、リーリンよりクララの方がフェリに対しては強敵です。
もっとも、フォンフォンはフェリ一直線なので勝率は低いですが……
はてさて、今後はどうなるのか?
XXX板が進まないと嘆くこのごろです。


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