グレンダンで12人しか存在できない天剣授受者。
都市を汚染獣から護る、圧倒的な強さを持つ武芸者。
レイフォン・アルセイフは史上最年少、10歳という若さでその地位についた。
だから、これでもう、金に困ることはないと思った……
それから5年後。
ツェルニ機関部にて、
「いいか、新入生諸君」
レイフォン・アルセイフは、機関掃除の学生就労(バイト)をしていた。
ツェルニに新しく入った新入生に説明するため、ここの責任者であろう学生が集まった労働者、主に1年生を対象に注意を促す。
それをレイフォンは、夜遅くと言うこともありながら眠そうで、欠伸をしながら聞いている。
「機関部では電子精霊にセルニウムを届け、ツェルニを動かす。ここの手入れをただの掃除と舐めてもらっては困る」
なにやら大事な話をしているらしいが、レイフォンからすればあまり興味はなく、うとうとと立ったまま舟をこぎ始める。
本当に眠いのだ。
「そこ!聞いてるのか!」
そんなレイフォンに向け、怒声と容赦なくバケツが飛んでくる。
「……いったぁ」
確かに居眠りしそうに、と言うかボーっとしていたのは悪いかもしれないが、何もバケツを投げつけなくてもいいだろうと思うレイフォン。
バケツがぶつかった頭をさすっていると、そんなレイフォンを周りがくすくすと笑っていた。
責任者の学生が『笑うな!』と注意するも、どうも恥ずかしい。
もっとも、いつもならともかく今回はカリアンが視察に来ているので、責任者の学生が厳しいのは当然かもしれないが。
「生徒会長の視察中にたるんでるぞ!」
早速、その事について聞き覚えのある声に注意される。
と言うか、この声は……
「ニーナ先輩!?」
第十七小隊隊長、ニーナ・アントークの声だ。
普通、武芸者、しかも小隊隊長なんて人物はまずここ(機関部)の掃除なんてバイトはやらない。
武芸者は都市を守るのが仕事だし、そのために学園都市なんかでの奨学金の保証なんかもしっかりしている。
だから、給金はいいけど夜中にやる、きついこの仕事をやる武芸者と言うのはほとんど存在しない。
レイフォンは元々、一般教養科に入るつもりだったからここにいるのだが……
カリアンにAランクの奨学金を振り込まれてはいるものの、どうもあの男は信用できないし、いざと言うときのためにお金を稼いでおく必要があると思い、ここにいる。
だからニーナがここにいるなんて、レイフォンからすれば予想外だった。
「作業は2人組みでやってもらう」
そんなレイフォンの思考など知らず、責任者の学生が仕事の説明を続ける。
「ああ、レイフォン君は余裕みたいなので、1人でも大丈夫かな」
「!!」
だが、カリアンがレイフォンをからかうかのように、嫌がらせでも言うかの様にそんなことをつぶやく。
「E17地区。一番大変なところだがね」
(この陰険眼鏡……!!)
敵意を通り越し、殺意すら覚えてくるレイフォン。
今度、暗殺でもしてみようかと半分本気で考えていると、
「私がペアになります」
「えっ!?」
突然ニーナがそんなことを言い、レイフォンは驚く。
ハッキリ言ってニーナのことは苦手だ。
出会い方が悪かったし、美人ではあるものの、怖い先輩だとレイフォンは思っている。
「……なんか今、物凄く嫌そうな顔をしなかったか?」
そして、それが顔に出てしまったのか、不機嫌そうに尋ねてくるニーナ。
怒気すら含んでいそうな表情だ。
「いえ!とんでもない!!ありがとうございます!!」
それを否定するレイフォンだったが、彼の表情が引き攣っていたのは仕方のないことだろう。
そんな風にレイフォンが悩んでいる中、その原因を作った陰険眼鏡はというと、
「カリアン様」
カリアンを呼ぶ女性、生徒会秘書がカリアンに近づき、何かを耳打ちしていた。
レイフォンはそれどころではなかったために、気づいていない。
「これが……!やっと手に入ったか」
そして、秘書に渡された封筒のようなもの。それを受け取り、カリアンは欲しかった玩具が手に入った子供のような表情をする。
「レイフォン君、またあとで会おう」
「はぁ……」
カリアンはそのまま、その封筒を持って機関部から立ち去って言った。
そんな彼の背を見送りながら、レイフォンの心の内は『二度と会いたくない』と言う感情だった。
「~~~~~」
夜中の事。ロス宅にて。
ここはカリアンの住むマンション(寮)であり、妹であるフェリもここに住んでいる。
そして、夜中という事で既に眠っていたフェリだが、それは騒がしく帰ってきた兄によって起こされた。
何か急いでいるようで、乱暴に玄関の扉を開け、これまた乱暴に閉め、子供の様に走って自分の部屋、書斎へと向っていく。
「兄さん……」
そんな物音で起こされたフェリは、寝ぼけたまま枕を持ち、寝間着姿の格好でカリアンの下に来ていた。
「静かにして、ください。寝不足はお肌の大敵です……」
苦情を兄に伝えるために。
だけどその兄は、椅子に座って、新聞を広げていた。
「フフフ、そうか……そういうことだったか……」
「……?」
そんな兄が何を考えているのか、フェリにはわからない。
「……いや、いいものを手に入れたんだよ。グレンダンで、こんなことがあったとは、ね……」
不思議そうなフェリに、相変わらず薄い笑みでカリアンが答える。
その新聞は、秘書が渡した封筒に入っていたもの。
それはグレンダンの、とある事件を取り上げられた新聞だった。
(やっぱり、掃除は良いな。無心に身体を動かしてればいいから……)
レイフォンは料理の他にも、掃除が結構得意である。
と言うか、数少ない彼の趣味といってもいいかもしれない。
単純作業は嫌いではないレイフォン。その間、何も考えないで住むからだ。
そういえば、孤児院にいた時から気づけば掃除をしていた。
それは、天剣授受者になってからもだ……
「レイフォン、休憩にしよう」
レイフォンの方をポンと叩き、声をかけるニーナ。
彼女と2人っきりでこの地区を担当する事になったので、他には誰もいない。
「今日は奢ってやる」
夜中の仕事であり、体力も使うということで、休憩時間は夜食を取ることが多い。
そんな訳でニーナの言葉に甘え、夜食をご馳走になる事にしたレイフォン。
正直、ありがたい話だ。
通路にある、ちょうどいい高さにあったパイプに座り、ニーナから弁当を渡される。
弁当の中身は、サンドイッチだった。
それを口にするレイフォン。すると、サンドイッチの具である鶏肉と野菜と、辛味のあるソースがうまい具合に混ざり合う。
「美味いですね」
「だろう!人気の品だからな。配達時間を把握しておかないと、手に入らない……」
レイフォンの言葉に、嬉しそうに頷くニーナ。
彼女は水筒を取り出し、それもレイフォンに渡そうと注いでくれる。
その水筒の中には、温かいお茶が冷めずに入っていた。
だが、
「うあちっ!」
「せ、先輩、大丈夫ですか」
冷めていないからこそ熱く、それが手にかかって熱がるニーナ。
そんな彼女から受け取ったお茶を見て、レイフォンはニーナに尋ねる。
「これも配達か何かで?」
「いや、こっちは自前だ。ここの飲み水はまずいからな。次からは自分で用意しておけ」
意外な言葉に驚き、そして忠告を受けながらレイフォンはお茶を飲む。
ニーナが用意したお茶は、これまた意外にも美味しかった。
(なんか……イメージと違うな……)
出会い方が悪かった故に、どちらかというと苦手だったニーナの印象。
だけどこうしてみると、ニーナは意外にも面倒見が良く、優しそうにも思えた。
「なんだ?そんなに見られてると、食べ辛いぞ」
「あ、すみません。ちょっと意外で……」
そんな風にニーナを見ていたレイフォンに、彼女が困ったように言ってくる。
それを謝罪しながら、レイフォンは気になった事を漏らす。
「先輩が機関部掃除をしているなんて、思ってなかったですし……」
「私のような貧乏人には、ここの高報酬はありがたい」
その言葉を聞き、レイフォンは意外そうな顔をする。
比較的、例外も存在して本当に比較的だが、武芸者には裕福な家庭と言うのが多い。
まぁ、レイフォンはその例外のうちに入るのだが、ニーナの立ち振る舞いや喋り方などからして、上流階級の様に見えていたニーナから語られるこの言葉は意外だった。
しかも、小隊の隊長となる人物がだ。
「意外か?まあ、実家が貧乏なわけじゃないが……」
レイフォンの表情を見て、聞きもしてないのに語りだす。
まぁ、確かに興味がないといえば嘘だが……
ニーナは自分のことを語りだした。
「親が学園都市に行くのを反対してな。半ば家出の様にここに来た。だから実家からの仕送りはない。だが、それでも……」
そんな訳で学費などの援助を親にはしてもらえず、ニーナはここで働いているらしい。
それに、彼女には願いがあった。
「私は自分の目で、外の世界を見てみたかったんだ」
確かに故郷で暮らせば、生きるのに何不自由生活を送れる。
だが、それをニーナは籠の中の鳥と感じてしまう。自由のない、鳥のようだと。
だからこそ外に出て、故郷とは違う都市に来たのだ。
それがニーナの、ツェルニに来た理由。
「お前はどうしてここに来た?」
そしてレイフォンに、少しわくわくしながら尋ねるニーナ。
彼はどんな思いでこの都市に来たのかと。
だけど、レイフォンの来た理由は……
「しょ……奨学金の試験に合格できたのが、ここしかなかったんで」
これなのだから。
近場の都市で合格できていれば、わざわざ遠いツェルニにではなくそっちに行っている。
嫌、案外、彼を知らない遠くの都市に行く事が正解なのだろうが、このツェルニにはカリアンがいた……
それとは関係なく、レイフォンの言葉に失望した表情をするニーナだったが、
「孤児なんで、お金ないんですよ」
続けられたこの言葉に、彼女の表情は罪悪感でいっぱいになる。
「……そうだったか、すまない」
「いえ、いいんです」
ニーナに気にしてないといい、レイフォンは続けた。
「僕は……武芸以外の道を見つけたくて、ここに来たんです」
そして、これも理由。
学園都市で、何か他の道を見つけるために来たレイフォン。
「ふむ……それは見つかったのか?」
「そんな簡単じゃありませんよ」
ニーナの問いに、そう返すレイフォン。
そんな簡単に見つかれば、苦労はしない。
「なぜ武芸ではダメなんだ?」
そう答えたレイフォンに、ニーナは尋ねる。
「正直、お前の実力はかなりのものと思っているが……」
レイフォンの実力を確かめたニーナだからこそわかる。
今は原石のような物で、研けば必ずその才能は光り輝くと。
だけどニーナは何も知らない。
「武芸ではダメなんです。それはもう、失敗しましたから」
それはレイフォンには、触れて欲しくない話題である事。
そして、既にレイフォンは天すら焦がすほどに光り輝く実力を持っている事……
「……失敗?」
「……もう、昔の事です」
ニーナの問いに、レイフォンは追求を拒む。
もう、これでこの話は終わり……そう訴えるように。
その時だった。
「おい、この辺りで見なかったか?」
通路を走り、やってきた上級生の就労者。
そんな彼の問いに、レイフォンは『何を?』と返そうとしたが、それよりも早くニーナが口を開く。
「またか?」
「まただ、悪いな、頼む!」
そう言い残し、去っていく就労者。
レイフォンにはまるで、訳がわからない。
「やれやれ」
「あの、何が?」
「都市の意識が逃げ出したのさ」
「……は?」
ニーナに尋ねるレイフォンだが、それでもわからない。
と言うか、更にわからなくなった。
「まあ、いいからついて来い」
ニーナに言われ、後をついていくレイフォン。
その道中、ニーナが説明してくれた。
「都市の意識というものはな、好奇心が旺盛らしい」
「はぁ……」
「汚染獣から逃げ回るという役割もあるが、それ以上に、世界とは何かという好奇心を止める事ができずに動き回る……」
都市の意識とは、電子精霊の事だ。
その電子精霊が都市を動かし、汚染獣から逃げる。
それが、逃げ出したという事だ。
そして、ニーナは説明が終わると足を止める。
そこは落下防止の柵が行く手を阻んでおり、そこから仮想には、プレートに包まれた機械があった。
そこでニーナは、名前を呼ぶ。
「ツェルニ!」
この、学園都市の名を。
だけど、都市を呼んだのではない。
「これが……都市の意識?」
呼んだのは、少女の名だ。
その少女は空を飛び、ニーナへと飛びついてくる。
赤ん坊の様に小さな子供で、長い髪が足まで届きそうな少女だ。
そして、その少女の体が光り輝いている。
それが……ツェルニという電子精霊。
「はは、相変わらず元気な奴だ。整備士達が慌てていたぞ」
ツェルニを抱きしめ、優しい笑顔で微笑むニーナ。
そんな彼女の姿も、レイフォンには意外で新鮮だった。
「ちゃんと動いてやれよ。お前が手を抜くと、整備士達が調整だなんだと、走り回らなくてはなくなるからな」
レイフォンは唖然としながら、ツェルニとニーナを見つめている。
そうしていると、ツェルニとレイフォンの目が合った。
「ああ、これが新入生だ。紹介してやろう。レイフォン・アルセイフ。なかなかに強い奴だぞ。レイフォン、これがツェルニだ」
ニーナはツェルニにレイフォンを紹介し、今度はレイフォンにツェルニを紹介する。
「……これが?」
「そう、この子が都市そのものだ」
ツェルニがレイフォンへと近づいてくる。
そんな彼女の頭に少し触れ、なでてみる。
するとなでられたツェルニは、気持ちよさそうに目を細めた。
「ほう、気にいられたようだな」
押し殺したようなニーナの笑い。
その笑みの裏には、何かを隠しているようだった。
「気に入らない相手だと、この子の身体を構成している雷性因子が相手を貫くからな」
「っ!?」
今更な事を言われ、慌ててツェルニから身を引くレイフォン。
ツェルニは訳がわからないように首をかしげ、そんなツェルニを抱き寄せ、ニーナは悪戯が成功した子供の様に微笑む。
「ツェルニ、酷いお兄ちゃんだねー」
それでいて、母性も感じさせる笑み。
(ニーナ先輩、凄いなぁ……)
電子精霊になつかれるニーナを見て、素直に感心するレイフォン。
「レイフォン」
そんなレイフォンに、ニーナは真面目な口調で話しかけてきた。
「学園都市対抗の、武芸大会は知ってるよな?」
最初、レイフォンも知らなかったが要はアレだ。
2年周期で行われる、レギオス(都市)同士の戦争。
そして、教育機関の学園都市であるレギオスで殺し合いはまずいと言うことで、武芸大会と銘打たれている試合(戦争)の事だ。
「この大地を作った、昔の錬金術師が何を考えたのか知らないが、都市は2年ごとに縄張り争いを始める。学園都市は学園都市と」
その戦う都市は惹かれ合うもの、似た物らしいので、学園都市は学園都市としか戦わない。
間違っても、学園都市とグレンダンなんて構図は起こらないのである。
「武芸大会なんて体裁を繕っても、実際には普通の都市で行われるのと同じ……戦争だ。都市の動力源、セルニウム鉱石が採れる鉱山を賭けて争う」
レギオスを動かすのに必要な物質、セルニウム。
これがなければレギオスは朽ち果て、都市は死を迎える。
それ故に、鉱山を賭けて戦うのがこの戦争。
「ツェルニも昔はいくつも鉱山を保有していたが、現在の保有数はたったひとつ。つまり次で負ければ……今期の武芸大会で負ければ、鉱山を奪われ」
鉱山の数は0になり、
「ツェルニは死ぬ……この子は死ぬ。この大地の草木は枯れ果て、エアフィルターが切れて、汚染物質が都市に入り込む」
何も、都市が滅びるのは汚染獣の襲撃だけではない。
こういう滅び方だってあるのだ……
グレンダンで育ってきたレイフォンは、圧倒的な戦力を保有する故にそのどちらの深刻な問題を特に意識しないグレンダンの者では、その問題については今まで考えた事もなかった。
「私達は幸いにも、都市を護るための能力を授かったんだ。だから……」
それが武芸者。
天からの贈り物の様に、特別な力を手に入れた者達。
そしてニーナは、この都市を護りたい。
「一緒にツェルニを護ろう」
レイフォンの手を取り、そう宣言する。
そのために、ニーナは小隊を立ち上げたのだから。
(ニーナ先輩……)
そんなニーナを、レイフォンは本当に凄いと思う。
憧れるくらいに、眩しいくらいに。
だけど、レイフォンは……
「思ってたのと、全然違ってた……」
それは、ニーナのイメージ。
彼女は優しくて、とても強い。武力的なことではなく、心、精神的なものだが。
(怖いだけの人じゃなかった。ニーナ先輩も一生懸命なんだ)
レイフォンはバイトが終わり、自室に帰る道中もそんなことを考えていた。
ツェルニを護ると宣言した、強い女性の事を。
(だけど、僕は……)
「お、今、バイト終わりか?」
「あ、オリバー先輩」
考え事をしながら寮に入り、自分の部屋を開けようとしたところで、同じく今頃帰ってきたのであろうオリバーと鉢合わせをした。
「オリバー先輩もバイトですか?」
「まあな。俺はバーのバイトだから、後片付けもして今上がりだけど……お前は機関掃除だっけ?」
「はい、そうです」
ここは学園都市だが、6年制であるために最上級生は21歳にもなる。
そんな訳で普通に酒場なども存在し、生徒でもお酒は飲めるのだ。
もっとも、年齢制限は当たり前にあるが。
「俺も一時期、金が入用で機関掃除やった事あるんだけどさ、あれはきついよな……」
「そうですね」
確かにあの仕事はきつい。
レイフォンは体力があるほうだから問題ないが、普通の人があれをやるとかなり体力を使う。
だが、給金が良いのは嬉しい事だ。
「で……ツェルニには会ったか?」
「……オリバー先輩も、あるんですか?」
突然振られた、この会話。
オリバーが何かを知っているのか、この会話には何の意味があるのかと。
だが……
「ああ、バイト中に偶然な。かわいいよな、アレ。なんていうかさ、こう、抱きしめたくなるって言うか」
ただの世間話であった。
「こう、なんて言うの?小さい子こそ正義みたいな?いいよね、アレ。お兄ちゃんなんて呼ばれたい!あ、そういえばツェルニってしゃべれんの?」
しかも、かなり危ない人らしい。
「でさ、そのバイトのときに一度、思いっきり抱きしめてみたんだけど……その時は雷性因子で貫かれて、大変だったよ。まぁ、照れたんだろ……」
そんなオリバーを無視し、レイフォンは自室に入って扉を閉める。
明日も学校だ。早く寝てしまわないと辛い。
故にロリコンは放っておき、レイフォンは布団にもぐりこんで目を瞑るのであった。
「レイフォン君!!」
翌日、寝不足のレイフォンは通学路で出会った人物により、とても不機嫌になる。
(陰険眼鏡!!)
カリアンに会った所為で、朝から最悪の気分だ。
「折り入って、君にお願いがあるんだが」
フェリと兄妹だと言うのに、まるで正反対な薄い笑み浮かべながらレイフォンに語りかけてくるカリアン。
「昨夜は機関部で、ツェルニを見つけてもらったみたいだね。どうもありがとう」
「……はぁ」
お願いと言う割には、世間話のようなことを言うカリアン。
だけどここからが本題で、この話はそれに十分関係する事だった。
「君は……あの子を死なせたくないと思わないか?」
「……!」
遠まわしにカリアンが言う。
それはつまり、鉱山を奪われないようにしろと言う事。
「それには武芸大会で勝つのは勿論だが、まず、学内の小隊戦に勝ちたまえ。第十七小隊の強さを見せて、武芸大会でいいポジションに配置できるようにするんだ」
「……………」
小隊戦と言うのは、武芸大会前に行われる腕試しのこと。
カリアンの言うとおりポジション決めをしたり、優秀な成績を残せれば作戦など、指揮を取る事ができるために何かの重要なイベントなのだ。
だがもちろん、そんなこと、レイフォンの気が乗るわけがない。
「気が乗らないようだね。じゃあ、こういう交換条件はどうかな?」
ならば、カリアンには秘策がある。
「君の過去の過ち、私は偶然知ってしまったんだがね。もし君が小隊戦で勝てば、それを秘密にしておいてあげよう」
陰湿な手である。
「どうして……もう、放っておいてください」
もう我慢できない。
レイフォンはカリアンに向け、敵意を向けた視線で怒鳴る。
武芸科に転科させられ、小隊にも入れられた。これ以上、カリアンはレイフォンに何を望むと言うのだろうか?
「僕は僕の道を見つけるんです。フェリ先輩だってそうです!」
自分の道は自分で決める。
フェリだってそれを願っていると言うレイフォンだが、
「僕は、やると言ったらやるよ」
カリアンは、聞いてはいなかった。
「勝手に言いふらせばいいでしょう」
「ニーナはどう思うだろう。君の過去を知ったら?」
「……………」
強がるレイフォンだが、カリアンの言葉に表情が強張る。
昨夜のニーナのことを思い出し、レイフォンは無言となった。
「フェリは君の過去を知っても、変わらず接してくれるだろうか?君の同級生達は?寮の人達は?」
カリアンの言葉が、レイフォンを追い詰めていく。
「期待を裏切られた時、人がどんな反応をするか、君は身を持って知っているはずだ」
知っている……良く知っている。
痛いくらいに……知っている。
「ただ、金が欲しいばかりに君は……」
全てが、カリアンの掌で踊っているようだった。
「可哀相だね、君は」
だけどこれは、カリアンも、当然レイフォンも知らない。
フェリは知ったのだ。
カリアンがレイフォンのことを知るために、グレンダンから取り寄せた新聞を、兄の目を見て盗み読み、知ってしまった。
「好かれたくて迎合して生きているのに、仮面が剥がれると裏切り者扱いされるんだ」
レイフォンの過去を。
その事を、レイフォンもカリアンも知らなかった……
あとがき
正直、オリバーに関してはやってしまいました(汗
彼はロリコンです。