「だりぃ。昼まで寝ているつもりだったのによ」
早朝、都市下部の外部ゲートに最後にやってきたシャーニッドが、めんどくさそうに不平を漏らした。
後ろでまとめた髪には寝癖が残っていて、あっちこっち跳ねている。
明らかに寝起きと言った格好だ。
「お前……今日は休日じゃないぞ。何をしていたんだ?」
「イケてる男の夜の生活を想像するもんじゃないぜ」
「なんでもいいから、もう少しまともな生活をしろ」
シャーニッドの言葉に呆れ、ニーナは怒るのも疲れたという感じで言う。
そんな光景を眺めつつ、フェリは不機嫌だった。
その理由と言うのが、今回の任務についてだ。
なんでも現在ツェルニは、セルニウムの補給のために唯一所持している鉱山へと向っているらしい。
その進路上に都市があったのだが、それは探査機からの写真でもわかるほどに破壊されており、おそらく汚染獣に襲われたのではないかと言う話だ。
故に都市の偵察のために、フェリ達が借り出されたというわけだ。
人使いの荒い兄にフェリは殺意を抱きつつ、ニーナと遅れてきたシャーニッドのどうでもいいやり取りを眺めていた。
「ふむ、確かに軽いな」
新型の汚染物質遮断スーツを着て、ニーナがそう漏らす。
この間の老生体戦でレイフォンが着ていたものであり、それは普段の戦闘衣の下に着られる上に、着た後もすぐに慣れるのではという違和感しかない。
せいぜい、服を1枚余分に着たくらいの感覚だ。
「これはいいな」
「へぇ、これがこないだあいつが着ていた奴か」
シャーニッドが自分用に用意されたスーツを興味深げに眺め、
「……ふむ」
「なんだ?」
今度はニーナに視線を向け、どうでもよさそうにニーナとシャーニッドを見ていたフェリを見て、とても真面目な顔で言った。
「……エロいな」
「さっさと着替えて来い、馬鹿者が」
「へーい」
ニーナに投げつけられたスーツを持ち、シャーニッドはだらだらと更衣室へと向う。
そんなシャーニッドを冷たい視線で見送りつつ、フェリは向こうの方で話し合っている3人、レイフォンとハーレイ、オリバーへと視線を向ける。
「しかし、なんで俺が……まぁ、会長が資金援助してくれるようになったんで、こっちとしては文句ないんですけどね。ですが流石に、前回のような化け物と遭遇するのはゴメンですよ」
文句はないのだが、偵察などと言う危険な役割に巻き込まれたオリバー。
もっとも送迎と言う役割だけだが、この間みたいに老生体なんてものが出てきたら涙目ものである。
「まぁまぁ、会長もこの辺りに汚染獣の反応はないって言ってたし、フェリの念威も汚染獣を感知してないから大丈夫だよ」
「そうですよ。そもそも老生体は珍しいので、グレンダン以外なら一度会えばもう二度と会う機会はありません」
「汚染獣を一対一のガチで倒すバケモンが言うと、無駄に説得力あんな」
レイフォンを見て呆れたように言うオリバーは、そろそろ出発なので最終点検のために放浪バスへと向う。
ハーレイも錬金鋼のチェックのために、レイフォンの元から去った。
「今度は一体、あの腹黒眼鏡は何を考えているのでしょう?」
「あはは……」
そんなレイフォンにフェリが、いつもの様に兄の事で愚痴をこぼす。
相変わらず妹に信用がなく、嫌われているカリアンに苦笑しつつ、レイフォンはフェリをなだめるように言った。
「でも、まぁ、これも一応大切な役割ではありますし、また汚染獣に襲われても困るじゃないですか」
「それはわかってはいるんですけど……はぁ、いっそのこと革命をするのもいいかもしれませんね。その時はフォンフォンに革命軍の尖兵になってもらいます。旗は私が持ちますね」
「はは、それはいいですね。フェリが後ろにいるならまるで負ける気がしません。フェリが望むなら、その革命を1日で終わらせてみせます」
「頼もしいですね」
冗談のはずが冗談に聞こえない会話を交わし、逆になだめだれているレイフォン。
何気にカリアンが大ピンチだったりするが、2人はそんなこと微塵も感じさせないように小さく笑っていた。
「ん?」
不意にだ。背中を刺すような視線を感じ、レイフォンは振り返る。
少し離れた所で第五小隊が準備をしている。
今回のこの任務は、第十七小隊と第五小隊の合同任務だ。
その第五小隊は不平を漏らすこともなく、隊長のゴルネオの下、順調に準備が終わろうとしていた。
だから気のせいなのかとレイフォンが視線を逸らすが、再び背後に視線が突き刺さる。
(また……?)
最初はゴルネオなのかと思った。
彼のルッケンスと言う姓には覚えがあるし、多少の因縁もある。
それ故に彼なのかと思ったが、ゴルネオは隊員達に何か話をしている。こちらに背を向けているのだ。
(あれ?)
視線の主はゴルネオではない。
隊長である彼は貫禄を見せ付け、隊員達に何かを言い聞かせている。
視線を向けていたのは、レイフォンを睨むように見ていたのは、その隊員の1人である赤毛の少女だった。
シャンテ・ライテ。
第五小隊の副隊長であり、5年生。ツェルニで5年生と言うことはもう20歳になるはずなので、正確には少女とは言えない。
だけどフェリよりは高いが、それでも小さな背に童顔では、レイフォンと同い年と言われてもまるで疑わない。
なんと言うか、オリバーが好きそうな女性であり、彼女の猫科の動物のようにきつい瞳が、真っ直ぐとレイフォンを睨みつけていた。
(え?え?)
てっきりゴルネオだと思っていたので、これには慌てる。
不意打ちのような敵意にレイフォンが怯むと、シャンテがぷいと視線を逸らす。
「どうかしましたか?」
「あ、いえ……」
フェリがレイフォンの視線の先を追って、第五小隊の方を向く。
すると再びこちらを向いたシャンテが、『いーっ』と歯を剥いていた。
「……小生意気ですね」
「ははは……」
レイフォンが乾いた笑いを浮かべていると、ハーレイが錬金鋼のチェックを終えて戻ってきた。
「この間の試合を引きずってるのかな?」
その様子を見ていたようで、ハーレイが口を開く。
「そうなんですか?」
「十七小隊(うち)は武芸科以外には人気があるからね。それを気に入らないって人はたくさんいるだろうし」
「はぁ……」
本来なら4年生から勤める小隊長なのだが、第十七小隊の隊長は下級生、3年生であるニーナだ。
その上、その隊がここ最近、良い成績を残している。
このことは他の小隊員、武芸科の上級生からすれば当然面白くないことである。
「華々しいデビュー戦の上に、隊員は全員下級生。隊長は美人だし、アタッカーは目立つし、客の目から見れば面白いだろうね」
その言葉にどこか納得しつつ、レイフォンはハーレイから受け渡された錬金鋼をいじる。
「……こんな急じゃなかったら、新しい複合錬金鋼を渡せたんだろうけどね」
複合錬金鋼が用意できなかったのか、今回レイフォンが使うのは青石錬金鋼である。
「……昨日、何か言い合いしてませんでした?」
「ああ、あれは……汚染獣用の話だよ」
レイフォンの言葉に、ハーレイが声を潜めて言う。
「念威の報告からもわかったけど、汚染獣と戦うには従来の錬金鋼だとどうしても耐久性に不満が出てくるのがわかったからね。戦いの途中で武器が折れるなんて勘弁して欲しいでしょ」
「それは確かに……」
出来るだけあんな無茶をするつもりはないが、確かにそれは事実だ。
天剣ならば何の問題もなかったのだけど、ツェルニでそれをを求める訳にはいかない。
「まぁ、今言ってるのはそれとは関係ないけど、対人用とでも言えばいいかな?軽量化の代償に錬金鋼の入れ替えが出来なくなってるタイプなんだけど、こっちはもうすぐ出来上がりそうだったんだ。また、レイフォンにテストを頼もうと思ったんだけど。さすがに、ぶっつけ本番を何回もやりたくないでしょ?」
「確かにそうですね」
前回、老生体戦に使った複合錬金鋼は開発に時間がかかったため、実際に使ったのはあれが初めてだった。
あんな思いを、何度もしたいとは思わない。
さて、そうこう話しているうちに準備も終わり、シャーニッドが着替えてハーレイから錬金鋼を受け取る。
とっくに準備を済ませいた第五小隊の面々に冷たい視線で見られながら、レイフォン達は点検の済んだ、オリバーの運転する放浪バスへと乗り込む。
この方が多くの荷物を詰め込めるし、移動の負担や疲れも少なく済むからだ。
前回の老生体戦での活躍と呼べるほどの活躍でもないが、大勢の武芸者と多くの荷物を運べると言うことで、ある程度の予算を出してくれるようになったとオリバーは喜んでいる。
最もこういう時には借り出されるので、一概にも良いことばかりとは言えないが……
なんにせよ、外部ゲートが開かれて都市の外への道が開かれる。
「幸運を。そして良い知らせを期待しているよ」
カリアンの言葉が通信機越しに届き、放浪バスは荒野を疾走した。
「ところで、レイフォン……お前ってさ、シャンテ先輩となんかあんの?」
「いや、まったく……皆目見当も付きません」
運転席に比較的近い位置に座っていたレイフォンに、オリバーが小声で尋ねる。
だが、レイフォンはその質問に答えることが出来ない。
現在、放浪バスの中はかなり険悪な雰囲気で満たされていた。
その理由は簡単で、シャンテがレイフォンを睨んでいるからだ。
シャンテの隣に座っているゴルネオがなだめようとするも、それでもシャンテは直そうとしない。それどころかたまに、そのゴルネオ自身もレイフォンにはあまり好意的ではない視線を向けてくる。
ゴルネオには覚えがあるものの、シャンテについてはまるでない。皆無である。
もしかしたらゴルネオに自分のことを聞かされているのかもしれないが、それでもあそこまで露骨に睨みつけてくる理由がわからない。
「それにしてもシャンテ先輩って、もう少しあの野生児的な雰囲気どうにかなんないのか?いや、元気の良い子は好きだけど、あまりにも野生的過ぎるって言うか、ねぇ?」
「何の話ですか?」
いきなり話題を変え、オリバーは運転をしながらレイフォンに言う。
「いやさ、見た目はかわいいと思うよ。で、笑って、かわいい服でも着てれば凄く似合うんだろうけどさ、シャンテ先輩は本能のシャンテなんて呼ばれているように行動が獣じみてるんだよ。そういうのはあまり好きじゃないなって……あ、見た目は凄くタイプだから」
「だから何の話ですか?」
ロリコン趣味全開のオリバーに呆れつつ、レイフォンはため息を付く。
オリバーの趣味、好みに文句を言うつもりはないが、これを聞くと何故だか悩んでいる自分が馬鹿馬鹿しく思えた。
「まぁ、要するに何が言いたいかって言うと、シャンテ先輩のお守りはゴルネオ先輩が適任だって事だ」
「どうだっていいですよ、そんなこと……」
もう一度ため息をつきつつ、レイフォンは放浪バスの座席に揺られた。
放浪バスは半日ほど走り続け、目的地に何の問題もなくたどり着いた。
「こいつは、よくもまぁ……」
シャーニッドの驚きの声が響く。
行く前に見せられた都市の写真でも酷かったが、実際に目にするのとはやはり違う。
レイフォン達のすぐ真上には折れた都市の足の断面があり、そこは有機プレートの自然修復によって苔と蔓に覆われている。その蔓の群れは今にも雪崩落ちてきそうなほどだ。
エアフィルターから抜け出た場所が既に枯れきっているので、更にそう見える。
「汚染獣に襲われて、ここまでやって来たって言ってたか?」
「推測だがな」
「会長様の推測か……まぁ、外れちゃいないんだろうが」
現状に息を漏らすシャーニッド。
念威で探査を行っていたフェリが、報告を行った。
「外縁部西部の探査終わりました。停留所は完全に破壊されています。係留索は使えません」
「こちら第五小隊。東側の探査終了。こちら側には停留所はなし。外部ゲートはロックされたままです」
「あーらら」
「上がる手段はなしですか……じゃあ、俺はここまでですね」
第五小隊からの報告が入り、落胆するシャーニッドとオリバー。
「ワイヤーで上がるしかないですね」
「そうだな」
レイフォンの提案にニーナが頷く。
第五小隊にワイヤーで上がると連絡を入れ、第五小隊も東側から調査して上がるらしい。
合流する時は再び念威で連絡を入れるそうだ。
その報告を最後に、通信が切れる。
「先行します」
錬金鋼を復元し、鋼糸を都市へとかける。
「フォンフォン、一緒に上げてください」
「わかりました」
レイフォンはフェリの言葉に頷き、右手で錬金鋼を持ち、左手でしっかりとフェリを支える。
その時にシャーニッドが軽く口笛を吹き、フェリが少しだけ頬を染めたが、ヘルメットをつけているために表情が読めない。
なんにせよ、そのまま鋼糸を引き寄せてレイフォンは都市へと上がる。
エアフィルターを抜ける粘液のような感触を受け、地面に辿り着いた。
ほぼ崩壊しているこの都市だが、エアフィルターは問題なく作動している。
おそらくこの都市が崩壊してまだ日が浅く、未だに生きている機関なども存在するのだろう。
そう理解し、レイフォンはヘルメットを外した。
「それじゃ、俺はこれで」
念威を通しての連絡がオリバーから入り、彼はツェルニへと帰っていく。
ツェルニは現在鉱山を目指しているので、予定では明日の夕方にこの近くを通るはずだ。
その時にまた、オリバーが迎えに来る手筈である。
それからレイフォンに遅れ、ニーナとシャーニッドも上がってくる。
「どうだ?」
「今のところは死体ひとつありません」
ニーナの問いに、フェリは涼しい顔で答える。
重晶錬金鋼は既に復元されて、分散した念威端子が都市中を飛び回っている。
このままここにいるだけで、そう時間も掛からずにフェリが都市中を調べつくしてしまうだろう。
「よし、なら近くの重要施設から順に調べていこう」
だと言うのにニーナは、直接出向いて探索すると言うのだ。
「都市の半分ぐらいなら1時間ほどで済みますが?」
「そうだぜ、楽に済まそうや」
「フェリの能力を疑うわけではないが、それでは納得しない連中もいるだろう?」
「……はい」
ニーナの言い分はわかるが、フェリ自身が納得していないようにつぶやく。
正直な話、めんどくさいからだ。
「……機関部の入り口は見つかったか?」
「いえ。どうやらこの近辺にはなさそうです」
「そうか」
「ですが、シェルターの入り口は見つけてあります」
「なら、まずそこからだ。生存者がいればありがたいが」
「期待は薄そうだけどな」
シャーニッドのつぶやきにニーナは一睨みし、フェリの案内でシェルターへと向った。
「こいつはひでぇ」
そこで見た光景に、現状に、シャーニッドが口と鼻を手で押さえ、もごもごとつぶやく。
シェルターの天井には大穴が開いていた。
天井から落ちた瓦礫が放射状に広がっている。
その瓦礫のふちを、赤黒く染まった血が染めている。
幸運なのは、天井の大穴のおかげで臭いが、腐臭がある程度拡散されているという事ぐらいだろう。
シェルター全体に漂う腐臭に、レイフォンとニーナもシャーニッドと同じように鼻と口を押さえる。
フェリだけはシェルターに入るのを拒否し、端子だけで入り口に待機していた。
「生存者はいるか?」
「いません」
一縷の望みをかけたニーナの問いは、フェリの冷たい声によって切り捨てられる。
「くそっ」
苛立ち、ニーナは床を蹴った。
「それにしても、ここにもやっぱり死体はなしかよ」
シャーニッドが額にしわを寄せてつぶやく。
腐臭がするのだ。血の跡があり、血の臭いもする。
だと言うのに死体がひとつも、その一部さえもない。
「まるで誰かが片付けたみたいだ」
今度はレイフォンがつぶやく。
汚染獣にこの都市が襲われたことは、この現状を見れば明らかだろう。
だが、汚染獣がこの都市の住民を死体ひとつ、一部すら残さずに食い尽くしたかと言えば首をひねらずにはいられない。
汚染獣のあの巨大さで人間を食べようとすれば、食い残しは必ず出る。だと言うのにそれがひとつもない。
エアフィルターが生きている以上生存者がいる可能性もあるが、フェリの念威には未だに人間レベルの生体反応は見つかっていない。
あったとしても、食料用の家畜や魚ばかりだ。
「こないだツェルニに来た奴って線はないのか?」
シャーニッドの疑問に、レイフォンは首を振る。
確かにあれだけ大量の幼生体に襲われれば、死体なんて残らないかもしれない。
しかし……
「それなら、都市の壊れ方がおかしいですよ。見る限り、殆どの建物が上から潰される感じで壊されてる。幼生の大軍ならもっと横から押し倒す感じで壊れていないと」
この都市に汚染獣は、きっと空から来て、空から去ったはずだ。
1匹ではなかったかもしれないが、飛ぶのが苦手な幼生体が大群で攻めてきたと言う感じではない。
「なら、何者かがここの死体をきれいに片付けたと言う事か?」
「……………」
ニーナの問いに、レイフォンは無言になるしかなかった。むしろ、自分の方が問いたい気分だ。
わからない。汚染獣に食べられたのでないとすれば、一体誰が死体を片付けたのか?それがわからない。
無駄だとわかっていても、ニーナ達はシェルターの隅々を確認してから地上へと上がる。
レイフォン達の目的は生存者を見つけることではなく、この都市に危険がないかを調べる事なのだ。
何時までもシェルターを調べるわけには行かないし、わからないことを考えても仕方ない。
「くぁ、たまんね」
先に出たシャーニッドが大きく息を吐き、レイフォンとニーナも大きく深呼吸する。
地上にも腐臭は漂っているが、シェルターの内部に比べればはるかにましだ。
「この都市はどうなってしまっているんだ?」
落ち着いたニーナが、そう疑問をこぼす。
「汚染獣反応はありませんから、危険ではないと思いますが?」
「汚染獣の危険はないかもしれんが、この不可解さを放置しておけば後々問題になるかもしれないだろう」
目的はこの都市の安全を確認する捜査であり、今のところそういう危険がないと言うフェリだったが、それでもニーナは納得しない。
だが、彼女の疑問も尤もであり、この現状はかなり不自然である。
「ま、とりあえず今日はここら辺にしようぜ。日も落ちるし、明るいうちにあちらさんと合流した方がいいんじゃね?」
既に日が暮れようとし、シャーニッドがそう提案する。
すると図っていたかのように、第五小隊からの連絡が届いた。
「第五小隊からの連絡です。合流地点の指示が来ました」
「そうだな。では、今から向かうと伝えてくれ……移動するぞ」
フェリが座標を言い、ニーナ達は移動を開始する。
後方を歩いていたレイフォンはふと足を止め、何かを考えていた。
むせ返る腐臭の中にいたせいか、それともあまりに都市が静か過ぎるためか、舞い降りる夜の闇と共に、更に嫌なものが都市に舞い降りようとしているように思えた。
第五小隊が見つけた合流地点、泊まる場所は都市の中央近くにある武芸者の待機所だった。
「電気はまだ生きてたんだな」
「機関は、微弱ですがまだ動いています。セルニウム節約のために電力の供給を自立的に切っていたのではないかと」
ニーナの言葉に返答しながら、フェリは天井から静かに流れてくる空調の風を体に浴びせていた。
照明よりもありがたいのがこの空調だ。都市中を侵食していた腐臭も、フェリ達が辿り着いた頃には建物の外へと追い出してくれた。
そんな中、空調に当たっていたフェリが第五小隊からの通信を受ける。
「隊長、ルッケンス隊長から部屋割りのことで話しがあると」
「わかった、行って来る」
ニーナを送り出すと、フェリは1人になった。
レイフォンはここに来る途中に発見した食料品店から何か使える食材を探してるために、現在ここにはいない。
シャーニッドは周囲の安全確認をもう一度行っている。
端子でも飛ばしてレイフォンの様子を確認しようかと思いながら、フェリが空調を浴びていると誰か入って来た。
「あ……」
入ってきたシャンテがフェリを見て嫌そうな顔をし、フェリもまた、瞳を冷たく、細くした。
シャンテもシャーニッドと同じように、周囲の確認をしてきたのだろう。
だが、それでどうしてフェリを睨んでくるのかがわからない。だが、不快なのでフェリもシャンテを睨むような無表情で見て、視線を交錯させる。
無言だが、火花がはじけ飛んでいるのではないかと思うほどの睨みあい。
何故こうなっているのかわからないが、悪意を気楽に流してやるほど自分が出来た人間だと思ってないフェリは、真っ向から受けて立つ。
シャンテはフェリを睨みながら、彼女の横を通り抜けようとするが、
「おい」
真横に来た時に足を止め、声をかけてきた。
「お前、あいつがどんな奴か知ってんのか?」
その言葉が、フェリの体を強張らせる。
「何の事でしょうか?」
「……本気で言ってんの?それとも、知らん振りか?あの1年生がどんな奴か知ってんのかって、あたしは聞いてんだ」
フェリの耳元にだけ届くように声を潜めているけど、そこに宿った怒りは隠しようもない。
あの1年生……第十七小隊に1年生は1人しかいない。言うまでもなくレイフォンだ。
つまり、シャンテが怒りを向けているのはレイフォンにと言う事だ。
「……………」
「ふん、知ってて使ってんだ。だとすると、当たり前に会長もだな」
フェリの無言を肯定と取ったのか、更にシャンテは怒りを向けてくる。
「なんのことかわかりませんが?」
惚けてみるが、シャンテは更に怒りを向けてくる。
「あんな卑怯者を使うなんて……そこまで見境なくやらないといけないくらいあたしらは信用がないって言うのか!?」
それはもはや殺意。
見えない殺気の刃がフェリの喉元に突きつけられているようだった。
シャンテの赤い髪とあいまってか、それは燃え盛る炎のようなイメージが付きまとう。
だと言うのにフェリは、氷のように冷たい、絶対零度の視線でシャンテを見据えていた。
「なんだよ?」
「……2年前の自分達の無様を棚に上げて、他人をどうこう言うのはやめた方がいいですよ」
「なっ!?」
剣帯に手を伸ばしたシャンテを、フェリは変わらぬ絶対零度の視線で見つめ続けた。
そもそも弱いからいけないのだ。ツェルニの武芸者が弱くなければ自分は一般教養科のままで念威以外の道を探せ、そしてレイフォンは今でこそ武芸に前向きだが、武芸科に転科する必要はなかった。
「あなた達が弱くなければ、あの人は一般教養科の生徒としてツェルニを卒業することが出来たのです。それが出来ない今が、あなた達の未熟さの証でしょう。守護者たりえない武芸者なんて、それこそ社会には不要です。顔を洗って出直してきなさい」
「なっ、こっ……て、てめぇ……」
シャンテが怒りでぶるぶると震え、その手が錬金鋼を抜き出す。
それでもフェリは表情を変えない。それがどうした?むしろ望むところだ。
フェリは重晶錬金鋼をこの都市に来てから常時復元状態で、念威端子はこの待機所を中心に散らばっているが、防衛用に数個は常にフェリと共にある。
それだけあれば、シャンテとやり合うには十分だ。念威操者の能力はただ情報を収集、解析するだけではない。
未だに錬金鋼を復元していないシャンテならば、錬金鋼を復元する前にやれる。
起動鍵語を言ったが最後だと言わんばかりに、フェリは冷たい表情のまま言う。
「逆に問います。あなたになにがわかるんですか!?知ってるんですか?フォンフォンがなにを考えて、なにを想ってあんなことをしたのか!?フォンフォンの気持ちが、彼の考えが!プライドばかり高くて、傲慢なあなた達にわかるんですか!?」
だが、言葉が荒くなる。思考が熱くなり、声が大きくなる。
自分でも驚くくらいに腹を立て、叫んでいるのだ。その事に内心で戸惑いながらも、フェリはシャンテを睨み続けた。
対するシャンテは我慢の限界だと言うように、復元鍵語をつぶやこうとする。
それを確認し、フェリは念威端子に指示を送ろうとする。
だが、それよりも早く2人を抑止する存在が現れた。
「フェリ」
「そこまでにしろ」
「フォンフォン?」
「ゴルっ!?でもっ!」
持ってきた食材を投げ捨て、慌ててフェリの元へと駆け寄り、彼女を後ろから抱きしめて抑止するレイフォン。
同じく廊下側から駆け寄り、シャンテを止めに入るゴルネオ。
レイフォンの登場によりシャンテが更に表情を怒りで歪めたが、ゴルネオによって制される。
「ここで諍いを起こすな」
「でも……」
「出発前にも言っただろうが!」
「むうぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」
ゴルネオに注意され、振り上げた錬金鋼をたたきつけるように剣帯へと戻すと、シャンテはゴルネオの太い足を殴りつけて奥へと歩いていった。
その一撃を平然と受け止めつつ、ゴルネオはレイフォンには視線を向けずにフェリに詫びた。
「すまんな、うちの隊員が迷惑をかけた」
「まったくです」
「ちょ、フェリ!?」
フェリの正直な物言いに慌て、レイフォンは彼女の名を呼ぶがフェリはそれを無視する。
さっきの怒りが、まだ収まりきっていないのだ。
それを気にせずに、ゴルネオは相変わらずレイフォンを見ないようにしたまま続けた。
「だが、あれは隠さざる俺の疑問だ。あいつは、俺の疑問を代弁したに過ぎない」
「ならばあなたにも言ってあげます。あなた達が頼りないから私もフォンフォ……レイフォンも武芸科に入らなければならなくなったんです。幼生体ですら退けられない無様なあなた達が悪いんです」
「ふぇ、フェリ……」
フェリの言葉に冷や汗を掻きつつ、引きつった表情でおそるおそるゴルネオへと視線を向ける。
だが、当のゴルネオの反応はシャンテとは違い大人で、それを冷静に受け止めた上で返答した。
「それは認めよう。確かに俺達は未熟だ……だが、だからと言ってこいつを認めることは出来ん」
今度はちゃんとレイフォンを見つめ、冷静だがシャンテ以上の怒りをその瞳に宿して言う。
その視線を受け止めつつ、レイフォンは苦々しい表情で質問した。
「やはり、あなたもグレンダン出身なんですね……」
「そうだ。ゴルネオ・ルッケンス。言うまでもないが、天剣授受者、サヴァリス・ルッケンスの弟だ」
「そうですか……では、ガハルド・バレーンはご存知なんですね?」
予感が的中したことを理解しつつ、レイフォンは何でそこまでゴルネオが自分に怒りを向けるのか、ルッケンスと言う武門から立てた予測の人物の名を出す。
その名を聞いて、ゴルネオは殺意すらレイフォンに向けたがあくまで冷静に答える。
「兄弟子だ」
それだけ答えると、怒りを隠したまま背を向け、ゴルネオはシャンテを追っていった。
「……不快です」
そんな背を見送りつつ、フェリはレイフォンにしか聞こえない声で小さくつぶやいた。
すっかり夜の闇に覆われ、どこで寝るかなどの部屋割りを決め、ニーナと簡単な打ち合わせだけを済ませると、第五小隊のメンバーはそれきり第十七小隊に関わろうとはしなかった。
割り当てられた部屋も、彼らとはだいぶ離されている。
だが、そんなことはお構いなしに、第十七小隊が使っている応接室には、食欲をそそる匂いが漂っていた。
「いや、しかし、レイフォンが飯を作れてよかった」
熱い茶を飲み干し、シャーニッドが満足げにソファに背を預ける。
電気も使え、火も使えたのでレイフォンは食材を探し出し、調理したのだ。
「イモ類はともかく、青野菜系は全滅でしたけどね。後は養殖場の魚が生きてたからよかったです」
簡単に済ませたのだが、冷たい携帯食料を食べるぐらいならばと用意したのが意外に好評なようで、レイフォンも自然と表情がほころぶ。
「ふむ……これなら、問題ないかな?」
「なにがです?」
レイフォンの疑問に、ニーナが返答する。
「鉱山での補給は早く見積もって1週間はかかるだろう。その間は学校も休みになる。これを機会に強化合宿をやりたいと思っていたんだ」
「へぇ、合宿ねぇ」
休みの日に合宿をやるとの事で、シャーニッドが乗り気ではなさそうに言う。
だが、それに構わずニーナは続けた。
「これまでの対抗戦で報奨金もいくらか貯まったからな。隊の予算に余裕が出来たのもある。生産区域にいいところがあるそうだからな。そこでじっくりとやるつもりだったんだが、食べ物が問題だったんだ」
「あそこら辺じゃ、店もないか」
「ああ。あいにくと私は作れん」
「俺も無理」
「……………」
フェリは無言で、何も言わない。
だけど、前のように人体に有害なものではなく、少なくとも食べれるようなものを作れるようになったフェリなら、下拵えの手伝いなどは大丈夫ではないかと思う。
実質、フェリの家で一緒に作ったときはレイフォンの指示通りでちゃんとしたものを作れたし、今回も少しだけ手伝ってもらっていたりする。
「そう言う訳で、誰か料理の出来る友人に頼もうと思っていたんだが、レイフォンが出来るのなら問題は解決だな」
ニーナがほっとしたようにカップに入ったお茶を飲む。
最近は弁当を作るために栄養管理の勉強もし始めたので、特にレイフォンとしても不安はない。
おそらく訓練では体力を使うだろうから、高カロリーで消化が良いものがいいだろうと考えていると、不意にニーナが口を開く。
「そう言えばレイフォン」
「はい?」
「その、だな……お前の同級生にナルキと言う人物がいただろう?レイフォンから見てどれくらい使えると思う?」
「ナルキですか?」
突然出された彼女の名前に、レイフォンは首をひねる。
「ああ、お前の目から見てどうなのか、忌憚のない意見を聞かせて欲しい」
何でそんなことを聞くのかと思いつつ、とりあえずレイフォンは問われたことに答える。
「そうですね。1年生の中では実力はある方だと思います。衝剄よりも活剄の方が得意で、そちらに偏りすぎてるとは思いますけど、その分、動きに関しては1年生の中では抜きん出ているものがあります」
「そうだろうな」
それを聞き、ニーナはニコニコと嬉しそうな表情をする。
「おぃおぃ、ニーナ。もしかして小隊に誘うつもりか?」
「そのつもりだが、何か不満でもあるのか?」
「いんや。ただ聞いただけで、俺としては女の子が増えるなら大歓迎だ」
ニーナに疑問を投げかけつつ、その返答に軽く返すシャーニッド。
そんな彼をニーナは睨むが、そのまま話を続ける。
「人数がいればそれだけで戦力になるからな。何も少数精鋭を気取るつもりはない。しかし現状、今の武芸科には小隊員になれそうな成績の持ち主はいない。なら、素質のありそうなのをこちらで育ててしまったほうが早いかもしれない。そう考えて彼女に目を付けたんだ」
「そうだったんですか」
その他にもニーナは、幼生体戦の時に活躍するナルキの姿を見て彼女に興味を持ったのだが、その事をレイフォンは知らない。
「まぁ、なんだ。とにかく、彼女を誘ってみるつもりだ。その時は頼むぞ」
言われたレイフォンは、頼むと言われてもなにをすればいいのかと考えつつ、カップに入ったお茶を飲み干すのだった。
「フォンフォン、いいですか?」
「フェリ?はい、どうぞ」
仮眠室故に広くはないが、数はたくさんあったために1人1部屋と割り当てられた部屋割り。
そのレイフォンの部屋に来訪者、フェリが訪れる。
レイフォンの返事を聞き、彼女は部屋に入ってくる。
部屋に置かれているのは2つの二段ベットだけ。
その片方にレイフォンが腰掛けており、その対面側のベットにフェリも腰掛ける。
「あの人達にも困ったものですね」
そして口を開いたフェリに、『あの人達』と聞いてニーナとシャーニッドのことかと思ったが、違う。
それは夕食前にもめた、ゴルネオとシャンテのことだ。
「都市外のいざこざを持ってきてはいけないと校則にも書いてあるのに、あの2人はそれすらも守れていません」
「悪いのは、僕ですし……」
不満そうに言うフェリに、レイフォンは苦々しい返答を返す。
だけどその答えに、更にフェリが不機嫌になった。
「ガハルド・バレーン……確か、レイフォンが闇試合をやっていることを脅し、天剣授受者になろうとした人物でしたね?」
「……はい」
レイフォンが口を封じるために試合で殺そうとし、だけど結局は片腕を切り落とすだけに終わった人物。
彼はレイフォンを告発した後、剄脈に異常が出て意識不明となっているらしい。
その人物を兄弟子に持つのが、ゴルネオである。
「まったくもって自業自得じゃないですか。フォンフォンがそこまで気にすることではないと思いますが」
「そう……なんですかね?」
ガハルドは自分の欲のためにレイフォンを脅して、天剣授受者と言う地位を手に入れようとしたのだ。
普通に恐喝と言う犯罪である。
「まったく……フォンフォンは何でもかんでも1人で解決しようとするからいけないんです。なんで周りに相談とかしなかったんですか?頼れる人がいなかったんですか?」
「それは……」
何でと言われても、レイフォンには答えることが出来ない。
ただ、一言で言うならばレイフォンは強すぎたのだ。
強すぎる故に大抵の事なら何でもうまくいき、汚染獣も1人で倒すことが出来た。
この力があったからこそ天剣授受者になれ、その報奨金で、賭け試合でお金を稼ぎ、孤児院を潤すことが出来た。
そう、たった1人で出来ていたのだ。1人だけでどうにか出来ていたのだ。
だから1人だけで解決しようとして、失敗して……
「あなたは1人じゃないんです。だから……もう少しは周りを頼ってください。少なくとも私は、なにがあってもあなたの味方なんですから」
「フェリ……」
ツェルニに来ても、レイフォンはまた間違えようとした。
1人で無茶をして、老生体相手に天剣もなしにガチンコを挑むなんていう暴挙を行った。
結局は勝てたものの、あれは危なかった。フェリに心配をかけてしまい、レイフォンもあんな無茶はもうごめんだと思った。
そう、レイフォンは1人ではないのだ。グレンダンにいたときは気づかなかったけど、回りにはレイフォンの力になってくれる人達が存在した。
それにレイフォンは気づけなかった。グレンダンにもツェルニにも、レイフォンの力になってくれる人は存在する。
「ありがとうございます」
「別に……礼を言う必要はありません」
レイフォンはフェリに微笑みかけ、フェリはそっぽを向く。
そうだ、レイフォンが周りに相談すれば、結果はもっとましなものになっていただろう。
だけど、その生き方は変えなければと思うが、今までの出来事をやり直したいとは思わない。
もし天剣授受者になって、闇試合に参加していなければ。
闇試合に参加してても、ガハルトに脅され、それを誰かに相談できていれば?
あの時の試合で、ガハルトを殺そうとしなければ?
そんなIFには興味ない。その日に、あの日に戻れたらなんて幻想は抱かない。興味ない。
家族達に拒絶され、グレンダンを追い出された時は悲しかったが、ツェルニに来て本当に良かったと思える日々がある。
彼女に会えて、本当に良かったと思っている。
「フェリ、僕もなにがあっても、あなたの味方ですからね」
「それはずいぶん頼もしいですね。あなたがいれば、兄を簡単に亡き者に出来ます。出発前にも言いましたが、本当に革命を起こすのも面白そうですね。それであの2人を、ゴルネオとシャンテをツェルニから追い出してやりましょう」
「ははは……冗談ですよね?」
「どうでしょう?」
乾いた笑みを浮かべるレイフォンに、フェリは怪しい笑みで返答する。
いつもは無表情な彼女が、レイフォンにだけ向けてくれる笑み。
その笑顔を、レイフォンは護りたいと思った。
そして誰にも渡したくなく、自分だけのものにしたいと思った。
「フェリ……」
レイフォン・アルセイフは、フェリ・ロスをこの世の誰よりも愛している。
例えこの世界の全てが敵に回ろうとも、彼女を護ろうと誓った。
「フォンフォン……」
フェリ・ロスもまた、レイフォン・アルセイフのことを愛している。
例えこの世界の全てが敵に回ろうとも、彼を支えることを誓った。
「……っ」
「ん……」
どちらから求めただろう?
だが、そんなこと関係ない。いつの間にかレイフォンの隣に座っていたフェリが彼に近づき、それを抱き寄せるようにレイフォンも近づく。
触れ合う唇と唇。ただそれだけの、軽い口付け。
だと言うのに心臓がありえないほど大きく、速く鼓動し、レイフォンとフェリの顔は一瞬で真っ赤に染まる。
「……フェリ」
「フォンフォン……」
未だに心臓がドキンドキンと脈打つ。
柔らかい唇の感触になんとも言えない充実感を感じた。だけどまだ足りない。更に欲しい。
互いに互いを求め、レイフォンとフェリはもう一度唇を重ねる。
「んっ……っは……」
「んむっ……ん」
舌で口を抉じ開け、口内に侵入させる。
舌を交え、水音が当たりに響く。
ただ舌が交じり合っているだけだと言うのにそれが心地よく、このままずっと続けていたいほどだ。
「んっ……フォンフォン」
「フェリ……」
唇を離し、もう一度互いの名前を呼ぶ。
顔なんかどちらも真っ赤に染まりきっている。
まるで熱でも出たように頭が朦朧とし、覚束ない意識でも互いになにを求めているのかはわかった。
レイフォンの手が、フェリの服に伸びる。
フェリも拒まずに、それを受け入れる……
はずだった。
「フェリ?」
フェリがはっと顔を上げ、それにレイフォンが疑問を抱く。
「外、南西200メルに生体反応。家畜ではありません……」
「……………」
雰囲気が飛散する。
探索のために飛ばしていた念威端子だが、フェリはそれを切らなかったことを後悔した。
そしてレイフォンは、なんとも言えない表情でフェリに尋ねる。
「えっと……やっぱり行かないと駄目なんですかね?」
「……でしょうね」
「はぁ……」
フェリの答えにため息をつき、錬金鋼を剣帯から引き抜き、内力系活剄を走らせる。
「すぐに片付けてきますので」
笑顔でフェリに言うが、レイフォンの心中は穏やかではない。
初めてだ。これほどまでに正体不明の敵、おそらく人ではない何かに殺意を抱くのは。
いや、おそらく人が相手でも殺意を抱くだろうなと思いつつ、レイフォンは現場へと疾走した。
あとがき
今回の作品について……あえて何も言いません(汗
それはそうと、新作15巻買いました!
けど、14巻まだ読み終わってない。あと少しなんですが……
刀語が大好きなこのごろ。悪乗りでSS買いてしまった……なにをしてるんでしょうか俺は?
しかし、アニメでも錆白兵の扱いの悪さには泣きました。まさか台詞すらないとは……
それはさておき、最近はフェリほどではないですがクララとバーメリンがかわいいと思うこのごろ。
外伝的作品でこの2人のSS書きたいななんて思ってますw
……本編遅れるからやめとくべきかな?などと思いつつ、今回はこれで失礼します。