「うぉっ、すげーいい匂いだな」
朝、共同のキッチンから漂う匂いに鼻腔をくすぐられ、オリバーはキッチンへと向かう。
そこでは彼より早く起きていたレイフォンが、フライパンと食材片手に格闘していた。
「あ、おはようございます、オリバー先輩」
「弁当か?今日は学校休みだろ?」
調理しながらオリバーに挨拶するレイフォンだが、オリバーは休みの日に朝早くから調理していたレイフォンに疑問を抱く。
「今日は遊びに行くんで、そのお弁当を」
「なるほど、デートか?」
「ええ、まぁ……」
その答えを聞き、オリバーの立てた推測にレイフォンは照れくさそうに頬を掻く。
その動作に微笑ましく感じながらも、そういう相手がいないオリバーは敵意のようなものをレイフォンに向けた。
「はぁ……いいなぁ。俺にもそういう相手が欲しい。ってか、エリプトン先輩はいつになったら俺とミィフィさんの間を取り持ってくれるんだ?」
「はは……」
オリバーのつぶやきに苦笑で答え、レイフォンはフライパンで炒めた料理を弁当箱に盛り付けていく。
キッチンには香ばしい匂いが充満し、オリバーの食欲を刺激した。
「うまそうだな」
「あ、おかずの残りならありますけど、食べます?」
「もちろん」
弁当のおかずの残りを食卓に並べ、それがレイフォンとオリバーの朝食となった。
「フェリ……何をしてるんだい?」
「見てわかりませんか?料理です」
「そうかい……」
朝早くからキッチンに立つフェリ。
その光景に、カリアンの胃がキリキリと締め付けられていた。
今までフェリの料理の実験台にされ続けていたカリアンにとって、それは警戒するには十分すぎる理由。
妹が料理に関心を持ち、その練習をすること自体は喜ばしいことで、何も言わないが……その犠牲に自分があうことは承認できない。
「さて、兄さん。味見をしてもらえますか?」
錬金鋼を復元させて問う妹を目の前に、カリアンに拒否という選択肢は存在しなかった。
「待ちましたか?」
「ぜんぜん、今来たところです」
待ち合わせ場所、路面電車の停留所にてお決まりの会話を交わすフェリとレイフォン。
「ずいぶん早いですね」
「それはフォンフォンもです。待ち合わせは9時半ですよ」
現在、時間は9時。
本来ならフェリの言うとおり9時半に落ち合い、10時から始まる映画を見に行くと言うプランだった。
だと言うのにフェリもレイフォンも、時間にはずいぶんと余裕を持ってここにいる。
「昨日から楽しみだったので」
「考えていることは同じですか……」
苦笑し、微笑みあう2人。
暫し笑い合っていたが、それを中断し、レイフォンはフェリに提案した。
「行きましょうか?」
「はい」
ちょうど路面電車も来た。
レイフォンとフェリはそれに乗り、映画館へと向かった。
フェリの観たかったと言う映画は、環境映画と呼ばれる部類に入るものだった。
環境問題を背景に取り上げたり、環境問題をテーマとする映画作品の総称だが、この映画は自律型移動都市(レギオス)が存在する前、汚染物質がなく、汚染獣がいない世界を描いたものだった。
海があり、山があり、どこまでも青い空と白い雲がある。
そんな世界に住む人間と、動物達の話。
当然このような映像が本物であるはずがなく、CGなどと言った技術なのだろうが、映像に写る環境、その大自然はとても美しくて壮大だった。
そしてその内容は、とても面白かった……と思う。
「いやぁ……面白かったですね」
「寝てたのに良くわかりましたね?」
「あ、あはは……」
フェリの不機嫌そうな声がレイフォンに突き刺さる。その声を聞き、レイフォンは乾いた笑いを上げる。
途中までは覚えてる。壮大で美しい大地は、レギオスでは絶対に見れない光景だ。
CGと言う偽りの映像のそれでさえ、とても美しく印象に残っていた。
だが、いつの間にか眠っていた。どこで意識が途切れたのかも思い出せないくらいに、綺麗に落ちてしまっていた。
「せっかく誘ったというのに……」
「ホントにすいません……」
不機嫌そうなフェリに、レイフォンは本当に申し訳なさそうに頭を下げる。
だが、確かに自分は寝てしまったのだけど、途中まで観たあの映画はなかなか良かったと思う。
「フェリは、ああいうのが好きなんですか?」
「はい」
レイフォンの問いに即答し、フェリは少しだけ楽しそうに語った。
「憧れるじゃないですか、あんなに綺麗で空気の澄み切った世界。生身のままで都市の外になんか出れば5分で肺が腐って、そうでなくとも汚染物質で肌を焼かれます。人は世界を感じることなんて出来ない。世界は人を拒否している。だからこそ、私は外の世界に憧れるのでしょうね」
汚染された大地。この狭い世界、レギオスの中でしか生きられない人間達。
だからこそフェリは外に憧れ、そういう理由からここの手の映画が好きだったりする。
例えフィクションの話でも、それには夢があるから。趣味の読書でも、フェリはそういった本を好む。
「知ってますか?フォンフォン。汚染獣以外存在できないと言われる外ですが、ちゃんと他にも生命体はいるんですよ」
動物や昆虫と呼ぶのもおこがましい微生物だけど、その哀れなほどに小さい生き物達が大地の奥深くで汚染物質に負けずに生きている事を、生命の雄大さをフェリは知っている。
「知っていますか?夜のエアフィルターの外には、無数の綺麗な星が夜天に浮かんでるんですよ。それは都市の照明なんかより、とっても綺麗なんです」
フェリだからこそわかる、理解できる。
人が生きていけない大地を、レギオスの外を感じることの出来る力、念威がある。
それらを問うしてフェリは見て、聴いて、感じる事が出来る。念威操者であるフェリだけの特権。
そんな世界を知る彼女だからこそ、憧れもまた強い。
「おかしな話ですね。あんなに嫌悪した才能だと言うのに、私はこういうくだらない事に念威を使ってしまいます。あんなに嫌悪した才能だと言うのに、念威を使わずにはいられないんです」
その気持ちは、少しは分かる。
レイフォンは今でこそ武芸に迷いはないが、武芸を辞めようとした時にはどうにも落ち着かなかった。
幼いころから当然の様にやってきた事を辞め、違和感のようなものを感じていた。
おそらくフェリもそれと同じなのだろう。レイフォンと同じように、当たり前のことを辞めようとするのに違和感を感じるのだ。
「少し、話しすぎましたね……そろそろお昼にしましょう」
話題を打ち切り、フェリが言う。
映画を観たのが10時からなので、時間はもう正午を過ぎていた。
時間的にはちょうど良いので、レイフォンとフェリは昼食を取る場所を探すのだった。
「じゃ、食べましょうか」
「はい……」
錬金科近くの公園を訪れ、レイフォンとフェリはベンチに腰掛けて弁当を広げる。
最近は自分の分とフェリの弁当を作っているレイフォンだけに、やはりその弁当は見事だと言うべきだろう。
ただ、今日は何時にも増して気合が入っているようで、豪勢に見える。
なんと言うか……自分が用意したものを出すのを戸惑わせるほどに。
「あの……一応私も作ってきたんですが……」
「フェリが?」
それでもせっかくなので、同じように並べる。
弁当の内容はレイフォンほど立派ではなく……正直歪だったが、それでもフェリとしてはがんばったし、進歩もあった。
「フォンフォンの言いつけを守ってちゃんと作りましたし、毒見は兄にさせました。兄も食べて無事でしたし……ただ、味にそこまで自信がないと言うか……あ、嫌なら別に食べなくていいです。フォンフォンがせっかく美味しいお弁当を用意したんですから、そっちを食べましょう」
たまにだがレイフォンに料理を教わり、そして自宅でも1人で練習をしたりしていた。
カリアンを実験台にし、再起不能にしたこと多数。だけどそれでも、今日は何とか食べられる物を作り上げた。
だが、いざレイフォンを目の前にし、こんな物を食べさせるのは戸惑ってしまう。
レイフォンの料理とは比べるのもおこがましいほどの差があるわけで、フェリは慌てて弁当を引っ込めようとするが、
「嫌なわけありませんよ。遠慮なく頂きます」
「あ……」
レイフォンはそれを制し、フェリの作った弁当に手をつける。
フェリの表情に緊張が走り、普段から無表情な顔は更に表情をうかがわせない。
レイフォンがおかずを、エビフライをかじる。その動作に息を呑み、感想を待つ。
「うん……随分うまくなりましたね、フェリ。おいしいですよ」
「本当ですか?」
レイフォンの答えに一安心しつつ、フェリも自分の作った弁当に手をつける。
一応毒見はカリアンにさせたし、自分でも味見はした。
それで改めて食べた自分の弁当なのだが……おいしいのだろうか?
食べられる、それだけで少しは腕が上がったのは理解できる。
前に作ったものなんか食べただけでカリアンが意識を失い、レイフォンは苦しそうに無理やり飲み込んでいた。
少なくともこれならばそういう必要はないが……可もなく不可もなく、要するにおいしくなければまずくもない。そんな感じだ。
特徴がないと言うか、味もない。そんな無個性な、微妙な味。
それでも食べられると言うのは事実なようで、レイフォンは次々と料理を口に運んでいく。
「……………」
フェリはレイフォンの作ったおかずを取り、食べた。
相変わらずおいしい。自分の作ったものと比べるのもおこがましいほどに。
「フォンフォン……おいしいですか?」
「はい」
不安そうにフェリが問い、それにレイフォンが笑顔で答える。
だが、おそらく嘘なのだろうと理解する。文句ひとつ言わないレイフォンに感謝しながらも、フェリは正直な感想を聞かせて欲しいと思いつつ、またレイフォンの弁当に手をかける。
美味しい……悔しいほどに。
自分の料理の才能のなさに嘆きながら、フェリは目の前の弁当をレイフォンと共に片付けていくのだった。
「デザートにアイスでも買いましょうか?」
弁当も片付き、食後のデザートにとカラフルな屋台を見る。
それはアイスを売っている屋台らしい。
「いいですね……それじゃ、私はストロベリーにします」
フェリも承諾し、屋台の前に立って商品を選ぶ。
本来なら甘いものが苦手なレイフォンだが、ヨーグルト味のアイスに興味を持って注文した。
無論、ここはレイフォンの奢りだ。
デートと言うこともあり、やはりフェリ(女性)に出させるのには気が引けたし、奨学金Aランクで機関部掃除をしていることから金銭的にも余裕はある。
映画代に関しては、フェリが前売り券を持っていたためにそれで支払われていたが。
「結構甘いですね……フォンフォン、大丈夫ですか?」
「はい、これは結構美味しいですよ」
ストロベリー味のアイスが甘く、甘いものが好きなフェリとしてはちょうどいいのだが、苦手なレイフォンとしてはどうなのかと尋ねる。
それにレイフォンは美味しいと答え、実際にヨーグルト味のアイスはレイフォンの好みに合っていた。
コーンに載せられたアイスを食べながら2人が元のベンチに戻っていると、人の姿があるのに気がついた。
2人組みで、片方は車椅子に乗っている。そしてもう1人には見覚えがあった。
「……あ」
「あ……」
車椅子の傍らのベンチに座り、アイスを食べていた見覚えのある男と目が合い、レイフォンと2人そろって声が漏れる。
「こんちは、奇遇だね」
ハーレイだ。今日は休日だと言うのにいつものツナギ姿で、薄汚れた格好をしている。
ハーレイは咥えていたコーンを一気に口の中に放り込むと、ベンチから立ち上がってレイフォン達に手を振った。
「こんにちは、今日も研究室に?」
レイフォンはハーレイの格好を見て、そう見当する。
「そ、どっかの誰かさんに付き合ってね。今は頭に糖分入れて、休憩してたとこ。ああ、そうだ」
そう言ってからハーレイは車椅子の後部にある握りをつかみ。ぐるりとこちらに回転させた。
後ろを向いていた車椅子に乗っていた人物は、それまでこちらを見向きもしなかった。
美形で目付きの悪い青年。線の細い顔立ちに、不健康な白い肌をしている人物だ。
美形故に女性などの人気が高そうだが、目付きの悪さがそれを台無しにしている感じだ。
「こいつ、キリク・セロン。同じ研究室なんだ」
「なんだ?お前の知り合いならお前だけで片付けろ」
その人物は迷惑そうに後ろにいるハーレイを睨みつけるが、ハーレイは気にせずに続ける。
「片付けろって言ってもね、ほら、彼がレイフォンだよ」
「……なんだと?」
ハーレイを睨みつける視線が、そのままレイフォンへと向かった。
その視線に対し、フェリの睨むような視線がキリクに向けられる。
「お前か、俺の作品をぶっ壊してくれたのは?」
「作品?」
作品と言う言葉の意味がわからないレイフォンに、ハーレイが説明を入れる。
「複合錬金鋼の開発者ね、こいつ」
「ああ……」
この間の老性体戦で使った錬金鋼の開発者が彼だと言う。
あの時は人嫌いだからと理由で会う機会がなかったのだが……
「複合錬金鋼が負荷に耐え切れず爆発したってホラ吹いたのはお前か?本当は壊して捨ててきたんじゃないんだろうな?」
「おいおい……」
まさかこんなにも口が悪いとは思わなかった。
「フォンフォンは嘘をついてませんし、ちゃんと報告もしたはずですが?そもそもフォンフォンの剄に耐えられない鈍らを用意したのはそっちじゃないですか」
「何だと!?」
フェリも口が悪く、と言うか不機嫌そうに毒を吐く。
それに対しキリクが眉を吊り上げ、今度はフェリを睨んだ。
「まぁまぁ、2人とも落ち着いて。複合錬金鋼がレイフォンの剄に耐えられなかったのは事実なんだから、改良すればいいじゃない?やっぱり複合状態だと密度が圧縮しているせいで熱がこもりやすいんだ。熱膨張で硬度が落ちたり、形状が変化したりするから壊れやすくなるって。だからもう少し青石錬金鋼か白金錬金鋼の比率を増やして、連鎖自壊しないように安全装置的な反作用逃がしの構造をもう少し考えてさ」
ハーレイが2人をなだめつつ、キリクに専門的な意見を言った。
「待て、それだと今度は刀身の強度が下がる。こいつの全力の力と剄で振り回したら、数回振り回しただけで折れるぞ」
「いくらなんでもそんなに貧弱じゃないよ。そもそも、レイフォンの剄に錬金鋼が耐えられないのが問題であって……」
「だからそれについては……」
「……………!」
「……………!」
それにキリクが反論し、ハーレイも反論する繰り返す。
飛び出す専門用語にレイフォンとフェリは付いていけずに、白熱した2人から少し距離を取って観察することにした。
「……放って置いていいんでしょうか?」
「好きにさせたらいいんです。それよりフォンフォン、アイス溶けますよ」
「あ、そうですね」
そんな会話を交わし、レイフォンとフェリは我関せずと言った感じで手に持ったアイスを片付けることに専念する。
なんとなくだが、ハーレイとキリクは当初の問題から離れたところで議論しているようにも見える。
2人が息を荒げながら議論を止めたのは、レイフォンとフェリがアイスを食べ終えた頃だった。
「くそっ、喉が渇いたぞ」
喉を押さえ、キリクが呻く。
「せっかく補給した糖分が無駄になったじゃないか」
ハーレイも額に浮かんだ汗を、ツナギの袖で拭っている。
レイフォンが複合錬金鋼を持ち帰っていればこの議論ももう少しは楽に、そうはならなくとも参考にはなっていたかもしれないが、剄に耐え切れずに爆発してしまったためにない。
「よしっ、もう一度補給して、さっき挙げた問題の再検討だ。ストロベリー」
だが、そんなことはお構いなしに続ける気満々だ。
「望むところだ。チョコにしよう」
喧嘩をしてるのか、アイスをどれにするか決めているのかわからない会話をして、2人がそっぽを向く。
ハーレイが屋台へと向かい、キリクの分と合わせてアイスを購入しに行った。
そのためハーレイが居なくなったことによりキリクの視線が、睨みがレイフォンへと向けられる。
「……なんだ?まだいたのか?」
どうやらレイフォン達の存在を忘れていたようで、意外そうな言葉を漏らす。
「いや、なんて言うか……あなたの作品を壊してしまって、すいませんでした」
「別に謝る必要はありません。鈍らをつかませたあっちが悪いんですから」
レイフォンがキリクに謝罪するが、それをフェリが制する。
「口が悪いな。まぁ、俺もあまり人のことは言えないが」
キリクはそんなフェリに苦笑するも、すぐに元の悪い目付きへと戻る。
だが、視線はレイフォンからそらしてキリクは言った。
「……別に怒っちゃいない。単なる愚痴で嫌味だ。道具なんて壊れるために作られるもんだ。だけど、出来るならそれは有意義な壊れ方であって欲しい。使い手の剄に耐え切れずに壊れたなんて、技術者にとっては屈辱だ」
相変わらずレイフォンから視線をそらしたまま、そして不機嫌そうなままキリクはレイフォンに問う。
「……あれは、あんたの役に立ったのか?」
「もちろんです。確かに壊れてしまいましたが、普通の錬金鋼だけならあの状況は切り抜けられなかったかもしれない」
それは本心だ。そもそも普通の錬金鋼なら剄に耐えられる時間も、強度も複合錬金鋼よりもたなかっただろう。
あの時の戦いは、複合錬金鋼だからこそ切り抜けられたのだ。
天剣があれば話は早く、もっと楽だったのだが……無いものねだりは出来ない。
「……そうか」
キリクはそれを聞くと満足そうに、車椅子のタイヤに手を伸ばして自分で向きを変え、レイフォンに背を向けた。
「次はもっと役に立つのを作る。お前はそれを活かしてくれよ」
「……はい」
その言葉にレイフォンが返事をし、フェリに促されて公園を後にする。
視界の端では、2つのアイスを持ったハーレイが早足でキリクの元へと戻る姿が見えた。
「この後どうしますか?」
映画を観て、昼食を取った。
フェリとの約束は映画を観ることだったのでそれは果たしたのでここで分かれてもいいが、時間にはまだ余裕がある。
それに、このまま分かれてしまうのはどこかもったいない気がした。
「そうですね……どうせなら買い物にでも行きますか?服を見てみたいと思ってたんです」
「いいですね、付き合いますよ」
そんな訳でショッピングに決め、2人は洋服屋へと向かうことにした。
「それじゃあ、行きますよ」
入った店は比較的近くにあり、そして外装の可愛らしい店だった。
だと言うのに店内には客が少ないようだったので、フェリはその店に入る。
彼女としては混雑した店、人の多いところは苦手なためにそこにしたのだろう。
フェリが入ったと言うことは、当然その後にレイフォンも続く。
するとそこでは……
「いらっしゃいませ~♪あら~、フェリちゃんにレイフォン君。久しぶり」
悪夢再び。
ピンクのフリフリという奇々怪々なスーツを着た男、喫茶ミラの店長、ジェイミスが出迎える。
そう言えば服屋もやってると言っていたことを思い出し、レイフォンは笑顔でこちらに話しかけてくる悪夢から視線をそらした。
隣にいるフェリは、ものすごく表情が引き攣っている。
今すぐ回れ右をして、この店を後にしようとしたのだが……
「まさか来てくれるなんて思わなかったわ!ぜひ見ていってちょうだい♪あ、オーダーメイトも受け付けているわよ」
回り込まれてしまった。
いつの間にかレイフォン達の背後に回り、出入り口をふさぐように立っている。
そしてその手には、注文を聞く前から複数の服が握られていた。
「これなんかどう?当店のお勧め。それとこれとこれとこれ。どうせなら試着していく?フェリちゃんなら大歓迎よ♪」
「……フォンフォン」
どれもフリフリで、それでいてピンクなどの明るい色をした服だ。
それを目の前にし、フェリはまるでさびたブリキ人形のようにギギギとレイフォンのほうを向き、助けを求める。
だが、こういう状況でレイフォンはどうすればいいのかまるで見当が付かない。
「試着室はあっちよ!さあ、行きましょう」
フェリはジェイミスに連れられ、試着室へと連行される。
その姿をレイフォンは呆然と見送ることしか出来なかった。
「……………」
「あ~~~~~~~~~っ!!」
フェリの表情は明らかに不機嫌そうだ。
無表情だが、まるで汚物でも見るかのようにジェイミスを睨んでいる。
そのジェイミスと言えば、奇声を上げながらあっちの世界へと行っていた。
「もう最高!私最高!!フェリちゃん最高!!そして私は天才!もはや神!!そう神なのよ!!」
狂ったように奇声を上げるジェイミスが用意した服は、いわゆるゴスロリ。
ピンク、白、黒といろいろな服を用意していたが、ジェイミスのお気に入りは白のゴスロリ服らしい。
現にその服は、フェリの長く綺麗な銀髪と合ってとても綺麗で、そして可愛らしかった。
「ピンクもいいんだけど白もいいわ!可愛さは白もあり。ああ、私の可能性が、世界がさらに広がる!そう、私はこの世界の可愛さをつかさどる神!!新世界の神はこの私よ!!」
テンションの高いジェイミスに、フェリはうんざりとした表情をしていた。
そのことに苦笑しながらも、レイフォンはフェリを見る。
いや、見ることならさっきからしていた。それから一度も視線をそらしてはいない。
ただ見ていた、見続けていた。その姿に、フェリの格好に視線が釘付けとなる。
「フォンフォン?」
首をひねるフェリに、レイフォンは我に返って苦笑しながら言う。
「とても似合ってますよ、フェリ」
「……ありがとうございます」
その言葉にフェリも素っ気無く返すのだが、顔がわずかに赤くなっているのは気のせいではないだろう。
「さあ、フェリちゃん!次はこれよ。こうなったらうちの店の服全部着てみる?フェリちゃんなら全部似合うわよ」
「……………」
相変わらずテンションの高いジェイミスに、フェリは心底嫌そうな表情で、そして心情で睨みつける。
だけどそれでもジェイミスは止まらず、新たな服をフェリへと手渡すのだった。
「……大丈夫ですか?」
「大丈夫に見えるんでしたら、眼科へ行くべきです……」
結局、全洋服とは言わないまでも、数十着の服を試着させられたフェリ。
その姿を見るたびにジェイミスが奇声を上げ、店の広告に使うからと何枚か写真を撮っていた。
そのお礼として無料で服を何着かくれたのだが、それを着る機会など日常生活ではまず無いかもしれない。
その服をレイフォンが持ち、すっかり暗くなった夜道を歩き、フェリを送っていた。
「でも、楽しかったですね」
レイフォンが苦笑し、フェリは相変わらず不機嫌そうな表情をする。
それほどまでにジェイミスの店での出来事が嫌だったのだろう。
「本当に似合ってましたよ」
「普段、着る機会はありませんが」
学園都市故に、基本は制服。
休日などには私服も許可されるが、それでもこのような服を着る機会はないし、着るつもりもない。
それでもレイフォンに似合っていると言われたのが嬉しいのか、フェリは少しだけ不機嫌そうな表情を緩めた。
「残念です。フェリになら絶対に似合うと思うんですけど」
「似合ってはいても……恥ずかしいです」
「それは確かに……」
レイフォンは残念そうに言うも、フェリの返答に苦笑する。
そんな会話をしながら歩いているうちに、フェリの寮へと辿り着く。
螺旋状の階段を上り、フェリの部屋の前にまで荷物を運ぶ。
玄関の前に立ち、フェリがレイフォンから荷物を受け取って言った。
「今日はありがとうございました。最後はあれでしたけど、楽しかったです」
「いえ、こちらこそ」
その言葉にレイフォンも頭を下げて返し、頭を上げてから微笑む。微笑にフェリもつられるように小さく笑った。
「また今度、こういう機会があったら付き合ってください。それまでに兄を実験台にして料理の腕を磨きますから」
「ええ、楽しみにしてます」
それで会話が終わり、レイフォンが頭を下げてこの場から去ろうとする。
フェリも部屋に入ろうとして、扉に手をかけた。
だが、扉に手をかける前にその扉は開き、中から出てきた人物にフェリは嫌そうな表情をする。
「ああ、お帰りフェリ。レイフォン君?何で君がここに……だがちょうどいい。君を呼ぼうと思っていたんだ」
「生徒会長?」
ここはフェリの部屋だ。その部屋には、兄であるカリアンも一緒に住んでいる。
それは別にいい。十分に納得できる理由だ。
だがカリアンが帰ろうとしたレイフォンを見つけ、彼に話があると語りかけてきたのだ。
またこの兄はレイフォンに面倒なことを押し付けるのかと思いつつ、フェリは今日の出来事が全部台無しになってしまったかのような心境でカリアンを睨み付けた。
あとがき
デート編、完。
今回は難しかったです。メイシェンフラグが風前の灯で、フェリとのデートになっているためにキリクとはフェリが一緒のときに出会いました。
それと映画の話だけでは物足りないので、最後にあの人登場w
しかしデート編と言う割りにボリュームがこんなもので良いのかと思いつつ、なんだかんだで難産だった今回の話。
なんか最近難産ばかりですね……スランプと言う奴なのか……
次回は廃都編にてあの人がついに登場!果てさてどうなることやら。
そして今回はひとつおまけを。
おまけ
「……………」
フェリは不機嫌そうに、隣で眠るレイフォンを睨む。
場所は薄暗い映画館。始まって10分ほどで眠りに落ち、いびきを掻いているレイフォンに呆れ、小さなため息を吐いた。
「まったく……せっかく誘ったというのにフォンフォンは」
レイフォンはとても安らかな表情で眠っており、まるで起きる気配がない。
フェリはそのことに呆れ果て、映画を観ることに集中しようと思ったが……
「ん、んん……」
「ちょっ、フォンフォン?」
レイフォンの首が、体が傾き、隣に座っていたフェリに寄りかかるように倒れてくる。
そのことに驚きつつ、それでも起きないレイフォンにフェリはもはや何も言えなかった。
「起きてくださいフォンフォン。重いです」
レイフォンを起こそうと、軽く揺さぶってみる。だが、それでもレイフォンが目覚める気配はしない。
何度も揺さぶり、小さく呼びかけるのだが、まるで効果がない。
「フォンフォン……まったく」
そのうちフェリも諦め、またもため息を吐く。
レイフォンはフェリに寄りかかったまま、安らかな寝息を立てていた。
「……寝顔は結構かわいいですね」
レイフォンの寝顔を見てそんな事をつぶやきながら、フェリは眠るレイフォンの頬を突いてみる。
だが、それでもレイフォンは起きずに眠っていた。
「こうまでして起きないとは、ある意味感心します……ですが、軟らかいですね」
もう一度、フェリはレイフォンの頬を突いた。
それでもレイフォンは起きない。
「ん、んっ……」
うめきを上げ、一瞬起きるのかと思ったがそう言う事はなく、それ幸いとさらにフェリはレイフォンの頬を突く。
「まったく……」
呆れながらもフェリはレイフォンの頬を突き続け、結局は映画よりそっちの方に集中してしまうのだった。
あとがき2
まぁ、要するに映画館の中でのレイフォンとフェリのやり取り。
大体こんな感じでした。しかし開始10分で寝るって……
まぁ、リーリンとの映画でもレイフォンは寝てましたしねw
さて、次回はどうするかと構想を練りつつ、ありえないIFの物語を執筆しようかなと思っています。
それにしても最近、ロミオとシンデレラと言う曲にはまってしまいました。神曲ですね、本当にw
皆さんはこういうお気に入りの曲、アニソンなんかありますか?
俺は最近初音ミクの曲にはまったり、リリなののOPやEDは全てお勧めだと思ったりしますが。
リリなの好きです。あととらハ。
恭也やクロノ、そしてフェイトが大のお気に入り。SSなんかで恭也やクロノ魔改造はともかく、オリ主や転生はどうなんだろうと思うこのごろ。皆さんはどう思いますか?
って、オリバー(オリキャラ)出してる自分が言うことではないですねw
しかしレギオスのアニメ、今見れば多数突っ込みどころが……
天剣で飛べるんですかね?普通に飛んでましたよね、サリンバン教導用兵団とかも。
しかもオリジナル展開とか、メイシェンの性格とか、なんでハーレイが都市外出ているのかとか。
最後はそんな戯言で締めくくってみました。