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No.15685の一覧
[0] フォンフォン一直線 (鋼殻のレギオス)【一応完結?】[武芸者](2021/02/18 21:57)
[1] プロローグ ツェルニ入学[武芸者](2010/02/20 17:00)
[2] 1話 小隊入隊[武芸者](2011/09/24 23:43)
[3] 2話 電子精霊[武芸者](2011/09/24 23:44)
[4] 3話 対抗試合[武芸者](2010/04/26 19:09)
[5] 4話 緊急事態[武芸者](2011/09/24 23:45)
[6] 5話 エピローグ 汚染された大地 (原作1巻分完結)[武芸者](2010/05/01 20:50)
[7] 6話 手紙 (原作2巻分プロローグ)[武芸者](2011/09/24 23:52)
[8] 7話 料理[武芸者](2010/05/10 18:36)
[9] 8話 日常[武芸者](2011/09/24 23:53)
[10] 9話 日常から非日常へと……[武芸者](2010/02/18 10:29)
[11] 10話 決戦前夜[武芸者](2010/02/22 13:01)
[12] 11話 決戦[武芸者](2011/09/24 23:54)
[13] 12話 レイフォン・アルセイフ[武芸者](2010/03/21 15:01)
[14] 13話 エピローグ 帰還 (原作2巻分完結)[武芸者](2010/03/09 13:02)
[15] 14話 外伝 短編・企画[武芸者](2011/09/24 23:59)
[16] 15話 外伝 アルバイト・イン・ザ・喫茶ミラ[武芸者](2010/04/08 19:00)
[17] 16話 異変の始まり (原作3巻分プロローグ)[武芸者](2010/04/15 16:14)
[18] 17話 初デート[武芸者](2010/05/20 16:33)
[19] 18話 廃都市にて[武芸者](2011/10/22 07:40)
[20] 19話 暴走[武芸者](2011/02/13 20:03)
[21] 20話 エピローグ 憎悪 (原作3巻分完結)[武芸者](2011/10/22 07:50)
[22] 21話 外伝 シスターコンプレックス[武芸者](2010/05/27 18:35)
[23] 22話 因縁 (原作4巻分プロローグ)[武芸者](2010/05/08 21:46)
[24] 23話 それぞれの夜[武芸者](2010/05/18 16:46)
[25] 24話 剣と刀[武芸者](2011/11/04 17:26)
[26] 25話 第十小隊[武芸者](2011/10/22 07:56)
[27] 26話 戸惑い[武芸者](2010/12/07 15:42)
[28] 番外編1[武芸者](2011/01/21 21:41)
[29] 27話 ひとつの結末[武芸者](2011/10/22 08:17)
[30] 28話 エピローグ 狂いし電子精霊 (4巻分完結)[武芸者](2010/06/24 16:43)
[32] 29話 バンアレン・デイ 前編[武芸者](2011/10/22 08:19)
[33] 30話 バンアレン・デイ 後編[武芸者](2011/10/22 08:20)
[34] 31話 グレンダンにて (原作5巻分プロローグ)[武芸者](2010/08/06 21:56)
[35] 32話 合宿[武芸者](2011/10/22 08:22)
[37] 33話 対峙[かい](2011/10/22 08:23)
[38] 34話 その後……[武芸者](2010/09/06 14:48)
[39] 35話 二つの戦場[武芸者](2011/08/24 23:58)
[40] 36話 開戦[武芸者](2010/10/18 20:25)
[41] 37話 エピローグ 廃貴族 (原作5巻分完結)[武芸者](2011/10/23 07:13)
[43] 38話 都市の暴走 (原作6巻分プロローグ)[武芸者](2010/09/22 10:08)
[44] 39話 学園都市マイアス[武芸者](2011/10/23 07:18)
[45] 40話 逃避[武芸者](2010/10/20 19:03)
[46] 41話 関われぬ戦い[武芸者](2011/08/29 00:26)
[47] 42話 天剣授受者VS元天剣授受者[武芸者](2011/10/23 07:21)
[48] 43話 電子精霊マイアス[武芸者](2011/08/30 07:19)
[49] 44話 イグナシスの夢想[武芸者](2010/11/16 19:09)
[50] 45話 狼面衆[武芸者](2010/11/23 10:31)
[51] 46話 帰る場所[武芸者](2011/04/14 23:25)
[52] 47話 クラウドセル・分離マザーⅣ・ハルペー[武芸者](2011/07/28 20:40)
[53] 48話 エピローグ 再会 (原作6巻分完結)[武芸者](2011/10/05 08:10)
[54] 番外編2[武芸者](2011/02/22 15:17)
[55] 49話 婚約 (原作7巻分プロローグ)[武芸者](2011/10/23 07:24)
[56] 番外編3[武芸者](2011/02/28 23:00)
[57] 50話 都市戦の前に[武芸者](2011/09/08 09:51)
[59] 51話 病的愛情(ヤンデレ)[武芸者](2011/03/23 01:21)
[60] 51話 病的愛情(ヤンデレ)【ネタ回】[武芸者](2011/03/09 22:34)
[61] 52話 激突[武芸者](2011/11/14 12:59)
[62] 52話 激突【ネタ回】[武芸者](2011/11/14 13:00)
[63] 53話 病的愛情(レイフォン)暴走[武芸者](2011/04/07 17:12)
[64] 54話 都市戦開幕[武芸者](2011/07/20 21:08)
[65] 55話 都市戦終幕[武芸者](2011/04/14 23:20)
[66] 56話 エピローグ 都市戦後の騒動 (原作7巻分完結)[武芸者](2011/04/28 22:34)
[67] 57話 戦いの後の夜[武芸者](2011/11/22 07:43)
[68] 58話 何気ない日常[武芸者](2011/06/14 19:34)
[70] 59話 ダンスパーティ[武芸者](2011/08/23 22:35)
[71] 60話 戦闘狂(サヴァリス)[武芸者](2011/08/05 23:52)
[72] 61話 目出度い日[武芸者](2011/07/27 23:36)
[73] 62話 門出 (第一部完結)[武芸者](2021/02/02 00:48)
[74] 『一時凍結』 迫る危機[武芸者](2012/01/11 14:45)
[75] 63話 ツェルニ[武芸者](2012/01/13 23:31)
[76] 64話 後始末[武芸者](2012/03/09 22:52)
[77] 65話 念威少女[武芸者](2012/03/10 07:21)
[78] 番外編 ハイア死亡ルート[武芸者](2012/07/06 11:48)
[79] 66話 第十四小隊[武芸者](2013/09/04 20:30)
[80] 67話 怪奇愛好会[武芸者](2012/10/05 22:30)
[81] 68話 隠されていたもの[武芸者](2013/01/04 23:24)
[82] 69話 終幕[武芸者](2013/02/18 22:15)
[83] 70話 変化[武芸者](2013/02/18 22:11)
[84] 71話 休日[武芸者](2013/02/26 20:42)
[85] 72話 両親[武芸者](2013/04/04 17:15)
[86] 73話 駆け落ち[武芸者](2013/03/15 10:03)
[87] 74話 二つの脅威[武芸者](2013/04/06 09:55)
[88] 75話 二つの脅威、終結[武芸者](2013/05/07 21:29)
[89] 76話 文化祭開始[武芸者](2013/09/04 20:36)
[90] 77話 ミス・ツェルニ[武芸者](2013/09/12 21:24)
[91] 78話 ユーリ[武芸者](2013/09/13 06:52)
[92] 79話 別れ[武芸者](2013/11/08 23:20)
[93] 80話 夏の始まり (第二部開始 原作9巻分プロローグ)[武芸者](2014/02/14 15:05)
[94] 81話 レイフォンとサイハーデン[武芸者](2014/02/14 15:07)
[95] 最終章その1[武芸者](2018/02/04 00:00)
[96] 最終章その2[武芸者](2018/02/06 05:50)
[97] 最終章その3[武芸者](2020/11/17 23:18)
[98] 最終章その4[武芸者](2021/02/02 00:43)
[99] 最終章その5 ひとまずの幕引き[武芸者](2021/02/18 21:57)
[100] あとがき的な戯言[武芸者](2021/02/18 21:55)
[101] 去る者 その1[武芸者](2021/08/15 16:07)
[102] 去る者 その2 了[武芸者](2022/09/08 21:29)
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[15685] 12話 レイフォン・アルセイフ
Name: 武芸者◆8a2ce1c4 ID:9a239b99 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/03/21 15:01
病院でハーレイから話を聞いたニーナは、その足でカリアンの元へと行った。
訳のわからないオリバーは、ハーレイと共に準備をしているらしい。
いわゆる、最終チェックと言う奴だ。
生徒会室でカリアンは、いつもの様に執務をこなしていた。そんな彼は、まったく悪気のない表情でニーナとシャーニッドを迎える。

「どういうことですか!?」

「どうもこうもない、戦闘での協力者をレイフォン君自身がいらないと言ったんだよ。私は、彼の言葉を信じた」

ニーナの怒りを押し殺した声も、カリアンに平然と受け止められる。
だが、だからと言って彼女も退く気はない。

「信じるのと放置するのは違うでしょう!」

ニーナは机を思いっきり叩く。怒りを隠さずに、カリアンを睨む。
机を叩いた衝撃でわずかに書類が浮き、ペン立てが揺れる。机のすぐ側に置かれたペンが転がった。

「……近づかせるな、とも言われたのでね」

「え?」

転がり落ちそうになるペンを拾い上げ、カリアンは指で器用に回しながら言った。

「汚染獣との戦いは相当に危険なものだそうだ。どう危険なのかは武芸者ではない私には理解が及ばないが、安全と言うものを求めた瞬間に死ぬのだそうだ。そんな戦場に、安全地帯で控えてる者など必要ないと、彼は言った。汚染獣と都市外で戦う時は、無傷で戻るか、それとも死ぬかのどちらかしかないと、そう思っておいた方がいいと……」

ニーナは息を呑んだ。呑むしかなかった。
そんな場所にレイフォンは1人で……
机に叩きつけたままだった拳を握り締める。
筋肉痛の名残はまだある。正直、健常とは言い難い。剄を出そうとすれば腰の下辺りが激しく痛むので、武芸者としてはまるで使い物にならない。。
そんな状態で、何を口走ろうとしている?
でも、止められない。

「私を行かせてください」

たとえ断られても行く。だからこそ準備をしているのだ。
そんな強い意志を眼に宿し、ニーナはカリアンに言った。

「行ってどうするのだね?」

カリアンの質問は妥当なものだ。
どう考えてもニーナの言葉は無茶苦茶だし、正直、理解に苦しむ。

「君の体調は知っている。知っていなくても、そんな青い顔をしている生徒を危険な場所に行かせようなんて、責任者として許可できるものではないが?」

「あいつは、私の部下です」

ニーナは即答した。

「そして仲間です。なら、共に戦う事は出来なくとも、迎えに行くぐらいはしてやらなくては……」

なにができる?そんなことはわからない。こっちが聞きたいくらいだ。
だが、ニーナに部下を、レイフォンを見捨てるなんて事は出来ない。

「ふむ……いいだろう」

言っても無駄だと理解したのか、カリアンは呆れたようにつぶやく。

「ランドローラーの使用許可を出そう。誘導の方は妹に任せよう」

「ありがとうございます」

許可を出し、その事にニーナは感謝する。

「ありがとうございます、生徒会長。だけど、ランドローラーの方は結構です。その何倍もいいもんがあるんで」

「ん?」

シャーニッドの言葉を聞き、カリアンが疑問符を浮かべるものの、今はそれよりも優先すべき事、若く、愚直なまでに真っ直ぐな小隊長に忠告するのを忘れない。

「ただし、生きて帰りたまえ。無理だと判断したなら逃げたまえ」

「……逃げません」

本当に頑固だ。自分の事は考えない、いや、自分の理想、信念しか考えず、真っ直ぐに進むと言った方が正しいか?
なんにせよ、自分の考えに絶対の自信を持って突き進むニーナ。

「この学園を生かすために、君たちは必要な人材だよ」

そういう人物だからこそ、このツェルニには必要なのかもしれない。

「レイフォンもそうです」

それは、レイフォンもだろう。
これ以上の問答は無用と判断し、ニーナとシャーニッドは生徒会室を出て行った。
その背を見送り、カリアンは軽薄な笑みのままため息をつく。
確かにそうだ。レイフォンもこのツェルニに必要な人物だ。
むしろ、彼には武芸大会でツェルニに勝利を導く人物として、ニーナよりも重要な人物と言えるだろう。
そんな彼だからこそ、戦闘面に関しては心配していない。戦闘において、ツェルニにいる誰よりも信頼できる。
だからこそカリアンは、レイフォンの判断を信じた。
確かに、ニーナの言うとおり信じるのと放置するのは違うが、カリアンは信じた。
ちゃんと、レイフォンは帰ってくると。

「ただ、最近レイフォン君が前向きなのは嬉しいけど、あの子の兄としては少々複雑な気分だね……」

そして、軽薄な笑みが苦笑へと変わる。
カリアンはレイフォンを信じた。彼ならちゃんと帰ってくるだろうと。ツェルニのために、何よりフェリのために汚染獣を倒して。
異性にはまったくと言っていいほど興味を持たなかったフェリが、レイフォンにだけは別人の様に接しているのだ。
まるで恋する乙女とでも言うべきか、無表情なフェリが少なからず笑い、変わってきている。
その変化には、兄として素直に嬉しい。レイフォンもどうやら、満更ではない様だし。
ただ、その犠牲としてフェリの料理を味見させられるカリアンからすれば、たまったものではないが……

「柄でもないな……」

また苦笑し、それだけでこの考えは切り替え、カリアンは再び執務に没頭するのだった。



































そんな訳で現在、ニーナ達は放浪バスの中にいた。
オリバーが放置されていた物を修繕、改造した物。それが荒れ果てた大地を彼女達を乗せて疾走していた。

ニーナは考える。何が出来るのだろう?
この疑問は今でも頭の中にある。1人で突っ走って自滅した自分に、自分達がいると言ったのはレイフォンなのだ。
つい先日の事だと言うのに……
それなのに、レイフォンはただ1人で、何も言わずに汚染獣との戦いを続けていた。
そんな彼に自分は何が出来るのだろう?

実力が違う。経験が違う。
小隊の事と、汚染獣の事は違うのかもしれない。きっと、そうなのだろう。
命の危険がない小隊の、学園都市の試合など、命がけの汚染獣戦においてはお遊びのようなものだろう。
それでも、何も知らないままに過ごす事は出来ない。
シャーニッドが言ったではないか、隠し事には気になるものとならないものがある、と。
これは気になる隠し事だ。
なら、知らなくてはいけない。知られたくない事ではないはずだ。

「どういう経緯かは知りませんが、俺としては放浪バスの性能を試せていいんですけどね……どれだけ走らせる気なんですか?ってか、いい加減何処に向ってんのか教えてくれませんか?」

放浪バスの最終チェックをやり、仮眠も休息もなく、フェリの念威を通した指示に従い放浪バスを走らせるオリバー。
ニーナからすれば、フェリがこんな長距離でも正確に念威を操れるとは知らなかった。
それだけ、ニーナが隊員のことを把握してなかったと言う事だ。
フェリの場合はこの力を隠していたから仕方がないが、ニーナは自分の無能さに嫌になる。

「なーに、ちょいと汚染獣退治にな」

「あー、そうなんですか」

ここに来て、シャーニッドがオリバーの問いに答える。
それを聞き、オリバーは納得した。
だから今まで内緒にしていたのかと。だから、都市外装備や錬金鋼なんて物騒なものを放浪バスに積み込み、医療器具なんてものも用意したのかと。
納得し、理解し、

「Uターン!!」

ハンドルを思いっきり切り、今まで走ってきた方向とは逆を向く。
車内が大きく揺れたが、そんな事は気にしない。
そしてアクセルペダルを思いっきり踏もうとしたが……

「ストップだ。もう1回Uターンしてもらおうか?」

シャーニッドがオリバーの頭に、こつんと錬金鋼を突きつけていた。

「……正気ですか?汚染獣最弱の幼生体ですら、あれだけ梃子摺ったってのに?」

シャーニッドの取った行動にではない。これから汚染獣のところに向うと言った彼の言葉に、オリバーは正気かと尋ねたのだ。

「その正気を疑われそうな事を、うちのエースは1人でやってるんでね。先輩として、行かない訳にはいかないんだよ」

「はぁ!?」

その言葉にオリバーは絶句する。
シャーニッドの言う『うちのエース』とは、言うまでもなくレイフォンの事だ。
1年生にて十七小隊のエースとして、各小隊から要注意人物として注目されている。
そんな彼が、そんな彼だが、だからと言って1人で汚染獣の討伐に向うなんて無茶な話だ。

「馬鹿なんですか?十七小隊の方々は馬鹿なんですか!?」

叫びたくなるような気持ちを抑え、オリバーは問う。
当然だろう。これから汚染獣のところに向うから、自分に運転しろと言われて冷静でいられるわけがない。
汚染獣の脅威は、この世界では何よりも恐ろしい事なのだ。

「ひでぇな……でも、まぁ、否定も出来ねぇか」

軽く笑いながら、シャーニッドが言う。
確かにこの状況からすれば馬鹿とも取られるだろう。
自分に何が出来る?
最弱の幼生体にすら苦戦していた自分が、都市を半壊させるほどの力を持つ老性体相手に何が出来るのかと。

「だがよ、俺達は武芸者だ。都市の危機だってんなら、護る為に戦うべきだろ?」

自分でも柄でもない事だと思いながら、シャーニッドが言った。
だが、それは事実である。
都市の戦争、そして汚染獣が現れたらそれから都市を護るのが武芸者なのだ。
そのために優遇され、日々、武技を研鑽している。
もっともシャーニッドの場合は、最後に『男なら女の子を護るのは当然だろ』なんて、付け加えてはいたが。

「たっく……この貸しはでかいですよ?」

呆れたように、諦めたようにため息をつき、オリバーは今すぐにでも泣いて逃げ出したい気持ちを抑えながら、ハンドルに手をかけてUターンをする。
そしてアクセルに足をかけ、全力で踏み抜いた。

「おう、お前の言ってた子とのデートのセッティング手伝ってやるからよ」

「約束ですよ?」

荒れ果てた大地を疾走しながら、彼らは戦場へと突き進む。






































戦場。
そこでは、巨大な化け物と、それに比べればあまりに小さく、貧弱な存在の人間が戦っていた。
だが、戦況ばかりは見た目の様には行かない。

「くそっ」

丸1日戦い続け、流石にレイフォンも疲れていた。
内力系活剄で何日でも戦い続けられるとは言え、レイフォンも1週間戦い続けた経験があるとは言え、レイフォンは一応生身の人間だ。
呼吸もするし、汗もかく。
いくらレイフォンの着ている汚染物質遮断スーツが新型で、通気性が良いとは言え限界がある。
汗が蒸気となって、自分を取り囲んでいる。
だけど、

(調子がいい……この空すら斬れそうだ)

レイフォンの調子は良かった。今まで感じた事がないほどの絶好調だ。まるで羽がはえた様に体が軽い。
汚染獣の、老性体の体は硬い。現在、レイフォンの持つ装備では少しずつ削るようにして倒すしかないほどに。
ならば、少しずつ同じ場所を削り、そこを突いて倒せば良い。

「はは……」

何故か笑みが零れる。
緊迫した危険な戦場だと言うのに、一歩間違えれば死ぬと言うのに、まったく怖くない。まったく負ける気がしない。
今のレイフォンは本当に、絶好調だった。

汚染獣が接近してくる。
小さいレイフォンに、その巨体を生かした真っ直ぐな突進。それだけで人を殺傷するには十分な威力を持っている。
だが、それに掠る事すら許されない。汚染物質遮断スーツが少しでも破れれば、汚染物質に体を侵されるからだ。汚染獣の牙が、レイフォンに迫った。
それをレイフォンは鋼糸を使ってかわす。
岩場に伸ばし、引き寄せてから汚染獣の攻撃を回避した。
そして、隙だらけとなった汚染獣の額に、一撃を叩き込んだ。
空中で回転し、威力を増して巨刀を振り下ろした一撃。
両手を襲う硬い感触。その感触が意味するのは、汚染獣の額を割ったと言う事実だ。
吹き上げる血飛沫と苦痛の咆哮が上がる中、レイフォンは汚染獣から離れた位置に着地して距離を取る。

「ひとつ、折れた……」

自分の武器、複合錬金鋼を見てレイフォンがつぶやく。
レイフォンが持つこの武器は、錬金鋼の長所を完全に残す形で作られた錬金鋼だ。
だが、決定的な短所も存在し、復元状態での基礎密度と重量が軽減できなかったというのが問題だ。
レイフォンの手には今、四つの武器が握られているに等しい。
普通ならその重さに翻弄されているだろう。

だが、レイフォンはそれでも身軽に動き回り、汚染獣の肉を削り、額を割った。
先ほどは硬い頭蓋骨にも攻撃を入れたので、それに耐え切れず四つの内ひとつの錬金鋼が折れ、煙を吹いている。
スリットからその錬金鋼を抜き出し、破棄する。
ひとつの錬金鋼が駄目にはなったが、これで勝機が見えてきた。

(後一撃……もう一度あそこに一撃を叩き込めば……)

今の一撃で鱗を削り、頭蓋骨も半ばほど割った。
汚染獣の脅威は並外れた再生力もあるが、鱗がすぐさま再生するわけではない。頭蓋骨だってすぐに治るわけではない。
ならばそこに巨刀を突き刺し、衝剄を放てば……

問題はどうやってあそこに巨刀を突き刺すかと言う事だ。
あのあまりにも巨大で、動き回る化け物にどうやって巨刀を突き刺す?
一瞬でも動きが止まれば容易いが、それはとても難しい。
だと言うのに、レイフォンには失敗する理由が見つからない。
根拠とか、そう言うものはまったくないのだが、何故かそう思う。

(約束したんだ)

フェリと約束した。ちゃんと生きて帰ると。
そして……彼女の前でちゃんと告白すると。
だからこんなところで負けるわけには行かないし、死ぬつもりなんかない。
そんな考えは、フェリのおかげで吹き飛んでしまった。

「はああああああっ!!」

咆哮を上げ、レイフォンは汚染獣へと向かって行った。







「なんだこりゃ……」

最初に異変に気づいたのはシャーニッドだった。何が出来るかわからないが、汚染獣との戦闘もありえるので車内にいるわけにはいかず放浪バスの外に出て、その屋根の上で錬金鋼を復元して立っていた。
同じく何が出来るかわからないニーナも、現在は剄が使えない故にシャーニッド以上に役に立たない彼女も、じっとしている事は出来ずに同じく屋根の上に立っている。
その車上から、進路のはるか前方で、もうもうたる砂煙が舞い上がっていた。
オリバーも含めた3人の中で、一番内力系活剄による視力強化に優れているシャーニッドだからこそ、一番に気づいた。
現在、内力系活剄を使えないニーナは気づけなかった。だが、次第に近づいていく事で、肉眼でも視認出来る距離へとなる。
その砂煙を突破したところで、一同はこの光景に言葉を失った。

大地がかき回されている。
荒れ果てた大地を目の粗い鑢で、無秩序に削り回したように、そこら中に巨大な溝が出来ていた。辺りに漂う砂煙は、その削りカスと言う訳だ。
その中にポツンと黒い影が転がっている。
嫌な予感がし、心臓がぎゅっと握り締められた気がして、ニーナは胸に手をやった。
オリバーが放浪バスを操り、速度を落として黒い影へと近づくと、それはランドローラーだった。
サイドカーの外されたもので、考えるまでもなくレイフォンが乗って来たものだろう。
それだけだ。レイフォンの姿はない。

「どこにいる……?」

撒き散らされた砂粒が視界を悪くしている。それでも、何とか見渡してもかき回された荒野が延々と広がっているだけだ。
ニーナには、シャーニッドには、オリバーにはわからない。
目の前に、かつて汚染獣が張り付いていた岩山があった事を。
それが今や、何処にも姿がない事を。

「フェリ、レイフォンはどこにいる?」

「……………」

ニーナの問いに、フェリは沈黙で返した。
心配なのだ、不安なのだ。既に1日近くもレイフォンに遅れているのだ。
それでレイフォンは無事なのか?

「答えろ!あいつは無事なのか!?」

怒鳴るようにニーナが尋ねる。
その返答は、フェリの返事は、

「無事です」

レイフォンの生存を知らせる報告。
その言葉に内心でホッとするのもつかの間、次の言葉にニーナは苦々しい表情をする。

「ただ……」

「ただ……?なんだ?」

「それ以上は近づくな。もっと後方に退避しろだそうです」

「なんだと!?」

レイフォンからの忠告。
その言葉に怒りすら覚えるニーナだが、その時、遠くで何かの爆発する音が響いた。
そして、次の瞬間にニーナが見たのは、空の一転を塗りつぶす黒い影。
宙に舞った巨岩が、ニーナ達の頭上に落ちてこようとしていた。



































「うわっ……」

思わず、声が漏れる。
レイフォンは確かに汚染獣の額を割った。割ったと言うのに、汚染獣はその額からレイフォンに向けて突進してきたのだ。
いくら割れた額でも、それが直接レイフォンに当たれば何も問題はなかっただろう。
だが、レイフォンはそれをかわし、汚染獣の巨大な胴体がすぐ側で轟音を立て、大地をめくり上げながら横切っていた。
鋼糸を汚染獣の尻尾に飛ばし、巻きつかせる。
突進の勢いを大地に受け止められ、割られた額もあってかその痛みに尻尾を暴れさせる汚染獣。
割れた額であのような突進をすれば当然の結果だと思いながら、レイフォンは暴れる尻尾の勢いに乗って宙に飛び上がる。
飛び上がり、複合錬金鋼の重量を利用し、レイフォンは空中で独楽の様に回転した。
回転し、その反動を利用して汚染獣から離れた位置に着地する。
そしてすぐさま距離を取り、痛みに鳴き叫ぶ汚染獣と相対する。

地面から汚染獣が頭を抜き、怒りと殺意を持った視線でレイフォンを睨んでいた。
だが、レイフォンはそれでも怯まない。
どうやって汚染獣の額にもう一撃入れる?
それが出来れば、この勝負はレイフォンの勝ちだ。
現在、汚染獣のあちらこちらにある鱗が剥げ、そこから血が零れている。
レイフォンが隙を作るために、何度も切りつけた結果だ。
だが、それでも決定的な隙はなかなか出来ず、その血も大半は止まり、乾いており、黒っぽい塊が瘡蓋となってところどころに岩の様に張り付いていた。
残っていた翅もレイフォンとの戦闘で半分失い、もう飛ぶことは不可能だろう。
今や、地を這う巨大な蛇と言ったところか……それでもランドローラーよりも早く地を這い、そのあまりにも巨大な体が厄介だが。
それから、左目をつぶした。潰れた眼窩からは未だに血が溢れているが、それも最初のころよりは少なくなっている。
傷口が既に埋まろうとしているのだろう。
視力まで回復するかは知らないし、確認する気もないが、現在はそこが死角になっているはずだ。
そこを突き、汚染獣の額を狙う。
レイフォンそう決意した時、汚染獣の視線が、レイフォンから逸れた。

「………?」

「フォンフォン、いいですか?」

それを疑問に思うレイフォン。その疑問と同時に、フェリのためらいがちな声が届いた。
彼女の声を、久しぶりに聞いたように感じた。

「ああ……どれくらい経ちました?」

「1日ほどです」

「そうですか……」

水分が取れないのは辛いが、フェリの声を聞いただけでどことなく元気が湧いてくる。
彼女のためにも、まだ戦える。水がなくともあと2日は大丈夫だとそんなことを考えながら、汚染獣へと目を向ける。
一体どうしたのかと思いながら、だが、好機だとレイフォンが攻め込もうとした時、

「あの……隊長達のことですが……」

フェリの言葉と同時に、汚染獣が動いた。
しかし、レイフォンにではない。レイフォンとは真逆の方向に、まるで逃げるように。

「っ!?隊長?隊長がどうかしましたか?」

鋼糸を使い移動しながら、レイフォンがフェリに問う。
先ほどまで戦闘に集中していたために、彼女が何かを言っていたなんて気づかなかった。

「……先ほど、連絡しました。隊長達が来ていると。フォンフォンは、すぐに後方に下がるようにと言いましたが……覚えていませんか?」

汚染獣を追いながら、そう言えばそんな事を言っていたかと思い出す。
今も戦闘中のために多少上の空だが、レイフォンは追いながら答えた。

「ああ……すいません、覚えてないです。それで、下がりまし……」

その答えを聞く前に、レイフォンの思考は止まった。
もはや呆れてしまったと言っていい。だが、体はまるで条件反射の様に、自然に動いた。

遠くに、内力系活剄で強化しなくとも、肉眼で見える遠くに、砂煙を裂いてこちらに向ってくる物体があった。
それは放浪バスだ。一瞬、この近くを都市間を移動するのが目的な放浪バスが通ったのかと思った。だが違う。
その証拠に、本来なら汚染獣を発見したら止まってやり過ごすか、一目散に逃げ出すというのにあの放浪バスは、こちらへと向ってきている。
そしてその車上、放浪バスの屋根には都市外装備に身を固めた2人の人物が乗っており、錬金鋼を持っていた。
汚染獣は当然、その放浪バスへと向っていた。
普通の放浪バスならまずそんな行動は取らないし、フェリの会話からして大体の見当はつく。
問題はどうやってあの放浪バスを調達したのかだが、あれは間違いなくニーナとシャーニッドなのだろう。

だが、そんなことは汚染獣にはどうでもよく、己の傷を癒すため、そしてどうしようもない飢餓が、レイフォンへの怒りを、脅威をかき消して即物的な餌へと走らせたのだ。
レイフォンは呆れ、ため息をつきながらも、すぐさま戦闘へと意識を向け、巨刀に剄を走らせる。






「うわぁ、来た来た来たあああああっ!!だからレイフォンの指示に従って逃げればよかったのに……」

オリバーは悲鳴を上げながら、放浪バスを汚染獣へと向けて走らせる。
先ほどの巨岩を見事な腕前で回避したオリバーだが、流石に今度ばかりは泣きたくなった。怖くなった。
今すぐにでも尻尾を巻いて、逃げ出したくなった。
目の前には、彼が進む進路の前には、圧倒的質量の地を這う蛇、死と言う言葉を連想させるには十分すぎる脅威があったのだから。

「ここまで来て、その選択は今更だろ!?」

シャーニッドの軽く、だけど大きな声がフェリの念威端子を通して聞こえる。
シャーニッドは現在、目の前の汚染獣に向けて銃撃を浴びせているが、効果は薄い。
片目から血を垂れ流し、ところどころに傷があると言うのに、シャーニッドの攻撃では汚染獣にダメージを与えることすら出来なかった。

老性体……フェリからの報告である程度の事は知っていたが、まさかこれほどとは。
レイフォンは、こんな怪物にたった1人で向かっていたと言う事だ。
その事に呆れながら、そしてレイフォンの並外れた戦闘力を再確認する。

「これが、あいつの見ていた世界か……?」

汚染獣の脅威に、その大きさに、ニーナはかすれたような声を漏らす。
それは、この間ツェルニを襲ってきた幼生体の比ではない。
圧倒的な存在がニーナへと迫ってくる。彼女に突き刺さる視線すら、牙が生えているのかと思うほどに鋭い。
汚染獣に比べてあまりにも小さなニーナの体が、シャーニッドが、オリバーがあの無数の牙で噛み砕かれるのを想像せずにはいられない。
腹を牙が貫き、溢れた内臓が舌の上を転がる様を想像する。
想像して、その恐怖に身震いする。
レイフォンはたった1人で、この凶悪な生物に立ち向かっていたのだ。
今の自分は汚染獣の姿に恐怖し、足が震える。体が動かない。剄が使えない。
シャーニッドの様に、汚染獣に攻撃する事が出来ない。例え出来たとしても、何が出来たかわからないと言うのが、人間と汚染獣の決定的な強さの差なのだろう。
都市すらを半壊させる脅威に、ツェルニならば間違いなく全滅させられる脅威に、ニーナは苦々しい表情で歯を食い縛る。
自分は何も出来ず、無力だと嘆きながら。





その時だった。視界を素早い影が遮ったのは。
しかも、ひとつやふたつの話ではない。
数十、数百と言う影が汚染獣を取り囲み、巨刀を、『刀』と言うにはあまりで巨大であり、無骨である、どちらかと言えば大剣と表現した方が正しいそれを、体をひねり、まるで背に隠すように構えた影が汚染獣へと向って行く。
レイフォンだ。その影の人物全てがレイフォンだと、何故かニーナは思った。
そしてそれは正しい。

活剄衝剄混合変化 千斬閃

天剣、サヴァリスの使うルッケンスの秘奥、千人衝を真似、自分なりにアレンジした技だ。
サヴァリス本人ならその技の名の通り、千人に増えての攻撃を可能とする。
だがレイフォンは、対人戦ならば数十人、汚染獣戦などの本気で戦う場合なら、出せて数百人と人数は少ない。
だけど彼もまた、その名の通り一瞬で千にも及ぶ斬撃を繰り出す事が出来るのだ。
そして更に、この構え。
体をひねり、巨刀を背に隠すような構えは、レイフォン独自の技だ。
レイフォンが天剣授受者となって編み出した、自分だけの技。

天剣技 霞楼

刀身に膨大な剄が凝縮し、それをレイフォンは振るう。
刀身に凝縮された剄がその瞬間、消失した。
言うなればそれは、浸透斬撃。
一閃として放たれた斬撃は、その刃から放たれた衝剄は目標の内部に浸透し、目的の場所で多数の斬撃の雨となって四散する。
それは、斬撃によって織り成された一瞬の楼閣の如く、敵の間合い内に回避不可能な斬撃の重囲を築き上げる。

その千にも及ぶ斬撃を受け、汚染獣が全身から血を吹き出しながら悶える。
傷の深さ、出血共に多少の再生力があったとしても、確実に致命傷クラスの一撃。
残った片目も切り裂かれ、汚染獣の視界は闇に染まった。
だが、それだけでは終わらない。
レイフォンが本気をなかなか出さないのは、出せないのは、彼の膨大な剄に耐えられる錬金鋼が存在しないからだ。
天剣を例外とし、それ以外の錬金鋼にレイフォンが全力で剄を注げば、錬金鋼はその負荷に耐え切れずに崩壊する。
それはあらゆる錬金鋼の性質を併せ持った複合錬金鋼でも同じだ。

レイフォンは後先を考えずに、これで決めると全力で技を放った。剄を放った。
放った後、錬金鋼を痛みに悶え、暴れる汚染獣の額に突き刺す。そしてすぐさま、青石錬金鋼の鋼糸を使って汚染獣から離れた。
結果、爆発。剄の負荷に耐えかねた複合錬金鋼が爆発し、それが汚染獣の額で起こったために一段と汚染獣を暴れさせる。
だが、その動きはだんだんと弱々しくなって行く。
霞楼に全身を切り裂かれ、目は潰され、額と頭蓋骨は割られ、その頭蓋骨も突き刺さった複合錬金鋼の爆発により完璧に砕け、脳まで衝撃は届いた。
爆発は脳を破壊し、その結果がこの状況を作る。
汚染獣の動きは次第に小さくなり、ついには動かなくなってしまった。

「……………」

その光景に、ニーナは絶句した。
シャーニッドも彼女の隣で、同じように固まっている。
放浪バスが止まった。
放浪バスの屋根の上からは見えないが、おそらく運転席にいるオリバーも、ニーナ達と同じように絶句して、固まっているのだろう。
自分達の目の前では、先ほどまで絶対的な死を予感させた汚染獣が倒れている。死んでいる。
それを成した人物に、レイフォンの姿に、彼女達はなんとも言えない表情をしていた。



レイフォンは息を吐き、安堵する。
何とか倒せた。複合錬金鋼は壊してしまったが、それでも汚染獣を倒す事が出来た。
フェリからの念威による確実な報告を聞くまでもなく、頭蓋骨を割られ、頭部を爆発された汚染獣は死んでいる。
自分は生き残ったのだ。生きて、この場に立っている。
これで、フェリとの約束が守れる。自分の気持ちを、彼女へと伝えられる。
そう考えると嬉しい。本当に嬉しく、思わず表情がにやけてしまう。
今すぐにでもフェリに会いたい。彼女の顔を見たい。
ツェルニに帰って、まずはなんと言おう?
そんな事を考えながらも、ひとまずその思考は中断して、レイフォンは視線を死んだ汚染獣から逸らす。

「さて……」

視線を、冷たく、怒っていますと言うような視線を、放浪バスへと、運転席とその屋根に乗っている人物へと向け、レイフォンはもう一度息を吐いた。
今度はため息である。







































「本当にスゲーな、お前……」

「それはどうも……と言うかオリバー先輩、なんで先輩達をここまで運んできたんですか?」

「オィオィ、俺は被害者だぜ。そう言う文句はエリプトン先輩に言ってくれ」

放浪バスはツェルニへと戻る。
レイフォンにより汚染獣は無事撃破したが、ランドローラーは先の戦闘で破損したために、現在はレイフォンもオリバーの運転する放浪バスに乗って帰路へとついていた。
大半の座席を取り外され、4人には広すぎる空間の中で、レイフォンは不機嫌そうな視線をシャーニッドへと向ける。

「そういう視線はないんじゃないか?結果はどうあれ、俺達はランドローラーがなくなったお前を迎えに来たんだ。むしろ感謝して欲しいね」

その視線を、軽く笑いながら受け流すシャーニッド。
まぁ、確かに、こうして無事に帰路へつける事がありがたくはあるが……それでも、このような行動を取った彼らを褒められるわけがない。

「隊長も何を考えているんですか?相手は汚染獣なんですよ。僕が倒したからいいものの……一歩間違えれば取り返しのつかない事になっていたんですからね」

レイフォンは怒っている。彼らしくない気もするが、その怒りは当然で、ニーナ達のことを心配していたからだ。
カリアンに近づかせるなと言ったのに、協力者はいらないと言ったのに、それでもニーナ達は来てしまった。
その事に呆れながら言うレイフォンに、ニーナは苦々しい表情で返答した。

「言っただろう、私達は仲間だと。お前は私の部下で、仲間なんだ。だから私には、仲間を見捨てると言う事は出来なかった」

「見捨てるって……」

ニーナの言い分には少し嬉しい物を感じるが、そもそも1人で戦うと決めたのは自分なのだ。
こう言っては何だが、ニーナ達が戦場にいても足手まといにしかならない。
いや、このツェルニにおいてレイフォンと方を並べて戦える者は存在しない。それ故にレイフォンは1人で戦っていたのだ。

「それともなんだ?私達は必要ないのか?」

「そんな事……」

レイフォンがニーナの言葉を否定しようとして、後半が掻き消える。
確かにこの戦闘においてはニーナ達は必要なかった。
だが、そうではなく隊長として、仲間としてニーナは必要かと聞いてきたのだ。
それに答えようとしたレイフォンだが、自分の行動を振り返れば否定できない。

「反論のしようがないか?」

してやったりと言う小さな笑みを浮かべ、ニーナがレイフォンに言う。
これでは、ニーナが病室にいた時と立場が逆だった。

「なぁ、レイフォン。今回は倒せたからいいが、こんな事は二度とするな」

ニーナは小さな笑いを消し、真剣な表情でレイフォンに言う。
彼のことを本当に心配しており、仲間で、大切な部下だと思っているから、隊長としてしっかりと忠告する。

「グレンダンには、お前の代わりがたくさんいるのだろう?天剣授受者と言うのは12人いるそうじゃないか。なら、少なくともお前の代わりが出来る人間が11人いる計算だ。それなら、お前が倒れてもどうにでも出来る。だからこそ出来たあの戦い方だ。ツェルニは違う。お前の代わりなんていない。グレンダンとツェルニは違う。グレンダンのやり方と私のやり方は違う。お前は私の部下だ。私は部下を見捨てるような事はしない」

「隊長……」

「なぁ、レイフォン。私は何も出来ないのはもう嫌なんだ……どうすれば、強くなれる?どうすれば、お前の代わりとは行かないまでも、お前の側で戦う事が出来る?」

ニーナの強く、だけど弱くもある言葉。
生徒を導く先生の様に言うが、それでいて教えを請う生徒のような言葉。
気丈に振舞っていたが、彼女は悔しかったのだろう。
だからこそ強くなろうとしたが、あのやり方は間違っていた。ならば自分はどうすればいい?
レイフォンが教えて剄息以外にも、何か方法はないのか?

「……そうだ、隊長に……ぴったりの技が……」

自分が教えようと、強くなれるように何か技を教えようとレイフォンは決意する。
ニーナは言った、『全員で強くなろう』と。
ならばと思い、まずは彼女の願いに答えようとしたレイフォンだが、答えきる前に視線がぶれる。
景色が揺れ、頭ががくんと下がる。
遠くなって行く意識の中、レイフォンは消えそうな声で言った。

「金剛剄って……言って……」

「お、おい!?」

そのまま座席に倒れるレイフォンを見て、ニーナは慌てて叫ぶ。
だが、そんな彼女の心配は、次の瞬間には吹き飛んでいた。

「ぐー……」

レイフォンの寝息を聞いて。

「……寝たのか?」

会話の最中に寝始めたレイフォンを見て、ニーナは呆れるように、脱力してつぶやく。
だが、よっぽど疲れていたのだろうし、無理もないと思う。
汚染獣の、それも老性体なんかと丸1日やり合っていたのだ。心身共に疲れていても可笑しくはない。
そんなレイフォンの寝顔を見てニーナが苦笑し、そして気づいた。
シャーニッドと、オリバーが運転をしながらこちらを向いている事に。

「なんだ?と言うかオリバー、前を見て運転しろ」

「いや、前を見ろもなにも、前方には荒れ果てた大地で何もないから前方不注意も何もありませんが……それよりエリプトン先輩、ねぇ」

「ああ……随分とご執心みたいだから、もしかして隊長殿は年下が好みなのだと思っただけさ」

「まさか……」

オリバーとシャーニッドの言葉を、自分でもらしくないと思いながら笑って流す。
そんな彼女から返された返答は、2人にはまったくもって面白味のないものだった。

「こいつは部下で、仲間。それ以上でもそれ以下でもない」

「つまんねぇ話」

「まったくです」

2人が肩をすくめ、オリバーはそのまま前を向いて運転に集中していた。
シャーニッドも暇なため、座席に横になって眠り始めている。
ニーナはもう一度レイフォンの寝顔を見て、

「……それだけだ」

何故か胸に痛みのような物を感じながらも、小さくつぶやくのだった。


































あとがき

はい、レイフォン無双ですw
と言うか、戦闘描写がやはり難しい。いや、対人戦も難しいですが、人対人外の戦闘はやはり、普通の描写とは違うので……そこが厄介でした。
それにしても、うまく描写できてますかね?自分では、これってレイフォン強すぎじゃね?なんて思いながら、汚染獣が弱すぎるように見えないか心配です(汗
ですが、これだけは言います。愛の力は偉大だ!死亡フラグすらブチ折ってやりましたw
しかし、千斬閃に霞楼はやりすぎたかな?
千斬閃においては独自の解釈が入ったりしております(汗

更に、ニーナ達は見事に無駄足(滝汗
いやね、レイフォンがですね……まぁ、フェリのおかげで暴走しましたから(爆
ならニーナ達いらないとも言われそうですが、そこはまぁ、展開やフラグ的に……
そのフラグもフェリ関連で完璧にブチ折れますが……
そう言えば、今回はフェリ成分が皆無!?
これはいかん……エピローグで回収を!
まぁ……かなり短いですが(苦笑

それにしても今週はバイトが忙しかった……
そんな訳でこの作品は2,3日前には出来ていましたが、上げるのが今日になってしまったしだいです。
更にXXX板の『ありえないIF』の物語は、なんつぅかこの、難産でして……
更新予定はありますが、乗りでレイフォン&アルシェイラ(シノーラ)VS第一小隊&第十七小隊の試合をするんじゃなかったなぁ、と思っています。
勝てばレイフォン小隊長になりますので、ニーナの心境とかが難しいです……
あと、XXX要素とか……
あまり期待せずにそちらの更新も待っていて下さい。

それでは、エピローグで!


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