「あと1年で卒業なのに、本当にツェルニを出てっちゃうんだね。少し寂しいなぁ」
「フェリが今年で卒業だからね。フェリのいない学園で、もう1年ってのは辛いよ」
「ホント、レイとんはフェリ先輩と仲がいいよね」
「ハハハ」
ミィフィの言葉に、苦笑を浮かべるレイフォン。
「まぁ、なんだ……サントブルグでも元気でやれよ。あと、小隊のことは任せておけ」
「うん、ナッキなら安心して任せられるよ」
ニーナやシャーニッドも卒業し、今年からはナルキが最年長、6年生となる。
むろん、レイフォンも同い年、同級生なのだが、フェリと共にツェルニを去るため、今まで所属していた小隊の隊長は、今後ナルキが引き継ぐことになる。
同じく同級生にレオがおり、彼と共にこれからのツェルニを守る盾となるはずだ。
「レイとん……これで、本当にお別れなんだね……」
「メイシェン……」
過去に、自分のことを好きだと言ってくれた女性、メイシェン。
だが、レイフォンにはフェリがいるため、告白された当時はもちろん断った。その判断に後悔も迷いも一切ないが、少し想うところがあるのも事実。
ツェルニに入学してから今日まで5年間、友人として過ごして来た女性の今後の幸せを願うことは何らおかしいことではないだろう。
「元気でね、メイシェン」
「うん、レイとんこそ……」
気弱で、人見知りが激しく、自身に自信を持ち切れなかった少女、メイシェン。
だが、彼女も今年で6年生となり、年齢も20歳を超えた。まだまだ若く、経験の浅いところもあるが、大人と言っても差し支えのない年齢。
その瞳に当時はなかった強さを宿し、ハッキリとした言葉でレイフォンに宣言する。
「レイとん、私はあなたのことが好きでした。憧れで、かっこよくって……フェリ先輩と付き合ってるって知ってからも、私はあなたのことをあきらめきれなくて……」
「……ありがとう。でも、ごめんね、メイシェン」
「ううん、謝らないで。レイとんは何も悪くない、悪くないんだよ」
哀愁漂う表情だったが、確かにメイシェンは笑っていた。
釣られるように困ったような笑みを浮かべるレイフォンに向け、メイシェンは堂々と言葉を続ける。
「フェリ先輩とお幸せに。私も…私もいつになるかはわからないけど、きっと幸せになって見せるよ。レイとんと同じくらい、ううん、それ以上のかっこいい人を見つけて、その人といつか……」
「うん、メイシェンならきっといい人が見つかるよ」
お世辞抜きにも、レイフォンは彼女の言葉に肯定する。
友人としてのひいき目抜きにも、メイシェンは美少女だ。当初は引っ込み思案で人見知りなところがあったが、ツェルニに来てもう5年。それもかなり改善されてきた。
今もこうして、正面からレイフォンの顔を見て話せているのがその証拠だろう。
昔のメイシェンなら、ナルキの後ろに隠れておどおどと言葉にならないうめきを上げていたかもしれない。
「……フォンフォン以上の物件なんて、そう簡単に見つかるとは思いませんけどね。と言うかいませんよ」
「いや、フェリ、そこは張り合うところじゃ……」
「あはは」
拗ねたように言うフェリに、レイフォンは困ったような苦笑を、釣られてメイシェンも笑っていた。
それにさらに、不機嫌そうな表情を浮かべるフェリ。
「フェリさん!」
「ミュンファ」
が、その表情が和らぐ。呼びかけられた声の方を振り向くと、そこにいたのは元サリンバン教導傭兵団の団員、ミュンファがいた。
笑顔で駆け寄ってくる彼女の後ろには、男の子の赤子を抱え、ゆっくりと歩いてくる仏頂面の顔の半分に入れ墨を入れた青年、ハイアがいた。
「見送りに来ました、サントブルグに帰っちゃうんですね……」
「ええ、私は今年で卒業ですしね。なんなら、ミュンファも来ますか? 私がお父様に一言いえば、それなりのポストを用意できますよ」
「ははは、それも将来の進路のひとつとしていいかもしれませんね。フェリさんといつでも会えますし」
元孤児で、傭兵として育てられたミュンファ、そしてハイアに故郷はない。
ならばと誘いをかけるフェリに、ミュンファはまんざらでもなさそうに笑った。
「とりあえず、あと1年はツェルニでいろいろ学ぼうと思います。保育士の資格も欲しいですし」
「ミュンファの夢ですからね。子供好きなミュンファにはぴったりです」
「えへへ」
「でも、自分の子にもちゃんと目をかけてあげないとだめですよ」
「はい、それはもちろん!」
フェリの言葉に頷きつつ、ミュンファはハイアが抱く赤子に視線を向ける。
「今年でちょうど、2歳になるんですよ」
「月日が経つのは早いですね」
そう、ハイアが抱いてる赤子はミュンファとハイアの子供なのだ。
ツェルニに途中編入し、勉学を学ぶこととなったミュンファとハイアだが、フェリ達の影響からか、別のこともちゃっかり学んでいたりする。
「あのさあ、レイフォン……フェリのお嬢ちゃんにさ、うちのミュンファに余計なこと吹き込まないでくれるって伝えてくれないかさぁ?」
「いいじゃないか、2人とも楽しそうだし。それともハイアは、子供嫌いなの?」
「いや、嫌いじゃないけど、我が子はそりゃかわいいけどさ~。けど男としての尊厳と言うか、ミュンファのやつ……」
不満を述べるハイアは、歯切れが悪そうにうつむきながら、手に抱く子供をあやす。
子供はキャッキャと無邪気に笑っていた。
「すっかり彼女に、頭が上がらなくなったみたいだね」
「女ってやつは強いさ、母親になると特になぁ。そういうレイフォンだって、フェリのお嬢ちゃんの尻に敷かれっぱなしだろうにさ~」
「それがどうした? フェリの尻に敷かれるなら、むしろ本望だよ」
「はいはい、お前はそういう奴だったよ」
今更言うまでもないが、レイフォンは本当の本気でフェリに惚れている、もはやメロメロだ。彼女のことになると歯止めが利かないほどに。
つまりはまぁ、何が言いたいかと言うと……
「ホント4年前、あの時の俺っちはどうかしていたさー。フェリの嬢ちゃんを誘拐するだなんて。ガチで後悔している」
「うん、それはいいことだよ。あの時は本気で殺そうと思っていたし、殺したかった。仮に今、反省してないなんて言ってたら、やっぱり殺してたと思うよ」
「うん、本気で反省してるから。だからさ、殺気向けるのはやめてくんね?」
「あ、ごめん、殺気漏れてた?」
フェリを誘拐し、本気のレイフォンと戦おうとした自分の黒歴史を思い出し、ハイアは背筋を震わせる。
あの時は本当に死を覚悟した、と言うか死にかけた。あの事件の後も幾度となくレイフォンに命を狙われた。
グレンダンの一件でフェリを助けたことによって、その危機から解放されたハイアではあったが、あの時の出来事はもはやトラウマとして強く刻み込まれており、また自身の実力ではレイフォンには敵わないと自覚させられ、完全に牙を抜かれた獣状態となっていた。
「うん……今ではハイアのことを殺そうとは思ってないよ。あの時はフェリを助けてくれて本当に助かったし、ミュンファもフェリと仲良くしてくれてるし」
「ありがたすぎて涙が出てくるさ。もうほんとお前とは関わりたくなかったんだけど、まあ、同じく学生婚だし、嫁同士仲がいいし、子供って言う共通の話題もあるしで、なんだかんだでここ(ツェルニ)にいる間は腐れ縁だったさぁ」
「そうだね……悪くはない4年間だったと思うよ」
ハイアがツェルニに編入して4年半ほど、今年度で最終6学年になるわけだが、それまで共に過ごしてくれば、多少なりとも愛着がわくのは当然のことだろう。
1年当時のレイフォンとハイア、いやいや、周囲の人間からしても到底信じられるような光景ではないだろうが。
「そういえば、ハイアの子供の名前って……リュホウだったよね?」
「ああ、親父から貰った名さ。親父はもう故人だし、俺っちとミュンファにとっても特別な名だし、もう傭兵団はなくなっちまったけど、せめてその証だけでも残したいなって思ってさ」
リュホウ、それはハイアとミュンファの養父、サリンバン教導傭兵団の先代団長の名前だ。
レイフォンが殺した養父、デルクの兄弟子だそうだが、レイフォンに面識はない。だが、当然ながらハイアとミュンファにとっては特別な存在であり、彼にあやかってリュホウと自分達の子供に名付けるくらいなのだから、とても大切な人だったのだろう。
「……とりあえず、俺っちもこの学校卒業したら、一度グレンダンに行ってみるかな。フェルマウスがいるし」
「ああ、元傭兵団の念威操者の。確か今、デルボネさんの後を継いで天剣をやってるんだっけ」
「まあな。親父はリュホウだったけど、フェルマウスはフェルマウスで、やっぱり俺っち達の親のような存在だったわけだし」
まだ都市が汚染物質にまみれたこの世界を放浪してた時、ツェルニとグレンダンが戦争でもないのに接触したあの騒動の折、フェルマウスは故郷でもあるグレンダンに帰還していた。
帰還し、今では亡きデルボネの後を継いで天剣授受者になっているとの話だ。
「そんでまあ、フェルマウスに挨拶して、グレンダンを出た後は、どこか永住の地を探すさぁ。なんせ俺っちもミュンファも元は孤児だし、帰る場所なんて存在しないからさ」
「……フェリも言ってるけど、サントブルグに来るってのも一つの手だよ」
「んー、まあ、それもありっちゃありだけど(正直、未だにこいつのこと苦手なんだよなぁ)……卒業までまだあるし、よく考えとくさ」
殺伐とした雰囲気はなくなったとはいえ、苦手意識、トラウマは早々に癒えるものではないのだろう。
ハイアが引きつった表情で返答を返していると、ちょうどフェリとミュンファの会話も終わったのだろう。こちらに向かって手を振っている。
「フォンフォン、それからハイア、あなた達もこちらに来なさい。これから写真を撮りますよ!」
「はいはい、そんじゃこっちに並んでー! 週刊ルックンの敏腕カメラマンのこの私が、しっかりと撮るからねー!」
フェリの宣言と、カメラを構えたミィフィ。彼女達の提案に反対する者は1人もおらず、皆が写真を撮るために並んだ。
中央をレイフォンとフェリが陣取り、2人並んでレイフォンがリフォンを、フェリがレイリーを抱きかかえる。
右にいるレイフォン側の隣には、メイド服姿でたたずむヴァティ。その隣にはオリバー。
反対のフェリ側にはナルキ、メイシェンが並んでいた。そしてレイフォンとフェリの前には、しゃがむようにしてハイアとミュンファが並んでいる。その手にはもちろんリュホウを抱きかかえて。
「はい、それじゃあタイマーをセットして……」
カメラマンとは言うが、やはりこういうのは自分も映らねば意味がない。カメラとタイマーをセットしたミィフィは、足早とオリバーの隣へとかけて行く。
「はい、それじゃあみんな笑って! はい! チーズ!」
オリバーの右腕に抱きつくように、笑みを浮かべるミィフィ。他のみんなもつられるように、それぞれ思い思いの笑顔を浮かべ、青春の一ページを写真と共に胸に刻み込むのだった。
長かったようで、短かったツェルニでのこれまで。それもひとまずは、これで幕引きとなった。
あとがき
すぐ続きを投下するはずだったんだけどなぁ、なんだかんだで1年以上経ってました。ごめんなさい……
これにてレイフォンとフェリの青春はひとまずの幕引きですが、まだ書きたいこともいくつか残ってはいるんですよねぇ。
一時期娘ポジにいた、ユーリの故郷、藍曲都市コーヴァスに行くとか。そこでのひと騒動とか。
まあ、こちらもいつかね……
レギオス大好きでした、私の青春でした。当時リアル学生だったので、感慨深いものがありました。
それだけにラストは思うところも。原作だとレイフォンとフェリは未だにニーナと謎空間に閉じ込められたりしてるんでしょうかね?
ここのレイフォンとフェリは、子供達と一緒に幸せに暮らせればいいなと思います、まる