これは――――遠い遠い、未来の可能性の一幕
[七ツ夜と魔法 Fin-epilogue future-]
~epilogue「君よやさしい風になれ」~
それからの僕たちは、そうだね。
色々後始末に追われたというのが実際のところだ。
あの後に時の庭園を捜索したところ、フェイト・テスタロッサの使い魔であるアルフが血まみれの状態で磔にされていた。
どうやら、彼女はフェイトの知らない間にプレシアによって拘束され血の補給の餌にされていたらしい。
保護する前にプレシアから直接的な吸血でなく流れ出た血を集めて飲んでいたことを聞き、吸血鬼化していないことを聞き、慎重に確認をしながら拘束を外して救急搬送をした。
衰弱が激しかったが、適切な処置が間に合った為、事なきを得ることができ、フェイトも涙を流して喜んでいた。
今回の件をややこしくした残るジュエルシードについては、封印する為に特別捜索隊を編成し、3週間ほどかけて全ての回収を終わらせたけど、何処か僕の胸の奥は消化不良の様な胸やけ気分だった。
ミッドチルダでの保護観察が決定したフェイト・テスタロッサと別れを行った後、彼女は家族にこの一件をかあ――艦長と話に行ったそうだ。
高町なのは……偽りの再演の目撃者(記録者)である彼女はレイジングハートを胸に日常へ舞い戻ったよ。
無事に…とは言えなかった。
少なからず、なんてレベルじゃない程に彼女の感じる世界は広がり価値観や人生をがらりと変えてしまったんだから、それで変わらないほど鈍感な彼女じゃない。
高町家族は一同目を丸くして驚いていたり、男性陣は少なからず今回の件に絡んでいたのか疑問が氷解したような様子でいたという。
まあ、その説明だって、僕らもプレシア・テスタロッサから教えられなければ解りもしなかったし、理解するのにも大分かかったんだ。
むしろ、その程度で理解が得られたことに、こっちが驚くところだ。
現象となり果てた吸血鬼による、とある町の出来事の劣化再演(ワラキアの夜)。
七夜志貴―――いや、"遠野志貴と吸血鬼の物語"
高町家の一同はそれこそ僕らのときと同じように、信じ難いことを聞いた風だったそうだ。
七夜志貴の正体
海鳴市でワラキアの夜が起こる前に、別の場所で遠野志貴の写し影として呼び出された"タタリ"。
体が精巧な義肢ならぬ義体であったことから、プレシア女史は何者かが彼に七夜志貴としての体を与えて、一個の存在として確立させたと推察している。
七夜志貴という名前は僕らが目撃した、タタリの遠野志貴のオリジナルが"記憶を改竄される前の"本当の名前だそうだ。
フェイト・テスタロッサからの証言を組み合わせて導き出したことだから、大方合っているだろう。
本名を騙る偽りの存在は、本当の記憶を持ち
偽名を信じる本物の存在は、偽りの記憶を持つ
なんてちぐはぐな二人だ。
そして、偽名を騙るタタリの存在は―――。
これ以上は栓無きことだろう。
どうあれ、アースラメンバーは今回のワラキアの夜に関しては全くのイレギュラーとして割り込んだようなものなのだ。
それはまた、逆も然り。
世界にはまだ、僕ら管理局の知らない理が潜み周っている。
僕らが胸に刻みつけるべき教訓はそんなところだろう。
――――――――――――――
「リンディ提督、この報告書は何だ?まるで報告の様相を呈していないではないか。」
「弁解の余地もありません。ですが、一言だけ申し上げたいことがあるとすれば、それは"何もなかった"ということを表します。」
「ほう、アースらのドライブレコードが数日間にわたっての記録を消失しているのも"何もなかった"のうちに入ると言うのかね?」
「はい」
ドン、と怒りお露わにした拳が机をこれでもかという勢いで殴りつける。
「詳細な事実の提示がなされないのであれば、法に則り君を処分しなければならない。」
「覚悟の上です。この事件における人死者は0名、保護観察者の使い魔1体の負傷、並びに昏睡状態の使い魔が1体。以上が被害規模となっています。」
「私の方に寄越した資料で、保護観察者のみならず、加害者、被害者、関係者一同の個人情報がえらく雑なのは今回の事件と関わりがあると見ていいのだね?」
「本件の略式裁判、及び刑務処理は特別会において上認が確定されております。」
「アースらからの護送中に判決を出すとはえらく急いだ物だな。法務審議会から判決の見直しが迫られるぞ。」
「本件は聖王教会からも同様にSSの情報制限が出ています。これ以上は申し上げることができません。」
―――――――――――――――
――――遠い遠い、未来の可能性の一幕
曰く管理局には死神がいる。
そんな噂が実しやかにささやかれて半年が経つ。
「ね、ねぇティア。」
「五月蠅いわよ、こんな時くらい落ちつきなさい。」
「でっ…でも、さぁ……」
スバル・ナカジマとティアナ・ランスターは機動六課の入隊式において困惑で落ちつかず、声をひそめて会話をし、同じ疑問を持っていた。
隊長、副隊長。サポートスタッフのメンバー紹介。
式の一通りの流れは終盤に差し掛かり、課長の八神はやてが簡単な演説で締めに入っている中でどうしても気になることがある。
六課ロビーの一角で行われている式の隊長陣がずらりと並んでいる、その後ろにあるソファーにて、白猫を隣に置いて寝転がり爆睡している人物は一体誰なのか。
「――――以上でウチからの言葉は終いになるやけど……なんや?みんな不思議そうな顔して?」
「え、え~と……一つだけ質問してもいいですか?」
堪え切れなくなったスバルはおずおずと手を上げる。
ティアナも一瞬は止めようと思ったが、どうにも消化不良気味なこの気分は早々に解消しておきたいと思い八神課長の方を向くことで同意の気持ちを示す。
ティアナの心中は正に不安でいっぱいである。
脳筋だが伸び代が無限大な相棒。
若年の天才的チビッ子2名。
魔道士ランクが全員AA以上のエース級な隊長・副隊長陣。
部隊長のハヤテや高町教導官、彼女の目標とする執務官のフェイトなどは、それぞれが分野でSSランクの認定を受けているほどだ。
管理局の三大美災。
空を墜す『白い悪魔』
月を殺す『黒い死神』
神を潰す『歩く兵器』
そう言えば管理局には更に切り札とされる『死神』がいるとか何とか…
ともあれ、今この場にいる中で自分ひとりだけが凡才で普通だ。場違いにも程がある。
そう思わずにはいられない中で紹介のされない、式の最中に爆睡している青年だ。何か彼も特別なナニカを持ってあんな自由が許されているのではないかと不安に駆られるのは寧ろ当然の流れだった・
「あの、隊長たちの後ろで…その、ソファーで寝てる人は一体どのようなぁ………」
精一杯の取り繕った表情でスバルが指さす方向をハヤテは振り向くと「ああ、忘れとった。」と、今更な態度をとり、苦笑いしながらポリポリと頭をかく。
「ああ、七夜さん。そんな恰好で寝てたら風邪ひくから…!!」
そんな最中、青年の様子に気が付いたフェイトが、何処から持ってきたのかタオルケットをナナヤさんとやらに掛ける。
「つまりアレや。彼――――七夜志貴さんはフェイト執務官の旦那や。」
「ええぇ!!?フェイト執務官て結婚してたんですか!???」
「うそ!?……」
「ぼ、僕も知りませんでした…!?」
「わたしも……!」
どうやらフェイト執務官が保護者を務めている隣のチビッ子達も事情を知らなかったようで、未だに話しはつかめて来ない。
「あはは、ハヤテちゃん違うよ、"まだ"彼氏さんだよ。ね?」
「―――うをっは!!?なのはちゃんストップや!目がっ、目が笑ろうてへん!!?あかん、レイジングハート起動させんといて!?」
「んふふっ、七夜さん。七夜さん♪」
何やら偉大なる機動六課の三大乙女はそれぞれコントとデレモードに入っている。
「心配すんな。なのはの嫉妬はいつものことだし、フェイトのデレっぷりも慣れれば……ウザいけど、仕事はするから。」
ヴィータがフォローになっていない助けの泥船を沈めている。
「あの少年はナナヤ シキ君、フェイト執務官の恋人で、恩人で、使い魔なの。」
「恋人で……恩人で…」
「使い魔?ですか……」
シャマルの説明が入るがますます混乱する。
エリオとキャロは共に呆けたような声と共に頭の中で反復させる。
「そして普段は夜勤専属の警備アルバイトをしているのがあの少年だ。」
シグナムがそう締めくくると最早スバルは目をまわし、口から煙を吹き出しそうな勢いだ。
「えーと、つまり六課の正式メンバーじゃなくて夜勤のアルバイトだから日中は寝ているってことですか?」
「そうね、といっても彼が働く日なんてめったにないんだけどね。」
シャマルが苦笑交じりでそう答えると、ティアナはむっと、睨むような表情になる。
「それで堂々と入隊式にい眠りですか?何だか意識が低いような気がしますけど……」
「仕方がねーんだよ。アイツがいないと、いざって時に戦り辛いし、何より"あの能力"はウチらの奥の手だしな。」
「――――ふぁっ……ああ、お姫様か。今日も一日よろしくな。」
「うんっ!七夜さん!」
ヴィータ副隊長が最後に漏らした能力というのが何なのか気になる所であったが、
あんなに幸せそうな二人を見ていたら何だかどうでもよくなってきてしまいそうな、
そんな入隊式の後に目覚め、微笑ましい一幕を見せる死神の姿があった。
~Fin~