[七ツ夜と魔法(MELTY BLOOD×魔法少女リリカルなのは)]
踊りなさい。今宵の舞台は再劇
初公演の再演(リメイク)
開演場所は変わって三咲町から海鳴市
脚本は必要ない、既に慣れ親しんだ道。
御気の済むまま気の向くまま、しかしそれでも退場を望むのであれば、その命ご返却願います。
なお、キャストに大幅な変更が御座いますのでご注意ください。
まずは、主人公。
遠野志貴に変わりまして、七夜志貴が務めさせていただきます。
真祖の白き姫君。
アルクエイド・ブリュンスタッドに変わりまして、フェイト・テスタロッサ
鬼族の末裔遠野に変わりまして、夜の一族が末裔月村。
なお、ここからの物語は月姫では無く魔法少女のお話し。
―――――――絶望と希望が入り乱れることに変わりはありませんが――――――――
~第14話②「 /憑き緋眼」~
時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンが件の現場に駆け付けたとき、そこには1人の少女が作り上げただろう眼をそむけたくなる光景があった。
上半身が消滅した男の下半身がブスブスト黒い煤を風に漂わせている。
間違いない。殺傷設定による攻撃をこの男はくらい、絶命したんだ。
間に合わなかった。
少女は罪を犯し、法を侵し、人の道を冒した。
一人の人間として死した男を悼み、法の執行者としての無力感に思わず唇をかみしめる。
一方の彼女は丁度ロストロギアの回収が終わったところなのか、ただ俯いて小さく嗤っている。
過ぎた結果は戻らない。なら、己がとる行動はたった一つだけだ。
「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。時空管理局法違反――――管理外世界における密入及び魔法行使並びに戦闘行為、更に殺傷設定魔法の使用、それによる殺人―――以上の罪により君を拘束する。この状況で抵抗した場合、僕は君に向かって攻撃することになる。ああ、後は公務執行妨害及び執務官に対する殺害未遂も追加される。」
大人しく投降するのであれば僅かな希望ではあるけど弁護の余地がある。と最後に付け加える。
淡々とした口調で、怒りは隠す。
これは仕事でありこの身は管理局の執務者。ならば罪状を告げるときは機械(システム)のように余計な心を殺さなくては、押し込めなければ精神は磨り減り隙が生じてしまう。
対して件の少女はこちらを一瞥すると、なにがおかしいのかケタケタと細い首を斜めに傾け笑い声を上げる。
「フ――――クフフッ、ァハッ♪――――しちゃった……」
「私 殺しちゃったの ?」
今にも壊れそうな笑みで問いかける彼女の笑みは、その表情に相対した経験がある。
純粋な心の持ち主が狂気に魔が差し人を殺めたとき、大切な人を殺した時、心から信じる者に裏切られた時。
そういった者たちが次にとる行動は大別して3つ。
罪の意識に押しつぶされ自壊―――自殺、或いは自滅する。
虚無感に囚われ停止―――心が壊れる。
狂気に蝕まれ襲いかかる。
このパターンを経験から予測し、直感的にデバイスを構えた瞬間
―――――ゴ!!!!!
「う――――!???ぐあ゛ぁ゛ぁあああああああああああああああああ゛ぁああああっっづ!!!!!」
光の柱が右肩から地面にかけて生えている。いや、デバイスを構え、脇を締めていたから肩が少し抉れた程度だ。そうでなければ右腕はあとかたもなく消し飛んでいただろう。
空から降ってきた?違う、その場にいきなり出現したんだ。
「私の邪魔をしないでください。あと一つ……そうっ、あと一個なんだよ♪あと一個で私もナナヤさんも、母さんだって、み~んな幸せなんだよ?やっと手に入れられる幸せなんだよ?やっと――――――?――――――シアワセナンダヨ!だから、その為なら私は何でもするよ?フェイト・テスタロッサはあなたなんか眼中にない。鬱陶しい火の粉は埋めるだけだ。私が殺したのは人じゃい!!この町に巣くった吸血鬼の亡霊だ!!人じゃないんだ!!!動物じゃなく人じゃなくて吸血鬼なんだ!!!幻想なんだ!!!現象の虚像(ガラクタ)を消して何が悪い!!!サツジン?私は誰も殺して無い!!私が欲しいのは幸せだけだ!!!私が憎いのはあの白い娘だけだ!!!邪魔をするな!!!」
今度は鬼のような怒り狂った形相で怒鳴ってくる。
「……君を拘束する。フェイト・テスタロッサ。エイミィ、名前の該当検索、及びこの容姿に該当、類似する者を一般バンクを含めたすべのミッドチルダのデータから引き出してくれ。艦長、権限の行使をお願いします。工程を飛ばして本局に直接依頼するには執務官では権限が足りません。」
『承認します、権限により本局にアクセスします。同時にクロノ執務官に命じます―――――彼女の拘束が困難な場合、一級危険対象とみなし管理局法・凶悪犯罪者との戦闘における法律・民間人保護時における戦闘の条項を適用し――――殺傷設定による魔法使用を許可します。』
「艦長ッ!?それは―――」
『判っています。ギリギリまで見極めて、それでも命にかかわるときにしてください。全ての責任は命じた私が持ちます。それともう一つ、右肩の負傷以外に"何か違和感はありますか?"』
違和…感?
ズキズキする、応急処置の治癒魔法を右肩に当てているけど、脳髄まで痺れてくるような感覚が徐々に思考を奪っていく。
ナニカ違うことでもアルカ?
脆い山肌のようにガラガラと意識が崩れていく……もやもやする。崩れた麓で巻きあがった粉塵が山頂を覆い隠すように意思が定まらず、視界があやふやだ。
――――イライラする。
こんな気分はハジメテダ、いつもはこんなことで動揺したりなんてしないのに。
いつもと違う。
違和感…………?
「…イライラ、します。」
『イライラ?………もしかしたら……――――――クロノ執務官!!彼女を出来る限り挑発しながら街を覆っている結界の外に離脱しなさい!正体不明の結界は魔導師の心理状態を乱す効果があるのかもしれません。』
!!
心理状態を乱す結界?
成程、確かにそれなら納得がいく。
しかし、恐らく彼女の魔導師としての実力は相当高い。
いくら自制のタガが外れているにしてもロストロギア封印直後にあんな高位力の牽制攻撃が仕掛けられるレベルだ。
Aオーバー、否。AA以上の戦闘技能を持っていると見て臨まなければならない。
彼女の眼光がこちらをいびつに歪めた視線で睨みつけてくる。
こんな少女がしていい表情じゃない。年齢にしてみればまだ10歳かそこらじゃないか。
何としても正気を取り戻してもらって、詳しい事情を聞くとともに心のケアが必要だ。
こんなかわいい子は笑ってなきゃ駄目だ。暗い表情や狂気の笑みなんか似合いはしない。
相棒であるデバイスのS2Uを構えありったけの虚勢を持って表情を歪ませる。
「ハッ!!この程度か?確かに魔法の威力はそれなりみたいだけど、それだけだな。ん?なんだい?スク水みたいな変態的バリアジャケットを着ているから変態的強さでも誇っているのかと思えば、ただの変態止まりの小物かよ。まったくそんなチャチなガラクタ(デバイス)にクズ同然の戦闘思考。君の周りの人間の程度の低さも窺えるというものだよ。余程馬鹿で低能な人情の欠片もない人しかいないんだな。孤独な人形なんだね君は。爪の垢くらいの同情はしてあげようか?」
艦長に言われた通り挑発をしてみたが。
ヴチンッ!!
そんな音がリアルに聞こえたのは生れてはじめてだった。
ああ、これが所謂キレた時に出る音か。噂には聞いていたけど、結構鈍い音のわりには遠くまで響くんだな。
なんて現実逃避している場合じゃない。
拙い、挑発の度合いが行きすぎたらしい。
「い、否。決して誤解しないでくれ。僕は君のことが変態的センスだとかそう言うことを言っているわけじゃなくてだね。周囲の人が変態なんじゃないのかと危惧しているわけであって、そういった家庭環境に在るのなら時空管理局としても一執務官としても見過ごせないというか――――ああ、別にこれはボクがスク水バリアジャケットが嫌いだから言っているわけじゃない、僕だってそりゃスク水みたいな艶めかしい体のラインが視えて露出のあるコスチュームを着た少女には5倍増し、いや万夫不当の魅力があると信仰しているくらいだよ。僕だってスク水美少女は大好きさ。それはもう恋人なら毎日スク水姿でいて欲しいくらいさ。だからスク水は悪じゃないのさ。しかも美少女、君のような年齢の所謂ロリータと表現される未発達な胸や臀部にフィットしている姿は堪らないと思うよ。つまりスク水とは女の子を大人とは違ったさらなる高みへ引き上げる一アイテムであり、男性を惹きつけく惑わす誘蛾灯のような玩具なのさ。これについて君の意見を聞きたいな。」
「……?………コロシマス。」
馬鹿か僕は!?いくらとっさのことで口が滑ったといっても、あれじゃ変態じゃないか。違うだろ、違うだろ。これじゃあますます相手を怒らせただけだろう。
大体、僕はスク水よりもナーs――――
無数の雷光の柱が地面に突き立てられ紙一重でそれらをかわしていく。
「エイミィ!!結界を出るまであとどのくらいだ!!?」
『……どーかね。』
なにか投げやりで冷たい反応が返ってきた。
『クロノ執務官てスク水びしょぉーじょ好きのロリコンだったんだ。むしろ私は時空管理局の名において目の前のスク水美少女よりクロノ執務官を拘束したいと思うな。』
「な!?君はこんな有事に何を言ってるんだ!??」
『ごめんなさいエイミィ……息子の教育方針を間違えてしまったみたいだわ。大丈夫よ、今度私がスク水になって彼の間違いを正してあげるから。』
ふざけるな、そんなことになったら僕は二度と管理局局内を歩くことができなくなるじゃないか。
というか、母さんがスク水だと?止めてくれ。絶対に無理だ。
母さんめ、僕をひきこもりにでもしたいのか?
「って、!そんなふざけたことをぬかしてる場合じゃない!!」
身をよじり雷光をまとった光の柱を避ける。
幾重にも降らせこちらの回避範囲を狭めてくる死神の少女。
おかしい、こんな高密度の魔力攻撃がそう何発も連続展開できるものだろうか?
目の前の少女の魔力はどんなの高く見積もってもAA~AAAだろう。
だけどこの攻撃力と咬み合わない、合致しない。
恐らくこの出力、Sオーバーの威力だ。
何かがおかしい。
他に何か補助要因があるのなら話は別だろうが――――――原因?………魔力…要因
魔力の塊
膨大な魔力
そうだ、そうだった。
あのスク水マントめ、なんてことを考え付いた!?
よりにもよって、"ロストロギアに内包されている魔力"を引き出して無尽蔵な魔力供給をしている。
つまり、今の状態は 魔導師1名(僕)VSロストロギア
という状態だ。
ただ単に覚醒しているだけの、あの程度のロストロギアなら何とか僕でも対処できただろう。
だけどそれが魔導師の手によって最大限まで魔力を引っ張り出されたら、それこそ手に負えない。
僕一人の力では対処しきれない。
何としてでも結界の外まで逃げ切るんだ!
そう心に鞭うち全速力で市街地を自身の結界で覆いながら低空飛行で逃げ回る。
本当は上空を一気に突き抜けるのが一番楽な選択だが、そんなことをすればたちまち金髪の少女は特大の投擲魔法で僕を射ち落すだろう。
何の遮蔽物もない場所で的になるより住宅街を結界で覆いながら逃げた方がまだ安全という訳だ。
ザマアみろ、僕は死なないぞ。
そう思いながら、つかず離れずの距離を保ち路地の一角を曲がろうとしたところで
「消えちゃえ」
そんな言葉とともに桃色の閃光が降り注いできた。
避けられない、止まれない。何が起きてるんだ?
そう言えばエイミィが戦闘中の魔導師が二組いるって言ってたっけ。
つまりこの攻撃はもう一人の魔道士が撃ってきたものか。
見れば目の前にはナイフを構える青年がひとり。
とっさに
「何してる!!伏せろ!!」
そう怒鳴り彼の前に飛び出て構成方式を半ば無視した力任せの魔法障壁を展開し全力で魔力をつぎ込む。
背にいる青年はその様子を確認するや否や、僕を大きく飛び越える形で跳躍すると
砲撃魔法の上を滑るようにナイフを走らせる。
すると何の冗談か、茶番劇かと疑うほどに、あっけなく、無残に、奇麗に、歪に、簡単に、理解不能なまま――――魔法が消滅した。
弧を描くように跳躍していた青年は何事もなかったようにごく普通だと言わんばかりの着地を見せると、
「ほらね、君の魔法を殺すなんて簡単さ。」
そう夜空に言葉を紡ぐ。
何が起きたのか理解でいないけど、今はそれよりもこの砲撃を行った魔導師だ。
見渡すと上空15メートル付近に佇む白いバリアジャケットを身にまとった、栗色の髪の少女がいる。
しかし残念だ、スク水でもなければナース服でもない。なんだあのゴテゴテしたデザインは?
制服か?制服のつもりなのか?だとしてもスカートが長すぎるだろう。僕はミニスカートについては容認、いや奨励していると言っていいくらい寛容なんだ。更に言えばそんな少女たちにはスパッツなんてに合わない。むしろ邪道だ。見えそうで見えない、絶対領域の先の薄布は想像と希望を詰め込んだ恥丘を隠す霞といえよう。
――――てそんな事を考えているときでもない!!
彼女も魔導師だ。なら、この結界の影響を受けている可能性がある。
甚だ不本意だけどここは心を鬼にして、腹をくくって挑発するしかない。
「おい、そこのコスプレ残念魔法少女!!悔しかったら――――」
「!! アハッ! キハハッ!! いた! 見つけたよ! 泥棒猫!! 薄汚い売女!! ガラクタ女!! 七夜さんをどこに隠したのかなぁ? 今なら八分殺しで許してあげる! 」
ぞくり、とした悪寒が全身を硬直させる。
最早会話が通じないだとかヤンデレだとか昼ドラだとか、そんなレベルじゃない。
殺意
一瞬でも目を逸らしたら喰い殺されてしまうような、猛獣を思わせるほどに劣悪な空気をまとったむせ返るように辺り一帯充満している彼女の魔力。
後ろから迫ってくる金髪のスク水少女の事も忘れて呆然と立ち尽くす。
何で今まで気がつかなかった?
夜空を星空のように照らし浮かぶ桃色の光弾、それも10や20なんて数じゃない。
辺り一面だ。
数えるのも億劫なほどのスフィアは何とか欠片ほど残っていた冷静さで確かめれば、こんな幼い少女の扱いきれる代物じゃないということが容易に知れた。
操作可能数を度外視、そうとしか考えられないほどの状態だ。
攻撃方法として考えられるのは数十発ずつの一斉掃射の連撃。
対空における逃げ場を残りの待機弾で防ぐ考えか。
だけど、そんな予想は次の瞬間見事に外れたと知る。
「ディバインシューター・オールデッド・テラ・ジ・エンド」
彼女の操作命令はただ一つ。
どんなに素質のある魔導師だろうと、こんな数量を扱うにはただ一つのシンプルな操作が限界だろう。むしろ操作放棄と言っていいくらいだ。
しかし、これほど凶悪な一はない。
「は、はは、この世界は……出鱈目だ。」
愚痴くらい吐かせてくれ―――――心がこれから折れるんだから。
迫りくるは桃色の光の一斉落下、勿論逃げ場もないし防ぎきる自信なんて欠片もない。
こんなときだ、一つだけ言わせてもらおうか。
目の前の少女も完全に飲まれている。
―――――――――――――――
ガリガリと響く、罅く。
五月蠅いくらいの耳鳴りが、頭痛が体の自由を奪い全身の感覚が消えうせているようだ。
血が寒い 凍えるように、凍りつくように冷えて…
自分が違う誰かに戻って、染まって逝く。
色あせてノイズが奔る記憶
俺を殺してくれよな■■。
修正開始―――――"再演を再度申請"(リテイク)し、足りない事象を再度補完する。
舞台の裏側で脚本は進む。
収録で欠けた演技は埋められていく。
白き姫は敗北する。
~あとがき~
という訳でクロノ回でした。
いつからクロノは阿良々木君になったのでしょう。
シリアスばっかじゃつまらんと思いちょっと久しぶりにギャグを織り交ぜようとしたら、とたんに変態が生まれたんだ。
なのフェイがヤンでる理由が分かった、私が病んでるんだ。
ちょっと疲れてるみたいです。成田着いた途端空港内で泣き崩れちゃったし。
続けられたら続けます。
H23.8.20 大量の誤字修正