[七ツ夜と魔法(MELTY BLOOD×魔法少女リリカルなのは)]
―――ロア、意思を殺すのが意思の力だというのなら。
お前は一人、こっちは三人分だ。
~第14話-①「月姫/ 」~
それは突然の出来事であった。
辺り一面を塗り潰す黒い渦が恭也と士郎に襲いかからんとするまさにその瞬間
先ほどまでの禍々しいイカズチと打って変わって、更に吸血鬼とは違う魔法陣が上空に現れ辺りを剛雷で埋め尽くされた。
突然の異変に吸血鬼も動揺したのか、何か行おうとした術を中断させてしまう。
「んだぁ?人がせっかく気持ちよくなってたところを萎えさせやがって。俺に雷で仕掛けるってことはアレだよなぁ?」
隅々まで犯して欲しいってことでいぃんだな?
「―――お嬢さんよぉ」
ロアは眼前の20メートル先、地上か3メートルほどの位置に浮遊する金髪の少女に殺気を向ける。
雪のように白い肌、月のように透き通る金の髪
姿こそ違えど、それは彼がかつて幻視した"永遠"と重なる。
彼を壊し彼女を壊した出会いに重なる。
追い求めたものと重なる。
だからこそ苛立つ、憎悪する嫌悪する侮蔑する軽蔑する――――――――決して許すことなど出来ない。
ナニヲ許さない?彼女の姿に似ているのが許せない。
ダレヲ許さない?そんな愚かなことを考えること自体が許せない。
「……私の永遠を汚すようなら、容赦はしない。己が生まれた意味すら理解できないようなガラクタには、相応の末路というものを教えてあげようじゃないか。」
凶暴な影が形をひそめ、聖職者のような淡々とした口調と永久凍土のような氷の瞳で静かな威圧感を漂わせる。
しかし、蛇はこの時自らのセリフとは裏腹に別の事柄を考えていた
この夜はすでに経験済みで、ただこの地に過去を再演させる為だけの舞台だということを。
自らは何故この地の学校を選んだのか。この地に"たまたま純粋な魔力の発生物質があったから"だ。
本来であれば奇跡のような偶然、或いは必然か。
そして対峙するのは白き姫に似た少女。
何の冗談だ。つまり目の前の彼女は代役ということか。
自身が様々な因縁と敗北という形で幕を下ろした劇のやき直し。映画でいえば出来の悪いリメイクだ。
ということは今度の夜はどうあがいても結局は自分は志貴に勝つことができないと言うという事実を突きつけられたような気分だ。
ここで一つの大きな疑問が生まれる。
(なら、ここにいる人間二人は何だ?)
自身の記憶にこのような人間はキャストとして含まれていない。
ならば、これはイレギュラーという存在か。
はたまた自分が勘違いしているだけで、"あの夜"とは関係のない事象に巻き込まれただけのただの偶然が重なっただけのことなのか。
―――――いいや、違うな。こいつらはアラヤにこの夜を認識させ記録させるための媒体か。
ガイア(世界)に修正事項を書き込みアラヤ(この世界の住人)の証人(目撃者)を立てる…廻りくどいが上書きの手段としては及第点か
(どちらにしても、この俺を捨て駒にあてがうなんざイイ度胸じゃないか)
ガチリと頭の中で歯車を繋げ魔術回路が再び唸り声を上げる。
まずは戦ってみなければ相手の能力を測ることは出来ない。
飛行魔術を扱うことには多少驚きはしたが、それがこの世界における神秘の上位に位置づけられると考えるのは早計だ。
もしかしたら彼女らが扱う技術ではそう難しくないのかもしれない。
魔力の質が違う所からも推察できる。
第一に金髪の少女から感じたのは"軽い"と言う気配だった。無論本人の印象では無く魔力の重みだ。
魔術師はその身を使い純度の高い魔力を生成し無色に彩を付ける。
しかし彼女の魔力には元々の色がついた状態だ。
どちらにもメリットとデメリットがある。
空を飛ばれるのは厄介だが…いやそれ以外のことも平然とやってのけるだろう。
だからこそ殺り甲斐がある。そう思ってしまう。
白き姫のキャストに納まるあの少女がどれ程のポテンシャルを秘めているのか、幾度にもわたる転生の果てでこれほど新たな興味は無い。
「来るがいい、キャスト(代理人)。その姿の意味を私に刻み込み、そして知るが良い。外れ者とは言えかつては27祖の頂点に君臨した我が魂、その猛りをとくとご覧に入れよ!」
―――――――――――――
対してフェイトは硬い意思と緊張感を持って目の前の男と向き合っていた。
一目見てこの場所が異常地帯だと判別できた。
なんで管理外世界に魔導師がいるのか?
学校という少年少女が勉学に励む為のコミュニティーの敷地に正体不明の魔力場が形成されていて、広場には無数の魔法トラップ。
そして自分と同じく電撃の魔法を使う男。
自然とバルディッシュを硬く握りしめる。慢心は無い、持つべきは氷のような冷たい思考に刃のごとき研ぎ澄まされた緊張感だ。
そしてジュエルシードがあるこの場にやってくるかも知れない、白いバリアジャケットの少女を叩き潰すことのみを考えろ。
「母さんが待ってる……ナナヤさんが待ってるんだ!あなたが何者かなんてどうでもいい。善人でも、悪人でも…魔導師でも、吸血鬼でも――――そんなの関係ない。邪魔をするなら潰します。」
宣言とともに、はためかせるマントを風に響かせるように、地を這うような低空の高速飛行で一気に男の懐に傍へと飛び込む。
バルディッシュの魔力固定噴出部分から自らの魔力によって作られた鎌を体の後ろに回し、反動とともに一気に振り抜く。
狙いは男のわき腹。
躊躇わず、戸惑わず、慈悲無く不要な心を閉じ込める。
その瞳に炎は無く氷のような瞳で死神をなす。
「型に嵌り過ぎている。一見その実力は高いように見えるが、自身(ポテンシャル)を型に押し込めるのはマイナスだ。」
目の前の男は地面を滑るように、姿勢すら変えずに後ろへ避ける。
『私がそんな硬い子に視えた?』
フェイトの魔力が一気にバルディッシュへと流れこむ。
先端の発出口はそれに応えるように金色の刃を伸ばし、デスサイズのごとく巨大な三日月を創る。
「成程、確かにこれなら"処刑人"だ。だが、死神は戴けない。それは奴の領分だ。」
迫りくる伸びた刃に男は顔をしかめると右手を大きく突き出し、バルディッシュの鎌を弾く。
男が発光部分に触れたとき、熱したフライパンにステーキをのせた時のような、肉を焦がす音が聞こえた。 目を瞑るな。
男の右手が赤黒く焼け爛れ煙を上げている。 ダカラドウシタ
相手を傷つける覚悟なんて、とうに出来ている。
男の左手が鋭いナイフのように雷を帯びた状態で突き出される。
右手を潰してバルディッシュを弾いたのもこのカウンターが狙いだ。
だけど、そんなことは既に解りきっている。
『ファイア』
そう小さくつぶやくと、予め上空に待機させておいた無数のスフィアを弾丸の嵐のように降り下す。
男もこの状況は拙いと判断したのか大きく飛び退き、そして地面を片足で大きく踏みならすと、地面のいたるところから魔法陣が出現し、そこから雷を空に向かって放つことで応戦を始める。
そんな無防備な敵を見逃す程私は優しくない。私の優しさは全て母さんとナナヤさんに向ける為のものだ。
お前になんて一秒でも気を使うか。
スフィアは元々無差別設定に降らせているから、私自身の上にも幾つかが迫ってきている。
『収束――――補充―――――集束』
左手を上へ掲げ、私の近くにあるスフィアをかき集める。
そして新たに数弾を作りだすと―――― 一点へ、私の手の上へ集中させる。
『フォトンランサー・ファランクスシフト』
放電する空気、夜の闇を蹂躙する金色の光、その全てを 今まさにあの男へ喰らわせようとする自分。
そうだ、アイツを倒してジュエルシードを手に入れるんだ。
アイツをなぎ払って奪うんだ。
アイツを消し去って、殺してでも――――コロシテ奪エ
無駄な躊躇いはいらない。
そんな心はいらない。
ただ今は、機械(システム)のように目的(コマンド)を完遂させろ。
『スパーク ――――――』
集束させたスフィアを巨大な槍へと変え狙いを定めろ
犯せ、侵せ、その手の中にある金色の輝きは魔導師の協定を破る禁忌の一撃。
ニンゲンには使ってはならないとされる、常時魔導師を縛る良心と道徳の鎖を引きちぎれ。
アイツは化物だ、吸血鬼だ。ならばこの掟は意味をなさない。ああ、そんなことはもうどうでもいい。
化物だろうが人間だろうが、本モノだろうが偽モノだろうが、私の邪魔をするのならこの世から消し去ってやる。
今まさに放たんとする一撃は―――――
『――― エンドッ!!!』
殺傷設定魔法
それを明確な殺意を持って投擲した。
――――――――――――――――
縦横無尽に地面を壁を電柱を屋根を標識を
あらゆるものを足場に遠野志貴は駆けまわり、なのはのスフィアを避けている。
限界まで体制を低くし、0からトップスピードを叩きだす七夜と同じ動き。
その動きに目が追いつく美由希となのはは人の枠組みの中でも異常な分類であろう。
特になのはなど何の武術も知らない小学生だ、その筈だ。
それが、目の前の遠野志貴と交戦し渡り合う。
空を飛んでいるだけでメチャクチャだ。
遠野志貴もなのはもお互いの姿を見据え、そして無機質の瞳で空と地面を駆けまわる。
『殲滅対象(ターゲット)行動値(アスレチック)8%修正(アハト・リセット)―――完了(ロード・クリア)。第2次開放(セカンドルート・ブーストオン)』
なのはの周りに更に無数の光球が現れ遠野志貴に向かって放たれる。
遠野志貴は攻撃のめをくぐり抜けるように動くが取り囲まれては逃げ場は無い。
ついにその足をとめた遠野志貴は、上空で砲撃魔法の態勢をとるなのはに向かい話しかける。
「なんで自分が狙われてるのかよく解らないんだけど、なのはちゃんでいいのかな?止めるならこれが最後通告だ。これから先は俺も気を使う余裕がなくなるよ。」
圧倒している筈の者向かって、暗に自身が格上だと主張するかのような言葉を吐いた遠野志貴に対してなのはは静かに激怒した。
「なに――――?なんなの?ニセモノさん。なのははこんなに強いよ?この前の化物とだって次に戦えばなのはは負けないよ?七夜さんに大怪我させるようなこともしないよ?あの金髪の子にも負けないよ?ジュエルシードだって全部集めるよ?学校にだって塾にだってしっかり真面目に行くよ?そうすればなのはは独りぼっちじゃなくなるもの。七夜さんだって帰ってきてくれるもの。体育だって苦手だけど頑張るよ?もう泣かないよ?だからあなたみたいなニセモノには興味がないの。どうせ魔力の塊を取り込んだだけの蜃気楼(ガラクタ)でしょう?壊れかけた人形みたいなあなたに何の意味があるって言うの?なのはに勝てるとでも思っているの?なのははあなたみたいな人形(ガラクタ)はいらないの。だって生きてすらいないんでしょう?命じゃないんでしょう?解るんだよ?レイジングハートは優秀だもの。あなたは人間じゃない。ただの張りぼてだもの。殺されていい命なんてないけど、あなたはただの現象だもん。消えたところで何の不都合も不条理も不幸もないでしょ?私があなたを完膚なきまでに押しつぶしてことごとくを凌駕(蹂躙)して、その存在を貶めて(殺して)あげる。」
その顔は歪(いびつ)に歪み、まるで泣いているようだった。
「…酷いいいようだね、勝つことは―――――そうだね、無理かもしれない。」
遠野志貴は魔眼殺しの眼鏡に手をかけゆっくりと瞳の青を晒す。
でも
「コロス事なら出来る。」
「こ、ろす……?あはっ。アハハハハハハッハハハハッハハハハッハハハッハハハッハハハ」
遠野志貴の言葉に何がおかしかったのか、なのはは狂ったように笑いだす。
「やっぱりあなたは七夜さんじゃない!!偽者だ!!七夜さんは誰も殺さないもの。なのはの事を守ってくれる優しい人だもの、あなたはそこに在るだけで七夜さんを侮辱する!!」
だから
「消えちゃえ」
その声とともに禍々しいさくら色の砲撃が学生服を包み込んだ。
――――――――――――――――――――
「艦長、ロストロギアの位置が判明しました。同時に魔導師の魔力反応を複数確認。―――――なにこれ!!?一部地域に解析不能の魔力力場が発生しています!!」
「ロストロギアとの関連性はありますか?」
「解りません。ですが、ミッドチルダの魔法とはまったく異なる構成の結界だと考えられます。」
「…そうですか、現地への偵察、及び戦闘には十分な警戒が必要ね。」
「艦長、ボクが先遣として現場に向かいます。管理外世界での魔法行使及び戦闘は即刻停止させるべきです。」
「まずは情報収集を最優先に考えてちょうだい。解析不能ということは何らかの特殊な空間の様になっている可能性が高いわ。戦闘の詳細地区を割り出してモニターに出して下さい。」
「了解しました―――――出ます。該当区域のうち、この世界の学校…でしょうか?モニター映します。」
「………なんだ、これは………ランクAA、いやAAA魔導師か!?こんなメチャクチャな戦闘――――ちょっと待てっ!!あの金髪の娘っ、非殺傷設定を解除しているぞ!??」
「あ、相手方の魔導師、でしょうか?こちらの打ち出している雷ですが同じく殺傷設定だと思われます。」
「ちぃっ!!今すぐ出る!!座標設定を頼むぞエイミィ!!!」
~あとがき~
自分が日本を離れている間に東北関東大震災が起こったということは現地の報道とネットで知りました。
被災し命を落とされた方々にこの場を借りてお悔み申し上げるとともにご冥福をお祈り致します。
今回はキャーネロアサーン+ヤンデルなのはを意識してみました。
ネロアさんが金髪幼女を襲う様を…もうネロアさん誤字じゃなくてもいいかも。死徒の皆さんはロリコンということで。
フェイトの性格が原作と大きく違うって?
プレシアさんの娘なんだ。一つの事に執着したり、過保護になることで病むことくらい本編でもあったような気がする。
…申し訳ない。
ヤンデル娘コワイ
続きます