[七ツ夜と魔法(MELTY BLOOD×魔法少女リリカルなのは)]
あんたも俺も不確かな水月だ―――
~第11話「Each/lonely night」~
フェイトはとても悲しそうな顔をしていた。
七夜志貴の過去は想像を絶する話だった。
一族郎党を鬼に滅ぼされ、忌むべき敵の家に引き取られ、やっと光を手に入れ親友と過ごした日々も、魔の血統と吸血鬼の転生によりばらばらになり。
心臓を貫かれ、一命を取り留めれば記憶を弄られ――――――――七夜志貴という人物は失われた。
新たに生まれた人物、遠野志貴。
七夜の一族が伝える浄眼は制御ができなくなり、更には死に触れてしまい"理解"してしまった為に万物の終わりが視界を埋め尽くす苦悩。
漸く記憶を取り戻し、仇の鬼を打倒し自らも瀕死の重傷を負ったところで魔法使いに助けられ並行世界にやってきたという。
そして、私が出会った遠野志貴とは悪性の噂を具現化する吸血鬼"タタリ"が引き起こしている現象であり、目的は鏡の向こう側のような"七夜志貴"を殺す存在だと。
「はぁ、そんなに悲しそうな顔をしないでくれよ。今は過去の記憶も……小さい頃のことだからおぼろげだけど、ちゃんとあるんだ。直死の魔眼は使えないけど、見えざるモノは視える。お姫様がピンチの時は必ず守ってあげるよ。」
そう言って、慣れてないのだろうか。ぎこちないながらも、心の底からの優しい笑顔を向けてくれる。
「ナナヤさんは、どうしてそこまで私に優しくしてくれるの?」
気になる
その問いかけに対して七夜は少し言葉に詰まったが。
「昔、敵の家でくらしていた時に、俺以外の退魔の血筋にいた女の子がいたんだ。」
ズキリ、となぜか胸が痛みだす。
「その女の子は塞ぎこんでいた俺の心に太陽を照らしてくれたんだ。その子が見せてくれた眩しい位の世界は、悲しみや苦しみを全て優しく包み込んでくれるようだったんだ。」
「だけど、再会した時に――――彼女は塞ぎこんでしまっていた。」
「眩しい位の笑顔は曇り、陰り、瞳は暗く、彼女が心の底で待ち望んでいたはずの七夜志貴は………いつの間にか遠野志貴にすり替わってしまっていた。」
「俺が救いださなければならなかった。俺が彼女の笑顔を取り戻してあげなければならなかった――――――――俺でなければならなかった筈なのに――――」
「―――――――彼女は遠野志貴に救われてしまっていた。」
「七夜志貴である筈の俺は既に過去に死んだ存在であり、彼女の思い人はいつの間にか遠野志貴になってしまっていた。」
同じ姿で、何も知らない人に救われてしまった。
その喪失感はどれ程のものだったんだろう。
「だから、せめてもの償いなのかな。」
「囚われの"お姫様"の心を救うことは、俺自身の人生の清算何だと思う。何より、苦しそうな目をしている娘を放っておくなんて、今の俺には出来そうにない。」
囚われている?私の…心が?
「私……苦しそうなの?」
自分でもよくわからない。
「ああ、君が何かを欲しているのは分かる。」
私が欲するもの
ジュエルシード?
チガウ、あれは母さんが欲しているものだ。
私が欲しいものは――――――
「母さんの笑顔」
そうだ、私は母さんの笑顔が欲しい。私に微笑みかけてくれる母さんが――――――――
『フェイト、母さんよ。今通信を行っても大丈夫かしら?』
!!?
突然、目の前に光のモニターが現れ、母さんの顔が映し出される。その顔はいつも私に対して接するような厳しい顔じゃなくて、とても穏やかな顔だった。
「は――はい、大丈夫…です。」
一応身なりなどが崩れていない顔確認してモニターの前に出る。
『あぁ、フェイト。そっちでの生活はどうかしら?―――ちょっとやせたんじゃない?ダメよ、ちゃんと栄養のあるものを食べなきゃ。』
その言葉に驚きを隠せない。
母さんが私を心配してくれている?いつも私を鞭で叩く母さんがワタシヲシンパイシテクレテイル
ジュエルシード探索の為に時の庭園を出てからまだ1度も報告に出向いていない。
自然と意識が不安な方向へ傾いてしまう
また怒られてしまう。まだジュエルシードは1個しか手に入れてない。
マタオコラレテシマウ―――――――
「母…さん。……その、ジュエルシードはまだ、…………、…1個……しか手に入れてなくて、――――ゴメンナサイ!!ゴメンナサイ!!」
深く深く頭を下げてあらんかぎりの声で謝罪をする。
後ろにいるナナヤさんの悲しそうな顔が見えた気がするけど、構うことなく目を瞑り次の瞬間に来るであろう、母さんからの罵声に恐怖する。
『そうなの。でもいいわフェイト。1個でもあなたなりに頑張っているのでしょう?無理なお願いをさせているのは母さんだもの。慣れない生活で、調子もいま一つなのかしら。』
!!?
母さんが、ワタシヲキヅカッテクレテイル
『その様子だと、管理局もまだ現れていないのでしょう?焦ることは無いわ。危険があるのを知ってるとはいえ、母さんの大切なフェイトだもの、怪我もしてほしくは無いわ。』
そう言って母さんはワタシニホホエミカケテクレル
カアサンガハジメテワタシヲミテ笑ッテクレタッ、ハジメテ――――――――?――――――――カアサンガワラッテクレタ!!!
『そうそう。危険と言えば、この前あなたがジュエルシードを探している地域を調べてみたの。そうしたら、どうも大気中の魔力が所々不安定なところがあったのよ。そのことにつて色々資料を渡したいから一度こっちに戻ってきてくれないかしら?―――――あら?そういえばあなたの後ろにいる男は誰なの?』
そういえばナナヤさんのことを忘れていた。
「この人はナナヤさんっていうの。昨日ジュエルシードを探していたときに……その、吸血鬼に襲われたところを助けてくれたんです。そのせいで大怪我をしてたから、怪我の治療をするために部屋まで運んだんです。」
『あら、そうだったの。この度は娘を助けて頂きありがとうございました。お礼と言っては何ですが、吸血鬼?でしたっけ。そんな危ない生き物に負わされた怪我ならナニかと危ないでしょう。お手間を取らすようだけどフェイトと一緒に私のところまで来て頂けませんか?私のいる所ならしっかりとした治療が出来ますよ。』
ナナヤさんは少し考える素振りを見せると、チラリと私の顔を窺い
「ええ、それなら"呼ぶことにならない"。せっかくの御厚意、甘えさせていただきます。」
?"呼ぶ"って何のことだろう?その言葉に母さんとナナヤさんはお互いを見て、一瞬にやりと笑った気がしたけど、どんな意味があったのかな?
『それじゃあ、時間は今から1時間後。そちらの時間では19時40分かしら?夕食も兼ねてもてなしさせて頂きます。フェイトとも久しぶりの食事ね。母さん楽しみにしているわ。』
それでは、また後ほど会いましょう。と言って、母さんの通信は終わった。
同時に私の胸は今までにない位、高鳴りを加速させていた。
母さん―――――――――母さんっ!
ああ、これが私の望んでいた、私の願いだ。
このときは、まだ気がつかなかった
優しい嘘に居場所を見つけて、夢の中に逃げ込んでいるだなんて。
これっぽっちも考えてなかった。
――――――――――――――
遅い。
七夜さんが帰ってこない
治療にまだ時間がかかっているのだろうか?
そんな筈は無い。
一命は取り留めた筈だ。
それとも七夜さんは、なのはじゃなくて金髪の女の子と一緒にいることにしたのだろうか?
そんなの嫌だ
またなのはは独りぼっちになってしまう。
お父さんとお母さんは言わずとも。お兄ちゃんは忍さんと。お姉ちゃんは剣のつながりでお兄ちゃんと。
アリサちゃんやすずかちゃんには魔法のことなど話せない。このまま話さずに隠し通すことは出来るだろうけど、その内きっと何か隠していると感づかれて、二人は離れて行ってしまう。
もうイヤなのに、独りはいやなのに。
ミンナナノハカラハナレテユク。
アノコノセイダ
アノコヲナナヤサンガタスケタカラ…
……アンナコタスケナキ――――――――!!????
「チガウ!!!!」
今、自分は何を考えていた?!
殺されていい命なんてない。これは自分が最も尊ぶ目標であり命題だ。
それなのに何で――――
「違う、違う、違う、チガウ、チガウチガウちがうちがうちがうちがう!!!!!!」
その日は自分の考えていたことが怖くなり、部屋の片隅で膝を抱えながらよくわからない不安に駆られながら震えていた。
―――――――――――
高町士郎はある情報に目を丸くしていた。
『夜7時のニュースをお伝えします。海鳴市でまた新たな殺人です。被害者は36歳の男性会社員、○○○○○さんで――――――――』
「何だと!?」
ついに実在する被害者が現れた。
死体は全身の血が抜き取られており、所々食い千切られたような跡があったという。
「恭也!月村家に行くぞ。今回の件、如何やら相当危険なものだ。」
「ああ、本当に吸血鬼の被害が出たとなると、あっち(月村家)ものんびりしていられなくなる!」
士郎は出かける準備をしつつ、美由希に声をかける。
「美由希、ニュースを見て判るとおり、常時帯刀を許す。俺と恭也は、これから暫く月村家の方に警備で行く。留守の間はお前が桃子やなのはを守ってくれ。」
「え?え?待ってよ!私一人!?」
美由希は急な事態に動揺するが
「心配するな。ローテーションでときどき戻ってくる。後は七夜君が戻ってきたら協力してもらえ。なに、彼はこう言ったことに関してはエキスパートだ!!」
「七夜君が――――?」
彼の秘密を漏らしてしまったが、仕方がない。もしかしたら、既に何らかの形で動き出しているのかもしれない――――いや、彼は怪我を負っている。
それでも、彼の言う退魔衝動が本当だとすれば――――。
そう思いながら士郎は恭也を連れて月村家へ向かって行った。
~あとがき~
済みません許してください。なのはちゃんをあんなに壊れさせるつもりは無かったんです。
ということで、そろそろ、原作を大きく外れようかと…
自分でやっておきながらプレシアの優しさが怖い。
牛歩更新で続きます。