空っぽおもちゃ箱⑩「遠い面影、歪な交わり」#クロノ視点それは遠く、遠い昔のこと。あの時僕はまだ十一歳の子供で、彼女は十三歳の少女だった。関係は幼馴染であり、また親友。青春だとか色恋だとか周りの人間がそうやって男女の境を意識し始める年頃にしては、珍しい関係の二人だったのだと思う。姉弟というほどあからさまな間柄ではなかったし、かと言って世間一般に有り触れている様な友人観に当て嵌めて考えられるほど浅はかな間柄でもない。どちらとも言いがたい距離をお互いに保ちながらも、そこから一歩も踏み出そうとも後ずさろうともしない─────そんな関係の二人。今考えればお互いに不器用だったのだと思う。歳相応に素直じゃない僕と、肝心な所で自分の気持ちを言い出せない性分である彼女。二人ともまだ子供であったと言えばそれまでだったのかもしれない。だが、やっぱりその所為でお互いに正面から向き合うことが出来ていなかったのは紛れも無い事実だ。今更後悔したって遅いけど、ふと気がつけば“あそこでああしておけば”と考えてしまう自分が居る。もう二度と、その時は戻ってこないのだと分かっている筈なのに……。「みーつけた」んっ─────面白おかしそうな声色で僕の鼓膜を震わせた言葉の主に、僕は素っ気無くそんな反応を返してそれに応える。すると、彼女はそんな僕の言葉を最初から予想していたかのようにクスッ、と小さく微笑み、壁に凭れ掛かるように座っている僕の方へと歩みを寄せる。昔の彼女の身姿のまま。僕の知る“彼女”の面影をそのまま透写したかのよな嘗ての綺麗な思い出に沿った形で。彼女は静かに僕の隣へと座った。「……探しちゃったよ。クロノくんってば何時も一人でどっかに行っちゃうんだもん。せめて行き先だけでも伝えてくれればいいのに」「一人になりたかったんだ、偶には。考え事をしたかったからな」「考え事?」「そう、考え事だ」さも不思議そうに聞き返してくる彼女に僕はそう短く切り返す。夕焼けに染まったビル郡。朱色に照らされた街並み。そして、それ等の隙間を縫うようにして行き交う人、ひと、ヒト……。取るに足らないそれ等の光景を見下ろせる一つのビルの屋上に僕達は居た。何故この場所だったのか、なんていうようなことは憶えていない。だが、この場所において彼女と僕が交わしたやり取りだけは今尚鮮明に思い出すことが出来きた。その時二人で見ていた街の光景も。吹き抜ける風が微かに身を震わせていたのだという感覚も。口元から僅かに漏れる呼吸が空中で白い靄と変わっていたことも。何もかもが鮮明に、それこそ記憶を再現映像として垣間見るように……僕は何一つとして欠損することなくその日の事を憶えている。もう忘れたいと何度思ったかも知れない。幾度、幾十度、幾百度─────今まで自分が抱えた後悔の分に比例して、何もかも忘却したいという思いは数多に在った。けれど、やはり僕は忘れる事は出来なかったのだ。未練、なのだと言うことは解っていても。ただ彼女と過した日々に縋って生きる事だけが、今の僕を支える唯一の証明で在るが故に……。「ふ~ん……」「興味ない、って顔だな」「うん。まぁ、ちっともって言ったら嘘になるけどね。聞いて欲しいの?」「いや、君がいいならそれでいい。僕もあまり話したくはない……」そう言うと僕は肩を竦め、目線を地面の方へと落として嘆息した。また言い出せなかった。恐らく口元から漏れた溜息の原因はそんな感情から来る物だったのだろう。あの頃は素直じゃなかったと今更になってそう思う。本当は何か聞いて欲しいと思っている癖に、結局は一人で何もかも抱え込んで誰にも自分の事を相談することが出来なかった僕。何というか、多分あの頃の僕は我が侭だったのだ。図星を突かれたら逆上し、正論から目を背けるように突っ走って擦り切れて……。なまじそれが罷り通っていたからこそ尚更性質が悪かったのだろう。僕は何事も自分一人の力で乗り越えるのが当たり前だと思い込んでしまっていたのだ。だから、この時も勿論そう。本当は彼女に相談を持ち掛けたかったのに、自分の中のくだらないプライドがその考えを反射的に否定してしまった。何とも馬鹿らしいことだとは思うのだけれど、挫折も知らない齢十一歳の子供に素直になれという方が恐らく酷というものだ。そして……恐らく彼女も、それが分かっていたのだろう。彼女は例えどんな事柄であったのだとしても僕に対して追求するという事をしてきたりはしなかった。それは彼女なりの優しさなのか、それとも僕が言い出すのを待っていたからなのか……。その真偽の程は確かではないが、もしも後者であったのだとしたら僕は彼女にとても酷い事をしてしまったのだと思う。何せ……恐らく僕は生涯一度たりとも彼女に自分の本音を言い出した事は無かったのだから。「……そっか。じゃあ私は聞かない」「ありがとう。ところで、どうして此処に?」「う~ん、何となく。特別用事があるって訳じゃないんだけど……なんかクロノくんの顔が見たくなってね。おかしいかな?」「……酔狂だな。君も」そうだね、という言葉が不意に鼓膜を震わせたのを僕は感じた。今思えば此処で肯定の意を示されるのはあまり良い事ではなかったのかも知れないが、この頃の僕の現状から考えればあながち間違ってはいなかった。人間としてつまらない、とでも言えば適当なのだろうか。まぁ、はっきり言って一緒に居て愉快な人間ではなかったと思う。流行の歌も映画も知らないし、調子よく周りに順応出来るほど器用でもない。目標に直向きだったと自分に都合が良い様に思い出を美化できればよかったのかもしれないが、結局の所もとを糺して考えれば、そうした人付き合いという事柄に僕は目を向けることをしなかったのだ。そんな人間と居て楽しいと思える人間なんてそうそう居ないと言っても過言ではないだろう。それこそ彼女のような─────余程なまでに酔狂な人間で無ければ。「ごめんね、独りで居たところ邪魔しちゃって。迷惑だった?」「別にいいさ。もう粗方考え事は済んでいたしな」「ふふっ、そう言ってくれると助かるよ。もう少し、そっちに寄ってもいいかな?」「……あぁ」僕がそう返答すると、彼女はさっきよりも少しだけ僕の近くへと身を寄せてきた。恐らく吹き付ける風に身体を冷やしたのが原因だったのだろう。服越しからでも分かるくらい、彼女の身体は冷たかった。そしてそれは僕にしたって同じ事で、その時の僕と彼女の間には凡そ温もりという物は存在し得なかった。冷たい身体を寄せ合って、何を思うわけでもなく朱に染まっていく街を眺める二人。なんと言うか、寂しい光景だったのだと思う。僕はこの時自分が何を考えていたのかなんてもう憶えていないし、当然の事ながら彼女が何を考えていたのかも分からない。けれど、その草臥れた光景だけは今でもはっきりと憶えていて─────今尚不意に思い返してしまうのだ。彼女と交わした、この時のやり取りを。「……寒いね」「そうだな」「クロノくんはずっと此処にいたの?」「いや、昼を過ぎた辺りからだ。それまでは適当に外を散歩していたよ」そう切り返す僕の言葉に彼女は呆れたように小さく溜息を零すと、「そういうのをずっとって言うんだよ」と付け加えて僕に諭した。まぁ、多忙な年頃である彼女からしてみれば当然の反応だったと言っていいだろう。基本的に訓練なんかの時以外は暇を持て余しがちな僕と社交的で人付き合いも上手い彼女とでは時間の感覚にズレが生じていても何ら不思議な事ではない。言わば時間を使う上での優先順位が異なっていたのだ、僕と彼女とでは。でも、それは考えてみれば彼女と僕が少しずつすれ違い始めている事の証明とも言えることで─────愚かにも僕は、その変化に気がつくことが出来ないでいたのだ。彼女はもう、僕が思っていたほど子供ではなかったのだという事に。「あんまり身体を冷やすと風引いちゃうよ。もうクロノくんの身体はクロノくんだけの物じゃないんだから、あんまり……無理しないでね」「……そう、だな」「そうだよ。せっかく執務官になれたんだもん。出だしから躓かないようにしないと」「……確かにな」彼女に対する言葉は優しげで、僕の事を気遣ってくれているのだということが痛いほどよく分かった。だが、それと同時に彼女が口にした「執務官」という単語が僕の胸の内に重く圧し掛かる。五歳の頃から必死になって訓練を重ね、六年という歳月の果てにようやく手にした執務官という肩書き。勿論嬉しくはある。今までの苦労が報われたというのは勿論の事だが、それ以上に周りの人間から自身の実力を認められたというのは何物にも変えがたい幸福であったからだ。しかし、その半面で様々な葛藤もあった。目先の目標を見失ってしまった今自分は何処を目指すべきなのだろうとか、自分には果たしてどんなことが出来るのだろうとか……まぁ、その手の初心な不安から来るありがちな悩み事だ。ただ、なまじどうして執務官になるのか、という事でなくどうやって執務官になるのかということだけを考えて執務官になった僕にとっては悩ましい問題だったことは間違いない。ましてこの時の僕はまだ十一歳の子供だ。これから先の将来を見据えて身の振り方を考えるなんて器用な芸当が出来るはずも無かった。「ねぇ、クロノくん」「んっ……なんだ?」「やっぱり、不安?」「……不安が無いと言えば嘘になるな。正直、怖いよ」彼女にしろ僕にしろ、口にする言葉は極少ない。だけど、それは互いが相手のことをちゃんと分かっていたが故の事であり─────ある意味それは二人の親愛の証であったのだと言ってもよかった。幼い頃から気が付けば何時も隣りに居てくれた彼女という存在。当たり前、何時だって僕はそう思っていた。彼女が僕の傍に居てくれる事を。そして何よりも僕自身が彼女の傍に居られるのだという事を信じて疑うこともしなかった。愚かだったのだと思う。過ぎ去る月日が僕らの間に何を齎すのか、なんていうような事を思慮するにはあの頃の僕はあまりにも若過ぎたのだ。失ってから気付く彼女の尊さ。もう今更何もかも遅い事は分かっているのに、それを自覚する度に後悔が僕の胸に落ちて行く。最後の最後まで、素直になる事が出来なかった自分を悔やむが故に。彼女に自分の本当の気持ちを伝えられなかったが故に……。未練なのだという事は分かっていても、僕はふと気が付けば彼女との思い出に縋ってしまうのだ。本当に馬鹿みたいだと思う。だって、そうだろう。そんな今の自分が悔やんでいるのも、結局は他ならぬ己自身の所為だというのだから……。「……怖いの?」「意外か?」「ううん、そんな事は無いけど……。何時になく弱気だな、って思ってさ。クロノくんのそういう処、今まで全然見る事無かったから……」「見せなかったからな。極力、表に出さない様に努力したんだ。心配されるのが苦手なんだよ、僕は……。煩わしいのは嫌なんだ」まるで出来の悪い弟をからかうように「素直じゃないね」とクスクス笑う彼女を他所に、僕は俯きながら「そんなんじゃない」と呟きを返す。煩わしいのが嫌いだったっていうのは別に嘘と言う訳じゃない。実際、父が死んでからというもの、何かと気の毒そうな目で僕のことを見てくる人間が僕はそんなに好きじゃなかったからだ。母にも、恩師にも、父の関係者たちからも僕を父の影と重ねて見られている様な気がして……僕はそれが嫌で嫌で仕方なくて……僕は僕なんだと認めて欲しくて……。結局、意地だったんだと思う。無茶をしていたのも、周りからの心配を拒絶していたのも。若気の至りって言ってしまえばそれまでのちっぽけなプライドを支えにして、僕は無茶をしてでも我を主張したかったのだ。けれど、それはやっぱり無茶な事で─────我武者羅になればなるほど僕は自分が何をしたいのかも分からくなった。別に御大層な正義思想があった訳でも無ければ、目指したい明確なビジョンがあった訳でも無い。ただ己の自尊心と周りからの目が少しは変わるんじゃないかって期待だけが僕の道標で、気が付いたら今の自分があったっていうのがこの時の心境だった。そして多分、彼女もそれが良く分かっていたのだろう。彼女は口ではおどけたように言いながらも、真剣に僕の行く末を案じてくれていた。いいや、その時ばかりじゃない。ずっと、ずっと……それこそお互いがまだ幼い年頃の子どもだった時から、ずっと……。彼女は、僕の事を想ってくれていたんだ。僕がその事に気がつく、ずっと前から……。「ねぇ……クロノくん」「んっ?」「やりたいこと、見つかるといいね」「……あぁ」言われるまでも無い、多分この時の僕はそう思っていたに違いない。此処から先の未来なんて何にも分かんない癖に。今ならそう思えるのかもしれないけど、この時はこの時で今ある一瞬の中を手探るだけでも精一杯で─────右を向いても左を向いても分からない事だらけで……。でも、決めなくちゃいけなかったんだ。けじめを付ける必要があったから。自分の為にも、そして勿論彼女の為にも。本当はずっと子供でいたかったけど……彼女との今を思い出にしたくはなかったけど……。僕は、選択肢に矢印を動かしたんだ。自分の意思で……後で、どれだけ後悔するかも知らないで。僕は進むべき道を選んで、誤った。「─────なぁ、■■■■」「んーっ? なにかな?」「そう言う君は……何か、やりたい事はあるのか?」思い出の中の僕はそう彼女に問いを投げた。まるで逃げ場をなくした子供が、屁理屈をこねる様な口調で。お返しとばかりに、ほんの少しの悪ふざけと共に……僕は彼女の言葉を待った。一秒、二秒と時は過ぎて行く。吹き抜ける風と、夕陽を背に揺らめくネオンの光に急かされるように。朱から黒へと変わる空の下で、僕たちはゆっくりと互いの時間を刻み続けた。でも、もしかしたら──────そう、もしかしたらって今でも思ってしまうんだ。この時から僕らは初めて交わって、すれ違ってしまったんじゃないかって。何時までも子供のままじゃいられなかった僕たちがこれからの節目に二人で子供同士のまま言葉を交わした最後の瞬間なんじゃないかって……。今になって僕は、そう思ってしまうんだ。あの時風に乗って消えてしまった、彼女の呟きを思い出すたびに。「……聞きたい?」「興味はあるな」「ふふっ、何だか珍しいね。クロノくんが他の人のそう言う事に関心持つなんて」「……単なる気まぐれだよ。他意なんてないさ」嘘だ、今から何かこの時の自分に言えるというなら真っ先に僕はこの言葉を投げかける事だろう。本当は何よりも彼女にそう問うてみたくて仕方が無かったというのに、素直に「教えてくれないか」と言う事が出来なくて……でも彼女ならそんな僕の素っ気ない態度にも微笑んで応えてくれるだろうって期待していて……。やっぱり、僕は子供だったんだ。それも、どうしようもなく甘ったれた糞ガキで、自分一人じゃ本当は何も出来ない奴だった。己の事ながら恥ずかしい話だと思う。だって思い出せば思い出す程、僕は昔から何も変わってないんだって分かってしまうから。大人になったなんて口が裂けても言うつもりは無いけれど、それでも僕も自分の行動にどれだけの責任が付き纏うのか理解出来る程度には歳も取った。いい加減このままの自分じゃ駄目なんだって……変えて行かなくちゃいけないんだって、頭では分かっているんだ。彼女の事をもうこれ以上、振りかえらないでも真っ直ぐ前を見据えて歩いて行けるようにならねばならないなんて事くらいは。「本当に?」「……本当だ」「ふーん。まっ、いいよ。そう言う事にしておいてあげる」彼女はスッと立ちあがって僕の方へと向き直りながら、なにかんだような照れ混じりの笑みを浮かべて僕にそう言った。その時の彼女の表情が何時もの彼女とは少し印象の異なる大人びた表情に見えたのは、多分沈む夕日の光が見せた錯覚なんかじゃなかったのだと僕は思う。恐らく、彼女はこの時を皮切りに自分のしたい事へと向かい始めていたのだろう。彼女は彼女なりに、一人の少女としてやりたい事を見つけ、それを既に見出していた。それが、その時の僕と彼女の違いだったに違いない。だから、あの時の彼女は僕にとって一歩進んだ存在に見えたのだ。少なくとも、僕はそう思っている。きっとあの時の僕も納得はしていなかったのだろうけど、きっとその頃を心の何処かで悟っていて─────何処かで羨ましいと思っていたんだ、彼女の事を。「私は……私はね─────」其処から先に彼女が語った言葉は何時もこの場面になって僕の思い出の中からかき消されて消える。忘れる筈も無い。忘れられる筈も無いから……僕は絶対に其処から先の言葉を思い返したりはしないのだ。思い出すのが辛いのが分かっているから。振り返るのが苦しい事だって熟知しているから。僕はもう、その先に続く言葉の意味を考える事はしない。でないと、本当にどうにかなってしまいそうだから。あの時の彼女があまりにも眩し過ぎて─────そして、そう思いを馳せる今の僕自身があまりにも惨め過ぎて……。彼女の事を本当の意味で裏切ってしまったんだって、そのどうあっても覆しようの無い現実に自分の心が押し潰されそうになってしまうから。僕はもう、彼女からの“告白”を思い出したりはしないのだ。もう二度と、絶対に……。そして、思い出は現在へと回帰し、僕の意識もまたそれに合わせて現実へと引き戻される。夕日に飲まれていた街並みの場景はすっかり夜となった簡素な住宅街のそれへと変わり、頬を撫でる風も何処かあの時の物とは違って明確な寒さを感じてしまう。あの頃とはまったく違う場所、何もかもが異なる世界……。そんな時の中に、僕は立っていた。あの頃の回想から実に三年ばかりの月日を無駄に費やし、それまで背負った物達から目を背けて逃げ去るように流れた果ての先に。此処に至るまでに幾度も躓いた。執務官の地位も追われ、周りからの信用も何もかも失って─────ついには唯一の味方であった彼女の事すらも僕は裏切ってしまった。だから、僕は一人になる事を選んだ。僕が誰かと関わりを持つようになれば、遠からずその人間を不幸にしてしまうと身に染みて分かっていたが故に。もうどう抗っても、自分ひとりの力じゃどうしようもないと諦めるしかなかったが故に……。クロノ・ハラオウンからクロノ・ハーヴェイと名を変えて、彼女を手元に置いている“奴”の命令に従って、僕はもう一度管理局に身を置く事にしたのだ。表の仕事ではなく、あくまでも面倒事を一人で片付ける裏方役として。もう誰も傷つけなくて良い様に。もう誰のことも背負わなくて良い様に。僕は……色々な物を手放して、様々な人から逃げ出したのだ。それなのに───────────────「いやーごめんね。スバルのこと連れてきて貰うばかりか私たちまで送って貰っちゃって」「あの、えっと……すみません。ご迷惑をおかけします……」何をやっているんだろう、僕は。今の現状を再度把握し直した瞬間、僕は頭の中に浮かんだそのフレーズと共に思わず溜息をつきたくなるような衝動に駆られてしまった。仕事の都合で訪れた世界の片隅で、自分に与えられた仕事もままならない中、何処の誰とも知れない見ず知らずの少女を相手に人助け……。そんな事をしている場合じゃないっていうのは分かっているのに、どういう訳か僕はまた別に出しゃばらなくてもいいような厄介ごとに首を突っ込んでしまっていたのだ。馬鹿な事だっていうのは分かってる。今更こんなことしたって何の特にもならないことだって自覚している。もう小さな慈善活動をしただけで持て囃された昔とは違うのだ。困っている人間を助けた所で一銭の得にもなりはしないし、感謝されたからってむず痒い思いをするだけだ。ただの徒労、結局困っている人間の事を気に留めるのだって仕事が捗らない事への憤りの所為で落ち着かない心の不安定さが生み出す杞憂に過ぎはしない。冷静になって考えれば直に分かる筈の事だろう。こんな……こんな思ってもいないようなことを口にしてまで、誰かの手を差し伸べるような真似をするのが正しいわけが無い、なんていうことは。「……気にする事なんてないさ。この国では困った時はお互い様、って言うんだろう? 国のスクールで日本の文化に明るい教師に教えてもらったよ」心にも思っていないようなふざけた台詞だった。元より僕はそんな上辺面だけの言葉を鵜呑みにして善行を働くような人間でもないし、形振り構わず他人に手を差し伸べようと考えられるほど善人でもない。だけどこうやって好青年面を装い、平気で嘘をついてまで他人に関ってしまったのは偏に僕の詰めが甘かったのか、それとも単純に流され易い性質であるが故なのか……。何ともお優しい事だ、と僕はそれぞれ異なる言い回しでお礼を述べてくる少女二人に軽く会釈をしながら己自身を嘲るかのようにそう思った。「本当に助かったよー。この子ってばジュース買いに行って来るって出てったきり全然帰ってこないし……心配したんだからねぇ、もう」「でも、良かったですねセインさん。お兄さんみたいな親切な人に見つけてもらえて……。最近、この辺りもなにかと物騒ですから……」少女達の言葉に曖昧な笑みを浮かべながら「よかったですね」と適当に同意し、彼女達から向けられる好意を念を適当に受け流す。やはり真正面から感謝やら礼やらされるのは気恥ずかしくて嫌いだ、って気持ちが今でも尚根強く残っているからなのだろう。表情に浮かんでいる愛想笑いの裏側で僕は何処か言いようの無い居心地の悪さを感じてしまっていた。一種の疎外感とでも言えばいいのだろうか。こうして何気なく言葉を交わすにしても、どこか彼女達と自分とは違う存在なのだと感じてしまうのだ。同じ町にいて、同じような人の波に流され、同じように笑みを浮かべているはずなのに……。どうしてこんなにも自分は汚いのだろうと、そんな考えばかりが僕の頭の中で堂々巡りを繰り返していた。「うんうん。確かこの前も何人か死んじゃったんだよね? ニュースをチラッと見た程度だったから事情はあんまり知らないけど」「えぇ、何でも凶暴な野犬の仕業とかで……。何だか物騒で怖いです、私……」「野犬、ねぇ……。いまいちピンとこないけど確かにそりゃあ怖いよねぇ。まっ、なんにしてもスバルも無事で何よりだし、月村ちゃんも大分回復したみたいで本当によかったよ。世の中面倒が起こんないのが一番だからね、やっぱり」不安そうな少女達の声が鼓膜を擽る。空色の髪の少女―――――確かセインとか名乗っていただろうか─────はそれほど気にした様子でもないといった様子だが、それでも言葉の節々からは何処か不安げな意図があるのだということが僕にも理解出来た。恐らくもう一人の少女─────こちらは月村すずかと名乗っていた─────に気を使っているのだろう。見たところ彼女たちはどう考えても後者より前者の方が年上だ。セインと名乗った少女は恐らく僕と同じくらいで、月村すずかと名乗った少女は背格好から考えても10歳前後といったところだろうか。そんな二人がどんな経緯で知り合い、どんな関係に至ったのかは僕には窺い知れないが、それでも何処と無くセインの方がすずかに対して注意を払っているのは彼女達の間に流れる会話の雰囲気から読み取ることが出来た。年上として年下の少女を気遣っているのか。はたまた、もっと別の理由があって必要以上に不安を煽らないようにしているのか……。まぁ、何にしても見ていて微笑ましい光景である事に違いは無かった。尤も、その会話の内容が巷を騒がせている“あの事件”のことでなければの話だが─────「おーい。少年くーん」「─────んっ?」「どうしたの、そんなにボーっとして? あっ、ごめん。そう言えばあたし、ずっとスバルのこと君に任せたまんまだったね。良かったら替わろうか?」「……いや、別段問題ない。少し考え事をしていたんだ」暗に「疲れているのではないか?」と訪ねてくる彼女に僕は昔何処かで誰かに言ったような言い訳を口にし、ふと自分が背負っているもう一人の人物の方へと意識を移した。僕の背中に凭れ掛かりながら気持ち良さそうに小さな寝息を立てている五歳ほどの女の子。名前はスバル─────何でも歳の離れたセインの妹さんなのだそうだ。思えば僕がセインやすずかと知り合うことになったもの、発端は偶然僕がこの子と出会ったことから始まった物だった。街道の片隅で家族と逸れてしまったと嘆き佇む彼女と、そんな悲痛な光景を目の当たりにして思わず声を掛けてしまった僕。自分の立場を棚に上げてお優しい事だよ、と僕自身もつくづく思う。本当は自分の事だってままなら無いくせに、それでも「困っている人間が居たから仕方なかった」と自分に言い訳して他人に関り、己自身の余裕をすり減らしてしまう……。とんだ悪循環という他無かった。だけど結局僕はこの日も懲りずにスバルと一緒に逸れてしまった家族を探し回り、挙句彼女が「眠たい」と言い出せば背負ってやるような真似までして─────そして、その結果がこのザマだ。保育士や所轄の真似事なんてするもんじゃない。僕は顔に張り付いた曖昧な笑みの向こう側でそんな風な事を考えながら、心配そうにこちらを見つめるセインに対して「本当に大丈夫だ」と念を押して言葉を重ねるのだった。「考え事?」「そう、考え事だ」「ふーん……。あっ、でも歩きながらぼーっとするのはお姉さん的にはあんまり感心しないかな。なんて言うか、危ないし」「……ご忠告どうも」何処かお姉さんぶった口調で僕にそう諭してくるセイン。何と言うか、何処か抜けてるところは在っても根はしっかりした人なんだろうな、と僕は思った。確かに口調や挙動は飄々としていて掴み処が無いものの、しっかりと年上らしい面は併せ持っていたように見えたし、何より彼女を探す時にスバルから聞いた話からもその是非を裏付けるだけの要素は十分に有しているのだろうことを想像に難くは無い。何処か間の抜けたところは在るけれど、本当に自分の事を想ってくれる優しい姉─────スバルは確かにそう言っていた。勿論、それが真であるのか否なのかなんていうのは実際の所は分からないし、まして赤の他人である僕の与り知れることではないのだけど……僕にはそう口にしていた時にスバルが浮かべていた照れ臭そうな微笑みが嘘であるようには思えなかった。本当に羨ましい限りだ─────僕はセインに返すぶっきら棒な呟きの裏側でそんな事を考えながら、少しだけ切ないような感情を胸の内にそっと仕舞い込むのだった。「それで?」「んっ?」「何をそんなに考えてたのかなーって思ってさ。なんて言うか、少年くんさっきから度々仏頂面になってる時があったから……何事かと思って。あれ? 聞いたら駄目気なことだった?」「……いや、別に。ただつまらない事さ。宿題とか課題とか、そういう類のことだしな」そう僕が言葉を繋げると彼女は一瞬にして興味を喪失したようで「そりゃまた大変なことで……」と何処か草臥れた口調でそう呟きを漏らした。まぁ、実際僕の言った事は全部が全部嘘であるという訳ではない。学校に通っていない以上宿題と言うのは嘘、しかし課題があるというのは本当のことだ。この街で度々起こっている大形肉食動物による人の殺傷事件。巷の噂では大形の野犬だの近所の動物園から肉食獣が密かに脱走したのではないかだの様々な憶測が立てられているが、当然その真意は別の所にある。とある次元輸送船の事故で管理外世界に漏れ出したロストロギア、名をジュエルシード。凡そ魔法という技能が文明の発達に関与する事の無かったこの世界においては異質な─────いや、僕達の世界においても段違いな危険度を有する代物だ。恐らく、先に彼女達が話していた殺傷事件の被害者は十中八九ジュエルシード絡みのものなのだろう。あれは動物や植物といった物から無機物に至るまで不特定の物に寄生し、そして高水準の戦闘能力を有した暴走体を作り上げてしまうという特性を持っている。これまで僕が確認した暴走体は食虫植物が巨大化したような暴走体の一体だけだが、ジュエルシードが複数個あることを考えると、自分が倒したあの一体だけが暴走体として活動しているという訳ではないだろう事は想像に難くは無い。それに上の人間から新たに通達された情報にはそのジュエルシードをここぞとばかりに火事場泥棒しようとしている人間の存在も確認されているとの記述があった。正に八方塞、そう評すほかに今の現状を表す的確な言葉は無いだろう。だが、泣き言を言ってばかりいても始まらないのもまた事実。多くの人間の命が掛かっている以上、もはや僕も後に引くことは出来ないのだ。今は一人でも多く─────出来れば目の前の彼女達のような人間がそうした事件に巻き込まれない事を祈りながら事件の究明に尽力するほかない。まったく前途多難な“課題”だ、と僕は思わず溜息を漏らしそうになった。「あー……何て言うか頑張ってね、少年くん。勉強関連はオール専門外なあたしも応援だけなら出来るから」「……随分頼りない応援だな」「おっと! それを言っちゃお終いだよ少年くん~。あたしはね、実技に生きる人間なんだよ。計算なんてお釣り計算出来ればいい訳だし、文字だって別に小難しい単語知ってなくたって生きていける訳じゃん? 知恵が無くとも世は回る。だったら世はこともなしって奴でしょ」「典型的な駄目人間の言い分じゃないのか、それは……?」呆れたように僕がそう訪ねると彼女は無理やり造ったような笑みを浮かべて「あはっ、あはははは……」と何処か自棄気味に苦い笑いを浮かべていた。きっとこれがコミックか何かだったら彼女の胸元には「ザクッ!」だの「グサッ!」だのの効果音が入っていたことだろう。傷付くのが嫌なら最初から墓穴を掘るようなことを言わなければいいのにと思わないでもないが、きっとこういう所も彼女が他者から好かれる所以なのだろうと僕はそう納得する事にした。でなければ今の彼女があまりにも見ていて不憫だと言うか……いや、きっと彼女も本望なのだろう。先ほどから口数の少なかったすずかもクスクスと笑って楽しげにしているし、多分彼女の性格から考えるに立ち直るのも速い筈だ。結局、独りでに自爆したセインに掛ける慰めの言葉も見つからず、そういうようにしか思考を纏めることが出来なかった僕はどんよりとした空気を醸し出しているセインから離れて、すずかに話題を振る事に決めた。「そう言えば……君はもう体調の方は大丈夫なのか? 何でも道端で倒れていたらしいけど」「えっ……あっ、はい。おかげさまでもう大分楽になりました」「……そうか。身体は大事にな」そう僕が言葉を投げ掛けると彼女はもう一度「ありがとうございます」と丁寧に礼を返してくれた。だが、やはりその言葉には覇気が薄く、声色も何処か沈んでいるように思えてしまう。やはり口では大丈夫と言っていてもやはり全快していないことは隠し切れないのだろう。ふらふらと覚束ない足取りで歩を進める彼女の姿は眺めていて危なっかしいという他無かった。一刻も早く家まで送り届けてあげた方が彼女の為だろう─────そう思って僕が彼女に「家の場所は此処から近いのか?」と訪ねると、すずかは申し訳無さそうに一礼し、「もう少しです」と力なく返答を返してきた。何だか聞いているこっちが申し訳なく思ってしまうような腰の低い対応だった為、僕も「……そうか」としか声を掛けてあげられなかったのだが、きっとこれが彼女の性分なのだろうと思って僕はそれ以上言葉を繋げる事はしないことにした。そういう人間はストレスを蓄積し易いから将来的にはもう少し社交的になったほうがいいのかもしれないが、少なくともそれは赤の他人である僕が一々口を出すような事じゃないだろう。僕は何処か寂しげで力ない表情を浮かべるすずかの横顔から目を離し、しばらくの間二人……いや、落ち込んだままとぼとぼと前方を歩いているセインと僕に背負われているスバルを含めれば四人で無言のまま黙々と歩を進めることにしたのだった。「……………」「……………」「……駄目人間じゃないもん。……残念な子じゃないもん……」僕とすずかが無言の中、何か悲痛な独り言がぶつぶつと呟かれていたような気もしないでもなかったが、其処はその独り言を壊れたジュークボックスのように繰り返している当の本人の為を思って割愛しておく。きっと彼女にも思うところがあったのだろう。それとも勉強に関して何か深刻なトラウマでも抱えているのだろうか。まぁ、何れにせよ僕には分からないし、分かった所でどうしようもないのだから口を挟むだけ野暮という物だろう。僕はすずかが塀の途中に聳えている大きな門の前で歩を止めるまで、そんな風なことを一人考え続けたのだった。「あっ……!」「んっ?」「へっ? どーしたの、月村ちゃん?」「あの……着きました。私の家……」まるで今しがたハッと気がついたようにそう口にするすずかの言葉に僕はその場で足を止めて、彼女が自分の家だと証する建物の方へと視線を移す。随分と立派な家……否、此処までの大きさとなると屋敷といった方が正しいのだろうか。小奇麗に整えられた庭木、芝生の広がる庭、そしてその中央から屋敷の玄関まで伸びるコンクリートで舗装された通り道─────ただ一つだけというなら有り触れている物だと感じてしまうそれも、ここまで広大な物となるとそうそうお目に掛かる事はないのではないだろうか。現実、僕もセインもそれ等の光景を見回してから数秒の間……もっと正確に言うと、すずかに今一度声を掛けられるまではそのあまりの広大さに目を奪われて話せなかったほどだ。もしかしたら目の前で不安げに僕やセインの方に潤んだ眼差しを向けている彼女は僕やセインが考えていた以上に一般庶民からはかけ離れた存在なのかもしれない─────僕は彼女の声に反応する傍らでそんな風な事を考えながら、深々と頭を下げてくるすずかに「気にしないでくれ」と言葉を投げるのだった。「あの……本当に今日はお二人ともありがとうございました。助けていただくばかりか、送ってもらいまでしてもらって……。お礼は後日しっかりとしますから……」「あー、いいっていいって。別にお礼が欲しくてやった訳じゃないしさ。しっかし、凄い家だね~。あたしが予想してたのを軽く100倍は上回ってたよ、この家は。もしかして月村ちゃん家ってお金持ちだったりするの?」「いえ……。そんな事は無いと思いますけど……」「そう? ここら辺の家って皆こんななのかな……。まっ、いいか。それじゃあ月村ちゃん、身体を大事にね。あたしも上のお姉ちゃんを待たしちゃってるだろうから急いでそっちの方に行かなきゃ行けないんだ。まぁ、手伝う筈だった引越し作業も全部丸投げしちゃった訳だし……」どこか引き攣ったような笑みを浮かべながらガックリと肩を落とすセイン。恐らく彼女にも色々と事情があるのだろう。まるで粗暴な鬼人に怯えるのを無理やり他の人間に見せまいとでもしているかのようなその素振りは、そこら辺の事情を知らずとも何となく同情が出来るものだった。ただ、だからと言って僕には同情をする以外の何も出来はしない。何故ならこうして親しくしている故に思わず忘れそうにもなってしまうが僕らは所詮初対面同士の赤の他人で、この先においても交わるかどうかすらも危ういような脆い関係だ。そんな人間の事を一々気に掛けている様では進むことも進まない─────冷静に考えれば、僕がセインにこうした感情を抱く事さえ普通だったらありえないようなことなのだ。あまり他人に情を掛け過ぎるものではない。僕は心の中で幾度かそのフレーズを復唱しながら、「スバルのことありがとね」と声を掛けてくるセインにスバルのことを渡し、その場から去ろうとするセインへと声を掛けるのだった。「行くのか?」「あぁ、うん。流石に今すぐ戻らないと色々ヤバそうだからね。現時点でスチームポットみたいに怒ってるであろう人の機嫌をこれ以上ひん曲げたくないのですよ、あたしも。つーことで、あたしとスバルは此処でお暇かな。二人ともまた機会があったら会おう! じゃあね~」「セインさんもお元気で……あの、お兄さんは……?」「……僕も帰るさ。ちょっと寄り道してしまったが、残ってる課題を早く処理しなければならないんでね。君も早く家に戻った方がいい。親御さんも心配しているだろうし……なにより身体を冷やさない方がいいだろうからな。……それじゃあ、僕もこの辺で」寂しそうに去っていくセインの背中を見届けていた彼女に僕もそれだけ言い残し、同じようにすずかの元から遠ざかっていく。一歩、二歩……足を進めるごとに今日の出来事が僕の中で泡のように消化されていく。多分、明日にでもなれば僕は今日のことを忘れてしまうことだろう。所詮今日の出会いは泡沫の夢、ほんの少しの気まぐれが生んだ偶然の産物に過ぎないのだ。何時までも胸の内に留めておいていいものではない─────少なくとも僕はそう思う。何せ彼女たちはこの街の住人で、僕は所詮時間が経てば何処へなりと流れていく余所者でしかないのだ。一つの物に執着すれば、それだけ後が辛くなる。そんな後悔を今も尚引き摺っている僕からすれば、仕事で出向いた世界の人間と深い親交の情を持つなんて事はナンセンス以外の何物でもないのだ。それに、引き摺るのなら引き摺るで極力重くは無いほうがいい。彼女達と別れてから数十メートルも行ったところで、僕はもう一度だけ後ろを振り返りながら上着の内ポケットを弄って紙巻の箱を手の内に納める。其処にはもう、セインの姿もすずかの姿も確認する事は出来なかった。だけどそんな当たり前の光景が僕には妙に安心出来るようなもののように思えて─────僕は苦笑を浮かべながら煙草の箱の尻を叩いて出てきた煙草を口に咥えながら、再び夜道へと足を踏み出していく。あれが夢であったのだとするなら多分それは良い夢だったんじゃないかと、そんな事を考えながら。この先嫌でも交わらざるを得ないであろう、自身の運命をも知らないで……。