<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.15606の一覧
[0] 孤独少女ネガティブなのは(原作改変・微鬱)[ランブル](2010/04/02 18:12)
[1] プロローグ「きっかけは些細な事なの……」[ランブル](2010/03/15 14:33)
[2] 第一話「友達なんて必要ないの……」[ランブル](2010/03/15 14:36)
[3] 第二話「都合の良い出来事なんて起こりはしないの……」[ランブル](2010/03/15 14:43)
[4] 第三話「泣きたくても耐えるしかないの……」(いじめ描写注意)[ランブル](2010/01/23 17:32)
[5] 第四話「一人ぼっちの夜なの……」[ランブル](2010/03/15 14:52)
[6] 空っぽおもちゃ箱①「とある少女達の語らい」#アリサ視点[ランブル](2010/03/15 15:00)
[7] 第五話「出会い、そして温かい言葉なの……」[ランブル](2010/03/20 16:45)
[8] 第六話「変わる日常、悲痛な声なの……」(グロ注意)[ランブル](2010/03/15 15:22)
[9] 空っぽおもちゃ箱②「誰かを救うということ」#トーレ視点[ランブル](2010/03/15 15:28)
[10] 第七話「これが全ての始まりなの……」[ランブル](2010/03/15 15:51)
[11] 第八話「現実と向き合うのは難しいの……」[ランブル](2010/03/15 16:00)
[12] 第九話「所詮理想と現実は別のお話なの……」[ランブル](2010/03/20 16:47)
[13] 空っぽおもちゃ箱③「欲しても手に入らないもの」#すずか視点[ランブル](2010/03/15 16:18)
[14] 第十話「護るべき物は一つなの……」[ランブル](2010/03/15 16:21)
[15] 第十一話「目的の為なら狡猾になるべきなの……」[ランブル](2010/03/15 16:25)
[16] 第十二話「何を為すにも命懸けなの……」[ランブル](2010/03/15 16:30)
[17] 第十三話「果たしてこれが偶然と言えるの……」[ランブル](2010/03/15 16:38)
[18] 空っぽおもちゃ箱④「打ち捨てられた人形」#フェイト視点(グロ注意)[ランブル](2010/08/24 17:50)
[19] 第十四話「終わらせる為に、始めるの……」[ランブル](2010/03/15 16:39)
[20] 第十五話「それは戦いの予兆なの……」[ランブル](2010/03/20 16:44)
[21] 第十六話「月明かりに照らされた死闘なの……」(グロ注意)[ランブル](2010/08/24 17:49)
[22] 第十七話「不安に揺らぐ心なの……」[ランブル](2010/04/02 18:10)
[23] 空っぽおもちゃ箱⑤「枯れ果てた男」#クロノ視点[ランブル](2010/04/19 22:28)
[24] 第十八話「それは迷える心なの……」[ランブル](2010/05/05 17:37)
[25] 第十九話「鏡写しの二人なの……」[ランブル](2010/05/16 16:01)
[26] 第二十話「芽生え始める想いなの……」[ランブル](2010/06/10 07:38)
[27] 第二十一話「憂鬱の再開、そして悪夢の再来なの……」[ランブル](2010/06/10 07:39)
[28] 空っぽおもちゃ箱⑥「分裂する心、向き合えぬ気持ち」#恭也視点[ランブル](2010/08/24 17:49)
[29] 第二十二話「脅える心は震え続けるの……」(微鬱注意)[ランブル](2010/07/21 17:14)
[30] 第二十三話「重ならない心のシルエットなの……」[ランブル](2010/07/21 17:15)
[31] 第二十四話「秘めたる想いは一筋の光なの……」(グロ注意)[ランブル](2010/08/10 15:20)
[32] 第二十五話「駆け抜ける嵐なの……」(グロ注意)[ランブル](2010/08/24 17:49)
[33] 第二十六話「嵐の中で輝くの……」(グロ注意)[ランブル](2010/09/27 22:40)
[34] 空っぽおもちゃ箱⑦「欠けた想いを胸に抱いたまま……」#すずか視点[ランブル](2010/09/27 22:40)
[35] 空っぽおもちゃ箱⑧「最後から二番目の追憶」#すずか視点[ランブル](2010/10/10 22:20)
[36] 空っぽおもちゃ箱⑨「Super Special Smiling Shy Girl」#セイン視点[ランブル](2010/10/10 22:20)
[37] 第二十七話「その心、回帰する時なの……」[ランブル](2010/10/25 19:25)
[38] 第二十八話「捨て猫、二人なの……」[ランブル](2011/02/08 17:40)
[39] 空っぽおもちゃ箱⑩「遠い面影、歪な交わり」#クロノ視点[ランブル](2011/02/13 11:55)
[40] 第二十九話「雨音の聞える日に、なの……」[ランブル](2011/04/18 17:15)
[41] 第三十話「待ち人、来たりなの……」[ランブル](2011/04/18 20:52)
[42] 空っぽおもちゃ箱⑪ 「殺されたもう一人のアタシ」#アリサ視点[ランブル](2011/06/05 21:49)
[43] 第三十一話「わたし達の時間、なの……」[ランブル](2011/07/03 18:30)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[15606] 空っぽおもちゃ箱⑨「Super Special Smiling Shy Girl」#セイン視点
Name: ランブル◆b9dfffe8 ID:b3765b7d 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/10/10 22:20
何時の世も出会いってものは突然で、それは時々数奇な巡り会いとして人と人とを結び付けるものである。
あんまり小難しい理屈をあれこれ考えてると頭痛くなっちゃうからそんなに悧巧なようには言えないけれど、あたしことセインは常日頃からそう思って生きている。
何でかって言われるとこれがまた説明が面倒なんだけど……言うなれば、これはあたしの経験上得た法則だ。
ぼけーっとした犬が歩いてればその内棒なり電柱なりにぶつかるように、ふらふらーっと適当に人生歩んでいればその内思いがけない所で色々なものに出会ったりもする。

その出会いって言うのがまぁ、人間関係だったり、趣味だったり、趣向だったり色々とジャンルがある訳だけど結局の所根っこの部分は一緒だ。
適当に生きていても奇を衒う様にそれ等はふらっと私の前に現れて、何時の間にか気がついたら大事な物に変わってる。
なんていうか……あたし自身の性格も相まってかなり阿呆っぽく聞えちゃうかもしれないけど、実際の所本当にそんなもんだ。
特別杞憂する事でもなければ、変に意識するもんでもない。
そう、あれかし。
真面目に向き合おうと適当に横向いていようと来るべき時に来るものは来るし、またその逆に来ない時は何時までも来ない。
だったらそれこそ不真面目に─────ちょっとおどけている様な感じでどっしり構えてればいい訳だ。

故に、それは今日日この場においてもやっぱり同じ。
例え相手があろうと、あたしはあたしの気分が赴くままにケ・セラ・セラ。
好きなら好きって言って素直に受け止めるし、嫌いなら嫌いってはっきり言って突っぱねる。
それを否と誰かに唱えられても変える気なんて更々無いし、幾ら御託摘まれようと理屈並べられようと知った事ではない。
あたしはあたしが思ったように好きにやる。
んで、その延長線で出会った人間にも対応し続けていく。
以上があたしの対人対応。
それ以上でもなければそれ以下でもなく、嘘偽りもなければ希釈も遠慮もない。
それが……あたしこと、ナンバーズ6・セインの総てだ。

っと……こんな風に色々と偉そうに語っちゃったりしてる訳だけど、実際の所言葉で言うほど現実って言うのはそうそう甘いもんじゃない。
さっきから言っているように何時の日も何時の世も思い掛けないことって言うのは少なからずある訳で、ついでに言えばそれはどんな時も突然やってくる場合が大多数だ。
常日頃からそこら辺のところに警戒しながら身構えて生きるなんて堅っ苦しい事が出来ない以上、やっぱり対処のしようなんてその場その場のアドリブで何とか上手く流していくしか他ない。
いや、もしかしたら素で何とか出来ちゃう人とかもいるって言えばいるのかもしれないけどあたしには無理なんだからどうしようもない。
うん、どうしようもないんだから仕方ないよね……やっぱり、多分。
ってな訳で、それは今この現状にしても何も変わらず丸侭同じ事が言えちゃうのだ。
えーと……つまりどういう事かって言いますと、現在進行形であたしは面倒ごとに首を突っ込まざるを得なくなっちゃってる訳です、はい。

「え~っと、じゃあ今までのお話を要約すると……ずばり持病の貧血に抑えが利かなくてくらくらっと来ちゃってばたんきゅーってこと? はひゃ~、それは運が悪かったねぇ。とんだ災難って奴だ」

「えっ、ぁ……その、御迷惑をお掛けしました……。私、昔から日の光に長くあたってるのが駄目な体質で……」

「あぁ、いいっていいって気にしないで。元はと言えばあたしの連れのおチビがお節介焼いただけなんだし、あたしはその……なんて言うか成り行き? まぁ、そんなノリだった訳だしさ。だからあんまり堅苦しく考えないでよ。別にあたしもおチビもそんな迷惑だなんて思っちゃ無いしさ。それに持病なんでしょ? それじゃ仕方ないよ、うん。仕方ない、仕方ない」

「でっ、でも……」

瞳を潤ませ、後ろめたそうに何度も申し訳ないと謝罪の念を返してくる少女にあたしは「あははは……」と引き攣った笑みを無理やり表情に出しながらその裏で何とか目の前の少女を宥められないかと普段は殆ど使っていない左脳をフルに動かして必死でいい案は無いものかと模索を繰り返す。
けれど、出てくる答えはさっきからずっと同じ。
ぶっちゃけ、なーんも思いつかない。
っていうか、真面目に考えても頭の中がこんがらかるだけで現状あたしの頭は物事の考え過ぎでショート寸前なのだ。
そんなあたしにこんな小難しそうで気難しそうな気持ちが服着て歩いているようなネガティブな少女の心情を察して上げられるかと言えば……無理です、絶対無理なのです。

何でかって、そりゃ目の前の彼女と……えっーと、確か月村すずかちゃんとあたしとではそもそも精神的なジャンルが全然違う。
何物に対しても楽観視が当たり前。
気楽に適当が心情のあたしと如何にも色々なもん片っ端から背中に背負ってそうな月村ちゃんとじゃ、精神構造の根本からして何もかもが異なっているのだ。
そんな者同士を擦り合わせた所でぴったり嵌る訳が無い。
結局どっちかがずれてお互い困惑する破目になり、その認識のずれの所為で今度は二人合わせて同時にノックアウトだ。
何時まで経っても平行線。
お互い気まずい空気に包まれたまま、自然に状況が変わるその時を座して待つばかりだ。

んで、そんな状況をあたしが耐えられるかと言えば……こっちもやっぱり普通に無理。
あたしは我慢とか、忍耐とか、待つとか、置いていかれるとかその手の事柄が心の底から大っ嫌いな性質だ。
何事もやるんだったら自分の手で。
それも、なるべくあたしも相手もまとめて愉快になれるような方向へ積極的に状況を作ってやりたくなるのだ。
つまる話しがお互いが何気なく笑っていられるような─────負い目とか遠慮とかそう言った他人行儀なの無しにして、気軽な感じで対応し合える様な……そんな方へ。

と言うか、はっきり言ってあたし自身が面倒なのが嫌いだから暗い雰囲気とか重たい空気だとか、そういうのが性に合わないだけなんだけど……まぁ、そこら辺はあんまり気にしない方向で。
そんで、現状あたしは正にその性に合わない空気に身を置かざるを得ない訳でして……其処の所上手くひっくり返す事に躍起になって頑張ってるのだ。
まぁ、正直どうすりゃいいのかはあたしも知んないんだけどね。
困った、困った……本当に困るよ、こういうの……。
なんたって他ならぬアタシがブルーになっちゃうからね、主に自分の頭に悲観しちゃうからさ。
はぁ……なんだか言ってる傍から悲しくなってきちゃったよぅ、いやマジでマジで、割と冗談抜きに。

「あの、そう言えばさっきの子は……?」

「んっ? あぁ、スバルのこと? それならさっきジュース買ってくるって言ってどっか行ったよ。まぁ、一応お金は持たせてあるし、迷子になる事も多分無いだろうから放っておいて良いよ。多分その内帰ってくるっしょ」

月村ちゃんからの質問にあたしは内心「スバルーっ! 早く戻って着て! カァム、バァァァク!」と思いつつも、別に嘘つくようなことでもないし、という事で事実を一切包み隠すことなく彼女へと現状の旨を伝える。
現在の時刻は、午後四時ちょっと過ぎ。
あたしとスバルが月村ちゃんを道端で拾った時から二時間から三時間ほど経ったくらいだから……まぁ、微妙に日が傾き始めてる頃だ。
あれからあたし達は日陰になっていそうな所を探して、気絶してる月村ちゃんを担ぎながら色々な場所をうろつき回った。
というのも、どうにもクリスのナビゲートが不確かだったっぽくて、直に着くはずの目的地が中々見つからなかったのだ。

おかげであたしもスバルもあっちへふらふら、こっちへふらふら。
終いにはスバルが「セインねぇー、あたし疲れた。おんぶして~」なんて言い出すもんだから、あたしはこの『海鳴臨海公園』に来るまでしなくてもいい重労働をさせられる破目になってしまったという訳だ。
我ながら凄いと言うか哀れと言うか苦労性と言うか……。
本当、こういう力仕事はあたしの本分じゃないと声を大にして講義したくなっちゃうよ。まぁ、別に誰に如何とは言わないけどさ……。

まぁ、そこら辺のところの事情やらあたしの愚痴やらは置いておくとして─────ようやく目的地についたあたし達は適当に公園の中を散策し、程よく身体を覆ってくれそうな感じで日陰になっているおっきな樹の影に腰を落ち着けるような形で休息を取る事にしたのだ。
んで、その過程で気絶してる人間を横にするのに枕がないのはどうだろうって思い立ったあたしが月村ちゃんに膝枕して、そんなあたしを尻目に気の幹に寄り掛かってクリスと戯れていたスバルはつい先ほど「喉か湧いたからジュース買ってくる!」と言ってアタシの前から姿を消した、というのが今に至るまでの簡単な流れ。
加えて、つい先ほど目覚めた月村ちゃんに色々と事情を聞いて頭が真っ白になりそうになっているっていうのを現在進行形にすれば殆ど完璧と言っていいと思う。
つまり、なんと言うか要するに……あたしって、なんか幸薄いのかもしれないという事だ。
それはまぁ、あんな住宅街でぶっ倒れて行き倒れになっちゃった月村ちゃんにも言える事なのかもしれないけど。
なんか凄くため息つきたくなってきたよ、あたし……。

「さっきの子、スバルちゃんって言うんですか……。妹さんですか?」

「う~ん……まぁ、そんな様なもんかな。あたしと違っておてんばだし、落ち着きないし、一箇所にジッと出来ないしで似てるような所はあんまりないけどね。一体誰に似ちゃったんだろうねぇ、あれ……クア姉辺りかな?」

そう月村ちゃんに言って、あたしはしばし首を捻ってそこら辺の事実関係の事についてちょっとだけ考えてみる事にした。
スバルが姉妹の中の一体誰に一番影響されているのか、なんていう事は今まであんまり考えた事もなかったけれど、確かにちょっと思い返してみれば稼動仕立ての頃のスバルは何処となく余所余所しい感じで物静かな感じだったようにも思えてくる。
あたし自身、実際の所はスバルとあんまり稼動年数に関しては差が無いから何とも言い難いのだけど、きっと同時期に稼動したナンバーズの10番目であるディエチに聞いても同じような答えが返ってくることだろう。

だけど、スバルはあたし達と関りながら生きていく事で色々とその性格にも凹凸を出すようになってきた。
当初に比べれば些細な事で泣きもする様になったし、その反面本当にどうでも良さそうな事で笑うようにもなった。
有り体に言えば随分と正確が明るくなり、また社交的にもなったと言うべきだろうか。
まぁ、その反面当初より持ち合わせていたおしとやかな部分は「お察しください……」って思わず言わずにはいられない所まで落ちちゃったけど、総合的に考えれば割かし良い方に進んで来たと言えることだろう……多分、きっと。

ってな訳で、色々あって今の感じに落ち着いてるスバルなんだけど、その実一体誰の所為であんな風になってるのかは誰にもよく分かっていない。
何せ、スバルは姉妹の人間はおろか、あの見るからに変態そうなドクターにまで別け隔てなく懐く様な子なのだ。
実際の所影で誰に何を吹き込まれているか分からない以上、迂闊に何処の誰に一番影響を受けているか、なんていうのは今まで一番一緒にいるであろうこのセイン姉さんをもってしても窺い知る事は叶わないのだ。
まぁ、単に今までそんな事に頭回してこなかっただけなんだけどね、面倒臭いし。

んで、そこら辺のことを今こうして上手く現実逃避したいような時に考えてると案外すんなりと答えが出て来そうになったりする訳で、あたしは丁度良い気分転換にそこら辺について考えてみようと思った訳だ。
何ていうか……ほら、ペーパーテストの前になって机に座ってると無性に身の回りの片付けとかしたくなっちゃうのと同じようなもんだよ。
その、まぁ……ごめん、月村ちゃん。
あたしには重い空気とかそういうの耐えられないんだよ、根がこんなんだからさ。

つーわけで適当に月村ちゃんへの懺悔を終了して、考えるのをあたしは続行する。
まぁ、あれこれ多種多様な要因はあったとしてもスバルの人間関係が姉妹とドクターの域から出ない以上、結局の所は消去法だ。
上から順に心当たりのありそうな人間を適当に挙げて、後は今のスバルと照らし合わせれば自ずと答えは出てくるだろう……すげぇ、あたし天才かも。
てな訳でまずはドクターから。
第一印象としては……ないね、絶対無い。
ぶっちゃけあんな変態に影響されて今のスバルは100%出来ないだろうと断言出来るよ、セイン姉さんは。
そもそもまだ物事の善悪も分かんない子供のいる環境にドクターを野放しにするのは駄目なんだよ、常識的に考えて。
そんな訳で一人目はあっさり消えたね。
考えなかった事にしよう。

んで、あたしはドクターに次いでその傍らに何時もいるウーノ姉にも視点を向けてみる事にした。
したのはいいんだけど……うん、これもないね。
だってウーノ姉に感化されてるんならあんな落ち着きが無い風にはまず育たないだろうし、そもそもスバルとウーノ姉が一箇所に留まって何かやってる時なんてメンテナンスの時くらいだろうと記憶してる。
まぁ、確かにウーノ姉はあたし達にしてもスバルにしても姉っていうよりはお母さんみたいなもんだから少なからず皆影響はされてるとは思うんだけど……スバルに関してはあんまりって処だろう。

後、同じくして二番目の姉だっていうドゥーエって姉妹に関しても一緒だ。
何でも随分前にドクターの命令が嫌で今あたしがいる第97管理外世界まで逃げてきて数年の間姿を晦ませてたっていうけれど、ぶっちゃけあたしもスバルも会った事が一度も無い。
一応あたし等よりも一足先にこの世界に来ているトーレ姉はこの世界でも何度か顔を合わせているらしくて、あたしもスバルもトーレ姉に合流するついでに会う予定になってるんだけど……まぁ、スバルの成長にはあんまり関係してはいないだろう。
あたし個人としてはまぁ、あの変態ドクターに真正面から逆らった処とか痺れちゃったり、憧れちゃったりするわけなんだけどね。
時々この世界のお菓子とか玩具とかお土産として送ってくれたりもするし、あたしは好きだよ、うん。

そいじゃ、勢いに乗ったところで次はトーレ姉なんだけど……あたしはずばり結構トーレ姉あたりなんじゃないかな、とその実思っていたりする。
まぁ、何でかって言えば正直な所スバルがスバルでトーレ姉によく懐いているからだ。
なんか見た目堅物っぽくて実際性格もカチンコチンなトーレ姉だけど、やっぱり小さい子とかには弱いみたいで、他の姉妹が見ていないところでは意外と面倒見の良いお姉さん役をやっている時が多かったりするのだ。
って言っても本人はスバル以外は気がついていないと思ってるみたいだけど……はっきり言ってさっき街中をうろついていた時にスバルと食べた金子屋さんのワッフルよりも甘い、実に甘い。
あたしのIS「ディープ・ダイバー」を使ってちょちょいと聴く耳を立てればアジトの内部で起きた事なんてそれこそウーノ姉がドクターにいれたお茶の種類からクア姉が密かに大事にしてる眼鏡コレクションの個数まで何でも知る事が出来るのだ。
きっとこれ言ったらトーレ姉の事だし、ちょっと無言になった後「……切り捨てる!」とか言って追っかけてきそうだから墓穴は掘らないようにしたけど、あれはあれで意外と良いお姉さんなんだよねぇ……あたしには思いの外結構厳しいんだけど。

そいで、次に挙げるのがあたしがさっき言ったクア姉ことナンバーズの四番目のクアットロなんだけど……実の所こっちも結構怪しかったりするのだ、あたしのきゅぴーんと光る勘的に。
普段は享楽家気取ってて何処か取っ付き難いクア姉だけど、意外な事に子供に対する対応は姉妹の中で一番上手かったりするのだ。
実際稼動したてのスバルの世話をあたしがするようになるまでやっていたのはクア姉だし、スバルにしてもクア姉はクリスと同じ位お気に入りなようで、よくクア姉の部屋に遊びに行ったりしてるのを見かけることがあったりする。
本当はあたしも最初クア姉のことだし、嫌々やってるのかなーって思った時期もあったけど、実際の所クア姉もスバルに対しては甘々だ。
その優しさをあたしにもちょっとは分けて欲しいって言いたくなるくらいに……。
まぁ、何はともあれスバルもクア姉も互いに仲はいいし、あれはあれで影響される面が多々あるのかもしれないとはあたしも思う。
将来あんな風には育って欲しくないなー、ってセイン姉さんは常日頃から懸念はしてるんだけどね。

んでまぁ、更に突っ込んでいってお次はあたしのお手本ことチンク姉。
ぶっちゃけあたしからすればこの小さい皆のお姉ちゃんであるチンク姉こそがもっとも影響されるであろう人なんだろうけど……その、当人であるスバルがクア姉と仲良い時点で実際の所ちょっとスバルに関しては遅れを取り気味なんだよなぁ、チンク姉。
いや、それでも所々で頑張ろうとしてるのは要所要所で見受けられるんだけどね。
この前だって「なんとかして姉だけの力でスバルを笑顔にさせてみせる! そしてその笑顔を糧に姉は飛ぶ!!」とか言って一生懸命スバルの為にクッキー作ってたし。
って言ってもその毒見……もとい味見係を担当させられたあたしとしては堪ったもんじゃなかったけどね。
チンク姉ってば落ち着いてるような顔で平然と砂糖と塩を間違えて入れるなんてミスやらかすんだもん。
最終的にあたしがこっそり作っておいた奴に摩り替えて置いたから良かったものの、あのままだったらスバルが高血圧になっちゃうよ……御蔭であたしは料理上手くなったけどね。
つーわけで多分チンク姉は参考にならない、以上。

ほいで、最後の最後にスバルと同時期に稼動したあたしとディエチなんだけど……ぶっちゃけこれについてはあたしもよく分かんない。
あたしに関しては正直自分自身がスバルになんかしてあげられたかなーって考えた時に、なんというか今の関係になるのに割と自然に打ち解けあってたからあんまり思いつかないのだ。
なんていうかまぁ、あたしとスバルってこんな風に言うと自分で自分が可哀想になってくるけど精神年齢一緒くらいだし、もう結構前から普通に寝泊りなり食事なり一緒だったりするからあんまりそこら辺のところ客観視して観た事が無いのだ。

んで、それについてはディエチに関しても一緒の事。
あの子はなんていうか何時もぽけーっとしてるし、スバルと一緒に居ても二人してよく分かんないやり取りしてるような印象しかないし、他の姉妹と比べると色々と印象が薄いからその辺の具体的な関係って言うのが今一つピンと来ないのだ。
まぁ、そんなミステリアスな所もひっくるめてやっぱりあたしの妹達なんだなーって思う時はあるんだけどね。
ディエチも変な処で抜けてるところあるし……最近はあんまり関心しない趣味を持っちゃったようで、セイン姉さんとしては悲しい限りなんだけどね。
あの趣味が発覚した時は思わず「うぅ、ディエチが不良さんになっちゃった……」ってあたしも唖然としちゃったし。
まぁ、カッコいいって言えばそうなんだけどね、ディエチの“あれ”は……。

それでまぁ、これが全体的なあたしの評価なわけなんだけど……あれやっぱり分かんなくないかな、これ。
う~ん、考えれば考えるほどミステリーになるとは……スバル、なんて恐ろしい子……っ。
なーんてな、ことをあたしがぽけーっと考えていると、ふと気がついた時にはあたしの隣で月村ちゃんが「あの……」と困り顔をしているのが目に止まる。
瞬間、あたしは殆ど電光石火にもにた速度でこう思った……「やっば、完全に月村ちゃんのこと放置プレイだったぁああ!」と。
いや、まぁ、さっき自分で放置プレイ宣言しちゃったんだけどね……うん。
ごめんよ月村ちゃん、あたしの頭が足りないばっかりに……どうせ直んないだろうけど。
あたしは心の中で月村ちゃんに何度も謝罪し、またそれと同時に「あたしって本当に頭弱いな~あっはっは……はぁ」と微妙な自嘲の乾いた笑いに呆れから来る溜息を絶妙な具合で混ぜ合わせた形容詞し難い想いを胸に抱きながら急いで月村ちゃんへと対応を再開するのだった。

「あの~……大丈夫ですか? なんだか凄く唸ってましたけど……」

「えっ!? わっ、うそ! あたしそんなにう~んとか言ってた?」

「えっと、その……結構」

「あちゃー、マジかー……。ごめんごめん、さっきから本当にどうしようもないこと真面目に考えちゃっててさ。一度考え始めると止まらなくなっちゃうんだよ、あたし」

心配そうにあたしの顔を覗き込みながら様子を窺ってくる月村ちゃんにわたしはポリポリと頭を掻きつつ、一応念押しの為に「忘れてたんじゃないよ。本当だよ」と言葉を重ねながら改めて謝罪した。
いやまぁ、実際の所完璧に現実逃避してただけなんだけどね。
だってあたし正直な所謝られるのとか負い目感じられるのとか、そういうの滅茶苦茶苦手な性質だし……はっきり言ってあんまり背負い込みたくないんだよね、こういうのって。
助けられたなら素直に「ありがとう」って返してくれるだけでいいんだし、悪いことしちゃったなって思えば「ごめんね」って言われれば何の問題も無いのだ。
大体この手の事って重箱の隅突いたような屁理屈重ねてあーだのこーだの態々単純な事柄を複雑化しちゃうからいけない訳だし、何事も最初っからその手の面倒ごとを突っぱねとけば全部丸く収まってもくれるだろう事は明白だ。
そんな訳で別にあたしが悪い訳じゃないよ。
人の話を聞かないあたしの感性が悪いのだ、えへん。
う~ん、我ながらやっぱ恥ずかしいなこれ……まぁ、なにはともあれ、ちょっと理屈に無理があったっぽいけどそこら辺は気にしない。
それがあたしクオリティー。

って言っても一応あたしも直そうとはしてるんだけどね。
なんていうか、この……時々自分の世界に閉じこもっちゃうような癖をさ。
あんまり上手くは言えないけど、あたしって稼動した時からなんか物事を考えるたびにさっきみたいに自分の考えてる事だけに没頭しちゃって周りが見えなくなっちゃうんだよね。
ドクターとかクア姉からはどういう訳か「いい傾向にある」とか言われるような事もあるけど、やっぱりトーレ姉やチンク姉からは「余所見とか前方不注意とか注意散漫に繋がるから直せ」って言われちゃうからやっぱり良くは無いことではあるんだとはあたしも重々承知してはいる。

承知はしてるんだけど……これがまた意識して直そうとするとそれを直すのにどうすればいいかってことで考え込んじゃうんだよね、これが。
んで、それを直そうとするのに考え込むのを直すように意識すると……ってこれじゃあ無限ループだよね、怖い怖い。
そんな訳であたしのこの癖は収まる所を知らない訳だ。
まーその内直せばいいよね、その内。
あたしはそんな風に心の中で堂々巡りする思いに僅かコンマ0.2秒ほどで決着をつけ、再び月村ちゃんの方へと向き直ってお話を再開するのだった。

「あっ、そう言えば聞きそびれてたんだけど月村ちゃん体調の方はもう大丈夫かな? 見た感じ顔色は大分よくなったっぽいけど?」

「えっと、はい。さっきよりは大分……でも、まだちょっと身体がダルくて……」

「そっかそっか、別に無理しなくてもいいよ。あたしも別にこれといった用事は無いし、ちゃんと動けるようになるまで休むといいよ。それまであたしが傍にいてあげるからさ」

「そんな……ご迷惑じゃ……」

またもや遠慮がちに顔を伏せる月村ちゃんにあたしは軽い口調で「気にしない。気にしな~い」とおどけながら、からからと笑ってみせる。
実際の所本当は早いところトーレ姉と合流してクア姉が事前に用意してくれたアパートの方まで荷物を運ばなきゃ行けないんだけど……まぁ、こうなってしまった以上毒を喰らうならば皿までだ。
トーレ姉からのお説教は嫌だけど、あたしだって別に任務を軽視してるとかそういう訳じゃないし、第一人助けして良いことしたんだから寧ろ此処は褒められるべきだろう、人として。

それに大体トーレ姉なんか事前に下調べもせずにこの世界来て色々と苦労したって通信で愚痴ってた訳だし、それを考えればちゃんと住居の事まで考えてたあたしの方がこの任務絶対向いてると思うんだよね、うん。
そもそも遺失物の捜索なんて諸にあたしの領分だもん。
戦力にしたってあたし等姉妹の中で規格外に強いスバルを連れて来てるわけだし、そもそもトーレ姉をこっち来させたことの方が間違いだったんじゃないかって思っちゃうよ。
って言っても……本人の目の前で言ったら何されるか分かったもんじゃないから勿論自重するけどね。
それに元々あたしもこの任務が言い渡された時には聖王協会の方から聖遺物パクってこいってドクターに言われてて、ちょうど潜入してる最中だったし、ぶっちゃけ手が空いてるのがトーレ姉しかいなかったから仕方なくもあるんだけどね。
スバル一人この世界に放って置く訳にも行かないし……まぁ、なんだかんだで人材不足なんだよね、あたし等姉妹って。
って言っても、やっぱりあたしにお鉢は回ってきたからお仕事はちゃんとやるんだけどね。

まぁ、そんな訳で本当はあたしもこんな所でもたもたしてないでぼちぼちとお仕事始めなくちゃいけないんだよね。
しなくちゃいけないんだけど……やっぱり困ってる子は放っておけないっていうか、見捨てては置けないっていうか……何というかこのまま「はい、さようなら」じゃ駄目だと思うんだよ、うん。
第一トーレ姉が出張ってる時点で大きな事件には発展してないと思うし、こっちにはスバルもいるんだからあんまり堅苦しく考えてても息詰まっちゃうだけなんだよ、実際。
そんな訳で今は肩の力抜いてあたしはあたしなりにあたし自身がしたい事をすりゃいいって思う訳よ、勝手な話だけど。

そもそもあたしも何で毎度毎度あの変態ドクターに扱き使われなくちゃいけないのか分かんないし、偶には有休とって暇を持て余したって罰は当たんないでしょ、多分。
実際この考えが間違ってたって「やばッ!?」って思った時に何とかすればいいんだしさ。
どうせ何もしなくたって最終的には落ち着く所には落ち着くんだし。
それにドクターの命令とこんないたいけな女の子の様態じゃどう考えても後者の方が優先されるでしょ普通……うん、優先されるべきだね。
と、いう訳で以上言い訳お終い。
どうせトーレ姉には今日来るとは言ったけど何時頃来るとは言ってないし、別に多少遅れても言い訳は聞くだろう……なんかもう気休めにしかならない気がするけど。
あたしは自分の都合のいい解釈に何処か拭い切れない一抹の不安を抱えながらも、「まぁ、何とかなるって」と自分に言い聞かせ、一旦その辺の事情を一切頭の中から排除する事に決めたのだった。

「困った時は助け合う、これ大事だよ、うん。それに月村ちゃんが回復する頃には日も落ちちゃうだろうし、真っ暗な中を一人では帰せないよ。この辺りはどうか知らないけど夜な夜な変な人とか出てきちゃうと困るからね~。こう、なんか……「しまっちゃうよ~」とか言って追っかけてくるおじさんとか」

「そっ、それは確かにちょっと怖いかも……」

「そうでしょー。いやまぁ、ぶっちゃけそんな人マジでいたらあたしも怖いけどさ……。まぁ、そこら辺の事は冗談だとしても月村ちゃんみたいな子を一人で出歩かせちゃうのはお姉ちゃんとしても見過ごせないんだよ、うん。そんな訳でもしよかったら帰りは送ってくよ。月村ちゃん家ってここら辺の近所?」

「一応此処から30分くらい歩いた所ですけど……あの、本当にいいんですか?」

若干先ほどより声色が明るくなった月村ちゃんの質問にあたしは「いいってことさー。なんくるないさー」と適当に空気を和らげられるように答えを返していく。
此処で出会ったのも何かの縁な訳だし、どうせスバルも反対なんてしないだろうから別にそれくらいは良いかなって思ったんだけど……そんなに念を押すような事でもないと思うんだけどなー、こんな事。
だって普通に考えたら放っておけないでしょ、うん。
長い間スバルみたいなのと一緒に過ごしてきたからなのかもしれないけど、やっぱり小さい子が困ってたら反射的に助けちゃいたくなるもんなんだよ。
こういうのは理屈じゃなくて何とやらっていう類の感覚だし、あんまり難しくは言えないけど普通のことなんだよね、あたしからしてみれば。

それともこの世界だとそんなに人と人との交流が他人行儀だったりするのかな?
そんな事は事前に読んだこの世界の情報の中には含まれてなかったけど……。
まぁ、何にせよ……あたしはあたしがしたいようにするまでだ。
とりあえず他の人に迷惑が掛からない範疇で、ね。
あたしはそんな風に改めて自分の行動方針を確認し、その半面で「そういえばあたしがしてきた事って結果的に色々な人に迷惑掛かってるんじゃ……?」等とちょっとだけ自分がそれまでしてきた色々を反省したりしながら、月村ちゃんを安心させる為にもう少し別の方向に話を持っていくことに決めたのだった。

「あたしもスバルもこの街に来たばっかでさ、色々と見て回っときたいんだよ。だから月村ちゃんを送るのはそのついでって事にして。それなら月村ちゃんも気負わなくて済むでしょ? まぁ、此処で会ったのもなんかの縁な訳だし、あたしもスバルもしばらくはこの街に住むことになるだろうから見知った顔の人は多い方がいいしさ。ね?」

「……ありがとうございます。それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらってもいいですか?」

「うんうん、素直で大変よろしい。それじゃあ、スバルが戻ってきてちょっと経ったら行く事にしようか。まぁ、あの子のことだし何処で油売ってるのかは知らないけど、月村ちゃんの体調が落ち着く頃には戻ってくるでしょ。なんだかんだであの子しっかりしてるし」

「ふふっ、信用されてるんですね、妹さんのこと」

ようやくのこと笑ってくれた月村ちゃんに対し、今度はあたしが苦笑を浮かべながら「まーねー」と相槌を打つ事になった。
月村ちゃんが言う通りあたしもスバルのこと信用してるかって言えば当たり前のようにしているし、信頼だって勿論している。
何せ基本的にあの子はなんだかんだで責任感も人一倍強いし、放っておいてもちゃんと約束した事は守り通すだけの気概も持ち合わせている。
加えて、あの子は姉妹たちの中でもそれこそ桁が二、三違ってくるほど出鱈目な実力も兼ね備えているのだ。
多分あの子が全力を出したら多分ディエチ以外の人間では止めることすら叶わなくなってしまうと言っても過言ではないだろう。
って言っても勿論見た目があの小っこいおチビのままじゃあ本気なんか到底出せないだろうし、本人曰く「すっごい疲れるから嫌!」って言ってあんまり“あの状態”になる事は無いんだけど……それでもトーレ姉やチンク姉を相手にしても引けを取らないというのだから、あの子に危険が降り掛かるってことを想像すること自体あたしにとっては難しいのだ。

まぁ、そんな訳であたし的にはあんまりスバルの事を心配しなくても大丈夫かな、って常日頃から思っちゃったりしてる訳だ。
勿論それ以外の日常的な面での危なっかしい所は冷や冷やしっぱなしなんだけど、やっぱりそういう所をひっくるめてあたしはスバルの事は信用してるし、信頼もしてる。
だからあんまりこれと言ってスバルが帰ってこなくても心配とか、そういう念は沸いてこないのだ。
って言っても「また何処かで人様に迷惑掛けてないだろうな~」とか「知らない人に飴玉あげるよ、って言われてそれに着いて行ったりしないだろな~」とか「変なもの拾い食いしてないだろうな~」とかそんな心配は尽きないんだけどね、その後スバル自身が物理的にそれ等の問題を対処出来るかどうかは別として。

んでも、今回は単にジュースを買いにいっただけだし、それ等の心配もあんまりないだろうとあたしは思っている。
何せスバルに渡したお金はこの世界だと結構な額だ。
どの道買い食いでもしてうろつき回ってるっていうのなら後で少し注意すればいいだけの事だし、あの子だって一応世間様に顔向け出来る程度の一般常識は学んできた筈だからお店の人に迷惑を掛けてることも多分無いだろう……うん、多分ね、多分。
あたしは腰を落ち着けている幹に深く腰をかけ、心の中で「スバルの奴はやく戻ってこないかな~」と思いながら大分前に彼女が消えていった方を眺めてみるのだった。

「あのっ……そう言えばセインさん。ちょっと質問してもいいですか?」

「んっ? なーにー? 何だって聞いてよ。あたしに答えられる事なら気兼ねなく話すよ。でっ? 何かな?」

「あっ、いえ……そんなに大した事じゃないんです。ただセインさんって何でそんなに日本語が流暢なのかなって……。いえ、別にそれが悪いとかそういう事じゃないんですよ。その、なんて言えばいいのかな……確かセインさんってこの街に来たのが初めてって仰ってましたよね? だから此処に来る前は何処にいたのかなって思ったんです。やっぱり……外国に居られたんですか?」

「あーっ、其処ね。あははっ……外国って言えば外国なのかな、うん」

月村ちゃんからの以外に鋭い質問にあたしは表面上は穏やかな笑みを浮かべながらも、その反面では「やっべー。どうしよう、これ。なんて言おう……」という思いが頭の中でグルグル回って凄く困惑していた。
いや、一応此処に至るまでの設定っていうのは一応向こうのアジトにいた時にウーノ姉やクア姉と相談して色々と事前の打ち合わせはしてきてはあるのだ。
だけどそれはあくまでアパートの周辺住民への配慮から来るものだったし、よくよく考えてみれば説明が不透明な感じなのが否めない点が幾つかあったのもまた事実。
一応の事ながらこの世界での戸籍は現地のその筋の人たちにクア姉が交渉し、トーレ姉の時と同じように大枚を叩いてあたしとスバルの分は手配してあるという手筈になっているんだけど……流石にあたし自身こんな所で自分の身の上を語る事になるとは思ってもみなかったから全然そこら辺の事情を考えてはいなかったのだ。
果たしてどう説明すればいいのか。
あたしは殆ど真っ白になりかけの頭の中を必死で動かして何か良い妙案は無い物かと考えた末、とりあえずもうこんな設定でいけばいいやっていうような偽りの身の上話を簡単に作って月村ちゃんへとそれを語っていくのだった。
なんというか……ごめんね、月村ちゃん。
喋れる事は喋るって言ったけど、本当の身の上ばかりは喋れないんだよ……うん。

「あたしは……んにゃ、あたしとスバルは此処に来る前は東京にいたよ、トーキョー。銀座のあたりでさ、ちょっとした大道芸やってたりした訳よ。あたし等の家っていうのは昔っから大道芸を生業にしてる家系でね。仕事の為に世界中回ってるんだ。ただまぁ、あたしはこの国での生活が長いし、スバルに至ってはこの国で生まれ育ってるもんだから言語にも明るい訳なんだよ。あっ、ちなみにあたしはブラッディナイオ─────俗に言う人形師のタマゴなんだ。スバルは……その助手みたいなもんかな」

「へぇ……そうなんですか。道理で……じゃあやっぱりこの街でもお仕事を?」

「う~ん、今回は仕事の関係じゃないんだ。ちょっと色々あってあたしの姉が一足先にこの街に来ててね。その人に会いに着たんだよ。あたしも、そして勿論スバルもね。何でも大事な用があるみたいでさ。家族の方からは手伝ってあげなさいって言われてるんだ。まぁ、暇があったら駅前とかでやってもいいんだけどね。ただこの国だとあたし等だけじゃあちょっと許可とか取るのは難しいだろうから……其処の所は運次第かもね」

「そうですか……。私、そういうのって何だかちょっと憧れちゃいます。なんていうか……こんな風に言うのは失礼かもしれませんけど、その……自由そうだし、妹さんとも仲がいいし……。凄く、羨ましいですよ。そういう生き方」

月村ちゃんのきらきらとした屈託の無い純粋な尊敬の眼差しを受け、あたしは「あはっ、あはははは……」と笑うほかなく、もう此処まで来たらとことん嘘話を広めてやろうと決心するしかなかった。
何せあたしが今語った事は殆ど9割方嘘で固められた偽りの経歴だ。
あたしもスバルも生まれてこの方人形師なんて志した事は一度もないし、また披露してくれって言われたって素人芸すら出来はしないだろう。
ただまぁ、これはあくまでも月村ちゃんを初めとした現地の人間がスバルの抱えているぬいぐるみことセイクリッドハートが自立的に動いている事を目撃してしまった時に操り人形による芸であるということにしておければ後々楽かな、って思った末の事ではあるのだが……正直なんか後戻り出来ない方まで話を推し進めちゃった感が否めないのはあたしの気のせいであって欲しいと思わずにはいられなかった。
如何に言い訳ばかりで人生を通してきたあたしと言えど、通せる言い訳と通せない言い訳の有無の検討くらいはつく。
そしてその場合これはどちらにあたるのか……もはや、それは語るべくも無いとあたしは思った。

ただ一度ついちゃった嘘は取替えしかない訳で……今後は偉い人も言っていたように最後まで嘘を突き通すというつもりで事の流れを運んでいくしかない。
何せ月村ちゃんはこの辺りに居を構えている内の子らしいし、トーレ姉の報告だとドクターの欲しがっている遺失物はこの町の周辺に散らばってるとの事だから、必然的にまた顔を合わせるような機会は自ずと廻ってくるだろう。
ただそうした時にボロを出してしまっては元も子もないし、第一そしたら他ならぬ月村ちゃん自身に迷惑を掛ける破目になってしまう。
此処に来る前にチンク姉から散々言われたことだけど、関係ない人は必要以上に巻き込むなっていうのはあたしも重々承知の上だ。
トーレ姉はなんだか現地の子に水先案内人として協力を要請したみたいだけど……あの時はチンク姉も断固として反対してたしなぁ、あたしも二の舞を踏まないように気をつけたいと思うよ、うん。
あたしは乾いた笑みの向こう側でしみじみとそんな情念を抱きつつ、「どうしたもんかねぇ……」と割と本気で頭を悩ませながら自分の嘘の身の上をまるで何かの小説でも書き上げるかのようにそのストーリーを組み上げていくのだった。

「あのっ、もしよかったらスバルちゃんが来るまでもっとセインさんのこと聞かせてくれませんか?」

「えっ……!?」

「なんだかそういう話を聞いていたら楽しくなっちゃって……駄目、ですか?」

「いやいやいやいや、全然オッケーだよ。あたしの話なんかでよければね、うん。そうさねぇ……何から話せばいいもんかなぁ……」

あたしは心の中で月村ちゃんに「さっそくかいィ!」と突っ込みを入れつつも、頭の方では「やっぱりそういう流れになっちゃうよねぇ……」と半ば諦めつつ、自分の考えたストーリーを月村ちゃんに語って聞かせる事にした。
まず話したのが出身の国のこと。
当然「あたしって実はこの世界の人じゃないんだ~」なんて変人染みた事を言える筈も無く、これに関してはこの世界の戸籍通りイタリアって国の生まれだって事にした。
勿論月村ちゃんから「どんな所なんですか?」とか「どれくらい居たんですか?」とか細かい突込みが度々入ってきたけれど、これに関しては事前に勉強してきた御蔭で案外すんなりとあたしも語る事が出来た。
まぁ、アパートの方にもそういう風な感じで伝えちゃってるし……ここら辺に関しては譲れないんだよね、今更……。
ちなみに設定上スバルに関しては日系のイタリア人ということにしてある。
一応あたしとは異母姉妹って事で月村ちゃんには説明したんだけど……なんか「大変なご家庭なんですね」って凄く生暖かいお言葉が返されてしまった。
なんというか……このことに関してはあたしとしても「ごめんね、スバル」としか言えないよ、やっぱり。

そいで次に話したのが大道芸のこと。
これに関しては嘘も嘘、真っ赤な大嘘で固められた事ではあるんだけど……あたしはさも自分がそういった事を経験してきたかのように真剣な気持ちで月村ちゃんにその事を話した。
相手を信用させるならまずは自分自身を騙してみせる。
演技っていうか、大体の嘘っていうのは自分以外の第三者になりきって始めて成立するのだ。
例えそれが単なる嘘だからといって手は抜かない。
だってあたしだって月村ちゃんのいたいけな夢を壊したくないもん、うん。
と、いう訳でこれに関してはあたしも事前に学んできた知識を活かしてなるべく専門的な言葉も交えて月村ちゃんに色々と話すことにした。
幼い頃より家族と一緒に芸を磨いてきたこと、だからあんまり学校とかにはいってなかったこと、初めて独立してお仕事をした時のこと……その他エトセトラエトセトラ。
端から端まで皆嘘だっていうのによくもまぁ、これだけ口から出任せ言えるもんだなってあたし自身感心しちゃったくらいだ。
月村ちゃんも何の疑いもなく信じてくれたみたいだし、一応の事これに関しても一件落着だ。

んで、最後にあたし等の身内関係のこと。
これに関してはあたしも今まで月村ちゃんに嘘ばっかりついてたこともあってか、所々に真実を織り交ぜて話すことにした。
あたしの父親……っていうか諸にドクターのことだけど、娘のあたしからしてもよく分かんない人だって事だとか、その妻……あぁ、勿論ウーノ姉の事なんだけど優しい人だって事だとか、まぁ色々だ。
ただウーノ姉の話をした時は……思わず三人目の奥さんって言っちゃったもんだから、ちょっとの間だけ空気が凍りかけたりもした。
だってそうじゃないとあたしとスバルの関係に説明がつかなくなるし……っても実質ウーノ姉ってドクターの奥さんみたいなもんだし、あたし等からしてもお母さんみたいなもんだから話しててあんまり抵抗はなかったけどね。
大体ドクターの事をあそこまで良くしてくれる人なんて辺境世界のジャングルの奥地を探しても見つかりそうに無いってチンク姉も言ってたし……そう言えば何気に酷いこと言ってるな、チンク姉……まぁ、別にいいんだけど。

そんでそれに続いてトーレ姉、クア姉、チンク姉、ディエチ、スバルって順にあたしは話を重ねていった。
ただ二番目の姉妹に関してはこれもあんまり良い雰囲気にはならなそうだからあえて黙っておく事にしたんだけどね。
ぶっちゃけ姉妹の中でもこの話をするとちょっとの間空気凍るし……特にクア姉の前でした時とか特に。
まぁ、そこら辺のことは置いておくとして月村ちゃんには結構色々な事をあたしも話した。
トーレ姉は厳ついけど根は良い人なんだよってこととか、クア姉は性悪だけどスバルには甘いんだよってこととか、チンク姉はあたしより年上な筈なのに頭を洗う時シャンプーハット被ってるんだよってこととか、妹のディエチは最近不良さんになっちゃったこととか、スバルは良くできた子だっていうことだとか……まぁ、本当に色々だ。
あたしも話している時は楽しかったし、月村ちゃんも受けが良かったのか良く笑ってくれた。

ただ……ちょっとあたしが気に掛かったのはそのことを話している最中の事だ。
なんというか、あたしが誰かと中がいいって話をしているとき、月村ちゃんは表向きの感じは笑っているようで……なんだか表情は強張ってるみたいだった。
いやまぁ、あたしの気のせいなのかもしれないんだけど……あたし自身あの感じにはちょっと心当たりもあったし、あんまり良くない傾向のように思えて仕方がなかったのだ。
あたしの中のどういう感性がそうした想いをあたしに抱かせたのかは定かじゃない。
漠然と宙に浮かんだままぼんやり浮かんでいる煙のような……言いえて妙だけど、そうあるって事は分かりきっているのに気体のように掴みどころが無い、そんな感じだったからだ。

けれど、よくない予感って言うのは大概的中する物だ。
自慢じゃないけどあたしは頭は悪いけど、それなり勘は鋭いっていう自負がある。
それもあんまりよくないことばっかりを嗅ぎ取る勘だけは格段に尖っているって言えるだろう。
あたしが工作とか潜入とか専門にしたスキルの持ち主だからかは知らないけど、潜在的にあたしには危険を読み取る能力って言うのがあったりするのだ。
もっとも、こんなのは科学的根拠のない眉唾な話でしかないんだけどね……うん。
あたしは微妙に浮き沈みを繰り返している月村ちゃんの表情をなるべく見逃さないように窺いながらも、だからといって変に動揺していると思われないように自然体を装いながら話の続きを語っていくのだった。

「んでまぁ、この国に来る前は故郷で……フィレンツェの方で公演しててさ。これがまたこの国とは全然雰囲気が違うんだよ。あっちは人形作りが盛んでね。もっとこう文化的っていうか、古臭いっていうか……良くも悪くも人間臭い街並みだったね。んで、その前に公演やってたのがヴェネツィア。こっちは観光地だけあってやっぱり人が多いんだよー。車とかは全然走ってないけどね」

「ヴェネツィアっていうと……あの水の都ですか?」

「そうそう。でもまぁ、それだけが魅力じゃないんだよ。四月になれば謝肉祭だってあるし、歴史的な建造物だって沢山あるんだ。ゴンドラに乗ってゆったりってのもいいけど、お祭りに触れてみたり、歴史に触れてみたりして街中を歩いてみるっていうのも愉しみ方の一つではあるかな。月村ちゃんも大人になってら言ってみるといいよ。あっ、でも二人組みの子供が新聞紙広げて近付いてきたら要注意ね。本当に何気なく鞄からスッ、とお財布抜かれちゃんだよ。だからパスポートや財布は常にポケットに入れて持ち歩くこと。これ豆知識ね」

「へぇ……。やっぱり、外国でもそういう事ってあるんですね。私……今まで全然知りませんでした」

あたしの作り話に目を輝かせ、真剣に話に聞き入っている月村ちゃん。
なんというか……ちょっぴり心が痛むけど、此処まで来たらあたしも後には引けないし、今更何を語った所で後戻りなんかで気はしないだろう。
だからあたしは「世の中には色々と知らない事もあるんだよー。大きくなったらいっぱい色々な所見て回るといいさー」とだけ月村ちゃんへ言葉を促し、そして満面の笑みで彼女へと微笑みかけた。
こんな風に言うと矛盾してるように聞えちゃうかもしれないけど、本当の事が言えない以上はあたしも誠心誠意、本気で嘘をつかなきゃいけないと思う。

確かに其処には「あんまり変なように見られないため」とか「これからの動きの中でスムーズに事が進むように勤めるため」とかそういった理由を幾らでも重ねる事は出来るけど、やっぱり見た感じあたしの身の上話を信用してるっぽい月村ちゃんからすればこんなのは詭弁以外の何物でもない。
従って、あたしは今折角あたしに好意を向けてくれてる人を裏切ってるって事になるのだ。
まぁ、クア姉とかディエチは何時も訓練の時「割り切れ」って言ってくるけれど、流石にあたしもそこら辺の人間関係を平気で踏み躙れるような精神は持ち合わせちゃいない。
やっぱり皆からすれば半端者って言われちゃうのかもしれないけど、あたしはあの二人のように何処までも徹底した非情にはなりきれないのだ。
って言っても、今まであたしが仕出かしてきた諸々がどうにかなってくれる訳じゃないんだけど……。

っとまぁ、こんな感じに色々ネガティブに考えちゃってるけど要するにあたしが言いたいのは人の信用裏切るって言うのならそれを悟られないくらい嘘をつくことに精進しなきゃいけないってことだ。
バレたらバレたで大きなしっぺ返しが帰ってくるのは当たり前なんだし、当然あたしも最初からその覚悟があってこんな事を言っている事には違いない。
けれど、だからって適当にやればいいかって言えばそうじゃない。
あたしは確かに傍から見れば悪人なのかもしれないけど、最低限関係ない人を巻き込まないだけの気概は予てから持ち合わせている。
これがあたしっていう個人の心情から来るものなのか稼動する前にドクターから刷り込まれたものかは知らないけど、少なくともあたしは他人が悲しんだり、苦しんだりしたりしてる様を見て良い気分にはとてもならない。
だから悪いことをするなら相手の気持ちも考慮して、全力でやる。
なんというかまぁ、自分でも「変な理屈だなぁ……」とは思うんだけど、実行出来るかどうかは別として心構えは重要だと思うんだよね、うん。
あたしは自分の内に沸いた微かな罪悪感にほんの少しだけ後ろめたい気持ちを抱きながらも、そんな気持ちのままじゃあやっぱり駄目だよね、と改めて気持ちを入れなおし、この嘘塗れの与太話に終止符を打つ事に決めたのだった。

「……っとまぁ、あたしの話はこれでお終い。どう? 楽しかった?」

「はっ、はい。とっても……。今まで自分が知らなかった事がこんなにもあるんだって、時間を忘れてついつい思っちゃいました。なんか……こんな気持ち、久しぶりでした」

「あははっ、それはよかったよ。最初はあたしもこんな話でいいのかなって思ってたんだけど、愉しんでくれたようなら幸いかな。おっと、そう言えばスバルの奴いい加減遅いなぁ、帰ってくるの。もう大分時間は経った筈なのに……何処をウロチョロしてるんだろうねぇ、あの子は」

「そういえば、確かに全然帰ってくる気配がないですね。もしかして迷子なんじゃ……」

本当に自分のことのようにスバルの事を心配してくれている月村ちゃんにあたしは「う~ん、もしかしたらそうかもね」と同意しながら、もう一度スバルが消えていった方を再度確認し、人の気配を確かめる。
だけどやっぱりスバルの奴の気配はおろか、ここら辺には全然人っ気が無いようにあたしは感じた。
まぁ、当然と言えば当然なのかもしれない。
何せ、もう空は茜色から黒色へとその色を変え始めており、普通に考えればよい子も悪い子もお家に変える時間帯なのは明白だ。
月村ちゃんはまぁ、仕方が無いとして一応此処は公園である以上、他の人間がいないのはいたし方の無いことだろう。

そんな事実の中、あたしは自分の胸の内にほんの少しだけ心配っていう情念が浮かび上がってくるのを感じていた。
月村ちゃんとあたしが話を始めてからもう実に一時間以上。
スバルがジュースを買いに行くと言って出て行ったのは月村ちゃんの目が覚める前だから、合計すれば二時間以上は経っている計算になる。
今までは単に買い食いでもしてるんだろうと思って気軽に構えてたけど、これは幾らなんでも遅過ぎるんじゃないだろうか。
とは言え、スバルの手元には並みのデバイスの数倍以上の性能を誇っているであろう“うさぎのクリスくん”ことセイクリッド・ハートもある手前、ナビゲーション能力を考えれば単純に迷子って事は無いんだろうけど……それでもやっぱり心配になってくるっていうのが姉としての情であり、念だ。
あの子に何かがあるとは思えないけど、何かあったんじゃないかと独りでに想いが先走ってしまう。
親馬鹿ならぬ姉馬鹿って言われても仕方ないのかもしれないけど、スバルはやっぱり大事な妹だ。
こうも時間が経つと心配にだってなってしまうという物だ。
あたしは心配そうに目を細める月村ちゃんに「大丈夫、だよ……多分」と強がりながらも内心ではソワソワした気持ちを抑えられぬまま、スバルの安否を心配するのであった。

「セインさん。私の事はいいですから探しに行ってあげてください。スバルちゃん……もしかしたら独りになって不安で泣いてるかもしれませんし……」

「いやいや、それはちょっと……。月村ちゃんだってまだ万全じゃないでしょ? そんな子一人此処に置いて行くなんてあたしには無理だよ」

「でっ、でも……。じゃあ私も一緒に行きます。助けて貰ってご恩もありますし、私も一応一人で歩く程度なら─────くっ!」

「ほ~ら、無理しちゃ駄目だってば。そんな強がり言っても身体の調子は治んないよ? でもやっぱりこのままじゃ駄目だろうし……おっ?」

無理やり力を振り絞って立ち上がろうとする月村ちゃんを宥め、講義の念を上げようとする彼女をどう説得しようかと考えていた私はふと此処であたし達のいる方向へと向かってくる一つの人影を見つけた。
最初、あたしはそれがスバルの物かと思ったのだが……よくよく観察してみるとそれはあたしの見かけと同じくらいの年頃の男の子のものであることがその数秒後には分かった。
ただ、これだけだとただのがっかり話で終わってしまうのだが─────その更に数秒後、あたしはその男の子が見覚えのある何かを背負っている事に気がついた。
そう、それは如何にも「あたしもう何も食べられないよ~」と言わんばかりの憎たらしいくらい幸せそうな顔で爆睡しているスバルの姿だったのだ。

瞬間、あたしは自分の額辺りがピクピクと二、三度上下に動くのを感じた。
いやぁ、別に大した意味合いがあっての事じゃない。
ただ単純に内心で「お前なにしてんのぉぉぉおおおお!?」って今までの心配やら何やらが一抹の怒りに変わっただけのことだ。
まったく、この世界に来る前にあれだけ「他の人に迷惑掛けちゃいけないよー」って教えた筈なのに何も学習しなかったのか、あの子はって思わずにはいられない。
しかも背負ってる黒髪の男の子は男の子で何か如何にもちょっと相手に手間取ってしまったって感じに苦笑してるし、明らかに迷惑を掛けたのは間違いないだろう。
あたしは内心で「スバル、明日のおやつは抜き」ってちょっと意地悪な制裁の方法を考えつつも、もう本当に姉としてどう頭下げていいもんかと戸惑いを隠しきれないまま、急いで立ち上がってその男の子の元へと駆け寄っていくのだった。

「ちょっとー。そこの君ー!」

「あっ、あなたがこの子の言っていたお姉さん?」

「そうそう。その背中の子はウチのチビだよ。よかった……」

「あぁ、それはよかった。それじゃ─────」

ようやく顔をだした我が妹のこれでもかってくらい幸せそうな寝顔を見てあたしは思わず、胸を撫で下ろした。
何だかんだ言ってもスバルは大切な妹だ。
目の前で如何にも苦労したって感じに苦笑を浮かべてる少年にはお礼を言っても言い切れないくらいだし、この少年が連れてきてくれなかったら本当に迷子になっていたかもしれないのだ。
しかも、ご丁寧にもクリスはスバルの腕に握られたまま力なくぐったりとしてるし……たぶん正しい道を示したくてもこれじゃあ無理だったんだろうなって事がありありと伝わってくる始末だ。
本当に……ちゃんと帰ってきてくれてよかったと思う。
勿論、ちゃんとお説教はしなきゃいけないんだろうけどね。
あたしは少年の背中でぐっすり眠っているスバルにほんの一瞬だけいとおしげな視線を送ると、何か言わんとしている少年の方に向き直って彼の言葉を聞くのであった。
まさか月村ちゃんと並んであたしがこの日からえらい長い間、付き合っていくことになるだろう彼の言葉を……。

「貴女の妹さん。お届けにあがりました」

そうして……此処でまた一つ、あたしは新たな出会いに導かれていく。
これが偶然なのか必然なのか。
そこら辺のところはあたしも小難しいからあんまり考えないし、それについてはスバルも異論はないのだろうけど……まぁ、なんというか凄い不思議な事ではあるんだとは思う。
何せ、この日をもってしてあたしの人生の基盤っていうのは大きく動かされる事になるのだろうから。
って言っても、あたしは所詮気まぐれ屋。
“そうあれかし”の言葉の元、その場その場を自由気ままに対処するまでだ。
それが例え、己の未来を左右するものであったのだとしても……。








前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.027864933013916