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No.15606の一覧
[0] 孤独少女ネガティブなのは(原作改変・微鬱)[ランブル](2010/04/02 18:12)
[1] プロローグ「きっかけは些細な事なの……」[ランブル](2010/03/15 14:33)
[2] 第一話「友達なんて必要ないの……」[ランブル](2010/03/15 14:36)
[3] 第二話「都合の良い出来事なんて起こりはしないの……」[ランブル](2010/03/15 14:43)
[4] 第三話「泣きたくても耐えるしかないの……」(いじめ描写注意)[ランブル](2010/01/23 17:32)
[5] 第四話「一人ぼっちの夜なの……」[ランブル](2010/03/15 14:52)
[6] 空っぽおもちゃ箱①「とある少女達の語らい」#アリサ視点[ランブル](2010/03/15 15:00)
[7] 第五話「出会い、そして温かい言葉なの……」[ランブル](2010/03/20 16:45)
[8] 第六話「変わる日常、悲痛な声なの……」(グロ注意)[ランブル](2010/03/15 15:22)
[9] 空っぽおもちゃ箱②「誰かを救うということ」#トーレ視点[ランブル](2010/03/15 15:28)
[10] 第七話「これが全ての始まりなの……」[ランブル](2010/03/15 15:51)
[11] 第八話「現実と向き合うのは難しいの……」[ランブル](2010/03/15 16:00)
[12] 第九話「所詮理想と現実は別のお話なの……」[ランブル](2010/03/20 16:47)
[13] 空っぽおもちゃ箱③「欲しても手に入らないもの」#すずか視点[ランブル](2010/03/15 16:18)
[14] 第十話「護るべき物は一つなの……」[ランブル](2010/03/15 16:21)
[15] 第十一話「目的の為なら狡猾になるべきなの……」[ランブル](2010/03/15 16:25)
[16] 第十二話「何を為すにも命懸けなの……」[ランブル](2010/03/15 16:30)
[17] 第十三話「果たしてこれが偶然と言えるの……」[ランブル](2010/03/15 16:38)
[18] 空っぽおもちゃ箱④「打ち捨てられた人形」#フェイト視点(グロ注意)[ランブル](2010/08/24 17:50)
[19] 第十四話「終わらせる為に、始めるの……」[ランブル](2010/03/15 16:39)
[20] 第十五話「それは戦いの予兆なの……」[ランブル](2010/03/20 16:44)
[21] 第十六話「月明かりに照らされた死闘なの……」(グロ注意)[ランブル](2010/08/24 17:49)
[22] 第十七話「不安に揺らぐ心なの……」[ランブル](2010/04/02 18:10)
[23] 空っぽおもちゃ箱⑤「枯れ果てた男」#クロノ視点[ランブル](2010/04/19 22:28)
[24] 第十八話「それは迷える心なの……」[ランブル](2010/05/05 17:37)
[25] 第十九話「鏡写しの二人なの……」[ランブル](2010/05/16 16:01)
[26] 第二十話「芽生え始める想いなの……」[ランブル](2010/06/10 07:38)
[27] 第二十一話「憂鬱の再開、そして悪夢の再来なの……」[ランブル](2010/06/10 07:39)
[28] 空っぽおもちゃ箱⑥「分裂する心、向き合えぬ気持ち」#恭也視点[ランブル](2010/08/24 17:49)
[29] 第二十二話「脅える心は震え続けるの……」(微鬱注意)[ランブル](2010/07/21 17:14)
[30] 第二十三話「重ならない心のシルエットなの……」[ランブル](2010/07/21 17:15)
[31] 第二十四話「秘めたる想いは一筋の光なの……」(グロ注意)[ランブル](2010/08/10 15:20)
[32] 第二十五話「駆け抜ける嵐なの……」(グロ注意)[ランブル](2010/08/24 17:49)
[33] 第二十六話「嵐の中で輝くの……」(グロ注意)[ランブル](2010/09/27 22:40)
[34] 空っぽおもちゃ箱⑦「欠けた想いを胸に抱いたまま……」#すずか視点[ランブル](2010/09/27 22:40)
[35] 空っぽおもちゃ箱⑧「最後から二番目の追憶」#すずか視点[ランブル](2010/10/10 22:20)
[36] 空っぽおもちゃ箱⑨「Super Special Smiling Shy Girl」#セイン視点[ランブル](2010/10/10 22:20)
[37] 第二十七話「その心、回帰する時なの……」[ランブル](2010/10/25 19:25)
[38] 第二十八話「捨て猫、二人なの……」[ランブル](2011/02/08 17:40)
[39] 空っぽおもちゃ箱⑩「遠い面影、歪な交わり」#クロノ視点[ランブル](2011/02/13 11:55)
[40] 第二十九話「雨音の聞える日に、なの……」[ランブル](2011/04/18 17:15)
[41] 第三十話「待ち人、来たりなの……」[ランブル](2011/04/18 20:52)
[42] 空っぽおもちゃ箱⑪ 「殺されたもう一人のアタシ」#アリサ視点[ランブル](2011/06/05 21:49)
[43] 第三十一話「わたし達の時間、なの……」[ランブル](2011/07/03 18:30)
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[15606] 第二十一話「憂鬱の再開、そして悪夢の再来なの……」
Name: ランブル◆b9dfffe8 ID:ba948a25 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/06/10 07:39
長い休みの後は基本的に憂鬱な物である。
恐らくこれは何時如何なる状況であろうと大概皆こう思っているのだろうし、多分何処の世界を探しても大抵の人間は同じ事を考えているのだろうから大凡、万国共通な事柄と言っても過言ではないだろう。
言い換えるのなら定期的に発症し、伝染する流行病のようなもの。
もう少し俗っぽく表現するなら一種の「サザエさん症候群」とでも言えば適当なのだろうか。
あの独特なエンディングテーマが流れ終わると不思議と「あぁ、明日月曜日か……」と思ってしまい、軽く鬱になりかけるアレである。
何でも通説によればあの刻限は実際に科学的な側面からもその手の心境の変化が起こる時間帯らしいし、本当の所冗談抜きで自殺が一番執り行われている時間でもあるそうだ。
つまりそれ位、皆責任を背負う為の明日を生きたくないという事なのだろう。

人間何かに追われるように毎日を過ごしていると、否応もなく鬱憤を溜め込んでしまう物だ。
それがコンビニの前でたむろしてヘラヘラ笑っている若者だろうが、上司にも部下にも気を使って神経をすり減らしている中間管理職のおじさんだろうが例外ではない。
誰だってそうだ。
毎日毎日他人の顔色ばかり窺って、予め形成された交流の輪の中から蹴りだされてしまいはしないかと心の奥底で脅えるだけの日常。
疲れないはずが無い。
こればかりは私も自信を持って断言する事が出来た。
だって実際の話その理屈の上で私もほぼ毎週月曜日が来るたびにそう思っているし、周りの人間を見ていても「この人も私と同類だな」って思ってしまうからである。
鬱陶しい朝日に目を晦ませながら眠そうな顔で自転車を漕ぐ高校生、月曜の朝だというのに景気の良くない顔を浮かべて溜息を吐くサラリーマン、夜の仕事に疲れきっているのかふらふらとした足取りでコンビニへと入ってくる水商売風のお姉さん……その他エトセトラ、エトセトラ。
路地をすれ違う人達の顔を窺ってみると大体皆そんな感じだ。
というか、今のところ私はその逆のパターンの人間を未だにお目に掛かった事は無い。
大体皆憂鬱そうな顔を浮かべ、その生活にこれといった目標も見出せぬまま、だらだらとその日その日を惰性的に生きているだけだ。

勿論、私はそんな人達の生き方を否定したりはしない。
最大公約数が物を言うこの国ではそうやって生きる事がある意味一番ベストなのであり、突飛した欲望を抱く人間は大抵羽ばたく為の”翼“を捥がれて地に落ちるのが落ちなのだから。
確かに例を挙げればより高みを目指して羽ばたき、成功を収めた人間もいない訳ではない。
時には富を、時には名声を、時には地位を……ありとあらゆる欲求を現実の物にし、謳歌してきた人間も確かにこの世には存在しているのだ。
だが、それはあくまでもごく一部……それこそ全体からパーセンテージで割り出せば僅か数パーセントにも満たない数だ。
人間、誰しも上を向いたからといって手が届くという訳ではない。
それ相応の環境、財力、人脈、覇気、努力……高みへと上る為の土台が予め用意されていたからこそ、成功者は成功者として羽ばたいていく事が出来たのだ。
私やその他大勢の凡人がそんな物を求めた処で結局手は届きはしない。
よしんば手が届いた処で、そうして手にした物は単に引き摺り降ろした物でしかないのだ。
星を手にしようとその輝きが無ければ結局それは嘗て星であった単なる石くれでしかない様に、人には分相応……自信の手が平行に届く範囲の物でしか真の価値を見出す事は出来ないのだ。
尤も、其処で諦めて立ち止まるのか、それとも高みへと昇ろうと凡人は凡人なりに何とかしようと思い立つのかはまた別の話なのかもしれないが……。

ともあれ、結論としては人間自分の身の丈に合わない苦労を抱えると碌な事にならないって訳で……ついでに言ってしまうのであれば、例え身の丈に合っていても憂鬱な感情は何時でも背中にくっ付いて回って来るという事だ。
例えその重圧が嫌で投げ出したとしても、それならそれでまた一ランク下の鬱憤を背負う羽目になる。
世の中に生きる最低最悪な境遇に生きる人間……詰まる所、私こと高町なのはのような人種はそうした悪循環の繰り返しによって今の立場に追いやられてしまったという訳だ。
一つ投げ出せたかと思えばまた次の厄介事が舞い込んで来て、それを解決しようとした矢先にまた一つ面倒を抱え込む事になっている。
そうやってどんどん自爆方式に事は広がって、最終的には取り返しのつかない事態にまで発展してしまう。
それが凡人より落ちた人間の性であり、ある種呪い染みた運命なのかもしれないと私は思った。
あぁ、今ならはっきりと言えるだろう。
「私をこんなにも要領悪く運命付けて下さって神様どうもありがとうございました。くだばっちまえ」って。
私は昨日の訓練の後にテレビで見た深夜映画で主人公がそんな風に毒づいていたのを思い出し、何時もの物より当社比で三割増し位の鬱憤が込められた溜息を宙へと吐き捨てながら、照り付ける太陽に急かされる様にバス停までの道のりをフラフラと歩いて行くのだった。

「はぁ……。学校、行きたくないなぁ。ったく、事件はまったく解決してない筈なのに何で学校再開させたりなんかするのかな……。いい迷惑だよ、本当に」

心の奥底から表面張力のギリギリにまで巣食った鬱憤を呪詛の様に吐き捨てながら、私は思わずそんな独り言を漏らしてしまった。
しかし、その言葉に返答してくれる何時もの少女の声や機械的な返答は何時まで経っても聞こえては来ない。
受け止めるべき相手を見失った言葉は独りでに迷走し、辺りから響いてくる同じ学校の人間の騒々しい馬鹿笑いや朝から異様にテンションの高い者同士のお喋りに掻き消えるだけだった。
其処で私の思考は一つの答えを私の頭の中に導き出す。
今日は……って言うか、これから学校に行く際はジュエルシードもバルディッシュも拳銃も総じて持っていかないという取り決めを今朝方アリシアと交わしたのだという事を。
当然アリシアからは猛反対されたし、私自身も色々と疑問の残る答えだったと言う事は一概に否めなくもあった。
だが、それ相応の理由も存在していたからこそ、そういう結論に至ったのもまた真実だと言うほか無かった……少なくとも私はそう解釈している。

最近は色々と物騒な事件も多発していて学校も長らく休校であったから失念していたのだが、やはり学校での私の立場を考えると何時あの地獄のような時間が再開されるかも分からない。
となると、その矛先……初めは直接私の身体を殴る蹴るしていれば満足なのかもしれないが、対象が私の所持品の方に移るのも経験上時間の問題と言う事になる。
そうなれば騒ぎは一層大きくなるし、ジュエルシードやバルディッシュは一度見つけられなくなってしまうと有事の際に丸腰になってしまう事にもなりかねない。
拳銃なんて物は論外だ。
見つかるだけでも危険な上に、そうなったが最後……如何取り繕っても弁解なんて出来た物ではない。
どれを一つとっても日常を狂わせかねない物だが、今は一つでも欠けただけで大惨事を招く事にもなりかねないのが現状なのだ。
学校から帰ったら一度家に戻らなければならないのは余計な手間だが、万が一の事も考えて用心に用心を重ねるというのもその対価に似合う位に重要な事だ。
故に現在私は丸腰。
無造作にスカートのポケットに突っ込まれた手はバルディッシュやジュエルシードを捉える事も無ければ、小型拳銃の銃把を握る事も無い。
ただ先ほど入った何時ものコンビニで買った缶コーヒーと菓子パンの入った袋が申し訳程度に指に引っかかり、歩くたびに音を立てながら揺れるだけだ。
正真正銘の潔白な身、自分で言うのもおかしな話なのかもしれないが武器を持つ事で人が腐ると言うなら現在の私は何時もの私よりかは幾分か汚れの落ちた身の上だと言えた。

しかし、反面私の内心は複雑な物だった。
なんと言うか、あまりにも何も無さ過ぎて逆に落ち着かないのだ。
今こうしてバス停へと向かう私の周りで聞こえる声も、如何にも今の生活充実してますよと言わんばかりに微笑む学生の姿も、何かが起きている筈なのに何も起こっていないように見えてしまう街並みも……何もかもが平和過ぎて気が滅入ってしまう。
何も平和なのが悪いとは言わない。
出来れば私だって面倒事は起きて欲しくないし、これ以上被害者が増えるのもあんまり良い気分がしないのも確かだ。
だが、如何にも平和過ぎるというのも……存外退屈な物だった。
昨日の訓練が後を引いているのか、それとも此処数日の異常事態に私の感覚が麻痺してしまったのか。
まあ、正直どっちでも構いはしないのだが、恐らくそこら辺の事情が今の私をそんな気分にさせているのだろう。
退屈は人を殺す猛毒であると何時だか読んだ本に書いてあったが、今ならその言葉の意味も何となく理解出来るというものだ。
一度戦いの味を占めると中々その感覚から抜け出せなくなってしまう。
言うなれば評判のゲームをプレイした時と一緒の感覚だ。
もう止めようと思いはするものの、ついつい後少しだとコントローラーを握り直してそのまま徹夜してしまう……道理の根本は異なるのかもしれないが捉え方としては大体そんなものだ。
銃で敵を穿つ感覚が、魔法で相手を吹き飛ばす爽快感が、己が渇望を丸侭敵にぶつける優越感が……何にも増して私の感覚を滾らせるのだ。

でも、此処にはその感覚の断片も無い。
私は停車場に停まっているバスに周りの連中が嬉々として乗り込んでいく姿を見ながら何となくそう思い─────そのまま憂さを晴らすように重苦しい溜息を宙へと吐き捨てた。
昨日の訓練で些かストレスを発散し過ぎたのも原因なのかもしれないが、如何にも私は私を取り巻く人間達が変らず各々の“何時も通り”を過ごしているのが何となく不愉快で仕方が無いのだ。
この街は半ば戦場に為り掛けていると言うのに、誰一人としてそんな風な場景を思い描く事すらしない。
何時何処で誰が殺されようと所詮それは他人事。
よしんばその事について無理やり思考してみた所で、やれ可哀想だ、やれ怖い事もあったもんだと三日も経てば忘れるような上辺面だけの戯言を口から垂れ流すだけだ。
そんな連中と只管殺し、殺されの世界で自分から出血した物何だか相手から浴びた返り血何だか判断つかなくなるまで闘い続ける私……そしてその認識のズレ。
それ等の物が総じて不愉快……って言うか、此処まで行くと一概に気持ち悪いと言ってのけられるレベルの話だろう。
これだけ血に塗れた街の中で、どうしてこの人達は「よぉ。休みの間そっちはどうだったよ?」と無神経に言い合えるのか。
独り善がりの阿呆らしい考えだっていうのはよく分かっているのだが、事の当事者からしてみればそのあまりにも無防備な姿勢は呆れを通り越して苛立ちすら湧いてきてしまうほどだ。
尤も、だからと言って先人切って連中に注意を促してあげるほど私も酔狂な人間じゃないし、変人でもないから如何すると言う訳でもないのだけど。
私はコキリッ、コキリッ、と首を回して小気味い音を立てながら、他の連中に習って自分も静かにバスの中へと入り込んでいくのだった。

「やれやれ。こんな事考えちゃうなんて、私も随分アレな人になっちゃったもんだ─────っと。はぁ……“また”ですか。なんで、こうもやたらとやる事成す事全部デジャブってくんのかな? いい加減、鬱陶しいって。いや、割と本気で」

ぶつぶつと周りの座席に座っている連中に注目されない程度の小声でそんな風な愚痴を零した私は、新たに湧き出た鬱憤の原因の方へと何気なしに視線を合わせる。
其処にいたのは私と同い年くらい……って言うか、同じクラスな上に小学校入りたての頃からの腐れ縁で、挙句何ヶ月か前までは他の連中がやってるのと同じようにお手を繋いで仲良しこよしと馴れ合っていた元友達でもある少女の姿だった。
彼女が私の定位置の隣で文庫本片手に時間を潰している光景は何時もと変らず鬱陶しく、それによって私が被る不快感もまたその鬱陶しさに比例するように甚大かつ多大な物に他ならなかった。
この場で文句をグダグダと述べる心算は毛頭無いし、最早今更と思う自分がいるのも否定出来ない事実ではあるのだが……ぶっちゃけた話、此処まで来るとストーカーなんじゃないかと勘潜ってしまいそうになるほどだ。
いい加減鬱陶しいから構わないでよ、面倒臭い。
一体どれだけこの台詞を彼女に吐いてきたか知れないが、微塵も効果が無いところを見るとあながちその疑惑も間違いではないのかもしれない。
まあ、何にせよ……だからと言って私も別に態度を改めようとか昔みたいに馴れ合おうとか思っている訳ではないのだが。
そんな風な考えをダラダラと頭の中で垂れ流す私は、何一つとして進展しない現実に半ば落胆したように肩を落としながら、その少女の隣の自分の定位置へと向かって歩を進めるのだった。

歩を進め、定位置へと近付くにつれて少女のシルエットが段々と鮮明になっていく。
私も暗い部屋でゲームしたりやらネットサーフィンやら色々とやってる関係でそんな視力が良いという訳ではない。
眼鏡を掛けなければいけない程という訳ではないが、それでも諸々の不健康さも祟ってか、遠くの物が霞む程度には物の見え具合も悪くはなってしまっている。
尤も、それはもしかしたら過去に私が起したもう一人の元友人との壮絶な殴り合いの末にそうなってしまった可能性もあるから一概にそれが全部の原因であるとは言いがたいのだが……不健康児を地で行く私としては正直どうでもいい事だった。
視力っていうのは何でもビタミンAを適当に摂取すれば回復するっていう話だが、大して美味しくも無いブルーベリーのタブレットをドリトスを詰め込むみたいにガリガリとやるのは如何にも気が引ける。
加えて、もしかしたらジュエルシードを用いた回復魔法か何かならそんな事をせずとも手軽に視力を回復出来る筈だ。
何せ、ものの数十分で腕の粉砕骨折まで直したような異形の力だ。
それ位の事が出来ても何ら不思議じゃないし、もしかしたら何処かの漫画の応用で千里眼の紛い物程度なら再現出来るかもしれない。
何とも夢の広がる話だ、私は自嘲気味に自分の思考を一笑し、がさがさとコンビニ袋を揺らしながら彼女の─────マゾヒスト兼ストーカー疑惑が浮上しつつある少女、月村すずかちゃんの隣の席に静かに腰を降ろすのだった。

「あっ……。なのはちゃん」

「なに?」

「そのっ……おはよう。今日はちゃんと学校に来たんだね」

「……別に。一々すずかちゃんの許可取らなきゃ学校行っちゃ駄目って訳でもないでしょうよ? こう毎度毎度ラリった鸚鵡みたいに繰り返すのもアレなんだけどさぁ、私の勝手でしょうよ。私が来るか来ないか、なんていうのはさ」

何時ものように変わらず同じことを聞いてくるすずかちゃんに私はまるで痰でも吐き捨てるかのようにそう返答の言葉を述べて掛かる。
何というか、自分の言動も日に日にチンピラ染みてきているなと私も思った。
確かに色々な要因が重なって折角発散した筈のストレスがぶり返しつつあるのは事実だが、少なくとも数日前の鬱憤絶賛大好調の時でもこんな風に毒を吐く事は無かっただろう。
それに彼女だって一応元とは言え、紛いなりにも二年以上腐れ縁続けてる知人だ。
邪険に扱うのは何時もの事だとしても、出会い頭にこんな風に口汚く言葉を吐き捨てるような間柄では無い筈である。

別に彼女と私は喧嘩してるって訳でもないし、そこ等の有り触れたゲームのシナリオよろしく生まれた時から敵同士って訳でもないのだ。
ただ私が一方的に振った相手にしつこく言い寄られているだけ。
これがドラマだったら「いい加減にしろよ!」と声を荒げて突き飛ばすようなシーンだという、ただそれだけの事に過ぎないのだ。
まぁ、とは言え私はレズビアンでもバイセクシャルでもないし、無論これからも一生そっちの領域には足を踏み入れないだろうから間違ってもそっちの方向で関係が改善されるのはありえない話なのだろうけど。
何にせよ、取るに足らない馬鹿馬鹿しい話だ。
まったく持って私らしくない、と言うか関係の改善とか何を今更そんな事を考えてしまっているのだろうか。
冗談とは言え寒気がする……いや、寧ろ虫唾が走る勢いにも勝る不快感だ。

恐らくフェイトちゃんと触れ合った事で私も色々と考えが甘くなってしまったようだが、目の前のすずかちゃんにしろもう一人の元友人にしろ私を裏切って知らぬ存ぜぬを決め込んだのは紛れも無い事実……覆しようの無い現実なのだ。
それを今更如何こうしようって言ったって、現実は何時だって一本道だ。
選択したルートを通るだけ、それも選択肢でセーブもロードもリセットも利かないと言うおまけ付だ。
そして私達の関係はそんな理不尽ながらも現実味溢れる道の中で交差し、永遠に交わる事の無いくらいに離れてしまった。
それこそ反比例してるような状況っていっても過言ではないだろう。
仮に私がXの曲線だとするなら目の前のすずかちゃんも含めて嘗て私に関って見捨ててきた人間は総じて全員交わる事の叶わなず、逆方向に反り曲がるYの曲線に過ぎないのだ。
その点で言えば先生やフェイトちゃんはそのグラフ上に打たれたNの点って処なのだろう。
結ぶにしろ結ばれずにしろ後は本人の立ち回り次第、そしてその選択は未だ私の手元に残されていると言う訳だ。
しかし、彼女達は違う。
もうこれから一生交差する事は無いのだろうし、私も進んで近寄って行こうとは思わない。
触れようとするなら遠ざけ、反発し、反りをより深くして溝を作るだけの関係だ。
それこそ奇跡でも何でも起きない限り……いや、よしんば奇跡が起きた所で早々改善できる物でもないだろう。
まぁ、とは言え私自身こんな事を微塵でも考えてしまった時点でまだまだ己の甘さを捨て切れていないのかもしれないが……。
私は頭の中に思い浮かんだ馬鹿な考えを適当に振り払い、脅えたようにビクつく何時ものすずかちゃんの様子にしらけた視線を送りながら、それまでの生活と何ら変る事なくコンビニの袋を広げてささやかな朝食を取り始めるのだった。

「あの……なのはちゃん?」

「はぁ……しつこいなぁ、もう。朝から何食べようが私の勝手だし、そんな事で一々指図してこられるのも正直ウザいんだよ。毎回聞かれる度に律儀に答える私も悪いのかもしれないけどさぁ、ちょっとは学習しようと思わないわけ?」

「あうっ、ごめん……」

「いや、其処で謝られても……。ったくもう、調子狂うなぁ」

何処か本当に申し訳なさそうに謝ってくるすずかちゃんに私はどうにもそれ以上強く出る事が出来ず、ガリガリと頭を掻きながら新たな鬱憤を胸の内に溜めこんでいた。
人生何事も思った通りに事が運ぶことなんてそうそう無い事くらいは私も分かっているけれど、こうも何度も何度も同じようなやり取りを繰り返されても尚進展が見られないとなると流石に私でも参ってしまうという物だ。
例えるなら『サガフロンティア2』の戦闘で何度もコマンドを入力しているのに一向に技を覚えない時の心境に通ずる物がある。
アレも大概運が悪いと技を憶えてくれないし、下手をすればコマンド入力に夢中になってHPやらLPやらの方に目が行かなくなってしまいがちになる物だ。
そしてこの状況もまたそれと同じ、何度やっても欠片も進展する事は無い。
顔を合わせる度に発生する強制イベント、それも何度でも繰り返される無限ループの類の奴だ。
おまけに回避のしようも無ければクリアの仕方も未だ不明、加えてやる気やら何やら根こそぎ持って行かれるとくれば苛々もするという物だろう。

一体何なのだろう、このデジャブする感覚は。
そんな漠然とした疑問が私の脳裏を過り、刹那の内に胸の内で渦を巻いていた苛立ちをより一層強い物へと昇華させてくる。
もう何度も……そう、呆れる程に何度も何度も繰り返してきたこのやり取り。
この前も、更にその前も……と言うか、私がこんな風にねじ曲がった正確になってしまったその前にすら私は「これって前もやったんじゃないかな?」って思わずにはいられないのだ。
いや、一応そんな事はありえない事位は私自身も分かっている。
既知感って言うのはあくまでも“何となく”っていう曖昧な物の範疇を出ない感情なのだし、そもそも記憶を遡って考えても嘗ての私とすずかちゃんがこんな辛辣なやり取りをした事などある筈が無いのだ。
私が知る限り、月村すずかという少女は仲の良い人間の後ろをちょろちょろと付き纏い、都合が悪くなるとそれを盾にして首を引っ込めるようなタイプの人間だ。
そんな彼女が進んで自分が相手に嫌われるような事をするはずが無いし、第一私も昔は愚かにもそんな関係もそう悪い物ではないと思っていた節があったから、さして気に留めてもいなかったのも否めないものがある。
詰まる所、私はありもしない事に既知感を……それも今の自分の行動を自ら肯定するような大きなデジャブを感じてしまっているという事だ。

私だって何も初めから彼女の事が嫌いだった訳じゃない。
こうやって苛々するのは偏に彼女の行動が飽きもせずに繰り返されるからで、何もせずに黙って不干渉を決め込んでくれればこっちだって態々こんな醜悪な感情を抱えたりはしないのだ。
一度私を地獄の底まで突き落としたくせに、何で再びこうやって優しさを振りまいてこようとするのか……。
あぁ、私だって分かってはいた。
彼女が私に向ける感情が何なのか、そしてそうする所以が何処にあるのかっていう事くらいは。
でも、だからこそ私の苛々は歯止めが利かなくなってしまうのだ。
なまじ人間の汚い部分を垣間見せられた挙句、そんな反吐が出るような連中に囲まれて私は今までを過して来たのだから。
温もりなど幻想、この身を包み込んでくれる優しさなんて所詮は蜃気楼の先の幻でしかないのだ。
ただ縋れる場所があればいい、それ以外の優しさなんて……私には無用の長物でしかない。
故に彼女は役者不足、私を口説く資格はおろか、言い寄ってくる前提さえ彼女は満たしてはいないのだ。
そんな人間が何を今更、私はそんな後味の悪い考えにギリッ、と歯を食いしばって言いようの無い怒りを露にしながら、手に取った缶コーヒーのプルタブを乱暴に開けて、そのまま一気の口に流し込んで湧き出た感情を押さえ込むのだった。

「んくっ─────ッたっはぁ! やっぱり朝はブラックに限るね。それなりに目も覚めるし、意識も戻ってくるし、言う事無しって奴だよ」

「……あのっ、なのはちゃん。もしかして、私って……」

「んっ? あぁ、もう何かさぁ……すずかちゃん。もうこの際面倒だから何度もウザいやら鬱陶しいやら言わないけどさぁ、喋るんなら喋るんでもうちょいはっきり喋ろうよ。正直苛々するんだよねぇ、そのどっちつかずのグダグダな処。如何にも私弱いですよ、って周りに尻尾振ってる感じで。アリサちゃん辺りにならそれも通用するんだろうけど、ソレ……はっきり言ってムカつく。だから気をつけた方がいいよ。誰しも媚売って可愛がってくれるほど酔狂な人間ばかりじゃないってさ」

「そんな……っ! 別に、私は……」

何処か憤慨した様子で突っ掛かってくるすずかちゃんに、私は多少ドスを聞かせた視線を向けて黙らせながら内心で「してやったり」と嫌味っぽく呟いた。
何というか根暗な感じが否めないが、今ので多少昨日から今朝方に掛けて溜め込んだ分のストレスくらいは緩和された事だろう。
元から彼女に言いたい事は山ほどあったが、これで一応一番言いたかった文句は吐き捨ててやる事が出来た。
復讐とか仕返しとかそういう訳ではないが、とりあえず現状を後残り三年ちょっとは嫌でも顔を合わせなければいけないのだと考えた場合に何時までもこの調子では正直こっちが先に参ってしまう。
それ故の忠告、っていうよりは警告だった。
これ以上私を苛々させるな、怒らせるな……後、ついでに言うのであれば出来るだけこれ以上私と接触しないでくれるとありがたいって言うような類の。
まぁ、尤も……その関係がこれからも続くのか、それ以前に私がくたばるのかは紙一重の事だから一概にその警告が小学校を卒業するまで有効かどうかは別問題なのかもしれないけど。
私は胸の内に独りでに湧き出た我ながら洒落になってないブラックジョークに思わず苦笑しつつも、それと同時にそう言えばと”とあること“を思い出し、何気なく頭の中に思い浮かんだソレを言葉にしてすずかちゃんへとぶつけてみる事にしたのだった。

「……まぁ、そこら辺の諸々は置いておくとして、だよ。私ちょっとすずかちゃんに確認したい事があるんだよねぇ……。って言っても別に大した事じゃないんだけどさぁ……どうにもこのままって言うのも気持ち悪いし、それならいっそこの場で解消しちゃおうかと思ってね。まぁ、嫌って言うのなら無理には訊かないけど……どうかな?」

「えっ……? あぁ、うん。別にいいよ。でも、珍しいね。なのはちゃんの方から私に話しかけてくるなんて」

「気まぐれだよ、気まぐれ。はっきり言っちゃえば私だってすずかちゃんとなんか関りたくも無いんだけど、幾ら言って聞かせても無駄っぽいしさぁ……ってな訳で、押しても駄目なら引いてみろって原理だよ。あっ、勿論下手な勘違いを起さないでね? 別に私、仲戻したいとか昔に戻りたいとかそういうのは微塵も考えてないから」

「う、うん。分かったよ……。ちょっと残念だけど、まだ私が頼られる事が在るのならそれはそれで凄く嬉しいよ。それで、なのはちゃん。私に聞きたいことって……何?」

何処となく緊張した空気が解け、私とすずかちゃんとの間に妙に生温い空気が漂い始める。
気持ち悪い、そんな感情が唐突に私の胸の内を駆け巡った。
あれだけ忠告しておいても尚これだ。
すずかちゃんは人が胸中に抱える悪意なんか意にも介さず、ずけずけと土足で私の領域に踏み込んでくる。
本当に苛々させる……それこそ一発や二発殴った程度じゃ収まりが利かない程に、何処までも彼女は私を不愉快にさせてくるのだ。
それも、自分が相手を不快にさせているなんて微塵も考えちゃいなさそうだから尚腹が立つ。
現に今の彼女を見ていてもそうだ。
どんな状況であろうと、仮に此処で言う“高町なのは”の心境がどっちの方向を向いているのかも構いはしない。
彼女が思っているであろう事は正にそれ……相手が自分を如何思っているのかという事よりもまず自分が相手にどんな感情を向けたいのか、ただ純粋のその欲求に身を翳しているだけなのだから。
故に、彼女は微笑むのだ。
一切の邪気も無ければ裏も無く、私の友人兼妹分であるアリシア・テスタロッサとはまた違う方向で馬鹿正直に……月村すずかという女は自分の存在を相手に曝け出そうとする。
例えそれがどのような結果になろうとも。
まったく、何処までも人を不快にさせるのが得意な女だと私は思った。

だが、もうそんな茶番もいい加減終わりにしたい。
私はそんな様子のすずかちゃんに気付かれないようにふっ、と口元を吊り上げながら心の中で未だ自身の置かれている状況に盲目的な彼女を心の中で嘲る。
彼女は本当は解っているはずなのだ。
今更何をしたって無駄だって事も、その不可能を可能にするだけの力量も自分には無いという事も。
ただそれを認めたくないが故に目を瞑っているだけで……本当は彼女だって、自分が何処の誰にどんな風に悪意を向けられているのか位は凡そ勘付いている筈だろう。
人間生きていれば徳のある聖人だろうと悪意に満ちた犯罪者だろうと多かれ少なかれ他人に恨まれる事になる。
その理由は人によって様々なんだろうが、理由なんて物は所詮切っ掛けに過ぎない。
要するに大事なのはその中身、他人から向けられた悪意に自身が如何向き合い対処していくかという事だ。
まぁ、実際私もその手の面倒は既に投げ出しちゃった口だし、他人に説教なんていうのは柄じゃないんだろうけど……もうここら辺で彼女とのいざこざも終局させたいのだ、私は。
それ故に過去を穿り返して光を当てる。
眠りこけるには少々時間が経ち過ぎた、それを明確に彼女に伝え、そして重く塞がった彼女の双眸を無理やりこじ開ける為に。
私は込上げ、高ぶる感情を一切合財無理やり胸の内で押さえ込み、「あぁ、そういえばそんな事もあったっけ」と、ついこの間起きたばかりの出来事をまるで何年も前の出来事のように心の中で呟きながら、自身の記憶から飛び出たその言葉を彼女の眼を開く心の鍵穴へとゆっくり差し込んでいくのだった。
いい加減鬱陶しくなってきた”月村すずか“という錠を外す為に。

「いやいや、そんなに難しい事でも堅苦しい事でもないよ。ただ─────この前の保険の話、ちっとは考えてくれたかなって思ってさぁ」

「えっ……」

「あぁ、もしかしてもうクラスの連中にバラしちゃったとか? まぁ、それならそれでこの話はお流れな訳だし、私もすずかちゃんのこと一生そういう奴なんだって軽蔑し続けるけどさぁ……実際そんな度胸ないでしょ、すずかちゃん? 何せ、今までずっとそうやって蝙蝠決め込んできたんだしね。クラスの連中には可愛がってオーラ全開で尻尾振って、それでも飽き足らず私の方には御人好しの友人面してご機嫌伺ってくる。そうやって中途半端に誰にでも媚売って……さぞ居心地が良かったんだろうねぇ。自分が誰からも恨み買わない安全圏にいるっていうのはさぁ。っと……まぁ、でも実際私はそんなに気にしてないけどね。元々その手の人間だって言うのは分かってた事だし、迂闊だった私も悪い訳だし。ただ、だからと言ってこのまま流せって言われちゃうと……如何にもそれで妥協出来ないんだよ。何時裏切られるかも分かんない状況で無視決め込むほど私も肝が太い人間じゃないしね。ってな訳で、だよ。実際の所、欲しい物は何か見つかった? お金? 物? それとも考えてなかったとか言っちゃう感じ? まぁ、何だっていいけどさぁ……私もそんなに我慢の利く方じゃないんだ。だ・か・ら……ぶっちゃけ速く決めちゃってくれると助かる訳よ。私の言ってる意味が分かるかな? 月村すずかちゃん?」

「なっ、何言ってるの……なのはちゃん? どうして……どうしてそんな話を、今更─────」

刹那、私とすずかちゃんとの間に流れていた気持ち悪いくらいに生暖かかった雰囲気が一気に絶対零度にまで引き下がる。
出来るだけ陽気を装いながら言葉を紡いだ私に対し、それを聞いたすずかちゃんは思わず絶句してしまったといった具合だ。
そんな彼女の様子を私は目を細めながら全身を嘗め回すように視姦し、より一層心の内で嘲りを深くする。
もしかして忘れていたとでも言うのだろうか。
いや、彼女の事だから恐らくは……っていうより十中八九ほぼ間違いなく綺麗さっぱり記憶の中から除去していたに違いない。
何せこの手のタイプの人間に限って言えば大体そうだ。
自分は他者に嫌われたくない、自分は嫌われる筈が無い─────そう考えるが故に、自身の眼を閉じて真実という名の光から目を覆う。
自身に都合の悪い事は流し、例えその所為で涙を流した所で即座に忘却の彼方へと追いやる。
そうやって自身を偽って、偽って、偽り通して……最後は知らぬ間に元の自分へと廻り戻るのだ。
だからこそ彼女は気付かないし、傷つかない。
他者が感じ取って受けるその感情すらも、彼女は自身を偽り通す事で“無かった事”にして予め形成された“元のすずかちゃん”という基本へと帰還するのだから。

だが、だったらもうこの際手加減なんて物は不要というものだろう。
なまじ傷を負っても元に戻ってしまうのなら、いっそ彼女を彼女たらしめている根本たる心臓に杭を穿ってやればいい。
一生消えぬように、寝ても醒めても永劫その痛みから解放されることなく苦しみ続けるように……。
彼女の胸に、楔という名の白木の杭を突き立ててやるのだ。
口では物で釣るとか保険とか生易しい事を言っている私だが、もう吹っ切れた……面倒だから容赦しない。
彼女が人から嫌われる事を恐れるのであれば、私はとことんまで彼女を追い詰め、嫌ってやろう。
もう二度と私を包もうなどという妄言を吐かせぬように、そしてその身の上が所詮鳥とも動物ともつかぬ下種な生き物で在るという事を知らしめる為に。
私は彼女の胸に幾度も幾度も、この私が受けた苦しみを杭として……彼女に消えぬ生傷を負わせてやるのだ。
そしてこれはその前座、少々無粋な物となってしまったが彼女の本質をガタガタに崩す切っ掛けとしては十分事足りる。
台座は整ったのだ、後はミディアムでもウェルダンでもご自由に。
私は不意に込みあがってきた禍々しい感情に身を委ね、罵倒とも嘲りともつかぬ言葉を巧みに行使しながら、未だ何処か放心気味のすずかちゃんへと追及を続けるのだった。

「今更ぁ、あぁ……確かにすずかちゃんにとっては今更かもしれないさ。でもね、こっちにとっちゃあ死活問題なんだよ。分かるかな? 分かんないよねぇ、学校中……いや、関る人間の悉くに嬲られる私の気持ちなんてさぁ。出会い頭に罵倒され、何処か一ヶ所に留まれば物を投げつけられ、出て行こうとすれば足を掛けられる。想像できる? あれってさぁ、傍から見てれば滑稽に思えるのかもしれないけどやられた当人は堪んないんだよ。毎日がもう苦痛で苦痛で仕方なくて……夜も安らかに眠れない。分かる? そんな私の気持ちがさぁ!」

「そ、んな……私は、ただ……。なのはちゃん……なん、で……どうし、て……」

「あぁ、止めてほしい? でも、止めない。私って結構意地悪いからさ、止めろって言われると逆にエキサイトしちゃうタイプな訳よ。だから何て言うか……そそっちゃうよ、このシチュエーション。今まで散々我慢してきた憂さ晴らしっていうか、本音暴露大会っていうか。一昔前に学校の校舎の屋上とグラウンドに男女のカップル立たせて告白し合わせる番組とかあったでしょ? あれと大体似たような感じかな。言いたいこと洗い浚い吐き出しちゃおうってノリだよ。ってな訳で、ずばる処率直にすずかちゃんに聞いちゃうと、だ。いい加減はぐらかさずに答えて欲しいんだけど……一体何を一人で勝手に私に期待しちゃってるの? 欲しい物があるなら言えばいいじゃん、まどろっこしい。それとも何? すずかちゃんって実は他人の弱み握って悦に浸っちゃうタイプの人? ぶっちゃけ洒落になんない位趣味悪いからから止めた方がいいと思うけどなぁ、私は。っていう訳でほら、早く言いなよ。いい加減こっちも怖くて怖くて堪んないんだぁ、毎日。だから早くしてよ、じゃなきゃ─────私一生すずかちゃんの事恨むから」

「ひっ……!?」

これで止めとばかりに目を細め、ちょっとだけ不気味な雰囲気を醸し出しながら少しずつ彼女の方に迫ってみると、彼女は案の定怯えたような表情で目を潤ませながら猛禽類に睨まれた小動物の様に小さく肩を震わせていた。
我ながら悪趣味な演技だとは思うが、今後の事を長い目で見るならこれは必要不可欠な処置なのだ。
このままの生活を今までと同じように続けていた所で恐らくすずかちゃんは絶対に私の気持ちを分かってくれる事は無い。
どれだけ拒絶しても彼女は自分が受ける痛みを忘れて尚も私に触れようとしてくるのだ。
そんな関係を続けていれば何れにしても双方ずっとまともな精神を続けていられる保証は無いし、私の苛々にしろ彼女の忘却にしろ限界を迎えて瓦解すればそれこそ取り返しのつかない事態にも発展しかねない。
そうなる前に悪い芽は摘んでおく、要するに早期発見の癌を体内から取り出すのと一緒だ。
必要だからこそ取り除き、不要だからこそ拒絶する。
彼女との昔の記憶については私もそんなに悪い気がしないものではあったが、所詮それも過去の遺物だ。
彼女の知っている“高町なのは”は死んだ、此処にいるのはそんな少女の残した虚ろな亡霊に過ぎない……それを分からせる為にも彼女は私という存在に触れれば明確に自身に危害が及ぶという現実を刻み付けなければならないのだ。

そう、これは計算通りの事だった。
何処か物悲しく、また一つ何かを失ってしまったような空虚な気持ちが胸中に広がっていくのが抑えられないけれど……そんな事は覚悟の内だった。
嫌われるのには慣れっこだ。
所詮誰しも危険をその身を挺してまで私に触れようとはしてくれないと最初から分かっているから。
両親にしろ、兄妹にしろ、元友人にしろ、その他大勢の他人……其処には先生やフェイトちゃんも含まれるのだろうが、誰しも真に私に手を伸ばして包み込んではくれはしない。
ある者は私を遠ざけ、ある者は腫れ物のように扱い、またある者は私が望むように気持ちを休める止まり木となってくれた。
その結果が果たして良いのか悪いのかの是非は正直分からないが、少なくとも悪い事ばかりではない分ただ単純に嫌われている人間よりはマシなのだと思う。
例え触れようとする意思が無かったのだとしてもその内の数人はこんな私でも代わらず安らぎを与えてくれたのだから。
そして、それは私にとって誰に包まれるよりも、他の誰から優しくされるよりも嬉しい事に違いは無いのだ。
あまり自分で自分の事をこんな風に評価するのもおかしな話なのかもしれないが、私こと“高町なのは”はそんなような微妙にズレた人間関係を構築し、生活基盤としてきたからこそ今の私足りえているのだと思う。
何故ならそうでなければ、きっと私はこの場で人知れず涙を流してしまっていただろうから……。
私はチクリと疼く胸の痛みを使命感と義務感によって無理やり押さえ込みながら、沸き立つ感情を必死で抑制し、尚もすずかちゃんの方へと視線を送り続けるのだった。

しかし、此処で私は思わぬ誤算が生じてしまった事を刹那の内に悟った。
ジッ、と睨みつけるの一歩手前辺りの私が放つ物々しい視線の先で、この状況を根本から瓦解する事態が発生してしまったのだ。
どうしてそうなってしまったのか、という理由に関しては私も幾つか心当たりが無い訳ではなかった。
って言うか、ついさっきまでその原因作りに躍起になっていたのだ。
余程鈍くない限り誰でも気付く、それが本人であるなら尚更だ。
どうして毎度こう私の計略やら何やらは上手くいかないのだろうか、私は頭の中でそんな風に現状を評し、そしてまた多大に後悔の念を抱き始める。
確かに彼女に私という存在を刻み付けるのは必要な措置だったと思うし、その考えは今でも変わってはいない。
ただ私はそれよりもずっと前に考慮すべき事を頭の内に入れていなかったのだ。
彼女が……月村すずかという人間がこれまたどうしようもなく泣き虫で傷付き易く、一度傷を自覚してしまうと尚悪い方向に考えを持っていく人種であるという事を。
私は目じりに涙を浮かべ、ぽろぽろと瞳から涙を流して現状を憂うすずかちゃんの姿を見ながら思わず間抜けな驚きの声を発してしまったのだった。

「……へっ?」

「うぅ……ぐすっ、どう……して……。ど、うし……て……」

突然泣き出してしまったすずかちゃんの様子に私は半ば呆れと後悔の念を抱きながらしばしの間、彼女に迫る形を解けずにそのまま硬直してしまった。
何を泣いているのだこの子は、というのが第一の印象。
そして客観視して現状を評すのであれば、一見成功するかのように思えて実は最後の最後でどんでん返しを喰らう羽目になる最悪の選択を選んでしまったというのが本筋だ。
あぁ、分かっていた筈なのにどうして私はこうも要領が悪いのか……そんな後悔の念が不意に私の頭の中を過ぎっては即座に四散して消える。
昔も昔、小学校に上がった辺りからずっと厄介ごとを抱えてばかりの性分だとは自覚していたが、自分でもまさかこれほどの物とは思いも寄らなかった。
っていうか、よくよく考えてみればその栄えある厄介ごと第一号はそういえば彼女だったっけ。
不意に私は昔の事を思い出して苦笑しそうになり─────馬鹿馬鹿しいと思いながら顔を引き締めて「驚かせて悪かったよ……」とだけ口にし、すずかちゃんから身を引いた。

此処でまだ私が「泣けば赦されるとでも思ってるの?」と微塵も思わなかった事は正直幸いした。
これ以上さっきの調子で追及を続ければ恐らく彼女は完全に自分という存在を見失っていた事だろう。
月村すずかとは人から責められる事に極端に弱く、またそれについて考える程に自ら自身を傷付ける自傷衝動へと変換してしまう。
そして彼女はそんな己の性分から自身を守る為にあの常人からすれば奇異複雑としか形容出来ないようなサイクルを形成し、謝罪をするという形で実行してきたのだ。
それを私は分かったいた、にも拘らず自身の目的に為の……大事の前の小事だと軽んじて忘却してしまった。
それこそが私の失態、この現状においての最大の過失であり……また同時に取り返しの利かない現実の分岐でもある。
上手い形で突き飛ばしてやれば、それでもう何も……そう何も後悔する事など無かったというのに。
まったく、私という人間は本当に何処までも往生際が悪く、そして致命的なまでに要領が悪い。
それこそ、元友人とは言え……数少ない綺麗な記憶の内の1ピースを自ら穢してしまうという現実に自己嫌悪を覚えてしまうほどに。
私は俯き、声を殺して泣き続けるすずかちゃんの啜り泣きの声を聞きながら、次第に胸の内に侵食していく痛みにジッ、と耐え続けるのだった。

「あぁ、もう……面倒臭い」

あまりにも面倒で、それでいて不条理な現実に私は短くそう悪態をついた。
先ほどまでの滾りきったテンションはもう何処にも無い。
まるで血液の中に冷や水を流し込まれたかのように、何処までも……そう、何処までも冷え切るばかりだ。
もしかしたらとか、例えばこんな選択を辿っていたらとか、そんな『IF』の世界の話しはどうだっていい。
これがまた一つのデジャブる事柄なのだとしてそれがどうしたというのだ。
この世界は私にとっての現実であり、またこの糞っ垂れな世界を生きるすずかちゃんの現実でもあるのだ。
故に其処で起こる事柄は総じて不条理、嘆いても泣き腫らしても絶対に好転する事などありえはしないのだ。
だからこそ、私は今この瞬間自分の内に湧き出た一つのデジャブを即座に摘み取り、そして否定した。

前にもこんな事やったんじゃないか、前にもこんな風に彼女を泣かせたのではないか。
あるいは……私は何時だか彼女と交わした何か重大な事を忘れてしまっているのではないか、という馬鹿げた虚妄を。
あぁ、確かにデジャブるにはデジャブって仕方が無い。
それで苛々もすれば歯痒くもあるし、また同時にこの事柄について私は強く踏み込んでいかなきゃいけないんじゃないかとも思ってしまうほどだ。
だけど、それ以上に私は悲しかった。
一度拒絶しようと結論を下したにも拘らず、自分から彼女に縋ろうとしている自分が未だに“高町なのは”の中に巣食っているという現実がどうしようもなく悲しかったのだ。
情けなくて、情けなさ過ぎて……本当にもう私という存在が永劫嫌いになりそうな程に。
私は壊れたジュークのように「どうして……」と「ごめんなさい」を嗚咽交じらせながらも何度も何度も呟くすずかちゃんを一瞥し、溜息を吐きながら傍らに置いた缶コーヒーへと手を伸ばし、それを口元へと持っていく。
刹那、ブルッとバスが振動し、それまで騒がしかったバスがより一層度を増して騒がしくなる。
どうやらバスのエンジンが掛かったらしい、私がそう思った頃にはバスはゆっくりと学校へと向けて走り出していた。

移り変わる風景を見ながら私はふと考える。
どうしてこうもやること成すこと総じて全部上手くいかないのだろうか、と。
もう少し、私の思い通りに現実が進んでくれたって罰は当たらないのではないか、と。
世界へと向ける呪詛と疑問に塗れながら、私の抱いた想いは何処へと向かうでもなく、ただただこの不条理な現実へと堕ちて行く。
ある一定の憂いと、それ相応のデジャブをその内に孕んだまま……何処までも、何処までも。
其処まで考えた所で、私はもう一度缶コーヒーを傾け、中身を啜るように飲み干す。
先ほどまでは心地よいと思っていたはずの味とコクは、いつも間にか如何にも気持ちを害すだけの苦味へと変ってしまったいた。
そう、まるで私が彼女へと刻み付ける筈だった傷が……知らず知らずの内に私の胸に刻まれてしまっていたかのように。
如何にもこの現実という名の悪夢は長く続きそうだ。
私は不意にそんな事を思いながら、不意にこんな一念を忌々しいまでに清々しい空に向かって投げるのであった。
「神様の大馬鹿。くたばってしまえ」っていう恨みとも罵倒ともつかない、何処か哀愁の漂う力無い悪口を。
只管に……泣きそうな顔を浮かべながら、ただ……只管に。





そんな彼女の隣で泣き続ける少女、月村すずかは深い絶望と共に僅かにでも期待を抱いてしまった自分に強い憤りを感じていた。
自分が高町なのはという少女に強く嫌われ、拒絶されているのは彼女だって気が付かなかった訳では無かった。
寧ろその逆、最初から気が付いていたのだ。
自分が元々それ程人に好かれる様な人間ではないと言う事も、本来現在の“高町なのは”が置かれているポジションに収まるべき人間なのは紛れも無く自分であるという事も。
彼女は最初から全て知っていた。
しかし、そうであるが故に何も言いだす事は出来なかったのだ。
嬲られる痛みを知ってしまったから。
友達を想う気持ちよりも先に来る疎外感と恐怖がその気持ちに打ち勝ってしまったから。
なまじ痛みを知った人間はどうしようもなく臆病になる、それを……正に自身が体現しているのだと理解してしまったから。
月村すずかは啜り泣き、そしてまた何時ものように繰り返す。
永劫許される事は無いと分かっていながらも、ただ只管に。

「ごめん、な……さい。ごめ……ん、なさい……」

彼女は呪われた人形のように何度も何度も同じ言葉を繰り返す。
隣りで空を見上げる少女へと、その気持ちが届く事は無いと知っていながらも……ただただ同じ言葉を用いて謝罪を繰り返す。
そしてそれと同時にその言葉はまるで見えないナイフの切っ先で心臓を抉られる様な痛みを彼女の心へと刻みつけるのだ。
少しでも期待してしまった自分を責める為に。
もしかしたらもう彼女から永劫遠ざけられるという地獄の苦しみから解放されるのではないかと、一瞬でも考えてしまった己を恥じる故に。
彼女は謝罪と言う抜き身の刃を用いて自傷行為を繰り返し、そしてまた失われていた記憶を少しずつ思い出していく。
最初はぼやけるものの、それは次第に鮮明な物となり……幾度となくフラッシュバックを繰り返す。
思い起こされる記憶は彼女がまだ隣りの少女と同じ境遇にいた頃のもの。
何度でも、そう彼女が幾ら懇願しようと何度でも必要に繰り返される……彼女のトラウマだ。

もう忘れたいと何度も思ったし、実際彼女の中でその出来事は薄れつつあった。
このまま時が経てば何れ風化する。
そう信じてきたが故に彼女は忌まわしき記憶を自身の内に封じ、もう二度と起こりえないであろう悪夢であると結論を下してきたのだ。
しかし、それはあの日……そう月村すずかという少女が最も恐れていた事態が起きた”高町なのは”との決別の日を境に彼女の中で永劫叶わぬ物となってしまったのだ。
寝ても醒めても思い起こされる彼女のあの時の視線、侮蔑とも決別ともつかない悪意の籠った視線が彼女を捉えている瞬間……それを彼女は忘れる事が出来ずにいるのだ。
そう、それは彼女が背負った十字架……決して許される事の無い罪という名の枷だった。
彼女に会う度に思い起こされるあの時の”高町なのは“の視線は彼女を縛り付け、二度と抜け出す事の出来ない奈落へと突き落とすのだ。
初めて友達になった少女への裏切り、そして自身の過去を今の彼女へと重ねてしまう事で感じてしまうデジャブ……それが彼女は恐ろしくて堪らないのだ。
自身が望んだ物は絶対に手に入らない、そんなジンクスを象徴している様な気がしてならないから。

「ごめんなさい……。ごめんなさい……」

彼女とて、謝れば許される訳ではないのは分かっている。
月村すずかという少女が高町なのはに齎した災厄はその程度の言葉で片付けられるほど生易しい事ではないと彼女も知っているから。
だけど不意に……そう彼女に少しでも優しくされると不意に月村すずかはこう考えてしまうのだ。
もしかしたら私は許されるのだろうか、と。
勿論、彼女もそれが自信の内で生まれた都合の良い妄想であるという事は分かっている。
だけどその妄想と現実の区別が付かなくなる程に、現在の高町なのはが不意に見せる刹那の優しさは甘く、また魅惑的な物なのだ。
しかし、それも既に……いや、この日を境にもう彼女には意味の無い物となってしまった。
何処までも、そう……何処までも実直で悪意の籠った彼女の本音を彼女の口から聞いてしまったのだから。

許さない、恨んでやる、憎い、お前の所為だ、もう二度と私に関わるな。
そんな彼女の言葉が何度もリフレインし、彼女をまた一つ深い絶望の淵へと誘っていく。
思えばもう何もかもおかしなことになってしまった。
あの日、彼女を目撃してしまった日を境に……彼女の視線が過去の物と完全に一致して月村すずかにあの日の出来事を思い出させたのを期に。
月村すずかの現実も、高町なのはの現実も……同じように狂い、また取り返しが付かない程の溝を生んでしまったのだ。
其処まで考え、彼女はスカートを強く握りしめながら強く願う。
彼女が言う見返りや報酬なんて物はいらない。
もう私が嫌われようが、彼女にどう思われていようがそれも総じてどうだっていい。
ただ……嫌われているのならせめて─────そう、せめて私を醜い化け物に変えて欲しい。
彼女からだけではなく、彼女を含んだ誰からも同じように恨まれ……排除せよと望まれるように。
そして、最期には彼女の手で……何処までも自分勝手で、何処までも醜い自分が愛した最初の友達に己が殺されてしまうように。
彼女は強く……何処までも強く、狂った願いを想い続ける。

「ごめん、なさい」

其処まで紡ぎ終えた刹那、彼女のスカートのポケットの内で何かが一瞬光を放った。
そう、それはほんの刹那……それこそこの世界の誰であろうと気が付く事など出来ぬであろう本当の意味での一瞬の出来事だった。
しかし、それは確かに現実の光景として今この世界の内に確かに存在していた。
唯それを誰も……その願いを発した彼女すらも気が付いていないと言うだけの話で、誰もが最低だと嘆くこの世界の時間の針はまた一つ前へと進むのだ。
彼女のスカートのポケットの内に存在するその宝石が偶々彼女の家の庭に落ちていて、それを子猫が飲み込みそうになっていたのを彼女が取りあげポケットに入れたままにしてあったという……何とも陳腐な偶然が交差した結果の果てに。
こうして、少女達の不幸な日々は一つの危険を孕んで幕を開ける。
その先に待ち受ける悲惨な現実を誰も知る事無く、また同じくしてそれを回避する方法など存在せぬがままに……。
二人の少女の悪夢は、本人の意思に関係なく……この世界に蔓延するのだった。








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