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No.15606の一覧
[0] 孤独少女ネガティブなのは(原作改変・微鬱)[ランブル](2010/04/02 18:12)
[1] プロローグ「きっかけは些細な事なの……」[ランブル](2010/03/15 14:33)
[2] 第一話「友達なんて必要ないの……」[ランブル](2010/03/15 14:36)
[3] 第二話「都合の良い出来事なんて起こりはしないの……」[ランブル](2010/03/15 14:43)
[4] 第三話「泣きたくても耐えるしかないの……」(いじめ描写注意)[ランブル](2010/01/23 17:32)
[5] 第四話「一人ぼっちの夜なの……」[ランブル](2010/03/15 14:52)
[6] 空っぽおもちゃ箱①「とある少女達の語らい」#アリサ視点[ランブル](2010/03/15 15:00)
[7] 第五話「出会い、そして温かい言葉なの……」[ランブル](2010/03/20 16:45)
[8] 第六話「変わる日常、悲痛な声なの……」(グロ注意)[ランブル](2010/03/15 15:22)
[9] 空っぽおもちゃ箱②「誰かを救うということ」#トーレ視点[ランブル](2010/03/15 15:28)
[10] 第七話「これが全ての始まりなの……」[ランブル](2010/03/15 15:51)
[11] 第八話「現実と向き合うのは難しいの……」[ランブル](2010/03/15 16:00)
[12] 第九話「所詮理想と現実は別のお話なの……」[ランブル](2010/03/20 16:47)
[13] 空っぽおもちゃ箱③「欲しても手に入らないもの」#すずか視点[ランブル](2010/03/15 16:18)
[14] 第十話「護るべき物は一つなの……」[ランブル](2010/03/15 16:21)
[15] 第十一話「目的の為なら狡猾になるべきなの……」[ランブル](2010/03/15 16:25)
[16] 第十二話「何を為すにも命懸けなの……」[ランブル](2010/03/15 16:30)
[17] 第十三話「果たしてこれが偶然と言えるの……」[ランブル](2010/03/15 16:38)
[18] 空っぽおもちゃ箱④「打ち捨てられた人形」#フェイト視点(グロ注意)[ランブル](2010/08/24 17:50)
[19] 第十四話「終わらせる為に、始めるの……」[ランブル](2010/03/15 16:39)
[20] 第十五話「それは戦いの予兆なの……」[ランブル](2010/03/20 16:44)
[21] 第十六話「月明かりに照らされた死闘なの……」(グロ注意)[ランブル](2010/08/24 17:49)
[22] 第十七話「不安に揺らぐ心なの……」[ランブル](2010/04/02 18:10)
[23] 空っぽおもちゃ箱⑤「枯れ果てた男」#クロノ視点[ランブル](2010/04/19 22:28)
[24] 第十八話「それは迷える心なの……」[ランブル](2010/05/05 17:37)
[25] 第十九話「鏡写しの二人なの……」[ランブル](2010/05/16 16:01)
[26] 第二十話「芽生え始める想いなの……」[ランブル](2010/06/10 07:38)
[27] 第二十一話「憂鬱の再開、そして悪夢の再来なの……」[ランブル](2010/06/10 07:39)
[28] 空っぽおもちゃ箱⑥「分裂する心、向き合えぬ気持ち」#恭也視点[ランブル](2010/08/24 17:49)
[29] 第二十二話「脅える心は震え続けるの……」(微鬱注意)[ランブル](2010/07/21 17:14)
[30] 第二十三話「重ならない心のシルエットなの……」[ランブル](2010/07/21 17:15)
[31] 第二十四話「秘めたる想いは一筋の光なの……」(グロ注意)[ランブル](2010/08/10 15:20)
[32] 第二十五話「駆け抜ける嵐なの……」(グロ注意)[ランブル](2010/08/24 17:49)
[33] 第二十六話「嵐の中で輝くの……」(グロ注意)[ランブル](2010/09/27 22:40)
[34] 空っぽおもちゃ箱⑦「欠けた想いを胸に抱いたまま……」#すずか視点[ランブル](2010/09/27 22:40)
[35] 空っぽおもちゃ箱⑧「最後から二番目の追憶」#すずか視点[ランブル](2010/10/10 22:20)
[36] 空っぽおもちゃ箱⑨「Super Special Smiling Shy Girl」#セイン視点[ランブル](2010/10/10 22:20)
[37] 第二十七話「その心、回帰する時なの……」[ランブル](2010/10/25 19:25)
[38] 第二十八話「捨て猫、二人なの……」[ランブル](2011/02/08 17:40)
[39] 空っぽおもちゃ箱⑩「遠い面影、歪な交わり」#クロノ視点[ランブル](2011/02/13 11:55)
[40] 第二十九話「雨音の聞える日に、なの……」[ランブル](2011/04/18 17:15)
[41] 第三十話「待ち人、来たりなの……」[ランブル](2011/04/18 20:52)
[42] 空っぽおもちゃ箱⑪ 「殺されたもう一人のアタシ」#アリサ視点[ランブル](2011/06/05 21:49)
[43] 第三十一話「わたし達の時間、なの……」[ランブル](2011/07/03 18:30)
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[15606] 第十一話「目的の為なら狡猾になるべきなの……」
Name: ランブル◆b9dfffe8 ID:ba948a25 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/03/15 16:25
ずるく生きる、これは社会の中で生きる上で非常に賢い選択だと思う。
何故なら社会というのは人の集団によって形成される大規模なコミュニティであり、其処には大小は様々だが序列という物が存在するからだ。
お金を持っているか持っていないか、社会的地位が上か下か、頭が良いか悪いか、取り巻く環境が上等が下等か、性格が人に受け入れられるか否か……エトセトラエトセトラ。
要因は様々だが人は何時だって如何なる物でも他人と比べられ、其処に優劣を見出そうとする。
それによって生じる格差はやがて人の意識へと結びつき、上の人間は引き摺り下ろし、下の人間はより下へと蹴り落とそうという考えが生まれるのだ。
凡そ人というのは集団の中で平均を導き出す物であり、其処から漏れ出した人間は必然的に蔑まれる。
人々の言う“普通”でないという事はその人間達からすれば忌むべき事であり、それを体現している人間もやはり忌むべき対象に他ならないのだ。
ではどうやってそういった忌むべき人間が生き残れるのか、それはずるく狡猾に生きることだ……少なくとも私こと高町なのははそう考えている。
虎の威を借る狐という訳ではないが、凡そ立場の弱い人間が立場の強い人間を相手にした時生き残る方法は媚びる事以外に道は無い。
権力のある人間にはゴマを擦り、力の強い人間には同調し、金のある人間にはとことん媚びる……そうすればお零れの甘い蜜をその人間が朽ちるまで永劫吸い続けていられるからだ。
私は此れを悪いことだとは思っていない、何せ古今東西弱い人間が強い人間の下に組するなんていうのは当たり前の事であり、それが道理であると言っても過言ではないからだ。
例えるならば国民的アニメ番組『ドラえもん』に登場するスネオが良い例だろう、ジャイアンという強い存在に組して身を護り、余すことなく自分を相手に引き込ませる要素を提示し続けその関係を常に崩さない。
此処まで狡猾でずるく、そして賢いキャラクターも中々いない……作者にそういう意図があったのかどうなのかは知らないけれど少なくとも私はスネオというキャラクターがそういう風に見えて仕方が無かった。
しかし、自分が所謂“のび太”のポジションになってみてようやく分った、本来人があるべき姿なのはジャイアンでものび太でもなくスネオなのだと。
賢く生きる、その為には頭を最大限に使い、そしてどんな手だって平気で使える非常さと狡猾さが不可欠なのだと。
私はそんな普通の人ならどうだって良い様な事から物事を学び、そしてそれを今後の為に活かそうと考える訳だ。
我ながら卑屈な考えだというのは分っているけれど、少なくとも“のび太”から脱する為にはそうするほか無い。
目的の為なら何だってやってみせる、そういう状況に私は立たされているのだから。

(はぁ……憂鬱だ。もう少しよく考えてから来ればよかったよ……)

『大丈夫だよ、なのはお姉ちゃんなら。きっと上手くやれるって!』

(そうかなぁ? 私ってどうもこういう真面目なの苦手で……。ゲームとかそういうのでだったら何ともないんだけど、いざ自分がこういう風なことをすると思うと……。あぁ、何だか胃が痛くなってきた……)

『もしもの時は私が何とかするし、それにこんな場所で下手に相手も仕掛けてこないと思うから心配要らないよ。なのはお姉ちゃんは何時ものなのはお姉ちゃんを演じていればいいんだよ。私も極力サポートするから……ね?』

それでも不安だよぉ、と言いながら机に項垂れる私。
頭の中ではアリシアがそんな私を一生懸命励ましてくれてはいるものの、正直な所寝耳に水だったというのが本音だった。
学校でトーレさんと交渉の場所を取り決めた私は、怪我を理由に昼で学校を早退し、現在唯一人単身でトーレさんが提示したデパートの近くにある喫茶店へと足を踏み入れていた。
幸いにも今日は私の怪我を見てか周りの人間も警戒して手を出しては来なかったし、アリシアにもある程度学校の授業とはこんな物だというのを教えられたのだが……正直先生の言う通り私の存在は何時周りから攻撃されてもおかしくなく、尚且つその度合いによっては更に怪我を酷くしてしまう恐れがあった為に早退する事にしたのだ。
そして勿論嫌な事はなるべく速めに済ませてしまおうという腹心算もあって、学校が終わってからでいいというトーレさんの提案を蹴って、業と交渉時間を早めたのだが……此れが結果的に裏目に出てしまったいるという事を私は否めなかった。
もう少しよく状態を吟味してから行動するべきだった、今となっては後悔しても遅いと言う他無いのだが第三者の視点から見ても私の行動は軽率であるとしか言いようがなかった。
何せ私の交渉としての手札は依然としてジュエルシード一個とアリシアの存在のみ、加えて私はちょっとゲームの知識が豊富なだけの非力な小学三年生に過ぎない訳だ。
これでどうやってトーレさんに協力を申し込めばいいものか、こんな風に悩んでいる時点で失敗する方ならまだしも成功する保障は何処にもない。
此れは完全に負け戦……もとい負ける事が前提の交渉だと言う他無かった。

(元々私こういうの柄じゃないんだよ……。病院の時は何とかノリでやって上手くいったから良いけどさぁ、規模が違うんだよ規模が……)

『でもお姉ちゃんの演技力は本物だと思うよ? とっさのアドリブであんな風に出来る人なんて中々いないって。女優さんみたいだったよ、あの時のなのはお姉ちゃん』

(あぁ、そりゃあどうも……。喜んでいいのか悲しんでいいのか判断に困るよ、それ)

『そ、そう? 褒めたつもりだったんだけど……』

そう言ってシュン、と気分を沈ませたように声色を濁らせるアリシア。
きっと彼女としては本心から私を想って言ってくれたお世辞だったのだろうが、自分を偽るのが上手いと言われて素直に喜ぶのはちょっとどうかと思ってしまう。
何せアリシアの言った事は嘘が上手いという事と同義なのだ、私が詐欺師か舞台俳優なら手放しで喜んでいたのかもしれないが……正直私はそういった歪んだ才能を誇れるような太い肝は持ち合わせていなかった。
第一私の場合人前で何かするとか、何かを演じるとかそういった事は性に合わないのだ。
目立つ事というのがイコールで碌な事にならないという風に結び付く人間としては、出来うる事なら厄介な事を引き起こす前に早々に捨ててしまいたい才能だと私は思った。
しかし、こういう現状において相手をある程度騙して話さねばいけない場面ではもしかしたら役に立つかもしれない……私はアリシアから褒められた自身でも気付かなかった才能をそう評し、そしてまたため息をついた。
基本的に嘘をつく事に私は抵抗という物が無い、それが必要とあらばどんな嘘だって平気で口にするし、汚いと分っていても目的の為ならどんなに卑怯な手を使う事だって厭わないと自分では思っている。
だけど実際の所因果応報という奴で、そういう卑怯な事は何時か自分に返って来る物だ。
それで何かと痛い目に遭っている私としてはなるべく下手な嘘をついて事を荒立てるのは避けたいし、どうせだったら騙し通して相手を引き込む位の事はしなければならないという危機感もある。
これからトーレさんとの交渉においても私はきっと幾つか嘘を吐く、今はそれをどれだけ真実味を持たせて私の動機を肉付けしていくか……此れが第一なのだ。
私は自身の事を小心者で臆病な人間だと自負しているが、それでもやらなければいけない時がある。
失敗は絶対にしてはいけない、その事実が余計に私の胃に負担を掛けてくるのだった。

(あぁ、何かもう今から回れ右して帰りたい気分だよ……。帰っちゃ駄目かなぁ?)

『そんな弱気でどうするの、なのはお姉ちゃん……? 大丈夫、なのはお姉ちゃんはやれば出来る子だから。ファイト、だよ!』

(そんなお母さんからも言われた事ないような言葉をアリシアに掛けられてもねぇ……。はぁ、やっぱりこんなとんでもファンタジーな厄介事に首突っ込まなきゃよかったよ。もう後悔しても遅いけどさぁ)

『もう! なのはお姉ちゃんにも護りたい人がいるから此処まで来たんでしょ! 泣きごと言ってないで―――――っと、来たよ。今お店の中に入ってきた。なのはお姉ちゃん、準備して』

はぅ、と情けない声を出して一気に机に伏せていた身体を起き上がらせる私。
いよいよ来た、その事実が私の背筋をあり得ない位ピシッ、と伸ばさせ嫌な汗が全身に伝っていく感覚を齎していく。
全身の毛穴が開いたような感覚が私の平常心を奪い去り、平常時の数倍早いリズムで跳ね上がる心臓はその鼓動が刻まれる度に冷静さを私から奪い取っていく。
まあ詰まる所私は盛大にテンパっていた、それも自分自身でもどうやって対処していいのか分らない程に。
元々私は緊張という物に極度に弱い人間だ、それこそ面接とか知らない人との一対一の話し合いとかそういう事の前には決まって御腹の調子が悪くなったような気分になってしまう位に。
勿論見知った人間ならば彼是と自身の中での評価に照らし合わせて大口を叩いたり、時には拒絶の言葉を吐き出したりすることも出来るが……こういう商談とか交渉とか自身の今後の事を左右する話し合いなんて言うのは苦手である上に経験なんて一度も無かったのだ。
何せ私はまだ小学三年生の子供、幾ら自分が物事を主張した所で普通なら親がその最終的な決定権を持っている年頃だ。
だから私もそんな例に漏れず、今の自分に行き着くまでは殆どの事をあの両親に委託していた……つまりは丸投げだったという事だ。
今であったならば絶対にそんな事は任せないのだが、正直世間知らずで人を疑うという事を知らなかった嘗ての私は世間一般の普通の子供と同じように難しい事を大人に委ね、自身は与えられた環境の中でのほほんと御気楽な生活を続けていた訳だ。
そんな自分がいよいよ自身の未来を左右するかもしれない交渉の場に自らの意思で立っている、それがどれだけ大変な事かを改めて自分で思い返してみるとまた胃が痛む想いだった。
しかし時間は待ってくれはしない、私がどうするかどうしようかと頭の中でグルグル思考を廻らせている内に彼女が来てしまったのだ。
カツッカツッ、と小気味良い足音を響かせながら私の目の前に現れた長身で凛とした顔立ちの外人の女性……トーレさんはそんな私の内心も他所に何処と無く申し訳なさそうな顔を浮かべながら私の真正面に位置する席に腰を降ろし私に話しかけてきた。
来るべきものが来たか、私は内心まだ全然覚悟が決まっていないという心を何とか隠しながら、あの病院の時と同じように咄嗟に表情を変えてそれに応じる事にしたのだった。

「すまない、遅れてしまったかな?」

「あっ、いえ……。私も今来た所なので、あまり御気になさらないでください。それに態々お忙しい中呼びつけてしまったのは私ですし……」

「いやなに、君が気にする事じゃない。此方こそあんな風な不躾な対応で済ませてしまって悪かったな。もう少し融通を利かせてやれれば良かったんだが……こういうのは如何にも勝手が分らなくてね」

「あ、あはは……。私もこういうのはよく分らないので……」

何とか苦笑紛れに謝罪から切り出してくるトーレさんに無難な対応をした私は、とりあえず彼女の事を観察してから物事を決めようと考えた。
相変わらずのモデル体型、それに日本人離れしたナイフの刃のように研ぎ澄まされた容姿は触ったら切れてしまうのではないかというような鋭利な印象を抱かせるものだった。
そして身に纏う服装は女性物のジーンズに英語のプリントが付いた白のパーカー、そしてその上からは薄手の黒いジャケットを羽織っていた。
その格好は何処からどう見ても普通の……ゲームで知った言い方に直せば所謂”カタギ“にしか見えない格好だった。
何だか極道映画みたいな例えだけど、トーレさんの格好は本当に何処にでもいる成人女性のソレだったし、凡そファンタジーな要素は何処にも見受けられない。
一見しただけでは魔法やらジュエルシードやらとは無縁そうな、精々カッコいいお姉さんというような印象で事が片付いてしまうようなそんな人のように私には見えた。
しかしアリシアは今になっても頭の中で「見た目だけは普通だ……」というような聞き様によっては物騒だとしか思えない言葉を吐き続けている。
真実を知っている人間が居るというのが此れほど心強い事はない、私は内心でつくづくそう思いながら改めて自分の目の前にいる人物を見極める為に気を引き締めた。
病院の時はあまり長らくは会話をしていない、しかしトーレ・スカリエッティという人間が嘘が下手で人情を重く見ている人物だという事は粗方分析が済んでいる。
其処をどう突いて話の展開を私の方へと持っていくか、私は苦笑気味な笑顔を顔に張り付けたまま、そんなことを思い続けながら話の出方を窺った。
今はまで此方から話しかけるべきではない、まずは相手から私にどういう風なアプローチを掛けられるのかというのを知っておきたかったからだ。
するとトーレさんは店員さんを呼んで注文を何かを注文し始めた、恐らくは会話を円滑にする為にオプションが欲しいといった腹心算なのだろう。
私は行き成り本題を切り出されなくてよかったと心の内でビクビクしながらその光景を見守り続けるのだった。

「私は……キャラメル・ラテを一つ。君も何か頼むか? 良かったら私が奢るが?」

「あの、別に私は……」

「代金なら気にやむ事は無い。寧ろ払わせてくれ、その……まあ色々とお互い積もる話もあるだろうからな。飲み物があった方が君も都合が良いだろう?」

「……ブルーマウンテン。ホットの奴を一つ貰えますか」

畏まりました、と言って私とトーレさんの注文を聞いて去っていくウェイトレスのお姉さん。
人に借りは作らない、何時だって私はそれを心情にしている筈なのだが……如何にもこういう大人の女性に押されると断れないというのが私の駄目な所だなと私は改めて思った。
アリシアも「物で釣るのかな?」と疑心全開といった感じで行き成りトーレさんに対して不穏な空気を振りまいているが、所詮は頭の中での事なので私は今回だけはアリシアの言葉は気にしない事に決めた。
恐らくトーレさんが飲み物を注文したのは本当に話し合いを円滑に進める為なのだという事が何となく分っていたからだ。
要は時折ドラマやアニメなんかである刑務所で取調べを受けている人に出されるカツ丼の原理だ。
本来はああいう事をしてはいけないらしいから何が元でああいう風潮が広まったのかは定かではないが、話し合いの中にホッ、と心が安らぐようなワンクッションを挟む事によって話しづらかった物が話し易くなるというのは確かに理に適っている。
幾ら頑なな精神の持ち主でも何処かで揺らぐような物があれば揺らいでしまう物だし、今回のような飲み物といった精神的に相手をリラックスさせるような物は例え無意識の内であっても多くの物を口よりも語ってしまう物だ。
やれ飲み物の水面が揺れていると動揺しているとか、口を付けるテンポが速くなると嘘をついているとかそういう事だ。
私もあくまでもテレビやゲームで得た知識だからあまり深いことは言えないのだが、きっとトーレさんにはそういう意図があったのだろうと私は結論付けた。
此れはやはりあまり下手なことは出来そうにない、私はそんな風に思いながらコーヒーとキャラメル・ラテが運ばれてくるのを静かに待ち、やがて店員さんがそれを運んできたのを見計らってから改めてトーレさんからの言葉を待つ事にしたのだった。

「しかし……まさか君から連絡が来るとは思っても見なかった。きっと気味悪がるだろうと思っていたからな、正直少し意外だ」

「……確かに色々とまだ怖い気持ちもありますけど、今はちょっとだけ知っておきたい気持ちが強くなってしまって……。迷惑、でしたか?」

「いや、いいさ。君には辛い物を見せてしまったというのもあるし、第一忘れろと言ってもそう簡単に忘れられる物ではなかったからな……アレは。それに、私からも幾つか君から聞かねばならない事もある。寧ろ好都合だったよ」

「そう、ですか。そう言ってくれると助かります。私も……何も知らないままというのは嫌ですし。それに出来たらその……この前言っていた”魔法“……でしたっけ? それについてもちょっとだけ興味が湧きましたので」

あくまでも表面上では少し戸惑っているような、しかしそれでいて街灯に群がる蛾のような不可思議な物に対する純粋な興味に引かれつつある女の子を演じながら私はトーレさんにそう切り返す。
本当は粗方の事は知っているし、後は細かい部分さえ知る事が出来ればそれでいいのだが……此処はトーレさんの自主性に任せようというのが私の見解だった。
何せトーレさんからしてみれば私はこの世の物とは思えない生き物に襲われた被害者で、その原因が“魔法”なるものによって齎された“かもしれない”という事実を目の当たりにした力ない女の子でしかないのだ。
実際アリシアの話を信じるならばジュエルシードの力を含まずとも私は普通の人よりも多くの”魔力“なる物を持っている事になるし、ジュエルシードの力にしても一度はあの化け物を退ける程の力を有した物なのだから本性は完全に別の物と言っていいのだが、あくまでもそう見られている内はこの立場を存分に利用しようと私は思った。
なまじ変な知識を持っている人間よりかはトーレさんとしても未知の恐怖に怯えている女の子の方が口が軽くなるだろうし、彼女の場合責任感が人一倍強いというのは此方も分析済みだからこういう怯える少女のキャラクターを演じてしまっていた方が此方としても何かと聞き出し易いのだ。
何分此方としても持ちえる手札は少ない、それをどう切ってトーレさんを引き込むかは私の加減次第なのだ。
ある程度はこのキャラクターを演じて同情を引き、それと同時に情報を引き出すしかない……私の基本方針はこの時点である程度決まったとも言えた。

「……君は、信じるのか? 普通の人間ならあんなものは与太話にしか思えない筈だが?」

「それ、矛盾してます。言葉だけだったら確かに胡散臭い感じがしますけど……私は実物を見てます。手品だって言ってしまえばそれまでなのかもしれないですけど……とてもそうは見えなかったので」

「なるほど、賢明だな。では君は”魔法“というものが存在するとしてどうする? 行き成りそのような埒外な物が君の日常に飛び込んできた、信じるか信じないかは別として……関り合いたくないとは思わなかったのか? 現に君は一度危険な目に遭っている、関れば再び傷つくかもしれないというのは考えなかったのか?」

「どう、でしょうね……。単純な興味だけじゃない、って言ってしまうと嘘になるかもしれません。だけど分らない事が一杯あって……不安で……。とりあえず自分を納得させたい、そう思ったんです」

そう言って私は俯きながら己の言った言葉の内容をもう一度自分で振り返る。
とりあえず掴みとしては上々、言い訳にしても十分相手を信用させられる出来栄えだった。
あくまでも基本スタンスとしては未知なる物ではあったとしても高町なのはと言う人間は”魔法“という存在を信じていて、尚且つその情報の端っこを掴んでいる状態だという事を相手にアピールしつつ、更に追及していくという形を取っていきたいと私は考えている。
その為には微妙に肯定の言葉を含みながら尚且つその中に自分はそれを信じて行動できるだけの要素があるというのを思わせる必要があったのだ。
例えば分らない事が一杯ある、という事は少なからず此方は何かしらの情報を持っているということの裏返しになる。
それがジュエルシードの事であるのかアリシアの事であるのかという細かい部分はその場その場で臨機応変に行くしかないが、此れだけでも相手は引っかかる物を覚える筈だ。
そして私の目論見通りトーレさんは意味ありげな顔つきで「そうか……」と相槌を打ち、何かを思考し始めている。
正直心臓がドクンドクンと忙しなく動いている私としては余計に不安を掻き立てる要素でしかなかったのだが、それでも何かを思わせるだけの説得力は持たせることが出来たと私は確信していた。
今はまだ攻めに転じるには早いが手応えはある、これからの話し次第だと私は考えながら一度コーヒーの入ったカップを手に取り、それを口に付けて傾けながら彼女の反応を待った。

「自分を納得させたい、か。それはつまり……“未知なる物を肯定する”という事にもなる。しかし、君は本当にそれでいいのか? もしかしたら聞いたら後悔するかも知れない。無関係でなくなってしまうかも知れないし、またあのような被害を負うかもしれない。それでも、君は聞きたいと思うか?」

「……まだ、よく分りません。だけど、むず痒いままは嫌なんです。もう少しで手が掛かるのに伸ばせない、そうやって諦めて後悔するのが……嫌なんです。それにあの緑色の石……あれもその”魔法“が関っているのだとしたら、私は知りたい。あれが何なのか、あれがどういう物なのか……でないと、その……怖いんです」

「まあ、あのような物を見せられてしまっては君としても気が気でないのは当たり前か。確かにどの道あれについては話しておかねばならないし……もしかしたら危険かもしれないからな。しかし……それ以外の事についてはどうする? その事を話す過程で私は余計な事を口走ってしまうかもしれない。それは決してお互いに有益な物であるとは限らないし、下手をすれば君を巻き込む事だってあるかもしれない。最後にもう一度だけ確認しよう、君は……本当に心の底からこの件に関して私から何かを聞きたいと思っているのか? 出来る事ならはぐらかさず……しっかり答えてくれると嬉しい」

「……分りました。こんな事、私のような子供が首を突っ込むべきでないのは……私自身も自覚してます。だけど、あの石の件については……私もお話ししたい事があります。もしもそれで何か分るなら、私はそれを知りたい。だから……お願いします、私に今起きている本当のことを教えてください」

グッ、っと制服のスカートを掴んで心底悩みに悩みましたよという雰囲気を演じる私。
微妙に目元を緩ませ、辛そうな表情を醸し出し、それでいて見た目通りの女の子ならこんな風にするんじゃないかという純粋無垢なキャラクターを私は身体全体でアピールする訳だ。
元々何かある毎に泣いてばかりいた私にとって涙を浮かべるのは十八番のような物だし、ちょっと意識して昔の事を思い出せば自然に涙が浮かび上がってくる。
加えて周りの女の子という物を逐一観察しながら学校生活を送っていた私からしてみれば、それ等の動作をトレースして自ら行うという事にも殆ど抵抗を感じる事は無い。
そして後はその辺の事を総合して表に出す演技力だが……此れについては殆ど賭けだった。
アリシアは「は、迫真の演技だね。なのはお姉ちゃん……」などと言ってくれてはいるが、それも所詮は遣っ付け気味の子供が咄嗟に思いついたものだ。
事実私はアリシアに言われるまで自分以外の人間を演じるなんていう事を意識した事もなかったし、そもそも使う前に殴られ蹴られ罵倒されがデフォルトだったから自覚も何もあった物ではなかったのだ。
ぶっつけ本番に使うにはムラが多すぎるかもしれない、しかし今は此れでやり通すしかない。
私は視線を俯き気味に懇願するような雰囲気を醸し出しつつ、今度は頭を下げる動作もそれに付け加える。
より切実さを前面に出し、より必死さを訴えかけるように……まあ心の中では欠片もそんな事は思っていない訳だけど。
それから頭を下げ続けること数秒弱、私はトーレさんの「頭を上げてくれ」というやや困惑した感じの言葉が投げ掛けられるのと同時に顔を上げた。
目元には薄っすらと涙が溜まり、良い具合に同情を引ける顔立ちになっている私が見たものは……ばつが悪そうに頭を掻くトーレさんの姿だった。
どうやら根気負けしたらしい、私はトーレさんに気付かれないように口元を吊り上げてその事実を笑い、直ぐに元に戻してから意外だといわんばかりの顔に自分の表情を作り直して改めてトーレさんに向き直った。

「あ~……すまない、君が其処まで思いつめているとは私も思わなかった。厳しい事を言って済まなかったな」

「い、え……私は……そ、んな……」

「大丈夫、君が其処まで考えているなら……私も話すべきことを話そう。だが、それは君が落ち着いてからだ。その状態で話を聞くのは辛いだろう?」

「はい……っ。ありがとう……ございます……」

如何にも嗚咽で言葉が途切れ途切れだと言わんばかりの口調でトーレさんに返事をする私。
普通に話をしようと思えば二秒と掛からずケロッ、と態度を変えることは可能なのだが此処は演技に信憑性を持たせる為に私はしばらくの間泣真似を続けて如何にも緊張が一気に解けて安心して泣き出してしまったというキャラクターを演じ続けた。
正直泣真似にしても嗚咽にしても「出来るかな~?」程度の気軽な思いで咄嗟にやってしまった物なのだが、まさか此れが其処まで役に立ってくれるとは思わなかった。
アリシアにしても今度ばかりは「な、なのはお姉ちゃん……。流石にちょっと引くよ、それは」と微妙に軽蔑した感じの言葉を私に投げかけてくるほどだ。
此れは今後も仕える時が来るかもしれない、私はしばらくの間泣真似を切りのいい所で終えるまでずっとそんな事を考え続けていた。
そしてコーヒーを如何にも震える手と言わんばかりの手つきで口にしたり、苦笑を浮かべるトーレさんに見守られながら二、三度深呼吸する振りをしたりして数分間粘った私は、今度こそ大丈夫ですよと言う状態が作れる凡そのタイミングを計算して真剣な面持ちに表情を変えてトーレさんに向き直る。
さあいよいよ本番だ、そんな気持ちを心の内に抱きながら。

「落ち着いたか?」

「はい、迷惑を掛けて済みませんでした……」

「気にする事は無い。私の方こそ厳しい言い方をしてしまった。詫びるのなら寧ろ私の方だよ……。さて、だ。色々と話していっても構わないかな? “魔法”の事、緑色の石……“ジュエルシード”と言うんだがそれの事……そして私の事と君の置かれている現状について。少し話が長くなるかもしれないが、勘弁してくれ。それに、止めて欲しければ何時でも言ってくれ。私も無理強いはしたくない」

「一応、覚悟は出来ました。話してくださるなら最後まで聞こうと思っています。それが多分一番大事なことだと思うから……」

再び声のボリュームを下げつつトーレさんに返事をする私。
今度は声を小さくだがはっきりとさせて、気が弱い感じは相変わらずだがそれでもトーレさんから目を背けるような事はしなかった。
ある程度自分の演じているキャラクターの心情のステップアップを図るのが目的で行った行為だったのだが、トーレさんは完全に“高町なのは”というキャラクターを一人の人物だとして信じ込んでいる為なのか「では、始めるか……」と言ってそれに続く様々な言葉を紡ぎ始めた。
此れは完全に相手を騙し通せた、そう確信した私は心の中でガッツポーズを決め込み自分の才能はもしかしたら本物なのかもしれないと言う嬉々とした気持ちに浸りながらも、トーレさんの言葉を余すことなく聞き取っていった。
曰く、魔法と言うのは私が思っているような物ではなく精密機械がコンピューターのソフトを起動させるような奇怪で複雑な数学的計算式から成り立つ生命エネルギーを別の力に変えるものであるということ。
曰く、ジュエルシードとは人の願いを叶えるというとんでもない力を持った“ロストロギア”と呼ばれる今は既に失われた文明の遺物であり、本来ならばしかるべき所に送られる筈であったのだが原因不明の事故により地球に散らばってしまい、周りの物を取り込んであの化け物のような“暴走体”と呼ばれる化け物を作り出して暴れている可能性が窮めて高い状態にあるということ。
曰く、トーレさんはそんなジュエルシードを秘密裏に回収する一種のエージェントのような物であり、なるべく複数個のジュエルシードを回収するように上の人間に命じられて魔法の国”ミッドチルダ“からこの地球……彼女らで言う所の第97管理外世界に足を踏み入れ、現在も地域住民に溶け込みながら隠密活動を続けている最中だということ。
そして曰く……私はその回収対象であるジュエルシードを保有しているが“とある事情”により回収する事が出来ず、もしかしたら今後も私が所持し続けなければいけないかもしれないということ。
そして当然それには相応の危険とリスクが伴い、民間人である私を巻き込むのは心苦しいということ。
その他トーレさんの所属している組織は原則口外する事は出来ない事だとか、他にもこのジュエルシードを付け狙っている人間がいるだとか……もうこれでもかという位トーレさんは自分の身の内を私に語ってきた。
私は彼女が事を言う度に頭の中でアリシアに事実確認を行っていたのだが、その結果も「嘘は付いていないから信用の出来るんじゃない?」との御達しばかりだった。
ただ「幾つか臭う部分が在る事は否めない」、とも彼女は言った……手放しで何でもかんでも真に受けるのは得策ではないという事なのだろう。
その“臭う部分”を上手く突いて話を誘導してみる他ない、私はそんな風に考えながらトーレさんの言葉に口を挟む事に決めた。

「―――――と、これが大体の筋書きだ。どうしても話せない部分は少々ぼやかさせてもらったが、これが事の真実になる。まぁ、信じられんかもしれないがな」

「……願いの具現化……ジュエルシード……。確かに、普通なら信じられない物ですね……でも……」

「んっ? 何処か引っかかる部分でもあるのか?」

「あっ、いえ……そう言う訳じゃないんですけど……。心当たりが無い訳じゃない、って言うか……もしかしたら“アレ”がそうなのかもって思ってしまって……」

私の言葉を聞いて少々気に掛かるという感じに反応を示すトーレさん、そしてその反面心の内でやはり食いついてきたかとほくそ笑む私。
一枚目のカード……私の持つジュエルシードの力についての説明、それを私は今このタイミングで切る事に決めたのだった。
何故この段階でというのかに関しては色々と考えがあった、まず今この場で私が取らなければならない行動がトーレさんの私に対する興味を保護観察という対象以上に引き上げる事だということ、そしてそれを円滑に進める為にはジュエルシードの真の力を引き出せるという事実が丁度良かったということだ。
他にも交渉のカードとしてはアリシアの存在や彼女が言う私の人並み外れた魔力という物もあるのだが、アリシアの事については本当に最後まで伏せておいた方が良いというのもあるし、人並み外れた魔力というのもどれほどのものか私自身が深く理解していないのだから不用意に交渉の場に出すにはあまりにも軽率すぎる。
とすれば残るカードでトーレさんの興味を引けるのはジュエルシードの力だけ、殆ど消去法で導き出した答えではあったが、興味を引けるだけのイレギュラーな要素は孕んでいると私は確信していた。
何故ならトーレさんの言い方はまるでジュエルシードが普通ならまともに機能しない危険物の様な感じだった、それこそ願いを正しく叶えている方が異常だと言わんばかりに。
ならば私の“完全なる干渉の遮断”という力はやはりトーレさん達からしても埒外な物に他ならないのだろう、これだけでも私の力はそれだけの交渉能力を孕んでいると断じてしまえるだけの説得力を持っていた。
特上の餌は用意した、後はどう喰いついてくるのかを待つだけ……私は釣りをしている釣り人の様な気分でトーレさんの反応を待ちながら演技の続きの台詞を頭の片隅で考え始めるのだった。

「“アレ”とは?」

「いえ、もしかしたら違うかもしれないんですけど……ジュエルシードって人の願いを叶えるものなんですよね? だとしたら私……願いを、叶えてしまったかもしれません……」

「……どういう事だ? 出来ればもう少し詳しく教えてくれ」

「実はこの前の生き物に襲われた時、私は―――――」

それから私はトーレさんに対して自分とジュエルシードがどういう関係にあって、どういう経緯で私の願いが叶ってしまったのかという事をポツリポツリと話し始めた。
あの身元不明の少年の殺人現場である公園でジュエルシードを偶然拾った事から、偶々神社にお参りに行った際にあの化け物に襲われたということ、そして化け物に喰い殺される寸前で“私に触れるな”という願いを咄嗟に思いついた結果、一度はあの化け物を退ける事が出来たという事に至るまで私はありとあらゆる事をトーレさんに喋った。
勿論その中には嘘も含まれていた、寧ろ真実の方が少ないと言っても過言ではないだろう。
四割の真実を六割の嘘に紛れ込ませて嘘か真か判断の付かない空想のシナリオを作り出してあたかも自分が経験したかのように言葉にする、少々難のある処を継接ぎで考えはしたもののそれほど苦になる行為では無かった。
そして私の話は“もしかしたら高町なのはという存在は想像以上に凄い人間なのかもしれない”というのをトーレさんの感覚に刷り込ませるまで続いた。
巧みにトーンを変えたり、嘘を真実であるかのように話したり、また偽るべき部分はしっかりと偽ったり……そうして話す内に時間だけが刻々と過ぎて行く。
しかし私はそれでも一切気を抜いたり、逆に緊張し過ぎたりもしない……私にはやるべき事があると自分に言い聞かせてどちらにも傾き過ぎない様に自分自身をセーブするのだ。
後はこれがどう転ぶか、私は自分自身の事を真剣な面持ちで聞きとるトーレさんに身体と言葉の両方で必死に訴えかけながら心の内で柄にも無く運命を天へと任せるのだった。
本当に私らしくもない、そんな風に何時までも思い続けながら……。





それから数十分の時間が経過した。
お互いに質問をしては返答し、返答してはまた質問するを繰り返していた話し合いも要約一段落の折り合いを付けるまでになった。
とりあえず現状で分かった事はジュエルシードは高確率で私の願いを叶えている可能性があること、私のジュエルシードはどういう訳かトーレさんでは回収できない為結局しばらくはこのままだということ、そして今後もお互いの相互理解の為にちょくちょく連絡を取り合った方が良いという事などだ。
何でもジュエルシードの願いに関してはトーレさんも薄々は勘付いていた様で、病院で顔を合わせる前に既に私がジュエルシードの力を使ってしまったのではないかと思っていたらしい。
迂闊と言えばあまりにも迂闊な事だったが、アリシア曰く「結果オーライだよ、なのはお姉ちゃん」と苦笑いしていたので私も渋々それで納得する事にしたのだった。
今後はアリシアのうっかりを矯正する必要があると強く心の中で思ってのは秘密なのだが。
そしてジュエルシードを回収できないという事に関しては話し合いの最中もう一度トーレさんにジュエルシードを差し出して確認してみた処、確かに彼女の言う通り私以外の人間がジュエルシードに触れようとすると手を弾いてしまうという事が分かった。
これに関しては原因は不明、恐らくは私が願った“完全なる干渉の遮断”という想いがジュエルシードにも反映しているのではないかという事で決着が付いたのだが……アリシアに尋ねてみた処十中八九私の願いの所為との事らしかった。
ちなみにトーレさんにも一応私が願った“完全なる干渉の遮断”については話をしてみたのだが、やはりトーレさんにしてもその力がどの程度のものであるのか分からないから判断のしようがないとの事だ。
これについてはアリシアにしっかりと使い方を教わった後、トーレさんの前で実践してみるしかないと私は結論付けた。
そして最後に今後もお互いの理解の為に連絡を取り合うとの事だが……正直の処これにはトーレさんもそれ程深い意味は持っていないとの事だった。
何でもトーレさん曰く「私の一存だけでは決めかねる事が多過ぎる」との事で、一度上の人間と掛け合った上で私の周辺警護や連絡を取り合う日程等を再度決め直すとの御達しだった。
まあこれに関しては私がとやかく言えることではないし、アリシアにしても「多分本当に困ってるんじゃないかなぁ?」というような感じだったので一先ずは泳がせておくという事で決着を付けた。
そして此処からが本題……私にも何か手伝えることは無いかと言って彼女に協力を求められるかどうかという事に関してなのだが、現在はそれを審議中だ。
とはいっても正直渋るトーレさんに私が只管頭を下げ続けているというのが現状なのだが……肝心な処で情けないな、と私は自分で自分の事をそう評しながらトーレさんとの話し合いを続行する事にしたのだった。

「お願いします! こんな話を聞いていたら私……いてもたってもいられなくて……。何とか力になりたいんです!」

「しかしなぁ……。何度も言っているが危険過ぎる。現状ジュエルシードだけでも危険なのに、それを付け狙う輩まで居るんだ。君をそんな危ない事に巻き込みたくない。善意でそう言ってくれているのはありがたいが……」

「無理なのは分かってます。だけど……このままジッとしているなんて私、耐えられないんです。今この瞬間にも友達や家族が傷つけられているのかと思うと……。本当に雑用でも何でもいいんです、私は……トーレさんの力になりたい……」

「……出来れば私だって君のその気持ちは無駄にしたくは無い。だが、これは私個人だけでなく複雑な事情が絡んでくる話だ。下手に関わればまたあの時の様に君が傷つくかもしれない……状態が万全でない以上私もはい、そうですかと軽々しく言う訳にはいかないんだ」

本当に申し訳ないという感じでそう言うトーレさん、そして反面それでも何とかという顔をしながら内心で「くそっ、何とかしなくては……」と焦り出す私。
もう少しで手が届きそうなのに後一歩をどうしても踏み出す事が出来ない、そんな歯痒さが余計に私の焦りと苛々に拍車を掛けていた。
泣き顔になって見たり、心にも思ってない事をもっともらしく理由付けしてみたり、下手に出たりと色々と方向を変えてアプローチを掛けては見たもののトーレさんという人間は私が思っていた以上に感情を崩し難い人間だった。
なまじ私をこれ以上傷付けるのは忍びないと言う自信のエゴが協力させてもいいかなという妥協心にセーブを掛けてしまっているから中々「巻き込まない」という思考を緩ませてはくれない上に、私がトーレさんに協力する事で余計に危険が増すのではないかと言う不安が余計にトーレさんを頑なにさせているのだ。
元々責任感の強い人だし、そう思うのも仕方が無いといえばそうなのだが……だからといってこれ以上変なアプローチを取ると私自身が怪しまれると言う結果にも繋がってくる。
なるべく純粋無垢な少女である”高町なのは“のまま事を運びたい私としてはこれ以上怪しいと思われるような行動を取る訳にもいかないのだ。
しかし、逆に決定的なアプローチを掛けなければトーレさんは考え直してくれそうに無い。
その微妙なさじ加減が如何にも上手くいかないでいる、だから余計に意識が高ぶって頭の中でどうすればいいのかと思考がグルグルとしてしまう。
最悪協力が認められないとしても将来性のある関係で話を終わらせなくては……そう考えた私は表面上は現状を維持しつつも、頭の中で考えた言葉を少しずつトーレさんに投げかけていくのだった。

「……無茶なお願いだっていうのは分ってます。でも、このまま何もしないでいたら、多分後悔する……そんな気がするんです。私は……今までも後悔してばかりでした。何時も何時も何処かで妥協して諦めて、それでいっぱい……大切な物を取りこぼして来ました。だから、これ以上……後悔したくないんです」

「しかしこの件に関ればもっと後悔するかもしれない。この前は未遂で済んだかもしれないが……命を落とす事だって十分に考えられる。私は……出来れば君はこのまま平穏無事な世界に生きていて欲しいと思っている。私のような……そう、私のような人間に関るのは止めた方が身の為だ」

「私は……トーレさんがどんな仕事をしていて、今までどんな事をしてきたのか……分りません。だけど、私には命を助けて貰って恩もある。少なくとも私は……トーレさんの事、良い人だって思ってます。だから、そんな良い人だけに私を背負って貰おうなんて図々しい事……私には出来ません。せめて少しでも、負担を軽くしたい……ほんの少しでも……いいから……」

「……やれやれ、君も案外強情なんだな。恐れ入ったよ」

どうしたらもう一押しが出来るのか、その考えの先に私が辿り着いた答えは……トーレさんに命を助けられたと言う事に対する“恩”の感情で責めるということだった。
あくまでも気弱で口下手だけで実直で自分の意思を貫き通すというスタンスの上で作られた“高町なのは”というキャラクターのイメージを崩さずに、尚且つ怪しまれないように協力する意思を示すにはそれなりの事柄が必要になってくる。
つまりは何故この子はこんなにも拘るのだろうかと寸分も相手に思わせないだけの理由が必要になってくると言う事だ。
そしてそんな微妙な理由付けに丁度良いのがトーレさんに命を救われたからと言う”恩”の感情であり、実直と言うキャラクター設定を考えれば不自然でないと言えるだけの行動動機でもあった。
命を救われたと言う事に対しては私も本心から感謝はしている、しかしだからと言ってその為に命を投げ出せるかと問われれば正直否と答えるほか無い。
私はそこまで自己犠牲の過ぎた人間ではないし、無償の奉仕を自ら進んでやろうと言えるほど御人好しでもない。
まあ昔はそんな感じだったのかもしれないけれど、少なくとも今は違う。
私が行動するのはあくまでも自分が求める物に対してのみであり、今回のような心にも思っていない事を言うのは正直私としても後ろめたい気持ちがあった。
しかし、目的の為なら何でもやると決めた以上此れしきの事で気負ってはいけない。
私情を捨ててあくまでも冷酷かつ狡猾にならねばならない、そう私が決心を新たにしていると……トーレさんはふぅ、と短く溜息を吐きゆっくりと首を左右に降り始めた。
手応えがあったか、私が内心ビクビクした気持ちで彼女からの言葉を待っていると、トーレさんは観念したと言わんばかりの口調で私に優しく話しかけて来た。
そしてその口調は、認めざるを得ないと言っている位柔らかだが困惑の意が混じった物だったと私は瞬時に悟ったのだった。

「とりあえず……あくまでもとりあえずだぞ? 考慮しない事も無い」

「えっ……? そ、それじゃあ!」

「おっと、早まるな。あくまでも考慮だ、許可した訳じゃない。この事については……やはり上としっかりと相談した上で話し合う必要がある、此れは間違いない。だが、その結果上が君を協力者だと認めるのであれば、私も君に何か役目を与えるのは吝かではない。だから……今はもう少し返答を待たせてくれないか? 私としても、色々と上への言い訳を考えなければならんのでな」

「あっ、ありがとうございます!」

またしても条件反射で頭を下げてしまう私、そんな私に「こらこら、まだ決まった訳じゃないぞ」と微笑みかけてくるトーレさん。
口ではまだどうなるか分らないと言ってはいるものの、きっとトーレさんはこの件に関して尽力してくれる……私は何となくそんな確信を抱いていた。
そしてその核心と同時に私は、全て私が計画したとおりに物事が運んでくれたと顔に出したら思わずほくそ笑んでいる位の黒い感情を胸に覚えていた。
少々イメージしていたプランと変わってしまった部分もあるが、トーレさんの協力を得る事が出来るという部分に関しては期待を持ってしまって良いと言える。
後はあわよくば一緒に行動してアリシアの願いを叶えられる程度に動き回って貰って、私の方でも意識的に先生に被害が及ばないように立ち回れる立ち位置を確保すればベストなのだろうが……今は考えないようにしておこうと私は一時的にその考えを封印した。
今は一世一大の交渉を無事成功させたという事を喜んでおくべきだ、そう思ったからだ。
今まで黙って私とトーレさんの会話を聞いていたアリシアも「してやったり! なのはお姉ちゃんの頭脳勝ち!」とはしゃいでくれている。
小難しい事を考えるのは後でも出来る、しかしこの瞬間を喜ぶのは今しか出来ない。
私は作った表情に本心を紛れ込ませながらトーレさんに笑みを浮かべると、もう一時しっかりと彼女に対して「よろしくお願いします」と頭を下げておくのだった。
これからも長い付き合いになるだろう、そう心の中で呟きながら。

「……っと、それでは私はこの辺でお暇させて貰う事にするが、君はどうする? この場に残るのか? それならば会計を済ませておくが……」

「あっ、すみません。私もそろそろ帰らないと両親が心配するかもしれませんので……。コーヒー、ご馳走様でした」

「なに、気にする事はない。また私の方から連絡しよう、リダイアルで掛け直せばいいかな?」

「それなら……私の番号とメールアドレス、今教えておきます。そっちの方がトーレさんに迷惑が掛からないと思うので」

そうしてくれると助かる、と言って苦笑いを浮かべるトーレさんを他所に私はテーブルに在ったメモ用紙に予めポケットに忍ばせておいたボールペンで自分の携帯の番号とアドレスを素早く書く殴り、それを自然な手つきでトーレさんへと手渡した。
此れで繋がりを作る事が出来た、と内心でニヤつきながら。
その後、私とトーレさんは飲み物代を支払った後同時に店を出て、それぞれ別の方向へと歩き出していった。
私は帰路につくために、トーレさんは今回話した内容を上の人へと伝える為に。
此れでようやく色々と動かす事ができる、私はトーレさんと別れた後不意に笑みを浮かべながらポケットに手を入れて今日の事を振り返った。
今日の話し合いは有意義な物だった、少々こじれる部分もあったがこれでやって私とアリシアの願いを叶える土台を整える事が出来たのなら安い物だ。
明日から少しずつ此方も行動を起していかなければ、私は何時もよりも少しだけ明るめの思考で街道を歩きながら明日からの自分の行動を模索し始めた。
絶対に私とアリシアの願いを叶えてみせる、そんな意気込みを胸に抱きながら。


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