神の動体視力と反射神経をもってすれば初見の敵の攻撃も後出しで回避できる。今のところノーダメージ、私と諏訪子はタイムアタックに挑戦していた。雑魚敵共を蹴散らしながらどんどん進む。
「諏訪子はアクションゲーム派?」
「アクションもやるけどRPGが好きだねー。あと育成シミュレーションかな。白雪は?」
「何でもやるよ。知り合いはシューティングばっかやってるけどね」
「それってやっぱ弾幕ごっこの影響?」
「だと思うよ。輝夜なんかは――これも私の友達なんだけど、自作のシミュレーションソフト作ってるぐらいだし」
「そのドアの先二ボス」
「はいはい」
輝夜は滅多に永遠亭の外に出してもらえないので必然的に弾幕ごっこの相手が限られる。あまりにも退屈過ぎて暇を持て余した輝夜は、しばらく前に永琳が持ち込んだパソコンで3D弾幕ごっこシミュレーションソフトのプログラミングしていた。最近起きた異変に関わった妖怪、人間を中心に弾幕を再現している。まんま東方じゃねーかと思ったが3Dだし食らいボムも無い。
問題点としては情報量が多過ぎて起動できない所だろうか。まあ音声も着いてるししょうがないよね。ちなみに声のサンプリングは永琳が声真似で済ませてた。超似てた。
「白雪ー」
「んー?」
「早苗って幻想郷だとどれぐらいの強さ?」
「それは弾幕決闘での話だよね。何? 心配?」
「まあ神奈子の風祝だけど私の子孫でもあるし」
「そうだねぇ……ん? ちょ、そこ詳しく」
早苗が諏訪子の子孫ってどういう事だ。諏訪子いつの間に子供作ったんだおいコラお父さんそんな話聞いてないぞ。
コントローラーを放り出して問詰めたが、諏訪子はちょっと頬を赤らめて黙秘した。後ろから羽交い締めしてなんとか夫とは大人の姿でつきあっていたとだけ聞き出したがそれ以上は沈黙するばかり。
「言えない様な事してたの?」
「…………」
ううむ……まあいいや。気にはなるけど昔の話だし本人が話したくないなら無理に聞き出すのはやめておこう。
私は諏訪子を開放して質問に答える事にした。
「レベル分けするとこんな感じかな」
手近にあった広告の裏の白紙にボールペンで簡単な表を書く。
Lv0……スペルカードを持たない妖精
Lv1……木端妖怪と一部の妖精
Lv2……大多数の小妖怪
Lv3……一部の小妖怪、中級妖怪、非常に特殊な妖精
Lv4……多くの中級妖怪、平均的な陰陽師
Lv5……一部の中級妖怪、大妖怪
Lv6……名の知れた大妖怪
EX……最上級大妖怪
計測不能……不敗伝説
「神は信仰に寄って激しく力が上下するから妖怪基準にしてみた。まあ理論上弾幕を当てさえすればレベル1でも計測不能に勝てるんだから目安でしかないんだけどね。弾幕ごっこは割とセンスが要求されるし」
魔理沙は5、ルーミアは6、チルノは3に食い込んでいる。計測不能は今の所私と霊夢だけだ。
興味深げに表を覗き込んでいた諏訪子が首を傾げる。
「それで白雪の見立てだと早苗は今どのあたり?」
私は2と3の中間を指した。
「……博麗の巫女は?」
計測不能を指す。
「うわぁ……」
諏訪子はティラノサウルスと対峙した子兎を見た様な顔をした。
「ぼろ負けか完敗か惨敗かどれだろうね」
「どの道無残に負けるのね」
「おおさなえよ、まけてしまうとはなさけない」
諏訪子は髪と服を焦げ付かせ、勝者の肩に担がれ帰って来た早苗を見てオーバーアクションで嘆いた。
「新種の霊夢かと思ったぜ」
気絶した早苗を運んで来た魔理沙が肩をすくめて言う。山の神社の噂を聞き付けて野次馬根性を出し偵察に行ったのだが、麓に着いた途端に襲われたらしい。巫女の格好をしていたので新しい神社の巫女だと当たりを付けて運んで来たのだ。
しかし霊夢と闘う前に魔理沙に負けてくるとは予想の斜め上を行ってくれる。百円儲け損ねた。
「誰さん?」
「職業魔法使いの霧雨魔理沙。人間ね。魔理沙、こっちは蛙のケロちゃんの異名を持つ洩矢諏訪子。神様ね」
「運んだ礼はマジックアイテム一つでいいぜ。神様ならそういうもんたんまり持ってんだろ」
「神器はたんまりあるけどマジックアイテムは無いなー」
「なんだつまらん」
魔理沙はがっかりした顔をした。箒の柄で早苗の頬をつつく。早苗は小さく呻き声を上げて目を覚ました。身を起こして自分を取り囲む三人を見ると状況を把握してがっくり落ち込む。
「私がただの巫女に負けるなんて……」
「巫女と間違えられたのは始めてだな。私は魔法使い兼何でも屋だぜ」
早苗はきょとんとして魔理沙の格好を見直した。まず帽子に目がいき、手に持った箒に視線が移る。はっと何かに気付いた顔をして目を輝かせた。
「変な格好の巫女だと思ったらそのいかにもな風貌……魔女っ子ですか!?」
「魔女っ子……まあ間違って無いな」
「変身してみて下さい!」
「無理だ」
「そんなぁ……」
ばっさり切られて早苗はまた落ち込んだ。浮き沈み激しいな。
「ねぇ、貴方早苗を倒したんでしょ?」
「ああ、楽勝だったぜ」
落ち込む早苗の隣では諏訪子が魔理沙の服を引っ張っている。
「ふーん? そこそこ強いみたいだね。それなら早苗としたように私とも弾幕祭りをする必要がある」
「こっちにその気は無いぜ。新しい神社の秘密も少し分かったしな。じゃ、わたしゃこのへんで」
「おっと、逃がすもんか!」
諏訪子は箒に乗って逃げて行く魔理沙を追って飛んで行った。
弾幕ごっこはしてみたいけれど神奈子とは喧嘩し飽きた。早苗とは少々実力差がある。私とやるのは無謀。ならば早苗を倒した魔法使いなら丁度良い、そういう思考が諏訪子の中で働いたと見た。放置していたせいでテレビ画面がゲームオーバーを映していたからかも知れないけど。
一方早苗は諏訪子が居なくなった事にも気付かずぶつぶつ言っている。
「変身しない魔女っ子なんて……でも魔女がいるなら……白雪様、幻想郷に宇宙人とかいたりします?」
「いる、かな」
私は永遠亭の住人達を思い浮かべた。月に住んでいたのだから宇宙人だろう。
「キャトルミューティレーションを起こしたり人をアブダクトしたりは」
「しない」
早苗はアニメや特撮の世界が幻想郷とイコールで結ばれるとでも思っているのだろうか? それからも幾つか聞かれたが私が早苗の先入観を潰す度にがっかりしている。
……ちょっと面白い。
「妖怪の中に吸血鬼はいるよ。十字架は効かないけど日の光とか流れる水には弱い」
「西洋の妖怪もいるんですね。やっぱりWRYYYY! とか言っちゃうんでしょうか」
「んにゃ、吸血鬼はがおーと鳴く」
「なんと!」
「死神もいるよ」
「死神ですか! 黒い着物で刀もってたり?」
「服は黒くない。でも大鎌は持ってる。本気出すと禍々しく変形するってもっぱらの噂」
「ひえぇ」
早苗は恐れおののいた。ふふふ、無垢な子に微妙に曲解した知識を植え付けるのは楽しい。
月人は地上人と喉の構造が違うため皆声帯模写が上手いという裏設定。白雪は永琳の本名を発音できるが肝心の名前を覚えていない。