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ここは、幻想郷の境に存在する古めかしい屋敷。その歴史を感じさせる佇まいは、如何なる者の来訪を拒んでいる様だった。この家には何故か人間界の道具と思われるものが幾つか在る。用途のわからない機械、書いてある事がまるで理解できない本、雑誌。
外の世界では映像受信機だったと思われる鉄の箱も、只の霊気入れになっていた。人の形が映っていた物には霊も宿りやすいのよと、彼女は自分の式神に教える。式神は紅衣の神の魔術書に書いてあった受け売りじゃないかと思ったが賢くも口には出さなかった。
境界の妖怪『八雲 紫』はここに居た。
彼女は、幻想郷の僅かな異変に気付き、昼も寝れない毎日を過ごしていた。
敵の姿は確認が取れなかったが、『こんな』事が出来ると言う事はかなりの強力な者であると想像できた。しかし、普段余り出歩かない彼女にとって自分から動く事は、凄く面倒な事だったのだ。
「そうだ、『あいつ』を唆して『あいつ』にやらせれば良いわ」
こうして紫は、同じく幻想郷の境に存在する神社を目指して出かけ……ようとしたのだが、丁度いつの間にやら来ていた客が襖を開けて乱入してきた。
「その話待った!」
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不吉な臭いがする。この森は人を喰うといわれる。人間は余り寄り付かない場所である。常に禍々しい妖気で溢れていた。
魔法の森、幻想郷の魔が自ずと集まった森。
その森に、小さな人の形を集めた小さな建物がある。
人間より一回りも小さい人の形。
七色の人形遣い『アリス・マーガトロイド』は、人形の山の中で読書をしていた。
「何であいつら人間達はこの大異変に気がつかないのかしら」
このままではいつものアレが楽しめないじゃない。普段は余り出歩くことの無い彼女だったがみんな異変に無関心だった為、調査に乗り出てみる事にした。
いや、しようかと思った。
「面倒だなぁ、こういうのに慣れている『あいつら』がやればいいのに」
敵の見当もつかないし、どうすればよいのかわからない。思いあぐねて、同じくこの森に住む人間の処へ向う事にした……そして玄関と戸に手をかけた瞬間、外側から開かれた。そこに居たのは一応魔法使いにも分類されるらしい小さな神様。
「こんばんはー」
-3-
「咲夜~、どこに居るの~?」
ここは湖のほとりにある洋館、紅い建物。今日もけたたましい声が響く。湖の白と森の緑、そこに建つ紅い洋館。どぎつい取り合わせのはずなのに不思議と落ち着いていた。
この館、紅魔館は時が止まると言う。比喩ではない。
吸血鬼『レミリア・スカーレット』は、自分のお抱えのメイドを探していた。
「頼んでいたアレはやっておいた?」
「と言われましても、申し訳ないのですが私には良く判らないもので……」
どうにも、目の前の人間には言葉が通じない。
「もういいわ! 私が行くから咲夜は家の事を……まぁ、好きな様にやって」
留守番を命じていない事は明白だった。結局メイドはお守り役として付いて行かざるを得ない。日が昇ったら一人じゃ自由が効かない癖に、と思いつつ……
こんなに平和だし何か起きている様にも見えないし、ちょっと動いたら疲れて戻ってくるでしょう、とメイドは軽く思っていた。もちろん口には出せない。
そして思った通り一分で戻ってきた。門の前で例の神様に遭遇したのだ。
「あいつらが勝手に解決するって言ってるし任せましょう」
なんでも無い風を装っていたが背中の羽根は小刻みに震えている。メイドは今日も添い寝かな、と思った。
-4-
幻想郷でもここ程静かな場所も無いだろう。ただ、荒涼としているわけではない。何か魂が休まるような静かさなのだ。荒ぶる者の声も聞こえない、豊かな自然に爽やかな風の音だけが聞こえる。
冥府。死者の住まう処。
ここには生気のある人間は居ない。だが、亡霊達は亡霊のくせに生き生きと暮らしていた。
「幽々子様は気が付いていないのかしら?」
静かな場所の中で一番華やかで広い所。白玉楼。
庭師『魂魄 妖夢』はお嬢様に異変を伝えようか迷っていた。
その時、お嬢様がこっちに向ってきた。丁度いい。
「あ、幽々子様……」
「妖夢。アレはまだそのままかしら?」
「え? ……アレ、とは何でしょう?」
「あら、気が付いていないの? これだから庭師は鈍感だって、ぼろくそに言われるのよ」
そういえば昔、件の馬鹿みたいに強い時々馬鹿みたいな神にぼろくそに言われた記憶がある。それはともかく、どうやらお嬢様も異変に気が付いていたらしい。
「もしかして『月』の事ですか? 気が付いてますってば~。
突然、アレって言われましても……」
「誰も動かないみたいだし、妖夢、行ってみない?」
「えー? 何でですか」
「嘘よ。妖夢じゃ頼りないしね。
何時ぞやの人間の方がまだマシだし……、私が行くわ」
「そんな~、意地悪な事言わないで下さいよ~。私が行きますから~」
「頼りないと言ったのは本当よ」
西行寺家の亡霊少女『西行寺 幽々子』は、妖夢の事をぼろくそに言った。
「って、お嬢様は目的地の当てがあるのですか?」
「勿論沢山あるわ。まぁそんなのその辺飛んでいるの落とせばいつか当たるものよ」
「そんなだから駄目なのです。幽々子様はいつだって、力に任せて狙いを定めないから時間が掛かるのです。もっと、的を絞って攻撃するのですよ。こう……」
「妖夢、後ろががら空きよ。」
「うむ、がら空き」
お嬢様の言葉の直後、背後から首に衝撃が走った。よろけたがなんとか堪え、振り返ると長い白髪の神様がちょこんと立っていた。
「頼りない半人半霊は大人しくしていてくれたまえ。こっちでなんとかするからさ」
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平和だった。
平和そうに見えた。
だが、妖怪達は困っていたのだ。
そう異変とは、誰も気が付かない内にひっそりと、何時の間にか……、
幻想郷の夜から満月が無くなっていたのだった。
本来、満月になるはずの夜もほんの少しだけ月が欠けていて、完全な満月にならなかったのである。普通の人間が気がつかないのは無理も無い、月はほんのちょっとだけ欠けていたに過ぎなかったのだ。
それでも妖の者にとって、満月の無い月はまるで月の機能を果たして居なかったのである。特に日の光が苦手な者にとっては死活問題であった。
本来なら人間と神様の二人が夜の幻想郷を翔け出すのだが、神様の方が異変の詳細を既に把握していた。なにやらこそこそ暗躍し、どうのこうのあーだこーだの挙句に巫女が首謀者を叩く事になっていた。
暇で暇で死にそうになっていた巫女と道案内役の神様は空に舞う。勿論、月の欠片を探し出し、幻想郷の満月を取り返す為である。
見つけるまで夜を止めたりはしない
永遠の夜になったかも知れなかった異変は割と穏やかに進む
――夏の終わり、中秋の名月まであまり時間も無い頃。
人間と神様の二人は、月夜を駆ける。
と言う訳で永夜抄だ。異変解決に出向きそうな連中には声をかけて出動を阻止した。元々大した理由で解決しようとしていた訳では無かったようで皆白雪が行くなら、とあっさり引いてくれた。これで夜は止まらない。
永夜異変は欠けた月の異変を解決する為に誰かしらが夜を止めて起きる異変である。異変を止める為に異変を起こすとは本末転倒、幻想郷中を飛び回って永夜異変は無事止める事が出来た。
しかし月は欠けたまま。私は霊夢を連れて真直ぐ永遠亭に向かう。
天蓋の運行を止め月を隠す永琳の秘術は月と地上の行き来を妨害し、起こるかも知れない月と地上の抗争を起こさないために行使されている。多分杞憂だろうが争いの目は摘んだ方が良い。欠けた月は必要な異変であるとも言える。
が、異変は異変、放置しても解決するからほっといていいかなと思っていたらそうでも無かった。
マヨヒガに行って事情を説明した時紫に諭されたのだが、如何なる理由があっても異変を見逃すのは不味い。あの異変が許されるならこの異変も許されるよね、と済し崩しに異変が連発する可能性がある。異変は例外無く能動的に解決されなければならない。
いやあ、ほんと私は詰めが甘い。永夜異変を阻止して一晩ほっとけば四方丸く収まるもんだと思い込んでたよ。
まあそういう事情で霊夢を永遠亭に案内している。私が解決してもいいのだが、事情を知っている以上私情が混ざって手加減してしまいそうだったので霊夢に任せる事にした。
輝夜はとにかく永琳とは戦いにくい。彼女からは今まで一度も敵意を受けた事が無いし喧嘩した事無いし、戦ったらどうなるか分からない。十重二十重の罠でハメ殺しを狙われる気もすれば開戦直後に降参される気もした。
話し合いで解決できればそれでもいいんだけどね、今までの異変の首謀者は例外無くフルボッコにしてきたのに永琳(主犯)と輝夜(共犯)だけ見逃すのはアレだから。
……よくよく考えてみると異変の首魁をとりあえずぶっ叩く幻想郷の伝統は私が作ったのかも知れない。短絡的に行動してきた結果がこれだよ!
「何ぶつぶつ言ってんの?」
「あ、口に出てた?なんでもないよ」
「そ」
ちらりと後ろを振り返り、霊夢がしっかり着いてきているのを確認して少しスピードを上げた。目的地が分かっている上にかなりの速度で飛んでいるので、途中で数回弾幕決闘を挟んだとしても今夜中に余裕で到着する。気楽なもんだ。フランは神社で一人でお留守番。帰ったら労ってやろう。
私達はいつもと違う夜空に興奮してわさわさ沸いてはちょっかいをかけてくる妖精達を片手間に蹴散らしながら一陣の風になった。
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究極の幻想チーム(新月・LimitBreak専用機)
境目に棲む人間と神様。
ちょっとずるい攻撃力を誇る
■人間操術 博麗霊夢
移動速度 :☆☆☆☆
特技 :敵の使い魔に当たらない
ショット :「マインドアミュレット」
スペルカード:霊符「夢想妙珠」
ラストスペル:神霊「夢想封印 瞬」
●神様操術 博麗白雪
移動速度 :☆☆☆☆☆☆
特技 :通常弾幕が一定確率で相手弾を破壊する
ショット :神力弾
スペルカード:力符「神の見えざる力」
ラストスペル:全力「妖力無限大」
※チームの特性
妖率ゲージが変化しにくい
ホーミング弾の性能が高い
一応自機性能を書いてはみたものの永夜抄で弾幕決闘を書く予定は無し。ゲームだったらこんな感じ、程度に思って下さい。