テンション三割増、ネタ増量でお送りします。文章量はいつも通り
ある日の満月が綺麗な月夜。私は星など関係無いとばかりに水辺の洞窟にいた。
低い岩のテーブルには設計図が置かれ、それを数人の真剣な顔の河童と共に囲んでいる。
水辺だというのに湿気は全く無い。湿度は機械の大敵なのである。洞窟からは水分が完全に除去されカラカラになっていた。こいつら本当に河童なのだろうか? どいつもこいつも皿ではなく洒落た帽子を被っている。ちなみににとりはまだいない。
「えー、では第七十三回、写真機開発会議を始めたい。今回の課題は四色写真の実現である。各々知恵を振り絞ってもらいたい」
議長の河童の厳かな声に一堂頷く。
「尚、技術指導の講師として博麗白雪君を招いている」
私が目礼すると期待してるぜ、みたいな目で見られた。
「ふむ、では最初の課題だが――」
議長が配られた要綱を読み上げようとした所で私の懐から軽快な音楽が流れ始めた。ため息をつく議長。
「白雪君。会議中は通信符の霊源を切っておくように」
「や、すみません。ちょっと外します」
慌てて洞窟の外に出て通信を繋げた。
「白雪様、お時間はよろしいでしょうか」
「あんまりよろしくない。巫女さんどうしたの?何か問題?」
今代の巫女はクールな秘書系である。淡々と要件を告げた。
「はい。ただ今妖怪の山と人里の中間地点において西洋妖怪の一団と交戦中です。私一人では撃ち漏らしが出る規模です。彼等の目的は人里の強襲。満月なのでワーハクタクの守りも強まっていますが、万全を期す為に助力を願います」
アチャー……よりによってこんな日に。
「あー、西洋妖怪は幻想郷のルールが分からない奴多いからね。吸血鬼はいる?」
「見当たりません。小、中妖怪の集まりで大妖怪が数体紛れています」
通信符の向こうから弾幕が炸裂する音が断続的に聞こえてくる。戦いながら通信しているらしい。
「分かった、すぐ行く」
私は通信を切り、一度洞窟に戻る。
「すみません。急用が入ったので抜けます」
「……会議を放り出す程の事かね?」
「人里が西洋妖怪に襲撃されそうになっています」
河童達の顔色が変わった。議長の爪が岩のテーブルに食い込む。ひびが入った。
「白雪君、退出を許可しよう。代りに盟友を徒に脅かす愚か者共に鉄槌を。これは河童技術部の総意だ」
怖いぐらいの怒りの表情を浮かべる河童達に頷き、私は洞窟から夜空へ飛び立った。
キッツイ御灸を据えてやる。
ちなみに河童技術部の発言力は大天狗並である。
場所は夜空で色とりどりな無数の弾幕が光っていたのですぐに分かった。
目標補足、戦闘範囲推定、大規模結界を妖力と魔力にあかせてワンアクション発動。これで内側から外側へは出られない。
急加速をかけて結界内に飛び込み、巫女服の裾を焦がしながらも涼しい顔をしている巫女さんの隣に浮遊する。突然の結界と援軍に妖怪の群はざわついた。
「遅くなった。ごめん」
「いえ、十分です」
私と巫女さんは背中合わせに構えた。巫女さんは陰陽玉を傍に滞空させつつ陰陽符を指に挟んで霊力を込め、私は四種の力で大量の弾幕を作り待機させる。
西洋妖怪は人狼やらカボチャオバケやら髪の代りに蛇を生やした女やら小さなフラスコに入ったミニマム少女で構成されていたが、私を指差してヒソヒソ話し始めた。
「なんでしょう?」
「さあ……」
聴力を強化すると変な話が聞こえてきた。
【全盛期の白雪伝説】
白雪にとっての壊滅は殲滅のしそこない
妖怪千対人間十、陰陽師全員負傷から一人で逆転
一発の弾幕が三発に見える
牽制の小弾で撃墜
戦場に立つだけで相手妖怪が泣いて謝った、心臓発作を起こすドッペルゲンガーも
あまりにも強すぎるからグレイズも被弾扱い
グレイズすらしない
妖精を一睨みしただけでピチュった
妖怪退治の無い日も大妖怪撃墜
自分の弾幕を自分で受け止めて極太光線弾幕を撃ち返す
見学の陰陽師に講義しながら後ろ手に妖怪を一掃
グッとガッツポーズしただけで五体くらい吹っ飛んだ
高速飛行で真空波が起きたことは有名
妖怪賢者の能力も楽々弾き返した
何を馬鹿な噂を……あれ? ほとんど事実……だと?
客観的に見た自分の異常性に戦慄していると、西洋妖怪集団の悲壮感漂う殺気が膨れ上がった。
なんかヤケになってないかこれ。妖怪なのにアーメンとか言ってる奴もいる。何なの? 馬鹿なの? 死ぬの?
「今更後には引けないって雰囲気だ。巫女さん、適当に討ち取るからサポートよろしく」
「了解しました」
スピード系の力を強化して彗星のように突っ込んだ。「なんて速さだ!」「幻想郷の妖怪は化け物か!」とかほざいている妖怪を挨拶がわりにぶん殴る。
「ショータイムだ!」
私は西洋の百鬼夜行の中心で高らかに宣言する。ふははははは! 妖精一匹逃がさん!
黄色い目をした蛇髪妖怪が睨んできて体が若干鈍ったが、釣瓶打ちに弾幕を叩き込むと沈黙した。同時に体調回復。牙をむき出して飛び掛かってくる人狼は頭を鷲掴みにしてボディブロー。ガッシ、ボカ! 人狼は死んだ。ワーウルフ(笑)。いや死んで無いけど。
指示系統の中心っぽいフラスコ少女の入れ物を掴み、妖怪手裏剣にして投げ直線上の敵をなぎ倒す。敵の強さにブレがある混成集団だと妖力無限大で一掃できないから困るんだよね。
西洋人魂を侍らせて詠唱していたカボチャオバケは山羊頭の悪魔が持っていたフォークを奪い取り突き刺してやる。ついでに妖術の火でこんがり焼く。誰かに美味しく頂かれるが良い。
弓を構えたトーガのイケメン妖怪をローストし、貝殻ブラジャーを付けた人魚っぽい奴を三枚に下ろし(すぐ軽く治療した)、カタカタいってる骸骨を魔術で縛って骨格標本にする。妖怪達は弾幕やら呪いやら魔法やらで反撃してきたがそもそも当たらんし当たっても効かん。密集する黒羽妖精達の間を縫う様に高速飛行し、ついでに撃墜。一瞬で眼前に現れた私に動揺する犬耳の耳元で高周波を発生させ、背後に忍び寄った妖怪に後ろ蹴りを喰らわせながらレーザー弾幕を全包囲照射。妖怪は殺虫剤を吹き付けられた蚊の群の如くバタバタ落ちていった。
世紀末的ハイテンションで斬り付けてくる雑魚は私に触れる前に巫女さんの弾幕で打ちのめされた。撃ち落とされた妖怪達が結界な底に溜まっていく。死々累々阿鼻叫喚地獄絵図、私に向かってくる妖怪達は泣きながら笑っていた。もう笑うしかないといった調子だった。
程無くして西洋妖怪は一匹残らず撃墜された。プスプス煙をあげている彼等は魔法の森の小屋の前に積み上げておく。ついでに「煮るなり焼くなり好きにして」というメモを小屋の戸に挟んでおいた。
うむ。これでよし。これだけやれば河童の怒りも静まるだろう。ちょっとファンタスティックな薬の実験台にされるかも知れないが自業自得である。