完成した陰陽玉は凄まじい効果を発揮し、小妖怪なら例え群でかかられても一方的に殲滅できてしまった。どんな相手に対しても`こうかはばつぐんだ´になるように術を組み込んであるのでその程度当然とも言える。
私の力の一割を使用して稼動しているのだが、使用者選定追随飛行や敵性認識機能や耐久力上昇などに割り振られる分を差し引くと、攻撃力は中~大妖怪の通常弾幕ほど。ただし威力制限をかけているのでどんなに弱い妖怪を滅多撃ちにしても殺してしまう心配は無い。あれだ、非殺傷設定ってやつ。
そんな反則武装と私の修行のお陰で博麗の巫女は代々不敗を誇り、その名は妖怪退治の代名詞になった。
代代わりの直後、まだ修行不足の巫女を狙って来た大妖怪グループは私と連携して撃滅。寿命が尽きる寸前を狙ってきた不届き者は老いても元気な巫女さんが培った経験を活かして返り討ち。質より数だと押し寄せて来た小妖怪の大群はまとめて結界に閉じ込めた上で怒れる巫女さんがフルボッコ。
何度も巫女さんが交代し、数百年経つ頃には私の企み通り博麗の巫女に手を出すのは新参妖怪ぐらいになった。まあ名の知れた大妖怪が喧嘩売ってくる事も稀にあったが、どれもお遊びの域を出ない。
もっとも古参の妖怪の中には巫女を倒してしまえそうな奴もいる。しかしそういう妖怪に限って博麗神社の祭神の恐ろしさを知っているので安心だった。
正面から来る妖怪の牽制は博麗組が行い、裏で暗躍する妖怪を権謀術数で封殺するのは八雲組が行う。この二段構えを破るのは不可能に近い。完璧な布陣である。
……と、思っていたら少しやり過ぎたらしい。ただ今紫とスキマの中で最近発生した問題について密談中。徊子と幽々子も同席している。
「人間の人口が増えてきて妖怪が押され気味、と」
「貴女の所の巫女のせいでもあるのよ? 里内で人間を襲えないというのは大きいわ」
「白雪さん白雪さん、私がここにいる理由は」
「徊子賢そうだからなんとなく。一度スキマに入ってみたいって前に言ってたし」
「私は賢者ではなく仙人ですが。ここは物凄く扉を開け閉めし難いですね。面白いです」
「さっきから弄ってるそれは何かしら?」
「幽々子さんも知恵の輪どうでしょう。これをバラバラにすれば……この通り」
「あら難しそう」
「……三人共真面目に話し合う気ある?」
「ないわ」
「皆無」
「右に同じ」
あっけらかんと答える幽々子、徊子、私を見て紫はため息を吐いた。
「何の為に集まったんだろうね」
「それは私の台詞よ」
「ま、紫の思う様にすればいいんじゃない?」
「……どういう意味かしら」
「何か考えてあるんでしょ? 任せるよ」
無邪気に知恵の輪と格闘し始めた幽々子と横からのほほんとアドバイスを送る徊子。探るような鋭い視線を向けてくる紫とそれを見つめ返す私。なんだこの温度差……
私はここで紫発案の「妖怪拡張計画」が実行されるはずだと踏んでいた。
何が気に入ったのか紫は幻想郷を非常に愛している。それは母が子を愛するものに近い。紫が何を思っているかは知らないが、幻想郷における人妖のバランスを保つために「妖怪拡張計画」かそれに準ずる有効な対策を施すのは間違いない。
「時々思うのだけど、貴女さとり妖怪の血でも混ざっているの?」
「混ぜた覚えは無いなー。今回の場合は簡単な推測。幻想郷大好きの紫が何も考えて無い方が想像できないよ」
「…………」
紫は複雑な顔をした。否定しないので図星だろう。紫は煙に巻くような言い方はするが無駄な嘘はつかない。
彼女は勘違いを誘発させる言い回しで相手を騙すのである。一応嘘はついていないのが嫌らしい。
「幽々子も徊子も紫に任せていいよね?」
「い、い、わ、よ~」
「私は選択権を放棄します。幽々子さん、力ずくは止めて下さい」
知恵の輪に悪戦苦闘中の二人は話を聞いていないようにしか見えないが普通に返してきた。
「賛成二、棄権一で紫の案を採用。会議終了!」
私がバンザイして締めくくると紫は扇子で口許を隠して苦笑いした。苦笑はすぐにうさん臭い笑みに変わる。
「内容も聞かずに承諾とは迂闊と言うより稚拙ね。交渉では最も避けるべき事よ」
「でもそうやって忠告してくれるでしょ。紫なら信用できるから」
「……私を信用するなんて言う存在は貴女以外にいないわ。幽々子は信用とは少し違う」
「嬉しい?」
「どうでしょうね」
紫は傘をくるくる回す。照れ隠しなのか単なる手慰みなのか判別がつかない。照れてる紫か……ちょっと見てみたいが止めておこう。
「ま、なんでもいいや。それでどうするの?」
「幻想郷の外から妖怪を呼び寄せるわ。具体的には――」
まず私が神力を使って博麗神社を幻想郷の東の端ギリギリに移した。そしてそこを管理起点に幻想郷全体を紫の結界で囲み覆う。
幻と実体の境界を利用した強力な論理結界である。
……ただし妖力は私持ち。
自分の妖力使えよと思ったがそれをやると生存スレスレの妖力しか残らないらしい。で、紫に私の現在の力を常時二割渡している。普通妖力の受け渡しは不可能だが私達二人の能力を併用したら何とかなった。
しかしこの流れだと博麗大結界で更に妖力削られるんじゃね? 私はエネルギータンクじゃないんだけど……
紫にいいように使われている気がしなくもないがそこはそれ。元気玉みたいに幻想郷中の妖怪から強制的少しずつ妖力を集める~、なんてーのも理論上可能はだがそんな暴挙に出たら妖怪大反乱必至。私が全負担するのが簡単だ。紫なら妖力を悪用しないと信じている。まあ万一悪用されても即座に供給を絶てば良いだけなので脅威にはならないだろう。
それはとにかく。
この論理結界は外の世界に対して幻想郷を幻の世界と位置付けることで、勢力が弱まった外の世界の妖怪を自動的に幻想郷へと呼び込む作用を持ち、外国の妖怪まで引き寄せる効果がある。妖怪だけではなく生物、道具、建築物なども、外の世界で消えつつあるものが幻想郷で増えることがあるらしい。
要は鼠取りならぬ妖怪取りだ。これで妖怪の数が増えて人間の数と釣り合う。
効果はすぐに現れ、人妖の勢力均衡は回復した。元々妖怪だらけの幻想郷が魑魅魍魎の坩堝になったので里の陰陽師も苦労しているらしい。
里の畑は里の外。狩りも牧畜も里の外で行う。そういう里外で働く職種の人の護衛として陰陽師が飛び回っている。
私は結界が張られてから知り合いが幻想入りしていないかと定期的に幻想郷を見回っていたが、元々隠者のような生活をしていたマレフィが真っ先に魔法の森にやってきていた。
精度が増した小屋隠匿結界のせいで数年幻想入りに気がつかなかったが、森に突如化け物キノコが大繁殖したので調べていたら発見。
森の奥深くでばったり再会した時にマレフィはしばらく硬直し、我に帰ると霊薬の実験台と言って私を小屋に連れ込んだ。不機嫌な顔をしていたが口許が綻んでいるのを私は見逃さない。萌える。
実験が必要なさそうな薬まで飲まされ、経過観察の名目で小屋に数日引き止められた。会えなくて寂しかったって素直に言えばいいのにねぇ……意地っ張りだ。だがそれが良い。
白雪弱体化。MP更に二割減。
白雪の現在の総MP:(年齢分妖力)+(装備品を含めた魔力)+(回復した信仰による神力)=114+86+30=230
その二割で、幻と実体の結界使用分は46
実質MPは陰陽玉供給分も引いて230-20-46=164
計算式を書いておいてなんですが、白雪のMPをいちいち覚える必要はありません。なんとなく弱くなったな、程度に理解していただければ問題ありません。