私がデフォルトで持っているのは神力(一般八百万神ぐらい)、魔力(絶大)、妖力(膨大)。ただし神力は密度が高いから妖力換算にすると合計大妖怪十数匹分である。我ながらいかれたチート具合だ。
そんな馬鹿みたいな化け物パワーがあっても霊力だけは持っていない。が、自在に変換できるの無問題。扱い方と修行法は心得ている。私の能力は力を操る程度の能力。誰よりも力に関する知識は深いと自負している。
焼け落ちた神社は建て直す際に博霊神社から博麗神社に改名した。`霊´だと妖の気配がするが`麗´だとやってくれそうな感じである。なんかしっくり来るし。……というのは理由の一端で、メインの目的は私の意識切り替え。カヤの為に造って半ば惰性で存続してきた神社ではなく、本格的に幻想郷を守るための神社とする、その区切りを私の中で付けたかったのだ。
心機一転私は巫女に修行をつける。毎日朝から晩までそれは容赦無く。泣き言を言われるが華麗にスルー。
「諦めんなよ、諦めんなよ、お前!! どうしてそこでやめるんだ、そこで!! もう少し頑張ってみろよ! ダメダメダメダメ諦めたら。周りのこと思えよ、応援してる人たちのこと思ってみろって。あともうちょっとのところなんだから。ずっとやってみろ! 必ず目標を達成できる! だからこそNever Give Up!」
「そんな事言われても天狗に速さで勝つなんて無茶ですよー!」
だよね。
ただ今未来の幻想郷最速、射命丸文と巫女さんで幻想郷一周競争をさせている。
一刻遅れて出発したにもかかわらず背後に迫る烏天狗に巫女さんが弱音を吐いていた。私は神社の縁側でのんびりお茶をすすりつつ、通信用陰陽符で励ます。この位置からは視力を限界まで強化しても豆粒にしか見えない。
「がんばれがんばれできるできる絶対できるがんばれもっとやれるって!!」
「あああぁあ無理です無理無理無理ー!」
切羽詰まった感じの声に笑ってしまった。
この競争、御褒美と罰付である。文が勝ったら「河童と共同開発!最新式白黒カメラ十枚撮り!」をプレゼント。巫女さんが勝ったら「採れたて海の幸!新鮮魚介類八種盛り!」を食べさせてあげる(提供:紫)。こちらは負けたら夕食抜き。
双方必死だ。この時代、カメラは一部の河童によるオーダーメイドでしか手に入らないので文は気合いを入れる。幻想郷は内陸で新鮮な海産物など普通お目にかかれないので巫女さんも気合いを入れる。
速く飛ぶには霊力操作も重要だが慣れも必要。天狗に追われて全力で飛んでいれば嫌でも空を飛ぶという感覚に慣れるだろう。
お茶受けのまんじゅうが空になる頃、巫女さんを抜き去った文が私の前に降り立った。
「大勝利です!」
「見れば分かるよ」
期待に満ちた目を輝かせる文に苦笑いしてカメラを放り渡した。
写真機写真機と嬉しそうにカメラを弄り回す文は子供の様だ。実際妖怪化して半世紀に満たない。妖怪の感覚だと子供である。
この時代はまだ新聞(瓦版)の概念が無いため写真撮影はただの彼女の趣味だった。噂好きの仲間内で、集めた情報と一緒に証拠写真を見せびらかして悦に浸っているらしい。ただでさえ天狗なのにますます天狗になっていると聞く。
妖怪の山の統治者が未だ鬼のままなので天狗の仕事は少ない。それで暇を持て余してネタ探しにうろついていたのを捕まえたのが彼女との出会いだ。
その時に未来の文屋の速度は如何ほどかと幻想郷や鬼達の昔話を餌に競争を仕掛けたが、私が勝ってしまった。直線飛行なら天魔様の次に速いのに!と打ちひしがれていたのが印象的だった。ごめんね、私は鬼より強くて天狗より速くて誰よりも長生きなんだ。
わっほいわっほいまだ喜んでいる文に一声かけてお帰り頂き、ふらふらゴールした巫女さんを迎える。
「お疲れー」
「……やっぱり夕飯は抜きですか」
「水は飲んで良いよ」
「あうー……」
よろよろ水を飲みに行く巫女さん。子供っぽい言動をとるが二十代に入った大人であり、一食抜いてもどうという事は無い。
巫女さんが小休憩をとっている間に私は陰陽玉を改良する。一度分解して博麗神社に仕える巫女の霊力にのみ反応起動し、自動で敵に弾幕をばらまくように回路を組んでいるのだがなかなか難しい。巫女さんの霊力を消費したのではあっと言う間にエネルギーが尽きるので、現在の私の力の一割を陰陽玉に転送・使用するように調整中である。私がどこに居ようと力のラインが繋がるようにしなければならないので設定が七面倒臭い。
その分完成してしまえば修行不足の新米巫女でも単独で大妖怪と渡り合える目算だった。
さて、水を飲んで戻って来た巫女さんを隣に座らせ、陰陽玉の改造ついでに座学の時間。
「ここの紋様の意味は?」
「弱体です」
「具体的に」
「えーと、妖力を拡散させる事で動きを鈍らせます」
「そう。人間とか神様とか魔法使いには効かないから気を付けて。神様対策の紋様はこっち」
「神様対策って……いいんですか?」
「あー……不幸な行き違いで神様と戦う事もあるかも知れないから念のため」
「はあ」
「これは信仰を神力に変換するのを一時的に阻害する機能がある。流石に私でも神力そのものをどうこうはできないからね」
「そんな事していいんですか」
「普通は駄目だけど博麗の巫女の特権だね。アミュレットの構造は絶対に外に漏らさないで。収拾つかなくなるから」
「はい!」
「うん。それでこれが魔法使いとか悪魔用の魔術紋章。西洋術式だから今は使わないけど、段々必要になってくると思う」
「どんな効果ですか?」
「んー……色々混ざってるけど……基本的に嫌がらせかな」
「い、嫌がらせ……」
「極端な話、勝負は相手の嫌がる事をした方が勝ちだからね。精神に働き掛けて魔法族が嫌がる類の現象を幻視させたり、口の動きを狂わせて詠唱の邪魔をしたり」
「…………」
「えげつないって顔してるね」
「い、いえ、そんな事は」
「本当は?」
「……少しだけ」
「何も思わなかったらそっちの方が問題だからそれで良いよ。えー、で、巫女さんは霊力で攻撃する訳だからその邪魔にならないようにその歪んだ黒丸っぽい紋から出た線が……」
「あのっ」
「あ、質問?」
「違います。どうして私の名前で呼んで下さらないのかと」
「ああ、私にも色々あるんだよ。色々ね……」
巫女さんは普通の人間であり、百年足らずで死ぬのが分かっている。死んだ時悲しみたくないので一線を引いて名前で呼ばない。巫女さんは皆巫女さんと呼ぶ。一種の逃避だが、親しい者が死んで逝くのを見る度に私の心は妖怪になっていくのだ。既に思考回路は妖怪のそれにかなり近付いてしまっているがせめてもの抵抗である。
もう不死かそれに近い存在以外と深い親交を結ぶ気は無い。
「いいから続きいくよ。ここの私の名前が式神を作る術の一部を元にした霊力供給回路の核になっていて……」
この日は巫女さんの頭がショートしかけるまで知識を詰め込んだ。霊力操作が完璧なら知識など後からついてくるが、何の能力も無い巫女さんにそれを求めるのは酷だ。
今はただただ頑張れ、ほんの十年ぐらいで修行は終わるから。
白雪、若干弱体化。MP一割減。
白雪の妖力は百年生きた妖怪の妖力をMP1とすると、陰陽玉作製直前時点で(年齢分妖力)+(装備品を含めた魔力)+(信仰による神力)=110+80+10=200。
その一割だから陰陽玉に使用されているMPは20。