最近幽々子が閻魔に幽霊管理を命じられた。「それが貴女にできる善行です」とか何とか上から目線で言われたらしいが幽々子は楽しそうである。能力ゆえか幽霊亡霊人魂はほとんど幽々子の言う事を聞くので楽だと言っていた。
管理を任されるのに伴い白玉楼が冥界に移された。遊びに行くには少し面倒な手間を取るようになったが仕方ない。
ちなみに妖忌は幻想入りしていない。西行寺本家の門番を継続していると聞いている。平安京は強い妖怪が多いから剣の腕を磨くにも困らないとのことだ。
それを言うなら幻想郷も負けず劣らず妖怪だらけなのだが、本家への義理がどうとかこうとか……妖忌頑張れ。超頑張れ。
まあそれで白玉楼へ行くより紫の家へ行く方が楽なのでそちらに向かって飛んでいるのだが……森の上空でマナと藍がドンパチやっている。
あれれー、マナさん半透明で禍々しい気配出してるんだけどー。もしかして怨霊になってる?
「藍、マナはどうしたの?」
「あ、白雪様! 今立て込んでいます。しばしお待ちを!」
「邪魔をするな八雲の犬め!」
「私は犬じゃない、狐だ!」
真剣な顔の藍と憎悪むき出しのマナが弾幕を撃ち合う。互いに小弾をばらまいていたが、藍のレーザー弾幕が命中してマナが逃げて行った。
「ふう。毎日毎日何度も何度も……」
「お疲れー」
「ああすみません。紫様に御用事ですか」
「用ってか遊びに行くだけなんだけどね。マナは何? やけに若い姿のまま怨霊になってるように見えたよ」
「はい、怨霊になりましたね。流行病で死んだと思ったらこうなりました。成仏させようにもいつもあと少しの所で逃げられるんです。私はもう、そういうものだと諦めました」
「紫に相談した?」
「見ていて面白いし片付けるのも面倒だから自分で何とかしなさい、と」
「うわぁ……」
紫も適当だな……引っ掻き回すだけ引っ掻き回して後は傍観か。収拾つかなくなるような事態は起こさないけどさ、皺寄せは全部藍に行くんだよね。藍も頑張れ。超頑張れ。
「ああそうだ、紫様はまだお休みですが」
「……昼なのに?」
「はい」
「そう。わざわざ起こすのも何だし今日はいいか。また今度にするよ、手間を取らせて悪かったね」
「そうやって労って下さるのは白雪様だけです」
少し気をつかっただけで感激している藍。彼女は幻想郷一の苦労人なのではなかろうか。出来ない事を出来ないと言えない職場だもんね……御愁傷様です。
去り際に無理をするなと言って妖怪の山へ向かった。宿儺のねぐらを訪ねるつもりである。
私は永遠亭(竹林)、白玉楼(冥界)、紫の家(時々場所や構造が変わる)、宿儺のねぐら(妖怪の山)、神社(姿消して本堂)をローテーションして泊まっている。一応永遠亭在住と名乗っているが幻想郷内をふらふらしている。理由は三つ。
まずは永琳の薬の材料調達。あらゆる薬を作る程度の能力も原料が無ければ意味が無い。永琳は隠れ住む身であり大っぴらに動けないので、私があちこち訪ねるついでに調達している。
次に竹林に引き籠もっていても退屈だから。輝夜は暇過ぎてワンサイドゲームでもそれなりに楽しんでいるようだが、私は三日で飽きた。色々な場所を訪ねれば色々な体験ができる。ついでに輝夜への土産話もできて一石二鳥だ。
最後は旅好きだから。
妖怪の山の頂上に着くと、宿儺が分身して数人の鬼とそれぞれ一対一で組み手をしていた。その中に勇儀と萃香の姿も混ざっている。
二人とは白玉楼建設の手伝いをしてもらった時からの仲で酒飲み仲間である。私はかなり酒に強い方だが、鬼は皆水のように酒を飲むので飲み比べで勝った事は無い。連中の胃はどうなってるんだ……
宿儺の下段中蹴→小拳連打→アッパーのコンボを食らって吹っ飛んできた萃香の足を空中キャッチする。
「うーん痛いなー……あれ、白雪発見」
逆さまのまま瓢箪の酒を飲む萃香。酒臭っ!
「や、酔いどれチビ鬼」
「む、自分も両方小さい癖に!」
「言ったな?」
足を掴んだまま猛スピードで地上に突っ込み、激突寸前で離してやる。隕石の落下地点のような穴の中心で萃香は地面にめり込んだ。流石鬼、気を失ってはいない。
「スイカ割りって楽しいよね、割ると赤い身が出てきて。今秋だけど」
気を失った方が良かった、という顔で青褪めたスイカは慌てて霧状の妖力に霧散して消える。
ははははは、私相手に「妖力」になって逃げようとするとは滑稽極まりない。さてどうしてくれようか。
「余り苛めてくれるな。あの子は四天王の中では一番若い」
組み手をしていた鬼達を全員捩じ伏せた宿儺が一人に戻って寄ってきた。相変わらずプロポーション抜群の美人さん。身長と胸、私と足して二で割ってくれ。
「いや、本気じゃないよ?」
陥没ぐらいするかも知れないが割るつもりはない。
「白雪では冗談が冗談に聞こえぬ」
「あー……そうかもね。萃香ーっ、頭カチ割ったりしないから出ておいで!」
強制的に妖力を萃めて実体化させても良いが、穏便な手段をとる。妖力が拡散している方向へ叫ぶと、両手で頭を押さえたロリ鬼が恐る恐る出てきた。ぷるぷる震えている。
「私悪い鬼じゃないよ」
「分かってる。もう怒って無いし、退治したりしないから大丈夫だって」
頭を撫でてやるとびくっとしたが、優しくしてやると安心して素直に撫でられた。しばらくそのままだったがはっとして手を払い除けられる。
「子供扱いするなー!」
「私から見れば誰でも子供だよ。年齢的に」
「背は私の方が高い!」
「角を入れればね」
「これは体の一部だもん」
「……折ろうかな」
ぼそっと呟くと萃香はわたわた宿儺の後ろに隠れた。いつの間にか復活した他の鬼達は私達三人を酒の肴に酒盛りを始めている。勇儀は同じ四天王なのに笑ってばかりで助けない。鬼だ。鬼か。
結局角が身長に含まれるか含まれないかの口論は、宿儺の仲裁により「全長には入るが身長には入らない」という事で決着した。根本的解決になっていないが萃香は納得したらしい。
万事丸く収まってから全員で宴会に突入。鬼の酒は美味しくて手が進むが度数が強い。私は真っ先に酔い潰れた。
で、翌朝起きると宿儺に衣を脱がされて裸抱き枕にされていた。昨日の記憶が無いぞ……私の貞操は守られたよな……