幽々子が亡霊になってからすぐ、私は師匠とマレフィにだけ行き先を告げて平安京から姿をくらました。妖忌の事やら幽々子自害に関する情報操作やらは紫に丸投げである。
肩の荷を全て降ろした私はスキマで幻想郷に直通、一瞬で帰郷する。
時々様子を見に行っていたので懐かしくは無いが安心感がある。ここは私の妖怪としての生まれ故郷なのだ。
ぷらぷら博霊神社に向かうと巫女さんがまた代変わりしていた。十年くらい前に来た時の巫女は高齢だったからな……
えーと、ひのふのみ……これで二十三代目? 全員見事に血縁が無いけどよく継承が絶えないもんだ。
縁側で陰陽符を作っている巫女さんの隣に姿を消して座る。一瞬不思議そうに私のいる場所を見る巫女さん。
しかし首を傾げて作業に戻った。博霊神社に神様いないって人里で聞くけどしっかりいるよ。時々だけど。
ポルターガイストー、などと勝手に床の札に退魔紋を書いたら巫女さんが飛び退いて臨戦モードに入った。
透化した私を見つけようと両手に陰陽符を構えてこちらを睨む。おおこわい。
見破れるもんなら見破ってみな、と余裕ぶっこいていたら私の顔面に弾幕が命中した。しまった、そりゃあ筆持ってりゃ大体の位置はばれるわ。
でも別に痛くないしいいかなとそのまま弾幕の雨に打たれつつ退魔紋をびっしり書き込む。すると巫女さんが攻撃を止めてがっくり膝をつき泣き出してしまった。
正体を見破れず攻撃も効かないのがショックだったらしい。
あまりにも悔しそうに泣き続けるので罪悪感を感じ、姿を現して慰めてあげた。怯えないよう神力だけ出す。
背中を撫で頭を撫でしていると巫女さんは泣きやんだ。ぽかんとして私を見る。
「小さな神様……」
小さい言うな。諏訪子よりは大きい。
「ごめんね、ちょっとした悪戯心だから気にしないで。お詫びにさっき書いた札あげるから」
「あ、ありがとうございます?」
手に札を握らせる。そこに隙間無く書かれた紋様に目を見張る巫女さん。平安京で学んだ古今東西の魔除けである。
「それ、しばらく留守にしたお詫びも込みで」
「え?あ、あなたはもしや博霊神社の――――」
最後まで聞かず逃げ出した。私の家は永遠亭、正体ばれして神社に祭られるのは嫌だ。疑われるぐらいなら構わないがはっきり悟られると駄目神みたいな呼ばれ方をしそうで怖くもある。
迷いの竹林に姿を消して飛びながらふと神の意義について考えたが三分で面倒になった。社の無い神だっているんだから神の居ない社があってもいいじゃないか。
……や、こんな所が駄目神っぽいのかな……
迷いの竹林に着くと相変わらず霧がかかっていた。あやめの力は今も健在である。
迷わず真直ぐ永遠亭の方向に進んでいくと、途中の畑に大根やら白菜やらが植えられていた。兎が自家栽培しているのは人参だけのはず……
もしやまさかいや違いないとはやる心を押さえ付け、特急で永遠亭まで急いだ。玄関の前で土煙を上げて急ブレーキ。その辺りでたむろしていた妖怪兎が驚いて屋敷の中に逃げていった。
ドキドキしながら私も中に入る。廊下は綺麗に掃除されていた。集中して探ると兎の気配に紛れて懐かしい力が一つ、知らない力が一つ。覚えのある方へ向かう。
廊下を渡り、そっと障子を開けると中で薬草をすりつぶしていた永琳が振り向いた。私の記憶と寸分違わぬ姿で彼女はそこにいた。
「や。一万年振りくらい?永琳」
「あら久し振りね、白雪。ここ貴女の屋敷でしょう?借りさせてもらっているわ」
別れてから気の遠くなるような年月が経っているというのにお互い昨日会ったばかりと言った調子だ。
私は構わないよ、と答えて永琳に歩み寄り、黙って抱き付いた。されるがままで薬の調合を続ける永琳。
しばらくそのままでいたが、満足して離れると永琳は私を見下ろして呟いた。
「白雪は小さなままねぇ」
「永琳は大きなままだね」
身長も胸も。
「縮んだり小さくなったりしたら困るもの」
事も無げに答える永琳。心の中で付け加えた言葉も伝わる、それが永琳クオリティ。半端ないです。
「あ、そうだ永琳、大きくなる薬作って。私にも効くやつ」
「嫌よ」
「なんで?」
「あなたは両方小さな方がいいわ」
脊髄反射で殴りかかったがかわされた。永琳は見て避けるのではなく、的中率100%の予測をして避けるので質が悪い。
「いーよいーよ。私はどうせ一生超合法ロリだから」
拗ねてみせると苦笑して頭を撫でられた。母子のような雰囲気だが、どちらが娘に見えるかは言うまでも無い。
カリスマか? カリスマが足りないのか?
「永琳、月の使者を虐殺して蓬莱山輝夜と逃げたんだって?」
「事情は知ってるのね……姫様なら奥の部屋よ」
「ああ、うん……永琳以外の月人は嫌いなんだよね。今の人間と比べると頭はいいけど、格段に冷酷残虐で自尊心が高いわ排他的だわ妖怪を殺し尽くすわ……輝夜もそんな感じ?」
「まだ月での身分を忘れられないようね。でもほとんど地上に慣れているわ」
良かった、とりあえず出会い頭にレーザー銃で打ち抜かれたりはしなさそうだ。そもそも今地上にレーザー銃は無いけど。
「しかし殺しても死なない人間、か……」
「殺さないで」
「殺さないよ、少し話すだけ。私はあまり帰らないから、屋敷は今まで通り好きに使って」
「助かるわ。姫様の遊び相手になってくれると更に助かるのだけど」
「りょーかい」
永琳に手を振って別れた。
屋敷の奥で退屈そうに妖怪兎を弄っていた輝夜は私と会うと嬉々として遊ぶ事を要求してきた。簡単に名乗りあった後、双方弾幕が撃てるのでまずは弾幕合戦。輝夜は不老不死だし私は規格外なので全力勝負をした。
第一試合、輝夜消し炭。私は無傷。
第二試合、輝夜粉々。私は無傷。
第三試合、輝夜真っ二つ。私は無傷。
以下略。
ごめん永琳、殺っちゃったぜ。
五回瞬殺し、七回一方的にぶちのめした所で輝夜が怒ったので中止になった。強過ぎると文句を言われたが仕方ない。戦いの年季が違うのだよ。
弾幕合戦では圧勝だったが、続く囲碁対局ではボロ負けした。まるで歯が立たない。盤面が一色になった時は泣いた。
嘘みたいだろ……これで私の囲碁歴百年越えてるんだぜ……
いかんな。弾幕にしてもボードゲームにしても実力差があり過ぎてて勝負にならない。私も輝夜も手加減する気が無いのだ。
それでもまた遊ぼうと言うあたり、輝夜の退屈度合いは深刻だと思った。良く言えば深窓の姫だけど悪く言えばNEETだもんね。
輝夜は弾幕も囲碁も永琳は自分より少し弱いと言っていたが、それ主の顔を立てて手加減されてるから。永琳が本気出したら輝夜が勝てる訳無い。
ちょっと水橋さん連れて来い、主思いの優秀な従者を持った輝夜への私の感情を代弁してもらう。
かぐや が あそびなかまになった!
しらゆき は おんみょうじ から ダメなかみさま に ジョブチェンジした!