本編とは関係無い話だけど、絶対に「エイリアン」→「エイリン」→「永琳」だと思う
人間の産業は昔を辿るほど第一次の割合が増える。第一次があるから第二次があり、第二次があるから第三次の余裕がある。
神は基本となる第一次産業、つまり農耕に関する力を持つ者が多い。有名な神には戦を司ったり厄を集めたりする奴がいるが、八百万の神全体で見れば農耕の神が大多数を占める。
諏訪子は祟り神、神奈子は軍神だが二人共農耕系スキルがある。
私は妖力甚大で戦闘力に優れるが、神力は大した事が無く神の格が低い。妖怪退治はできるが民草の生活の根幹を支える農耕の手助けは出来ない。
そういう話をすると、神としてけしからん、という神奈子が神力講座をしてきた。
力を操る程度の能力があるので神力の使い方自体は分かっている。ただ絶対量が足りないので起こせる奇跡がしょぼいのである。
熱弁を振るう神奈子にそれを説明するとがっかり顔で引き下がった。ちなみに一連のやり取りの間諏訪子はふて寝していた。
真実信仰されているのは守矢=諏訪子だが表に立つのは神奈子に変わった。人前に姿を現してあれこれ行うのは全て神奈子なので諏訪子は暇そうである。社での実務をちょろちょろやるぐらいだ。
私は大体諏訪子と遊ぶか近くの里を隠行して見て周るかして日々を過ごした。最低でも神奈子と諏訪子の仲が安定するまではここにいるつもりだ。
「それじゃ私が居なくなっても喧嘩しないように」
「分かってるわよ。淋しくなるわね」
「時々自分の社にも戻りなよー」
三度笠を被り、麻袋を背負って二人に手を振った。居心地が良く百年近く居着いてしまった諏訪大社に別れを告げる。
ここ十数年で守矢一家の一員になりかけているのに気付いて旅を再開することにした。地域に根をはってしまえば容易に旅に出られない。幻想郷を出てきたような手段を何度も取るのは流石に無責任に過ぎる。
二人共私の強さを知っているので道中気をつけてなどとは言わない。二人の喧嘩を(力づくで)止めるのはいつも私だったのである。
また会うのは風神録の時……二千年と少し先か。これだけ栄華を極めている神社も幻想入りするのだから諸行無常とはよく言ったものだと思う。
互いに姿が見えなくなるまで手を振り続け、百年ぶりの一人旅が始まった。
友人と千年単位で別れを告げるのは私の宿命なのかねぇ……
はてさて今日も道無き道を行く。平安京もまだできていないし人間が集まる大規模な都市も無い。里と里、村と村を繋ぐのは獣道を利用した儚い道。数日通らなければ草に埋もれるものも多い。
名所巡りをしようにも名前がついていない山やら湖ばかりでよく分からん。いや一応ついてるんだけど裏山とか何とかさん家の池とか特定地域でしか使えない名称だった。
そういう事でふらふらよろよろいい加減に旅をした。
雪崩に遭って脱出が面倒臭くなり春まで埋もれたり、襲ってきた熊を襲い返して美味しく頂いたり、温泉を見つけたので岩を集めて整備してみたり、猛毒茸を食べてむせたり、妖力を出している時に退治に来た妖怪退治屋をボコボコにしたり、やり過ぎたので癒したり、海岸で大量に貝殻を拾って二メートル弱の貝塚を意味も無く乱立させたり、それを崩しやがったどこぞの鬼を賽の河原か! と叫びながら水平線の彼方へ放り投げたり、湖で水浴びをしていたら近くの茂みで男がハアハアしていたので蹴り回したり、蹴れば蹴るほどますます興奮するのでどん引きしたり、蜂の巣を見つけたので蜂蜜を採ろうと思ったらスズメバチに乗っとられていたので燃やしたり、飛び火して山火事になって慌てたり。
色々あった。
そして季節が幾度も巡り過ぎ、村と村が纏まり国の様相を呈してきた頃。
私はとうとう彼女に遭遇した。
満天の星空に満月が輝く。満ちた月はルナティック、妖怪に妖気と狂気をもたらす。私は平気だが元々騒がしい妖精などは特に活発になる。
「丸い月にはどうして人間も妖怪も心惹かれるのかな。月が恋しくて移住した連中も居るし……ねえ、何でだろうね?」
後ろを振り返り虚空に向けて言う。しばしの沈黙を経て空間が揺らぎ、一人の少女が現れた。
「勘の鋭い妖怪ね」
「いやあ、姿は完璧に隠れてたけど妖力駄々漏れだから」
弱めの妖精程度の妖力でも私にとっては辛口カレーの匂いに等しい。
紫のドレスを優雅に着こなし扇子で口を隠し、夜なのに傘をさした金髪少女はうさん臭い笑みを浮かべた。八雲紫、神隠しの主犯。個人的には好きな妖怪なんだけど実際に遭うと煙に巻かれてハメられそうな雰囲気が……どうこうされるつもりは無いけど。
「最近変な妖怪の噂を聞いたのよ」
「そうだね、紫ほど変な妖怪はそうそういない」
「あら、私の名も有名になったわね」
「結構有名(未来で)」
「それで人を食べない妖怪がうろついていると。貴方の事でしょう? なぜ食べないのかしら?」
「好み」
即答すると紫は笑みを深くした。
途端、私の精神がじわりと浸蝕されるのを感じた。これは……食欲の境界?
抵抗力と精神力を上げて干渉を弾くと下手人は目を細めた。出合い頭に何しやがる。
「……強い妖怪ね。私では敵いそうに無いわ」
「の、割には余裕そうだね」
「逃げればいいもの」
あっそう。
さーて私に人間を喰わせようなんてオイタをした隙間妖怪には……
フルボッコ
ぶちのめす
はったおす
とっちめる
やっつける
→はなしあう
紫とは友好関係を築きたい。私から見れば妖怪も神も人間も皆年下だ。多少の悪戯は可愛いものである。
スキマを開いてスルリと身を滑りこませようとした紫にほとんど瞬間移動で接近、腕を掴んで引き摺り出した。観察力を上げてみるとうさん臭い笑みが引きつっている。私は極上の笑顔をプレゼントした。
「さて、`オハナシ´しようか」
ただしなのは式のな! 人の精神を弄ろうなんて可愛い悪戯の域を越えてるんだぜ!
そこからは(紫にとって)地獄絵図だった。何とか逃げようとスキマを開くが、妖力が少ないせいかまだ一度に一つしか開けないらしい。更に操れる境界は一つっぽい。
存在・精神干渉は効かず、飛んで逃げれば追いつかれ……開いた隙間は干渉力と存在力を上げた手で縁を掴んで無理矢理閉じてやった。それを見た紫は扇子を取り落としていた。
私にちょっかいをかけようとしたのが運の尽きなのさ!
逃げる、追う、逃げる、先回りする。直接攻撃してこないのは実力差が分かったからだろう。賢明な判断だが私からは逃げられない。
「つーかーまーえーた~」
空中で襟首を掴んでぐったりした紫を猫の様にぶら下げた。憔悴した紫……レアだ。写真に撮っておきたい。
地面に下ろすと紫はよろめきながら木にもたれかかった。
「気力も無くなったところで質問の時間」
尋問の間違いでしょう、と呟かれたが気にしない。
「私に人間を食べさせようとした理由は?」
「人間を食べない妖怪がいるって噂が流れていたのよ」
「それはもう聞いた」
「だから食べさせてみようと」
「……え? それだけ?」
「それだけよ。悪気は無いわ」
判断力や洞察力を上げてみたが嘘を言っている気配は無い。
悪意が無いなんてなお質が悪い。そういえばうさん臭さばかり目立って忘れてたけど、紫ってお茶目さんだった。なんか怒る気失せたな……
「はぁ、まーこの事は水に流そうか。話変わるけど紫、私と一緒に来ない? 紫と一緒の旅は面白そうだし。それともここに残る? 幻想郷に行ってもいいけど」
紫は扇子で口元を隠して思案した。
「幻想郷の噂は聞いた事があるわ。人妖問わず門戸を開いているとか……貴方に関係があるのかしら」
「社がある。幻想郷は全てを受け入れるよ、例え一人一種族のスキマ妖怪でも」
「残酷な台詞ね」
私と紫の視線が交差した。
「悪人も善人も、大妖怪も神も全てを受け入れる。それでは新参者は後ろ盾も無く血で血を争う闘争が起き、いずれ力関係が崩れて崩壊するわ」
重々しく言う紫の台詞は肩をすくめてさらりと流した。そりゃ考えすぎだ。
「暗い未来絵図だね。きっと私の巫女が上手くやってくれるよ」
「楽観視するのね?」
「`私の´巫女だよ?」
ニヤっと笑うと紫も笑った。こんな時もうさん臭い笑みである。
「喜んで貴方に着いていかせてもらうわ。色々と面白そうだし。気が向いたら幻想郷に行くけれど」
「ああ、構わないよ」
旅は道連れ。私と紫は期間限定で一緒に行く事になった。