第五十一話 機動六課
【Side ティアナ】
私達は、八神二等陸佐とテスタロッサ執務官に応接室に案内され、リインフォース空曹長を含めた3人から新部隊の設立について話を聞いていた。
それは、4年前の空港火災を切っ掛けに、八神二等陸佐が事件に対して即座に動ける少数精鋭のエキスパート部隊を持ちたいというものだった。
「・・・・・とまあ、そんな経緯があって、八神二佐は新部隊設立のために奔走」
「4年ほどかかって、やっとそのスタートを切れた、というわけや」
「部隊名は、時空管理局本局、遺失物管理部、機動六課だ」
「登録は陸士部隊。フォワード陣は陸戦魔導師が主体で、特定遺失物の捜査と、保守管理が主な任務や」
テスタロッサ執務官、八神二佐、リインフォース曹長が説明する。
「遺失物・・・・ロストロギアですね?」
私は確認する。
「そう」
八神二佐が頷き、
「でも、広域捜査は一課から五課までが担当するから、うちは対策専門」
テスタロッサ執務官が捕捉する。
「そうですか」
因みに、その途中、スバルから「ロストロギアってなんだっけ?」というバカげた質問が念話でされて来たので黙らせておいた。
「で、スバル・ナカジマ二等陸士、ティアナ・ランスター二等陸士」
「「はい!」」
「私は、2人を機動六課のフォワードとして迎えたいって考えてる。厳しい仕事にはなるやろうけど、濃い経験は積めると思うし、昇進機会も多くなる。どないやろ?」
八神二佐は、真剣な表情で問いかける。
「「ああ・・・・えと・・・・」」
私達は困惑する。
そんな私達にテスタロッサ執務官が言った。
「スバルは高町教導官に魔法戦を直接教われるし・・・・・」
「はい・・・・」
「執務官志望のティアナには、私でよければ、アドバイスとか出来ると思うんだ」
「あ・・・いえ、とんでもない!・・・・と言いますか、恐縮です・・・・・と言いますか・・・・」
私は困惑を続ける。
すると、
「後な、ティアナ二等陸士にはお兄さんがおるやろ?」
いきなりそんな事を八神二佐が聞いてきた。
「えっ……は、はい」
私は一瞬驚くが、慌てて頷く。
「そのティアナ二等陸士のお兄さん、ティーダ・ランスター三等空尉もな、機動六課の小隊の副隊長の任を要請して、それを受領してもらっとる」
私はその言葉を聞いて驚いた。
「兄さんを………副隊長に………?」
私は思わず呟く。
あの『血塗られた聖王』に助けられたと聞いて以来、兄さんの昇進の機会はほぼ絶望的と言っていいくらい断たれた。
「な………何で………?」
私は思わずそう聞いてしまった。
すると八神二佐は、何でそんな事を聞くのかと言わんばかりな表情をして、
「私から言わせてみれば、何であんな優秀な局員が未だ三等空尉の地位で埋もれとるのかが理解できんわ。 万年人手不足の管理局で、優秀な人材を活用せんなんて、彼の上司はアホやとしか言えんな」
そう溜息をつきながら、兄さんの上司を扱き下ろす八神二佐。
私は、兄さんを正しく評価してくれた事に泣きそうになった。
「ありがとう………ございます」
私の口からは、自然と感謝の言葉が漏れる。
「別に礼を言われるような事やないで。 優秀な人材を相応しい所で活用する。 当然の事や」
八神二佐はそう言う。
すると、
「取り込み中かな?」
高町二等空尉が近付いてきた。
「平気やよ」
八神二佐がそう言って、席を詰めてスペースを空ける。
高町二尉はそこに座った。
「とりあえず、試験の結果ね」
高町二尉の言葉に、私達は気を引き締める。
でも、内心は不合格である事を覚悟していた。
理由は、大犯罪者である『血塗られた聖王』の魔法、ガルルキャノンを使ったから。
私もスバルも、犯罪者とはいえ『血塗られた聖王』に嫌悪感は持っていない。
スバルは、高町二尉と並んで命の恩人という話だし母親であるクイントさんも救われたという噂もある。
私にしても、兄さんの命の恩人だから。
だから、私もガルルキャノンを使う事自体に反対は無かった。
けど、他の局員にしてみれば、イメージは最悪だろう。
「じゃあ、初めに試験の合否だけど………」
高町二尉の言葉に合わせて、私もスバルも気が重くなる。
「「………はい」」
思わず気落ちする声が重なる私達。
そして、高町二尉の口から結果の報告が………
「………合格!」
「「…………はい………えっ?」」
不合格を覚悟で返事をしたけど、改めて高町二尉の言葉を思い直して声を漏らした。
「如何したの? 合格したのが信じられないって顔してるね?」
高町二尉が不思議そうにそう言ってくる。
「2人とも、技術は特に問題なし。 危険行為も少なかったし、Bランクには十分だよ」
「えっ? で、でも私達………」
「そ、その…………」
私達は口籠る。
「もしかして、『血塗られた聖王』と同じ魔法を使ったから、何て思っとるんか?」
八神二佐が的確に突いてくる。
「「は、はい………」」
私達は頷いた。
「心配せんでも、私らはそんな事で不合格にしたりはせえへんよ。 むしろ歓迎やな」
八神二佐はそう言ってくる。
最後の言葉は聞き取れなかったけど。
「で、如何する? この話を受けるか否か」
「えっと………その………」
八神二佐の言葉に、私とスバルは顔を見合わせる。
「自分の将来に関わる事やで、ゆっくり考えてや………って言いたい所やけど、準備があるから今日中には決めて欲しい」
八神二佐はそう言った。
「…………午後まで考えさせて下さい」
私は、とりあえずそう答えた。
結局、私達はその話を受ける事にした。
正直、私は迷ってた。
私みたいな凡人が、精鋭部隊の中でやっていけるか不安だった。
でも、スバルの言葉で決心した。
スバルの言葉が切っ掛けになったのは少し癪だけど。
私達は、機動六課フォワードの任を受ける事を八神二佐に伝えた。
すると、八神二佐はにっこり笑って、
「そか。 なら、スバル・ナカジマ二等陸士、ティアナ・ランスター二等陸士。 機動六課は2人を歓迎するで」
「「はい! よろしくお願いします!」」
私達は、起立して敬礼する。
「こちらこそ。 でな、機動六課に入るにあたって、ちょっとした課題があるんよ」
「課題……ですか?」
続けて言われた八神二佐の言葉に私は声を漏らす。
「そや。 入ってきていいで!」
八神二佐は私の言葉に頷くと、後ろの扉に声をかける。
すると、扉が開き、高町二尉そっくりの女性が………って、
「「さ、桜さん!?」」
私達は、驚きの声を上げる。
なんで、高町二尉の双子の姉で翠屋のパティシエの桜さんがこんな所にいるの!?
「ふふっ、こんにちはスバル、ティアナ」
桜さんは微笑んで私達に挨拶する。
「「あ、こ、こんにちは」」
桜さんに釣られて挨拶する私達。
「って、何で桜さんがここに!?」
スバルが疑問の声を上げる。
「それはもちろん、貴方達の課題を出すためよ」
「この課題は、桜ちゃんしか出せんからなぁ」
桜さんと八神二佐がそう言う。
「その……課題というのは一体……?」
私が尋ねると、
「簡単に言えば、これから2人には魔力向上ギプスを付けてもらう」
八神二佐が答えた。
「魔力向上ギプス………ですか? 魔力負荷をかけて、魔力の総量を増やす………」
私がそう尋ねると、
「まあ、似たようなもんやな」
八神二佐はそう言う。
でも、正直何で今更って考えてしまう。
魔力向上ギプスは結構一般的で、魔法学校の初等科でも使われている。
当然私も使った事はあるけど、増えるには増えるけどそこまで劇的に増えるってわけでもない。
私がそう考えていると、
「初めに言っておくけど、桜ちゃんのは一般的に使われとる魔力向上ギプスみたいな甘っちょろいものじゃないで」
私達の雰囲気を悟ったように八神二佐が言った。
「「えっ?」」
私達は思わず声を漏らす。
「まあ、百聞は一見に如かず。 その身を持って体験しよか。 桜ちゃん特製『トレーニングバインド』をな」
八神二佐がそう言うと桜さんが前に出てきて、
「じゃあ、先ずはスバルから。 両手出して」
そう言うと、スバルは言われたとおりに両手を出す。
すると、桜さんは何やら呪文を唱え、右の人差し指に環状魔法陣が発生し指先に白銀の魔力光が輝く。
この前も見たけど、やっぱり桜さんの魔力光って白銀なんだ。
その指先をスバルの両手の手首辺りで一周させると、白銀の魔力光のバインドのような物が発生し、
「うわっ!?」
突然スバルの両手が手錠をかけられたみたいに引き合い、重い物をいきなり持たされたかのように下がった。
「何これ!? 重ッ!?」
スバルは驚いている。
すると、その間に桜さんはしゃがみ込み、スバルの両足首に手首と同じようにバインドらしきものをかけた。
その瞬間、足も手錠をかけられたように引き合い、
「わわわわっ!?」
突然の事にバランスを崩したスバルは派手に転んだ。
「大丈夫? スバル?」
まるでこうなる事が初めから分かっていたかのようにスバルに声をかける高町二尉。
「じゃあ、次はティアナね」
私は覚悟して両手を出す。
桜さんはスバルと同じように私の手首にバインドをかける。
その瞬間、
「くっ!?」
予想以上の重さが私を襲った。
桜さんは、私の足にもバインドをかける。
その瞬間、引きあう両足。
「ッ!」
バランスが崩れたけど、なんとか転倒は防いだ。
横を見れば、高町二尉に手を貸してもらって、スバルが立ち上がっていた。
そして、
「んぎぎぎぎぎ…………」
両手を広げようとしているのか、力を加えている。
でも、バインドは広がるどころかビクともしない。
私も力を加えてみるけど、全然ビクともしなかった。
「何これ? ビクともしない………」
力を加える事に疲れたのか、軽く息をつきながらそう言うスバル。
「筋力だけじゃ無理よ。 全身の魔力をフルに使って」
桜さんにそう言われ、私達は魔力を高める。
全力の八割以上を使って、ようやくバインドが開き始める。
なんとか両手足を肩幅まで開いた。
「こ、こんなフルパワー近くで、いつもいろっていうんですか!?」
私は思わず問いかけた。
「強くなりたかったらね」
桜さんが言った。
「そのバインドを付けて、私の訓練をちゃんとこなしていけば、半年後にSランクは保証するよ」
高町二尉の言葉に私は絶句する。
つい今日Bランクになったばかりの私達が、半年後にはSランクと言われたのだ。
驚かない方がおかしい。
っていうか、信じられない。
「まあ、言葉だけじゃ信じられないだろうけど、騙されたと思って頑張ってみて」
「序に言っとくけどな。 既にティーダ・ランスター三等空尉にも、トレーニングバンドを付けとる」
「彼なら、半年後にはSSランク行くんじゃないかしら?」
そういえば、最近の兄さんは一挙一動が必死だった気が………
これを付けてたのなら納得だわ。
「さて、さっき言った課題やけど、本格的に機動六課が始動するまでに、まだ少し時間がある。 その時までに、日常生活に支障がないぐらいに動けるようになるのが私らから出す課題や」
八神二佐がそう言った。
私は、手にかかっているバインドを見る。
流石に半年でSランクは私達のやる気を出すためのブラフだろうけど、確かにこれに慣れれば、確実なランクアップが見込めると思う。
「わかりました!」
私は返事をする。
「わ、わかりました!」
スバルも少し遅れて慌てたように返事をした。
「そんなら、これにて解散。 機動六課で会える日を楽しみにしとるで」
八神二佐はそう言う。
「「はい!」」
私達は返事をして敬礼しようとした。
でも、手が重くてそれはぎこちないものになってしまった。
「次に会うときは、ちゃんと敬礼できるようにはなっとこうな?」
八神二佐は、微笑みながら茶化すように言ってくる。
「「は、はい…………」」
私達は思わず苦笑してしまった。
機動六課………
ここなら、私でも強くなれるかもしれない。
私は、改めて八神二佐に感謝した。
あとがき
第五十一話の完成。
オールティアナサイドになってしまった。
しかもユウ君出番なし。
もしかして初めて?
スバル、ティアナ、そしてティーダにパワーアップフラグが立ちました。
さて、どんな魔改造になる事やら。
次はいよいよマギメンタルの出番です。
では、次も頑張ります。