第五十話 空への翼
【Side スバル】
小さい頃の私は、本当に弱くて泣き虫で、悲しい事や辛い事に、いつも蹲って。
ただ、泣くことしか出来なくて…………
空港火災に巻き込まれた時も、ただ泣いて、彷徨って、助けを請うことしか出来なくて。
でも、そんな私を助けてくれたのが、優しい桜色の星の光と、あったかい虹色の光。
炎の中から助け出してもらって、連れ出してもらった、広い夜空。
冷たい風が優しくて、抱きしめてくれた手が、温かくて。
助けてくれたあの人は、強くて、優しくて、カッコ良くて。
泣いてばかりで、何も出来ない自分が、情けなくて。
私はあの時、生まれて初めて、心から思ったんだ。
泣いてるだけなのも、何も出来ないのも、もう嫌だって。
“強くなるんだ”って。
私は、私が変わる切っ掛けとなったあの火災を思い出しながら集中している。
そして、私は目を開き、
「はっ! やぁっ!」
これから始まる試験に対し、気合い十分でシャドーを始めた。
そうやってシャドーを続けていると、
「スバル、あんまり暴れてると、試験中にそのオンボロローラーが逝っちゃうわよ」
コンビのティアが不吉な事を言ってきた。
「うぇ~。 ティア~! やな事言わないで! ちゃんと油も注してきた!」
そんな事を言いながら、ストレッチやデバイスの確認をしていると、試験の開始時間になりモニターが開いた。
『おはよう。 さて、本日の魔導師試験の受験者2名、揃っているか?』
「「はい!」」
私とティアは返事をする。
モニターに映ったのは、翠屋の3大マスコット的存在のリィンちゃんによく似た女性。
リィンちゃんと違う所は、瞳が紅いってところかな。
因みに、3大マスコットの残りの2人は、当然アギトちゃんと久遠ちゃんの事。
序にティアは久遠ちゃんがお気に入りみたい。
顔には出さないように努力してるみたいだけど。
『では確認する。 時空管理局 陸士386部隊に所属のスバル・ナカジマ二等陸士………』
「はい!」
名前を呼ばれたので返事をする。
『ティアナ・ランスター二等陸士』
「はい!」
ティアも返事をした。
『保有している魔導師ランクは陸戦Cランク。本日受験するのは、陸戦魔導師Bランクへの昇格試験で、間違いないな?』
「はい!」
「間違いありません!」
『よろしい。 本日の試験官を務めるのは、私、リインフォース空曹長だ。よろしく頼む』
試験官、リインフォース空曹長が敬礼をしながらそう言った。
「「よろしくお願いします!」」
私達は答礼を返してコースの説明を受けた。
コースの説明を終えると、
『以上だが、何か質問は?』
リインフォース曹長がそう聞いてきた。
「え、え~っと………」
私は少し迷いながらティアを見た。
すると、
「ありません!」
ティアはそう迷いなく返した。
それを見た私も迷いが無くなり、
「ありません!」
そう返した。
『では、間もなくスタートだ。 健闘を祈る』
そう言い残してモニターが閉じ、代わりにカウントが表示される。
「レディー…………」
カウントが減り、ゼロになった瞬間、
「「ゴー!!」」
私達は駆けだした。
【Side Out】
突然だが、俺はスバルとティアナの試験会場に来ていた。
理由は、スバルの事だ。
アニメでは、空港火災の時になのはがスバルの目の前でディバインバスターを使った為に、スバルもディバインバスターを覚えたのだろう。
だが、この世界では俺が介入したために、なのははディバインバスターを使っていない。
そうなると、スバルはディバインバスターを覚えていなくて、最後の中距離攻撃スフィアを倒す事が出来ない可能性が出てきたのだ。
「はぁ………我ながら、後先考えずに行動したもんだな…………」
俺は溜め息をつきながらそう呟く。
「あら? アンタが後先考えて行動した事なんてあったけ?」
傍にいた桜がそう言ってきた。
その言葉に、俺はうっとなる。
実際、今まで考えて行動するようにしようとしていたにはしていたが、いざとなると、何も考えずに行動してしまう。
ジュエルシードの時叱り、闇の書に吸収された時叱り、ブラックウォーグレイモンの時叱り。
反論する余地が全くない。
「で? どうするの? もしあの2人がスフィアに負けそうになったら?」
桜がそう聞いてくる。
「まあ、ばれない様に手助けするか………はやてに口添えして、無理矢理合格にさせるか………」
とりあえず、あの2人ははやての計画の中に入っているので、落ちると困るのだ。
「まあ、落ちると決まった訳じゃないし、とりあえず様子を見るさ」
俺は、試験を開始したスバルとティアナの方に向き直った。
2人は、アニメと同じように順調にターゲットをクリアしていく。
そして、やはりというか最終関門一歩手前で、ティアナの流れ弾がサーチャーに当たり、モニターが映らなくなった。
「ここまではアニメと同じね。 さて、どうなる事やら?」
桜はそう呟いた。
【Side スバル】
「ゴメンティア………油断してた」
足を痛めて蹲るティアに私は謝る。
「私の不注意よ。 アンタに謝られると、返ってムカつくわ」
ティアは強がってそう言う。
「………走るのは無理そうね………最終関門は抜けられない」
「ティア」
ティアの言葉に、私は思わずティアの名を呟く。
「私が離れた位置からサポートするわ。 そうすれば、あんた1人ならゴールできる」
「ティア!」
私は思わず叫んでしまった。
「うっさい! 次の受験の時は、私1人で受けるっつってんのよ!」
「次って……半年後だよ!?」
「迷惑な足手まといがいなくなれば、私はその方が気楽なのよ! わかったらさっさと………ッ!」
ティアは、痛む足を我慢して立ち上がる。
「ほら! 早く!」
動かない私に向かって、そう怒鳴ってくるティア。
でも、私がティアを置いてけるわけ無いよ。
「私、前に言ったよね? 弱くて、情けなくて、誰かに助けてもらいっぱなしの自分が嫌だったから、管理局の陸士部隊に入ったって…………」
私は、私の思いをティアに伝える。
「魔導師を目指して、魔法とシューティングアーツを習って、人助けの仕事に就いた………」
「知ってるわよ。 聞きたくもないのに、何度も聞かされたんだから」
「ティアとはずっとコンビだったから、ティアがどんな夢を見てるか、魔導師ランクのアップと昇進に、どれくらい一生懸命かも、よく知ってる! だから! こんな所で! 私の目の前で! ティアの夢をちょっとでも躓かせるのなんて嫌だ! 1人で行くなんて! 絶対嫌だ!!」
私は思いをぶちまける。
すると、ティアは押し黙った。
あれ?
ここで怒鳴り返されるかと思ったんだけど…………
「…………作戦は?」
「えっ?」
ティアの言葉に思わず聞き返す。
「作戦よ! 2人でゴールする作戦! そこまで言うなら有るんでしょうね!?」
ティアはそう叫んでくる。
「う、うん………でも、ティア、如何して………?」
「………思い出したのよ、ユウさんの言葉」
「ユウさんの………あっ!」
ティアの言葉に、私はピンと来た。
今の状況、まさしくユウさんが言ってた状況そのもの。
「それで、如何するの?」
ティアがそう聞いてくる。
「あ、うん。 私の奥の手を使うよ」
私はそう答えた。
「アンタの奥の手………って、まさか『アレ』を使う気!?」
ティアは、驚いた顔で確認してきた。
「うん。 『アレ』なら離れた所からでも届くし………」
「馬鹿言ってんじゃないわよ! 確かに『アレ』は威力だけならAAランクを超えるし中距離程度なら届く! でも、『アレ』を使ったら、下手すればそれだけでアンタは不合格を貰うわよ!」
「あはは………確かに『アレ』はイメージの悪い魔法だけど、でも、何もせずに不合格になるぐらいなら、全力でやって不合格になるよ」
私はそうティアに笑いかける。
「はぁ………分かったわ。 意外とアンタ頑固だし」
ティアは溜息をついてそう呟く。
「じゃあ、弾道制御は私がやるわ」
と、続けて言われた言葉に、私は思わず反応した。
「テ、ティア!? そんなことしたらティアも不合格に!」
「馬鹿ね。 クロスレンジで当てるのが精一杯のアンタに、中距離射撃が出来るわけないでしょ?」
「うっ!」
更に言われたティアの言葉に、私は出鼻を挫かれた。
「それに、ユウさんも言ってたじゃない。 私達はコンビよ。 お互いを信じて力を合わせろって」
と、続けて言われたティアの言葉に、私は嬉しさがこみ上げ、
「うん!」
と笑顔で頷いた。
「フェイクシルエット……発動!」
ティアは自分の幻影を作りだし、ゴールに向けて走らせる。
その幻影が走りだして少しすると、近くのビルから魔力弾が飛んできて幻影に直撃。
幻影は消えさる。
ティアはもう1体幻影を作りだし、再びゴールに向かって走らせる。
再び魔力弾が飛んでくるけど、ティアは幻影を操作して、簡単にはやられない。
数発魔力弾が来ると、避けきれずに直撃した。
すると、
「よし! 位置は把握できた」
ティアはシルエットを解除して立ち上がり、私に向き直る。
「やれるわね? スバル」
「もっちろん!」
私は頷いて、ターゲットがいるビルが狙える所に移動する。
ティアが私の後ろで備えた。
「カートリッジロード!!」
私は、リボルバーナックルのカートリッジを3発ロードする。
「はぁあああああああっ!!」
私は魔力を集中させ、1発の魔力弾を作り上げる。
本来なら、砲撃で放つぐらいの魔力を無理矢理凝縮させ、1発の魔力弾にしている。
これは、4年前の空港火災の時、私を助けてくれた、なのはさんと同じ、もう一つの憧れ。
「一撃! 必倒ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
私は右腕を振りかぶり、拳を握りしめる。
私の後ろでは、ティアが弾道制御の為にアンカーガンを構えていた。
その時、私の魔力に反応したのか、ビルから魔力弾が飛んでくる。
でも、そんな事は関係ない。
「ガルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥル!」
私は振りかぶった拳を、作りだした魔力弾に向け、
「「キャノン!!」」
一気に繰り出す。
殴りだされた魔力弾は、ティアの補助もあり、一直線にターゲットのいるビルに向かって突き進む。
途中、放たれた魔力弾と正面からぶつかるけど、私達のガルルキャノンは簡単に撃ち破ってビルへと直進した。
「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
私が叫んだ瞬間、魔力弾はビルの中に突っ込み、
――ドゴォォォォォォォン!
爆発した。
「ターゲット、破壊確認! 残り時間…………まだ間に合う! スバル!」
「うん!」
私は、ティアを背負って走りだす。
少し走ると、ゴールが見えてきた。
「ティア! あと何秒!?」
「あと16秒! まだ間に合う!」
ティアはそう言うと、ゴール前の最後のターゲットを撃ち抜く。
よし、後は駆け抜けるだけ!
私はそう思って全力疾走しようとした時、ふとユウさんの言葉が頭を過った。
『スバルの場合、時間ギリギリで後先考えずに全力疾走して止まる時の事を考慮しなかったりとかありそうだよなぁ…………』
それを思い出した時、
「カートリッジ! 一発残してフルロード!!」
私は加速する。
グングンスピードを上げる私に、
「ちょっとスバル! 止まる時の事考えてるんでしょうね!?」
ティアがそう言ってくる。
「大丈夫! カートリッジの最後の一発で、ウイングロード!!」
魔力の道を作りだす私の固有スキルウイングロード。
私はそれをゴールまで伸ばし、ゴールを過ぎた所で急上昇させた。
「なるほど、考えたわね」
それだけで納得するティア。
流石。
私達は、時間ギリギリでゴールを駆け抜けた。
私は、そのままウイングロードを駆け上がりながらブレーキをかける。
よし、上手くいった。
そのまま地上に降りる私。
すると、空から黒い翼を生やしたリインフォース曹長が降りてきた。
「ふむ、とりあえず試験は終了だ。 ご苦労だったな」
リインフォース曹長は、そう労いの言葉をかけてくる。
その時、
「ふふっ、どうやら無事に終わったようだね。 2人ともお疲れ様」
そう声がして見上げると、そこには憧れのなのはさんの姿。
「リインフォースもお疲れ様」
なのはさんはそう言って地上に降りてバリアジャケットを解除する。
「まあ、細かい事は後回しにして、ランスター二等陸士」
「あ、は、はい!」
呼ばれたティアは、慌てて返事をする。
「怪我は足だね? 治療するから、ブーツ脱いで」
「いや、治療なら私がやろう」
そう言って前に出るリインフォース曹長。
「あ、えと、すみません」
申し訳なさそうな顔をしながら謝るティア。
「………なのは……さん……」
思わず呟く私。
「うん?」
その呟きが耳に届いたのか、私の方を向くなのはさん。
「あっ! いえ、あの! 高町教導官………二等空尉!」
慌てて言い直す私。
「なのはさんで良いよ。 皆そう呼ぶから。 4年振りかな? 背伸びたね、スバル」
その言葉を聞いた途端、私は思わず目に涙が滲んだ。
覚えていてくれた。
それがとても嬉しい。
「また会えて嬉しいよ」
なのはさんはそう微笑んで私の頭に手を乗せてくる。
そこで限界だった。
私は流れる涙を我慢する事が出来ずに、泣いてしまった。
【Side Out】
「…………………」
俺は無言だった。
「あらまあ、これは予想外ね」
そう言う桜。
それは俺も同じだ。
まさか、ガルルキャノンを撃つとは欠片も思ってなかった。
「とりあえず、スバルにとっては、あんたも憧れの一つみたいね」
桜はそう言う。
「…………まあいいや。 とりあえず、俺は翠屋に戻る。 お前は…………」
「私はこの後なのは達に呼ばれてるからね。 ちゃんとスバルとティアナも強くしないと」
そう言って立ち去る桜。
やれやれ、どうなる事やら。
俺はそう考えながら帰路についた。
あとがき
第五十話の完成。
やっとStS編に入りました。
でもって、大方の予想通り、スバルがガルルキャノンぶっ放しました。
ディバインバスターと比べて、圧縮されているため威力が高く射程が長くなっております。
ただし、スバル単独で放つ場合、命中させられる範囲は10mが精々です。
さて、アニメと流れが若干違いましたが、結果はどうなるのか?
次も頑張ります。