新しい朝が来た。というか、修学旅行当日がやって来た。
時刻はAM7:35。俺は今、集合場所である大宮駅に向かうために電車にガタゴトと揺れている真っ最中だ。
普段使用している学生鞄よりも中身の重い旅行バッグ。コレを持っているだけでも若干テンションが上がって来るのも旅行の魔力というものなのか。
それはともかく、規則的な振動と座席の柔らかさの相乗効果というのは恐ろしい物で、気を抜くと意識が明後日の方角へ飛び立ってしまいそうになる。ありていに言うと、超眠い。
別に夜更かししたわけじゃないのにこの威力・・・、列車の催眠誘発効果ってスゲエ。
ああ・・・・イイ感じに・・・意識、が、ウツロ、に・・・・・
《―――ンまもなくぅ~、おおみやぁ~ぅおおみやぁ~、おでぐちぃ、ひだりがわでっす―――》
・・・今みたいな時にこのアナウンスを聞くと、声の主に憎悪を覚えるのは俺だけじゃないハズだ。喋り方が果てしなく鬱陶しい。
でもおかげで眠気が覚めたから拳は引っ込めることにしよう、命拾いしたな。
プシューッというエアー音と共に開いた扉をくぐり、ホームへと降り立つ。
周りを見れば、一般客に交じって麻帆良の制服がチラホラと見受けられる。同じ電車だったんだな。
集合場所の新幹線乗り場前に近づくにつれ、駅構内の麻帆良率が急上昇していく。まだ集合時間より1時間以上前だというのに、みんなヤル気満々じゃあないか。あ、俺もか。
そんな駅中で最も黄色い喧騒に満ちた場所であろう改札前に到着。流石に先生方はもう来てるな。周りに迷惑がかからないように見回っているみたいだ。
と、そこに見慣れた背中達を発見。そして噂のちっちゃい赤毛君も傍に居た。
揺れるチョンマゲを切り落としたい衝動を抑え込んで、ごく自然に話しかける。
「うぉっす」
「あ、ミサトさん!おはようございますッ!」
「おはよ、ミサト」
「おはよーさん」
「おはようございます、総統」
ネギ、元気があって大変よろしい。スーツであることに眼を瞑れば、完全に遠足に行く子供にしか見えない。
その肩には白い影、そうカモだ。人目を気にしているのだろう、声に出さずにビシッと挨拶してきた。兄さんおはようございやすッと聞こえてきそうだった。
「張り切ってんなーネギ」
「ハイ!待ちきれなくて始発出来ちゃいました!」
・・・それは張り切り過ぎではなかろうか。
「ネ、ネギせんせー・・・お、おはよう、ござい、ます・・・」
「あ、宮崎さん、おはようございます!」
「は、はうぅ・・・」
何処からか蚊の鳴くような挨拶が聞こえてきたと思ったらノドカだった。ハルナとユエに背中を押されながら絞り出した声だったようだ。
ネギのこれ以上ないくらいの爛漫な笑顔で返された挨拶を受け、恥ずかしガール・ノドカはシュボッと紅くなってしまう。・・・ガンバレ。
「おっはよーみんな!ミサト君もおはよ!」
「朝からテンション高いですねハルナ・・・あ、おはようです」
「早上好!」
「にんっ」
「うす」
その他の図書館部員と、ちょうど到着したバンド仲間にも軽く挨拶。餞別に肉まんを貰った、1個120円也。
ノドカはもうイッパイイッパイだからそっとしておく。ヘタに話しかけると心臓止まるかもしれないし。いい加減俺に慣れて欲しい。
しかし、なんでコイツらこんなに早く来てんだろう。普段は遅刻スレスレとかザラらしいのに。
みんな浮かれてんなぁ、コレも旅行の魔力か・・・。
「京都・・・仏閣・・・古都が私を待っている・・・」
「ああ、マスターが嬉しそう・・・」
・・・魔力に取り憑かれたヒトがココにも居た。自分の荷物を全て従者に預け、意識が旅行先に先走っているエヴァさんがよだれを垂らしながら悦に浸っている。
この人は古き良き日本の文化とかが大好きなんだ。囲碁やら茶道やらの趣味からもソレが窺い知れるだろう。
ネギ曰く、自分が来た時にはもう居たらしい。一番浮かれてるのはこの人かもしれない。
・・・そっとしておこう。
「・・・見てたよ、ニノ」
朝の挨拶が一段落ついた所で、後方より俺の二つ名を呼ぶ声が。振り返ってみれば、見慣れた級友2人が恨めしそうな顔で背後に佇んでいるではないか。
その姿を見たビビりっ娘ノドカはハルナの後ろにサッと隠れてしまった。知らない男に敏感な奴だ。家猫かオマエは。
「テメェ、またイチャついてやがったのか・・・」
「油断も隙もないね・・・」
「黙れボンクラ共」
イチャついてなどいない。どっからどう見ても爽やかな朝の風景じゃないか。
文句をたれる前にオマエらも挨拶しんさい、マナーですよ。
そんな俺の忠告を以外にも素直に受け入れ、挨拶すべくズズイッと俺の身体を押しのけ前に出る2人。『格好のアピールチャンス!』と言わんばかりだ。
「おはようございます、カイリの“親友”の九十九大地です(キリッ)」
「同じく、八谷青雲です。以後お見知りおきを(キリリッ)」
『出来うる限りのイケメンフェイスで挨拶』という涙ぐましい努力をする2人だが、いかんせん無理やり二重瞼にしようとしているので傍から見ると大変気色悪い。
そんなガンバリ屋さんに対する女どもの反応は、可も無く不可も無い感じ。気色悪がられはしなかったが、特に意識されもしなかった。女って残酷さ。
「おいカイリ、もっと俺達を売り込めよ!」
「知らねぇよ、オマエらがっつき過ぎだっての」
「黙らっしゃいッ!オメェには俺達の栄光の架け橋になって貰わなきゃ困るんだよ!」
「そうだよ、僕達だって彼女を自転車の後ろに乗せて長い下り坂をゆっくり下っていったりしたいんだよ!!」
そんな期待されても困る。そんなにモテたきゃ2人で路上ライブでもしてくれ。
そんなコイツらの飽くなき野望は放っておくとして、他の班員を姿を探そうと周りをキョロキョロと見回してみる。
ちなみに俺達は4班。班員は5名、班長はダイチ。
「他の2人はどうした?」
「バイソンなら鉄道博物館関係のお土産コーナーに居るよ」
「エドワードは本屋覗いてると思うぞ」
やっぱもう来てんのか、感心感心。欠席も無くてなりよりだ。
「総統のクラスにも留学生がおるん?」
「いんや、ただのあだ名だ」
バイソンは『梅村 潮』、エドワードは『江戸川 文章』っていう名前なのさ。2人ともバリバリの日本人だ。
・・・どうでもいいな、この情報は。
―――ふと、背の低いネギ坊主に視線を向けてみると、背広の一部分を何やら入念に確認している。多分、親書が入ってるんだろう。
ふむ、ここは1つネギに激励の一言でも掛けてやりたいところだが・・・、一般人も居るし、無理そうだな。
そんじゃ、最低限の事だけ言っとくか。
「そいじゃ俺はこの辺で。・・・ネギ、頑張れよ」
「ハイ!」
去り際にネギの頭を数回撫で廻し、班員2人と共にその場を後にする。俺も頑張んなきゃな・・・。
・・・とりあえず、俺も時間が来るまで本屋でも覗くか・・・。
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――――午前9時40分。
出発の10分前となり、点呼と共に生徒達が続々と新幹線・あさま506号に乗り込んでいく。
・・・ここで女子3-A・全6班の班割りを説明しておこう。
―――まずは1班。
「やほー!」
「楽しみですー!」
班長・柿崎他、チア部2人と鳴滝姉妹の計5名。元気いっぱいの1班。
―――続いて2班。
「肉まん、どうかネ?」
「どんどん喰うとよろしアルよ!」
班長・古菲他、忍者1人に【超一味】の3人の、合わせて5名。怪しさ全開の2班。
―――お次は3班。
「ささ、ネギ先生。グリーン車を借り切ってありますので、2人っきりでゆっくりと・・・」
「あらあら、あやかったら」
班長・あやか他、その同居人2名とカメコと眼鏡とピエロで6名。ごった煮の3班。
―――今度は4班。
「乗る前から酔うなんて・・・弱いなぁ」
「ちゃうねん・・・肉まん美味しくて食べ過ぎた・・・うぷっ・・・」
班長・裕奈他、運動部系3人とスナイパー1人で5名。1人を除き比較的まともな4班。
―――そして5班。
「ほらのどか!ネギ君に『自由行動、一緒にどうですか?』って!」
「で、でも・・・」
班長・明日菜他、図書館部5人・・・
「くっ・・・あそこでチョキを出していれば・・・!」
「せっちゃん残念さんやー」
・・・から、人数配分やその他の関係で刹那があぶれて計5名。注目度の高い5班。
―――最後に6班。
「コレが新幹線・・・コレで京都に・・・(キラキラ)」
「ああ、マスターがとても嬉しそう・・・」
班長・刹那他、エヴァンジェリンと茶々丸、そして・・・
「うぅ・・・、なんで私この班なんスか・・・?」
・・・静かな悲鳴を上げている短髪少女『春日美空』を含めた4名だ。
そう、何を隠そうこの美空という娘は見習い魔法使いなのである。
まぁ魔法使いと言っても親の意向で習っているだけであり、本人は不真面目そのモノ。まるでやる気ナッシングな感じである。
面倒事は御免被るらしく魔法関係に関わることや正体がバレることを嫌い、魔法先生以外では彼女の正体を知る者はあまり多くない。
その数少ない人物の中には、エヴァンジェリンなどが含まれる。
本当は無難に2班辺りに入るつもりだったのだが、今回の修学旅行は【闇の福音】エヴァも同行するし、ネギの任務や木乃香の護衛など内容盛り沢山だ。
そのため上司に当たるシスターやその他の思惑により、有事の際に動きやすいよう “裏”関係者として6班に固められたのだ。美空、あわれなり。
なら真名はどうなんだと言えば、依頼料金が馬鹿にならないので保留にされていた。
そう云う訳だから、ジャンケンに勝っても負けても結局、刹那は6班入りが決まっていたのだ。刹那、不憫な子。
それと6班には、あと1人女子生徒が入って5名となる予定だったが、“欠席”のため4名となった。名前は・・・そのうち分かるだろう。
でもまぁ、自由に動けるように固められたワケだから、憂鬱なのは今だけだ。
他の班員達とどっかにフラフラ出掛けても別に問題は無いから、それぞれ好きにやるだろう。具体的には、2班に逃げ込んだり5班と合流したり知ったこっちゃなかったり。
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「――――ふむ、特に問題なしっと・・・」
東京駅到着後、あさまからひかりに乗り換え一路京都を目指す麻帆良中等部御一行。
ひかりに乗車してしばらくはクラスメイトと大貧民とかして遊んでた俺であったが、頃合いを見て『便所行ってくる』と言い訳して席を立った。
己に課せられた任務を遂行するため、平たく言えば見回りをするためである。
とりあえず自分達が乗っている席より前の車両をいくつか見て回ったが、特に細工されているよな形跡は見当たらない。
まだ西の刺客は乗り込んできていないのだろうか・・・?
そんな感じに列車の連結部の確認をする俺の背後に何やら気配が。くるっと振り返れば、年中顔つき合わせている幼馴染の姿があった。
夕凪を携えている辺り、コイツも見回り中なんだろう。というか、よくそんなモノ車内に持ち込めたものだ。
「何かおかしな点はありましたか?」
「特になしだ。ソッチは?」
「後ろの車両も見て回りましたが、異常は見受けられません」
ならひとまず安心、といったところか。なるべくなら何も起こらなければそれに越したことは無い。2人してほっと胸をなでおろす。
「コノカはどうしてる?」
「皆さんとゲームして遊んでいます。刺客の影も見当たりませんし、とりあえず安心かと」
「まあ、同じ車両に【闇の福音】が乗ってんだから、何かあっても大丈夫か・・・」
「エヴァンジェリンさん、発車してから窓に貼り付いて微動だにしてませんよ?」
「・・・楽しんでくれて何よりだ」
コノカと親書の護衛をいっぺんにやらないといけないのが辛いところだ。気苦労が絶えないよ。いざとなったらコノカ優先なんでヨロシク。
でもまぁ一般客も居ることだし、流石に列車内で大騒ぎを起こすような真似はしないか・・・
『―――・・いやー・・・!――――』
『―――・・・なんで・・カエ・・・がー・・・!?――――』
・・・と思ったら、なんか後方車両から俄に黄色い悲鳴が聞こえてくるではないか。
何事か!?と、急いで戻ろうとした俺達の前に、車両の扉の隙間から一筋の影が飛び込んできた。
正体はツバメ・・・いや、式神か!
間髪いれず、セツナが瞬間的に抜刀し飛来する式神を両断する。
真っ二つにされたツバメ君は元の和紙へと戻り地面へヒラヒラ、そのツバメが咥えていたらしき封筒は宙を舞い、振り上げた俺の手に収まった。ナイスキャッチプリキュア。
手にした封筒を見てみれば、見覚えのある蝋の刻印で封がしてある。麻帆良学園が公的に使用する封蝋だ。
てことは、コレは学園長がネギにも持たせた親書か・・・。
導かれる解答は2つ。西からの刺客がこの列車内に居ること、そしてネギがその刺客に親書を奪われかけたってことだ。
おそらくさっきの騒ぎで場を混乱させ、その隙に奪い取られたんだろう。
・・・ちょっと心配になって来た。大丈夫かよネギ、浮かれ過ぎだぜ。
「あっ、刹那さん!ミサトさんも!」
そこに息を切らせて式神を追ってきたネギ登場。定位置のようにカモが肩に乗っている。
「ほらよ、これオマエのだろ?」
「あ、僕の親書!ありがとうございます!」
ペコペコ頭を下げるネギに親書を手渡す。もう盗られんじゃねえぞ?
だがコレで、少なくとも友好条約締結に対する妨害の方は仕掛けてくることがわかった。
杞憂で終わるというワケにはいかなそうだ。俺も気を引き締めないと・・・。
「気ィつけろよ?向こうに着いてからもっと大変になるんだからな」
「は、はい・・・」
もう少し何か言いたげなネギだったが、その前にアスナが何事かと駆け込んできたため会話は中断。
どうやらアスナは、今回の任務について何も知らされてないようだ。余計な心配させまいというネギの配慮だろうか。
何も起こらなければそれで良かったが、そうも言ってられなそうだ。アスナにも話しておいた方がイイかもな。
「遊んでないで手伝ってよ、亜子ちゃんとか楓ちゃんが卒倒しちゃって大変なんだから!」
「カエデが?何があったんだよ?」
「カエルがアッチコッチからピョコピョコ出てきたのよ、108匹も」
あの手練のカエデがノックアウトされるなんて一体何が、と思ったら納得の理由が帰って来た。相変わらずのカエル嫌いだな。
というか、なんだそのふざけた妨害は、舐めとンのか?
それはそうと、近くに刺客が居るやもしれないとなると、もう少し捜索したいところだ。
だが便所に行くと言ってからだいぶ時間が経つし、そろそろ戻らないと拙そうなので、事後処理と安全確認をセツナに任せ級友たちの元へと戻ることにした。
・・・雲行きが怪しくなってきたな・・・。
「ふう、よかったぁ。ミサトさんが親書を取り返してくれて」
「・・・兄貴、コレ見てくれ」
「え?・・・コ、コレって、さっきの鳥の式神!?」
「兄さん達は確か京都から越してきたって言ってたよな・・・。もしかすると、あの2人は西のスパイなんじゃ・・・」
「そ、そんな!?ありえないよ、皆とも凄く仲がイイのに!」
「・・・だよな、勘ぐり過ぎッスよね・・・」
実は学園長、ネギに任務を言い渡す際にミサトの事を伝えておくのを忘れていた。
ネギは知ってか知らずか、カモの意見を否定する。だがカモの中では、初めてミサトに会った時に感じた疑念が再び首をもたげていた。
―――――本当に、信じていいんですかぃ、兄さん・・・―――――
「マスター、放っておいてもよろしいのですか?」
「ああ、私が手を出してはいろいろと面倒だからな。それに私は観光に来たんだ。面倒事はアイツら任せて、心行くまで楽しませてもらうとするさ」
「承知しました」
「・・・まあ、旅初めに少々ケチがついたからな。私の安息のためにも手を貸してやらんことも無い、か」
「では、どうするのですか?」
「私に直接チョッカイ掛けてきたら捻りつぶす。あとは・・・腕が斬り飛ばされるくらいヤバくなったら助けてやるとしよう」
――――こんな物騒な話してる間も、窓を流れる風景から決して目を離さないエヴァンジェリンであった。
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「京都ぉーーーっ!!」
ハイその通り、ココは京都。そして今わかりきったことを叫んだのは女子3-Aの生徒さんです。
あの騒ぎの後はつつがなく旅行は進行し、我ら麻帆良学園中等部一行は無事京都の地を踏んだ。そして今居る場所は、飛び降りる舞台でおなじみの清水寺である。
ウチの学校の修学旅行は基本的に生徒のしたいようにするシステムだ。
京都到着後にバスで清水寺に直行するまでは全クラス共通だが、その後は各クラスごとに自由に行き先を決められるようになっている。ホテルもクラスごとにバラバラだ。
要するに何が言いたいかっていうと、旅行初日は男子も女子もほとんど同じ道筋をたどるということだ。
一応は団体行動が原則だけど、現に仲好さげに歩いてる制服男女とかをチラホラ見かける。
おかげでそれほど違和感無く護衛ができるってモンよ。近距離にセツナが付き、やや離れたトコに俺がついて周囲を監視する。完璧じゃあないか。
――――しかしまあ、ココに来るのも数年ぶりだけど、改めてるとホントにイイ眺めだ。なんだか感慨深いよ。
前に来たのは、確か小4の遠足の時だったかな?3人で並んで景色をバックに写真を撮ったのを覚えている。
地元ってのはそこかしこに想い出が転がってるから飽きが来ない、たまの帰郷もいいもんだ。
「そーとー!写真撮ろ写真!!」
「わーった、わーったから袖を引っ張るな!」
「このちゃん、走ったら危ないですよ!」
その辺に居る奴にカメラを頼み、あの時と同じ立ち位置でパシャリッ。
また1つ、想い出が追加された。
その様子を視線で貫くように、ウチのクラスの迷える子羊共が恨めしそうに見てた。その後ソイツらにポカスカしばかれたが、やられた分はやり返したので問題ない。
「・・・・・(ホロリ)」
「マスター、ハンカチを・・・」
「・・・ああ、スマン茶々丸」
そんな騒ぎなど気にも留めず、日本人よりも日本人らしい感性を持ったブロンド幼女は、清水の舞台の上で美しき古都の風景に涙していた。
ココまで喜ばれると、逆になんか怖い。
――――ココで旅行イベントの1つ、クラス単位で境内を背に集合写真を撮ることに。先に女子クラス、次に男子クラスだ。
順々に1クラスずつ撮影するため、俺達のクラスが撮り終わる頃には既に女子3-Aは隣の地主神社へと進んでしまっていた。早く追わなければ。
なるたけ自然にクラスの奴らをせっついて地主神社に向かうと、縁結びで有名な恋占いの石の片割れを発見した。
確か、目ぇ瞑って向こうっ側の石に辿り着ければ恋が叶うんだっけか?
ソイツはイイ、面白そうだと挑戦しようとするダイチ他数名。やるのはいいけど成就したい相手なんかいるのかオマエら?
・・・と、男共が無駄に終わりそうな儀式を始めようとした時、何の気なしに向かいの石に視線をやった俺の眼に、おかしなものが入り込んできた。
おかしなモノ、ソレは石と石との間の道にぽっかりと開いた穴だ。なんだこりゃ、前来た時はこんなん無かったと思うけど・・・。
この難所を掻い潜った者だけが恋をつかめるとか、そういう神社側の世相をもじった粋な計らいだろうか?
ダイチ達にアブねえからやめとけと言おうとしたその時、聞き覚えのある慌てふためいた声が更に先の方から聞こえてきた。ネギの声だ。
あっちには確か“音羽の滝”とかいうありがたい名所があるハズ。なんかあったのか?
心配になり、クラスメイトを残して急ぎ足で現場に向かうと・・・・
「いいんちょさん起きてください!バレたら旅行中止の上に停学ですよ!」
・・・ユエがノビているアヤカの胸倉を掴んで往復ビンタをかましていた。なにがどうしてこうなった?
よく見ればノビているのはアヤカだけではない。女子3-Aの大半が新橋のサラリーマンのように顔を赤らめ、折り重なってぶっ倒れていた。死屍累々とはこのことだろうか。
ネギと共に奔走するセツナを捕まえて事情を聞いてみる。俺のいない間に何があったんだ?
曰く、恋占いの石の道にある穴は西の刺客が用意したトラップであり、中にはまたカエルが仕込まれていた。そして今度はこの音羽の滝にも罠が仕掛けられていたというのだ。
学業・健康・恋愛に効果のある3本の滝の内、お年頃の女生徒達は恋愛の滝に殺到。そして滝の上流から混入されていた酒によって酔い潰れてしまったとのことだった。
ちなみにコノカとセツナは健康の滝に並んだため無事だったんだそうな。
・・・なんなんだ、このしょっぱい妨害は・・・。
流石にこのままでは修学旅行が中断されかねないため、ネギがどうにかこうにか他の教員たちを誤魔化している間に、酔い潰れた生徒達をバスに運ぶことになった。
集合時間も近いことも幸いし、苦しいながらもなんとか誤魔化し通せたようだ。
男手があった方がいいだろうと思い、クラスの連中に適当な理由を付けて手伝わせる。『ココで頑張れば好感度アップだ!』とか言ったら、あっという間に運び終わった。
「ったく、西の連中は何考えてんだか・・・」
「・・・兄さん、訊きてぇことがあるんスけど」
ダウンしたA組女子の貸切バスの傍で1人ごちていると、何処からかカモがやって来て俺の肩の上に登って来た。
なんだよ、訊きたいことって?
「兄さんは、今回の件にどう関わってんだ?」
「どうって・・・学園長から聴いてねえのか?ネギの親書受け渡し任務のフォロー役だよ」
「・・・へ?そうなんスか?」
知らなかったのかよ。学園長の奴、ちゃんと伝えといてくれよ。
「え、えと、兄さんは京都から来たんだろ?もしかして、西の連中と繋がりがあるんじゃ・・・?」
「ああ、小学校卒業するまで呪術協会に世話ンなってたからな」
「そ、そッスか・・・・・・あれ、こんなあっさり・・・・?」
「? なんだよ、ブツブツ言って?」
「あ、いや!な、なんでも!」
そういって慌てた様子でヒョイッと肩から降り、バスの中へとチョコチョコ戻っていった。
なんだ、歯切れの悪い奴だな。
なんだか胸にモヤッとしたモノが残ったまま集合時間となり、俺達を乗せたバスは宿泊先のホテルへと向かうのだった。
俺らは烏丸のホテル、コノカ達は確か嵐山だったハズだ。・・・ちょっと距離があるのが難点だな。
――――まだ修学旅行は始まったばかりだ。
「て、点呼取ります!全員居ますかー!?」
「・・・アレ? ネギ、エヴァちゃんと茶々丸さんは?」
「あ、あれ!!?」
「・・・ずっとこうしていたいな・・・」
「ああ、マスターが最高にうれしそう・・・」
―――――まだ舞台で浸っていた。いい加減正気に戻れ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
修学旅行・・・中学も高校も京都でしたが、何か?どうも私です。
今回は修学旅行1日目・昼の部です、導入部だと思ってください。
次回は修学旅行1日目・夜の部。バトルするかもね。