―――――日曜日。
本来なら、日頃学業に勤しむ学生諸君にとっての安息日ともいうべき曜日。
だというのに、学園長様から直々に呼び出しをくらってしまった俺は、翁の待つ学園長室へ向かうべく、女子中等部校舎の静まり返った廊下をペタペタと進んでいた。
休日の学校というのは、なんというか不思議な空間だ。
普段は少年少女達の賑やかなで軽やかな喧騒に満ちている場所であるだけに、こうも静寂に溢れてしまうと軽く異様である。
耳に入って来るのは、遠くの方から聞こえる部活動の掛け声や、木々に止まる鳥の囀る鳴き声くらいなものだ。
日常とは隔絶された、静かな風景。己以外には誰も居ない、非日常の空間。
・・・もしかしたら日曜の校舎というのは、俺達の一番身近な所に存在する異世界への入り口なのかもしれない。
「・・・なにアホなこと考えてんだ俺は」
なんだよ異世界の入り口って。そんな世にも奇妙な話の導入みたいなこと考えてどうすんだ。タモリに笑われるっての。そもそも俺の存在自体が奇妙なのに。
どこぞの詩人のような思考を振り払い、普段より冷たい廊下を歩き続ける。早いトコ用事済ませて帰ろう。
そう考えて歩調を気持ちペースアップしようとするが、一旦思考が傾くとどうしても周りが気になってしまうのが心理というもの。ついつい視線がキョロキョロ動いてしまう。
俺は普段、女子中等部の方にはあまり来ない。そりゃそうだ、男子中学生なんだから。こんな所、こうして学園長に呼ばれた時くらいしか赴かない。
そんな縁の薄い場所ゆえに、己の通う学び舎との差異を比べながら興味本位で教室を覗いてみたりしちゃったり・・・。
「・・・って、コレじゃただの変質者じゃねーか・・・」
―――――休日の女子校を徘徊する目付きの悪い男―――――
・・・やべぇ、犯罪の臭いしかしねえ。
とっとと終わらせよう。余所見などするな。男なら、横道それずに真っしぐら、ババンバーンだ。
・・・しっかし、呼ばれたのが夜じゃなくてホント良かった。夜の学校とか難所過ぎて困る。
俺ったら『学校の怪談』もまともに見れない人なんだから。『リング』なんて見た日にゃ背中が怖くて風呂に入れないっつーの。世にも奇妙な奴だってギリギリなのに。
幽霊なんて出たりしないよなぁ・・・怖すぎるぞ・・・。
『それが居ないんですよ~。仲間が居なくて寂しいですぅ・・・』
ふーん、そうなのか、君も大変だね・・・・・
・・・・・・・ん?
・・・今、なんか違和感が・・・・・・?
・・・バッと後ろを振り返る。
誰も居ない。寒々しいくらい人っ子1人いやしない。
・・・・じゃあ、俺は今、誰に相槌を打ったんだ・・・?
「あら、アナタは・・・」
「あ、こんにちは、一先輩!」
「うおぅッ!?」
イキナリ声をかけられ、おかしな声を上げながら即座に正面に向き直ると、少女2人組と対面した。
1人は金髪、ナースキャップのような帽子が特徴的なウルスラの制服に身を包んだ少女。
もう1人は赤っぽい髪、女子中等部の制服を着た肩までのツインテール娘。
ああ、この人達か。仕事で何回も会ってる顔見知りだ。名前は・・・・
「・・・あー、どーも御無沙汰です、高音・D・グレイマンさん」
「誰がエクソシストですか!?私はグッドマンです!!」
ニアミスだった。おしい。
「まったく、顔を合わせるのが久しぶりとは言え、女性の名を間違えるなんて不躾ですよ!」
「キッドマンって言われた方が嬉しかったですか?」
「そう云う問題でもありません!」
この人はボケたらすぐツッコンでくれるからありがたい。
ツインテールの方は、『佐倉愛衣』、だったな。うん、完全に思い出した。
「先輩も学園長室に?」
「ああ、停電時の打ち合わせにな。そっちも?」
「ええ。先程終わって、今から帰るところです」
魔法先生や魔法生徒からの俺への評価はまちまちだ。純粋に実力を買ってくれている人もいれば、【闇の福音】と親交のある要注意人物と見てる人もいたりいなかったり。
その中でいうなら、高音さんはやや懐疑的、メイは割と友好的な方だろう。
高音さんは、“魔法使い”というものに高い理想を抱いてる人だからなぁ。メイの方は・・・なんでだろ、わからん。
「桜咲先輩は一緒じゃないんですか?」
「セツナになんか用か?」
「い、いえ!そういうわけじゃ!」
なんかワタワタしてる。何を慌ててんだこの娘は?
・・・もしかして、“ソッチ”の人なのか?高音さんのこと『お姉様』とか呼んでるし。スールか、スールなのか?
マズイよマズイよぉ、ただでさえウチのセツナは百合の気が心配されるってのに、取り返しがつかなくなっちゃうよぉ?
・・・と、そんなバカな発想は置いといて。
「しっかし毎度のことながら、かったるい行事ッスよね。働く方の身にもなれって感じですよ」
「その発言は無視できませんわね」
世間話程度に話を振ってみたが、話題が悪かった。高音さん、少々お怒り気味。
「人々の平和のために身を粉にして戦い抜くのが、【立派な魔法使い】を目指すものとしての我々“魔法生徒”の使命なのです。そんな腑抜けた態度では困りますわ」
高音さん、ココ一応公共の場だから。発言は気を付けて。
なに普通に『魔法』とか単語だしてんですか、オコジョにされますよ。日曜だから誰も居ないだろうけど。
「前にも言いましたけど、俺は別にそんなん目指してるワケじゃ・・・」
「そんなんとは何ですか!!【立派な魔法使い】は多くの魔法使いの目標なのですよ!?それをアナタという人は!!」
「だから声がデカイってば!!」
どうどう、とメイと一緒に興奮する高音さんを宥める。
「・・・俺の言い方が悪かったです。別に俺は高音さんの考えを否定する気は無いんですよ」
【立派な魔法使い】という考え自体を否定する気なんて毛頭ない。
むしろ、その意思が“本物”であるのなら尊敬するくらいだ。
無償で多くの人々を救い続けるヒーロー。大いに結構だ、カッコイイじゃないか。
俺だって、助けを求める人が居て、それを俺の力でなんとかしてあげられるのなら、喜んで力を貸すだろう。
・・・でも、そうじゃないんだ。【俺】と【立派な魔法使い】とでは、優先すべき対象が根本から違うんだよ。
俺には、誰よりも何よりも、護りたい大事な奴らが居るから、ソイツらよりも不特定多数の他人を優先するような役になる気は無いってだけなんだ。
「・・・ええ、わかっています。その話は以前にも聞きましたから」
前にもこの人とは似たような議論を交わしたことがある。
元々、俺と高音さんはそれほど仲がよろしくなかった。というか、向こうが俺のことが気に喰わなかったようだ。
【立派な魔法使い】を目指す彼女にとって、報酬を受けて仕事をこなす俺のような傭兵は相容れない存在だったんだろう。
そんな俺達が口喧嘩にまで発展するまでには、さほど時間はかからなかった。
結局、どちらが正しいという結論には達しなかった。悪く言えば平行線、良く言えば互いの意思を許容した、ということなんだろうか。
まあ、その話し合いのおかげかは判らんけど、お互い多少は棘が取れたような気がするよ。
お話って大事だよね。OHANASIは大事だけどね。
「すいません、癇に障るような言い方して」
「いえ、私も熱くなりすぎました」
互いに非礼を詫びる。元の発端は俺のヤル気の無さだから、俺の方がやや深めのお辞儀。
「先輩、時間大丈夫ですか?」
「っと、いけね。そんじゃ俺はこの辺で。2人共お仕事頑張ってください」
「ええ、お互いに」
約束の時間が迫っているのを腕時計で確認し、急ぎ足でその場を去る。
――――――いろんな考え方があるってのは難しいことだけど、悪いことじゃないよな。“みんな違ってみんなイイ”って奴さ。
・・・限度はあるけど、な。
「・・・残念です」
「そうね愛衣。実力はあるのだから、志を同じくすれば【立派な魔法使い】も夢じゃないのに・・・」
「あ、いえ、そうじゃなくて・・・」
「?」
「桜咲先輩も居れば揃踏みだったのになあ、って・・・」
「・・・ホント、ミーハーなんだから・・・」
「だってだってホントにカッコ良かったんですよ!!
今年の麻帆良祭も出場してくれないかなー・・・また聴きたいなー・・・」
――――――愛衣は【凛凛の明星】のファンだった。
・
・
・
コンコンッ
「学園長、ニノマエです」
「おお、入っとくれ」
ノックの返事を貰ったことを確認し、重厚な扉を押し開いて学園長室に入室する。
翁は定位置のデスクで書類やら何やらを広げて待っていた。多分、契約書か何かだろう。
傭兵職に就いてる俺との仕事の際は、毎回こんな感じである。内容や報酬などを確認し、いくつかの書類にサインして仕事を請け負うのが定例だ。
「早速じゃが仕事の話じゃ。君達にはこの地区を守って貰うぞい」
そう言って麻帆良の地図をデスクの上に広げる学園長。
・・・うーむ、いつ見てもだだっ広い敷地だ。地図にするとその無駄な広大さが手の取るように分かる。地図なんだから手に取れて当然だけど。
ジイさんがシワシワの手で俺らの担当区域を指し示す。
・・・あー、ココか。都市の外れの森ン中。何度か仕事とかで行ったことあるところだ。なるほど、了解したぜ。
あとは、想定される戦闘時間、敵勢の予想規模、その他諸々を考慮して今回の報酬額を決めるだけだ。
今回のギャラは普段の仕事の時より単価が高い。
全滅させて終わりのストック制の短距離走じゃなくて、時間いっぱいまで働かされるタイム制の持久走だからな。普通より疲れんだよ。
通称『停電賞与』、俺達傭兵にとってはボーナスみたいなモンなのさ。年2回あるし。
「“―――――以上、これを承諾することを約束いたします。 『一 海里』”・・・っと」
契約書を端から端まで目を通し、おかしな部分が無いか確認してからサインをする。
うっかり借金の保証人になどされては困るからな。無いと思うけど。
「契約成立、ですね」
「うむ、期待しておるぞぃ」
これで停電時の打ち合わせは完了。報酬分はしっかりと働かせていただきます。
「・・・さて、もう2つばかり話があるのじゃが」
・・・来た、例の話だな・・・ん?『2つ』?1つはアレだろうけど、もう1つって・・・?
「エヴァンジェリンの【登校地獄】が解呪されたらしくての・・・、君は、何か知っとるか?」
そんな俺の疑問など露知らず、デスクに肘をついて両手を組みながら話を切り出す学園長。
予想できた1つ目の質問が予想通りに投げかけられる。その問いに対し・・・
「・・・いえ」
とりあえず、しらばっくれてみる。
学園長は追及する訳でもなく、ふむ、と一言漏らし、言葉を続ける。
「昨日突然エヴァがワシの所に来ての、『ジジイ、解けたぞ』と言われた時はたまげたわい」
「・・・へえ、そッスか」
もっかいしらばっくれ。学園長、更に続ける。
「彼女の封印が解けたという情報は、まだ広まってはおらん。ヘタをすれば大混乱を招きかねん事態じゃからのう」
「・・・」
「幸いにも、彼女は解呪後もこの地に留まる意向を示しておる。彼女の力が抑制されるこの地に居るというのなら、なんとか他のお偉方も納得させられるじゃろう」
東の長も楽じゃないわい、と肩をすくめておどける好々爺。
・・・が、すぐに気を引き締めたように椅子に深く掛け、話を続ける。
「・・・じゃが、『【闇の福音】の封印が解かれた』、コレが魔法界にとって大事に値するということには変わりない」
「・・・」
「ワシが独自に調査したところによるとじゃな、どうやらエヴァには“協力者”が居たらしいという情報があるんじゃ」
「・・・」
「もし、その者が英雄サウザンドマスターの掛けた強力な呪いを解いたとなれば、お偉方もそんな人物を放ってはおくまい。無論、ワシも同じじゃ」
俺が何もしゃべらなくてもお構いなしに、両目を閉じながら淡々と口を動かす。
ココまで真剣な表情を見るのは、麻帆良に来てから初めてだ。
「【闇の福音】を野に放った者。もし本当にそのような人物がおるなら、ワシはなんらかの対応を採らねばならない。“関東魔術協会の長”として、な」
「・・・」
一旦そこで言葉を切り、数秒の沈黙が場を支配する。
そして、閉じていた右眼を開き、俺を見据えて――――――
「改めて訊くが・・・、その者に、心当たりは無いかの?」
最終質疑が、俺に投げかけられた。
その問いに対し、俺の最終回答は―――――――
「・・・皆目、見当もつきませんね」
――――――最後までしらばっくれた。
「・・・ふむ、そうか・・・」
その答えを予想していたのか、あるいは違う答えを期待していたのか考えは定かではないが、翁はまた瞳を閉じた。
また、場に静寂が訪れる。今度は10秒を超えた。
静寂に耐えかね、早く終わんねーかなーなどと少々不謹慎な考えが頭を過ったその時。
「・・・彼女、エヴァは10年前、ナギの死亡が噂されるようになってからかのぅ、あまり笑わなくなってしもうてな」
つぶやくように、学園長が再び言葉を発した。
「1度目の卒業から間もなかったからのぅ。自分の存在が級友の記憶から消える絶望を味わった上にそれじゃ。それからしばらくは、生ける屍のようじゃったわい・・・」
「・・・」
「じゃが、ここ1,2年はよく笑うようになった。機嫌良さ気に鼻唄を歌っている姿など見たのは何年振りのことじゃったかわからんかったわ」
「そう、ですか」
相槌とも生返事ともとれるような言葉が俺の口から出てくる。
―――――ここ1,2年。
“奇しくも”、俺達が麻帆良に移ってきた時期と合致する期間だ。
「『光に生きろ』、ナギが言うとった言葉じゃが、まさしくじゃ。彼女は、望まずして多くの咎を背負ってしまった。じゃからこそ、彼女には幸せになってもらいたいのじゃよ」
「・・・」
「本当に彼女に協力者が居たのならば、ワシはその者に言いたいことが山のようにある。無論、“居れば”、の話じゃがの」
「・・・」
「しかしまあ、話の長い校長先生は嫌われるからのぅ、一言だけで我慢するわい」
コチラに向き直り、両の眼で俺をしかと見据える学園長。
・・・気のせいか、先程より表情が柔らかい感じがする。
「もし、君が彼女の協力者に会うことがあればでいいんじゃが・・・」
またそこで区切り、こう続けた。
「・・・一言、“エヴァンジェリンの友人”が『ありがとう』と言っていたと、そう伝えて欲しい」
「・・・善処しますよ」
「頼んだぞぃ」
俺の素っ気ない返答に、翁はフォフォっと含んだ笑いを見せる。
互いに真実を知りながらも決して口にはしない、茶番のような約束がココに結ばれた。
「さて、これで1つ目の話は終わりじゃ」
「で、2つ目は?」
「来週からの修学旅行についてじゃよ」
「修学・・・・・・ああ、コノカの護衛のことですか?」
「君も京都に行くようじゃからのう。刹那君共々、護衛を依頼したい」
「依頼されるまでもないッスよ。俺らが好きでやってることですから」
「ふぉふぉっ、頼もしいのぅ」
コノカに手ぇ出す奴は例え神であろうと許さんばい!!
「頼もしいついでに、もう1つ頼まれてくれんかの?」
ん、まだ何か他に問題があんの?
「知っての通り、西と東は仲が悪くてのぅ。ネギ君・・・西洋魔術師の同行に難色を示しておる者達が少なからずおるのじゃよ」
・・・あー、そう云うことか。西の下っ端とかは西洋魔術嫌いな奴結構いるしなぁ。お偉方にも魔法嫌いな人ちょいちょい見かけるし。
「詠春さ・・・西の長はなんて?」
「戒厳令を敷いて手を出させぬよう抑制するとのことじゃが、・・・正直、何とも言えんと」
さすがに組織の末端にまで目を光らせるワケにもいかないか。そうするには詠春さんは役職が高すぎるからな。
いくら長同士が仲良くても、組織全体がそれに賛同するわけじゃない。一枚岩な組織の方が珍しいくらいだ。
修学旅行の行き先を変更すりゃ問題解決なんだろうけど、諍いの根本的解決にはなんねえよなぁ。全くメンドクサイねぇ、組織って奴は。
「うむ、そこでじゃ。ネギ君には東からの特使として、婿殿に親書を渡す任務を与えようと思うのじゃが・・・」
俺にそのフォロー役をしろ、と・・・。
なるほど、どうせ面倒事が避けられないのならば、マイナスの面倒をプラスにしちまおうって魂胆か。
英雄ナギ・スプリングフィールドの実子が友好の証を持って訪問する、と。確かにネームバリューとしてはこれ以上ない程の人材だ。
・・・いやでも、そうなると今度は友好条約締結阻止の妨害が出てくる危険性があるんじゃなかろうか?
“裏”の秘匿がある以上、表立った対応はとれないし、他の生徒達に危害が及ぶ可能性だって・・・。
「確かに。じゃが、“裏”の秘匿があるのは向こうも同じこと、一般人や生徒達に危害が出るような派手な真似は出来んハズじゃ」
・・・うーん、一応筋は通ってんだけど・・・なんか余計事態がややこしくなった感も否めないような・・・
・・・・・・・ん?
ちょっと待てよ・・・・・・この状況、どっかで見たことあるような・・・・
「・・・引率しながら特使として親書を渡しに行くってことは・・・・」
・・・・コレってもしかして・・・・
「それってつまり・・・・・お供を引き連れた“親善大使”ってことッスか・・・?」
「ふむ、そう云う言い方もできるかのう。それがどうかしたかの?」
・・・・・“赤い髪の男児”が、“人々を引き連れ”て、“親善大使”だと・・・?
――――未来予想映像――――
『僕は先生で、親善大使なんですよ!?僕が行くって言ったら行くんです!!』
『だ、だって、西の本山が崩落するなんて誰も教えてくれなかったじゃないですか!!僕1人に責任を押し付けないでください!!』
『カモ君が、カモ君がやれって言ったから!!僕は悪くないッ!!僕は悪くぬゎいッ!!!』
―――――――――
・・・・いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやッ!!?
無い無い!コレは無いッ!!いくらなんでもコレは有り得ないッッ!!!
アイツそんなワガママな奴じゃないし!!
そもそも西の本山が魔界に堕ちるわけ無いし!!
つーか何でカモがヴァン師匠のポジションなんだよ!?髭か!?髭があるからか!!?
偶々だ、偶然の一致だ!別に“王族に連なる赤い髪の男児”ってわけじゃないし!!
・・・・違うよね?王族の設定とか無いよね?王位継承権なんて持ってないよね? ねえ!?誰か教えて!!誰か俺を安心させて!!?
「ま、案外杞憂に終わるかもしれんしの、君も修学旅行を楽しむと良いぞい」
楽しめねえええええええええッ!!?嫌なビジョンが頭から離れねえええええええええッッ!!?
何か、何か手は!?惨劇回避の名案は無いのか!?
・・・そうだッ!!今の内にネギのチョンマゲを切り落としちまえば!!先に断髪イベント終わらしときゃいいんじゃね!?
って違うよ!?そう云う問題じゃないっての!!!
だああああああああああッ!!?おおおおおおおお落ち着けェ俺エェェッ!!!!
「・・・ミサト君、顔色が悪いが大丈夫かの?」
「へ、平気ッス、ちょっとトリ乱しただけッス、俺は冷静ですっ」
そうさ、『取り乱す』と『鳥乱す』というウマイ掛け言葉を瞬時に繰り出せるくらいにクレバーだ。
冷静さ、ああ冷静だともさ、本人が冷静だって言ってんだからソレでいいじゃん!?
「ふむ、ではコレで話は終わりじゃ。退室してもよいぞ」
「ハぁイ・・・しつれーしましたぁ・・・・」
結局、一抹の不安が消せないまま学園長室を後にした。どうしよう・・・。
・・・・もー知らん、なるようになれだ。敵が来るならぶっ飛ばす、以上!
・
・
・
――――そんなこんなで日が経ち、本日は火曜日。大停電当日を迎えることと相成りました。
現在、夜の帳も下りた午後7時45分。停電開始まであと15分。
俺達傭兵ソルジャーズは、学園長に指定された持ち場で戦闘開始の時を待っていた。
これから4時間にわたる長い戦いが始まろうとしている。長期戦に備えて栄養補給しておこう。
持ってきたビニール袋から握り飯を取り出し、セツナと2人してモシャモシャと喰らう。中身は梅干しだった、すっぺぇ。
ふと、ライフルやらデザートイーグルやらの最終チェック中のマナと目が合った。なんだ、やらんぞ。
「食後すぐの運動は毒だぞ?」
「いいんだよ、そんなヤワな胃袋してねえから」
「このちゃんがワザワザ作ってくれたんだ、食べない方が毒だ」
その通り、コイツはコノカが持たせてくれた特製おにぎりだ。力になっても毒になるなど天地がひっくり返ってもありえない。
そんな俺達の様子にマナは肩をすくめ、ごちそうさんといった表情を見せた。
「あ、そう云えば総統・・・」
指に付いた飯粒を舐め取っていると、セツナが思い出したように話しかけてきた。なんじゃい?
「もうすぐアスナさんの誕生日ですけど、総統は何かプレゼント買いましたか?」
ああ、そういやそんな時期だったな。来週の月曜だっけか?まだなんも買ってねえや。
「日曜日にこのちゃんとプレゼントを買いに行く予定なんですけど、総統もどうです?」
「おっけー、予定開けとくわ」
脳内のスケジュール帳の日曜の欄に赤印が付けられる。『アスナ誕プレ買い物』っと・・・。
ちなみに隣の土曜日にも黒字で『ダイチらと旅行の買い出し』と予定が書かれている。
黒字は普通の用事、赤は要チェックの証である。コノセツとの用事は大体赤だ。
・・・にしても、戦闘前とは思えない会話だ。
「さて2人とも、準備はイイか?」
――――停電開始まで、あと5分を切った。
銃器の整備を終えたマナが、ジャキッとジョイントを鳴らしながら俺達に問う。
その問いに、セツナはチャキンッと夕凪の鯉口を切って応える。
俺もまた、得物をジャカジャンッとピッキングして応じた。準備は万全、いつでも来いだ。
「・・・ちょっと待て、1人おかしい奴が居るぞ」
「誰さ?」
「オマエだ、オ・マ・エ。 なんでこれから戦おうという奴がギターなんか持っているんだ」
何を言う、コレも立派な武器だ。最近使ってなかったから久々に火を吹いてもらうのさ。
戦場に俺という名の歌姫が降臨するぜ、キラッ☆
「本当に大丈夫なんだろうな?」
「任しとけよ」
マナは懐疑的な視線で俺のギターを見つめている。失敬な奴だ、自分だってギターケース持って来てるくせに。
まあ見てなって、ジョニーから受け継いだ妙技の数々をとくとご覧あれだ。
「――――総統、そろそろです」
セツナの声を聞き、腕時計に眼をやる。
――――午後7時59分。まもなく戦闘開始――――
《―――――こちらは放送部です。これより学園内は停電となります。学園内の生徒は極力外出を控えてください――――ザザッ――――》
停電前の最後の放送が学園に響きわたる。
ソレと共に都市から灯りが消失し、学園都市は暗闇に包まれた。
「・・・どうやらオデマシのようだな」
暗闇でいち早く敵勢の存在を察知したのは魔眼持ちのマナ。が、俺達もすぐに気付いたのであまり意味は無かった。
だって、もう前方10メートルくらいに敵さん方がいらっしゃってるんだもの。否が応でも気付くっつーの。
わー、いっぱいいるー。みんな目が血走ってるー。こわーい。(棒読み)
「「「キシャアアアアアアアッ!!!!」」」
前振りも無く襲い来る魍魎、正面から3体。
飛びかかるソイツらを尻目に、俺はゆっくりとピックを弦に這わし――――――
「【ソニックレイブ】!!」
勢い良く弦を弾き、強烈なビートを繰り出した。
生み出された音波は衝撃となり、迫る妖魔を巻き込み貫く。結果、敵3体はあえなく還された。どんなもんじゃい!
「ほぅ、やるじゃないか」
感嘆の声を上げつつも次々と敵の脳天を撃ち抜いていくマナ。セツナもバッタバッタと敵を斬り伏せる。
驚くのはまだ早い、ココからが本領だ。歌の力を思い知れ魔物共!
合図と共にセツナが抜き身の夕凪を振りかざして突撃する。マナもその動きに合わせるようにライフルを構える。ほんじゃいくぜぇ!!
「【あぁ~たぁ~るううううううえええーーーーッ】!!!」
――――【あたるシンフォニー】――――
俺のテキトーともいえる歌に呼応するように、セツナとマナの連携は巧みになっていく。
まるで歯車が噛み合ったかの如く動きのキレが増し、斬り伏せ、撃ち抜いていく。
負けじと敵も得物を振りかぶり俺達に迫る。だったらコレだッ!!
「【かぁっわぁっせえええぇ~~~ッ】!!!」
――――【かわせマーチ】――――
アホみたいな歌が俺達に力を与える。鋭い爪撃や剣閃を難なくかわす。そんなハエが止まる攻撃じゃ当たらんよッ!!
今度はコッチの番だ、喰らえ魂の巻き舌!!
「【しぃびれるうううううううぅッ】!!!」
――――【しびれルンバ】――――
無警戒に近づいてきた敵に、文字通り“痺れる”歌声が素晴らしき巻き舌と共に降りかかる。はっはー、麻痺して動けまい!
そして動けなくなった所を、セツナが斬り、マナが貫き、俺がボコる。
この調子でどんどん行くぞォ!!刻むぜ、熱いビート!!ヤァーーフゥーーー!!!!
「凄いは凄いんだが・・・なんであんな歌で力が湧くのかが不思議でならないよ」
「総統が楽しそうだからソレでいいんだ」
「【ワアアアアァーーーーーーーーオッッ】!!!!」
――――――その夜、ミサトの魂の【ミラクルボイス】が麻帆良に木魂したそうな。
ちなみに誕生日プレゼント、俺はハンカチをあげました。
柄はサクラ、ボタン、スイートピーの3種類。コレ全部4月21日の誕生花らしいよ。
アスナ、泣いて喜んでたよ。よかった、ヘキサゴンドリル3冊とかにしなくて。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
久しぶりに風邪を引きました、どうも私です。
学園長の対応が甘いと思われる方、目を瞑ってください、私にはこれが限界です。
次回より『修学旅行編』スタート。シリアスもあるかもね。