未だ驚愕の余韻が残るアスナ他1名と1匹をどうにかクールダウンさせ、一旦ソファに座るよう促す俺ことミサト。
何か言いたげなソイツらの眼の前に、チャチャマルが淹れた紅茶と、俺の新作スイーツ『ピーチパイ』を差し出す。まずはソレ食って落ちつけって。
「(モグモグ)・・・あ、コレ美味しいです!」
うむ、好評のようでなによりじゃ。
「ちょっとネギ、ノンキに食べてる場合じゃ・・・(ハムハム)・・・、ホントだ、美味しい・・・」
「何普通に食ってんスか2人とも!? 毒でも入ってたら・・・(カリカリ)・・・、マジでウメぇ・・」
ピーチパイを美味しいと思う心に、人間もオコジョも無いのだよ。
ようやく客人達が落ち着いた所で話を切り出す。
俺達3人が魔法関係者であること、エヴァさんの呪いを解くのに協力していること、呪いを解くにはネギの力が必要であること、などを簡単に説明した。
「――――――と言う訳でネギ、イキナリで悪いけど、オマエにもエヴァさんの解呪に協力してもらいたい」
「ちょ、ちょっと待ってもらってもイイですか? なんか混乱しちゃって、何が何やら・・・」
ふむ、一気に新情報が増えすぎて処理が追いつかなかったとな? 大丈夫だ、オマエの頭はインテル入ってるハズだから。
「まさか、アンタ達まで魔法の世界の人だったなんて・・・、ずっと一緒に居たのに全然気付かなかったわ・・・」
「来日早々に気付かれたぼーやがマヌケなだけだ」
「はぅっ!?」
「エヴァちゃん、ネギ君イジメたらあかんて」
「知ったことか、私は“悪”なんだからな」
「ネギ、エヴァさんの分のパイも食っていいぞ」
「あ、コラ貴様!」
「聞き分けの無い人にはあげません」
幼女が抗議しているが、無視して話を進めることにする。
「本来、魔法を知った一般人は記憶を消去することになってんだけど、・・・アスナ、記憶消してもいい?」
「お断りよ」
だろうね。 この質問に躊躇なくYESと答える奴はどれ位いるんだろうか。
「そもそも、なんでバレたら記憶消さなきゃなんないのよ?」
「単純明快、危険だからだ」
「危険って、そんなオーバーな・・・」
「基本の技に【魔法の射手】ってのがあるんだけどな」
「そうなの、ネギ?」
「あ、ハイ、魔法学校で習う基本魔法です」
「ソレ1発で岩くらいなら簡単に砕けるぞ」
「え゛、マジ・・・?」
『魔法』なんてファンタジックな言葉使ってるけど、数ある“力”の内の1つであることに変わりは無い。俺の魔法なんて、ほとんど攻撃用だし。イイもワルイも使い手次第だ。
「要するに、危険に巻き込まないための措置でもある訳なのさ」
「アンタ達、そんな危険な世界に居るわけ・・・?」
「全部が全部危険な訳やあらへんよ」
俺らは結構危険な事してるけどね、闘ったり戦ったりタタカったり。
「とにかく、魔法を知るってことは、普通に生活する人よりも火の粉が降りかかる確率が格段に上がるってことなんだよ」
「できることなら、アスナさんには魔法を忘れて平穏に生きてもらいたいんですが・・・」
「余計に嫌よ」
なんでさ。
「私さ、アンタ達が人質になってるって聞いて、――――結局勘違いだったけどさ、すっごい心配したのよ?」
アスナがゆっくりと胸の内を独白する。
「私の大事な友達が、仲間が、親友が、危険な目にあってるって聞いて、心配で胸が張り裂けそうだったわ。
とにかく助けたかった、どんなことしてでも救いたかった、なんでもいいから私にできることがしたかった。」
色彩の違う双瞳を揺らしながら、言葉を紡いでいく。
「私はね、ネギやアンタ達の助けになりたいのよ。
火の粉がかかる? 上等じゃない、そんなモン振り払うわよ、水かぶってでも突っ込むわよ。
―――――何処かで友達が傷ついてるのに、何も知らずに、何も気付かずにのうのうと暮らすなんて、私には耐えられない、そんなの死んでもごめんだわ」
・・・こりゃ退きそうにねえ、か・・・。
「それに私はネギの従者だし、すでに関係者みたいなもんなのよ?」
「【仮契約】したのか!?」
「だ、だって、『装備は万全にした方がいい』ってカモが言うから・・・」
――――――――それからいくつか危険性についての話をしたが、アスナの意見が曲がる事は無く、議論の末、結局コチラ側に残留することになった。
・・・まぁ、麻帆良に居る限りは安全かな?
「話は終わったか?」
途中から傍観していたエヴァさんが、口の周りに食べクズを付けながら話を切り出す。
・・・・あんなにあったハズのピーチパイが無くなってる・・・。
・・・全部食ったのか、この人・・・。
「解呪について詳しく説明するから場所を移すぞ。 茶々丸、案内してやれ」
そう言って、ケプっと腹をさすりながら従者茶々丸に命令を下す。自分はそそくさと先に行ってしまった。
茶々丸は命じられた通りアスナとネギを別荘へ促し、コノカとセツナもソレに続く。
・・・ほんじゃ、俺も行くかね。
「・・・・・・解せねえな、アンタ、一体何企んでやがんでぃ?」
皆の後を追おうとする俺の背に問いかける1つの声、カモである。
「どういうことだ? “企む”なんて穏やかじゃねえな?」
「【闇の福音】は世紀を超えた大犯罪者だぜ? そんな奴をお上に無断で解き放つなんて、何考えてるか解ったもんじゃねえ」
オコジョなんて外見の割に、意外と思慮深いトコがあるんだなコイツ。
「オレっちには、そこまでしてエヴァンジェリンに協力する理由がわからねえ。 解呪することで、何か自分が得をすることでも無けりゃあ、な」
俺が得すること、ね・・・。
「大した理由はねえよ、単なる俺のワガママだ」
「わがまま?」
「閉じ込められて、翔びたくても翔べない鳥を、籠から出してやりたくなった・・・、そんだけだよ」
「奴は大罪人だぜ? そんな同情かけるような相手じゃねえだろ?」
「だから言ったろ、俺のワガママだって」
腑に落ちない顔で俺を見つめるカモ。納得できねえっスよ、という表情をしている。
・・・でも、そうだよな。 ホントなら、俺がココまでやる義理なんか無いんだよな。
―――――――でも、放っておけなかった。 どうして――――――――?
「・・・他人事とは思えなかったから、か・・・・・?」
「へ?」
「あ、いや、・・・・なんでもねえよ」
話を打ち切って、未だに疑問が残っている様子のカモを肩に乗せ、俺達も別荘へと進む。
「安心しろって、何も企んじゃいねえからさ。 会ったばっかの俺の言うことじゃ、信じらんねえかもしれないけど」
「・・・・今は、兄さんを信じることにするっス。 兄貴や姐さん達も、アンタを信頼してるみたいっスから」
「そうかい」
ま、信じたくなったら信じればいいさ。
―――――――――時と場所は変わって、ここはエヴァンジェリン’sリゾート。砂浜の見える場所でテーブルを囲んでいるところだ。
エヴァさんがネギ達に、呪いを掛けられた経緯、現状などを簡潔に説明していく。
説明を受けるごとに、ネギの顔は苦悶の表情へとシフトしていく。ソレというのも―――――――
「と、父さんが落とし穴で・・・、なんか、イメージが・・・」
「ホントにフザケタ奴だった・・・、アンチョコ見ながら呪文唱えるわ、魔法学校中退だとかほざくわ・・・」
「うぅ・・・、イメージがどんどん崩れていきますぅ・・・」
サウザンドマスターってのは随分と破天荒な人だったみたいだな。
ネギは父親に対して、かなり美化というか理想化というか、そんな感じのイメージを抱いてたみたいだからショックが大きいようだ。
なんとなく、スタンとカイルの関係に似ている気がする。気がするっていうか、そのまんまだよな。
「思い出すだけで腹立たしい・・・! ニカニカ笑いながら呪いなんぞ掛けおって・・・!」
「そしてエヴァさんはそんな笑顔に惚れてしまった、と」
「そう惚れて、ってななな何を言わせるキチャマッ!!?」
「噛んだな」
「顔赤いですよ?」
「エヴァちゃん、かわえーなー♪」
「やかましいわッ!!」
怒り心頭なエヴァさんだが、頬を朱に染めテーブルをバシバシ叩くソレは微笑ましい光景以外の何物でもなかった。
アスナ達の眼もなんだか暖かいものになってきた所で、金髪少女は咳払いして話を戻しにかかる。
「と、とにかくだ! アヤツが来ない以上、血縁者である貴様に責任を取って貰うぞ!」
「ハ、ハイ! がんばります!!」
「というわけで、ぼーや、血を寄こせ、ありったけ」
「ええええ!!?」
「ダメだってのに」
「フンッ」
文字通り血の気の多い幼女にチョップをかまして静止させようとしたが、障壁に阻まれた。
「まあ、血が欲しいのは確かなんだ、もちろん全部じゃないけど」
「兄さんは具体的にどんな方法で解呪するつもりなんでぃ?」
「俺の解呪魔法とネギの血の力で、内と外から同時に攻めてみようと思う」
解呪魔法のパワー不足を別方向から補おうという算段だ。
「解呪魔法・・・、・・・ということは、父さんの懸けた呪いを解析できたってことですか!?」
「いや、俺のはちょっと特殊でな、あらゆる状態異常を問答無用で解いちまうんだ」
「す、すごい! 僕、そんな魔法聞いたこと無いですよ!!」
「それはそうだ、コヤツ独自の新術なのだからな」
「えええ!!?」
「ネギ、アンタさっきからウルサイわよ、叫びすぎよ」
ネギの隣に座るアスナが両手で耳をふさいで抗議している。
「だ、だってアスナさん、新術を開発するって云うのは物凄いことなんですよ!?」
「知らないわよ、今はそれよりエヴァちゃんの呪いの話が先なんでしょ?」
「その通りだバカレッド、バカのくせにイイこと言ったな、バカのくせに」
「2回も言うな! ていうか誰がバカレッドよ!!」
「どうどう」
「馬かッ!!」
荒ぶる名馬オジコンツインオッドを如何にか諌め、話を戻す。
「だけど呪いが強固過ぎて弾かれちまうんだよ。 流石はサウザンドマスターが力任せに掛けただけはあるって感じだ」
「ネギ君のお父さんスゴイなぁ」
「さすが父さんです!」
「黙れ小僧」
「ごめんなさい・・・」
ねぎ は ちょうしにのった。
ねぎ は ようじょ に おこられた。
「ですから、少量のネギ先生の血で内側から崩して、その隙に総統の魔法で外から打ち砕くという作戦なのですが・・・」
「上手くいくんスか、ソレ?」
「確実、とは言えないな。 だから手っ取り早く血を全部頂いた方が・・・」
「だからダメだっつの」
「フンッ」
チョップ、しかし防がれる。障壁張らないでくださいよ。
と、ネギがおずおずと手をあげて何か言おうとしている。
「あの、質問してイイですか?」
なんだいネギ君、なんでも訊きたまえ。
「解呪魔法は、パワー不足だったから効かなかったんですよね?」
うむ、その通りだ。 問題は呪いの方が強かったということだ。
「ミサトさんは【仮契約】してますよね?」
「あ、そういえばさっきカード持ってたけど・・・、てことは・・・・」
なにやらアスナの顔が朱に染まっていくのが見える。何をそんなに・・・・、・・・ああ、そう云うことか。
「どんな相手とブチューっとかましたんスか?」
なんかカモが興奮してんだけど。ムハーっとか言ってるんだけど。ちょっちウザいんだけど。
「そこに居るコノカと」
「いやん♪」
両手を頬に添えて体をくねらすコノカ嬢、面白がってんなコイツ。
カモはヒューヒューと冷やかし、ネギは「はわー・・・」と呆け、そしてアスナは眼を見開き、顔面が灼熱のバーンストライクと化しながら口をパクパクさせて俺らを凝視している。
「契約したのは随分前だぞ、もっとガキの頃だ」
「え? ああ、そういうことね、あービックリした・・・」
「ちなみにセツナもコノカと契約してるぞ」
「おおっ、禁断の愛ッスね!?」
「違います!! 私はノーマルです!! 男性が好きなんです!!!」
「・・・セツナ、大声で男好きと公言するのはどうかと思うぞ?」
「ち、違います総統!! そう云う意味じゃないんです!!」
「あ、あのぉ、話を戻してもイイですか?」
あ、ネギの質問の途中だったんだっけ、ごめんごめん。
「じゃあ、魔力供給してもダメだったんですか?」
「ネギ、魔力供給って何よ?」
「姐さん、さっき教えたじゃないっすか、【仮契約】の効果の1つっすよ」
「ああ、従者を強くしてくれるっていうアレ?」
・・・・魔力供給、だと?
「どうしたのよミサト、変な顔して?」
目線をエヴァさんの方に移して表情を確認する。
・・・俺と同じ顔してた。
そして、同時に口を開く―――――――――――――
「「・・・・そ―――――」」
「「「「「そ?」」」」」
「「―――――――――その手があったか!!?」」
全員、その場で盛大にすっ転んだ。
「試してなかったのかよ!? 【仮契約】の1番基本的な機能じゃねえか!!」
「い、いや、【仮契約】してから1回も魔力供給したこと無かったから、すっかり忘れてて・・・」
俺もセツナも氣で身体強化して闘うから、魔力供給されると反発するからやらない方がいいって詠春さんが言ってたんだもんよ。
「コヤツの解呪魔法にばかり気を取られ、西洋魔術との関連性を完全に失念していた・・・・・、クッ、私としたことが・・・!」
エヴァさんも悔しげに言葉を吐く。
「600年も生きてるからボケてきちゃったんじゃないの?」
「誰がボケ老人だッ! くびり殺すぞバカレッド!!」
「またバカって言ったわね!? なによ、このボケゴールド!!」
「ボケゴッ!?」
「あ、おばあちゃんだからゴールドじゃなくてシルバーかしら?」
「こ、この小娘がぁ・・・!!」
「落ち着いてください、ボ・・・マスター」
「茶々丸、今『ボ』って言ったな?『ボケ』って言いかけたな!?」
「あぁ、いけませんマスター・・・・」
あ、ねじ巻かれて悶えてる。
「姐さん達は気づかなかったのかよ?」
「基本的に私達2人は、解呪自体についてはノータッチでしたので・・・」
「総統に任せっきりやったからなぁ」
しかし、魔力供給とは盲点だった。本来は身体能力向上のためのモノだが、上手く転用すれば俺の魔法にブーストを掛けられるかもしれない。
コノカの史上最大量を誇る魔力があれば、・・・ひょっとしてイケるんでない?
「早速試してみよう! コノカ、頼む!」
「りょーかい! ・・・・・えっと、どうするんやったっけ?」
「木乃香姐さん、魔力供給ってのは・・・」
カモからレクチャーを受け、供給の呪文を覚えるコノカ。何度か口の中でブツブツと反芻し、確認する。そして、マスターカードを取り出して気合いを入れて構える。
準備が整った所で、俺もポケットからカードを出してアーティファクトを顕現させる。右手でホーリークロスを握りしめる。
「その杖がミサトさんのアーティファクトなんですか?」
「正確には、アーティファクトの1つ、だな」
ここで1つ補足しよう。
今、俺は魔法を使うために杖を顕現させたが、別に杖じゃなくても魔法は使える。このアーティファクト自体が発動体として機能しているのだ。
でも杖の方が威力も上がるし、「魔法使うぞ!」って感じに気合入るからこうしているのだ。
んじゃ、無駄話もこれくらいにして・・・
「よし、コノカ、頼む!」
「いくえ!
【契約執行30秒間、木乃香の従者〈一海里〉】!!」
―――――――瞬間、俺の中に大量の魔力が流れ込んできた。
供給された感想としては、体が熱くなって漲るっていうか、そんな感じ。
もしかすると、コレは【オーバーリミッツ】に近い状態なのかもしれないな。
両手をニギニギして感触を確かめてみる・・・、うん、確かに力が上がった感じはするけど、氣のような慣れた感じじゃない、何となく違和感がある。コレが反発って奴か?
・・・っと、いけない、ボケッとしてる場合じゃないんだった。
両の手で杖を握りしめ、全身に流れる魔力を1点に集中するイメージで・・・・
筋肉、神経、その他あらゆる部分を駆け巡る魔力をコントロールし、流れの方向を集約させる。 結構難しいな・・・。
魔力の流れが変化し、心臓に向かって集まって行くような感覚に陥る。
なんだかいつもより格段に練り上げるスピードが早い。それに、集められた魔力も多い。
ちょっと試しに1発、海に向かって―――――――――鋭く、速く!
「【フリーズランサー】!!」
無数の氷刃が水平線目掛けて放たれる。
―――――――間違いない、氷の槍はいつもより格段に多い量、格段に速いスピードで駆けている。
ならば今度は大技、現在練習中の強力な奴に挑戦する。
心臓に渦巻く魔力を、すべて杖に注ぎ込む。
呼び起こすのは豪炎、すべてを焼き尽くす灼熱の意思。
―――――――古より伝わりし浄化の炎、落ちよ!!
「【エンシェントノヴァ】!!」
虚空から現れる灼熱の業火。
強大な炎が、穏やかに凪ぐアクアブルーに叩きつけられる。
直撃した海面は巨大な水柱を立て蒸発し、浄化の焔が瞬間的に海水を焼き尽くすが如く浸食、広大な海原に穴を開けるというトンでも現象が発生した。
すぐに周囲の海水が流れ込んで元通りになったけど。
・・・・コレ、上手く使えば秘奥義が出せそうな気がするな!
と、契約執行の時間が過ぎ、コノカからの供給がストップされ、俺の身体は通常の状態へと戻った。
「どうだ、ミサト?」
エヴァさんが魔力供給利用時の感想を求めてくる。 なので、感じたままを伝える。
「威力が格段に上がってますね。 上級魔法を使うのもあまり苦にならないし、上手く利用すれば秘奥義も放てそうな気がします」
「おお!」
ただ、戦闘中にコレができるかって言われると微妙だ。
やってみてわかったけど、魔力流をコントロールするには、かなりの集中力を要する。
使えるとすれば余裕がある時、もしくは距離を取っての決め時くらいか。使いどころが難しそうだな。
・・・・ん、どしたアスナ、そんな鳩がバズーカ喰らったような顔して。
「な、なに今の!? 氷がたくさんドドドドって!? でっかい火がドカーンで!? そんで水がザバーンで!!?」
「とても中学3年生の言語表現とは思えんな」
「う、うっさいわね、これくらいが普通よ!!」
素人には刺激が強かったか。【ゴルドカッツ】辺りにしとけばよかったかな?
「よし、ソレで解呪してみろ!」
「コノカ、もっぺん頼むわ。 今度は少し短めでいいから」
「ハイハーイ♪
【契約執行15秒間、木乃香の従者〈一海里〉】!!」
再び似非【オーバーリミッツ】モード。
先程と同様に、眼を閉じ、全身の流れを1か所に送り込むように集中する。
・・・そして練り上がると同時に眼を開き、杖を介して解き放つ!
――――――卑しき闇よ、退け!
「【リカバー】!!」
放たれた聖なる意思が、強固で巨大な呪縛の意思とぶつかり合い、火花を散らす。
今までにない手応えが、杖から伝わって来る。有無を言わさず弾かれていた呪文が、僅かながら壁にめり込むような感触だ。
呪縛の鎖と解呪の祈りがせめぎ合い、そして―――――――――
バチイイイイイイイイイッッ!!!!
―――――――――壮絶な電流音と共に、俺の身体は後方へと吹っ飛ばされた。
「ごっふぇッ!?」
・・・そして、後頭部にチャチャマルのカッチカチの膝が直撃した。
「こ、この手ごたえ、コレは使える!
・・・・む、おいコラ、いつまで寝っ転がっている気だ、さっさと起きろ! まだ終わっとらんぞ!!」
「・・・~~☆・・・(ピヨリピヨピヨ)」
「・・・アカン、気絶しとる」
「後頭部しこたま打ちつけてましたからねぇ・・・」
「何をやっとるかマヌケがッ!」
その言いぐさはあんまりだと思う、と言いたかったが、気絶してたので何も言えなかった。
その後、5分で気絶から目覚めた俺は、早速今後の方針をエヴァさんと話し合った。
「致死量限界まで血を飲んで、供給を受けながら解呪すればどうですか?」
「かなりイイ線行くと思うが・・・、あと1つ決め手に欠けるな」
「なんか恐ろしい事をサラッと話してる!? 致死量限界は流石に嫌ですよ!?」
「そう思うなら、ぼーやももっとアイディアを出せ」
そう言われて頭を捻るネギだったが、いくら天才といえど、そうホイホイ考え付く訳も無く、どうすればいいんだろうと悩んでいると―――――――
「1人でダメなら、2人から供給すればいいんじゃない?」
今度はアスナがアイディアを出した。
「姐さん、ソイツはちょいと無茶な相談ですぜ」
だが、カモが待ったを掛けた。
「従者が2人の主と契約するってことは、例えるなら部活を掛け持ちするようなモンなんスよ。 魔力供給は、部活の練習時間だと思ってくれりゃあいい」
「えっと・・・、つまり、同時に2つの練習には出られない?」
「そう云うことっス」
「頑張れば絵を描きながら走り込みとかできそうじゃない?」
「スッゲェ器用っスね、その人」
あまり参考にならないなと俺は思ったが、エヴァさんは何やら思案しているようだ。
「・・・よし、その案採用してやる。 泣いて喜べ、バカレッド」
「どう致しまして、ボケゴールド」
「え、でも今、カモ君が無理だって・・・」
「無理なのではなく、それだけ供給を受ける者への負担が計り知れないというだけの話だ。
実行する者がいないだけであって、やろうと思えばできなくはないだろう」
・・・ちょっと待ってくれ。その流れだと、俺にその計り知れない負担がかかるってことだよな? 俺の体への配慮はどうなってんの?
「耐えろ」
いや、耐えろって・・・。
「貴様ならイケる、だから耐えろ、以上だ」
一目置いてくれんのは嬉しいけど、時と場合によるよ・・・。
「・・・ん? でもそーなると、総統はウチ以外の誰かと【仮契約】するってこと?」
「じゃあ、是非兄貴と! 男ってのが頂けねえが、兄さんが従者になれば兄貴は安泰、オレっちの懐も・・・、ウッヒッヒッヒッ・・・!」
「断固拒否だ! 何が哀しくて男とキスせにゃならんのだッ!」
何考えてんだよ、まったく・・・。
「仕方がない、私が契約してやろう」
・・・・・・・・・・へ?
「・・・エヴァさん、今なんと?」
「だから、貴様を私の従者にしてやるというのだ。 光栄に思うがいい、最強の魔法使いの従者なんてそうそうなれる者じゃないぞ?」
どうだ嬉しいだろ、と言わんばかりにエヴァさんが近づいてくる。
そして俺は後ずさり。
「ちょ、ちょっと待って下さい? エヴァさん、そんな簡単に決めていいんスか? 【仮契約】ですよ?」
「別に唇の1つや2つくれてやった所で何の差し支えも無い。その程度で便利・・・、いや、面白・・・、いや、それなりの従者が手に入って、尚且つ呪いも解けるなら十分だろう」
「今『便利』とか『面白い』とかいう言葉が出ませんでしたか? しかも言い直しても『それなり』止まりですか?」
「いいから黙って契約しろ」
エヴァさんの細く華奢な腕がフッと振られたかと思うと、俺の四肢が突如空中に張り付けられたように身動きが取れなくなった。
この人、俺が逃げる前に糸で動きを封じ込めやがったよ!
「ちょ、ダメですって! こういうのは軽はずみにやっていい事じゃねえっスよ!」
「別に焦ることも無いだろう、初めてじゃあるまいし」
「そう云う問題じゃねえッス!」
コイツらの前でそんなことできるかってんだよ!
誰か、誰か俺を救ってくれ! 貞操のピンチだ!
「契約魔方陣、描き終わりやしたッ!!」
「ふむ、御苦労だな小動物」
カモ、テメェ!? 完全に仲介料目当てだなコノヤロウ!! 欲望に忠実すぎるぞ!!
「なんで僕に目隠しするんですか、アスナさん?」
「ガキが見るにはまだ早いわ」
アスナ、子供へ配慮するなら俺にも配慮してくれ!!
コノカ、助けて!
「総統、ガンバってや♪」
何を!!?
「待って待って! 幼女に唇奪われるのは嫌ですよ!」
とにかくエヴァさんを怒らせてでも止めさせようと、軽く暴言を吐く。
案の定、エヴァさんの額には無数の青筋が浮かび上がってきた。 やっべ、超怒ってる・・・。
・・・しかし、ふと何かを思いついたような顔をしたと思ったら、青筋を沈め、代わりに妖艶な笑みを浮かべた。
「この姿が気に入らんのか? ならば・・・・」
その言葉と共にパチンッと指を鳴らしたかと思うと、小さな体が一瞬煙に包まれ、エヴァさんの姿が見えなくなる。
煙が晴れたそこには―――――――――――
「コレなら文句はあるまい?」
―――――――――艶やかな金色のロングヘアーを潮風に揺らした、絶世の美女が姿を現した。
・・・・ドチラサマ?
「・・・・茶々丸さん、あれ誰?」
「あれはマスターが威厳を出すために使用していた幻術魔法です。 マスターが成長した姿を想定して構成されています」
俺の疑問を代弁してくれたアスナに回答するチャチャマル。
幼女から美女へジョブチェンジしたエヴァさんは、身動きの取れない俺の顎を人差し指でクイッと持ち上げて顔を覗きこむ。
その際、成長した2つの巨大な丘が、たわんっと揺れるのが俺の視界に入った。でけえ。
「容姿に関する問題は解決したな?」
「あ、ハイ、そっスね、すっげぇスタイルで・・・って違う違う! そうじゃな――――――――――――――ハッッ!?」
な、なんか冷たい視線が背中を刺してるような・・・?
錆びついたブリキ人形のように首を回して、後ろを振り返ると・・・・
「・・・・・・(ジト~)」
・・・・セツナが半眼になってコッチを見ていた。
「あ、あの、セツナ・・・?」
「・・・総統・・・」
お、怒ってらっしゃる・・・。 一瞬鼻の下伸ばしたのがいけなかったのか・・・?
「・・・・好きにすればいいんじゃないですか? (プイッ)」
見捨てられた!!!?
「満場一致だな」
「俺の反対票がまだ残ムグゥッ――――――――――!?」
――――――――見た目は美女・ホントは幼女・中身は超熟女、というなんだかよくわからない女性に、俺の唇は奪われた――――――――
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
次回、「【登校地獄】解呪編」、決着!?