チーンッ
図書館島まで急ぎ足で赴いた俺は、指示された直通エレベーターに乗って地下深く一気に降り立った。そこから、更に螺旋階段を降りないといけないらしい。
ヒョイッと下を覗きこんでみるが、全然底が見えない。
石を落してみる、・・・・・・・・・・・しばらくしてカツーンって音が聞こえた。
コレ歩いて降りんのかったるいな・・・。
「誰か居るかーーーーー!!?」
イルカーー、イルカー、イルカー・・・・・・
・・・・エコーはあれど、返事無し。
誰も居ないなら・・・・、まあ、いっか。
氣で足を強化し、斜め下の足場目掛けて飛び降りる―――――――――
―――――――――着地したら、反転してまた斜め下の足場へ跳躍、着地、反転、跳躍、着地、また反転して跳躍――――――――
――――――――そんな感じに、髭が似合う配管工の如きジャンプアクションで一気に底まで舞い降りる。
終点には1つの扉、『非常口』と書かれてあった。レッツオープン、よいこらせっと。
――――――眼の前を水が上から下へと流れている、どうやら滝の裏側に出たようだ。
・・・・・滝?
なんで図書館に滝があんだよ、本がシワシワ~ってなるじゃん、水気厳禁でしょうが。
前々から思ってたけど、この図書館も相当変だよな。何が変かって、まあ、いろいろだよ。
そんな風に異常な保存状態の本達を眺めながら歩いていると、1冊の本がコツンッと足にぶつかった。
なんじゃらほいと拾い上げてみると、何やら重厚な本だ。中身は・・・全ページ白紙。守護騎士が出てきて菟集したりするのかな?・・・なんてね。
手持無沙汰だったので、何の気なしにその本を持ったまま歩きだす俺。すると――――――――
「――――このように、cutは過去形も過去分詞形も変わらずcutとなる訳です、わかりましたかー?」
「「「「「ハーイ♪」」」」」
――――――――楽しげな授業の声が聞こえてきた。ノンキなモンだよ、まったく・・・。
「ではこの文を、長瀬さんに訳してもらいましょうか?」
「ニン・・、えーと、『ジョンは紙に書かれた文を読む。ソレには、「期限内に鍵を探すこと」と書かれている』、で良いござるか?」
「あー、ほとんど合ってますけど、おしいですね~」
「Johnの後のreadにsが無いから過去形だな、正確には『文を読んだ』が正解だ。前にも教えたろ?」
「あれま、初歩的なミスでござる」
「ケアレスミスには皆さんも注意してくださいね」
「勿体無いからな」
「「「「「ハーイ♪
・・・・・・・・・・・ん?」」」」」
「あ、総統や」
・・・・ようやく気付いたか。
「うわあああ!!? ミ、ミサトさん、いつの間に!!?」
「ど、どうしてアンタがココに!?」
「オマエらを迎えに来たからだよ、学園長に頼まれてな」
「ええ!?じゃあ侵入したのバレちゃってたの!?ど、どうしようネギ君!?」
「今回は特別にお咎め無しだとよ」
「よ、よかった~・・・」
全然よかねえんだよ。
「全員、そこに正座」
「「「「「「「「・・・・へ?」」」」」」」」
「だから、正座」
「えっと、ミサト・・・?」
「Hurry up!!」
「「「「「「「「イ、イエッサー!!」」」」」」」」
瞬時にビシィッと姿勢を正して正座する6人。
「おかしいな・・・、・・・みんな・・・どうしちゃったのかな・・・?」
「み、ミサト殿・・・?」
「日頃の積み重ねが大事だって、いつも言ってるよね・・・?」
「そ、総統の眼がツヤ消しに・・・!」
「教えてもらう時だけちゃんと言うこと聞いて、直前でこんな無茶するなら・・・、練習の意味無いじゃない・・・? ちゃんとさ、練習通りやろうよ・・・」
「わ、私は教わったこと無いんですけど・・・」
「わ、私も・・・」
そこ、うるさい。
「ねぇ・・・、俺の言ってる事、俺の教導、そんなに間違ってる・・・?」
「ヒィッ・・・・・!」
ネギがビビりまくり。
「わ、私は! 小学生からやり直しなんてしたくないから!! だから・・・!! 頭良くなりたいのよ!!!」
・・・義務教育なんだからそんなことありえんだろう。
「もう少し・・・、頭使おうか?」
とりあえず全員に一発ずつハリセンでクロスファイヤーしておいた。
そして、個別にお小言タイム。
「まずネギ、オマエが一緒になって侵入してどうすんだよ。教師なら生徒の暴走はちゃんと止めなさい」
「あぅ、す、すみません・・・・」
「アスナ、こんなトラップ満載の危険地帯に子供を連れ込むとはどういう了見だコラ」
「い、いや、ソイツも役に立つと思って・・・」
「役立てるなら、自分の部屋で勉強教えてもらえばいいだろうが」
「うう・・・」
「カエデ、クー、眉唾本に縋ってどうすんだよ。武術家が他力本願でいいのか?」
「ニン・・・」
「す、すまないアル・・・」
「コノカ、セツナ、コイツら止められなかったのか?」
「面目ありません・・・」
「ウチらじゃ力不足やってん」
「ユエ、オマエ頭いいんだから普通に勉強すりゃイイじゃねえか・・・」
「・・・勉強は嫌いなんです」
「・・・・・・・オマエは誰だ?」
「ヒドイ!? まき絵だよ、学園祭の時に会ったじゃん!!?」
ああ、悪い悪い。
「・・・ミサトさん、怒ってますよね?(ヒソヒソ)」
「大丈夫です、アレは怒ってるというより拗ねてるだけですから(ヒソヒソ)」
「拗ねる、でござるか?(ヒソヒソ)」
「今まで頼ってくれとったのに、急に眉唾の噂に鞍替えされたから寂しいんよ(ヒソヒソ)」
「寂しいって・・・、ミサトってそんなキャラだったっけ?(ヒソヒソ)」
「そうは見えないです(ヒソヒソ)」
「そう云うモンなんよ(ヒソヒソ)」
「意外アル(ヒソヒソ)」
「へ~(ヒソヒソ)」
「・・・・・全部聞こえてんだけど」
「「「「「「「「あ・・・」」」」」」」」
なんとなく恥ずかしかったから、もう1回ずつシバいといた。反省はしない。
「ところでミサトさん、その手に持ってる本は・・・」
「ん、ああ、ココ来る途中で拾ったんだよ」
「そ、それはまさしく、頭が良くなる魔法の・・・・!!」
「別に読んだトコロで何にも変わんないぞ?」
「ガーーーン!!」
全ページ白紙だから、読む以前の問題だけど。
「む、無駄足だったの・・・?」
バカレンジャー総しょんぼり。んなもんあったら誰も苦労せんわい。
「だ、大丈夫ですよ! 皆さんココでみっちり勉強してましたから、ちゃんと成果は出てるハズです!!自信を持ってください!!」
意気消沈のメンバーに激励を飛ばすネギ少年。ちゃんと先生らしいことしてんだね。
「・・・確かに、先程の英訳、以前の拙者なら苦戦は必至でござった」
「ネギ君、教え方ウマイもんね~」
「ん、だんだん自信が出てきたアル!」
「そうです! 魔法の本なんかに頼らなくても皆さんはやればデキるんですよ!!」
イイこと言うね、ネギ。できればココに来る前に言って欲しかったけど。
「ま、今は日曜の午前中。あと1日残ってるし、上に戻ってスパートかけりゃイイとこまで行くんじゃねえか?」
「よーし、皆さん帰りましょう!!」
「「「「「「おーーー!!」」」」」」
「ところで、総統はどうやってここまで来たんです?」
「地上からの直通エレベーターでな」
「そんなのあったですか!?」
――――――俺は探検隊一行を引き連れ、滝裏の非常口から螺旋階段を上り、エレベーターまでエッサホイサと向かう。
「この階段、何処まで続くの~!?」
「どうなってんのよミサト!!」
「俺に言うな、造った奴に言え」
「どうなってんのよ大工さん!!」
大工さんではないと思う。
チーンッ
「ん~!久しぶりの外だ~!!」
「空が青いアル!」
――――――ようやく地上に出た、太陽の光が眩しいっす。そういやあの地下遺跡、電気も無いのに明るかったな。アレも魔法だろうか?
時刻は午前11時を廻った所だ。最終調整には十分な時間があるだろう。
「んじゃ、各自部屋に戻って昼食タイムね。食べ終わり次第、勉強道具持ってミサトの部屋に集合ってことでイイ?」
「講師役が何人か必要やね」
「のどかとハルナに頼むです」
結局いつも通り俺の部屋で勉強会を取り行うことになった。なんかみんなが優しい目線だったけど気にしない、拗ねてないっての。
「頑張った奴にはマーボーカレー作ってやるぞ」
「「「「「いやっほーい!!」」」」」
「「「?」」」
餌づけ組とそうじゃない組で反応がきっかり分かれた。ふっふっふ、そうじゃない組よ、食った後でも同じ反応ができるかな?
・・・今度は「ピーチパイ」とか「ビーストミートのポワレ」とか作ってみようかな?
――――――そんなこんなで勉強会開始。
「ネギ君、ココは?」
「ソコはですね、円周角と中心角の関係を利用してですね・・・」
「カンケイを利用するって、なんだかイケナイ響きだね~♪」
「・・・ホラ、これでこの値を求めるんですよ」
「このアタイを求めてごらん! な~んてね♪」
「ハルナは少し黙るです」
「ふじわらのかたまり、・・・あ、間違えた、カマタリだ」
「私、聖徳太子って聞くと青ジャージ着た駄目男しか思い浮かばないんだけど」
「ああ、わかるわかる。松尾芭蕉もそうだよな」
「でもおかげで芭蕉の弟子の名前は覚えたアル」
「ソラ君だよね」
「漢字で書けるようにしとけよ?」
「『空』じゃないの?」
「『曾良』だよ」
「電流がコッチから来るでござるから・・・」
「左手の法則で・・・、あれ、左手ってどんな形だったっけ?」
「こうでござるか?」
「ソレ、『グワシ』だぞ」
「晩飯できたぞ~」
「「「「「いやっほーーいっ!!」」」」」
「・・・なんでこんなにテンションが高いですか?」
「そんなに美味しいんでしょうか?」
「食べればわかるんじゃない?」
「ほう、コレはなかなかだな」
「・・・マナ、なんで居るんだ?」
「御相伴にあずかりに来ただけだ。なに、気にすることは無い」
マナに空気フラグが立った気がした。そして本当にメシだけ食って帰って行った。
さー、ラストスパートだー、みんなガンバレー。
チュンチュン・・・・
・・・ん、朝か・・・。
しょぼついた眼を擦りながらデジタル時計を確認、・・・・うん、月曜だ。ちゃんと[ MON ]の表示が出てる。今は6時半か・・・。
顔をあげて辺りを見回してみると、乙女達が安らかにお眠りあそばされていた。
普段俺が使ってるベッドにコノカとセツナ、炬燵にカエデ・クー・マキエ、毛布かぶってソファで寝るハルナ・ノドカ・ユエ、そしてその脇で寄り添って船を漕ぐアスナ&ネギ。
・・・コイツら全員泊って行きやがったよ。気付いたら日付を跨いでいたんで、そのまま徹夜覚悟で勉強してたからなんだけど。
頼むから誰か危機感を持ってくれ、ココは男の部屋なんだぞ。無防備に寝てたらどうなるか解りませんよ?
・・・まあ、何もしないんだけどさ。
ちなみに俺はイスに座ったまま寝ました。若干、体が痛いです。
とりあえず洗面所で顔洗って、水を1杯クイッと飲み干す。
・・・さて、そろそろ起こさないとな。
おもむろに台所へ向かい、手にしたのは使い込まれたフライパン、そしてその相棒のお玉。
スーッと深呼吸。右手にお玉を、左手にフライパンを構え、そして―――――――――――
「―――――奥義! 【死者の目覚め】!!」
ガンガンガンガンガンガンガンガンッ!!!!
「「うわわわわわ!!?」」
「「な、なに!!?」」
「空襲!?」
「謀反でござるか!?」
「ハーイ、グッモーニーン。爽やかな朝ですよー」
「何処が爽やかなのよ!!?」
「うう・・・、頭の中でガンガン音がリフレインされてます・・・」
とっとと起きて朝飯の支度を手伝いなさい。
・・・それにしても、ノドカまで泊っていくとは意外だった。絶対帰ると思ったのに。
「・・・ネギ先生と、お泊りしちゃった・・・・、・・・・・・・・きゃっ♪」
・・・ネギ目当てだったんだ、これまた意外。
――――――そして、朝飯も食ったところで・・・・
「「「「「「「「いってきまーーっす!!!」」」」」」」」
「おー、がんばれよー」
手を振って全員を送りだした。傍から見たら異様な光景だよな、男子寮の一室から朝早くに飛び出していく少女達って。
どうやら一旦女子寮に戻るらしい、間に合うのかねえ?
―――――――――あとは野となれ山となれ、ってか?
――――――――そして、数日後の結果発表。
各学年のテスト結果は毎回放送部が大々的に発表するコトになっており、その結果予想による食券トトカルチョも生徒達の娯楽の1つとなっている。なんて不謹慎な学校だい。
そして、気になる結果だが―――――――
《第1位!2年A組!! 平均点81.0点!!》
――――――なんと女子中等部2-Aは、万年最下位からの脱却どころか、学年トップの成績を獲得したそうな。ちゃんと遅刻しないで試験を受けたらしい。
セツナも、今回は今までよりもかなりイイとこまで行ったみたいだ。よかったよかった、優秀な部下を持って俺も鼻が高いよ。
・・・がんばったなあ、アイツら。
ちなみに俺はいつも通りの点数、クラスの順位もそこそこだった。
「――――ふむ! まさか学年トップにしてしまうとは、アッパレじゃネギ君!!」
「ありがとうございます!!」
そして俺は今、学園長室でネギとジイさんの遣り取りを傍聴しているところである。別に付き添いでいる訳じゃない、俺は別件で用があるんだ。
「約束通り、最終課題は合格じゃ! 来季から正式な先生として働いてもらうが、精進は欠かさないようにのぅ?」
「ハイ、よろしくお願いします!!」
こうしてネギは4月から教師として正式採用が決まった、おめっとさん。
「ミサトさん、いろいろお世話になりました!」
「ま、これからもっと大変だろうけど、ガンバレよ?」
「ハイ!!」
ホントに大変になるぞ、主にエヴァさん関係で。今は黙ってるけどね。
「――――それでは学園長、失礼します!」
意気揚々と退出していったネギを見送り、部屋に残る俺とジイさん。さて、こっからは俺の用事だ。
「キミにもいろいろ迷惑かけてすまんかったのぅ」
「いえいえ、俺にかかる迷惑なら別に気にしてないですから」
「フォフォ、そうかそうか」
「―――――――ただ、アイツらを面白半分で地下に落としたことについては別ですよ」
「フォ!? な、なんのことかの?」
「地底図書館に落とされる前にやったツイスターゲームの番人の声が、明らかに学園長のモノだったとの情報をセツナからもらってます」
「はっ!?詰めを誤っ・・・!・・・あ、しまっ・・・!」
「俺と電話してた時も、リアルタイムで実況してましたね? 『ハズレじゃ』とか『コッチの話じゃ』とか」
「い、いや、それは・・・!」
「おかしいと思ったんだよ・・・、電話のタイミングが良すぎるし、いくら疲れてるからって30時間も寝るなんてさぁ・・・」
「ま、待つんじゃ! コレは子供のネギ君がちゃんと教師としてやっていけるかどうかの試練で・・・!!」
「その試練にセツナ達を巻きこむ必要性はあったのか・・・?」
「ちょ、ちょっと待つんじゃ!いやホントにちょっと待って!!頼むからそのスゴそうな武器をしまっとくれ!!」
――――――聞く耳持たん!!!
「断罪の【エクセキューション】ンンンッッ!!!!」
「ぎょえええええええええ!!!!!???」
――――――――その日、学園に奇妙な悲鳴が木霊したとのニュースが報道部から出たが、すぐに風化していったそうな。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
第一次「ぶるぁ」降臨。