キーーンコーーンカーーンコーーン
「――――では、今日はここまでです!皆さん、気をつけて帰るようにしてください!」
ネギが女子中等部2-Aに着任して早数週間、戸惑いながらも少しずつ教員職が板についてきた今日この頃。
「さよーなら、ネギせんせー!」
「ネギ君、また明日ねー!」
A組女子の反応は上々。当初は少々頼りないと思われていたネギであったが、先のドッヂボールの一件で多くの生徒達からの信頼を獲得することとなり、多少のToLOVEるもありながら順風満帆の教員生活を送っていた。
「ネギ君、お疲れ様や」
「あ、アスナさん、このかさん。どうでしたか、僕の授業?」
「よかったえ、わかり易いし」
「ま、頑張ってんじゃない?」
ネギと同居しているこの2人は、とりわけ親しい間柄となっている。
特にアスナは、自分『だけ』が知っている『ハズ』であるネギの秘密へのフォローもあり、手放しにできないという理由もある。
まあ、少年の現状はさておき―――――
「アンタは、これから仕事?」
「あ、いえ、今日は会議も無いのでこのまま帰りです。アスナさん達は?」
「ウチらは総統の所に寄るつもりなんよ」
「総統・・・、ああ、ミサトさんですね。お2人で、ですか?」
「あとは、せっちゃんと―――」
「ミサトのトコに行くアルか?」
「拙者達も同行しても構わないでござるか?」
「おまたせしました、このちゃん」
「とまあ、この5人ね」
要するに、いつもの面々である。
「長瀬さんと古菲さんも、ミサトさんと親しいんですか?」
「あいあい」
「同じ釜のメシを食た仲アル」
「せや、ネギ君も一緒に来る?」
「え?僕も、ですか・・・?」
このネギ少年、少々海里に対して苦手意識のようなモノがある。
そりゃ会った初日に殴られたり眼潰し喰らったり、更には別れ際に死の宣告を賜わったりしていたのだ。
原因が自分に帰結しているとはいえ、その気持ちは分からなくはない。
オマケに彼と最後に会ったあの日から、一体どれだけ突発的武装解除をやらかしたことか。
もしソレが知れた日には火あぶりにされるのではないかと戦々恐々なのだ。
尤も、もうバレてるんだけどね。
「ぼ、僕が行っても大丈夫でしょうか・・・?」
「1人増えたところで怒るような御仁ではござらぬよ」
そう意味で聞いたんじゃないんですけどと言いたげなネギだが、そんな事情などお構いなし。
ネギは肉体派2人に売られゆく子牛のように引きずられ、その様子に明日菜と刹那が御愁傷様的な視線を送る。特に止める気はないようだ。
「・・・ネギの奴、大丈夫かしら」
「総統の折檻が頭に残ってるんでしょうね」
「大丈夫やて、総統も鬼やないんから」
甘いぞ木乃香、彼は君達のためなら「鬼」にも「魔王」にも「ぶるぁ」にもなる男だよ。
――――まあとにかく、一同は男子寮目指してダバダバ歩んでいくのだった。
「――――んで、数学の範囲は、っと・・・」
がちゃっ
「総統おるー?」
「遊びに来たわよー」
「だからノックしろっての」
いつもの事ながらまったく・・・、俺がレディアントマイソロジイ中だったらどうすんだコラ。
「・・・ん?珍しい顔が居るじゃねえか」
「こ、こんにちはミサトさんっ」
ネギが俺の部屋に来るとはな、珍しいこともあるモンだ。
・・・しかし、なんだかビビられてるような感じがするな。コロスは言いすぎたか、撤回する気ないけど。
「まあいいや、あがれよ。茶ぁ淹れっから」
「オ、オジャマシマス」
「「「「「お邪魔しまーす」」」」」
―――――全員に湯飲みを配付、ネギには客人用のシンプルな奴を。
「皆さんは、よくこうして集まるんですか?」
「まあな、この部屋は完全に溜まり場と化してんだよ」
「このメンバーでバンドを組んだこともあるでござるよ」
「ほら、そこに写真あるでしょ?学祭のときのヤツよ」
「本当だ・・・わ、スゴイ、賞も取ったんですか!?皆さんカッコいいですね!!」
「ふふん、もと褒めるアル♪」
あ、そう言えば・・・。
「ネギ、オマエまたアスナの服引っぺがしたらしいじゃねえか?」
「え!?あ、いや、ソレは、その・・・!?」
「一体どうなってんだよ、そのイリュージョンはよ?」
くしゃみで暴走する魔力って、どんだけ有り余ってんだよ。
「ミ、ミサト!!そ、ソレは私がみっちりきっちり叱っておくから、気にしなくてもいいわ!?」
「え、ああ、オマエがそう言うなら・・・」
・・・なるほど、こうしてフォローに回ってるってワケなのね。魔法の存在が一般人にバレたら、ネギはオコジョになっちまうからな。
でも何でオコジョなんだろうか?どっかの魔法少女はカエルだったような気がするけど・・・。
アスナの慌てっぷりにブルー&イエローはハテナ顔、ネギほっと安堵、その他苦笑い。・・・スマン、アスナ。苦労を掛ける。
――――と、セツナが俺の机の上に積んである教材やらノートやらに目を留める。
「勉強中でしたか?」
「いや、勉強っつうか、範囲の確認だな。もうすぐ学期末テストだし」
「へ~・・・・、ってええ!?そうなんですか!?」
・・・なんで教師のオマエが知らねえんだよ。
「もうすぐって・・・、まだ2週間以上先じゃない」
「気が早過ぎアルよ」
「ニンニン」
コントバカ信号どもはお気楽な発言。
「今の内からチョコチョコやっといた方が、後で慌てなくて済むんだよ。どっかの誰かさん達と違ってな」
「「「ギクッ」」」
コイツらはいつも直前になってからアタフタするからな。その度に俺が駆り出されてるワケなんだけど。
逆にいえば、テスト直前はコイツらの勉強を見るために当てられるので、今のうちに自分の分をやっておこうということなんだけどね。
知識としてはもう頭に入ってることばかりだから、軽く復習する程度で済むから楽だけどさ。
「へ~、ミサトさんは偉いですね!」
「ウチの学校はエスカレーター式だから、そこまで根詰めることじゃないんだがな」
「そ、そうそう!あわてなくてもヘーキヘーキ!」
「大丈夫アル!まだ余裕アル!」
「その余裕が、A組万年最下位という不名誉な称号として残ってる訳なんだけど」
「「「「うっ!」」」」
あれ、1人増えたぞ?
「ぜ、全然大丈夫じゃないじゃないですか!?」
「そうだな、今回はネギのこともあるしな」
「? ネギ君がどないしたん?」
よく考えてみ。
「教育実習期間中のネギが受け持っているクラスが学期末テストで最下位を取る。学園長からの評価は?」
「良くは・・・、無いでしょうね・・・」
「ヘタすりゃその時点で修業終了、なんてことにもなりかねんぞ」
「そ、そそ、そんなぁ!?」
まあ、ソレは言いすぎかもしれないけどね。
「と、いうわけだ。今回は気合入れてけよ?オマエらの頭脳にネギの将来が懸かってんだから」
「よ、よろしくお願いします、皆さん!!」
「や、やるだけやってみるわ・・・」
「ま、まかせる、アル、ヨロシ・・・」
「ニ、ニン・・・」
「・・・このちゃん、よろしくお願いします」
「まかせとき♪」
・・・本当に大丈夫だろうか?まあ、いざとなったら俺も手を貸すし、なんとかなるか?
・・・ん?どうしたネギ、キラキラした目でコッチ見て。
「ミサトさん!僕、誤解してました!あんな失礼を働いた僕を、こんなに気にかけてくれるなんて・・・!怖い人かと思ってたけど、ミサトさんてイイ人なんですね!」
「・・・面と向かって怖い人とか言うなよ」
俺だって、進んで子供の未来をつぶすような鬼畜ではない。
俺がコイツをブン殴ったりしたのは、逸脱した失礼を働いたからだ。大事な幼馴染達が往来で脱がされりゃ、俺じゃなくても殴るだろう。
かなり私怨も混じっていたが、子供の過ちはちゃんと周りが正してやらなきゃならない。そして長所は伸ばしてやるのがベストだ。
教育を語るほどデキタ人間ではない、というか本当に半分はニンゲンではないんだが、それくらいは俺にもわかる。
「一応はオマエより長生きしてるし、相談くらいには乗るさ」
「はい!よろしくお願いします!!」
「あと、コノカ達に手ぇ出したらコロスから」
「ソコは変わらないんですか!?」
―――――詰まる所、トモダチ達に危害が及ばなけりゃソレでいいんだよ、俺は。
「すぐ近くに先生が住んどることやし、いろいろ質問したらええんやない?」
「はい!どんどん訊いちゃって下さい!なんでも答えますから!」
「アイドル評論家ってどうやって食い扶持繋いでんだ?」
「え、いや、その手の質問はちょっと・・・」
「まだその疑問引き摺ってたんですか?」
「・・・ま、まあ今日は勉強道具も無いし!」
「とりあえず遊ぶアル!」
「明日からがんばるでござる!」
ソレ完全に駄目な奴の発言じゃねえか・・・。
・・・まあ俺も今日は範囲確認だけの予定だったし・・・。
「まあいいや、何する?」
「スマブラでもやろっか」
「ミサトのピーチにリベンジアル!」
「ネギ君もやろー?」
「TVゲームですか?僕、そう云うのはやったこと無くて・・・」
・・・何?
「じゃあ、マンガとかは?」
「ソレもあまり・・・。図書館で勉強したり、まほっ、・・・い、いろいろ練習したりはよくしてましたけど」
そりゃいかん、マンガには人生の教訓が兵糧丸の如く詰まってるんだぞ?ワンピとか銀魂とか読んでみ、いろんな意味でスゴイから。
「子供は遊ぶのが仕事アル、偶には息抜きも必要アルよ」
「何事も挑戦、でござるよ」
「は、はい、なんとかやってみます」
・・・ゲームってこんな畏まってやるモンだっけ?
「まずは、ネギ・コノカ、セツナ・アスナでチーム戦やってみ」
「あの、説明書は?」
「後ろから指示出してやるから」
「習うより慣れろアル」
やりながら覚えたほうが早い。
「私サムスね」
「では私はマルスを」
「ウチはカービィや」
「ネギ坊主は?」
「えっと、・・・じゃあこの帽子の子を」
・・・いきなりネスとは、レベルが高いな。
《―――――Ready・・・・Go!!》
「喰らいなさいネギ!チャージショット!!」
「うわ、アスナ容赦ねえ!」
「うわわっ!ぼ、防御はどうやるんですか!?」
「ネギ君、人差し指のボタンや!」
――――――遊びも大事な糧となるのだよ、ネギ少年?
――――――数十分後――――――
「あ、この電撃みたいなのって自分にも当てられるんですね!」
「ああ!私のマルスがぁ!!」
「ネギ君すごぉい!」
「この・・・、刹那さんの仇ぃ!チャージショットォッ!!」
「あ、バットで打ち返せました!」
「サムスウウゥ!!!」
コイツの学習能力ハンパねえ!!
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「―――――詰まる所、トモダチ達に危害が及ばなけりゃソレでいいんだよ、俺は」
これがミサトの行動原理です。一般人に危害が~~とかいろいろ言ってますが、根本はこれです。