春休みは、みっちり丸々バンドの練習に当てられた。俺達は素人集団だからとにかく練習あるのみなんだよ、時間はいくらあっても足りないんだ。
俺以外はコードと譜面を覚えるところから始まり、俺とセツナとアスナにはボイストレーニングも追加された。
「曲の躍動感はドラムスに掛かってるからな、頼りにしてるぜ?」
「元気なら負けないアル!」
アヤカには感謝してもしきれないな、この設備を全部自費で出したら一体どれだけ費用がかかるんだろう?。
・・・学園祭限定のバンドなのに、こんなに金使わせていいんだろうか?
「旋律に色彩を加えるのがキーボードの仕事だ、花を添えてくれよ?」
「お任せや!」
更に俺とセツナは、バンド練習+“裏”の仕事もある。なかなか大変だよ、両立させんのはさ。減らしてくれよ学園長。
「音に深みを出すためにはベースが必要不可欠だ、ガンバレよ」
「期待に添えるよう頑張ります!」
「縁の下から支えるでござる」
そういえば、ダイチ達のバンドも始動したらしい。
グループ名は『A.A.キングス』、やっぱりどこかで聞いたことがある名前だった。
なにやら自慢してきたようなので、俺もアイツらとバンドを組む旨を伝えると、本気でコブラツイストかけてきやがった。すぐに外してキン肉バスターくらわしてやったけど。
「バンドのクオリティは俺達ギター次第だ、やれるか?」
「い、いいわ、やってやろうじゃない!」
こんな感じに、全員に発破をかけながら練習は続けられた。
――――――休みも明け、新年度が始まる。俺達は2年生になった、リアル中2だ。
進級してもトレーニングは続行。クーが力加減を間違えてドラムセットを何台かおシャカにしたなどのハプニングもあったが、練習は続けられた。
そして俺達の技術は順調に向上していき、5月の上旬にはなんとか人前で演奏しても恥ずかしくないレベルまで達した。
早速スポンサー料を払うべくアヤカの前で演奏したところ、
「荒削りですが、光るモノを感じましたわ」
との感想を頂戴した。
ならばこっからは研磨作業の開始だ、1人1人の精度をあげていくしかあるまいて。
――――――いよいよ今年の麻帆良祭が近づいて来た。
俺達はクラスメイトの了承を得て、自分のクラスの出し物の手伝いを抜け出しラストスパートをかける。
ロックコンサートに出場するには、予選として事務局にデモテープを渡すことになっている。なので、雪広グループ所有のスタジオで曲を録音、しかる後に事務局に提出。
数日後、予選突破の連絡が俺の部屋に来た。メンバー全員狂喜乱舞、『A.A.キングス』も予選を通ったらしい、やるじゃん。
「さあ、もう少しだ!気合い入れていくぞォ!!」
「「「「「おおー!!!」」」」」
そして――――――――――
《―――――只今より、第77回・麻帆良祭を開催します!!》
ついに学園祭が始まった。
今年のロックコンサートは初日、つまり今日の午後より行われる。
俺達は午前中からギリギリまで使って、最終調整に入っていた。
大きな問題はナシ。あとは本番を待つだけだ・・・・・。
《――――レディース・エーンド・ジェントルメーン!!これより、大音楽祭、まほロックを取り行いまあす!!》
いよいよ本番がスタートした。
トップバッターから順に演奏していく、みんなウマイなぁ・・・。
俺達の出番は後半、というかトリだ。待ち時間が異様に長く感じる。
セツナ達も落ち着かないようだ、さっきからウロウロしている。まあ、カエデは割かし悠然と構えてるけど。
と、ADのような人が俺に話しかけてきた。
なんでも、前半グループが思いのほか長くなってしまい、時間が押しているとのこと。
だから申し訳ないが、俺達の曲数を3から2へ減らしてほしい、との知らせだった。
・・・・残念だが、仕方あるまい。全員で歌うアレを削るしかないか。ゴメンな、あんなに練習したのに。
――――後半が始まり、『でこぴんロケット』も『A.A.キングス』も出番を終えた。
そして・・・
「いよいよ次だな・・・」
「き、緊張してきた・・・」
「ウチもや、ドキドキがおさまらへん」
「でも、後戻りはでいないでござるよ」
「ええ、ここまで来たら・・・」
「最後まで突走るだけアル!!」
・・・みんな、付き合ってくれてありがとよ。
「やれるだけやった、あとは出し切るだけだ・・・」
「「「「「・・・・」」」」」
・・・・・・・・よし―――――――――――
「―――――行くぞォ!!!」
「「「「「おお!!!」」」」」
《――――さあ、最後のグループとなりました!最後を飾るのは、・・・・初登場!男子1人に女子5人のハーレムバンド、【凛々の明星】ですっ!!》
・・・その紹介文、なんとかならなかったのかよ。
《今回のまほロックに出場するために結成された出来立てホヤホヤの新星!カバー1曲とオリジナル1曲を引っ提げやってきた彼女らの実力やいかに!?》
ソデから舞台に上がる俺達。練習通りの、いつものポジションへ。最初は、セツナとアスナのツインボーカルだ。
目線を配らせる――――――――準備はイイか?
―――――――――おう!!
《それでは1曲目、参りましょうっ!【凛々の明星】で――――――――――――――!!》
―――――2人の少女は唄う―――――
寄り添う影が、一つになる唄を―――――
わああぁあぁああぁああぁ!!!!
《ありがとうございます!すばらしいデュオでした!!それでは、この勢いのままラストの曲に参りましょう!!》
さあ、俺の出番だ・・・・全力で行くぞ!!
《それでは聴いてください、【凛々の明星】オリジナルソング――――――――!!》
―――――漆黒の少年は唄う―――――
自分は何故生まれたのか、その答えを知るための唄を―――――
わああああぁあああぁあああああぁああ!!!!!
《お聴き下さいこの歓声!!すばらしい歌をどうもありがとう!!!以上、【凛々の明星】でした!!皆さん盛大な拍手を!!!》
「・・・・・ぷあぁ!!緊張したぁ!!」
「もう私、腰が砕けそう・・・」
「ど、動悸が・・・」
「ウチ、ちょっとトチってもうたわ・・・」
「・・・でも、楽しかたアル!!」
「やりきったでござるな」
・・・ああ、やりきった。
いろいろ言ってはいるが、全員顔が笑っている。悔いは無いだろう。
―――――みんな、本当にありがとう。
《――――優勝は、エントリーNo.07【ストライパーズ】です!!》
審査結果の発表。優勝したのはこのロックフェスの常連のグループ、全員縦縞の服を着ている。『でこぴんロケット』は3位、大健闘だ。
『A.A.キングス』?アイツらは駄目だったな、音ハズシまくってたもん。
まあ、俺達も入賞できなかったから似たようなもんだけどな。
だが、俺達の顔には悲壮感など欠片も無かった。やるだけやった結果だ、楽しかったしな。
トロフィーや優勝旗の授与などが滞りなく進む。
・・・これで、全部終わっ―――――――
《―――――え?・・・あ、はい、わかりました》
・・・ん、なんだ?不測の事態でも起きたか。
《申し上げます!!たった今、『審査員特別賞』を受賞するグループが決定いたしました!!》
え、そんなのあったのか?一体どこのチームが・・・・・
《発表しますっ!!!栄えある、審査員特別賞に輝いたのは―――――――――――――
―――――エントリーNo.18【凛々の明星】です!!!!》
「「「「「「・・・・・・」」」」」」
・・・・・全員、放心状態。
「・・・・ホントに?」
「私達が・・・・?」
「特別賞、アルか・・・・?」
―――――パチパチパチパチパチパチパチ
観客の拍手で我に帰り、顔を見合わせる俺達。
・・・・マジ、なんだな―――――!
「「「「「「―――――いやっったあああああ!!!!」」」」」」
狂喜っ乱舞っ!!抱きついてきたコノカとセツナを受け止めながらクーとハイタッチ!あーあー、アスナもポロポロ泣いちまって。カエデ、あやしてやってくれ。
周りに促され、前に出る【凛々の明星】一同。
観客席を見ると、2-A連中が惜しみない拍手を送ってくれていた。あとアヤカ、泣き過ぎ。
審査員長の青年が、クリスタルの像を持って近づいてきた。
「まだまだ未熟な面も見えたけど、それを補って余りある魂を感じたよ。よってこの賞をおくろう、おめでとう!!」
「「「「「「ありがとうございます!!」」」」」」
クリスタルトロフィーを受け取り、全員で歓びを分かち合う。
―――――最高だよ、オマエ達!!
〔アンコール!アンコール!アンコール!アンコール!アンコール!―――――――〕
《おおっとぉ!!ここでアンコールが来たあ!!優勝チームを抑えてのこの歓声、どう応える【凛々の明星】!?》
・・・・メンバーの顔を見てみる。
――――――全員、ニカっと笑った。
・・・・・・上等!!
「ポジションに着けぇい!!」
「「「「「了解!!」」」」」
俺達の声に観客が湧き立つ。応えてやろうじゃねえの!
駆け足でステージへ!それぞれの楽器を手に取り、演奏準備に掛かる。
メンバー間の目配せ・・・・準備万端!
それじゃあ行くぜ、本当のラスト1曲―――――――
「行くぞォ!ラストナンバー、――――――!!」
――――――星たちは唄い上げる――――――
朝焼けの中、大切な人と共に歩く、素晴らしい日々を―――――
―――――――数日後―――――――
「―――――あ、ちょっと!サムス使わないでよ、私の持ちキャラなんだから」
「別にええやん、色違いで同じの使えば」
「俺のピーチは無敵だぜ」
「なんの、拙者のゼルダが打ち砕くでござる」
「このちゃん、頑張ってください」
「負けたら私と交代アル、ファルコンが火を吹くアル」
――――そこには、いつもの風景。いつもの放課後。
今までと違うのは、棚の上のモノ。
置時計や充電器と一緒にそこにあるのは、日に照らされ輝くクリスタル、そして―――――――
[ 特別賞受賞!我らブレイブヴェスペリア!! ]
――――――そう書かれた、クリスタルに負けない輝きを放つ、6人の笑顔の写真だった。
俺は、この平穏が、この平和が、ずっと続けばいい、いや、ずっと続くんだと、そう思っていた。
―――――――――英雄の息子が、この地に赴くまでは。
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これは、少年たちのミュージックサクセスストーリー・・・・・ではありません。ネギまです。
平穏も終わり、いよいよ原作開始に近づいてきました。
ネギ襲来、巻き起こる騒動、そして闘い。
ほのぼの要素は失くさずにいきたいですけど、この先どうなるか、私もよくわかりません