本日は土曜日、例によって暇を持て余していた俺は、午前中からネットサーフィンに勤しんでいた。ちゃんと繋がってるよ、回線。
買ったゲームの攻略サイトやらマンガの感想掲示板やら、見たいところは一通り巡回したんで、現在適当に検索エンジントップの芸能ニュースなんかを覗いているところだ。
・・・そういや前に検索かけてみたけど、「テイルズシリーズ」って打ち込んでもヒットしなかったんだよな、当たり前だけど。やはりこの世界には存在しないみたいだな。
ソレに関するモノ、例えばオープニング曲とかも無かったよ。歌手自体はいるけど、歌は出してないみたい。残念だ。
ボヘ〜っとアホ面してディスプレイを眺めていた俺だったが、その視界にチラリとあるバナーが入り込んできた。
――――――『ネットアイドル掲示板』?
ネットアイドルねぇ・・・、この手のサイトは覗いたことないから実態がつかめん領域だな。いったいどんな娘っ子が集まっているのだろうか。
・・・・ちょっと覗いてみるか。
好奇心に駆られた俺はバナーをクリック、ポチっとな。
ディスプレイにズラリと少女達のサムネイルが現れた。ほぉ、なかなかのレベルじゃないか。
でもこういうのって大体顔に修正かけたりしてんだろうな。今の技術はスゴイから、二重にするのも輪郭削るのも楽勝だろう、・・・・考えたら少し悲しくなってきたよ。
トップにはどんな奴が君臨してんだろ?スクロールスクロールっと・・・。
・・・この娘か、ハンドルネームは『ちう』、コスプレ写真が多いな。これまたレベルが高いこと・・・・。
なんだこのコメント、「みんな、ちうを応援してくれてありがとうなのら〜、きゃっる〜ん♪」って、すっげえブリブリってますよ。
・・・・・・・ん?
・・・なんか、どっかで見たことあるような?ソレもつい最近・・・・、でも俺の知り合いにこんなにハッチャケてる奴いたっけ?
・・・・・駄目だ、わかんねえ。気のせいだろうか・・?
まあいいや、それより作曲の続きでもしよう。音楽ソフト入れたんで、記憶を頼りにテイルズソングを創ってる最中なんだよ。これでも音楽は得意なのさ、カラオケとか大好きだ。
それからしばらくキーボードと格闘する俺、難しいなこれ。
・・・・・ディスプレイ見続けたせいか、ちょっと疲れたな。外にでも行くか―――――――――
――――さて、今はちょうど昼飯時だ。腹も減ってきたことだし、どっかにイイ店ないかなっと・・・。
「ハイイイイィ!!!」
ドカッバキッドグシャアァッ!!
「「「ぐほああああぁ!!!」」」
―――――前方30メートル先で屈強な男共が宙を舞っていた。
・・・・またやってるよ。出かける度に見てる気がするな、このあり得ない光景。
あの女の子ナニモンだよ、褐色の肌にチャイナ服、クリーム色の髪を二つに纏めた・・・・
「さあ!次の相手は誰アル!?」
・・・・わかりやす過ぎるほどの中華キャラ口調。所謂一つのバトルジャンキーだ。
・・・吹っ掛けられちゃかなわん、サッサとメシ屋を探そう。
そう歩を進めようとした俺の前に――――――――――
「ごっほあああああっ!!!」
――――――むさ苦しい呻き声と共に野郎が空から降ってきた。
こっちに飛ばすんじゃねえよっ!「親方、空から男の子がっ!」とでも言うと思ったか!!
反射的に腕で受け流すように身体を捌き、ムサクルボディプレスをかわす。アブねえアブねえ・・・。
・・・・と、なんか視線を感じる。とても嫌な予感がする。
頭ん中に響く警鐘を耳に感じながら、目線を前に移すと――――――
「むむっ、ソノ体捌き!タダモノじゃないアルな!?」
・・・・チャイナ娘が、新しいおもちゃを見つけた子供のようなキラキラワクワクした眼でこっちを見てた。・・・・うそーん。
「いざ尋常に勝負アル!!」
チャイナが俺目掛け猛然と距離を詰める!こっち来んなぁ!!
「ホアタアアアアッ!!」
一瞬で目前まで詰めた勢いそのままに、中段蹴りを放つ!!
その蹴撃を体勢を極限まで落とし紙一重で避ける!
チャイナ、そのまま踵落としに移行!俺、バッタのようにバックステップ!!
再び俺に迫り左腕を引き絞るチャイナ、くそっ、こうなりゃ!
「【崩拳】!!」
「【掌底破】!!」
拳と掌がぶつかり合う!!眼を輝かせる中華娘々、・・・これ以上付き合えるかっての!!
右掌に氣を込め、引き抜くと同時に・・・・爆ぜろっ!!
「【烈破掌】!!」
「っ!!?」
氣の爆発に巻き込まれ吹き飛ぶチャイナ!
一気にケリを――――――――――――つけずに回れ右して一目散!!さらばだ明智君!!!
チャイナがなんか喚いてるが知らんっ!アーアーキコエナーイ!!
とにかく駆ける、ひた走る、無駄に闘いたくないんだよコッチは!!!
メンドウという名の危機を脱すべく、俺はストリートを何も考えず駆け抜けるのだった―――――――
――――――そして何も考えずに走った結果、山の中に来てしまった。・・・・・走り過ぎた。
メシ食うハズだったのに何故こんな所に・・・、くそぅ、みんな社会が悪いんだ!!
・・・・しかたない、川で魚でも獲るか。数週間山道を歩き続けた経歴を持つ俺はサバイバル術も身につけているのだ、魚くらい訳無いさ。
まず川を探さねば。どっかにあるだろう、俺の勘からして。森林浴でもしながら探索しますかね。
――――そうして獣道をテクテク歩いたところ、なにやらヒトが居た形跡を発見。焚き火跡にテント、ドラム缶もある。ちょっとしたベースキャンプだなこりゃ。
・・・・山男でも居たのか?
恐る恐るテント内を覗きこむ、・・・・・誰も居ねえな―――――――
「おや珍しい、お客人でござるか?」
――――――気配も無き背後から若い女の声。誰だこんな山の中に、アヤシイ奴めっ!
「他人のテントを覗きこんでる御仁に言われたくないでござるよ」
御尤も。で、ドチラ様だい、糸目のお姉さん。このキャンプの主かい?
「いかにも、ココは拙者の修行の拠点でござる。それと、お姉さんと呼ばれる程歳は離れていないでござるよ、まだ中1故」
「タメかよ」
「ニンニン」
俺よりデカイじゃねえかよ、少し分けてくれ。胸の方はウチの部下に。
「して、其方は何用でここに?」
「用は無い。バトルジャンキーチャイニーズから逃げてたらいつの間にかココに。仕方ないから川で魚でも獲ろうかと」
ソッチは修行とか云ってたな。なんの修行だ、花嫁修業か?
「山に籠っても嫁ぎ先は見つからないでござるよ」
そりゃそうだ。じゃあなんだ、まさか忍者じゃなかろうな、さっきからわかり易いくらいござるござる言ってるけど。
「はて、なんのことでござろう?」
うわーぉシラバックレたよ、こんなに証拠が物語ってんのに。でも逆に証拠があり過ぎて怪しくないかもしんない、容疑者から真っ先に外れるタイプだ。
「川に行くなら案内するでござるよ、ちょうど昼時、拙者も魚を調達するでござる」
おおサンクス、&サークルK。ありがとう、忍者かと思いきや忍者っぽい別の何かである年上風味の同級生。
「長いでござるよ、拙者の名は『長瀬楓』と申す」
「カエデ、ね。俺はミサト、一海里だよ」
「ではミサト殿、川へ参るでござる」
「御意」
「おお、いいノリでござる」
いざ行かんリバーサイド。
「―――ところでさっきのチャイナがどうのと申していたが、多分拙者のクラスメートでござるよ」
「マジでか」
そんな会話をしているうちに、目的地に到着。きれーな水だこと、関東のド真ん中とは思えん。
「では早速」
そう言ってカエデが懐から取り出したるは鉄製の棒、所謂「クナイ」だろうか。流れるような動きで3本投擲、見事全弾命中。スゲエな忍者もどき。
「んじゃ俺も、ソレちょっと貸してくれる?」
「あいあい」
手渡されたクナイを構え、ヒュイっと投擲。しかし得物は獲物に当たらず水中へ、だが本領はこっからだ。右手の指を2本立て、手首を軽く振る。
「忍法 【雷電】っ」
ピシャンっと水中のクナイ目掛けて極小の落雷、当然感電、5匹ほど魚がプカリと浮かんできた。
「・・・・ミサト殿、忍者であったでござるか?」
「さあ?」
「今思いっきり「忍法」って言ってたでござる」
「空耳じゃない?タモリ倶楽部に投稿してみたら?」
カエデは九割九分九厘忍者だろう。気配の絶ち方、氣の張り方、その他諸々が常人とはかけ離れてる。なら俺も忍法くらいなら使っても問題無かろう。
「修行の賜物、とでも言っておくよ」
「拙者と手合わせを願えるでござろうか?」
「パスだ」
こいつもバトルジャンキーか。眼ぇ輝かせんな糸目のくせに。
食う分を獲った俺たちは、ベースキャンプに戻って焚き火で焼いて調理することに。その辺の枝に刺して塩ふって、焦げ目がついて脂が滴ってきたら食べ頃だ。
「「いただきます」」
素材本来の香りを楽しみながら2人してカブリつく。魚ってこの食い方が一番うまいんじゃなかろうか。
「しっかし、麻帆良ってのは変人の巣窟だな」
「自分もその一員と云う自覚はあるでござるか?」
「一応な」
ムシャムシャ食いながら会話する俺とカエデ、雰囲気など欠片もない。
「カエデはココに住んでのか?」
「休日だけでござるよ、ずっとここに居てはルームメイトが心配する故。ミサト殿も寮暮らしでござるか?」
「まあな、ソッチと違って一人部屋だけどね」
「悠々自適と云う訳でござるか」
「そゆこと」
会って間もないのに会話が途切れないってのはいいな。気まずくなんないし、何よりメシが美味くなるってモンだ。
「そういえば、もうすぐ学園祭でござるなぁ」
「珍しいよな、ソノ手の祭りは秋ごろやるもんだと思ってたけど」
「場所それぞれでござろう」
「それもそうか。カエデんトコのクラスは何やるんだ?」
3匹目の岩魚に手を伸ばす。幾らでも食えるなコレ。
「それがまだ決まって無いでござるよ、なかなか意見が纏まらないんでござる」
「どこも似たようなもんだな、ウチのクラスもそんな感じだ」
「A組は積極的な生徒が多いでござるが、すぐ話が横道に逸れてしまうのでござるよ」
「え、カエデ、A組なのか?」
何気に重要キーワードじゃねえか。
「そうでござるが、ミサト殿もA組でござるか?」
「まあそうなんだが、そうじゃねえんだ。近衛木乃香と桜咲刹那って知ってるか?」
「このか殿と刹那でござるか?もちろん知っているでござる、クラスメート故」
「幼馴染なんだよ、ソイツら」
「なんと」
奇妙な縁だこと。友達の友達は友達でしたよ。
「もしや、2人の会話から偶に出てくる『総統』とは?」
「ああ、俺だな」
「と云う事は、真名が言っていた最近知り合った面白い奴というのも・・・」
「ソッチは知らねえ」
マナの奴、一体何を吹聴してやがるんだ。
「むむっ、真名が認めるという事はやはり相当の実力者、是非手合わせを!」
「パス2だ」
「あと1回パスしたら罰ゲームとして拙者と闘ってもらうでござる」
「七並べじゃねえんだから」
そんなローカルルールは知らん、無視してやる。
「どうしても嫌というのでござれば・・・・・」
ござればなんだ。
「ミサト殿に山中で襲われ揉むに揉まれたって報道部に駆け込むでござる」
「なっ!テメェ汚えぞ!!俺を社会的に殺す気か!!」
「汚れ仕事も忍の務めでござる」
「今「忍」って言ったな、ハッキリと」
「ブラタモリに応募すると良いでござるよ」
空耳コーナー無いよ、その番組。
「さあ、どうするでござる?」
「・・・・・・わかったよ、やりゃいいんだろ」
「おお!では早速・・・!」
「ただしまた今度だ、今日は駄目だ、テンションが上がらない」
しゅんとするカエデ。そんな捨てられたアレみたいな顔すんなよ、モヤモヤすんだろが。
「アレってなんでござるか?」
アレはアレだっての。約束は守る、だから元気出せって。
「・・・ウソ吐いたらチャイナ娘を連れ立って昼夜を問わず襲撃を仕掛けるでござるよ?」
やめろっつの。
「冗談でござるよ、楽しみにしてるでござる」
一転、鼻唄を歌い出す糸目忍者。喰えない奴だよホント。
「ほんじゃあ、帰るわ」
昼食も摂り終えたのでお暇させてもらう。
「手合わせ、待ってるでござるよ」
「へいへい、都合がいい日がわかったら連絡するっつーことで」
「あいあい♪」
今時は忍者もケータイ持ってる時代なんだな。俺のアドレス帳にどんどんA組女子の名前が増えていくんだが。
・・・・そういやチサメは何組だ?今度逢ったら訊いてみるか、いつになるかわからんけど。
こうして自然の恵みを堪能した俺はカエデに別れを告げ、再び街へと降りて行ったのだった―――――
「見つけたアル!いざ勝負!!」
「嫌だってのっ!!!」
またチャイナに発見された。