――――麻帆良学園女子中等部・校舎屋上――――
「エヴァちゃーんっ」
「ちょっとイイですか?」
「む、なんだ、近衛木乃香と桜咲刹那。私は忙しいんだ、後にしろ」
「マスター、お茶を」
「うむ」
「・・・忙しいって、屋上でティータイム洒落こんでるだけじゃないですか」
「うるさい、用があるならサッサと言え。張り倒すぞ」
「あんなぁ、今度エヴァちゃんち行ってもええかなぁ?」
「断る」
「早いですよ、『何のつもりだ』くらい訊いてくださいよ」
「どうせ碌な用じゃあるまい、態々【闇の福音】の住居に来るなど。オマエ達も“裏”の者ならわかるハズだろう」
「総統が挨拶に行きたいゆうんよ」
「総統?・・・・・ああ、あの小僧か。なんで私がそんな小僧の相手を・・・・、そういえば、アヤツ見たことのない技を使っていたな・・・・」
「人生の先輩からアドバイスが欲しいとか言ってました」
「・・・・・いいだろう」
「よろしいのですか、マスター?」
「少し興味が湧いた、『悪の魔法使い』に逢いたいなどと云うモノ好きに、な」
「・・了解しました」
「次の日曜だ、すっぽかしたら挽肉にすると伝えておけ。クククっ・・・・」
――――同学園男子中等部・1年A組教室――――
―――――!? な、なんだ、今の悪寒は?
「どーしたよ、カイリ」
「いや、ちょっと寒気がな」
なんだろう、何かすごくヤバめな猛獣に狙いをつけられたような・・・。
「おいメシ行こうぜ、ミサっちゃん」
「今日はニノのオゴリっつーことで」
「マジで!?サンキューさっとん!!」
勝手なことぬかすな、あとあだ名を統一しろ。
発言を訂正させるべく、ガタリと椅子から立ち上がり級友の後を追う俺。今日はカツカレーでも食うか、金曜だし。
――――――――そんな昼時日本列島――――――――
(とーきどーきー、と○くーをーみーつめーるー♪)
―――――おはようございます、一海里です。今日の建もの探訪は、埼玉県麻帆良市のエヴァンジェリン邸にオジャマします。いやぁ、立派なログハウスですねぇ、手作りでしょうか?
「渡辺篤史ごっこはいいですから、入りますよ?」
「せかすなよ」
「緊張しとるん?」
「割とな」
そう、今日は【闇の福音】との顔合わせだ。顔自体は1回見てるけど、面と向かってはコレが初めて、そりゃ緊張の一つもするさ。
マナから聴いた住所を頼りに歩を進めた結果、今言ったようなイイ感じのログハウス前に到着した。ココが【闇の福音】の住居か、もっとお屋敷みたいのを想像してたよ。
さて、いつまでも家の前にいるわけにもいかない。気引き締めドアの前に立つと、キィッと音を立てて開く。自動ドア?
「いらっしゃいませ、近衛さん、桜咲さん、それと・・・」
「一海里っす」
「・・・一様、ようこそ」
この娘が開けてくれたのね。・・・あ、キミは・・・
「ネコに餌あげてたロボッ娘?」
「ガイノイドです、『絡繰茶々丸』と申します」
【闇の福音】の従者だったのか。ソレにしては優しげだな、エプロンドレスが似合ってる。
従者チャチャマルに促され、家の中へ。いよいよ対面だ。
家の中は、一言でいえば『ファンシー一直線』だった。多種多様の人形がズラリと並べてある。そういや【人形使い】って二つ名もあったな。
そんな感じで家の中を物色している俺たちに――――――
「―――遅かったな、待ちくたびれたぞ」
――――ソファに腰掛け、足を組んで妖艶な笑みを浮かべる麗しい金髪の少女が1人。
・・・・このヒトが、真祖の吸血鬼・・・・、最強にして最悪の、『悪の魔法使い』・・・・。
「―――よく来たな、近衛木乃香、桜咲刹那、そしてニノマエミサト」
「―――初めまして・・・ではないか、・・・改めまして、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルさん」
【闇の福音】と【漆黒の翼】が、ここに邂逅した―――――
「態々招いてやったんだ、手ぶらじゃないだろうな?」
「あ、そうだ、コレお土産っす」
木製のバケットを差し出す。
「・・・何だコレは?」
「ニシンのパイをお届けにあがりました」
「どこの宅急便だキサマは」
見てんだ、ジブリ。
「ちなみに俺が作ったヤツです」
「ふん、毒でも盛ったか?」
「そんなこと言わんでくださいよ、ホラここ、ココのクリームのデコレーションとか苦労して――」
「なんでデザート風なんだ!!メインディッシュを張る料理だろコレは!!!ってクサッ!!魚クサッ!!!」
――――邂逅は、なんかマヌケな感じに収束していった。
俺たちの対面に座るエヴァンジェリンさん、そしてその後ろに仕えるチャチャマル。その顔は若干引き攣っている、チャチャマルは変わらんけど。
「・・・・よくそんなモノ食えるな・・・」
ソレと云うのも、俺たち3人が『ミサト特製・ニシンのパイ』を躊躇いも無くパクついてるからだ。
「最初はアレやけど、だんだんクセになってくるんよ」
「このエグさが堪らないんです」
結構好評なんですよ、初めは敬遠するけど食ってみたら意外に、って感じで。ドリアンみたいなもんだ。
「・・・キサマらは嫌がらせしに来たのか?」
「違いますよ、エヴァさんにもこのスイーツのうまさを味わってもらいたくて」
「スイーツなのはキサマの頭だ。あと勝手に私の名を略すな」
だって長いんだもの。お気に召さなかったか、ニシンのパイ。
「捨てるか食いきるかしろ、吐き気がする」
その言葉を聞いて、後ろに仕えていたチャチャマルが前に出て、テーブルの上のパイに手を伸ばす。・・・捨てちゃうの?
チャチャマルはナイフを手に取り、切り分け、皿に乗せ―――
「・・・茶々丸、何をしている?」
「食わず嫌いはよくありません、マスター」
「いや、そういうレベルじゃないだろ、ゲテモノだぞソレ」
「皆さんは美味しそうに召し上がっています、よってマスターの食わず嫌いと判断します」
何か琴線に触れるものがあったのか、皿片手にエヴァさんに詰め寄るチャチャマル。ガイノイドの琴線てどこだ、なんのコードだ?
「さぁマスター、口をお開けください」
「や、やめろ茶々丸!」
「食べ物を粗末にしてはいけませんマスター」
「い、いや、だから――!」
「さぁ――――」
――――ログハウスに真祖の悲鳴が轟いた。レアなもん見たな。
「・・・・・意外にイケるな」
「でしょ?」
ニシン信者が増えた。
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『建もの探訪』のテーマソングって何気に良い歌詞ですよね。