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No.1515の一覧
[0] 【完結】悪魔がたり(中編連作・現代・オカルト・ミステリ風味)[寛喜堂 秀介](2013/09/01 22:44)
[1] ユビサシ2[寛喜堂 秀介](2009/09/14 01:48)
[2] ユビサシ3[寛喜堂 秀介](2009/09/14 01:49)
[3] ユビサシ4[寛喜堂 秀介](2009/09/14 01:50)
[4] ユビサシ5[寛喜堂 秀介](2009/09/14 01:52)
[5] ユビサシ6[寛喜堂 秀介](2009/09/14 01:53)
[6] ユビサシ7[寛喜堂 秀介](2009/09/14 01:55)
[7] ユビサシ8(了)[寛喜堂 秀介](2009/09/14 01:57)
[8] 閑話1[寛喜堂 秀介](2009/09/22 00:19)
[9] 閑話2[寛喜堂 秀介](2009/09/22 00:26)
[10] ユビオリ1[寛喜堂 秀介](2007/12/21 23:53)
[11] ユビオリ 2[寛喜堂 秀介](2007/12/23 22:16)
[12] ユビオリ 3[寛喜堂 秀介](2007/12/26 01:20)
[13] ユビオリ 4[寛喜堂 秀介](2007/12/30 04:11)
[14] ユビオリ 5[寛喜堂 秀介](2008/01/02 20:33)
[15] ユビオリ 6[寛喜堂 秀介](2008/01/04 22:10)
[16] ユビオリ 7(了)[寛喜堂 秀介](2008/01/04 22:37)
[17] 閑話3[寛喜堂 秀介](2008/01/09 01:58)
[18] 閑話4[寛喜堂 秀介](2008/01/13 03:11)
[19] ユビキリ 1[寛喜堂 秀介](2008/02/02 23:16)
[20] ユビキリ 2[寛喜堂 秀介](2008/02/05 23:40)
[21] ユビキリ 3[寛喜堂 秀介](2008/02/08 20:56)
[22] ユビキリ 4[寛喜堂 秀介](2008/02/10 22:18)
[23] ユビキリ 5[寛喜堂 秀介](2008/02/14 22:59)
[24] ユビキリ 6[寛喜堂 秀介](2008/02/17 22:06)
[25] ユビキリ 7[寛喜堂 秀介](2008/02/22 23:28)
[26] ユビキリ 8(了)[寛喜堂 秀介](2008/02/27 20:14)
[27] 閑話5[寛喜堂 秀介](2008/03/03 19:36)
[28] 閑話6[寛喜堂 秀介](2008/03/16 21:40)
[29] 外伝 神がかり1[寛喜堂 秀介](2008/09/28 18:13)
[30] 外伝 神がかり2[寛喜堂 秀介](2008/09/28 18:12)
[31] 外伝 神がかり3[寛喜堂 秀介](2008/10/09 23:15)
[32] 外伝 神がかり エピローグ(了)[寛喜堂 秀介](2008/10/10 23:46)
[33] 閑話7[寛喜堂 秀介](2008/10/23 22:01)
[34] ユビツギ 1[寛喜堂 秀介](2009/03/09 01:39)
[35] ユビツギ 2[寛喜堂 秀介](2009/04/06 01:07)
[36] ユビツギ 3[寛喜堂 秀介](2009/04/06 01:05)
[37] ユビツギ 4[寛喜堂 秀介](2009/04/29 22:15)
[38] ユビツギ 5[寛喜堂 秀介](2009/05/31 23:14)
[39] ユビツギ 6(了)[寛喜堂 秀介](2009/05/31 23:12)
[40] 閑話8[寛喜堂 秀介](2010/06/14 22:47)
[41] 外伝 刀ぞうし 前編[寛喜堂 秀介](2010/06/29 18:13)
[42] 外伝 刀ぞうし 中編[寛喜堂 秀介](2010/06/26 20:31)
[43] 外伝 刀ぞうし 後編[寛喜堂 秀介](2010/06/27 20:49)
[44] 閑話9[寛喜堂 秀介](2011/08/18 22:27)
[45] 閑話10[寛喜堂 秀介](2011/09/30 23:55)
[46] ユビサキ1[寛喜堂 秀介](2012/01/18 23:28)
[47] ユビサキ2[寛喜堂 秀介](2012/01/25 22:12)
[48] ユビサキ3[寛喜堂 秀介](2012/01/29 22:11)
[49] ユビサキ4[寛喜堂 秀介](2012/02/03 00:08)
[50] ユビサキ5[寛喜堂 秀介](2012/02/23 23:05)
[51] ユビサキ6[寛喜堂 秀介](2012/02/23 23:04)
[52] ユビサキ7[寛喜堂 秀介](2012/04/09 02:57)
[53] ユビサキ8(了)[寛喜堂 秀介](2012/04/16 03:51)
[54] 閑話11[寛喜堂 秀介](2012/11/23 00:24)
[55] 閑話12[寛喜堂 秀介](2012/11/27 22:03)
[56] 終話 悪魔がたり 前編[寛喜堂 秀介](2012/11/30 22:54)
[57] 終話 悪魔がたり 後編[寛喜堂 秀介](2012/12/02 20:36)
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[1515] ユビサシ5
Name: 寛喜堂 秀介◆ae2fa14e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/09/14 01:52

 宝琳院庵。
 中野一馬。

 かけがえのない友人だったふたりを、直樹は一瞬にして失った。
 いや、ひとりは、おのれの明確な意思のもと、殺した。己の命と親友と、天秤にかけて、浅ましく自分を選んだのだ。

 諫早直は、下を向いたまま動こうともしない。
 声をかける事もためらわれるような、そんな態度が、直樹には、無言の責めであるように思われた

 直樹は涙を禁じた。悲しむ資格など、直樹にはない。
 もとより、そんなところはとうに通り過ぎていた。いまの直樹は、自らの五体をなにかに叩きつけてすり潰してしまいたい。そんな思いに駆られている。
 直樹もまた、心が死んでしまっていることに、本人は気づいていない。


「直樹」


 見かねて円が声をかけた。


「一度教室に戻ったほうがいい。多久も、一人にしておくわけにもいかない」


 目を向けて、直樹は円の瞳に悲しみの色が浮かぶさまを見た。
 そして気づいた。


 ――いまは。この悪夢が終わるまでは。


 直樹は無気力であることなど、許されないのだ。
 宝琳院庵が殺され、中野一馬を殺した以上、龍造寺円を、諌早直を、多久美咲を守るのは、もはや直樹しかいないのだ。
 直樹は半ば死んだおのれの体に鞭を入れた。


「一度、戻るか」


 直樹が口に出していったのは、諫早直に聞かせるためだった。
 ひとりにさせておくのは心配だったが、一馬を殺した張本人である直樹や円がいても、逆効果でしかない。


「俺たち、教室に戻ってるから」


 頑なに下を向き続ける彼女にそれだけ言って、直樹たちは図書室を出ていく。


「待って」


 背後から、直のか細い声が上がった。


「大丈夫、だから。行けるから」


 そう言って健気に、直は無理やりの笑顔を造ってみせる。
 その目が、死んでいる。
 いっそ無残なその姿に、直樹は声をかけることもできず、ただ、直に合わせて歩速を緩めることしかできなかった。

 校舎の中で、唯一灯りがついた彼らの教室は、だというのに暗く沈んでいた。
 仕切ってあるせいで、やけに狭く感じた教室も、いまはうそ寒いほど広い。
 三人が教室に入ると、その音が耳に障ったのだろう、多久美咲の目が薄く開いた。
 寝ぼけ眼の少女は、かるく頭を振って、ようやく視線をこちらに向けてきた。


「あ……ゆめ、じゃ、ないの?」


 美咲は戸口に立つ直樹達をぼうっとみて、口を開いた。


「神代くんは?」


 言う間に、状況を思い出したのだろう。美咲の顔がどんどん青ざめていく。


「中野くんは? 宝琳院さんは? いったいどうしたの?」


 美咲の質問に、直樹は答えることができなかった。
 それが、なによりの、答え。
 美咲は後じさった。面に浮かぶものは、怯えというより、恐怖に近い。


「多久――」

「来ないで!」


 美咲のあげた叫びは、明確な拒絶。


「おかしいよ! わけ分からない! 近寄らないで!」


 彼女の言葉に、直樹はあらためて傷を抉られた。
 神代良と中野一馬を殺したのは直樹である。
 鍋島直樹はふたりの人間を殺した。たとえそれが身を守るためだとしても、言い訳してはならない、事実なのだ。

 多久美咲が直樹に向ける視線は、まるで怪物を見るようだった。
 それでも、直樹は現状を彼女に伝える義務がある。
 口を開こうとして、直樹の肩に手が置かれた。

 手の主――円が、首を横に振る。
 いまの彼女には、言葉は通じない。興奮した彼女を刺激しないほうがいい。
 無言の言葉が、明確に伝わってきた。

 直樹はあきらめて、地面に腰をかけた。
 美咲は、警戒するように距離を置き、やがてその場で座り込んだ。
 廊下側と、窓側の壁際。
 それが、美咲と直樹の心の距離だった。
 伏した頭の奥から、すすり泣く音が聞こえてくる。

 直樹は、ただそれを聞いているしかない。
 いや。すべきことは、ある。


「――円」


 決然と、直樹は声をかけた。
 肩を並べて座る幼馴染は、揺れぬ表情で直樹を見ている。


「なに? 直樹」

「宝琳院が、お前なら見当がつくだろうって言ってたけど、どうなんだ?」


 直樹は問うた。
 彼女はわずかに目を伏せ、そして答えた。


「推論交じりに八割がた、といったところだが」

「それでいい、聞かせてくれ」

「――千葉先生」


 ふたりの会話に、錆びたような高い声が割って入った。
 諫早直だった。宙に視線を据えて動かさず、それでも声は直樹たちに向いていた。


「千葉先生も、巻き込まれてるかもしれない」


 言われて、はじめて直樹はその可能性に思い至った。
 なんとなく、死のゲームに巻き込まれたのは教室にいた八人だけだと思っていたが、よく考えてみれば職員室にいた彼女も、巻き込まれていないという保障はない。


「それは……考えていなかったな」


 直樹は腕を組んで唸った。


「ひとりだけ安全なところに居たのなら、あの人が犯人かもしれない」


 陰に篭ったような、直の声だった。
 その様子に、直樹は漠然とした危うさを感じた。


「――わたし、行って来る」

「私も行こう」


 決然と立ち上がる直に、円が同調した。


「俺も」

「いや。やめておいた方がいい」


 諫早直の様子が不安になった直樹は、続こうとして、円に止められた。


「私と直樹は“仲間”だから、直樹は残った方がいい」


 円が耳打ちした言葉が、すべてを語っている。
 いまの直を、いたずらに刺激するわけにはいかない。直樹は残るしかなかった。


「気をつけて、行ってこいよ」


 円たちの背に、直樹は声をかける。
 軽く手を挙げて、円がそれに応えた。








 階段を下りた正面にある職員室の中、扉を開けて右手の奥に宿直室がある。
 ふたりは無言で歩を進めていく。

 憑かれたように行く直の前を、円は静かに歩いている。
 彼女もまた、ふたりの人間を、指さしで殺した。
 にもかかわらず端正な顔に、罪悪も、悔恨もみられない。

 龍造寺円には、生まれたときから欠けているものがあった。
 感情である。
 彼女は生来、希薄な感情しか持ち得なかった。
 それゆえ、人がなぜ笑うのか、なぜ泣くのか、理解することができなかった。
 だが、天性聡明な彼女は、物心つくころには、そんな自分を隠すことを覚えていた。

 しかし、演技をすればするほど、自分が人形のように思えてくる。
 感情を揺り動かすため、橋の上から河へ飛び込むような、あるいは走ってくる車の前に飛び出すような無茶もやった。
 だがそんな訓練が、円によりいっそう怪物じみた冷静さをもたらした。

 それもあきらめ始めた十一歳の春。円は直樹に出会った。
 引っ越してきた実家の隣。そこに住む少年の顔を見たとき、少女の胸は高鳴った。

 少年と話している間中、心臓が躍り上がっていた。少年の一挙手一投足が気になり、また、なに気ない会話すら、楽しくて仕方ない。
 このような体験は、円にとって初めてのことだった。

 おそらく、父親や友人に尋ねれば、すぐさま答えが返ってきただろう。
 それは恋というものだ、と。
 だが、自分の異常をひた隠しにしてきた円には、相談する相手などいなかった。
 それゆえに。
 龍造寺円にとって、鍋島直樹は、自分を人間にしてくれる無二の存在なのだ。

 いま、直樹を残してきたのも、底にある理由は、直樹を危険に巻き込まないためだ。
 彼女にとって、直樹を守るということは、自分の命よりはるか上位におかれるべき事項なのだ。








 暗い階段を下りると、正面に職員室が見えてきた。扉に手をかけ、円はそろそろと開く。
 音ひとつ立てずに中に入ると、諫早直も、それに続いた。
 闇の中、雑然と並んだ机を縫って進んでいくと、奥のほうから明かりが漏れているのが見えた。

 それを宿直室だとあたりをつけ、円はなお注意深く足音を殺しながら近づく。
 と、部屋の中から声が漏れ聞こえてきた。
 特徴的なその声色は、円たちにとって、聞きたくもない類のものだった。


「――てなわけだ! がんばってゲームやろうぜYA‐HA!」

「ふざけないで! わたしの生徒たちに指一本でも触れて御覧なさい。どんな手段を使ってでも、あなたを殺してやるから」


 円は迷わず扉を開けた。
 そこにいたのは千葉連と、あの悪魔。
 悪魔を相手に、千葉連は一歩も引かず、相対している。その姿は、紛れもなく教師のもの。


「YA-! 大事な生徒さん達が来たぜ!? どうする? センセイよ! HA-HAA!」


 嘲笑を残して、悪魔の姿はかき消えた。
 その虚空にしばし視線をとどめ、ようやく気付いたのだろう。戸口に立つふたりを、彼女は顧みた。


「……あ、龍造寺さんに諌早さん、みんなは無事なの?」


 心配そうな教師の顔、その頭上には“3”の数字が浮かんでいる。
 円が答えようと、言葉を選んだ、一呼吸ほどの間。
 円の背後から指が伸びた。


「諌早さん!?」

「千葉連!!」


 直の声には一片の躊躇もない。
 淡い驚きの表情を浮かべたまま、千葉連は塩の柱と化した。


「諌早」


 円が、瞳を直にむける。
 諫早直はそれに警戒するように一歩、間合いを外した。


「――これで、わたしの数字はあなたを越えた」


 円は、片眉を上げた。
 諫早直の貌は憎悪で歪んでいる。そこまでの憎悪をぶつけられた事が、円にとっては純粋に意外だった。


「一馬は慎重なヤツだから。宝琳院さんが“4”なら、わたしの数字は“4”以上。それに宝琳院さんの数字を加えて“6”。いまので“9”。やっと、あなたを殺せる数字になった」

「中野のことか」


 そのことに思い至らなかったのは、円が鈍いからではない。
 円は、直樹を通した感情しか知らない。
 だから直樹に絡まない感情に関しては、円は極端に鈍いのだ。たとえそれが殺意であっても。


「あれは、やっぱり一馬が悪いんだと思う……でも、あいつは死んであなたは生きてる。そんなこと――許せない!」


 静かに、そして迅速に、直の指先は円を捉えた。
 あらかじめ計算を立てていた諫早直と、心理的な不意をつかれた龍造寺円。その差は歴然。


「龍造寺――」


 だが、龍造寺円の身体能力は、その差を埋めてなお余りある。
 直の口が最後の言葉を紡ぐはるか前に、円の拳は五歩の距離を埋め、直の腹に突き刺さっていた。
 体重の乗った円の拳は、華奢な直の意識をたやすく奪った。


「護身術のひとつも習えば、間合いの取り方くらいわかったろうに」


 軽くため息をつき、円は直を担ぎ上げる。
 抵抗なく持ち上がる彼女の軽さに淡い羨望を覚え、円は口を引き結んだ。
 部屋を出ようとして、円は足を止めた。顧みれば、千葉連であった塩の塊が地面に散らばっている。


「一番手ごわいと思っていたが、やはりスタートの差はいかんともし難かったな。
 あなたがいつものようにぼやぼやしてる内に……こちらはとっくに覚悟をきめていたんだ」


 言葉を投げ捨て、円は引き戸を閉めた。
 円にとって、直樹さえ無事なら、だれが死のうと、どうでもいいことなのだ。






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