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No.1515の一覧
[0] 【完結】悪魔がたり(中編連作・現代・オカルト・ミステリ風味)[寛喜堂 秀介](2013/09/01 22:44)
[1] ユビサシ2[寛喜堂 秀介](2009/09/14 01:48)
[2] ユビサシ3[寛喜堂 秀介](2009/09/14 01:49)
[3] ユビサシ4[寛喜堂 秀介](2009/09/14 01:50)
[4] ユビサシ5[寛喜堂 秀介](2009/09/14 01:52)
[5] ユビサシ6[寛喜堂 秀介](2009/09/14 01:53)
[6] ユビサシ7[寛喜堂 秀介](2009/09/14 01:55)
[7] ユビサシ8(了)[寛喜堂 秀介](2009/09/14 01:57)
[8] 閑話1[寛喜堂 秀介](2009/09/22 00:19)
[9] 閑話2[寛喜堂 秀介](2009/09/22 00:26)
[10] ユビオリ1[寛喜堂 秀介](2007/12/21 23:53)
[11] ユビオリ 2[寛喜堂 秀介](2007/12/23 22:16)
[12] ユビオリ 3[寛喜堂 秀介](2007/12/26 01:20)
[13] ユビオリ 4[寛喜堂 秀介](2007/12/30 04:11)
[14] ユビオリ 5[寛喜堂 秀介](2008/01/02 20:33)
[15] ユビオリ 6[寛喜堂 秀介](2008/01/04 22:10)
[16] ユビオリ 7(了)[寛喜堂 秀介](2008/01/04 22:37)
[17] 閑話3[寛喜堂 秀介](2008/01/09 01:58)
[18] 閑話4[寛喜堂 秀介](2008/01/13 03:11)
[19] ユビキリ 1[寛喜堂 秀介](2008/02/02 23:16)
[20] ユビキリ 2[寛喜堂 秀介](2008/02/05 23:40)
[21] ユビキリ 3[寛喜堂 秀介](2008/02/08 20:56)
[22] ユビキリ 4[寛喜堂 秀介](2008/02/10 22:18)
[23] ユビキリ 5[寛喜堂 秀介](2008/02/14 22:59)
[24] ユビキリ 6[寛喜堂 秀介](2008/02/17 22:06)
[25] ユビキリ 7[寛喜堂 秀介](2008/02/22 23:28)
[26] ユビキリ 8(了)[寛喜堂 秀介](2008/02/27 20:14)
[27] 閑話5[寛喜堂 秀介](2008/03/03 19:36)
[28] 閑話6[寛喜堂 秀介](2008/03/16 21:40)
[29] 外伝 神がかり1[寛喜堂 秀介](2008/09/28 18:13)
[30] 外伝 神がかり2[寛喜堂 秀介](2008/09/28 18:12)
[31] 外伝 神がかり3[寛喜堂 秀介](2008/10/09 23:15)
[32] 外伝 神がかり エピローグ(了)[寛喜堂 秀介](2008/10/10 23:46)
[33] 閑話7[寛喜堂 秀介](2008/10/23 22:01)
[34] ユビツギ 1[寛喜堂 秀介](2009/03/09 01:39)
[35] ユビツギ 2[寛喜堂 秀介](2009/04/06 01:07)
[36] ユビツギ 3[寛喜堂 秀介](2009/04/06 01:05)
[37] ユビツギ 4[寛喜堂 秀介](2009/04/29 22:15)
[38] ユビツギ 5[寛喜堂 秀介](2009/05/31 23:14)
[39] ユビツギ 6(了)[寛喜堂 秀介](2009/05/31 23:12)
[40] 閑話8[寛喜堂 秀介](2010/06/14 22:47)
[41] 外伝 刀ぞうし 前編[寛喜堂 秀介](2010/06/29 18:13)
[42] 外伝 刀ぞうし 中編[寛喜堂 秀介](2010/06/26 20:31)
[43] 外伝 刀ぞうし 後編[寛喜堂 秀介](2010/06/27 20:49)
[44] 閑話9[寛喜堂 秀介](2011/08/18 22:27)
[45] 閑話10[寛喜堂 秀介](2011/09/30 23:55)
[46] ユビサキ1[寛喜堂 秀介](2012/01/18 23:28)
[47] ユビサキ2[寛喜堂 秀介](2012/01/25 22:12)
[48] ユビサキ3[寛喜堂 秀介](2012/01/29 22:11)
[49] ユビサキ4[寛喜堂 秀介](2012/02/03 00:08)
[50] ユビサキ5[寛喜堂 秀介](2012/02/23 23:05)
[51] ユビサキ6[寛喜堂 秀介](2012/02/23 23:04)
[52] ユビサキ7[寛喜堂 秀介](2012/04/09 02:57)
[53] ユビサキ8(了)[寛喜堂 秀介](2012/04/16 03:51)
[54] 閑話11[寛喜堂 秀介](2012/11/23 00:24)
[55] 閑話12[寛喜堂 秀介](2012/11/27 22:03)
[56] 終話 悪魔がたり 前編[寛喜堂 秀介](2012/11/30 22:54)
[57] 終話 悪魔がたり 後編[寛喜堂 秀介](2012/12/02 20:36)
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[1515] 【完結】悪魔がたり(中編連作・現代・オカルト・ミステリ風味)
Name: 寛喜堂 秀介◆f631922d 次を表示する
Date: 2013/09/01 22:44

※この小説は、小説家になろう様にも投稿させていただいております



 序 “指さし”に関する宝琳院庵の考察




 人を指さす、という行為を、キミはどう思うかな。
 そうだね。一般的に他人を指さすという行為は大変無礼なこととされている。
 だが、通俗的な観念などに言及しても仕方がない。実際的に、人を指さすことに関して、キミはどう思う?

 ボクはね、指をさすという行為が、ひどく攻撃的なことに思えるのだよ。実際、北欧のほうのまじない・・・・には、指をさすことによってかける呪いすらあるらしいしね。

 私見だが、指さしの本来の意味というのは"集中"ではないかと思う。
 水鉄砲の理屈さ。水を、ただ飛ばすより、細い口を通したほうがよく飛ぶだろう? それと同じ。指をさすことによって、意思や感情を漠然とではなく、明確に向ける。集中した意識は、相応に強くなるのだろうね。だから、ともすれば攻撃的とも取られるのだと思うんだ。

 結局なにが言いたいのかって?
 いつも通り、ただの戯言さ。オチを求められても困るな。








 ユビサシ








 靴音が響いた。
 静まり返った校舎の中、それは驚くほど強く耳を打った。
 明かりひとつない教室の闇の中、鍋島直樹(なべしまなおき)は隠れていた。気配を悟られぬように息をひそめ、影を気取られぬよう身をかがめ、そうしながら、扉越しにようすを探っていた。

 ゆっくりと、だが確実に。靴音は近づいてくる。
 直樹は、呼吸が荒くなっていることを自覚して、息を抑えた。
 ほとんど同時に、複数個の呼吸音が、はたと止まった。
 同じようにして隠れている、直樹の仲間のものだった。

 姿が見えないのは、闇のせいばかりではない。教室が常とは一変していた。
 机は乱雑に積み上げられ、直樹の身長をはるかに越える板が乱暴に室内を切り分けている。およそ教室とは思えない雑多な空間。だからこそ身を隠すにはちょうどよかった。

 と、一条の光が廊下側の窓を撫でていった。
 靴音はますます近くなっている。
 それは扉の前で止まった。
 扉越しに相手の息づかいさえ感じる。
 直樹は息を潜めた。そうせねば確実に気取られる、そんな距離だった。

 扉に、手がかかる気配。
 たっぷり一呼吸の間。それが数倍にも感じられた。
 不遠慮に、警戒なく、扉が開かれ――機は満ちた。


『わっ!!』


 声をあげ、直樹たちは一斉に飛び出す。
 これ以上ないというタイミング。逃げる余地などない。

 だが、哀れな被害者となるべき標的は、懐中電灯を揺らしもしなかった。無論、悲鳴ひとつ上がらない。


「……わ」


 一拍遅れ、思い出したように、声を上げただけだった。


「あー、失敗失敗」


 頭を掻きながら、直樹は教室の明かりをつけた。
 教室に明かりがともる。
 標的――担任教師の千葉連(ちばつらね)を囲うように、異様な扮装をした男女が思い思いのポーズを決めていた。

 動く死体――ゾンビの扮装をした直樹を筆頭に、吸血鬼やフランケンシュタインなど、西洋ホラーのキャラクターが節操無く並んでいる。


「ちぇ、やっぱり千葉ちゃん驚かすのは無理か」


 直樹は肩を落とした。彼女を驚かそうと言いだしたのは彼だった。それだけに、悔しげな様子だ。

 それを慰めるように、蛇の髪を持つ妖女――メデューサの手が、直樹の肩に置かれる。
 中身は龍造寺円(りゅうぞうじまどか)である。直樹の幼馴染であり、よく見なれた顔のはずなのだが、怖いほどハマっていて恐怖が先に立つ。


「だから言ったろう? 恐竜並の神経してる千葉先生に、この手の悪戯は無駄だと」


 直樹の肩に手を置いたまま、円は達観したように目を細めている。
 小柄で、どうみても年下の少女にしか見えない担任教師は、さきほどから放心したように動かない。
 それを心配したのだろう。腰の曲がった醜怪な老人に扮した神代良(くましろりょう)が、おずおずと彼女に声をかける。


「だ、大丈夫ですか? ち、千葉先生」

「ダイジョーブだって。かわいい生徒のかわいいイタズラじゃねーか。な、千葉ちゃん?」


 生笑いする良の肩をバンバン叩きながら、狼男の格好をした鹿島茂(かしましげる)が、千葉教諭に笑顔を向けた。
 泣き女――バンシーに化けた多久美咲(たくみさき)も、「せんせー、大丈夫?」などと、みなの間から、爪先立ちになって顔をのぞかせている。


「すいません、千葉先生。俺は止めたのですが」

「けっきょく協力したけどね」


 ため息をつきながらの吸血鬼――中野一馬(なかのかずま)の発言に、全身包帯巻きの諫早直(いさはやなお)が冷静に突っ込んだ。


「やれやれ」


 と、ひとり、離れたところでわれ関せずを決め込んでいる、宝琳院庵(ほうりんいんいおり)。彼女だけはなんの扮装もせず、ただのセーラー服姿だった。
 生徒たちに囲まれ、ようやく状況を理解したのだろう。千葉連の顔が、見る間に紅潮する。


「もう、みんなもう高校生にもなって、つまらない悪戯しないの!
 それと鍋島くんに鹿島くん、先生をちゃんづけで呼ばないでって何回も何回も言ってるでしょう!」

「まあまあ、そう怒らないでくださいよ、千葉先生」


 むきー、と、子供じみた怒りかたをする担任教師をなだめるように、直樹はごく自然に取り繕った。

 反応の鈍さと童顔のせいで生徒に舐められがちな彼女だが、思考速度と頭のよさは別物だという見本のような人物である。
 そのうえ柔、剣道の段持ち。つきあいが長い、上級生ほど恐れる傾向にある教師なのだ。
 もっとも、「千葉ちゃん上級者」を自称する直樹や茂は、それを承知の上で、彼女をからかうスリルを楽しんでいるのだが。


「もう。こんな時間まで学園祭の作業するのだって、ホントはダメなんだからね。たまたまわたしが宿直だったから、特別にやらせてあげてるんだから」

「まあまあ……と、もう十時か……夜食にしないか?」


 説教モードに入りつつあることを察した直樹は、話題をそらした。
 とは言えまったくの方便でもない。夕食をとってからこちら、ずっと作業を続けてきたのだ。


「買い出しに出るか。俺と直樹と……あと一人ほど、手が欲しいな」


 直樹の言葉を受けて、まとめ役の一馬が一同を見まわす。


「ぼ、僕が行こうか?」


 と、おずおずと手を挙げたのは神代良だった。
 それを片手で制し、蛇女、円が前に出た。


「いや、神代、私が行く」

「り、龍造寺さん、女の子に」


 言いかけた良を、ふたたび制したのは茂だった。


「察しろって、良チン。あ、委員長、オレ牛丼とラーメンね」


 良の肩に手を置きながら、茂は一馬に向かって親指を立てた。笑顔でいるのだろうが、狼男のマスクの上からでは表情はわからない。


「じゃ、わたし食べ物と飲み物、適当によろしく」


 巻き付けた包帯と格闘しながら、直が手を挙げた。
 一馬は顔をしかめた。
 律儀な性格なのか、一馬には物事の曖昧を嫌う性質がある。


「直、注文は正確に頼む」

「いいじゃない一馬。ここはいとこ同士、以心伝心ってことで、なにか良さそうなもの買って来て」

「ちょ、みんな人の話……」


 勝手に進んでいく話に、ひとり取り残される担任教師。
 そこに威厳は皆無である。


「千葉センセ、なにがいい?」

「え、えーと……シュークリームとプリンをお願いします」


 生徒たちの勢いに流され、ちゃっかり注文してしまう彼女だった。








 徒歩にして五分。
 最寄りのコンビニエンスストアに入った三人は、買い物カゴを持って食料品ゾーンに突入した。
 むろん、扮装は解いている。
 中野一馬は、そのトレードマークともいえるメガネを端正な顔の上に載せていたし、円もその長く、つややかな黒髪を外に出していた。


「あー、なに買ったらよかったっけ?」


 直樹は一馬に尋ねた。
 注文の内容はすっかり頭から放擲されていた。
 頭脳労働に関して、直樹はこの友人に、おおむね任せているのだ。


「鹿島は牛丼にラーメン。直はサンドイッチ、と。宝琳院は肉気が食べられないからサラダ。神代や多久は小食だし、適当におにぎりやサンドを買っておこう」


 一馬が、すらすらと並びべ立てる。
 聞いておきながら、直樹は軽く引いてしまった。


「一馬。おまえ、ひょっとして、クラスのヤツの好み全部知ってんの?」

「いや? 全員は知らないし、好みまではわからん。だが、教室で食っているヤツ好みくらい、見ているからわかるだろう?」

「……お前を基準に常識を語るなよ。わかんないって、なあ、円」

「ん?」


 直樹は幼馴染の少女に同意を求めた。
 弁当の束をカゴに詰め込みかけた姿勢のまま、円は首を傾けた。話を聞いていなかったらしい。


「おい。もしかしてそれ、全部買うつもりか」

「そのつもりだけど?」


 不思議そうに問い返してきた円に、直樹はため息を落とす。


「おまえなあ。そんな金、どこにあるんだよ」

「金なら気にしなくていい。千葉先生から、軍資金をもらってきたからな」


 得意げに一万円を取り出して見せたのは、数馬である。
 むろん、あの担任教師がそんな気を利かせるはずもない。彼が言いくるめて出させたに違いなかった。


「いや、それ全部使っちゃえって意味じゃないだろうに」

「なに、受け取った以上はこちらのものだ。どんどん買っていいぞ」


 一馬が両手を広げ、円を煽る。
 円は当然のように、黙々と弁当を詰め込みだした。こうなっては最後である。


 ――千葉ちゃん、かわいそうに。


 直樹は心の中で、ひそかに手を合わせる。
 彼女の一万円は、いくらも残らないに違いなかった。
 弁当ばかり詰め込む円を、さすがにおかしいと感じたのだろう。一馬が怪訝な顔になる。


「龍造寺、そんなにだれが食べるのだ」

「一馬」


 直樹は諭すような口調で声をかける。


「円の胃袋は、不思議空間とつながってるんだ」


 その言葉に、中野一馬は顔を引きつらせた。
 普段はセーブしているだけに、つきあいの長い一馬も、知らなかったらしい。

 最終的に買い物カゴは三つ必要になった。
 心配していた予算も、なんとか範囲内に収まり、事なきを得た

 会計を済ませた直樹と一馬は、弁当を温め続ける大食女を、コンビニの外に出て待った。
 温い風が、肌を叩いて行った。


「明日にはもう、文化祭だな」


 ふと、一馬が口を開いた。


「そうだな」


 同意して、直樹は感慨深げに空を仰いだ。
 祭を前にした奇妙な高揚感のせいだろうか。星空が、いつもよりずっときれいに見える。
 好んで道具係になったわけではない。むしろ、無所属の帰宅部だったせいで押しつけられた形だった。
 だけど、こんな光景が見られるなら、悪くなかったのかもしれない。
 直樹はそう思った。

 高校二年の学園祭。
 おそらく、受験を控えた来年は、これほどのんびりとは構えていられないだろう。
 そう思えば、この祭が、一層特別なものに思える。


「直樹。お前、結局どちらなのだ?」


 ふいに一馬が尋ねてきた。


「なにがだ?」


 直樹は不審げに問い返す。
 質問の意図がつかめなかったのだ。
 一馬の視線が、気の利いた言葉を求めるように宙を彷徨った。


「龍造寺と宝琳院だ。どっちが好きなのだ?」

「……なんでお前がわざわざそんなこと聞いて来るんだ」


 直樹はうんざりしたようにため息をついた。
 思いのほか直接的な、そして聞き飽きた質問である。


「別に? ただの嫉妬だよ。外見だけなら佐賀高2年のツートップを独占している、お前に対する、な」


 飄々と構える一馬からは、言葉のような嫉妬の感情は見られない。
 多分に含みを持たせた言葉なのだろうが、その深いところまでくみ取ることは、直樹には出来ない。


「あのな、円とはただの幼馴染だし、宝琳院は、ありゃただの話し相手だぞ?」


 だから直樹は、もはや言い飽きたセリフを繰り返した。

 龍造寺円は直樹の幼馴染である。
 家が隣同士ということもあり、長い付き合いのせいもあるのだろう。かなり気安い間柄だ。

 宝琳院庵のほうは、すこし説明しづらい。
 偶然図書室で出会って、なにげなく話したのが最初だと思うが、それ以来なんとなく図書室で益体もない話をするのが習慣となってしまっている。

 それぞれ理由は違うものの、恋愛感情は皆無と言っていい。
 無論そのことは、一馬もよく知っているはずだった。


「直樹、すこしは自覚しろ。完璧超人の龍造寺が甘えるのも、孤高の女王の宝琳院と会話できるのも、お前だけなのだぞ?」

「む」


 直樹は言葉に詰まった。そう言われれば、返す言葉がない。
 知らないものが、ふたりと直樹の関係をどう思っているか。そのことに関して、直樹は痛いほど分かっている。


「いくら直樹がただのトモダチだと主張しようと、ほかの人間が信じるはずがあるまい。実態が分かっているクラスの連中はともかく、お前、クラス外ではかなり敵意を持たれているぞ?」

「……ふーん」

「韜晦するな。心当たりはあるはずだ」


 はぐらかすような返事をした直樹だったが、一馬はさらに踏み込んできた。
 さすがに。
 彼相手にそこまで突っ込まれては、正直に答えるしかない。


「まあ、無くはないが……お前、ひょっとして心配してくれてるのか?」

「む。まあ俺も、もしお前がひとりを選ぶんだったら、おこぼれに預かりたいほうだからな」


 視線を逸らしながら、一馬が答えた。
 明らかな照れ隠しだった。
 そんな一馬に、直樹は意地悪い笑みを浮かべる。


「諌早に言うぞ」


 直樹のまわりでうわさが立っているように、一馬も、いとこ同士で仲がいい諌早直とのあいだをうわさされているのだ。
 たがいにしゃん・・・とした美形で、並んだ姿が映えるだけに、こちらはなかば公認と言ってもいい。


「なぜ直が出てくる。それこそただの従姉妹だ」


 この話題にも、一馬は眉ひとつ動かさない。本当に不思議そうに話すものだから、直樹は思わず苦笑した。
 と。


「――なんの話だ」


 急に背後から声をかけられ、直樹は飛び上がった。
 心臓を抑えながら振り返ってみれば、そこに居たのは円だった。弁当を温める作業が終わったのだろう、両手に弁当の詰まった袋を下げていた。


「なに、他愛ない話だ。さあ、終わったのなら行こうか」


 ズレた眼鏡を直しながら、一馬は平然と誤魔化した。








「はっはっは、労働後のメシはウメーな!」


 笑顔で牛丼とラーメンをかっ込んでいるのは鹿島茂である。
 狼男のマスクは、すでにはずしている。締まった顔立ちは、見る者によっては強面と映るかもしれない。獣毛を思わせるグレーの髪が、余計にそれを強調している。

 神代良のような気弱な少年にとっては、苦手な部類に入るはずなのだが、存外相性がいいらしく、隣り合って座っている。


「の、喉、つめるよ」


 心配してコップを茂の前に置く良だが、その中身がコーラと言うのは、悪意があるとしか思えない。


「良チンそれコーラコーラ! 飲んだら余計に吹くっつーの!」


 ノリよく突っ込む茂。
 けっこうばしばし叩かれているのだが、良はなぜかうれしそうだ。


「まったく、少しは落ち着いて食べられないのか」


 そんな光景に、こぼしたのは中野一馬だ。
 サンドイッチを千切りながら、鳥のようについばんでいる。
 神経質な食べ方である。


「まあ、食事の仕方なんて人それぞれでいいじゃない」


 その隣で、諌早直がしたり顔で言った。
 やはりいとこである。サンドイッチを千切ってついばむそのしぐさは、一馬とよく似ていた。


「んわー、こんな時間に食べたらまた太っちゃうよう」

「こんな時だし、たまにはいいじゃないですかぁ」


 千葉連教諭と多久美咲のふたりは、そんな会話をしながら甘味にとろけている。
 おなじような溶けかたをしているので、並べると姉妹にも見える。どちらが妹か、あえて言うまでもないだろう。
 おっとり顔の美咲がおねえさんオーラを放っているせいもあった。

 宝琳院庵はといえば、さきほどから静かにサラダを口にしている。
 彼女の場合、食事中だけでなく、常時無言なのだが。

 そして龍造寺円は四つ目の弁当にとりかかっている。
 草食類の庵とは好対照である。引き立て役とも言えそうだ。


「……円、腹八分目にしとけよ」

「ああ、そのつもりだ」


 あきらめたように直樹が言う。
 素直にうなずくと、円は弁当を残らず自分の手元へ引き寄せた。
 それでも八分目だという自己主張らしい。
 初めて目にする連中は、あっけにとられている。
 直樹はため息をつくしかない。

 いつもの風景、というには、学園祭前夜という状況は特殊だが、おおむね二年五組の、普段の食事風景だった。


「でも、なんとか間に合いそうだな」


 空になった弁当の容器をかたづけながら、直樹は大分形になってきたセットを見やる。
 洋風オバケ屋敷という分けのわからないコンセプトに、はじめはどうなるかと思っていたのだが、どうやらいい形に仕上がりそうだった。


「ああ。前日になって全然出来てなかったときには、どうなるかと思ったが。やれやれだ」


 一馬も、終わりが見えてきてほっとしたのだろう。ため息をついた。
 クラス委員で責任感が強いだけに、進行の遅れに人一倍神経を使っていたに違いない。


「だから言ったろ? なんとかなるって」


 と、対照的に気楽なのは鹿島茂である。
 から笑いするグレー髪の少年に、直樹は眼を眇めた。


「鹿島、サボりまくってたおまえが言うなよ……千葉ちゃんのお目こぼしがなかったらぜったい間に合わなかったぞ?」

「まあ、間に合ったんだからそう言うなよ、ナベシマ」


 調子よく手をひらひらさせる茂に、直樹たちも苦笑するしかない。
 普段サボってばかり居た茂だが、今日の働き頭は間違いなく彼だった。


「さ、口ばっかり動かしてないでさっさと済ませるぞ」


 一馬が手を叩いて場を締めた。
 それを合図に、みなが動き出す。


「へいへい、おい良、壁紙の仕上げすっぞ」

「う、うん」


 首を鳴らしながら、茂が立ち上がった。
 良もあわてて右に倣う。


「一馬、小道具はだいたい終ったんだけど」


 直樹は一馬に尋ねた。
 衣装などの小道具を担当していた直樹たちは、食事前に作業を終えていたのだ。


「なら他の所を手伝うんだ。看板も、もう仕上げだ。鹿島たちか宝琳院を手伝ってくれ」

「おーい、終わったんなら背の高いヤツ――鍋島と龍造寺はこっち手伝ってくれー」

「おう」


 茂に声をかけられ、直樹は手を挙げて返す。
 背が高い、と、ひと括りにされた円が眉を顰めた。女性としては長身の彼女は、身長について言及されるのを嫌っているのだ。


「じゃあ、あたしは宝琳院さんを手伝うね」


 おなじく手の空いた美咲が、首をきょろきょろさせた。
 宝琳院庵の姿を探しているのだろうが、その姿はすでにない。
 彼女はすでに一人、作業を再開していたのだ。
 それをきっちりと把握している一馬が、教室の奥を指さした。


「宝琳院なら奥の方で魔法陣を書いている。まったく、凝り性もいいとこだろう。アレは」


 そう言って、一馬はため息をついて見せた。
 普段クラスにまったく貢献しない彼女が、珍しくがんばっているのだ。もういいとは言いづらいのだろう。


「さ、もうひとがんばりするか!」


 直樹は気合を入れると、新たな作業場へ向かった。








 それから一時間、深夜零時前。
 直樹たちは、ようやく作業を終えた。


「終わったぁ」


 筆を放り出し、諫早直が両手をあげて伸びをする。


「あー、こっちもしゅーりょー。っかれたー!」


 ほとんど同時に、鹿島茂もその場で大の字になった。
 直樹も、倣って黒板に背を預けた。
 作業中は感じなかった疲労感がどっと押し寄せてくる。だが、それ以上に、達成感が心地よい。
 
 ふと気になって、直樹は時計を見た。




 時計の針が、十二の位置で重なる。




 午前零時ちょうど。世界は反転した。





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