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No.15115の一覧
[0] 戦場のヴァキューム  (戦場のヴァルキュリア)[あ](2010/01/10 10:57)
[1] 戦場のイカサマ師[あ](2010/01/10 11:07)
[2] 戦場の二枚舌[あ](2010/01/04 19:45)
[3] 戦場の屁理屈[あ](2010/01/10 11:19)
[4] 戦場の悲劇[あ](2010/01/04 19:45)
[5] 戦場の晩餐[あ](2010/01/04 19:45)
[6] 戦場の離脱[あ](2010/01/10 12:44)
[7] 戦場の遭難者[あ](2010/01/04 19:46)
[8] 戦場の叙勲[あ](2010/01/10 15:53)
[9] 黒の断章[あ](2010/01/11 21:16)
[10] 戦場の後悔[あ](2010/01/17 00:00)
[11] 戦場の思い出[あ](2010/01/24 19:44)
[12] 戦場の膠着[あ](2010/01/31 11:21)
[13] 戦場の虐殺[あ](2010/01/31 16:49)
[14] 戦場の犠牲[あ](2010/10/11 17:35)
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[15115] 戦場の叙勲
Name: あ◆2cc3b8c7 ID:2320373d 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/01/10 15:53
ガリア公国主催の晩餐会、前線で兵士の命が消耗品のように使われるのを余所に
連邦と帝国の貴族や要人達を招いて開かれる華々しい宴、
義勇軍第三中隊第一小隊隊長と第七小隊隊長、それに第七小隊の参謀を加えた三人にとって、
そこは縁遠い場所であったが、勲章叙勲という茶番を理由に招かれていた。
もっとも、当初はファルディオとウェルキン両名の叙勲のみ予定で、たかだか義勇軍の小隊付参謀の出番は無かったのだが、
正規軍のダモン将軍の強い推薦もあり、クルトも叙勲のお零れに預かることになったのだ。

ちなみに、叙勲の表向きの理由はヴァーゼル橋奪還およびクローデンの森攻略の功績に報いるためであったが、
ギュンター将軍の息子や、若き義勇軍の将校を英雄化することで国威発揚、戦意高揚といった狙いがあることはありありであった。




さてさて、くれと言った訳でも無い勲章を貰いにランドグリーズ城の晩餐会へ出席とはねぇ・・・
いつのまにか、俺もだいぶ偉くなったもんだ。
そう思わないか、ファルディオ・ランツァート隊長?


「まぁ、仕方が無いさ。国家のために見世物になるのも軍人の仕事ってことさ」

下手にダモン閣下にゴマを擦り過ぎたのが運の尽きって奴か。
まぁ、それは善しとしても、この晩餐会にはパートナー必須って言うのは独り身に対する嫌がらせか何かか?
ギュンター隊長殿の方はアリシア嬢が居るし、最悪の場合は義妹で手を打つって方法もある。

それで、モテモテのランツァート少尉はどこのご麗人をお誘いになるのかな?

「俺か?ウェルキンに頼まれて、イサラにご同行を願うことにしたよ
 どうしても出たいっていうアリシアに自分のパートナー枠を押さえられて
 イサラをどうするか困っていたからな。まぁ、偶には親友の頼みを優先と言う訳だ」

けっ、モテて余裕のある男はいいねぇ~、こっちは誰に頭を下げて付いて来て貰うかで
頭を悩ましているってのに、今からでも良いからイサラを譲ってくれ!

「おいおい、天才軍師殿には相応しいご婦人がちゃ~んと居るだろう?
 俺は人の恋路を邪魔して痛い目に遭う趣味は無いんでね。誘ってやるんだな」


去り行く第一小隊隊長を見送りながら、『死ね薄情者!馬に蹴られるのは確定だ!』等々、
支離滅裂な負け犬の遠吠えを浴びせるクルトだったが、
晩餐会へのパートナーを誰に頼むかという問題の解決になんら寄与しなかった。

結局、何度か頭を悩ませた天才軍師殿の脳細胞が起死回生の策を思いつく事は、
いつも通り無かったらしく、何だかんだと言いながらも一緒に過ごすことが多い
かわいらしいお嬢さんと晩餐会へ勲章を貰いに赴くこととなり、
晩餐会の当日は、カロスの運転する車の後部座席に苦虫を噛み潰したような式典用の軍服を纏った男と、
薄い水色のかわいらしいドレスを身に纏った笑顔の少女が座っていた。






「おいおい、セルベリアせっかくの楽しい潜入任務じゃないか
 そんな怖い顔をしていたら、上手く行くものも行かないぜ?」

「なぜ、将軍ともあろう方が、このような諜報員紛いの任務をしなければならないのです!」

「そう怒るなよ。潜入は俺の趣味だ。『フィラルドの猟犬』に所属していた頃が
 少しばかり懐かしくなってねぇ。アルセン伯爵夫人にも是非ともご理解頂きたい」

「貴方の趣味で猿芝居に付き合わされる身にもなって頂きたい
 マクシミリアン殿下が命令さえしなければ、どうして私が・・・」

理解できるかといった顔で文句を言いながらそっぽを向く、帝国の人間兵器ぷるんぷるんでは無く、
ヴァルキュリア人にして『蒼き魔女』と呼ばれるセルベリア・ブレス大佐は、
イェーガー少将扮するアルセン伯爵の夫人役として、ある目的を持ってランドグリーズ城を訪れていた。


「しかし、この道の調子じゃ城に着く前に晩餐会が終わっちまうんじゃねぇのか?
 カール、どうだ暇つぶしに一ついい話をしてやろうか?ダンボールと麻酔銃を使って
 どんな困難な潜入作戦も成功させてきたある凄腕の特殊工作員の話だ。面白いぞぉ?」
 
「遠慮しておきます閣下、それに城はもうすぐそこですから」

「なんだなんだ、二人そろって連れないじゃないか?悲しいねぇ
 俺のこの話を喜んで聞いてくれるのは、グレゴールのオヤジだけかい」

「戯言を、グレゴール中将が、貴方の下らない話に耳を傾けるとは思えません」

「閣下、嘘を付くならもっとマシな嘘をついて下さい。これから帝国にも
 連邦にも媚を売るしたたかな、ガリアの狐達が棲む巣の中に入るお方に
 稚拙な嘘を疲れると不安になってきます。ここが敵地であることをお忘れなく」

「カールも言うねぇ~、ついこの間まではヒヨっ子だったというのに
 それにしても、真実を伝えても信じられない悲しさは筆舌に尽くし難いな
 よし。この悲しみを打ち消すためにお前さんの言う猿芝居に精を出すとしよう」


世を儚む仕草をしながら、自重する気が更々見せないイェーガーを
セルベリアと共に頭を抱えながら無視する運転手のカールは、
多分に漏れず彼らと同じ帝国軍人で、普段はセルベリアの副官の任を真面目に務めている。
一応、彼もイェーガーの実力は認めており、敬意も持っているのだが、
上官と同様に彼の趣味にだけは付いていけないようで、
最近では、お目付け役のように、小言を彼に言うようになっている。


「おっと、話をしているうちに狐の巣の方にご到着のようだ
 ちと骨は折れるが、欲望渦巻くダンスを踊りきるとしようか」


車を降りたイェーガーは、カールにドアを開けて貰った夫人に手を差し出し、
今宵のパートナーを紳士的にエスコートする。
式典会場に向けて並んで歩く二人、特に煌びやかな晩餐会に花を添えることになる
美しい夫人は周囲の注目を集めながら、城の中央へと微笑を無理やり浮かべながら歩いていく。

予想外の再会を果たすまで・・・



「ふふ、これですわ!これ!」
「なんだ?なんかあったのか?面倒事だけは勘弁してくれよ」

「面倒ごとなどありません!この優雅にして華麗な晩餐会にあって
 一際強い輝きを放つわたくし!社交界での華々しいデビューを飾りましたわ」

彼女の言う『輝き』に対する周囲の反応は、クルトがどう贔屓目に見積もっても
田舎のかわいいお嬢さんを暖かい目で見守る紳士淑女の皆さんとしか見えなかったが、
わざわざ上機嫌なパートナーの気分を害しても碌な事は無いので、クルトは沈黙を金とする。


「おい、隊長達は先に謁見の間まで行っちまったし
 俺達もそろそろ奥の間に・・って、セルベリア!」
「貴様はあの時、殿下に害をなしたガリア兵、クルト・キルステン!!」


「何だ、知り合いでもいたのか?・・・って、おいおい・・
 頼むからここで蒼き魔女無双なんてマネはするなよ?」

「どうかしまして?・・・なんですの、あの方は?胸、胸なのですね!!」
「ちょっ、お前!落ち着け、確かにそれもあるが!違う!違うんだって!」


急に自分以外の胸が特盛の女性を見つめるパートナーに激怒する少女に、
誰よりも敬愛するマクシミリアンを傷つけた男にマジ切れしてヴァルキュリア化しかける麗人、
クルトとイェーガーは最悪の事態を避けるために、自分たちを注視する周囲の目から逃げるため、
レッドカーペットから外れた場所へと慌てて移る。




往来が無い人気の無い場所に移った四人は、
お互いの妥協点を見つけるべく言葉による交渉を行っていた。


「まぁ、双方言いたいことがあるのは分かるが、今宵は晩餐会だ。互いに
 物騒な話は無しにしようじゃないか・・?結構、分かってくれたようで何より」

話の口火を切ったイェーガーの問いかけに頷くクルトとイーディ、
その二人の様子を見て一先ず安堵の表情を見せた食えない男は、
似合わない式典用の軍服を着た男に『ガルルッ』と今にも噛み付きそうな同僚を宥める。

「セルベリア、落ち着け。マクシミリアン命のお前の気持ちも分かるが
 ここは戦場じゃない。今、自分は誰の命令で何をするためにいるのか
 それを思い出せ。俺の趣味ではあるが、遊びという訳じゃないだろ?」

優しく肩に手を置きながらも、鋭い視線で自分の立場、命令者が誰か、
そして、任務の重要性を否応無く認識させられた女性は不機嫌そうに『分かっている』と答えて、そっぽを向いた。
その仕草は妙に子供っぽく、色っぽいというより、かわいいと思えるものだった。
クルトはそんな恐ろしい魔女らしからぬ様子に思わず笑みを零す。

「貴様、何がおかしい!マクシミリアン様の任務が無ければ
 貴様など八つ裂きにしてやる所だ!そのことを努々忘れるな」

「いや、蒼き魔女って怖いだけじゃなくて、可愛いんだって思ったら
 安心して口が緩んじまった。悪かったな。あと、そのドレスよく似合ってる」

「なっ!?ざっ戯言を言うなっ!」

自分のような男の歯の浮くようなセリフですら、顔を真っ赤にして慌てふためく
初心なセルベリアをクルトは更に褒めて楽しもうと思ったのだが、
目の前で他の女ばかり褒められてご立腹なパートナーに脇の下を抓られて、涙目で追撃を断念する。


「さて、もう少しばかりお喋りに興じていたいところだが、そろそろ時間だ
 俺達は前の通路から、君達はいったん戻って式典の会場へ向かう。その後は
 お互い知らないもの同士だ。君達に危害を加える気は無いから安心してくれていい」

「了解、俺達は会わなかったってことだな。それでいい」
「ちょっと、いいんですの?相手は帝国人なんですのよ」

「別に何人だっていいさ。俺達二人に危害は加えないんだ。そうだろ?」

あっさりとイェーガーの提案を受け入れるクルトに食って掛かるイーディだったが、
自分の身にひとまず危険が無いことを確認した彼は目の前に立つ帝国軍人を
どうこする気も無いし、どうこう出来るとも思っていなかった。
そもそも、単独で中隊以上の力を持つ『蒼き魔女』に自分などが敵う訳が無いのだから。



「約束しよう。俺達が『今日』君達に危害を加えることは無い」
「マクシミリアン殿下の命令だ。見逃してやる」

「だってさ?イーディ、今日のパーティ楽しみにしてたんだろ?」

しぶしぶと言った感じでイーディはコクリと頷いてイェーガーの提案を受け入れる。
相手が何を企んでいるか分からない上に、諜報員でもない自分が出来ることなど高が知れていることを彼女も分かっていた。
何より、せっかくのパーティを血生臭い話で台無しにしたくない気持ちのほうが強かった。


「どうやら、双方が合意に至ったようだな。あと、聞き分けのいいお二人さんに
 俺からのちょっとしたサービスだ。面倒ごとに巻き込まれたく無ければ、今日は
 早めに帰ることだ。俺達以外の誰かさんが、余りよろしくない事を企んでいるらしい」

「へぇ~、猟犬で伝説とまで言われた『蛇』の忠告だ。従っておくよ
 そのよろしくない事が、『誰』にとってなのかが多少は気になるけど
 横の美しいご婦人をこれ以上怒らせても拙いし、聞かないでおくよ」

「賢明な判断だ。次の再会が戦場にならないことを祈っている」
「同感だ。次に会うときは肩のこらない酒場あたりで」


互いに手を握り合って、幸運な再会を祈りあった男二人は別々の方向に向かって歩き出し、
慌てて追いかけるパートナーにそれぞれ文句を言われながら式典会場を目指す。






「ハーイ♪お二人さんコッチ向いて」



勲章を受け取ったクルトとイーディの元に現れたのはGBSラジオ放送局の従軍記者のエレットだった。
彼女も特ダネを求めて、どろどろとした策謀蠢く晩餐会を訪れていたのだ。


「どこかで聞いたことのある声だなと思ったら
 エレットさん、いきなり写真とかは勘弁してくださいよ」

「そうですわ!わたくしを右斜め45度から撮っていただくのが
 一番美しく写ると以前も言いましたわよ!撮りなおして下さいまし」

「ハイハイ、分かったわよ。じゃ、お二人さんにっこり笑って~」

何度も撮りなおしを要求されたエレットは疲れた表情をしながら、
掴み処がよく分からない男に、この晩餐会から見て取れるガリアの置かれた状況を説明する。
一介の軍人、それも義勇軍の小隊付参謀にそんなことを話したところで大勢に何か影響があるとも思えないが、
英雄の息子が持っていない『何か』がクルトには有ると、
エレットは記者の勘で感じていたようである。


「・・・なるほどねぇ。宰相のボルグはコーデリア姫が年少の内に 
 連邦との協調路線を確立して、自分の権力基盤を磐石なものにしたい・・」

「概ねはそういうこと、連邦大使のタウウンゼントがまるで主賓のように
 扱われているのが何よりの証拠ね。舵取りを誤ればガリアは連邦に呑みこまれるわよ」

「それを、宰相殿は理解しているのか、美しい姫君はその難局に立ち向かえるのか
 まぁ、どうでもいいかな?国敗れても山河は在りですよ。まぁ、今以上に住み心地が
 悪化するようだったら、新天地を求めて流れるだけです。一所懸命も程ほどにですかね」


上座のコーデリア姫の横に立つ公国宰相マウリッツ・ボルグ侯爵は強硬な貴族政推進派で、
民主化を押し進めようとした先代との対立も小さくは無く、野心家でもある彼が
自己の権力欲を満たすことより、敵対したこともある先代の娘の擁立に心血を注ぐとは到底思えないと考える者は
エレットやクルトだけでなく、多少の想像力がある人間であれば分かることであった。
また、連邦大使のタウンゼントが何を企んでガリアを訪れたのかも非常に気になる事項であった。
大西洋連邦は秘密条約や威圧外交で勢力を広げてきた背景があり、
帝国の侵攻に晒されたガリアに手を差し伸べるだけに来たと考えられるのは、よほどの馬鹿だけであろう。

ただ、そんなガリアの複雑で危機的な事情もクルトにとって、どうでも良いことだった。
ブルールが焼かれたら、首都へ住処を帰ればいい。ガリアが駄目になったら別の国へ・・・
骨身を惜しまず、お国のためにという考えを利己的で自己保身を中心に考える男は持っていない。


「おーい、いつまでも食ってないで帰るぞ!それじゃ、エレットさん
 まだまだお子様な同伴者が眠くならない内に、失礼させて頂きますわ」

「あら、もう帰っちゃうの?記者の勘がこの後、何かが起こるって伝えているんだけどね」
「だからこそですよ。君子危うきに近寄らずってね」

エレットとそれなりに知的な会話を楽しんだクルトはコーデリア姫の退出を見送ると、
難しい話より食い気な少女を呼んで、晩餐会を後にしようとする。
事前に厄介事が起こると分かっている場に悠長に留まり続けるほど彼は図太い神経をしていない。
慌てて皿の料理を詰め込み、胸をとんとん叩いて小走りで自分に近づいてくる少女を従えながら、
クルトは颯爽と陰謀蠢くランドグリーズ城を後にする。


「おっと、お前さんの恋焦がれる役者の退場だ。手でも振ってやったらどうだ?」
「戯言を、あの男に振るうのはヴァルキュリアの槍のみ!次の戦場では必ず屠る」

「坊やも災難だ。聞き分けのいい奴は長生きするが、女に恨まれる奴は例外だからねぇ」


ガリアを狙う帝国軍の幹部達の鋭い視線に見送られながら・・・





「もう帰るとはどういうことですの?帝国の企みを知りながら
 それをみすみす見逃すつもりですの?ちょっと、お待ちなさい!」

敵である帝国軍の言葉を素直に聞いて、逃げるようにその場を後にするような真似は
少女にとって我慢できないことであったらしい。
何が起こるか分からなくとも、解決するのが自分の役目とどこかで考えているようである。
もっとも、そんな少女の夢想染みたヒーロー願望に付き合って、窮地に身を置く気はクルトには無い。


「まだ、何が起こるかも分からないし、帝国のあいつ等が何か仕出かすとも
 決まったわけじゃない。現状では情報が不足しすぎている。下手に動いて
 今日のパートナーを危ない目に合わせたくは無いんでね。大丈夫、手は打つさ」

詰め寄りながら文句を言う少女の腰と背に手を回して強引に抱き寄せた男は、
耳元でただ逃げ帰るわけじゃないと告げ、うなじの辺りを強く吸いながら抱き寄せた手に更に力を込めて強く抱きしめ、
あうあう言いながら顔を真っ赤にしていつも通りにパニくる少女を黙らせる。
上等で飲みやすい酒の味にやられて、クルトの酒量は少なくなかったようである。

とにもかくにも、横の五月蝿いのを静かにさせた名参謀殿は運転手として連れてきたカロスに
小隊の動ける隊員を集めて、隊長の指揮下にいつでも入れるようにしろと指示を出した。
ただ、何が起こるか分からない以上、出来ることといったら不測の事態に備えて動けるようにしておく程度であったが、
今回は、その対応が功を奏して事件解決に一役買うこととなる。




「なるほど、カールが見たもう一人というのが、お前さん達のお仲間のようだな」

アリシアをどうした!とファルディオに詰め寄られるイェーガーは、あっさりとネタ晴らしをする。
コーデリア姫が大西洋連邦に誘拐され、彼女がそれに巻き込まれたのだと。

最初は、帝国の陰謀ではないかと疑うファルディオ達であったが、
下手にガリアの姫を攫って大西洋連邦にガリアを守るためといった口実を
与えるつもりは帝国にはないと返され、渋々納得する。
今回の戦争はあくまでガリアと帝国の争いにしておいたほうが、帝国にとって都合がいいのは事実であった。
下手に元首の誘拐などといった非道を行って大西洋連邦に大義名分を与えることには何のメリットも無いのだ。
元首の首を用いて降伏を迫るような下種なマネをするほど帝国は落ち目ではないのだから・・・

「だったら、なんで関係ないアリシアさんが攫われるんだよ!」

「若いというはいいね~それだけで財産だ。まぁ、これは推測になるが
 その場に居合わせてしまったのか、聞いてはいけない事を聞いてしまったのか・・」

「将軍、もう行きましょう。ここで無為に時間を費やす暇はありません」

「お待ちください!!」

若干興奮気味のアマールは鼻に付くぐらい余裕なイェーガーに食って掛かるが、
年季の違いか、役者の違いかは分からぬがあっさりといなされ、
セルベリアが任務を果たすために動くべきだとイェーガーを促すと話は終わりかけたが、
短髪の眼鏡をかけた真面目そうな青年、カロスが割り込み流れは更に混迷を深める。

「申し訳ありませんが、隊長たちの会話は聞かせて頂きました
 また、この危機的状況に迅速に対応する必要があることも理解しております」

「きみきみ、真面目なのはいい事だが、要点を抑えて話してくれないか?」

「申し訳ありません。ぼく、いえ、小官はキルステン参謀の指示を受けて
 不測の事態に対応できるように周辺に第七小隊員を召集しております
 なので、命令があればギュンター隊長の指揮下に入ることが直ぐに可能です」

律儀に帝国の将軍にまで頭を下げるカロスは、姫を攫った不審な場所を
追走する準備が整っていることを皆に焦りながら伝える。
この話を聞いて大きく頷いたウェルキンはイェーガーに向き直り、
事態の解決のために共闘することを提案する。自分達はアリシアと姫を救いたい。
帝国はガリアが連邦に呑み込まれるのを阻止したい。利害が一致する共生の関係ではないか?といって
イェーガー達の力、帝国が持つ情報を貰う代わりに、こちらは第七小隊員という数を提供すると提案した。


「良いだろう。目的は同じだ。それに退場した筈の役者がしっかりと
 お膳立てをしていたのを無碍に扱うわけにも行くまい。追走のルートは・・」

「この無線機を持っていってください。これで車から順次追走ルートの指示を行います」

カールが投げて寄越した無線の子機をファルディオが受け取ると全員が走り出す。
話は着いたのだ。後はそれぞれの役割を果たし、時間と勝負をするだけ。
一夜限りの演目、『ガリアと帝国の共闘』が始まった。




「Bチームはそのままル-トを西進させてください。おそらく違うルートを
 相手は使うと思いますが、人でもあります。念には念を入れておきましょう」

「どうやら、費やした時間に見合った成果が出そうだな。どうした?
 任務は順調そのものだって言うのに、えらく不服そうじゃないか?」


誘拐犯が通る可能性のあるルートを抑えるよう指示を出すカールに、
それに従って、逃走ルートを潰していく第七小隊員達。
事件は半ば解決したのと同然であったが、
セルベリアの表情は『わたし怒ってるんだからね!』状態全開であった。


「ははぁ~ん、憎き天才軍師殿の鮮やかな段取りで
 事が上手く運びすぎるのが気に入らないみたいだな」

「そっ、そのような事はありません!私は油断しないように気を引き締めているだけで・・」

図星を突かれたらしい『蒼き魔女』のかわいい反応に、ついつい噴出した運転手のカールは、
後ろに座った子に頭をポカポカ叩かれていた。

そんな光景を横目に見ながら男は、無理をして不幸な生い立ちの女を
外に連れ出した自分の判断が間違っていないことを確信し、満足そうな笑みを浮かべる。
もっとも、その優しげな笑みはセルベリアちゃんの神経を逆なでしたらしく、
カールに変わって、今度はイェーガーが彼女の容赦ない引っかき攻撃に晒されることになった。




「兄さん、準備が出来ました」
「あぁ、分かった。直ぐに乗り込むよ」

イサラはエーデルワイス号の整備を手早く済ませると、ウェルキンに早く乗るように促す。
帝国軍が国境で姫を受け取ろうとする連邦の人間の排除を担当し、
彼らが姫とアリシアを直接救出する役割を担うことになっていた。


「しかし、クルトの準備が今回は出来すぎで少し怖いな。本当に大丈夫なのか?
 あいつの動きのせいで相手が警戒して、ルートを変えたり、脱出を諦めて二人を・・」

「大丈夫だよ。フルァルディオ!僕はクルトを信じているし、彼が信じた
 小隊員を信じている。相手を警戒させるようなミスは絶対にしていない」

「そうか、隊長のお前がそう言うなら、そうなんだろうな
 俺もそろそろ行く。また合流地点で会おう。じゃーな!」

自分が述べた不安要素に揺らぐことなく、クルトの打った手、その足となった隊員達を
信じて疑わないウェルキンに半ば呆れた溜息を吐きながら、
ファルディオは帝国の情報を信じてウェルキンとは別のルートを採る。





「閣下、向うの方は上手く行ったようです。コーデリア姫も仲間の方も無事みたいです」

「そいつは良かった。それでは、こちらもそろそろ仕上げと行こうか?」

イェーガーに言葉をかけられたセルベリアは黙って頷くと、槍と盾を持ち
哀れな誘拐犯の片割れ共が乗る車を襲撃し、そこに居るものを皆殺しにした。
ガリアから連邦の草を一掃することも彼等の任務に含まれており、
連邦の工作員に情けをかける必要性はどこにも無かったのだ。


「しかし、いつ聞いても断末魔の悲鳴ってのは気分がいいものじゃないねぇ・・」

タバコの煙を空に昇らせながら語る男は何度目になるか分からない潜入作戦を無事に成功させた。
バンダナを頭に巻いた軍服の戦士の姿を、カールはしばらく忘れることが出来なさそうであった。




みんなが夜中にも拘わらず事件解決のために走り回っているなか、
さっさと晩餐会を後にした二人は優雅な夜を送っていた。
招待客のために用意されたホテルのルームサービスはやはり一級品だったのだ。


「やっぱり、勲章貰って良かったな。義勇軍宿舎のベッドとはぜんぜん違うぞ?
 それにホテルでル-ムサービス頼み放題なんて経験はこの先まずなさそうだし
 お前も悔いが残らないように思いっきり頼めよ。一生で一度きりかもしれないからな」

「わっ、わたくしに取ってこの程度のホテルに泊まるなどは日常茶飯事ですわ
 あなたのように卑しく、ルームサービスをがっつくような真似もできませんわ」

「ふーん、じゃっこっちのヤツも、それもお前は食べないんだな」


「お待ちなさい!たっ食べないと言ってはいません!
 それに、食事は二人仲良くしたほうがおいしいですのよ」

「へいへい、分かってますって、そんじゃ、平穏な夜に乾杯!」


上手い料理に上等な酒を食し、ふかふかのベッドで気持ちよく眠ったクルトが、
ガリアでもっとも長い夜と言われたこの日の最大の勝者であった。
もっとも、そのまま酔いつぶれて自分の部屋に戻らず一夜を共にした少女に
何も手を出していないのに責任を取れと迫られ、二日酔いが覚めやらない早朝に
今回の誘拐事件解決の功労者として城に呼び出されたりと、
次の日の朝は、一転していろいろなモノに追い立てられる敗北者となっていたが・・・


こうして、奇縁とも言う繋がりで、帝国軍の高官やガリア王宮の元首とも知己を得たクルト、
その縁が、彼にどのような結果をもたらす事になるのか、非常に興味深くはあるが
その答えが出るのはまだまだ先になりそうであった。





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