<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.15115の一覧
[0] 戦場のヴァキューム  (戦場のヴァルキュリア)[あ](2010/01/10 10:57)
[1] 戦場のイカサマ師[あ](2010/01/10 11:07)
[2] 戦場の二枚舌[あ](2010/01/04 19:45)
[3] 戦場の屁理屈[あ](2010/01/10 11:19)
[4] 戦場の悲劇[あ](2010/01/04 19:45)
[5] 戦場の晩餐[あ](2010/01/04 19:45)
[6] 戦場の離脱[あ](2010/01/10 12:44)
[7] 戦場の遭難者[あ](2010/01/04 19:46)
[8] 戦場の叙勲[あ](2010/01/10 15:53)
[9] 黒の断章[あ](2010/01/11 21:16)
[10] 戦場の後悔[あ](2010/01/17 00:00)
[11] 戦場の思い出[あ](2010/01/24 19:44)
[12] 戦場の膠着[あ](2010/01/31 11:21)
[13] 戦場の虐殺[あ](2010/01/31 16:49)
[14] 戦場の犠牲[あ](2010/10/11 17:35)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[15115] 戦場の離脱
Name: あ◆2cc3b8c7 ID:2320373d 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/01/10 12:44
ダルクスの災厄、邪法の力で都市を焼き払いヴァルキュリア人に滅ぼされたダルクス人は、
その2千年前の神話なのか、伝説なのか分からない話を理由として、ヨーロッパ大陸で忌避される民族となった。
彼等は存在するだけで不幸を撒き散らすとして、帝国などでは厳しい迫害を受けており、
ラグナイト鉱山で厳しい採掘作業に強制的に従事させられ、酷いときはダルクス狩りと称した虐殺の被害にあっていた。

ガリア公国においては帝国ほど激しい迫害や弾圧は無いが、ロージーほどでは無いにしても、
邪なる者、ダルクスを嫌悪する人々は少なくなかった。





「今回の任務はいったい何なんですの?わたくし、
 埃っぽい砂漠とかに長々と居座りたくありませんわ」

クローデンの森以降、しっかり自分の横をキープしている少女は
スイカに噛り付きながら、風が吹くたびに舞い上がる砂と埃に対する不平不満を溢す。
土の上を歩いている時とは比べ物にならない不機嫌さである。

「まぁ、そう言うなよ。バリアス砂漠の周辺に帝国軍が駐留しているって
 情報の真偽を確かめるだけでOKな、うちの小隊にしては簡単な任務だ
 多少の砂埃ぐらい我慢しろよ。安全で楽な任務なんて最高じゃないか?」

「そんな任務地味すぎますわ!このイーディ・ネルソンが華麗に活躍する
 そういう任務をわたくしは求めていますのに、まぁっったく面白くないですわ!」


強い日差しと砂塵から体を守るために張ったテントに座る二人の意見は
相変わらず重ならないのだが、会話はぽんぽんと続いていた。
このまま何事も無く偵察任務が終われば幸いなのだが、
そうは問屋が卸してくれないのが、第七小隊の悲しいところであった。


「さて、そろそろ一勝負に行ってきますかね。カードの負けはカードで取り返さないとな」

「ふんっ、またカモにされても知りませんわよ!
それに、この前お貸したお金はきっちりと返して貰いますわよ」


「分かってるって、これからバ-ンと大勝負で荒稼ぎして二倍にして返してやるよ」


イーディと一緒にアリシアの焼いてくれたパンをもぐもぐしたクルトは、
かつての雪辱戦を果たすために、ヤンやラルゴ達の待つ決戦場に向かう。
それを見送る少女は賭博なんてと非常に不機嫌そうな顔をしていたが、
強引に阻止するのも不自然と考え、渋々見送った。




「あぁ~、僕は不幸だ。敗北の苦痛を知ることすら出来ない」
「まぁ、負けたら潔く払うのが男ってもんだ。悪いな」

「ほんと、参謀ってよぇーなぁ」
「うふふ、これで私もカモから卒業かしら~?」


糞が!ヤンの野郎、てめぇはカモよりカマから先ず卒業しやがれ!
何で、ついさっきまで潤沢に有った軍資金がもう枯渇し始めているんだ。
理解不能って状態だ。俺はコイツと勝負する前までは、こんなに負け越したことはないぞ。
おかしい、明らかに不自然だこいつら、グル・・・なんじゃ?

「おやおや、どうされました?そんな鋭い視線で・・」
「カロス、参謀殿は痛く負けが込んで不機嫌らしい
 もうそろそろ、いつものようにやられ役になってやれ」

「さすが、ラルゴ様!お馬鹿な子羊ちゃんにも優しいわ~ん」
「ふふ、羨ましいですよ。その絶望に染まった表情・・・すべてに裏切られた顔だ」


こっ、コイツ等を甘く見ていた。いつもカモられるヤンに、
戦場と同じようにやられ役のカロス、
そして、餓鬼らしい稚拙な勝負運びのオスカーと自分の欲望に負けたのかワザと負けてみせるホーマー、

こいつら相手なら楽に稼げると完全に油断していた。そして、知らず知らずレートを上げて、
欲をかいた大勝負を仕掛けた瞬間に、ラルゴの野郎がごっそりと収穫しやがった。
全部、計算づくの流れだったんだ。俺は良いように踊らされていただけだと・・・

「まぁ、博打っての野菜と同じでな。慌てて小さい内に引っこ抜くんじゃなく
 じっくりと愛情を持って大きく育てたところで収穫するってのが大事なんだよ」


勝者と敗者が生まれる戦場で、後者に回った人間の末路は哀れなものである。
空の財布と地面の砂を握り締めながらうな垂れる男は立つことが出来ないまま、
しばらくの間、砂漠の冷たい夜の中、独りその身をさらしていた・・・




「クルト、どうしたの?元気ないわね?」
「アリシア・・・、人って悲しい生き物だな。嘘をつく生き物は人間だけなんだよ」

「ふぇっ?何?クルトまでウェルキンみたいに良く分からない話するの?」

昨晩の件で憔悴する参謀に声を掛けたのは自警団からの同僚のアリシア・メルキオッド軍曹だった。
彼女の自分を労わる言葉に対して、クルトは人の持つ業の深さについて語らずには居られなかったのだ。
だが、そんな傷心の男が取ろうとした行動は、マイペースな隊長殿にあっさりと潰されてしまう。

「キルステン少尉、確かに言葉で嘘付くのは人だけかもしれないけど
 自然界では動物も植物も生きるために別の物に擬態したりして・・・」

「兄さん!生物学の講義はそこまでです!前方に帝国軍の戦車と歩兵が見えます」


ただ、得意げに語るギュンター先生の授業も妹のイサラの伝える
不愉快な事実によって途中で中断させられることになった。
帝国軍がバリアス砂漠の遺跡周辺に駐留しているという情報は残念ながら正しかったようである。

前方の敵を見据えながら、アリシアは勇ましく銃を持ち返し、イサラは戦車に素早く潜り込む。
そして、隊長のウェルキンはいつもとは違う凛々しい表情と声で第七小隊の隊員達に戦闘準備を指示していく。
そして、参謀のクルトはそんな光景をウンザリとした顔で眺めながらガックリと肩を落とす。
気楽な遺跡見学などという甘い幻想は厳しい現実によって打ち砕かれたのだ。




「前方に見える帝国軍に砂漠の起伏を利用しながら接近し、叩く!
 第一小隊は大きく迂回して敵の後方から攻撃を仕掛ける手筈になっている」

「概ね参謀の説明した通りだが、今回の戦いでは敵への接近を
 後方から援護する狙撃兵の働きが重要になってくる。頼んだぞ!!」

「おっしっ!任せてくれ。エミール、がんばろうな!」
「・・・了解した」「援護は任せて、仲間のために頑張るわ」


敵の防御作戦が整う前に接近して強襲するのに加えて、別働隊の第一小隊が別方向から攻撃を仕掛掛ける。
クローデンの森と変わらぬ二番煎じの策だが、
偶然見つけた獣道といった不確定なル-トを使うわけではないので確実性はより高かった。
また、戦況が不利となれば後方に待機した狙撃部隊の援護を利用して、
前進する時と同じように起伏に隠れながら撤退する方法も採りやすく、実にクルトらしい作戦であった。

もっとも、驚異的な命中率を誇る狙撃チームの存在あってこその作戦で、
消して彼の作戦立案力が優れているという訳ではなかった。


「ようやく、やってきましたわ!この、わたくしが活躍する大舞台が!」

「イーディさん、張り切るのは良いんだけど
 あんまり調子に乗って一人で突出すると迷子になるよ」

「ホーマー!!うるさいですわよっ!!そんな心配はする必要はありませんの!」

作戦知らされた隊員たちの反応も個性に応じて様々で、
自分の活躍を信じて疑わない前向きなものもいれば、ネガティブな意見を漏らすものもいる。


「古代の遺跡に、目前には帝国の兵士たち、いいねぇ~、冒険って奴だ!」
「いいねぇ~、また帝国兵を殺れる。ひぃ、ふぅ、みぃ・・皆殺しにしてやるよ!」

同じ言葉でも、それを発した者が違えば意味合いも、大きく異なっていた。
だが、彼等は同じ小隊の隊員で、作戦を成功させるという共通の目的を持っていた。

第七小隊の隊員はそれぞれ武器を手に持ち、自分の役割を果たすため作戦行動に移る!!




「前方よりガリア公国軍の襲撃です!」

「言われなくても分かっている!!殿下がお戻りになるまで持ちこたえるぞ
 全員、正面の敵に備えて陣形を整えろ、後方の遺跡まで突破を許すな!!」


先手を打たれた形になった帝国軍は正面からの攻勢に備えるため、
隊列を慌てて組みなおそうとするが、それは思うように進まなかった。
第七小隊の狙撃兵たちが次々と小隊長や分隊長といった指揮官クラスの頭を撃ち抜いていくため、
指揮系統が混乱して、思ったように命令が全軍に伝わらなかったのだ。




「よし!マリーナいいぞ!オスカー、次はあいつだ!なんか、あの動き偉そうだ!!」

「了解!・・・でも、本当にアイツが上官なのかな?」
「無駄口叩いてないで!脳漿をぶちまけさせろっ!偉いやつに媚を売る天才の
 俺の嗅覚がアイツは一般兵じゃないと教えてくれている!!アイツを撃て!!」


もっとも、その混乱の原因が双眼鏡片手に意味不明なことを喚きながら参謀が生み出していると知ったら、
帝国の指揮官は発狂してしまったかもしれない。

意外なところで役立つ参謀のポテンシャルに助けられながら、狙撃兵チームは味方の援護をしながら、
敵の指揮官クラスを順場に、確実に始末していく。


こうして、前線で自分が得るはずだった筈の戦果を、
迂回して側面から容赦なく帝国軍に襲い掛かる第一小隊の猛者たちと
後方の狙撃チームに根こそぎ奪われた少女はまたしても活躍の場を逃して悔しい思いをすることになる。

砂漠の遭遇戦は新たなアイドルを生み出すことも無く、第七小隊と第一小隊の勝利によって終わりを迎える。





「しかし、でっかい遺跡だねぇ」

「あぁ、二千年前もの昔にこれだけの遺跡を作り上げたヴァキュリア人が
 神の力を持つと言われるのも、様々な伝承によるだけでなく、こういった遺跡が
 各地に遺されていて、その巨大な力の片鱗が確たる証拠として存在しているからだ」

目を輝かせながら、ヴァルキュリア人についての見解を語るのは
大学で考古学を専攻している第一小隊隊長のファルディオ・ランツァート少尉だった。

先の遭遇戦で第七小隊と共闘して勝利に貢献した彼は自分の知識欲を満足させるため、
いったん遺跡のから離れた部隊の駐屯地から抜け出し、
誘ったウェルキンやアリシア達と共に遺跡の入り口の前へ訪れていたのだ。


「まぁ、ここで長話をしていても仕方が無い。入るんだったら早く行こう」

「そうね。また、帝国軍が来ないとは限らないし、急ぎましょう
 でも、なんかワクワクするよね。ウェルキンもそう思わない?」

「あぁ、同感だね。こんな凄い物を間近で見たら、ファルディオじゃなくても心が躍るさ」

「やれやれ、ようやく親友も考古学の素晴らしさを実感してくれたようで
 それでは、ヴァルキュリアの遺跡へ足を踏み入れ、歴史を遡るとしましょうか」


ノリノリの三人を尻目に面倒臭くなってきたクルトは独り遺跡の入り口で待機しようかと考えたが、
『せっかく、来たんだから一緒に行こうよ』と笑顔で誘ってくれる同僚に負けて、
いやな予感を持ちつつ、『神の力』で作られたというバリアス遺跡に足を踏み入れる。






「光が入ってこなくても明るいって事は、壁にラグナイトの結晶が含まれているって事か」

「ご名答、名参謀殿は中々鋭い観察眼をお持ちのようで
 この遺跡自体がラグナイト含有率が高い石で作られている」

「へぇ~全部がそうなんだ。ウェルキン、何かすごいね?」

ファルディオ先生の上機嫌な解説に素直に感心して驚くアリシアは、
クルトの目から見てもクラっとしてしまうほど愛らしかった。
女性に鈍感な小隊長殿ですら『あぁ』とか『うん』とか、
なんともな~な回答しか返せないのだから、中々の破壊力と見てよさそうだった。


そんなラブコメな二人を見て苦笑を溢した未来の考古学者殿は、
二人のお邪魔をするような野暮なことはせず、
壁に書かれた古ノーザン文字をメモに取りながら読み解いていく。
ただ、そこに書かれているのは伝承通りの事ばかりで、
ダルクスによって多くの街と人々が焼かれ、槍を持ったヴァルキュリア人に
やっつけられました。おしまい。・・といった感じで真新しさは皆無であった。
まぁ、彼らより以前に何人もの研究者や考古学者たちが調査にこの遺跡を訪れているのだから、
新事実の発見など『普通』は起こるわけは無いのだ。


「大地を焼いた民族のダルクス人の悪口が壁一杯に書かれているってことか」

「簡単に言えばそうなるな。まぁ、自分達の民族の功績を誇張して遺すなんてことは
 どこの古代文明でも有り溢れた話だから、ここに書いてある事が全て事実とは言えない」

「もしかしたら、まったくの出鱈目ってこともあるのか?」

「さぁ、無いとは言えないが、もしそうなら、
 歴史観がこれまでとは大きく変わることになるな」

「なるほどねぇ。ファルディオ先生、貴重な講義をもう少し聞いておきたいところだが
 もうそろそろ、冷えてきた。砂漠の夜は冷えるのは知っての通りだし、帰らないか?」


一瞬、寒気を感じたクルトがまだ話足りなさそうなファルディオとの歴史談義を打ち切って、
小隊が駐留している場所への帰還を提案すると、第一小隊の歴史大好き小隊長は残念そうな顔をしながら頷いた。
その仕草をみながら、クルトは二度とファルディオの前で歴史の話をするまいと誓っていた。
それほど興味の無い話を長々と聞いてやる慈悲深さを彼は持ち合わせてはいないのだ。




「ファルディオ、クルト!!来てくれ!!」
「扉が急に開いたのっ!!」

完全にお帰りモードになっていたクルトは上官の隊長とその下士官の呼び声に心底ウンザリした顔を見せる。
声のする方に駆け出した男の目の輝きを見て、帰還が更に大幅に遅れることを悟らずには居られなかったのだ。


興奮して扉の奥に入ろうとするファルディオに『自重しろ歴史厨』といった感じで止めるウェルキンとクルトだったが、
アリシアも入って見たいと言い出したため、諦めて遺跡の扉の置くに足を踏みいれることとなる。


「ファルディオ、どうしたんだい顔色を変えて?何が書いてあるんだい?」
「いや、たいした事じゃない」

新たな碑文だ、歴史的新事実の発見だとウザイくらい興奮しながら遺跡の奥に進んだ
親友が押し黙ったのをみて不審に思ったウェルキンは声を掛けるが、
ファルディオはそれにしっかりと答えようとしなかった。いや、驚きのあまり答えることが出来なかったのだ。


「何か、音がする?もうしかして奥に誰かいるの・・?」

更に深い思考に陥りそうな未来の考古学者は止めたのは、この場に導いてくれた女神だった。
直ぐに短銃を抜き放った小隊長の二人組みとライフルを構えるアリシア、
そんな三人を他所にクルトは自分ひとりでも逃げられるように、退路を確保をしやすい後ろにさがる。


彼等が警戒を強める中、かつかつと遺跡の床を叩くような・・・、
自分たち以外の誰かの足音が近づいてくる。
そして、通路の影から現れた人物に四人は警戒の混じった驚きの声を上げる


「帝国兵!?」「何者だっ!!」

「どうやら帝国の蒼き魔女の姿を目にするのは初めてか?」

四人の言葉に冷ややかな返答を持って応じたのは、銀髪の美しい女性だった。
そして、『蒼き魔女』という言葉にファルディオは目を見開きながら彼女の名を呟く。

セルベリア・ブレス・・・、そして、そこから推察される横に立つ金髪の男の名は
ガリア方面侵攻部隊総司令官のマクシミリアンに他ならない。


「くたばれ、帝国野郎!!」
「マクシミリアン様!!」

一番最初に動いたのは意外なことにクルト・キルステンだった。
彼はアリシアが抜くより早く腰の拳銃を抜き放ち、マクシミリアンに向けて銃弾を撃った。

味方の三人すら置いてけ堀にする無節操な攻撃は『蒼き魔女』ですら出し抜き、
その驚異的な神の力を使って彼を守ることを許さなかった。
セルベリアが弾けなかった一発の銃弾、一介の義勇軍に過ぎない少尉によって放たれた凶弾は帝国軍大将の肩を打ち抜いた。


「貴様貴様ぁああっ!!下賎の身の分際でマクシミリアン様を傷つけるとはぁあっ!!」

手に携えた特殊な形状の剣を持つセルベリアは許されない事態を目の前にして、
怒声を上げるに留まらず、明確な殺意を目の前に立つクルトにぶつけ、その身を更に蒼く燃え上がらせる。


「ちっ、もう少し射撃の腕があれば脳天ブチ抜けたのに、ミスった」
「ちょっと、ミスッたじゃないわよ。クルト、相手めちゃくちゃ怒ってるわよ」

「ウェルキン、どうやら、話し合いはもう無理のようだな
 まぁ、ガリアと帝国は所詮敵同士だ。大人しく殺し合いをするしかないか」
「状況が状況だから仕方が無いとは言え、出来るだけ穏便に済ませたかったんだが・・・」


カチカチと二度引き金を鳴らしたクルトは弾切れを呪いつつ、自らの腕の無さに毒づいて汗を垂らす。
余裕こいて無軽快な馬鹿を先制攻撃で始末しようとした目論見は失敗したのだ。
小物らしく大将首を前にして気が逸ってしまったのだ。

もっとも、いくら後悔しても遅そうであった。
目の前で蒼く燃え上がる女性は化け物染みた殺気を自分に
オッパイぷるんぷるんさせながら向けてきており、
それに本能が死を感じとって体が竦み、新たな銃弾を装填することも出来ずに立ち尽くす。
周りの三人も似たようなもので、セルベリアから発せられる圧倒的な殺気を前にして、
銃を構えるのが精一杯で、続けて銃撃を加えることは出来なかった。

完全に蛇に睨まれた蛙状態になった四人だったが、
彼らに対する救いの手は、予想外なところから差し伸べられた。


「ぐっ・・、止めよ、セルベリア」「マクシミリアン様!」

「これは余の慢心が招いたこと。これ以上この神聖な場を血で汚すことも無かろう」

肩を押さえながら、激高するぷるんぷるんを静止する。
目的の情報をこの遺跡で手に入れた彼はこれ以上ここに留まる気も無く、
無駄に争う気も無かったようである。


「貴様、名前は?余の身を傷つけた者の名を、自戒のために覚えておきたい」

「けっ、キザ野郎が、俺様の名はラルゴ・ポッテル様だ!
 帝国に不幸をもたらす男だ!よ~く覚えておくんだな!」

堂々と他人の名前を使うクルトに『ちょっおま・・・』といった視線を向ける三人だったが、
そんなことを知る筈も無いマクシミリアンは『そうか、覚えておこう』と頷き、
未だに歯軋りしそうな位に怒っているぷるんぷるんを引き連れて立ち去る。

ちなみに『ラルゴ、貴様は帝国軍がもっとも憎む敵となった。覚悟しておけ!』と
去り際にセルベリアに告げられたのは四人だけの秘密である。




「さて、この後はどうしますかね?一先ずの危機は去ったし
 もうそろそろ帰った方が良いんじゃないか?もう疲れたぜ」

「悪い。先に三人は帰っていてくれ、俺はもう少しだけこの遺跡を調べてみることにする」


マクシミリアン達が立ち去るのを見送って一息ついたクルトの提案に
他の二人は同意したのだが、マクシミリアンが奥で何を見てきたのかが引っかかったファルディオは、
ここに留まり、もうしばらくだけ調査することを主張したのだが、その目的は、永遠に達せられることは無くなる。


「なにっ!地震!?」
「いや、地震なんかじゃない。これは砲撃の音だ!
 不味いぞ、遺跡が崩れる前にここから逃げ出すんだ」

「お~い!もたもたしてると置いてくぞ?」

マクシミリアンは遺跡を出ると伏せていた自身の本体を動かし、
用済みとなった遺跡を破壊するため、激しい砲撃を立て続けに加える
ウェルキンはその轟音と振動に驚きながらも直ぐに遺跡からの離脱を提案するが、
一人はそんな事を言われる前に出口の方に向かって、既に駆け出していた。


「こらっ!待ちなさーい!一人で逃げるな!」

「逃げ足の速さを褒めるべきか、引き際の判断力を褒めるべきか」
「ファルディオも考えてないで、さっさと外に出るんだ!」

「悪いな。俺はもう少しだけ調べることがある。クルトに続いて先に行ってくれ」


尚も遺跡に居残ろうとするファルディオに足を止めるウェルキンとアリシア、
彼等を余所にクルトは振り返ることもなく、崩れ落ちる壁や天井の石を掻い潜りながら出口まで走り抜ける。




「アリシアを頼む!!」
「『ウェルキン!?』」

懸命な参謀と違って避難が遅れた三人は二人と一人に分かれて生き埋めになった。
上からの崩落に気が付いたウェルキンがアリシアを突き飛ばし、親友に彼女のことを託したのだ。
そして、彼の名を叫ぶ二人も視界から一瞬で消えた彼に遅れること数秒、
同じように遺跡の瓦礫に覆われて閉じ込められる。

無事に出口までたどり着いたのは全力で走りきったクルトだけであった。





「助かったよクルト、君が無線で近くを偵察していたイサラ達を
 呼んでくれなかったら、僕は崩れかけの瓦礫に押しつぶされていたよ」

「隊長、ぼさっとしてさっさと逃げないからですよ。まぁ、助かって良かったですよ」

唯一、無事に遺跡を脱出したクルトは『多分、死んだな』と薄情なことを思いつつ、
助けを呼ぶため、無線で近くに居る隊員に連絡を取ろうとしたところ、それぞれ偵察任務中の
第七小隊のイサラとヤンに第一小隊のラマール・ヴァルト軍曹とモブ・キャラン伍長が捉まったという訳である。

「良かったじゃない!まだ、俺達の隊長は見つかってもいないんだぞ!!」

「落ち着いてください。子供みたいに騒いだからと言って
 アリシアさんや貴方の隊長が見つかる訳じゃ有りません」

尊敬する隊長が生死不明という状態で気が立っている第一小隊のラマールは、
のほほんと会話をするウェルキン達に立腹して大いに声を荒げるが、
イサラにきつい一言をぶつけられる。
横のヤンは『イサラこわ~い』とか言いながら相変わらずクネクネしていた。


「なんだと!お前達ダルクス人がいる小隊になんか関わるから
 隊長が死んだらお前のせいだからな!絶対許さないからな!!」

「ガタガタうるせーぞ!テメェーのところの隊長が死んだら自業自得だ
 さっさと逃げろって言ったのに、遺跡に夢中になってたアホ野郎のな
 ダルクス人がどうとか、イサラは関係ねぇよ。喚いてないで手を動かせ」


一戦終えと思ったらぷるんにビビッてちびりそうになるわ、生き埋めになりかけるし、
その上、逃げ遅れて埋まった間抜けの救助をするために、
瓦礫をどかす重作業までしなくちゃならくなって気が立っていたクルトは
きゃんきゃん高い声で喚くラマールに我慢し切れなくなって罵声を飛ばす。

その後ろでヤンは『あぁ、意外と男らしくてス・テ・キ!』とまた体をクネクネさせながら
誰も持てないような瓦礫を筋肉を盛り上がらせながら、次々とどかしていく。


「大丈夫だ。アリシアもファルディオも無事だ。大丈夫!」
「何が大丈夫なんだよ。そんなことお前に分かるのかよ!」

「大丈夫、二人は絶対に僕が助ける。分からなくても助ける!!」


強い決意を込めて言葉を返したウェルキンに、ラマールを押し黙り瓦礫をどかす作業に戻る。
彼自身も喚いた所でどうにもならない事は分かっていた。
だが、不安で何も言わずに黙っていられなかっただけなのだ。

「ヴァルトさん大丈夫です。一緒に二人を助けるためにがんばりましょう」


ほんの少しだけ距離を縮めた少年と少女のがんばりのお陰かどうかは分からないが、
しばらくして、アリシアとファルディオの生き埋めになった場所は判明し、
二人は無事に救出されることとなる。
彼等の埋まっていた場所もいつ崩れてもおかしくない場所であった。
もしも、クルトが彼らを見捨てて脱兎のごとく自分だけ遺跡の外に逃げ出して助けを呼んでいなかったら、
彼らもウェルキンも、生きて外の空気を吸うことは無かっただろう。


「クルト!」 
「何だよ?」

「助け呼んでくれて、ありがとう」
「あぁ、俺も助かったよ」
「僕も改めて礼を言うよ。ありがとう」


お人よしの馬鹿ばっかだなと思いつつ、『別にいい』とだけ返したクルトは
不思議と悪い気分じゃなかった。少しだけ、感謝される嬉しさに柄にも無く照れていた。

もっとも、彼の本質が直ぐに変わるということは無い。
彼は三人を置いて、自分の命を最優先にして逃げたのだ。

それは動かすことが出来ない事実だし、そんな事は他の誰かに指摘されなくても彼自身が一番良く知っていた。


いろいろな事が起こった長い砂漠の一日はようやく終わりを迎える・・・






前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.027817964553833