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No.15115の一覧
[0] 戦場のヴァキューム  (戦場のヴァルキュリア)[あ](2010/01/10 10:57)
[1] 戦場のイカサマ師[あ](2010/01/10 11:07)
[2] 戦場の二枚舌[あ](2010/01/04 19:45)
[3] 戦場の屁理屈[あ](2010/01/10 11:19)
[4] 戦場の悲劇[あ](2010/01/04 19:45)
[5] 戦場の晩餐[あ](2010/01/04 19:45)
[6] 戦場の離脱[あ](2010/01/10 12:44)
[7] 戦場の遭難者[あ](2010/01/04 19:46)
[8] 戦場の叙勲[あ](2010/01/10 15:53)
[9] 黒の断章[あ](2010/01/11 21:16)
[10] 戦場の後悔[あ](2010/01/17 00:00)
[11] 戦場の思い出[あ](2010/01/24 19:44)
[12] 戦場の膠着[あ](2010/01/31 11:21)
[13] 戦場の虐殺[あ](2010/01/31 16:49)
[14] 戦場の犠牲[あ](2010/10/11 17:35)
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[15115] 戦場の悲劇
Name: あ◆2cc3b8c7 ID:2320373d 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/01/04 19:45
「馬鹿野郎!!頭下げろっ、死にてぇのかっ!!」

「いち、に、さんっ!!」
「弾幕張りながら、前進しろ!!突撃兵だけで突出するな!的にされるぞ!」

「いたいっ・・いだいよ゛ぉぉ・・」
「衛生兵!!早くけが人回収しろ。敵の増援が来るぞ」


森林を伐採して作られた帝国の補給基地、クローデン補給基地の防御陣は易々と抜けるものでは無かった。
正面に積まれた土嚢に篭る突撃兵に、見張り台から狙撃してくるスナイパー達の抵抗は激しく、
エーデルワイス号の砲撃と歩兵陣が連動した攻勢を幾度となく仕掛けるのだが、
負傷者と無駄弾を増やすだけで、それほど大きな戦果あげることは出来ていなかった。


「ガリアの野郎!!皆殺しだ!!うてぇー!!うてぇー!!」
「敵の戦車の動きを止めろ!!正門を死守しろ!この基地はガリア侵攻の要だ!」

「やらせるな!!数ではこちらが上だ。落ち着いて対応しろ!そうすれば負けはない」


「くそったれ!!ラルゴ、モタモタしてないで敵の戦車を黙らせなっ!」
「簡単に言ってくれるな!そこまで言うならやってやろうじゃねぇーか
 ロ-ジーしっかり援護しろよ!お望み通り戦車の野郎をぶっ潰してやる!」


敵も味方も楽観悲観の入り混じった怒声を好き放題に叫び続ける。
そして、時間が経つたびに、その数は確実に少なくなっていく。
砲弾を受けた兵士の手足が吹き飛び、狙撃兵の銃弾を受けた兵士の脳漿が赤い水溜りを作る。
戦闘開始後、僅か20分足らずで、クローデンの森は恐怖と死が支配する地獄へと様変わりしていた。

土嚢と有刺鉄線や木の策で作られた防御陣を必死で維持する帝国兵、
それを突破する振りを見せながら激しい攻撃を加える第七小隊の隊員達は
別働隊の到着を信じ銃の引き金を引き続ける。


「ギュンター隊長、これ以上は無理だ!数が違いすぎるし、負傷者も増えている
 このまま前進を続ければ、衛生兵の手より先に死神の手を掴む事になる。退こう!」

「だめだっ!ここで僕たちが退けば、遅れて到着するファルディオ達が
 孤立して全滅することになる。もう少しだ!もう少しだけ頑張るんだ!!」

「頑張るだって!!これ以上、頑張ったら、こっちが全滅しちまうぞ!!」

銃弾が掠め、生まれたばかりの傷から血を流すクルトは、これ以上は無理だとウェルキンに撤退を促す。
エーデルワイス号も少なからず被弾しており、いつまでも無尽蔵な活躍は出来そうにない。
また、奇跡的に死者は出ていないもの負傷した隊員の数も多く、限界は近かい。
ガリアの勝利なんて下らないもののために、これ以上、死地に踏み止まる気はクルトには無かったのだが、

撤退を促す進言は隊長に退けられ、ギリギリの戦線を維持するために木の陰から飛び出し、マシンガンを乱射しながら前進するロージーとイーディを狙う帝国兵にライフルの銃弾をお見舞いする!!

「ちょっと!!アタイまで撃ち殺す気かい!」
「わっ、わたくしの髪がパラパラと宙を舞いましたわよっ!!」

「うるせー!!当てたんだから、文句言うな!!こっちは死ぬ覚悟で飛び出したんだぞ!」


保身第一のクルトが死地に飛び込んで銃弾を飛ばす勇ましい姿を見た第七小隊の隊員たちは、
自分達がいつ全滅しても不思議ではない状況にいることを否応なく悟る。




「グレゴール閣下、ガリア公国軍より正面から攻撃を現在受けておりますが
 正面の防御陣を一部突破されたのみで、一次防衛ラインは問題なく機能しております」

「不甲斐ない!!防衛ラインが維持されておる位で満足など出来るかっ!
 立て続けに皇帝陛下より預かりし、帝国の拠点を脅かされるだけでも
 許しがたい屈辱!!それを一部とは言え防御陣を失陥するとは何事か!
 正面に人数をかけて蹴散らすのだ。小隊規模の雑魚に梃子摺ることは許さん!」


怒りに燃える帝国の悪魔は一気に小賢しいガリアの狗達を駆逐するため、
既に限界を迎えかけているクルト達の元に更に戦力を割かんと指示を出したのだが・・


「報告いたします!!現在、基地側面が敵の襲撃を受けております
 正面の攻撃に気を取られ不意を疲れたせいか、兵達に同様が走っております!!」

「何だと!!えぇい小賢しい。防御陣が維持できる兵力を残して正面の戦力を
 側面の対応に充てろっ!いくら前を押し返しても後ろを取られては意味がない!」


「イェーガー、貴様こんな所まで何のようだ!」
「おいおい、俺の任務を忘れたのかい?俺の任務はあんた等の後方支援と援護だ」


「ふんっ、貴様の手など借りずとも私自身の手と戦力にのみで
 ガリアの狗など叩き潰してくれる!!要らぬ心配など無用だ!」

「おーおー、グレゴールあんまり熱くなると碌なことがないぜ」
「ふんっ、私は冷静だ。冷静にガリアの狗共を粉砕してやると言っているのだ!」

「はぁ、あんたらしくないねぇ、敵さんはあんたの裏をかいたんだ
 ここは素直に引いたほう良いんじゃないか?この拠点を失うのは痛いが
 被害をこれ以上拡大させるのも不味いだろう?俺がここに来たのは
 ラグナイトの輸送と撤退を手助けするためで戦うためじゃない。潮時だ」

「くっ・・、ライナス!撤退の準備だ。ラグナイトの輸送を第一優先とする」


自らの非を認めたグレゴールは基地指令官に命じて撤退準備に入らせる。
予期せぬ攻撃に浮き足立つ基地にこれ以上固執して、
戦線を維持するために必要な物資を失う愚を避けることを選択したのだ。
並みの将であれば、自分の失点を認められずに引き際を誤ったであろうが、
帝国の悪魔という異名は伊達ではなく、グレゴールは将として己の非を認め、
戦略物資の搬送が可能な余力を残した内に撤退するという、
残された中で最良の選択肢を採ることが出来た。


そして、この決断はギリギリの状態で何とか生の境界線側に立って戦い続けた
ウェルキンに付き従う第七小隊の面々が命拾いしたことも意味していた。
彼等は、少し離れたところから聞こえる銃声と格段に弱まった敵の銃火から、
自分たちが助かったことと、奇跡に近いと思っていた勝利を手にしたことを理解する。




「敵の攻撃が弱まったところを見ると、別働隊の攻撃は上手く行ってるみたいねん」
「分かったから!くねくねしながら近づくんじゃねぇ」

「もうっ、ラルゴ様のイ・ケ・ズ☆」

敵の戦車を破壊しつくして一先ず仕事をやり終えた対戦車歩兵の二人は
基地の奥へと前進する突撃兵や偵察兵達を見送る。彼らの無事を祈りながら。
ちなみに、基地正面の防衛を命じられた対戦車兵と一部の狙撃兵に混じって
安全な後方に留まろうとした偵察兵扱いの参謀クルトは、
どこかの野球好きの少年のように女性に耳を引っ張られながら、戦闘が続く基地の奥へ引きずられて行った。


「小僧ども、死ぬんじゃねぇぞ。せっかくの勝ち戦なんだからよ」
「あぁ~ん、ラルゴ様渋くてステキ過ぎるわん!痺れちゃう」






「もたもたしないで下さいまし!また、あの方に遅れを取ってしまいますわ」
「俺はずっと遅れてたかったよ!」

銃弾を掻い潜りながら、基地の奥へ奥へと走る男女、
これで二人が恋人同士なら、ちょっとした戦場ドラマなのだが、
男の方は彼女を命賭けて守る騎士のように付き従っている訳ではなく、無理やり引っ張られて来ただけ、
少女の方も、ライバル視する突撃兵のエースに勝る戦果を独力で立てるのが難しいと考え、
言うことを聞かせれそうなクルトを自分の援護をさせるために無理やり連れて来ていただけである。


「何を軟弱なことを、せっかくの武勲を立てる好機をみすみす逃すつもりですの!」
「馬鹿、止まるなっ!!」 「きゃっぁ!なっなんですの?」

「急に立ち止まるんじゃねーよ!!蜂の巣にされた・・いのか・・・」

ブ-ブー後ろで文句を言う男に叱咤を入れようと立ち止まって振り替えった少女は、
当然、ヘッドショット狙いたい放題の動かない的になってしまう。
急に止まれない後ろを走るクルトに突き飛ばされて建物の影に倒れこむことが出来なかったら、
二人揃って目出度く第七小隊初の二階級特進者になっていただろう。
もっとも、超人でも英雄でもないクルトが銃弾の雨、嵐から女の子を格好良く守って無傷なんて美味しい目を見られるわけも無く、
しっかりと被弾して、大尉への階段をゆっくりと登り始めていたが・・・


「ちょっと、しっかりなさって!!しっ死んだら怒りますわよ!!
 お願い!!衛生兵、早く来て!!血が止まりませんの、血が・・・」


動かなくなったクルトの背中から溢れ出る血を、
軍服が汚れるのも厭わずに押さえ続ける少女の悲痛な叫び声が、深い森の奥で木霊する。

戦場ではあたりまえの突然の不幸が、クルト・キルステン少尉の下に訪れていた。





「ほぅ、追って来ないか。中々、敵さんの中にも分かっている奴が居るじゃないか
 よぉーし!ここまで来れば伏兵を置く必要はない。全員で仲良く逃げるとしよう」


煙が立ち昇る基地の方向を見ながら、殿を買って出た帝国軍のイェーガー少将は、
深追いをせず、基地の確保を優先した名も知らぬ敵将に高い評価を与えていた。
曲がりなりにも帝国の悪魔と呼ばれる名将グレゴールを退けるだけでも賞賛に値するのに、
その勝利の美酒に酔うことなく、無理な追撃を控えるという最良の選択をしたのだから・・・


「ウェルキン!大変なのクルトが・・、クルトが撃たれたの!!」
「なんだって?!ファルディオ、済まないが僕達はいったん・・」

「分かってるって、基地の守備は俺達第一小隊に任せておけ」

「ありがとうファルディオ!アリシア、急いで戻るぞ
 僕たちの第七小隊の隊員から戦死者を出す訳にはいかない!」
「うん!」


もっとも、敵の名将からそんな高評価を頂いていることなど知らないウェルキンは、
勝利を喜ぶ以上に、撃たれた参謀を救うことで頭が一杯になっていた。
考え方も違い、相容れない部分も多い参謀ではあるが、自分の大切な部下で小隊の隊員である。
そして、自分を助けたせいだと言って泣きじゃくりパニック状態の少女を
これ以上、悲しませる結果を彼は出したくは無いと強く思ったのだ。

そんな、勝利以上に仲間のことを思いやる隊長のウェルキンの姿は、
アリシアだけでなく、他の隊員からの信頼やら好感度もグッと高めていた。


こうして、攻略した基地の守備を第一小隊に丸投げした第七小隊は
応急処置の終わった負傷兵を医療機関に送り届けるため、
疲れた体に鞭を打ちながら来た道を全速で駆け抜けて行くのだが、
その道中、現実というものが物語のように都合よく行かない事を
彼等は意図的に忘れようとしていた。
女の子を助けたヒーローがあっさり死ぬわけが無いと・・・


だが、搬送された病院の医師の口から
奇跡的に軽傷でしたとか、弾の当たり所が良かったという都合のよい言葉が発せられることも無く、
代わりに与えられたのは『最悪の事態も想定してください』という、
彼等が、血まみれの少女が一番聞きたくない言葉であった。



『ごめんなさい。ごめんなさい・・・』と誰に向かってするでもない謝罪を擦れた声で繰り返す少女の姿は、
戦争の持つ残酷さを周りで力なく立つ人々に深く知らしめていた。


クローデンの森と少しはなれた街の病院は、重苦しい沈黙に支配されていた・・・






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