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No.15115の一覧
[0] 戦場のヴァキューム  (戦場のヴァルキュリア)[あ](2010/01/10 10:57)
[1] 戦場のイカサマ師[あ](2010/01/10 11:07)
[2] 戦場の二枚舌[あ](2010/01/04 19:45)
[3] 戦場の屁理屈[あ](2010/01/10 11:19)
[4] 戦場の悲劇[あ](2010/01/04 19:45)
[5] 戦場の晩餐[あ](2010/01/04 19:45)
[6] 戦場の離脱[あ](2010/01/10 12:44)
[7] 戦場の遭難者[あ](2010/01/04 19:46)
[8] 戦場の叙勲[あ](2010/01/10 15:53)
[9] 黒の断章[あ](2010/01/11 21:16)
[10] 戦場の後悔[あ](2010/01/17 00:00)
[11] 戦場の思い出[あ](2010/01/24 19:44)
[12] 戦場の膠着[あ](2010/01/31 11:21)
[13] 戦場の虐殺[あ](2010/01/31 16:49)
[14] 戦場の犠牲[あ](2010/10/11 17:35)
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[15115] 戦場の虐殺
Name: あ◆2cc3b8c7 ID:f2180761 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/01/31 16:49
帝国に支配された街ファウゼン、虐げられるダルクス人、
そして、絶望的な現実に挑むレジスタンス達の決意・・・
己のことしか考えられなくなった利己的な男に、否応無しに苦い過去を思い出させる街での戦いは、
夜明けを待つことなく終わりを迎えることになる。横たわる肉塊と立ち尽くす咎人を残して・・・




「耐えろっ!帝国軍人なら耐えて見せよ!この攻防に祖国の興廃がかかっていると心せよ!」

「耐えるんだ!ファウゼンを解放し、ガリアに平和を取り戻すんだ!」


通信機越しに聞こえる指揮官の言葉からは、両軍の置かれた苦しい状況が読み取れる。
潜入破壊工作部隊は奇襲によって始まった攻勢を緩めることなく帝国軍の防御陣を突破し続けていくも、
帝国軍は穿たれた穴を埋めるべく増援すぐさま呼び寄せると、新たな防御陣を再構築するだけでなく、
彼らに比して圧倒的な戦力と火力を有効に用いて、包囲殲滅せんと反撃を試みるなど決して楽をさせてはくれない。
ただ、衆寡敵せずといった風に帝国軍有利に天秤が傾いている訳ではない。
ガリア義勇軍は、解放したダルクス人難民を守る一隊を除いて、
レジスタンスが持つ地の利を最大限に生かしながら、帝国軍の予想だにできない移動を繰り返しながら襲い掛かってきているため、
襲撃を受けた帝国軍は効果的な反撃をすることが出来ないまま、混乱させられ、焦燥の思いを募らせており、
グレゴールの叱咤で何とか戦線の崩壊を防いでいる体たらくで、支配地である筈のファウゼンを良いように荒らされていた。





「このままじゃジリ貧だぞ?帝国軍の俺らに対する優先順位が低いっていっても
 相手の方が戦力は圧倒的に上だ。お荷物の難民を抱えながらじゃ、いつかやられる」

「そんなことは言われなくても分かってんだよ!難民を見殺にでもしろっていうのか?」

少しずつ流れ弾などでダルクス人の難民に被害が出始める中、クルトの危惧を聞いた解放チーム指揮官のラルゴは彼を一喝するのだが、
続く打開策を打ち出すことは残念ながら出来なかったようだ。


ファウゼン最下層のダルクス人強制収容所の襲撃に成功したラルゴ以下の『解放チーム』の面々は
ダルクス人難民の非難を援護しながら、中腹に位置する窪地にレジスタンスが秘密裏に構築していた簡易な防御陣地に踏み止まって、
追い来る帝国軍の攻勢を何とか防いでいたが、それが突破されるのも時間の問題という状況であった。

未だに帝国のエーゼルが破壊された光景を目にすることなく、作戦開始時間からは三時間以上経過している。
日の出までの時間はそう多く残されていないし、正規軍がファウゼン市街に突入してくるのにかかる時間を考えれば、
エーゼル破壊に供することが出来る時間はもうほとんど残っていない。
作戦の失敗イコール死という最悪の結末を彼らは迎えようとしていたのだ。




「ラルゴ、5人ばかし人貰っていいか?」
「・・あぁ、それは構わんが、貴重な戦力を割くだけの価値はあるんだろうな?」


唐突に分隊の編成をクルトに要請されたラルゴは即座に返事は出来なかったが、
このままジリ貧で全滅するくらいなら、妙な所でだけは頭の回る男に賭けてみるのも悪くないかと思い彼の提案を受容れる。
ただ、彼が欲しいという戦力が10人を超えていたら即座に却下していただろう。
既に大人数の戦力を割けるよう余裕が『解放チーム』には残されていなかったのだ。


「もちろん、動くだけの価値はある。イーディ付いて来い。ひとまず戦える奴を連れて
 坑道の裏道を通って移動する。ザカ、悪いけど道案内を頼めるか?上層部を目指したい」

「来ましたわね!このイーディ・ネルソンが困難な任務を華々しく解決するときが!」
「了解。何を考えているかは知らんが、面白そうだ。乗ってやるよ」

クルトは偶々近くにいたのか、狙って寄り添っているのか判別できないリーダーシップのある少女と、
地の利にもっとも明るいレジスタンスのリーダーを務める男に協力を要請する。
協力依頼を受けた二人もこの膠着した状況を好ましく思っていなかったようで、二つ返事で参謀の要請を受容れる。


「ホーマー、わたくしと少尉に同行する栄誉を与えます。いいですわね?」
「いいですわね・・って、そんなこと急に言われても・・」

「急だから何ですの?わたくしが付いて来いと言ったら、黙ってそれに従う!
 あなたには拒否権というものは最初からありません。ちょっと、何で泣くんですの?
 わたくし、そんな無理は言っていませんわよね?あなたは、『はい』か『YES』かで
 返事をすればいいだけですわ。・・・そう、納得してくれましたの。ありがとうホーマー」

強引な勧誘でその分隊に入ることが一番に決定したのは第七小隊のアイドルの一の子分として知られるホーマー・ピエローニ。
最初に彼女から指名を受けた彼は、何か妙な嫌な予感を感じて同行を渋る素振りを見せたのだが、わがままな彼女がそれを許すはずも無い。
その様子を横で見守ったクルトの方も、分隊には一人ぐらい支援兵を入れたいと考えていた事も有って、特に口を挟まずにそれを是としたため、
彼は急遽編成された分隊のメンバーとして組み入れられることとなる。


「アタイも参加させて貰うよ。防戦一方ってのは性に合わないんでね」
「別にあなたは参加して頂かなくてケッコーですわ!」

「ロージー、そっちの方は頼んだぞ」
「まぁ、少数精鋭で行くならロージーは外せないからな。期待してるぜ」
「ほっ、ロージーさんが来てくれるなら、ぼくも多少は安心できるよ
 不幸も悪くないけど、度を越して死んでしまっては元も子も無いからね」

「何ですの!この扱いの差は!訴えますわよ!」


分隊のことを頼むラルゴや分隊長クルトに子分のホーマーまで憎きライバルをちやほやするため、
イーディさんの機嫌は急転直下の勢いで悪化していたが、敵意を向けられる方は馬鹿の相手はするだけ無駄といった態度で返し、
彼女の怒りの炎に油を盛大に注いでいた。


「・・・私も行こう。少し・・不安がある」
「確かに、スナイパーの一人ぐらいは居なくちゃ、行動に幅を持たせられないからな」
「・・・、行こう」

最後の一人は有る事を憂いた孤高のスナイパー、マリーナ・ウルフスタンに決まるのだが、
彼女の加入の動機を小隊員ではないレジスタンスのザカは読み取ることはできなかったらしい。






既に使われなくなった廃坑の坑道を使いながら進む急増の分隊は、
土地勘に明るいザカの御蔭で一度も戦闘を行うことなく前進し続けており、他の作戦参加者と比べて格段に『安全』であった・・・

そう、クルト・キルステンのもっとも望む『生の安全』が分派行動によって生み出されたのだ。
彼の狙いをラルゴは問う必要など無かったのだ。彼が常に狙うのは自己保身のみ。
そして、ファウゼン上層部を目指す理由は侵入経路に一歩でも近づいて安全に街を逃げ出すためであった。
全ては計画通り、俯きながらほくそ笑む男は薄暗い坑道を足取り軽く進む筈であった・・・



「あの・・マリーナさん、また、当たってるんですけど?」
「・・・そう、また当てている」


歩くたびに揺れるクルトの首筋や後頭部は、最後列を歩く美しい女性が持つ銃口と何度も熱い接触を交わさせる。
この奇妙な遣り取りにザカは違和感を覚えたのだが、他の分隊員が何も口を挟まない以上、
部外者である自分が口を出す必要は無いかと考え、それを問いただすことなく道案内役に徹していた。

クルト・キルステンの姑息な逃亡劇は幕を開ける段階から、早くもトラブルが噴出し始めていた。






「閣下、敵は義勇軍第三中隊の第一、第七小隊であると判明しました」

「ふんっ、今更だな。だが、クローデンでの借りを返せる好機が到来したことは重畳だな」

自分に苦杯を舐めさせた第七小隊の隊長にマクシミリアンに手傷を負わせた参謀、
憎き敵ではあるが、侮れぬ強敵を己の手で葬れるチャンスにグレゴールは人知れず気を昂ぶらせ、笑みを人知れずこぼす。




「隊長!これ以上は弾も持ちません。犠牲も増えて来ています」

更に戦意を高めた帝国軍の指揮官と違って、危機的状況に置かれつつあるのは採掘基地司令部を破壊後、
奪取した帝国軍戦車を弾除けにしながら、無謀ともいえる突撃を繰り返しているファルディオ率いる『襲撃チーム』だった。


「なんだなんだ、ラマール?弱音を吐くのが少しばかり早いんじゃないか?
 そんな情けない事言ってると、横のかわいい女の子に愛想を尽かされてしまうぞ?」

「隊長!そんな冗談を言ってる場合じゃありません!
 もう夜明けだって近くなっているんですよ。このままじゃ・・・」
「そうです。夜が明けてしまえば私達の所在は容易に判明してしまい
 帝国軍に包囲される危険性が高いです。何とかしないと、まずいです」

軽口でラマールの不安を解消させようとするファルディオだったが、
それで笑って済ませられるほど彼らが置かれた状況は楽ではない。
奪った帝国軍戦車もイサラの操縦手腕とラマールの砲術の腕で何とか敵戦車の攻勢を防いでいるが、
相手の数に抗せるとはお世辞にも言いがたく、事実、何名かの戦死者や重傷者がチームから出始めている。


「あぁ、分かっている。だが、今の俺達はそんな事を話して不安がる前に
 目の前の帝国軍を派手に倒して、篭ったままのキングを一刻でも早く
 引きずり出させる必要があるんじゃないか?イサラ、ラマール、違うか?」

「了解」
「そうですね。泣き言なら後で幾らでも言えます
 今は私達に出来ることを精一杯しないと行けませんね」

だが、困難状況だからといって彼らは諦めることは許されない。銃を捨てて逃げ出すことなど出来ない。
彼らが、ラルゴ達が、ウェルキン達がこの作戦を投げ出してしまえば、この街に住まう人々は再び地獄のような日々を送ることになるのだ。
無謀な潜入破壊工作作戦を担う彼等はたった一人の例外を除いて作戦の成功を諦めていなかった。






真っ暗夜空をしゅしゅると音を立てながら、一筋の信号弾が天空へと昇った・・・



「何するだぁっーですわ!!」
「何するって、信号弾を打ち上げただけだよ」

「アンタって奴は・・・」
「・・・撃とうかな?」
「ふふ、大変なことしてしまったよ。あぁ、僕達はきっと終わりなんだ」

坑道を利用してファウゼン上層部の岩壁に辿り着いたクルトは懐から取り出した信号銃の引き金を躊躇無く引いた。
この暴挙にイーディはパニックを起こして彼の襟首を締め上げ、さすがのロージーも絶句して言葉を失う。
普段は冷静沈着なマリーナもうっかりしたことにして、引き金に掛けられた指に力を込めようか本気で考え、
ホーマーは一人メルヘンの世界に旅立とうとする中が、
一人だけその放たれた信号弾の意味を理解できないザカが、疑問を口にする。


「おいおい、話がみえねぇーぞ?その信号弾は何を報せるやつなんだ?」
「ケホッ、コホッ・・痛、あぁ、信号弾の意味は『ワレ作戦ニ成功セリ』だ
 一時間もすればエーゼルがぶっ壊されたと信じた正規軍がやってくる訳だ」

「訳だって、お前・・まだ、エーゼルは姿も見せてねぇーじゃないか!どういう心算だ!」

「どういう心算って、もう正規軍を動かさなきゃ三時間後の夜明けに間に合わないだろ?
 どの道作戦が失敗するにしても、俺は死ぬ気はないんで逃げるのにも『囮』がいるだろ」


正規軍が装甲列車エーゼルや帝国軍の餌食になっている間にファウゼンから逃げ出す。
この余りにも自分のことしか考えていないクルトの説明にレジスタンスの、
多くのダルクス人達の運命を背負おっているザカは激昂してクルトを岩壁に叩きつける。



「どういうことだ!仲間も街の人間も見捨てて尻尾を巻いて逃げるってことか!?
 ここまで登ったのも、脱出しやすい場所に自分だけ先に辿り着くためだったのか!!」

「ってぇ・・、落ち着けよ。どの道このままじゃ作戦は失敗だ。現実を見ろよ
 いつまでも未練がましく足掻き続ければ、帝国になぶり殺しにされるだけだ
 どこかで線引きして引く必要がある。この作戦を崩壊させる信号弾を見れば
 他のチームも頭を冷やして撤退の準備をするだろ。俺達だけじゃ無理だったんだ」

「無理だっただと?取り残された難民はどうするんだ?見殺しにしろっていうのか?」
「それも覚悟の上の蜂起だったんじゃないのか?『これ』は誰が選択した結果だ?」


放るようにクルトを離したザカは『畜生畜生・・・』と壁を拳でニ、三度叩きながら崩れ落ちる。
厳しすぎる現実を前にして、他の隊員達もザカを慰めることもクルトに反論することも出来ない。
無力な彼らに許されることは、足元で起こるむなしい戦闘を見守りながら呆然と立ち尽くすことだけであった。一人の例外を除いて・・・


「そんな現実はクソっ食らえですわ!まだ、作戦は成功したとは言えませんが
 失敗した訳でもありません。わたくし、途中で諦めることが一番大嫌いですの!」

「諦めない・・・か、イーディ、この絶望的な状況下をどうやって何とかするんだ?」

拳を握りしめながら諦めるなと力説する少女に、クルトは頭を抱え、眩しい物を見るような視線を向けながら問う。


「それを考えるのが、少尉、参謀である貴方の仕事ですわ!」

「うわぁー、大口叩いてイーディさん人に丸投げだよ・・」
「お黙りなさい!!うるさいですわよっ!!」

満面の笑みと共にクルトに返された答えは、清々しいくらいに無責任で滅茶苦茶な答えになっていない答えだった。
その彼女の無茶振りに他の面々は大いに呆れたのだが、直接答えを受け取った利己的な男は声を立てながら笑い、彼女の望むものを与える。


「はぁ、まぁ、どうなるか分からんが、しばらくココで座って待とう
 イーディの言う通り、完全に失敗した訳じゃないのは確かだからな
 尻尾を巻いて逃げるのは、その答えを見てからでも遅くはないしね」

「おい、どういうことだ?」
「一体なんなんだい!アタイにも分かるように説明しな!!」


「お黙りなさい!!分隊長でもある少尉が待てば答えが出ると言ったのです
 部下であるわたくし達は、その指示を信じて待つべきですわ!違いまして?」

少女の自信満々な様子を見て、渋々押し黙った面々は、それほど時を待つことなく『答え』を知ることになる。





「ウェルキン見て!装甲列車が動いたよ!!」
「あぁ、参謀の御蔭だな。彼はやってくれたよ」

「ふぇ?どう言う事?クルトは勝手に信号弾を上げて、
 とんでもない事を仕出かしただけでしょ?何でクルトの御蔭なの?」

「アリシア、それに付いては跡で説明するよ。今は線路の下に仕掛けた爆薬を
 爆破させるタイミングを合わせることに集中しよう。絶対にミスは出来ないからね」


突如動き出した装甲列車エーゼルを見て、打ち上げられた信号弾の意図を悟ったウェルキンは
頭に疑問符をたくさん浮かべながら首を傾げるアリシアに苦笑いをしながら、
目の前にある任務に集中するように促す。どんな奇策も作戦の成功に繋がらなければ意味は無いのだから・・・



「閣下、ここに来て今まで動かさなかったエーゼルを動かされるのですか?」

「では、貴様はどうするというのだ?例え、罠の可能性があろうとエーゼル動かさねば
 ファウゼンは陥落するぞ!!忌々しい、罠を匂わせてエーゼルの動きを封じて
 散々内部を撹乱しておきながら、今度は外の大兵力を用いて出さざるを得ない状況に
 我らは追い込むとは、動かなければ外から落とされ、動けば罠が待ち受けているか・・」

ギリギリと奥歯を噛み締めながら、グレゴールは帝国軍の置かれた厳しい状況に毒吐く。
彼の下に装甲列車のエーゼルの脅威をまったく考慮しないよう見える形で前進してくる
ガリア正規軍の大軍が迫っていることが報告されたのは、ほんの少し前のことであった。


「我がエーゼルはガリアの姑息な罠ごときに敗れるほど軟弱ではない!
 まずはガリアの狐と身の程知らずのダルクス共を刈り取ってくれるわ!」


杖で床を強く叩いた指揮官は最終兵器を遂に動かす、最初の狙いは小賢しくファウゼンの中央を跋扈するファルディオ率いる第一小隊、
彼らの息の根を止め終えたら、同様に街の中を暴れまわる不逞の輩を列車砲で薙ぎ倒し、
返す刀で外のガリア軍の息の根を止める!!グレゴールは小細工に対し、圧倒的な戦力で当たることを選択する。




そして、それが彼の敗北を決定付けることになった・・・






多すぎるくらいに見える支援車両や戦車に護衛された装甲列車が鉄橋の中央部に到達した瞬間、
何百発もの花火が爆発したような轟音がファウゼンの谷を揺れさせた。

そして、その轟音と共にあがった煙が風引き飛ばされた後に残されていたのは、
所々から炎と火の粉を飛び散らす、無残な姿に成りつつあるファウゼンの支配者だった。


この衝撃的な光景は街のあちこちで行われている戦闘にも大きな影響を及ぼす、
虎の子でもある装甲列車が今にも息絶えようとするその姿は大いに帝国軍の士気を挫き、
逆側の陣営にたつ者達をこれでもかという位に奮い立たせる。
また、その状況を加速させる情報が帝国軍の間を駆け巡る。『ガリアの大軍が迫っているぞ!』と
ファルディオ達が帝国軍の一般将兵を揺さぶるために放ったこの流言というか事実は、
帝国軍を絶望させるに十分な力を持っていた。

すでに勝敗は決していた。後はエーゼルに止めを刺せば作戦は終わる。
ウェルキンだけでなく、この作戦に参加した義勇軍とレジスタンスのメンバーの多くはそう確信していたが、
その確信は『帝国の悪魔』の執念によって破られることになる。





「「ファウゼンに侵入せし、ガリア義勇軍よ・・・、今すぐに投降せよ・・・
  さもなくは、列車砲をもってダルクス難民を焼き払う!これは脅しではない」」




「何だって!!帝国軍の奴ら非戦闘員を盾にするつもりなのか?」


装甲列車から放送された警告を崖の上層部で聞いたロージーは怒りを露にする。
いくら過去の経緯があって憎いダルクス人であっても、目の前で虐殺されそうになっていれば止めずにはいられない。
彼女は崖を駆け下りながら、煙と炎に包まれるエーゼルに向かって走り出す。
そして、その無謀な突撃を止めよとする分隊員と頭に銃を突き付けられた分隊長は彼女に遅れて崖を駆け下りる。


ウェルキンとアリシアも陽動と奇襲攻撃を繰り返し行っていた自分の『破壊チーム』と合流し、
その暴挙を止めようと、不発だった鉄橋に仕掛けた残りの爆薬を銃撃で爆破させようとエーゼルを目指して走る。
ファルディオ達もイサラとラマールの乗る帝国軍戦車を戦闘にして鉄橋を・・装甲列車を葬ろうと走る!!


その、みんなの思いが一つになった瞬間・・・、エーゼルから断末魔の咆哮がダルクスの難民に向けて放たれた・・・



「やめろぉおおー!!どうして、どうしてこんな事が出来るんだ!!」

虐殺の事実を前にして、自分の両親がダルクス狩りに巻き込まれて死んだ瞬間を
フラッシュバックのように思い出したロージーは怒声をあげながら、装甲列車に向かって突っ込むが、
無駄死にする気かと飛び掛るザカに取り押さえられ、『離せ!離せよっ!』と喚きながら暴れる。
そんなクルトの分隊が大騒動している中、イサラの駆る戦車がようやく鉄橋の下に辿り着き、
なおもダルクス人に向けて列車砲を向けるエーゼルに砲撃を加えて、残りの爆薬を誘爆させて止めを刺す。




征暦1935年8月5日、『帝国の悪魔』と恐れられたグレゴール中将は、その乗座するエーゼルと共に爆煙の中に消える。
この瞬間、帝国軍は自らの敗北を悟り工業都市ファウゼンから撤退を開始し、
街は解放され、再びガリア公国の支配する街へと戻った。多くの犠牲を糧にして・・・




「おーし、そんじゃ、ヤンの班は残敵の確認と掃討を頼む
 必要があればラルゴの班を増援にだすから無理をするなよ?」
「了解したわ。がんばるわよ~うふっ♪」


空が白み始める中、憔悴しきって項垂れるロージーを余所にクルトは淡々と戦後処理を進める。
爆撃でバラバラになった死体を片付け、銃撃で死んだ兵士やダルクス人達を機械的に埋葬し、
帝国軍が自分が考えたように井戸に毒を放り込んだりしていないか、レジスタンスのメンバー達に確認させ終えると、

援助物資を山ほど持って訪れる『英雄』ダモン将軍の出迎えに忙しく動き回るなど、
作戦行動中以上の勤勉さをみせ、一部の義勇軍の隊員達から白けた視線を向けられていたが、彼自身は特に気にしている様子を見せなかった。

結果的に困窮するダルクス人の難民に援助物資が渡るのであれば、好悪等の感情は些細なものに過ぎないことを参謀は知っていた。



「ウェルキン・・・、クルトは強いね。クヨクヨしてちゃ駄目だって
 私も分かってるんだけど、今はあんなに動けないよ。だって酷過ぎるよ・・」

「アリシア、後は正規軍や他のみんなに任せて休んでくるんだ
 君は十分すぎるほど頑張ってくれたよ。今は疲れを癒すことを優先してくれ」


砲撃の犠牲になったダルクス人の少女の墓の前にコナユキソウの種を蒔いたアリシアは
赤くなった目を擦りながら、彼女らしくない弱音を吐く。
それだけ、非戦闘員のダルクス人難民に犠牲が出たことは大きなショックを与えたのだろう。
彼女以外の隊員たちも戦歴が浅いこともあり、似たように憔悴した表情を見せていた。

アリシアを臨時宿舎に送ったウェルキンは戦いの残酷さに想いを馳せながら、深い溜息を吐いていた。




「おーい、お前らも疲れてるだろうから、無理しなくていいぞ。休んで来いよ」

「全然問題ありませんわ!こういう辛い時こそ、アイドルの踏ん張りどころですの
 私の百万ボルトの笑顔で悲しみに暮れるみなさんを勇気付ける!これは、第七小隊の
 アイドル足るわたくしにしか出来ない責務ですわ。簡単に音をあげる訳には行きません」

炊き出しのオニギリをせっせと作る少女は、髪はぼさぼさで目の下には深い隅をこさえて、どこがアイドルだよという感じであったが、
悲嘆に暮れていたダルクス人難民達にとって、どこの着飾ったご令嬢よりも魅力的に見えていたし、
そんな彼女に勇気付けられた人々はけが人の手当てや、食料の配給にと自主的に参加し始め、復興作業を進めさせていた。


「まぁ、倒れない程度にほどほどにしろよ」




聖女様(笑)に別れを告げたクルトは、戦後処理の指示に加えてダモンへの尻尾振りも行っており、
さすがに疲れたので仮宿舎で休息を取ろうと、重くなった足に鞭を打って歩いていたのだが、
悲しい顔をしたかわいい女の子に捕まってしまう。


「キルステン少尉・・・」
「やれやれ、俺はカウンセラーでも、お悩み相談室の相談員でもないんだけど・・
 イサラ、何があったか知らないけど、さっさと寝ろ!疲れたときは何も考えるな」


「少尉、どうして・・・、どうしてこんな酷い事が起こってしまうんでしょうか?
 ここに眠る人たちは故郷から無理やり連れてこられ、無理やり働かされて
 何も悪いことをしてないのに殺されました。ただ、ダルクス人だったというだけで」


人の話を完全無視かよと突っ込みたい気持ちを抑えながら、
クルトは悲劇のヒロイン(爆)な少女の問いに面倒くさそうに答える。


「運が無かったんじゃねーの?」
「しっ・少尉!!こんな時にふざけないでください!!」

「怒るな怒るな。まぁ、そんだけデカイ声出せるなら大丈夫そうだな
 落ち込むのも悩むのも良いけど、ほどほどにしとけよ。兄貴が心配するぞ?」

「やっぱり、少尉はふざけています。でも、少し元気でました。ありがとうございます」


背中越しに聞こえる少女の謝辞に肩をコキコキ鳴らしながら応えるクルトは、
今度こそベッドを目指さんと、仮宿舎を目指して早足で進む。
これ以上、自分の眠りを妨げる奴が現れては堪らないとばかりに・・・




「よっ、ファウゼン攻略の新の功労者にして、
 稀代の名参謀殿はどこにお急ぎですかな?」
「うっせ!」


「おいおい!それはないだろ?ちょっと待てよ」
「うっせ、ファルディオうっせ!!」


憂国騎士団m9(^Д^)プギャーの相手を盛大に無視して、目的地を目指す寝不足のクルトだったが、
不幸なことに相手の腕力が上で、逃げる途中に羽交い絞めにされて捕らえられてしまう。


「悪いな、お疲れのところを話につき合わせて」
「そう思うんだったら、首に回した腕を外して解放してくれ
 こっちはマジで寝不足で死にそうなんだよ。いい加減泣くぞ!」

「そうしたいのは山々何だが、外したら油断も隙もない参謀殿に逃げられてしまうからな」
「何が聞きたいんだ?探りあいする気力はもうねぇーよ」

ファルディオのすかした言葉遊びに付き合う体力も趣味も無かったクルトは本題を離せと促すと
祖国の行く末を強く憂いる第一小隊の隊長は、捕らえた掴み処の無い男が、
ガリアにとって益を成すか、害をもたらす男かを判別せんと、正規軍を囮に使うような真似をした理由を問いただす。
彼は親友のウェルキンほど人が好くは無く、
楽観的にクルトの独断専行とも言える行為が作戦の成功に繋がったと喜ぶ気にはなれなかったようだ。


「では、単刀直入に訊かせて貰う。上手く行く確証があって信号弾を撃ったのか?
 もし、俺達がエーゼルの破壊に失敗していたら、正規軍の主力の多くが失われ
 ガリアの命運が尽きたかもしれない。その可能性を知らずに撃ったとは言わせないぞ?」


ぎりぎりと締め付けが厳しくなる腕、下手な答えを、ガリアに害を為すような返答をすれば首をへし折られる。
そんな恐怖をクルトに感じさせるほどファルディオからは重く危うい空気が放たれていた。
それを敏感に感じ取ったクルトは渋々、ふざける事無く憂国の士に答えを与えた。


「どんな事でもやる前に確証はねぇーよ。それでもやらざるを得ない時がある。違うか?」
「そうだな。祖国を守るためなら、非常な選択をしなければならないときもある」

ファルディオの思いつめたような呟きに、内心で『祖国』ではなく『自分の命』だと修正を加えながら、その場を後にした男は、
多くの人からの呪縛から解放され、ようやく仮宿舎のベッドに辿り着き眠ることが出来た。




ファウゼンの長い夜は、義勇軍に属する多くの者達に色々なことを考えさせる一日になったようである。



 


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