<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.1501の一覧
[0] ヴァルチャー[ポンチ](2007/09/23 01:02)
[1] Re:ヴァルチャー[ポンチ](2007/09/24 01:22)
[2] Re[2]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/09/24 23:42)
[3] Re[3]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/09/26 01:56)
[4] Re[4]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/09/26 23:32)
[5] Re[5]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/09/27 18:55)
[6] Re[6]:ヴァルチャー[喫著無](2007/09/28 21:34)
[7] Re[7]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/09/29 17:17)
[8] Re[8]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/09/30 21:57)
[9] Re[9]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/10/02 23:27)
[10] Re[10]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/10/04 19:01)
[11] Re[11]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/10/05 23:41)
[12] Re[12]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/10/06 21:23)
[13] Re[13]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/10/08 00:21)
[14] 番外 ヤナギ[ポンチ](2010/06/08 00:04)
[15] 番外 ツバキ[ポンチ](2010/06/09 21:00)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[1501] Re[4]:ヴァルチャー
Name: ポンチ◆ebd5b07d ID:440294e0 前を表示する / 次を表示する
Date: 2007/09/26 23:32
 ロイス伯爵領は、牧草地と農林地で構成されたヨーロッパの片田舎のような土地である。
 住民は総じて豊かで、今までの街道にひしめいていた悪徳や猥雑さは感じられない。領主のロイス伯の評判も良いらしい。
 もしも、運命があるとしたら、これは必然だったのかもしれない。






第五話 分かってるさ






 ロイス伯の砦に通された後、お嬢様とアンジェラはロイス伯との歓談。ユウとアギラは十人以上の騎士に囲まれて待ちぼうけだ。
「やっぱり逃げとくべきだったんじゃない?」
「やるならもうやってるだろ。それに、ユウなら余裕だろ」
「んー、そうにもいかないかな」
 目線を向けているのは、取囲む騎士たちの背後。かなり離れているが、二人の豪勢な鎧を着装した男だ。
「手間取るかな。闘技場にいた連中より強いかも」
「優勝したんだろ?」
「タイマンならね、負けないけどさ。多分、これだけいたらヤバい」
 カザミから貰ったポーションはあるが、首を斬られたらどうにもならない。それに、元々狂戦士は攻撃をほとんど回避するというタイプだ。回避できない状況を作られると、途端に弱くなる。
「ゲームだとボスに有効だったけど、ここだとザコに有効みたい」
 実戦慣れした多数との戦いは、狂戦士には向かない。特に、跳びぬけた力を持つ者が多数でくると、勝てない。
「逃げるか。今ならザコだけで済むぞ」
 と、アギラが言った時、騎士の一人が一歩踏み出した。ユウが神速で剣の柄を握った。
「魔のお二人、我ら雷鳥の騎士団をザコとはどういうおつもりかっ」
 魔とは恐れ入る。しかし、大声でザコと連発したのは確かによくない。
「あー、こっちのことだから気にしないで。別にあなたたちのことを言った訳じゃないし」
「今更、ここまでコケにされては騎士の名折れである。お相手して頂きたい」
 騎士は、全身にまとった鎧に両手持ちの剣を握っていた。大層な筋力を持っているはずだ。
「ユウ、よせよ」
「でも、止まってくれそうにないし。あのー、木刀とかないの?」
 ユウの言葉がわざとだし気づくのに少し時間がかかった。どういうつもりだろう。わざと挑発して、不利になる要素しかないというのに。
「問答無用」
 じり、と剣を抜いた騎士がにじり寄った。
「雷鳥の騎士団が一人、ガファル・クーリウ」
「ユウです。どうぞよろしく」
 ユウが背中と腰の四本から、両手に二本を取った。今までよく見ていなかったが、ゲーム中最高に近いレアリティの『骨の剣』『ブレインイーター』である。骨の剣は重さのほとんどない攻撃回数の増える剣で、ブレインイーターは相手にステータスダウンを引き起こす装備だ。
 取囲む騎士たちが一斉に足踏みをして、何事か叫び始める。
『臆病者は剣の餌に、勝者は血の美酒を』
 歌のようにつむがれる大音響。
 大剣の一撃を回避したユウは、ガファルの股をくぐって背後に回りこむ。その直後、ガファルから放たれた蹴りにユウは宙を舞った。
 当たったかのように見えているが、ユウは蹴り足を支柱にして跳んだにすぎない。着地と同時に斬りこむ。
 ガファルの懐に入り込んだユウは、ガファルの鼻先に右手の剣を突きつけ、左手の剣は体験をにぎる両手の交差する所で止められている。
 歌が止んだ。
「負けだ。好きにしろ」
「そんなことしたら、あの怖い人が来るでしょ。それに、わざわざ敵にはならないよ」
 先に剣を落としたのはガファルだった。
 騎士たちは静まり返っている。
 アギラに近づいたユウは、他者には聞こえないように囁いた。
「あいつらの強さだったら、多分逃げられない。逃げても半分くらい死ぬ」
 それは、ユウが半分死ぬ、ということだ。
 睨みあい、というほどではないが、沈黙が場を支配した。
「いやはや、なかなかの見物だった。ガファルは三番目に腕の立つ男なんだがね」
 イベントを発生させた状況だ。ゲームと違って、安心できない。一寸先は闇。
 金髪にハンサムに豪華な鎧。それだけでそれなりに地位のある男だと見当がついた。
「ユウは我々の仲間の中でも相当の腕だ」
 アギラが、ユウが何か言う前に言った。これ以上、戦闘イベントは起こしたくない。殺すにしろ殺さないにしろ、良いことは何一つ無い。
「私は雷鳥の騎士団団長のジュリアン・イーグ・オーウエン。お相手願えるかね」
「残念だが、報酬を頂いたらどこかへ消える身の上だ。やめておこう」
「キミではなく、そちらのお嬢さんに聞いているのだがね」
 挑発に乗るなよ。
「あ、お嬢さんって言われたことないから、ちょっと嬉しいかも」
 ユウも気づいてくれたのか、誘いには乗るつもりはないようだ。
 空をぐるりと旋回する鳥の鳴き声が響いた。
「ま、そういうことだ。俺たちは、たまたまここに来ただけだ。すぐに立ち去る。金にならないことはやらんよ。特に、負ける可能性のあるヤツとはな」
 こっちにはプライドなんてものは無い。弱いことを認めた上で逃げているのだ、そろそろ勘弁しろ。
 ジュリアン団長は、肩をすくめて笑むと、背を向けた。
「ガファルの非礼は詫びよう。もうしばらくしたら、ロイス伯より返事もあるだろう」
 背を向けたまま言うようなことかよ。
「ヤバかったね、多分、彼に勝ってたらみんなで襲い掛かってきたよ」
 囁いたユウはふっと小さく息を吐き出していた。
 馴染んできている。恐怖感が薄れて、この世界に馴染んできた。半年で、自分があまりにも変化しているのに気づく。
 ユウはどう思っているのだろう。アギラは不思議で仕方ない。ここでの暮らしは確かに厳しい。だが、それだけでこの状況をどうして冷静に処理できる。この体のせいだろうか。
 アギラ、ユウ、二人とも人間とは言えない。アギラはそのままの意味で、ユウは人になしえない力を持つ。そして、ゲームの中の力。肉体が変われば心も変わるのかもしれない。
「ここに来たのは間違いだったかな」
 アギラのつぶやきに、ユウは小さく笑った。
「今更ってヤツでしょ。アギラさんは、変に人間にこだわってるからさあ。あたしは、最初から反対だったわよ?」
「今更だな、責めるなよ」
「分かってる。別にいいよ、一人じゃここにくるまでに自棄になってたと思うし」
 変な会話だな、と話している本人たちが思っていると、砦の奥から執事らしき初老の男が小姓を連れてやってきた。
「アギラ様、ユウ様、私はロイス伯の元で財務官をしておりますシキザと申します。こちらが、今回の報酬ということで」
「ありがと」
 ユウは差し出された皮袋を受け取って、中身を手に取る。
「貴金属の詰め合わせか。いいんじゃないか」
「そうだね。それじゃあ、ここからはすぐに出ていくから、安心してね」
 襲い掛かってくるだろうか。
 回れ右で砦の門に向かう。堀のある跳ね橋付きで、開けてくれない場合は全力で皆殺しを始めることになる。
「お待ちください。ロイス伯がお会いになります」
 シキザの言葉に、騎士たちも騒然となった。
「仕方ない」
 ユウは何も言わない。
 武器の預かりを断固として拒否したユウは、兜も外さず通されることになった。取り押さえる自信があるのか、それともよほどの大物なのか。
 返り血で汚れている鎧を井戸水で洗い、シキザの案内で砦の内部へ通される。
 今までは入り口、戦の場においては敵を迎え討つための広場にいたのだが、内部も戦を意識したちゃんとした砦である。ユウもアギラも、そのような知識が勝手に出てきたことを自然に受け止めていた。
 入り組んだ通路を抜けると、豪奢な謁見用のホールに通された。床は大理石、そこかしこに飾られたピカピカの鎧。嫌味にならない金持ちさだ。
 しばらく待たされていると、礼装の大柄な中年男と、ドレスに着替えたマルガレーテお嬢様がやってきた。荘厳な音楽がさぞ似あうことだろうが、残念なことに楽師はいなかった。
「俺が領主のゲイル・ロイス伯だ。マルガレーテ嬢の護衛はご苦労だった」
 灰色の髪と青い瞳の大男は、豪快に日焼けしていて、伯、というのがいかにも似合わない。それ以上に、どこの武人かと思うほどの見事な肉体である。
「狂戦士のユウです。お褒めに預かり恐縮です」
「異形のアギラ、ご機嫌麗しゅう」
 儀礼を知らない適当な挨拶は、恐らく凄まじい侮辱なのだが、ロイス伯は気に留めた様子もなく笑んでいる。
「宴をやろうかとも思ったが、ここに嬢がいるのは極秘でな。そうもできんのだ、ハハハ」
「護衛の仕事は果たしました」
 アギラの言葉に、ロイス伯は顎鬚を撫でて「むう」と唸った。
「喋る異形なんてのは初めて見たが、最近はそうなのか」
「いえ、俺だけでしょう」
 ユウは低く笑っている。伯爵は大物だ。人物眼に自信はないが、この態度からはそう思えた。
「それはそうと、うちのガファルを倒したらしいが、それを見込んで頼みたいことがあってなあ」
「直球ですね」とユウ。
「別に玉は投げてねーけどな」
 この世界では通じない言い回しのようだ。ユウもヘヘヘと笑っている。どこか通じるものがあったようだ。一方のアギラは、やめとけばよかった、と後悔していた。
「どうだ受けるか?」
「どうせ、受けなかったらみんなでぶっ殺しに来るんでしょ。そっちの財務官のおじさんも、かなり強いよね」
 にこやかに答えたユウの指先は、ピアノを弾くかのように蠢いている。
「まあ、こういうのも伯爵の仕事でな。どっちみち、受けるフリされたらそこまでの話だ」
「信用してるってこと?」
「いいや、素性の知れないどころか、化物に頼まないといけないくらいに追い詰められてんのさ」
 よく言う。伯爵閣下は、失敗した時のことも考えているはずだ。
「ユウ、いいのか?」
「飲むしかないでしょ。それに、多分この人は簡単には売らないと思う」
「伯爵閣下、我々を売る時は地の果てまで追い詰めますぞ」
 芝居だが、精一杯やってみた。それに、ユウは確実にそうする。
「南に馬で三週間、クシナダ侯爵家の所有するバロイ砦に捕らえられている第一王子を助け出してくれ。手段は問わん。お前らの仲間でも何でも使っていい。砦にはクシナダ家の腰巾着の代官クチナワがいる。そいつもぶっ殺せ」
「たった二人で砦を落としてこいって?」
「ああ、最悪王子だけでもいい。暗殺者ギルドと傭兵を雇うだけの金は用意してある。同行するのはシキザとガファル、それから何人か慣れたヤツをつける」
 なかなか面白い話だ。元々、その面子で山賊か何かのフリをして襲うつもりだったのだろう。そこに、のこのこやって来たのがアギラとユウ、渡りに船、とはいかないがそれなりの賭けであるのは間違いない。
「それともう一つ、多分、お前らと同じくらいの強さのヤツが守りを固めてる。旅の冒険者だとか名乗ってる変わり者らしいが、一人で騎士団と渡り合う化物だ。両手持ちの人間が使うとは思えない戦槌を使うそうだぜ」
 人間であったころなら震えていただろう。ユウも指の動きが止まっている。
「アギラさん、やろう。なんか、ちょっとは気づいてたんだけど、こんな感じで敵になっちゃうのは気づいてた」
「ユウ、……俺は反対だ」
「ダメだよ、みんな多分どこかに着く。だったら、覚悟しなきゃ」
 ユウは本気だ。今までも何度か話したことではある。どこかの権力者に取り付くのが一番安全な道だと。こんな複雑な内輪もめをしている所に着く気はなかったのだが、彼女が言うなら仕方ない。レベル45はプレイヤーとしてもトップだ。
「分かった、やろう」
「ハハハ、引き受けてくれてよかったぜ。マルガレーテの恩人とはやりたくなかったからな」
 よく言うぜ。






 マルガレーテお嬢様に幾度もお礼を言われて、シアリスとは違う神様の祈りを聞かされて、それなりに豪華な食事をとって、監視つきの客室に今はいる。
 鎧を脱いで、貴族風呂からあがったユウは、裸にガウン一枚で天蓋つきのベッドに腰掛けていた。
「リラックスしてるな」
「久しぶりのお風呂だったしね。女の子はそういうの気にするんだから」
「変なことになっちまったな」
 扇子に似たもので胸元に風を送るユウは、答えずに窓を開けた。空には星、月は日本と同じだが、星座は全く違う。
「綺麗だねー。こんなに綺麗な空なのに、地面は血とかでどろどろだね」
「日本だって似たようなもんだろ。報道されないだけで、サイッテーなのは隠れていっぱいあった」
「だよねぇ。ここの方が分かりやすいかも」
「そういえば、ユウの顔は本物か」
「あ、ああ、そっか、アギラさんその体だから知らないのね。うん、顔と体型はそのままだよ。モデル体型でしょ」
「うーん、まあ、いいんじゃないか」
「なによそれ」
 少し笑いあった。明るくしようと努めている訳ではないが、ユウの会話はいつも冗談混じりだ。相手に踏み込まない、傷つかない距離の会話。だけれど、お嬢様の護衛をしてから少しずつ、踏み込んでいる。
「アギラさん、あたしたちは仲間、いいよね」
「ああ、こんなクソッタレな世界だけどな、ユウと俺は仲間だ」
 言葉にして、裏切らない約束。
「……思いっきり裸なんだけど、なんかしないの?」
「この体になってから、そういうのは無いな。単一種っぽいし、多分メスもオスもないと思うぞ」
「触手プレイとかになると思ってたんだけど、ま、でもその方がいいかも。男とか女とか、なんかそういうのじゃない関係って初めてだし、友達よりは仲間かな」
「ああ、敵も強烈そうだしな」
「うん、大丈夫だよ。ゲームじゃないのも分かってる。あたしは、いつでもやれる」
「分かってるさ」
 残酷な世界で、勇者にはなれそうにない。臆病で狡猾で非道で、それでも明日が続くから、こうしている。




 シキザとガファル、それに忍者のような連中たちとの旅が始まった。
 三週間の旅は、ガファルがユウに稽古をせがむ所から始まった。ユウは快く受けてやり、初日はボロボロにされたガファルが、ヘルメットを外したユウに仰天する所から始まった。
 途中までは一緒だった忍者たちは先行して砦へ向かい、四人連れでの旅になった。
 アギラは主にシキザと話をすることが多くなっていた。
「ほう、では、潜入ではなく正面から行くというのですか?」
「ああ、俺たちは囮になる。途中で傭兵か山賊でも雇うが、王子様を助けるとか難しいことはあんたたちがやった方がいい」
「ふむ、確かに、その方がよいかもしれませんが、総勢七十名の青蛇の騎士団は弱くはありませんよ」
「俺が二十、ユウが三十倒す。あとは傭兵に任せるが、砦を攻めるのは初めてだ。囮と考えてくれた方がいい」
「大胆ですな。しかし、それでは傭兵が集まりませんよ」
「……それがあるか」
 シキザは、銀色の、生まれつき銀色の髪を撫でて、『はい』と答えた。
 忍者たちがならず者と暗殺者、傭兵を集めるとのことだが、それでも二十集まればよいところらしい。潜入に全力を込める、というのが確実な作戦だ。しかし、シキザは守りを固める冒険者のことを知らない。知っていたとして、ユウの戦いを直に見ていないと信じられまい。
 隠密に行動するため、二つほど前の宿場から、人のほとんど通らない山道を行くことになった。街道ができる前に、現地の猟師が使っていたという危険な道だ。
 蜥蜴山脈と呼ばれる一帯は、古来より亜人の住む土地であり、人間が生きるには難しい土地である。山を迂回する街道が整備されたのも、この山を越えるのを歴代の王が諦めたからに他ならない。
 キャンプの準備をしている時に、それは起こった。
 鉄と鉄のぶつかる音、それは戦いの音だ。
 ユウとアギラが駆け出す。山道を跳ねるようにして掻けるのは人間業ではない。ユウとアバラは邪神神殿の森でこの走り方を会得していた。これができないと、あの森では囲まれる。ユウは実戦で、アギラはバルガリエルから、それを教わっていた。
 走る二人の背中を身ながら、ガファルは「本格的に化物だな」とつぶやいていた。少女の形をした狂戦士と、異形。
「……不思議ですな、彼らはあれだけ血に飢えているというのに、高い知性と落ち着きのある性格をしています。何者なのでしょうか」
「さあ、味方だってことしか分からねぇ」
 今は、まだ。シキザは内心でため息を吐いた。考えていたよりも大きな賭けになりそうだ。




 蜥蜴人間、リザードマンのレド・ギは、荒い息をついて目前に迫る竜を見据えた。翼を持ち、何年かに一度やってくる竜の幼生は山にあるものを食い尽くす。その度に、飢えに苦しみ人間の住処へ略奪を行う必要に迫られる。
 リザードマンは、一部の国家を除いて人としては扱われない。人間に捕まれば奴隷にされるかくびり殺される。竜さえいなければ、数で勝る人間の住処などへ行かなくてもすむのだ。遠く南には、亜人の治める国があると聞く。それは、遠い夢でしかない。
 幼生の竜に知性は無い。蛇に羽のついた化物だ。山の全てを奪う化物、それは一部の人間の信仰するものとはまるで違っている。
「ここまで、か」
 リザードマンの集落、その中でも一番の戦士としての自覚はあったが、竜に挑むのは無謀だった。毒の息を吐きだし、大木をへし折り素早い竜を殲滅するのは無理があった。今年の竜は五匹、一匹は罠にかけて倒したが、残り四匹は倒せそうにない。
 村の者たちは、犠牲を出して略奪は行えても、竜を倒すことは諦めていた。
 蜥蜴山脈には、幾多の種族がいる。妖精族との盟約により、彼らは肥沃な大地から退けられたのだ。
 知性は人間と変わらないリザードマンは人間との交易を行うが、それ以外の種族、ガロル・オンと呼ばれる甲虫種族や、ゴブリンたち、保守的で人との接触を避けている。山は竜に蹂躙されるがままだ。
 槍を構えたまま、竜に向かうレドは深い絶望を感じていた。妖精により押し込められたここで一生を終えるのも、納得がいかない。
「終わり、だな」
 言葉にすると、絶望がより染み渡った。
「レッサードラゴンか、やるぞ」
「オッケー」
 その声が聞こえた次の瞬間、レドを今にも噛み殺さんとしていた竜の羽が切り落とされ、その額に何本もの黒い触手が突き刺さっていた。
 竜の叫びに、他の竜が集まってくる。
 黒い鎧の戦士は、跳ねるようにして竜に突っ込むと、倍はあろうかという竜の巨体を殴りつけ、もう一匹の邪神の使徒たるイーティングホラーが、触手で止めを刺していく。
 河の神に祈るのも忘れてレドは、その力を目の当たりにしていた。伝説にある戦士の、ありえない御伽噺がここに再現されていた。
「動きが大したことないな。これだとレベル25くらいの相手だろ」
「レッサードラゴンってそんなもんだったっけ?」
 死体採食、生命を吸い取ることで疲労を回復していくアギラは、竜はイマイチだな、と思っていたが、レドに気づいた。
「リザードマン、大丈夫か?」
「よ、寄るな」
「アハハ、アギラさんっていつもそういうキャラだよね」
「うるせーよ」
 気の抜けたやり取りの二人に、レドは混乱する。これは何者なのか、助かったのは確かだが、この化物はなんなのだろうか。
「ま、結果的には助けることになったけど、どうせあたしたちはここ通るから、それでやっただけ。だから、別に気にしないでいいよ」
「ま、そういうことだ。リザードマンと揉めるつもりはない」
「待ってくれ、竜を、あんたらは」
 レドは自分が何を言おうとしているか分からなかった。
「じゃあね、ここで会ったことは秘密にしといて」
 去っていく。
 彼らの後姿を眺めながら、レドは乾いた笑いを漏らしていた。
 ここで何かがある。あれは、ここで何かをするつもりだ。山はどんな影響を受ける、止められるはずがない。
 痛む体を起こして、村へと急ぐ。
 これを山に知らせないといけない。竜の脅威、山の麓で増殖を続ける人間の砦、そんなものが霞む変化が訪れるはずだ。




 危険な生物と幾度か戦うことはあったが、無事に一行は歩を進めていた。
 街道を先に行き、工作を進めている忍者たちに合流するころには、すぐにでも作戦を始められる手はずになっている。上手くいけばの話だ。
 合流地点で聞かされた報告は、絶望的なものだった。
 傭兵や山賊の類は、守りを固め重戦士に恐れをなして依頼を断ってきたのだという。
 作戦は頓挫した。
「シキザさん、どうするよ」
「どうしようもありませんね、撤退しましょう。王子は来月には王都へ送られて隠退を余儀なくされるでしょうし、見切り時ですかね」
 忍者たちの前で堂々と敗北を語るシキザに、ガファルが詰め寄るが、作戦が破綻したことに変わりはない。
「参考に聞きたいんだけど、その重戦士ってどんな力なのよ」
 忍者の一人がユウに答えた。
 大木をへし折り、大人五人分の重さの見たこともない鉄の鎧を着込み、その両手に持つ戦槌からは、炎が迸る。実際に目の当たりにして、その脅威は事実である、とのことだ。さらに、見たこともない一瞬で傷をふさいでしまう回復魔法まで使うという。
「ウオハンに重装で回復ってなったら、神聖僧兵かなあ」
「ああ、また相性最悪だぞ」
 推定するに、敵も廃プレイヤーだ。レベルは30以上と見ていい。僧兵が回復魔法を使うのは30からだ。
「二人がかりなら、多分いけるけど、殴り合いじゃヤバいかな。それに騎士団までいたら、無理無理、絶対無理」
 シキザはため息をついて、もう一つの事実を語った。
「どうにも、その重戦士のおかげで、近くの亜人を駆逐して砦の増強も行っているようです。当初の予定は通用しませんな」
「シキザさん、あんたも忍者だろ。忍び込むのは無理なのか」
「無理ですな。我々のような細作は、どこの砦にも配備されています。腕利きを集めたのですが、あれだけ規模が大きく王子までいるのでしたら、数の上で太刀打ちできません」
 引き返す他にあるまい。だが、これがラストチャンス。王子の移動には、王都の竜王騎士団とシアリス正教騎士団がつく。そうなれば、ロイス伯の手勢では如何ともし難い。
 ガファルは悪態をついて、近くの木を蹴った。
「動くな」
 突如として、幾多の気配が蠢いた。ユウとアギラにも気取らせず、彼らは突然に現れて、包囲したのである。
 無数の弓が向けられている。
「先日は世話になった。俺はリザードマンのレド・ギ。話がある。ついてきてくれ」
 アギラとユウは顔を見合わせて、どうするか思案した。
 弓を持つ者たちは、かぶと虫と人をかけあわせたような連中だ。土塗れということは、地中を這ってきたのだろう。二人なら逃げられるが、シキザたちだけでは圧倒的に不利だ。
「ふむ、良い返事しかできない状況ですな」
 ユウはいつでもやれると合図してきたが、リザードマンは武装しているが、どうにもまごついている。
「すまん、あんたらに勝てる気はしない。だが、頼む。あんたらの事情は、妖精族から聞いている。頼む、話だけだ」
 槍を捨てたのはレドだけだが、その必死さは伝わった。
「行くか、ここにいても事態は好転しない」
「ふむ、この状況ですし、責任はアギラ殿が取ってくれるようですし」
 勝手に言ったシキザによって、忍者たちも武器を納める。そして、ユウが柄から手を放したことで、ガファルも大剣を鞘に戻した。
「イベント発生だね」
「ユウ殿、たまにあなたたちはいべんととかむーびーとかいうが、どういう意味なのだ?」
 ガファルは怪訝な顔だ。彼も、大役を命ぜられる騎士だ。肝が据わっている。
「あー、ええと、魔界語、かな?」
「無茶言うなよ」
「ということで、そちらに着いていきましょう」
 シキザが執り成して、レドは安堵した。
 バロイ砦攻略戦はここから始まる。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.024909973144531