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No.1501の一覧
[0] ヴァルチャー[ポンチ](2007/09/23 01:02)
[1] Re:ヴァルチャー[ポンチ](2007/09/24 01:22)
[2] Re[2]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/09/24 23:42)
[3] Re[3]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/09/26 01:56)
[4] Re[4]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/09/26 23:32)
[5] Re[5]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/09/27 18:55)
[6] Re[6]:ヴァルチャー[喫著無](2007/09/28 21:34)
[7] Re[7]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/09/29 17:17)
[8] Re[8]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/09/30 21:57)
[9] Re[9]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/10/02 23:27)
[10] Re[10]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/10/04 19:01)
[11] Re[11]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/10/05 23:41)
[12] Re[12]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/10/06 21:23)
[13] Re[13]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/10/08 00:21)
[14] 番外 ヤナギ[ポンチ](2010/06/08 00:04)
[15] 番外 ツバキ[ポンチ](2010/06/09 21:00)
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[1501] Re[2]:ヴァルチャー
Name: ポンチ◆8393dc8d ID:440294e0 前を表示する / 次を表示する
Date: 2007/09/24 23:42
 ホドリ監獄は、劣悪な環境のために看守は存在しない。
 ぶち込まれたら、事実上の死刑だ。死体は勝手に中のモンスターが処理する、生きている者がいたとして、唯一の出入り口には鋼鉄の門で閉ざされている。
 行政府は、内部のことを何一つ理解していなかった。






第三話 悲惨だな






 カザミに案内されたのは、ここの『お頭』の部屋だった。
 部屋といっても、元はモルグだった場所だ。手製らしき家具の類は見えるが、お世辞にもよい部屋ではない。
 その部屋には、初老の男が待っていた。眼光は鋭く、未だ張りのある両手からは刺青が見えた。モンスターのものらしき毛皮の服を着ていた。
「お頭、僕の同類のアギラです」
 あれだけの騒ぎだ。もう耳に入っていたのだろう。老人は、小さく頷いてアギラを見つめた。
 コイツはヤクザだな、と直感で理解した。
 元々は営業職だ。こういったヤクザ者とも接触することが多く、その関係者の独特の雰囲気は知っていた。
「俺はボドリム・グレイ。ここを仕切ってる。食鬼よ、何をしに来たんだ?」
「狂戦士の噂を聞いてきました。こんな境遇ですから、一人でも同郷の者と会いたいと思いまして」
 ヤクザは嫌いだ。あいつらのルールに一度でも従えば、次もその次も連中のルールの中に囚われる。美味しい話もあるだろうが、あの連中がそんなものを一般人に投げるのは倍にして回収する前提があるからだ。
「ああ、カザミの言ってた別の世界ってヤツか。ま、アイツは役に立つからな」
「……」
 ここでどう答えるべきか。
 ここんら逃げ出しても行く場所はない。かといって、ヤクザの身内になろうとは思わない。
「問題は起こすなよ。あと、化物の狩りには出てもらうからな」
 話は唐突に終わった。
 お頭、グレイは手をしっしっと振る。それが合図で、カザミに促されて退出した。
 そこから、監獄の内部を案内してもらった。
 ゲームにはなかった設定。このホールは、数百年のホドリ監獄の歴史の中で、開拓してきたものらしく、危険な化物も滅多に近寄らない人間の領域。ホールの二つ下の階層には地下水脈、巨大な川が流れており、飲み水はここからとっている。そこから河伝いに東にいくと、未開拓、盗掘者ですら探索を断念した怪物の巣になっている。
 アギラはもう噂になっていたが、案外すんなりと受け入れられていた。皆犯罪者であり、この恐ろしい地下世界の住人であり、ここで生まれ育った者もいる、ここは一つの小さな世界だが、定期的に新入りが来ることからも保守的な場所ではないようだ。
「地下の大河、幻想的だろう?」
 カザミは、足元の小石を拾って投げた。水面で石が跳ねる。
「これからどうする気だ?」
「僕は、ここに残るつもりだよ。ここじゃ僕は医者も兼ねてるし、外にいるよりは遥かに安全だ。ここの暮らしは悪くないしね、キミはどうするんだい?」
「分からない。俺はどうしたらいいか、ここは平和なんだと思うが、俺は人に混じって暮らせるかどうかも分からない」
「冒険しようとは思わなかったのかい?」
「ハハ、必死だったしな。考えたこともなかった」
 イーティングホラーの気弱な笑い声に、カザミも苦笑した。
「最初の一ヶ月は楽しかったさ。でも、僕の『スキル』はあまりにこの世界の常識から外れたものだよ。材料を集めてフラスコに入れて、スキルを発動させただけで薬品を作る、これはもう化物だろ?」
 危機感が足りなかった、と言いたいのだろう。
「邪神の技だってなったのか?」
「当たり、正解だよ。あと、僕の戦闘スキルは鞭で取ってたしね、あんまり傭兵らしくもなかったし魔術師らしくもない。結果的には邪神の信徒さ」
「インディ・ジョーンズ好きだろ?」
「ハハ、分かるかい?」
 鞭で開拓者で学者みたいな立ち振る舞い、それしかないだろう。
「狂戦士と会わせてくれ」
「ま、いいけどね。お頭は、彼を最悪処分するつもりだ。変な気は起こさないでくれよ。ゲームに詳しいのは僕もなんだから」
 イーティングホラーの特性は分かっているということだろう。
 鞭は中距離に対して有効な武具だ。イーティングホラーも中距離攻撃はあるが、そこまで強力なものではない。鞭の劣化版と揶揄されていたほどだ。
「分かってるさ」
 人とは争いたくない。
 カザミは納得した様子で、独房にまで案内してくれた。
 屈強な男たちが、斧や剣で武装している。剣は地上で見たものと違って、装飾のついた見事なものだ。それなりの価値があるのではないかと思えた。
「ああ、武器はだいたい化物の持ってたものだからね、骨董だけどいい物なんだよ」
 地下迷宮で暮らすとなると、そういうことになるのだろう。カザミは歩きながら、日本で得ていた知識から、ゆくゆくは鉄を作ったりしたいと話した。ここに来て二ヶ月ほどだが、すでに濾過器や造酒を試しているのだという。元の職業が気になったが、なんとなく尋ねるのもはばかられた。
 ならず者たちの作った牢はごく簡素なものだった。
 狂戦士は一番奥にいた。
「これはまた、酷いな」
「見せたくはなかったね」
 鎧を剥ぎ取られたせいで全裸、全身を鎖で縛られた少女だった。多分、中学生か高校生。そのくらいの年齢だ。
「お前は犯したのか?」
「いや、やってないよ。素手で岩をぶち破る化物に突っ込む勇気のあるヤツはいなかったっていうのが正解だし、僕個人はそういうのは好きじゃない」
 狂戦士の少女から返答は無い。
「いやはや、女の子って気づいたのは鎧をはいでからでね。暴れられたら、あの鎖も意味なさそうだし、お頭のストップが入ったのさ」
 手負いの獣、最期の大暴れ、できれば利用したいというのに、使えなくなったあげくに人死には避けたかったのだろう。
「ひどい目にあったみたいだな」
「いや、僕の作った薬で意識はトバしてる。若者風に言ったらパキらせてるってとこだよ。覚醒したら暴れるかもしれない。僕だけじゃ止められない。キミが来てくれたんだ、一度覚醒させてみようと思ってるんだけど」
「ああ、今からやるか」
「いいのかい?」
「ステダウンアイテム使える状況だろ? 33と35レベルなら、40以上のヤツでも取り押さえられるさ」
 多分。
 どのみち、仲間は必要だ。それに、力があって困る場所ではない。カザミも気づいているようだが、この世界でものを言うのは力だ。狂戦士は、力はあるが子供だった。
「鞭と格闘技能を取ってるから、なんとかなりそうだよ」
「……技能は、実際の経験がなくても有効なんだな?」
 と、確認した。アギラの場合は肉体が特殊で確かめようがなかった。カザミは笑みと共に頷く。
 カザミが薬品を狂戦士の口に流し込んだ。
「かっ、はっ、ここは」
「キミが大暴れしたホドリ監獄だよ」




 結果的に言えば、ひどく疲れるものだった。
 少女の細腕には、狂戦士の技能が宿っている。素手で放たれた格闘技能は、カザミのものでは太刀打ちできないレベルだった。
 アギラの、イーティングホラーの触手技能で、拘束したが、それを振り払うだけの力が狂戦士には存在した。カザミの放った麻痺薬でも、動きが少し鈍っただけだ。しかし、そこでようやく拘束できた。
「お前を裸にしたのは『防具』と『武器』があったらお前に俺たちが殺されるからだ。俺たちもヴァルチャー・オンラインでここに来た日本人だ。知ってるだろ、俺は特殊クラス異形だ。攻略サイトにも投稿してた」
「ぼ、僕は開拓者だ。携帯電話、読売新聞、阪神優勝、細木和子、な、分かってくれ」
 顔面を盛大に腫らせたカザミも説得に参加する。
「分かったから、服と、それと触らないで」
「放すから暴れるなよっ」
 カザミはまだ薬品を構えたままだが、触手を放して人型を取った。
 狂戦士は、黒髪ショートカット、長身の少女だ。胸はあまりない。バレー選手のような体型。アギラは、女の裸なのに何も感じないのを不思議に思ったが、この肉体になってから性欲の衝動とは無縁であったことに気づいた。
「とりあえず、それを使ってくれ」
 毛布と呼ぶには難のあるボロを投げたカザミは、服を取りに外に出た。
「俺は伊藤明、キャラネームはアギラ。そっちは?」
「あ、あたしは河野由宇、ユウってキャラ名だった。狂戦士でレベルは45」
 廃ゲーマーだ。レベルだけで分かる。
「さっきのアイツはカザミだ。日本人。なんでここに来たか、メシの後で教えてくれ」
「あ、うん。異形クラスって珍しいね」
「今は後悔してるけどな」
 会話は途切れた。
 カザミが服を持ってきて、それからお頭の所に向かった。何かあるかと思ったが、お頭は『暴れるな』と言っただけだった。
 カザミの用意した食事は、ここらで取れる亀の化物の肉とキノコ、あとは果実種のようなものだった。
「生水は危ないから、今お湯を沸かしてる。酒は口にあうなら飲んでくれていいよ」
 食べることはできるが、生でないとイーティングホラーの栄養にはならない。それは伏せて、今は食事をすることになった。
 地下大河のほとりで、焚き火を囲んでいる。
 ぽつりぽつりと、狂戦士ユウは語り始めた。
「レアアイテム狙いで、邪神神殿の近くにいったんだけど」
 アギラとカザミに同じく、突然ゲームの世界にいた。狂戦士の力と装備はそのままで、最初は混乱したが、敵を倒すのは問題なかった。それから、森で侯爵家令嬢のマリー・ミリュ・クシナダと出会って、なんとか森の外まで逃げ延びる。実際、食べ物がなく、行き倒れる寸前に火種や飲料水を持ったマリーと出会って助かったのだそうだ。
 ユウは食べ物を得て、マリーは護衛を得て、森を抜けてからはお礼をするということでハジュラまで来たのだが、待っていたのは闘技場に売り飛ばされるという悲劇だった。
「後で知ったんだけどさ、マリーの婚約者が売ったんだって。侯爵家と騎士の名誉が傷つくからって、化物みたいなアタシはいらないってさ。それに、クシナダ侯爵家は借金塗れで化物を倒しにいったって話だし、そんなに恨んでなかったかな」
 アギラとカザミは『俺なら恨むな』と思ったが口には出さなかった。
「でも、闘技場も悪くなかったかな。人、殺して最初怖かったけど、三ヶ月で色々、なんか理解したから」
 ユウの話は闘技場の所が一番長かった。自分を買ったヤクザ者のドラムは、若くして一家を束ねる組長で、人殺しで眠れなくなった時に手を握って眠ってくれただとか、『ヤクザの女』になっていく過程の話が聞けた。うんざりだ。
「優勝したのはよかったけどさ、クシナダさんの婚約者、名前は知らないけど、あいつにここに落とされたの。ドラムにも売られちゃったみたい」
 笑顔で言ってから、ユウは泣いた。
 アギラもカザミも、何も言わなかった。いい感じに焼きあがった亀を切り分けたカザミは、土器の皿に盛ってユウに差し出す。
 泣きながら、ユウは食べた。
 一時間近く嗚咽と咀嚼を聞いて、酒を飲ませて、眠った少女を独房に運んだ。レイプの心配があるということで、カザミと交代で見張ることになった。
「悲惨だな」
「ああ、この世界じゃ恵まれてるんだろうけどね」
「いや、悲惨だろ」
「そうだね」
 下手に手を差し伸べられて、裏切られて、ユウはそれでも泣いただけだ。強いな、女の子は。




 狂戦士のユウは、最初こそ恐れられたが、数日で馴染んだ。
 男たちと共に力作業で漁に加わり、危険な生物を狩りにいくのにも率先して加わった。ユウはごく普通の少女ではなかった。
 今までは毛皮の取れる化物は強くてなかなか狩れなかった。それが、ユウが加入して楽に狩れるようになったのだ。住人たちは、その『利益』で彼らを迎えた。
 日本での生活について少しだけ聞いたが、彼女は中学を卒業してからすぐに働いていたそうだ。何をしていたかは聞かなかったが、相当危険なこともしていたようだ。生活のために朝から働いて、売春をする少女。ヴァルチャー・オンラインの金はどこから出たのか、ママが再婚してさ、と笑って言っていた。それから、素性なんて尋ねるのはやめた。
 ユウは強かった。
 アギラも馴染んできた。ユウとアギラで化物を打ち倒し、カザミは医者と様々な技術の仕事。カザミは、大学院で科学の研究をしていたという。営業職の普通のオッサン、というのは気恥ずかしかったが、そうとしか答えられなかった。
 気がつけば二ヶ月が経っていた。
 荒くれ者たちも、ここでは荒くれる必要が無い。新入りは粗暴だが、彼らも人間らしい暮らしに慣れていく。どうせ、外には出られないのだ。
「お頭、あたし、外に出たい」
 と、ユウが言ったのは、冬を迎えるのに充分な狩りを終えた後のことだった。
「……どうやって出る。あの崖を登るのか?」
「うん、できるよ」
 ユウの身体能力なら可能だ。
「俺も出ることにする」
 アギラは反射的にそう言っていた。理由があった訳ではない。ただ、ここで暮らす毎日にどこか閉塞感を感じていた。
「そうか」
 お頭グレイが突如として繰り出したナイフを、ユウが白刃取で受け止め、アギラがその触手を喉に絡める。
「ま、お前らは強いからな。それもできるだろ。出るには、まだたりねえ。毛皮を今日の十倍集めろ。それだけありゃ、しばらくは大丈夫だ」
 グレイは頭のいいお頭だ。自由を手にすることにそれ以上の条件はつけなかった。それから、何度かやっかみで襲われたが、カザミの助力もあって、二週間ほどで毛皮を無事に集めることができた。
 出発の前日、最初の日と同じように、三人で焚き火を囲んだ。
「僕は、ここに残るよ」
 予想通りの返答で、カザミは炎を見つめた。
「うん、なんとなく分かってた」
 パチリ、と薪が燃えた。地下の大河から流れてくる流木は、回収されて薪として利用されている。あとは動物のフンだ。この匂いにも慣れた。
「カザミさん、元気でな」
「ああ、忘れないよ。また会いにきてくれ。その時は、お土産も忘れずにね」
 あの日食べた亀と、酒。カザミの酒造りも、最近は好調で住民たちも喜んでいた。
「あのね、ありがとう。会えてよかったよ。あたしさ、カザミさんとアギラさんと、ヴァルチャーと会えて本当助かった。だって、独りじゃないって」
 そこから先、ユウは泣いた。最初と同じだ。
 その後、仲良くなっていた住民たちと騒いだ。
 翌日、お頭から剣と鎧を返してもらったユウは、二ヶ月ぶりに狂戦士の姿に戻っていた。
「なるほど、それじゃあ女には見えないな」
 体に張り付くような漆黒の鎧、ボディスーツに鱗をつけたようなそれに、腰と背中に装着した四本の剣、兜は特撮ヒーローを連想させる兜。スモークのバイザーは相貌を見せない。
「行こっか」
「ああ」
 目的は何も話し合っていない。どこかで道を違えるかもしれない。
 日の当たる、絶望的な高さの大穴。
 見送りはカザミとお頭と、あと数人。外に出る、というのを直視しようとする囚人はほとんどいなかった。
 鍵爪付きの篭手と驚異的な跳躍力で、ユウは壁を登っていく。
 アギラは、触手を伸ばして、時にユウを助け、時にはユウに放り投げられながら上を目指す。
 カザミは、彼らが登りきるまでそれを見送っていた。
「僕は、ここに落ち着くよ。冒険なんてできない。でも、キミたちに会えた幸運に祈るよ、アギラとユウの行く末が良いものでありますように」


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