<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.1501の一覧
[0] ヴァルチャー[ポンチ](2007/09/23 01:02)
[1] Re:ヴァルチャー[ポンチ](2007/09/24 01:22)
[2] Re[2]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/09/24 23:42)
[3] Re[3]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/09/26 01:56)
[4] Re[4]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/09/26 23:32)
[5] Re[5]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/09/27 18:55)
[6] Re[6]:ヴァルチャー[喫著無](2007/09/28 21:34)
[7] Re[7]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/09/29 17:17)
[8] Re[8]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/09/30 21:57)
[9] Re[9]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/10/02 23:27)
[10] Re[10]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/10/04 19:01)
[11] Re[11]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/10/05 23:41)
[12] Re[12]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/10/06 21:23)
[13] Re[13]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/10/08 00:21)
[14] 番外 ヤナギ[ポンチ](2010/06/08 00:04)
[15] 番外 ツバキ[ポンチ](2010/06/09 21:00)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[1501] 番外 ヤナギ
Name: ポンチ◆ebd5b07d ID:b3ff8fb2 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/06/08 00:04
ヴァルチャー 

ヤナギ


 中世の町並み。切妻駒方屋根の立ち並ぶ薄暗い通りには悪臭があった。
 あれだけ華やいでいた独都市カダスには暗い陰が満ちていた。
 高レベル域ユーザー向けの有料追加サービスパックを購入しなければ侵入が許されない、新たな冒険の地、であるはずの場所。
 ヴァルチャーに入り込んで、一年以上が過ぎる。
 この新たな街に入れた者は少数だ。
 事情は至極簡単な話で、専用の筐体の導入されたヴァルチャーを楽しめるアミューズメントパークは数が限られていて、さらに最新のサービス環境が導入されていたのは東京と大阪の一分の店舗に限られていた。
 ヤナギは陰の中を進む。
 一年間で、ヴァルチャーの大半はカダスから消えた。死んだ者もいれば、カダスから逃げ延びた者もいた。
 三種のエルフと地の底から這い出したネズリルとの争いは未だ続いている。ゲームの設定ではどうだっただろう。カダスのサービスが始まった初日にこんな場所に来てしまった。よく思い出せないし、新たなホームポイントとしてしか認識していなかった。
 筐体に乗り込んで数分でここにいたのだから、仕方ない。
 レンガ造りの都市の闇を進む。街の警備兵はネズリル避けの護符と香を焚きながら巡回しているが、それではネズリルに避けて下さいとお願いしているようなものだ。
 警備兵とかちあっては仕事が立ち行かない。
 誰にも見られず、誰にも悟られず、それが今の仕事だ。
 ヤマギはレベル32の隠密だ。
 隠密は上級職の中でもレアに分類される職業クラスだ。上級職に至るには幾つかの条件があるらしいが、曖昧な予想の域を出ないものだ。ただ一つ言えるのは、隠密になれるのはコアなFPSユーザーとしてのプレイスタイルが必要なことだ。
 初期の職業クラスは狩人であった。弓、吹き矢、短弓、長弓を扱えて忍び足と気配遮断が行なえる。相手に気づかれずに攻撃を行なえれば絶大なクリティカルダメージを与えられる。その反面、金属の鎧は装備できない。あらゆるダメージ耐性が存在しない。何度も何度も死んだものだ。
 ヤナギは元々FPSゲーマーとしてヴァルチャーに参加したクチである。FPS組とはパーティープレイも行なったが、最終的にはいつも対戦になっていた。そういうことから、一般ゲーマーからはFPS組は蛇蝎のごとく嫌われた。敵を倒しおえたら対戦しようぜと言ってパーティーから外れて攻撃してくるのだから、一般のゲーマーには対戦の楽しさは理解できまい。
 ヤナギはソロプレイで慎重に敵地を進み。毒矢、吹き矢、ナイフでのサイレントキルに達成感を覚えるままにゲームを続けた。結果として、イベンドが起こり隠密にクラスを変更したのである。
 常時気配遮断、常時無音歩行、上級運動技術、隠密基本技能。
 この四つのスキルにより、ソロでの便利さが増した。別の言葉で言えば、突然ゲームがぬるくなった。
 コアFPSプレイヤーにとっては満足できないほどに簡単なゲームになってしまったのだ。HALOシリーズから始まり、コンシューマーのFPSでは神業のような狙撃を行なう外国人プレイヤーたちとしのぎを削っていたのだ。ヤナギにとって、パラメーターアップによるさらなるダメージの増加もゲームを温くする要因でしかなかった。しかし、この筐体によるゲームになれた今となってはただのFPSでは満足できない。
 ヤナギのたどり着いた境地は、低レベルのまま危険地帯に突入することだった。見つかって攻撃を一度でも食らったら終了。
 歯応えがあった。
 楽しかった、あのころは。
 ヤナギは前方から漂う強い悪臭に、吹き矢を取り出した。
 レベル差10以上の敵対NPC殺害によって得たレアアイテムである。邪神の加護を得た神官を殺害した時の戦利品であった。
『無限の毒』という名のついたユニーク吹き矢。霊体を含む全てに有効な毒が付加される吹き矢である。一発命中させて逃げ回っていれば、相手はいつか死ぬ。そんな素敵なレアアイテムだ。
 さて、あの臭いヤツは何者か。
 隠密基本技能の中に含まれる『夜目』によって、暗がりの相手を視認できる。
 湯気の立つ新鮮な死体を咀嚼しているのは下水道から昇ってきたと思しきネズリルだ。灰色の体をした人のシルエットを持つ怪物。ごつごつした外皮と口吻を持つ地底人。残念ながら、人や地上の種族を憎悪している。
 この世界で分かっていることは幾つかある。この吹き矢というのはなかなか難しい武器だ。首や背中、頭に当てるか鎧の継ぎ目を狙う必要がある矢玉はゲームのように的に当たっただけでダメージを与えてくれるものではない。
 頭を覆い隠すマスクと一体になったスコープゴーグルを目の位置に下げた。自在に、スコープは倍率を変える。ゲームで手に入れたアイテムはこの世界の常識の外にある。
 エルフの女、すこぶる美女の腸をネズリルは食らっている。
 死体を見てもなんとも思わない、というのは嘘だ。
 人皮のコート、天狗眼鏡、人皮の鎧、暗殺者の靴、防疫修道会の帽子、NPC殺害ボーナスにより得た装備だ。
 人皮シリーズは、人間の顔の皮を剥ぎ取って作られている。当然、こんな狂気じみたものを造るのは悪党で、悪党NPCを倒して手に入れた。他も似たようなもので、明らかな悪党を倒して集まった見た目が凶悪な装備であった。
 そろりそろりとネズリルに近づいてゆく。わたしは風、夜気に溶け込め。
 ネズリルの五メートルほど手前で吹き矢を吹いた。この一年間で何度も殺してきたネズリルの急所は熟知している。後頭部、丁度眉間の裏側にやつ等の神経が集まる所がある。
 突き刺さった。
 ネズリルは激痛に悲鳴を上げた。ここに撃ちこめば、数秒で奴等は酩酊に襲われる。ヤナギを見つけたネズリルはおどりかかろうとしてこけた。
 こけたネズリルの後頭部に右手に持ったナイフを差し込む。『毒婦の牙』、これが何度もヤナギを救ってきたナイフである。
 ネズリルはあっけなく、どこか安らかに動かなくなった。
 一日の疲労が癒えていく。
 毒婦の牙は、ゲーム的にはライフを吸収するナイフである。スニークアタック、もしくは睡眠や倒れ伏している相手に対してクリティカルかそれ以上のダメージを与える隠密専用アイテム。
 余計な手間をくった。
 目的の屋敷まであと少しだ。


 奴が来る。
 ハイエルフ、都市を造るエルフであるラシャン・ドゥーリは怯えていた。
 一年前のことだ。ダークエルフとの抗争をいつか分からない昔から続けているカダスに異形の人間が現れた。彼らはヴァルチャーと名乗り、この街の治安に貢献した。そして、ある者は去り、ある者は王宮に上がり、そしてある者は謀殺された。
 術神の託宣によれば、彼らは世界そのものに対しての何らかの因子であるというが、それらをどうするかは神々も決めていないという。
 エルフの住まう北の大地にも人間は少なくない。しかし、独立都市カダスを含めてエルフやドワーフといった種族は同族以外には決して心を許さない。それは、肌の色の違いで対立するダークエルフと、森で原始的な生活を続けるウッドエルフ、そして都市と規律を造り上げたハイエルフ、その三者が軋轢を抱えていることからも明らかだ。
 ラシャンはハイエルフの中でも高い位置にいる、人間風に言えば貴族である。彼の仕事はとても単純で、規律を破る存在を狩ることだ。
 ダークエルフ、ネズリル、そして忌まわしいハーフエルフ。
 ラシャンはやり過ぎた。
 ハーフエルフとダークエルフを殺しすぎた。
 自身に暗殺者が放たれるのは初めてのことではない。彼の屋敷に常駐する異端狩りの戦士たちは今まで一度も暗殺者を逃したことはない。だからこそ彼は生きている。
 自分の正しさを信じているからこそ、今までと゜のような脅しにも屈しなかった。一年前に現れたヴァルチャーの一人、一年足らずでカダスの聖女などと呼ばれた英雄気取りのあの女の信者共も彼には手を出せなかった。
 忌々しいあの女は竜と共に現れた銃士と共につい数日前にカダスを去ったというのに、ラシャンはまたしても危機に瀕していた。
「なぜだ。なぜ私に向けてアレが放たれる」
 人の皮を剥ぐのが趣味だという怪物。カダスの聖女とも敵対していたと聞く、噂だけが先行する暗殺者。市民の間では悪党だけを殺すといって英雄扱いされている怪物。
 長い嘴のようなものがついたマスクに飛び出した鉄の瞳、悪党から剥いだ皮を身にまとう影の戦士。そんなものがいる訳がない、というのは表向きの話だ。
 奴隷商が殺された現場にいた奴隷は、震えながらソレのことを話した。自分自身を救った怪物のことを恐怖に震えて語ったのだ。
「私は職務に忠実なだけだというのに」
 だからこそ、ヤツが本当に存在しているということも知っている。あの奴隷商人は相当厳重な守りの中にいた。それをどうやって始末したのか、いや、あの奴隷の言葉から多少のことは分かっている。
 音もなく動く。
 三階の窓から飛び降りて何の苦もなく着地した。
「いや、考えすぎだ」
 あの奴隷商は奴隷の女と性交渉を行なっていたために無防備だっただけだ。ラシャンはそんなヘマはしない。奴隷にしても恐怖で錯乱してありもしないものを見ただけだ。
妻と子供は実家に帰した。そして、今も護衛が三人ついている。
 エルフというのは特別な種族だ。ありとあらゆる人以外の種の中で、最も神秘的な能力を有している。それは予知や機械技術や夜目が効くこと、そういった類でしかないが、不幸なことにラシャンは死の予感を感じ取っている。
 濃厚な死の気配だ。
 ネズリル共が現れた前年にも感じた予感よりも、もっと強い。この屋敷が今では地獄の一部になってしまったかのような錯覚すら覚える。
 三人の護衛は一騎当千の異端狩りだ。なのに、それの侵入に誰も気づけなかった。




 毒婦の牙、はヴァルチャーオンラインではあまり多くない専用アイテムだ。
 隠密以外に装備できない。なぜなら、隠密という特殊な上級職に就くにはあるクエストが必要だ。ランダムクエストと同じような扱いだが、『変容の毒婦の足取り』『変容の毒婦の追跡』『変容の毒婦の討伐』この三つの最終は当然討伐である。
 変容の毒婦は老婆の姿をした怪物だ。プレイヤーの被ダメージをそのまま吸収して回復する。変容の毒婦を倒すにはクリティカルで一撃で倒すか、多勢で攻めて回復が追いつかないダメージを与えるしかない。
 変容の毒婦を倒せば隠密へと転職できるのだが、これは一つのフラグだ。それは、ヤナギも知らないことの一つだ。上級職である隠密、さらにその先が何ヶ月か後に追加される予定であった。
 他の上級職にもフラグとして与えられたアイテムがある。狂戦士には兜と剣を、銃士には帽子と靴が、そして隠密にはナイフがあった。
 数ヶ月先には、隠密であれば一つの選択があるはずだった。変容のナイフの使用回数と所持の有無。ナイフの未使用なら、追跡者に。そして、使用し続けていれば。




 二人が同時に倒れた。
 一人は頚動脈を掻き切られ、もう一人は顔をかきむしっていた。
 悪魔がいた。
 人から剥いだ皮の外套と、人の皮でできた鎧。音もなくそこに現れた。
 残った護衛はこの状況でも鬨の声を上げて悪魔に長剣で突撃した。悪魔は声も音もなくナイフを腰だめにかまえて護衛に突進する。
 悪魔の腹に剣が深々と突き刺さった。あっけないほどに、深々と、下腹部を貫いて背中にその切っ先が貫通している。
「やったぞ」
 と、護衛が言うが、悪魔は死んでいない。ナイフを護衛の肩口に突き立てていた。護衛は剣を放して悪魔を蹴り付けた。手応えはあったのだ。あれは、最後の悪あがきにすぎない。
「は、はは、これが悪魔か。口ほどにも無いではないか」
 ラシャンは放心したようにしながら、言った。笑いの衝動がある。
「化物め、内臓をかき回したというのに動きおった」
 エルフの剣士は兜を外して額の汗を手の甲で拭った。
「悪いが、薬師を呼んでくれないか。毒でもあればコトだ」
 びりびりと傷口が痺れている。護衛はちらりと倒れた仲間を見やった。一人は喉の裂傷でもう死んでいて、もう一人は毒にやられたのか痙攣している。長くは持つまい。
 安堵しきったラシャンは「ああ」と上の空でテーブルのワインを取った。頼もしい護衛と身の安全の祝いに二つのグラスに赤いそれを注ぐ。
「気付けだ。一杯やりたまえ」
 護衛は不機嫌な様子でグラスを無視してボトルを取った。傷口にかけてから、ラッパ飲みにする。大きく息をついてから、口を開いた。
「あんなものに狙われるとは、お前との契約はこれまでだ」
「おいおい、何をこんなとき、に……」
 驚いたような顔で、護衛は致命傷を追っていた。
 背後からあの悪魔が忍び寄って、護衛の顔に腕を巻きつけるようにして口をふさぎ、それと同時に喉元を切り裂いていたのだ。
「あ、あああ」
 悪魔は護衛の口を閉じさせて悲鳴を上げさせない。
 護衛の崩れ落ちる音と共に、足の硬直していたラシャンの首下に小さな矢が突き刺さっていた。それは、子供やウッドエルフの使う吹き矢の矢玉であった。
「うわっ、ああ、助けてくれ。金はいくらでも、なんでもするから、頼む」
 悪魔は腹から剣を無造作に引き抜いた。どくどくと血が流れ出るのに、しっかりとした足取りで最初に倒れた護衛に向かう。ラシャンなど眼中に無い様子だ。
 びくびくと痙攣している瀕死の護衛に、何度もナイフを突き刺している。念入りに胴を何度も何度も突き刺した後に、喉を深く切り裂いていた。
 ラシャンを無視して、悪魔は死体に興味をなくすと窓に向かった。ここは屋敷の二階である。
 気づかなければ、ラシャンは幸せな時間を過ごせた。しかし、エルフ特有の勘がそれに気づいてしまった。
 あの深く剣の突き刺さっていた腹から、血が止まっていた。さっきまでは確かに血が流れ出ていた。なのに、今はあれほど激しく流れて出ていた血が止まっていた。ぽたりと、あの恐ろしい鎧に付着していたものが垂れるだけだ。
 悪魔は思い出したかのように、外套のポケットから丸められた羊皮紙を取りだした。テーブルに叩きつけるようにして置くと、窓を割って外に飛び降りた。
 今度こそ放心したラシャンはソファに座り込んで、宙を見つめた。
 しばらくしてようやく分かった。
 俺は生きている。
「は、はははは、生きてるぞ。脅しのつもりだったか、ははは悪魔など使ってははは」
 ワインを、既にこときれた護衛がやっていたようにボトルをつかんでそのままに飲む。そうしてから、悪魔の置いていった羊皮紙を手に取った。
「脅しか、ははは。いいぞ、なんでも払ってやるさ。もういい、こんな仕事も辞めてやる」
 封を開いてラシャンは固まった。
 なんでこんなことに。
 震える手が、肩口の小さな傷を探った。それから、使用人を呼ぶためのベルを、癇癪をおこした子供のように激しく振った。
「誰か、誰かあるかっ。薬師だっ、最高の薬師をっ」
 羊皮紙には短い言葉があった。
『生き腐れろ』
 無限の毒は解毒できない。小さな傷に撃ちこまれた毒ははやがて全身をむしばむだろう。



 傷は完全にふさがった訳ではない。
 ヤナギは気配を消して夜の闇を進む。
 腹が痛む。
 毒婦の牙は、命を吸い取るのだ。あの無限の毒で死にかけた護衛では腹にぶちこまれた剣の傷を癒すにはいいさか足りない。
 ネズリルが帰りにいれば助かったのに、と想像すると口元に笑みが浮いた。そんな都合のいい幸運は、こちらにきてから一度も無い。今の気分に一番よく似ているのは、財布の有り金を出もしないパチンコ代に流し込んだ時のそれだ。
 一年前から異常に慎重な性格で残していたゲーム内の回復薬は使えるだろうか。賞味期限なんて設定されていないはずだ。
「ふふ、あははは」
 闇の中で不意に笑ってしまった。
 毒婦の牙、これに支えられて生きている。
 いつまで続くのだろう。
 失うものをどんどん失くしている。もう命くらいしか残っていない。
 隠れ家までもう少し。今度の仕事の報酬はどれくらいだろう。どうせピンハネされて手元に入るのは少しだけだ。
 どれくらい人間をやめてしまったのだろう。
 もう見たくない。
 今まで数え切れない傷を受けている。えぐられた皮膚は、ぼこりと盛り上がっている。ある部分は灰色に、ある部分はエルフの戦士の発達した筋肉で、ある部分は犬の毛が生えていて、ある部分はたおやかな貴婦人のようになめらかで、ある部分は老人のようにしわがれている。
 毒婦の牙、変容の毒婦という怪物は『変容』という種族のユニークモンスターである。
 毒婦の牙は、生命を吸い取り置き換える。
 ヤナギの全身は、今では命を奪った者たちのモザイクだ。
 スコープを額に上げて、石造りの街に浮かぶ月を見上げた。
 月明かりに、ヤナギの瞳がきらりきらりと輝く。
 いつだったか。目をえぐられた。だから、その後で野良猫の目を毒婦の牙でえぐった。
 左目は猫の瞳に置き換わった。
 ヤナギは生きるために変容を続けている。
 浅い眠りから目が覚めても、あのアパートには戻れない。


気が向いたのでささっと書いてみました。
続きがあるかは未定です。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.023060083389282