「ここは何処なのかしら?」
暗くて、音もなくて、寂しい場所。
何故、自分がこんな場所にいるのだろうか?
「フレア? ジーク? ハーゲン? 何処に居るの?」
辺りを見渡して声を出してみる。だけれど、その返事を返してくれる相手は何処にも居なかった。視界いっぱいに広がるのは何もない、黒く染まった景色だけ。その中に浮いているような感覚で、私は存在していた。
「……寒い」
まるで全身を氷付けにされたかのような感覚が、全身を覆っている。
寒い、心も身体も寒かった。
自分一人しか居ない世界で、誰も助けなどない世界で、私は孤独なまま消えてしまうのだろうか? そんな考えさえ浮かんでしまう。
自分で自分の体を抱きしめ、今こうしている恐怖に怯える自分をどうにかしようとするけれど、弱い私はそれ以上にどうすれば良いのかが解らなかった。
「……ダ」
ふと、蹲っていた私の耳に声が聞こえてくる。
それは聞いたことがある、最近になって聞いた声だった。
「誰?」
声の主を探すように、私は視線を周囲へと向けたけれど、でも視界に入るのは変わらずに黒い世界だけだった。
聞き間違い? そう思った。でも
「ヒ…ダ」
間違いない。やっぱり声が聞こえる。
もしかしたら、私の名前を呼んでいるのだろうか?
……この声は誰だっただろう? この声の主はいったい誰だっただのだろうか?
声の主を、声の聞こえた方向を探そうと、私は頻りに首を動かして辺りを見渡すようにしてみる。何処に? いったい何処に? 理解の出来ない場所にいるからだろうか? 私は自分でもハッキリと分かるほどに焦っている。
目尻にジワッと溢れるモノを感じ、呼吸も次第に荒くなっていく。
あぁ、自分はこんなにも弱々しい人間だったのか……。
普段から周りに見せている私は、本当はこんなにも情けない人間だったのか。
「ヒルダ」
今度はハッキリと、私を呼ぶ声が聞こえた。
そう感じた瞬間、暗かった辺りにボゥっと微かに光る何かを見つける。
……違う。目を凝らしてみると、ソレは何かじゃなくて光を浴びた人影のようで――
「ヒルダ!」
「ハ、ハイっ!」
ビクッと身体を震わせて辺りを見渡すようにすると、先程までの視界や感覚から一転して私の身体は地面に向かって引っ張られ、暗がりしか見えなかった周囲は白い雪――カマクラだったかしら? の壁が映っていた。
キョロキョロと視線を動かす私に対し
「……やっと起きたか」
と、若干の溜息を含んだような言葉が私の頭の上から聞こえてくる。
何? と思って後ろに向かって首を回すと、其処には少し前に知り合った顔があった。
「クライオスさん?」
「あぁ、クライオスさんだよ」
若干尋ねるような聞き方になったからだろうか? クライオスさんはそんな返し方をしてきた。だけど……どうして私の真後ろに、クライオスさんが居るのだろうか?
「あの、クライオスさん」
「うん? なんだ?」
「どうして私の真後ろに……私はどうして、クライオスさんの膝の上に乗っているんでしょうか?」
言葉の途中で訂正をする。
目に映る内容と身体に感じる感覚から考えると、私はクライオスさんの膝の上に乗せられていて同じ外套でグルっと覆うようになっている。
昨日の内に何か有ったのかもしれないけれど、私にはその理由が思いつかない。
「ヒルダは昨日の晩に熱を出して倒れたんだよ。だから身体が冷えないように、こうして外套で包んでるんだ」
「まぁ」
言われて思い出してみると、確かに話をしている最中に記憶が飛んでいるように思える。どうやらクライオスさんとの会話の最中に眠ってしまったらしい。そう言えば、その時は少しだけ身体の調子が悪かったように思える。
何やら身体がポカポカと感じるのは、こうして外套に包まれているからかしら?
「その、重ね重ね御迷惑をお掛けしてしまって……」
何とも申し訳ない気持ちになってしまい、私は後ろを振り向くようにしながら頭を下げた。本当はちゃんと正面を向いて頭を下げるべきなのでしょうが、どういう訳かクライオスさんの腕が私を抱きしめているので身動きが取れにくいのです。
「いや、別に迷惑とかじゃないから」
「ですが……」
「いいよ。……それよりも」
クライオスさんの言葉に私は恐縮……だったかしら? そんな気持ちになってしまう、けれどもそんな私とは別に、クライオスさんは僅かばかり気まずそうな表情を浮かべると抱きしめるようにしていた腕を解いて何やらゴソゴソとし始めた。
「クライオスさん? なにを――」
「うん? いや……なんだ。温めるついでに『乾かして』おいたからさ、起きたのなら着替えたほうが良いだろ?」
「着替え?」
良く解らない言葉を口にしたクライオスさんは、動かしていた腕を外套の外に出して私の目の前に持ってきた。
その手には何か、見覚えのあるものが握られている。
白を基調とした布地に、黄色いラインや装飾の入った……法衣?
私はその握られているものを見つめると、少しだけ。本当に少しだけ動きが止まってしまった。
「え?」
「乾いてるはずだけど?」
「……え?」
「うん?」
首を傾げ、私はクライオスさんに疑問を投げかける。そしてそれをしながら、自身の腕を使って身体をまさぐってみると……有るべきはずの感触が感じられなかった。よくよく考えれば、目を覚ましてからの身体全体に感じる感覚がいつものそれとは違うことに気が付いた。
そしてそれに伴って、クライオスさんが言っていることが少しづつ理解できていく。
「……き」
「き?」
「きゃあああああ!」
パーンッ!
飛び跳ねるように立ち上がった私は、勢い良く右手を振りぬいていた。
アスガルド編 03話
「痛ぇ……」
ジンジンと痛む頬を抑えながら、俺は現在の感想を口にする。
よもやヒルダからこのような一撃を貰うことになろうとは……露にも思わなかった。随分と速い一撃だったが、音速超でもしていたんじゃないかと思う。
「す、すいません」
不意に、俺の隣を歩いていたヒルダから謝罪の言葉が聞こえてきた。あぁ、どうやら先ほどの俺の呟きが、ヒルダの事を咎めているように聞こえたらしい。
「いや、別に怒ってないから」
「ですが」
「本当に怒ってないから。……むしろコレは俺の自業自得だろうし」
うむ。
思い返してみると、ヒルダの行動は実に当たり前のモノであったように思える。俺の中身が歳相応で無いせいだろうか? どうにもヒルダを女性ではなく、女の子として扱ってしまったようである。
……まぁ、俺にデリカシーが無いとか、気遣いが足りないと言われればその通りなのだろうが。
現在の俺達は、昨夜に作ったカマクラから抜けだして再び雪中行軍を行なっていた。上手くこの谷底から抜け出せる場所を探すためだが、正直この様な場所から開けた所に出られるのか甚だ疑問である。
「まぁ、多分大丈夫だろう。ポッカリと地面が割けてるって事もないだろうし」
いざとなれば、小宇宙を無理にでも燃やして氷の階段でも作ればいいだろう。そうでなければ、左右の断崖の高さがもう少し下がればヒルダを抱えて飛んでも良い。それまでは安産策を取るってことで良いさ。
「そう言えばヒルダ。体の方はもう大丈夫なのか?」
「あ、はい。不思議と昨晩に感じた体調の悪さは無くなっています」
俺の問いかけに元気よく返事を返すヒルダ。
実際のところ、足取りは完全とはいえないが顔色は悪くない。気を使って嘘をついている……と言うわけでも無さそうだ。
どうやら小宇宙を燃やして活力を与えるというのは、思ったよりも効果的な方法であるらしい。
その内にどの程度の症状までなら改善させられるのか、色々と調べてみるのも面白いかもしれない。
「あ、そ、そのクライオスさん」
「なに?」
僅かに呼吸を乱れさせながら、ヒルダから俺に声を掛けてきた。……少しばかり急ぎ過ぎたかもしれない。少しづつ歩行速度を緩めて、ヒルダの負担を減らしてやらなくては。
「クライオスさんは聖域から来られたとおっしゃいましたが、アスガルドにはどの様な用向きだったのですか?」
「アスガルドに来た目的?」
「はい」
無垢な表情を浮かべて聞いてくるヒルダ。しかしその質問に、俺は「あぁ……そう言えば、俺は任務の一つとして此処に居るのだったな」と、思い出した。
そしてほぼ確実に、ヒルダを送り届けた後に面倒な事に巻き込まれるだろうことも思い出して溜息を吐きたく成る。
そんな俺の雰囲気を察したのだろうか? ヒルダは「クライオスさん?」なんて、小首を傾げてくる。俺は出来る限り表情を変化させないようにしながら、「そうだな~」なんて、軽い口調で間繋ぎをした。
「一応は任務なんだけど……教皇から親書を届けにな」
「親書? ですか?」
「そう……って、あれ? 任務ってことはコレって話しちゃ拙いのか?」
「ふぇ? えぇっと、どうなのでしょうか?」
「あーまぁ、ヒルダはアスガルドのお偉いさんだし問題はない……のかな?」
「そ、そんなお偉いさんだなんて」
首を傾げながら尋ねるように言った俺の言葉に、ヒルダは頬を赤らめて照れてみせる。正直、どうしてそこで照れてみせるのか理解不能である。
「まぁ手紙の内容を読んではないけど、多分『今後とも宜しく』的なことが書いてあるんだろう」
「仲が良いのは素晴らしいことですよね♪」
朗らかに言うヒルダの顔に軽く笑みを浮かべた俺は、
(本当に、仲が良いってのは良いことだよな)
と思っていた。
こう言ってはなんだが、未来に起こるであろう聖戦等のたぐいは皆がそれを出来ないから起こるのだ。神だの代行者だのが自分勝手に物事を決めて滅茶苦茶なことをしようとするから戦争が起こる。
まぁ、そんなことは神々だけじゃなくて普通の人間にも言えることだから、此処で文句を言ってもしかたが無いのだろうが。
「あ! ――なぁヒルダ、ドルバル教主について教えてくれないか?」
ふと、俺は教皇からの書簡を渡す相手である、ドルバルについてヒルダに尋ねることにした。少しでも良い方向へ話を繋げるために、情報を集めようと思ったのだ。
「どるばる? ……叔父さまについてですか?」
「……叔父さま?」
「はい。ドルバルは私の叔父に当たる方です。叔父さまは未だに至らない私に変わって、アスガルドの平和を守るために日夜励んでいる方なんです」
「オーディンの地上代行者補佐ってこと?」
「実際は、叔父さまがアスガルドを運営しているのと変わりません」
「血縁者か……」
と言うことは、権力欲しさにヒルダを――と言う訳じゃ無いのか? アスガルドの実質の支配者的な立場にあるドルバルが、態々そんな計画を立てたりするだろうか?
いや、人の欲望というのは計り知れないモノがあるだろうし、そんな事を言うのならそもそも聖域ではサガの乱などは起きたりしないだろう。
神の化身とまで言われる人間が、普通に謀反を起こすんだぞ?
ドルバルという人間が果たしてどんな人物なのか? 俺の持っている知識同様に世界制覇企むような人物なのか、そうでないのか。後者ならば血縁者の情を期待することは出来ないだろうし、前者ならばこの件にドルバルは無関係ということになる。
……その場合は神闘士の独断か?
「いや、有り得ないよな。それは流石に」
一番、自分にとって好意的な状況を思い浮かべるが、そんな可能性は間違いなくゼロだろう。状況が状況だが、聖域から親書(内容は知らない)を持ってきた人間を、問答無用で捕らえるような事はしないだろう。
とは言え、いつでも動けるように身構えるべきではあるだろうが。
「あの、クライオスさん。先程から何を言っているのですか?」
「え? ……俺、何か言ってた?」
「はい。『有り得ない』とか、『身構える』とか」
「うわぁ、独り言を口にしてたか~」
聞いてきたヒルダに、俺はわざとらしく戯けるようにして口を濁した。
危ない危ない。
幾らなんでも『お前の身内が悪いことを考えてるぞ』――なんて、真っ正直には言えないからな。
しかし自分で言うのもなんだが、かなり態とらしい。
もっともヒルダは空気の読める子供らしく、その事に対して特に突っ込んでくるようなことはなかった。
しかし代わりに、
「……」
「……」
俺達は無言になってしまった。
どうにも話しかけづらい状態、と言うやつだ。
そのうえ原因は俺に有るのだから更に居た堪れない。
しかしだからと言って、俺が考えていた内容をそのまま口に出して言うことはできないだろ。
俺だって『実は、全ての元凶はお前の師であるシャカにあるのだ!』なんて言われれば、ショックを隠せ……いや、案外受け入れてしまうかもしれん。
いっその事、今朝方のヒルダが放った平手打ちの話でもして無理にでも盛り上がるべきか?
なんて、かなりアレな事を考えていると
「あ、クライオスさん! あそこって出口じゃないでしょうか!?」
「え?」
考え事をしていた俺とは違い、ちゃんと前を向いていたヒルダが前方を指差して俺に言う。スッと目を細めて先を見てみると、確かに左右に広がっていた断崖の切れ目が視界に入る。
「おぉ、本当だ! ……ヒルダ偉い! 褒めてやろう」
ワシワシと頭を撫で回すと、ヒルダは「あう、あうぁ」なんて声を漏らしながらされるがままになっている。
……うーん、これは聖域にはなかった反応だ。
かなり貴重な反応である。癒される。
歩きながらタップリと堪能をした俺は、疲れたように息を荒げるヒルダを伴って出口へと向かった。上記したような表情を浮かべているヒルダを見ると、少しばかり頭を左右に動かしすぎたか……なんて思う。
「――開放感っ!」
裂け目から抜けだした俺が、最初に言った言葉である。
横にいるヒルダの視線が少々痛い。
しかしようやっとまともに陽の光が当たる場所に出てこられたのだ、これくらいの事は大目に見て欲しいモノである。
もっとも、出てこられたと言っても視界に広がるのは鬱蒼とした森への入り口。
今度はこの森を踏破しなくてはいけないのかと思うと、些か面倒にも思う。
「でも、無事に出られてよかったですね」
「無事? ……無事じゃないだろ」
頬を指先で掻きながら俺が言うと、ヒルダは「あぅ」と呻いて表情を曇らせる。
一晩で回復したとはいえ、熱を出して倒れたのは確かなのだ。どう考えても無事にとは言えないだろう。
「そ、その……クライオスさん。今朝は私も本当に申し訳ないと……」
「うん? ……いや、だからそれは気にしてないから」
「で、ですが! あのような事があったとはいえ、お世話になったクライオスさんあのような仕打ちを」
「だからいいんだってば! ソレは俺が悪かったんだって!」
まったく、何だって蒸し返すのか?
そりゃ女の子にとっては大事件だったってことは解る……が……?
うん? これってつまり、
『私にあのような仕打ちをしたのですから、まさかただで済むとは思っていませんわよね?』
的な、暗喩なのだろうか?
……可能性は無いとはいえないが、しかし――
「ジィッ」
「な、なんですか?」
覗きこむようにヒルダの表情を読み取ってみる。
驚いたような反応をするヒルダは顔を左右に揺らして所在なさ気なはんをうする。しかし尚も見つめ続ける俺に何を思ったのか、『ニコ』っと笑みを向けてきた。
うーむ、子供らしい普通の反応である。
まぁ普通に考えて、この歳の子供がそんな奇妙な思考回路を持っているとは思えないしな。
なんだろうかなぁ。俺ってば聖闘士になって――というよりも、聖域で生活をするようになってから色々と黒く染まっちゃったのだろうか?
『何を言う。人の有り様など早々に変わるものではない』
――あ、一瞬シャカの声が聞こえてきがする。
ちょっとだけブルーになった俺は、ヒルダに苦笑いのような物を返すと、視線の先の森をどうやって抜けるのかを考えることにした。
「崖下から抜けだしたわけだけど、今度は元の場所に戻れるように歩かなければならない」
「そうですね。……私も此処がどの辺りなのか良く判りませんし」
それ程に期待していた訳でもないのだが、やはりヒルダは此処からワルハラ宮までの道のりは知らないらしい。
出来るだけ早くワルハラ宮には行きたい。
俺はいいのだが、ヒルダは飲まず食わずでは拙いだろう。
「何か食べられるものでも捕まえるべき……ん?」
「どうしました?」
「いや、あっちの方角」
ヒルダの声に俺は指をさして返事をする。
向けられた指先の向こう。その方角に、一瞬だけだが小宇宙の高まりを感じたのだ。
神闘士――としては、おそらく弱い。……誰だ?
「ヒルダ、とにかくこの方角に進んでみよう。もしかしたら人が居るかもしれないから」
「はい! 頑張ります」
グッと握りこぶしを作ってみせるヒルダの頭に軽くポンポンと手を置き、俺は「頑張れ」と言うと歩き出した。
とは言え、距離にしてそれほど歩くわけでもない。
時間にして10分。それもヒルダの歩幅でだ。
しかし
「誰だ、アイツ?」
俺は視線の先に居る人物を見てそう言葉を漏らした。
其処に居たのは現在の俺の優に3倍異常はあろうかという身長、子供位なら軽々と乗せてしまいそうな大きな肩、そして動くたびに左右に揺れる長い髪……。
見るからに違和感を感じてしまうような大男が、雪の積もった森の中でクマを相手に相撲をとって(取っ組み合いをして)いた。
「金太郎?」
「狩人さん?」
俺とヒルダが互いに異なる言葉を口にする。
当然のことながら、『金太郎』と口にしたのは俺である。
しかし狩人? 普通の狩人とは、罠を張ったり弓を射たりするものだと思うのだが……。俺にはアレは、到底狩人には見えない。
どちらかと言うとウォーリアー?
「ヒルダの知り合いか?」
「いえ……。ですが森で捕らえた獲物を貧しい方々に分けて回っていると聞いています」
捕らえた獲物を分けて回る?
「あぁ、そうか」
「クライオスさん?」
ポンっと手を叩いて、俺は小さく呟いた。クマと死闘を演じるウォーリアーの正体に気がついたのだ。
恐らく今はまだ違うのだろうが、奴は未来の神闘士、γ(ガンマ)星・フェクダのトールだ。
「アイツに聞けば、ワルハラ宮までの道のりを教えてくれるかも」
「あ、それは良いアイデアです。早速聞きに行きましょう」
「あぁ。でもまぁ、あのクマとの相手が終わってから――って、ヒルダ!」
柏手を打つようにして反応をしたヒルダは、気づくとトコトコとトールとクマの元へと歩いて行ってしまう。
……何考えてるんだ!
一瞬――いや、数瞬ほど呆けてしまった俺は、慌てて後を追うため駈け出した。
「申し訳ありません。少々お尋ねしたいのですが」
「ぬっ!?」
横合いから突然声を掛けられたことで驚いたトールは、肩をビクッとさせて視線をヒルダへと向けた。しかし、その僅かな動きが拙かったのだろう、両手で抑えこむようにしていたクマへの注意が逸れてしまい、結果――
「ガァアアアっ!」
トールの拘束から逃れたクマが、ヒルダへと向かって飛びかかったのだ。
「しまっ――!!」
「あら?」
慌てたようなトールとは違い、場違いな言葉を漏らすヒルダ。
もう、本当に――
「何考えてるんだ! お前はーーっ!!」
ッドッゴォオオオン!!
叫び声を上げながら、俺は思い切りクマに向かって飛び蹴りを放つのであった。
あとがき?
感想掲示板にて、Lost Campusのssを書いて欲しいとか……。読んだことがないので即断し兼ねますが、一度読んでから、前向きに考えてみようかと思います。