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No.14901の一覧
[0] 聖闘士星矢 『9年前から頑張って』 (オリ主・転生?モノ)[雑兵A](2012/10/01 14:30)
[1] 第1話 此処は聖域! 死ぬって言ってんだろ!![雑兵A](2010/03/22 10:12)
[2] 第2話 昔の話をざっと飛ばして……[雑兵A](2009/12/29 13:24)
[3] 第3話 同期の人?……係わると自分にも死亡フラグが来る[雑兵A](2009/12/29 13:34)
[4] 第4話 修行の一コマ、取りあえず重りから[雑兵A](2010/01/06 00:01)
[5] 第5話 聖闘士候補生のときって……適用される?[雑兵A](2010/01/08 17:25)
[6] 第6話 これ以上は無理……!![雑兵A](2010/01/14 23:20)
[7] 番外編 第1話 少し前の巨蟹宮では[雑兵A](2010/03/12 12:11)
[8] 第7話 必殺技?――――どうだろうね?[雑兵A](2010/01/21 12:44)
[9] 第8話 クライオスの進歩と他所の考え[雑兵A](2010/02/04 13:27)
[10] 第9話 生命の危険が急上昇。[雑兵A](2010/02/25 13:02)
[11] 番外編 第2話前編 黄金会議(?)[雑兵A](2010/03/12 12:17)
[12] 番外編 第2話後編 力を見せろ[雑兵A](2010/03/17 18:02)
[13] 第10話 その素顔の下には[雑兵A](2010/03/31 18:01)
[14] 第11話 シャカの試練(?) 上[雑兵A](2010/04/21 15:06)
[15] 第12話 シャカの試練(中)[雑兵A](2010/04/28 22:50)
[16] 第13話 シャカの試練(下)[雑兵A](2010/07/27 13:00)
[17] 第14話 修行編の終り(?)[雑兵A](2010/09/26 01:10)
[18] 第15話 そろそろ有名な人が登場です。[雑兵A](2011/01/15 08:55)
[19] 第16話 男の行方、クライオスの行方[雑兵A](2011/01/17 19:37)
[21] 第17話 期待を裏切るようで悪いですが……[雑兵A](2011/01/25 19:54)
[22] 第18話 大方の予想通り……大滝です。[雑兵A](2011/11/30 17:18)
[23] 第19話 燃え上がれ小宇宙! 立ちはだかる廬山の大滝……じゃなくて、老師。[雑兵A](2011/11/30 17:20)
[24] 第20話 ムウは常識人? [雑兵A](2012/03/22 19:21)
[25] 第21話 セブンセンシズは必要?[雑兵A](2012/05/29 10:40)
[26] 第22話 アスガルド編01話[雑兵A](2012/06/08 19:43)
[27] 第23話 アスガルド編02話[雑兵A](2012/06/19 19:43)
[28] 第24話 アスガルド編03話[雑兵A](2012/09/26 17:17)
[29] 第25話 アスガルド編04話 [雑兵A](2012/10/02 13:36)
[30] 第26話 アスガルド編05話[雑兵A](2012/10/15 19:17)
[31] 第27話 アスガルド編06話[雑兵A](2013/02/18 10:02)
[32] 第28話 アスガルド編07話[雑兵A](2013/11/30 08:53)
[33] 第29話 アスガルド編08話[雑兵A](2014/05/28 19:11)
[34] 第30話 アスガルド編09話[雑兵A](2014/05/28 19:11)
[35] 第31話 アスガルド編10話[雑兵A](2014/06/16 17:48)
[36] 第32話 アスガルド編11話[雑兵A](2014/06/16 17:49)
[37] 第33話 アスガルド編12話[雑兵A](2015/01/14 09:03)
[38] 第34話 アスガルド編13話[雑兵A](2015/01/14 09:01)
[39] 第35話 アスガルド編14話[雑兵A](2015/01/14 09:02)
[40] 第36話 アスガルド編15話[雑兵A](2015/01/14 09:02)
[41] 第37話 アスガルド編最終話[雑兵A](2015/01/14 09:04)
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[14901] 第17話 期待を裏切るようで悪いですが……
Name: 雑兵A◆fa2f7502 ID:10846e00 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/01/25 19:54




 女神アテナの名のもとに、地上の恒久的な平和を目指す聖域。
 そして、その聖域の中でも最強の12人の聖闘士が守護する12の宮。

 ここはその12宮の一つ……磨羯宮。

 皆さんこんにちわ、俺はテアです。

 クライオスが何故か投獄されてから、今日で一週間が経過しています。

 今の俺は、なんと聖闘士候補生の一人として厳しい修業の毎日をおくっているのです。

 朝になって目が覚めたら顔を洗い、師匠が目を覚ます前に朝食の準備をします。
 俺の師匠は少し遠慮がちな性格なのか、『食事は自分で作るから良い』とか言っているのですが、
 弟子が師匠の世話をするのは当然だ……というのを俺は知っていますから。
 シャカ様とクライオスを見ていて把握しました。

 準備が出来たら、未だ起き抜けのようなシュラ様に俺は出来る限り元気いっぱいに挨拶をする。
 その時の返事はたいてい「あぁ……」だけど、一応弁明のつもりで言っておくと別にシュラ様は無愛想という訳ではない。
 ただ単に、笑うのが苦手なだけなんです。

 その証拠に、俺が作った食事は毎回残さずに食べてくれるし、ちゃんと食後には「美味かった」と言ってくれますから。

 修業の方も、予想していたよりもずっと大人しい感じです。
 なんでもシュラ様曰く「生まればかりの雛鳥に、空を飛ぶように言う親は居ない」だそうで。
 確かに修業は疲れるけど、充実した毎日を過ごしています。

 え、口調が変?

 何というか……黄金聖闘士の人達が近くに居ると、何故か自然とこうなるんですよね。

 クライオスにはタメ口でいけるのに……何ででしょうか?

 食事が終わればさっそく朝のトレーニングが始まります。
 先ずは体力を付けるためのランニング、その後は筋トレを行うのです。
 これらはこの一週間、いつもシュラ様がつきっきりで面倒を見てくれていますが……なんだか申し訳ないですね。

「よく頑張ったな、テア」
「い、いえ……ハァハァ、いつまでも脚が遅くてスイマセン」

 ランニングを終えて荒い息を吐いている俺に、シュラ様は優しい声を掛けてくれる。
 とは言え、俺は仮にも聖闘士の動きを見たこともあるし、間接的とは言え体感したこともあるのです。
 つまり、今の俺がそういった聖闘士の動きからかけ離れていることもよく知っているという訳で……

「ゼハ……ゼハ……クライオスやシャカ様と比べたら……遅すぎますから」
「いや、アイツらと今のお前を比べるのは……幾ら何でもな」
「?」

 若干呆れたように遠くを見つめて言うシュラ様だったが、俺はその意味が良くは理解できなかった。

「あッ!そうだ!」
「うん? どうしたんだテア」

 俺は少し前から聞こうと思っていた事を思い出して声を出した。
 毎日の充実で、聞くのを忘れていたんだ。

「――クライオスの事なんですけど?」
「む、クライオスこと?」
「はい……。その、クライオスが入れられたスニオン岬の岩牢って、どんな所なんですか?」

 岩牢に入れられると聞いたときは「あー……大変そうだな」と思うだけだったのだが、
 自分の生活に余裕が出てくるとその場所がどんな所なのかが気になり始める。

 シュラ様は小さく「む……そうだな」と呟くと、ゆっくりとした口調で説明を始めた。

「話によると……鍛えられた者でも音を上げる過酷な環境で、
 たとえ俺たち黄金聖闘士の力を以てしても内側から開けることは出来ない場所――と聞いている」

 俺はその言語に驚いてしまった。
 自分と比べれば、まるでの雲の上の存在である黄金聖闘士。
 その黄金聖闘士の力を以てしても、抜け出すことの叶わない岩牢……。そんな場所が――

「そんな所に、クライオスが?」
「心配か?」
「? いえ別に」

 シュラ様の言葉に、俺は即座に首を左右に振って返した。
 特に心配などしては居ない。
 少なくともシュラ様は『過酷』とは言っても死ぬような所とは言っていない。
 抜け出せないとは言ったけど、居られないとは言っていない。

 だったら――

「多分、クライオスなら大丈夫ですよ」

 俺はそう思うのだ。

 シュラ様は俺の答えに一瞬キョトンとしていたが、

「ふっ……そうか」

 と言うと、俺の頭に手を置いた。

 ――姉さん、俺は元気です。




 第17話 期待を裏切るようで悪いですが……




「出せ!! 俺を此処から出してくれーーーーー!! 弟の俺を殺す気かーーーッ!!」

 荒々しい水しぶきを上げる岩牢の中、一つの悲痛な叫び声が響いた。
 鍛えられた肉体をしてはいるが、だがこの場所はそれらを飲み込んでしまうほどに過酷なだろう。

「カノン、その岩牢からは、神の力を以てせねば生涯出ることはできん。
 お前の心の中から、悪魔が消えてなくなるまで入っているのだ。
 ……アテナの許しが得られるまでな」

 冷たく言い捨てる男の声、
 それは叫びを上げた人物に対しての罪悪感と、僅かな期待を込めたような言葉だった。
 だが――

「お、おのれサガ! お前のような男こそ偽善者というのだぞ!!
 いつまでも、悪の心を隠しおおせると思うな!!」

 男の口から出たのは呪詛の言葉である。

「力のあるものが、欲しい物を手に入れて何が悪い!
 神の与えてくれた力、自分の為に使って何故いけないというのだ!」

 自分の求めるモノになんの間違いがあるのか?
 それを求めてこそ人ではないのか?
 男には、それを求める自分を否定し――

「サガよ! 俺はいつもお前の耳元に囁いてやるぞ!
 悪への誘惑を!!
 サガよ、お前の正体こそ悪なのだーーーーッ!!」

 それを隠して振舞う兄が憎らしかったのだ。

「サガの愚か者め! お前が大いなる力を持ちながら手を拱いているのなら勝手にしろ!!
 このカノン自らがアテナを倒し、地上を征服してやるわ!
 その時になって後悔をするなッ!!」

 だから誓ったのだ。
 自らの力で全てを手に入れることを、自らの力で兄を思い知らせて見せると!

「――――双子座劇場第一幕・~カノン幽閉される~……こんな感じだったかな?」

 誰も居ない岩牢の中、俺ことクライオスは持て余した暇を『一人双子座劇場』で紛らわせていた。
 もっとも観客は、ときおり牢の中に入ってくる(本物の)蟹くらいしか居なかったが。
 なんとも寂しいことだ。

「しかしどうよ、このひどい環境は」

 一日24時間、休むこと無く押し寄せる荒波。
 休むことを知らない波の音。
 満潮時には、呼吸をするのも儘ならないほどに浸水する牢内。
 普通死ぬぞ……。

「サガって……本当にカノンを更生させる気があったのか?」

 幽閉されて恐らく1週間ほどが経過してると思われるが、その間に俺を訪れる人間は一人も居なかった。
 まぁ、罰として閉じ込められている人間のところに、わざわざ遣って来るというのも変な話なんだけどな。

 俺は足元を横歩きする蟹をムンズっと掴み、そして自分と同じ目線まで持ち上げた。

「此処に幽閉されてから、無駄に俺の一人演技のレベルが上昇したと思うんだが……どう思う?」

 なんて問いかけてしまうが、当然蟹からの返答が在るわけもない。
 あえて言うなら、吹き出している泡が答えだろうか?

「駄目だ……人間孤独だと独り言が増えるっていうが、今の俺は正にそれだ」

 若干凹みながら、俺は小宇宙を燃やして手に持っている蟹に火を通していく。
 もがくように動く蟹だが、俺はそれ以上に鼻腔を擽る香ばしい香りが気になっていた。
 まぁ何だ『焼けてきた、焼けてきた』ってところだ。

「大体、前回の出来事は本当に俺が悪かったのかよ。同考えても事故じゃないか」

 俺は愚痴を漏らしながら、程良く火の通った蟹を手早く捌いて中身を美味しく頂いた。
 此処に来てから、食事がどうしても海産物に偏ってるな。
 いい加減に肉が食いたい。
 ……長いこと食べてなかったから、拒否反応が出るとかは無いよな?

「早く此処から出してくれないかな……冷え症になったらどうするんだ」

 かじかむ手を擦るようにしながら、俺は聖域の方向(と思われる)へと視線を向けた。
 俺を此処に放り込む際、シャカは

『一時的な処置だ、教皇に話を通せば直ぐに別の沙汰が下されるだろう』なんて言っていたが……。

 俺が思うに、教皇――サガがスニオン岬に誰かを入れるなんて聞いたら、直ぐ様に出すように言うと思うのだが……。
 ほら、カノンの存在は聖域にも秘密になっていただろ?
 だからカノンが見つかる――もしくは、死体が出てくるかもしれない場所は、放っておいて欲しいのではないかと。

 まぁ、もしかしたら別の可能性で
 『クライオスをスニオン岬に入れました→カノンが見つかる→クライオスを出すとそれが明るみに→一緒に入れっぱなしにしとけ』
 みたいな思考展開がされてるのかもしれないが……。

 もしそうなら困るよな、ここって内側から外に向かっての小宇宙が上手く働かないんだ。
 だから、岩牢の入り口を破壊するとか出来ないし。

 こんなところで死ぬことになったら、俺の今までの苦労が全て水の泡になってしまう。

 ……波に打たれて水の泡って、何気に上手くないか?

 あぁそうそう、なにか勘違いしてる人も居るようだけど、
 カノンは実際のところ、教皇(シオン)がサガに殺される前に此処に幽閉されて、僅か10日後にはポセイドン神殿に行っています。
 だからまぁ……先ず奴に会うことはないでしょう。
 後ろの岩壁も、何やら誰かに補修されたような跡があるが……もし手を触れて壊れても嫌なので放っておきます。
 きっとあの岩壁の後に、『ポセイドンの三又の鉾』とかが在ったんだろうな……。

「双子座劇場第二幕・~カノン、サガに悪を囁く~でも開幕しようかな……」

 何だかんだでまだ余裕のある俺だった。
 ともかく、いつ出られるのか解らないのであれば暇つぶしは必要。
 俺は頭の中を必死に回転させ、第二幕のやり取りを構築させようとしていたのだが――

「――ライオスーッ!」
「うん?」

 不意に誰かの声が――と言うより、俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
 何だろうか? と、俺は牢の鉄柵の部分に捕まるようにして、外へと視線を向けた。

「…………アルゲティ?」

 遠目に見える大きな体躯(ガタイ)、それに似合わぬ歳相応のソプラノボイス。
 あれは間違いなくアルゲティだろう。
 すると、横に引っ付くようにして居るのはシリウスか……それともカペラだろうか?

「何しに来たんだアイツらは?」

 遠目に見える人影に、俺はそう呆れるように口にした。
 先程も述べたことだが、スニオン岬の岩牢は罰を受けている人間が入る場所だ。
 そんな場所に何でワザワザ遣って来るんだ?
 まさか、教皇からの伝聞でも伝えに来たのだろうか? ……それは無いな。
 自分で思っておいてなんだが、それは絶対にないな。

 なんて、俺が考えていると

「あれ? アイツら……」

 視界の遠くに捉えていたアルゲティ達が、ある程度近くまで来たことで俺は眉間に皺を寄せた。
 何故なら、連中は普段観たことがないような格好をしていたからだ。

「あれ? あれあれ?」

 俺は自分でも『どうか?』というような変なつぶやきを漏らしていた。
 とは言え、それも仕方が無いだろう。
 何せ視界に映る奴ら……アルゲティとカペラの二人は、何故か白銀聖衣を身に纏っていたのだから。

「元気かクライオス♪」

 俺と向かい合うくらいの距離にまで近づいてきたアルゲティは、開口一番そんな事を聞いてきた。
 何とも、朗らかな笑みを浮かべるアルゲティである。
 その横に居るカペラも、アルゲティに負けず劣らず良い笑みを浮かべていた。
 もっとも、俺は口元を微妙にひく付かせることしか出来なかった。

「……元気か? って、こんな所に入れられて元気なわけがないだろう」
「おぉ、そりゃそうだな。失敬失敬」
「いやいや、俺の方も気が回らなかったよ♪」

 言いながらも『ムン』と胸を反らしてくるアルゲティとカペラ。
 なんだかな……俺に見せに来たんだろうけど、やっぱり俺が話を振ってあげなくちゃ行けないのかな?

 眼をキラキラさせて、俺からの言葉を待っているような二人。
 俺は内心で大きな溜息を吐きつつ、二人に遠慮がちに聞くことにした。

「あぁ……そのなんだ。二人とも、今日は一段と眩しい格好をしてるんだな?」

 『聖衣を手に入れたんだな?』とは聞かない。
 俺のせめてもの意地というかなんというか……子供っぽいかもしれないが、なんとなく嫌だったのだ。

「おぉッ! 解るか? いや、見せびらかすつもりは全くなかったんだがな」
「俺達もついに聖闘士として認められたんだ!」

 両手を広げて俺に見せるようにする二人、
 こういう仕草は子供らしいのにな……なんて、俺はちょっとだけ思った。

「それはおめでとう。……御者座(アウリガ)とヘラクレス座か?」
「そうだ。俺が御者座で――」
「俺がヘラクレス座だ」

 ヘラクレス座の聖衣も、御者座の聖衣も、まるで元から二人のために誂えたかのようにピッタリと似合っている。
 大きさもそうだが、元々聖衣というのはその時代ごとの装着者に併せてその形状を僅かながら変化させるらしいからな。
 身体の成長毎に大きさを調整する――や、獲得した者に併せて作り直す――なんてことは無いのだが……。

「本当に良く似合ってるな」
「そんなに褒めるなよ、照れるじゃないか」
「うははは♪」

 俺の感想に、二人は照れたように頭を掻いている。
 うん、まぁ、褒めた積りはなかったんだけどな。

 しかし俺は「あれ?」と思った。
 この二人が居るのに

「ところで……お前たちが居るのに、シリウスはどうしたんだ?」

 そう、シリウスがどうして居ないのだろうか? と、そう思ったのだ。
 だが俺の質問に答えたのはアルゲティとカペラではなく、

「――シリウスはまだ候補生だよ」

 会話に入ってくるように声が聞こえる。
 俺は、其の声の主に視線を向けた。
 するとその先には一人の少女、シャイナが居たのだった。

 それもフル装備(聖衣着用済み)で。

 俺は視線の先に居るシャイナを見て、少しばかり戸惑ってしまう。
 だが、シャイナはそんな俺の戸惑いなど解る訳も無く、スタスタと近づいてきた。

「あー、シャイナも来たのか?」
「悪いかい?」
「いや……聖衣を手に入れたんだな。
 へびつかい座(オピュクス)か……似合ってるじゃないか」
「ふん、そんな世辞なんていらないよ」

 若干の緊張をしながらも、短いやりとりをする俺とシャイナ。
 俺の言葉に、シャイナはプイッと他所を向いてしまった。

 正直、俺は未だにシャイナの考えが解らなくて困っているのだ。

 もうそれなりに前のことになるが、俺はひょんな事からシャイナの素顔を見てしまっている。
 『女性聖闘士は、その素顔を見たものを殺すか愛するかのどちらかをしなくてはいけない』なんていう、不可思議な掟が存在する聖域。
 素顔を見たのはシャイナが聖闘士候補生だった時のこと、そのため俺が見たのは無効だ……とも言えると思うのだが、
 とは言え希望的観測は控えたほうが良いと思うのだ。
 だが直接聞くのも気が引けるし、かと言ってシャカに聞いてもまともな答えは得られなかったのも事実。
 その為、俺はシャイナのことを別に嫌ってなど居ないのだが、ほんの少しばかり扱いに困っていると言うことだ。

 しかし――

「ふむ……」

 俺は頷くようにして鉄柵の向こう側、要はこの場に現れた3人の視線を向ける。

 その理由の一つ目、
 揃いも揃って、同じ時期に聖闘士に成ったということ。
 二つ目、
 揃いも揃って、俺のところに報告に来たということだった。

 まぁ一つ目に関しては、
 原作の聖闘士星矢にしても、星矢たち青銅聖闘士の聖衣獲得時期が重なっていることから、
 元々今の時期に一気に試験をやるようになっているのだろう。
 少なくとも聖域的には。
 時期的に行うかどうかを、候補生が知っているかどうかは別問題だがな。
 それにだ、コイツらは元々才能の有る奴らだったからな。
 時間的に考えれば、シャイナ等は来年にはカシオスを弟子に取ることになるのだ。
 今の時期に聖闘士になっていても、何ら不思議はない。

 だが……

「カペラ、アルゲティ……それにシャイナも」

 俺は間を置くように言葉を区切り、3人をジッと見つめた。
 そして

「どうしてワザワザ俺に報告に来たんだよ?」

 ふと思った疑問を口にするのだった。
 俺の問に3人は――と言うよりもカペラとアルゲティは「は?」と声を漏らし、
 シャイナは一際狼狽したように慌てだした。

「――かッ勘違いをするんじゃないよ! 誰がお前に報告なんかッ!!
 私は魔鈴に聞いて、クライオスがこのスニオン岬の岩牢に入れられたって言うから、どんな顔してるのか見に来ただけさ!!」
「……ん? ……詰まりなんだ……見舞いに来たのか、お前は?」
「そうじゃない! ……私も聖闘士になって一段落したから、少しお前の様子を確認にしようと――」
「近況報告じゃないんだよな?」
「私は、違うと言っている!」

 ……正直、支離滅裂で意味不明。
 一体、何を言ってるんだシャイナは?

 聖衣を身につけて聖闘士になったと報告に来たわけでもなく、
 かと言って俺の現状を確認に来た……みたいな事を言ってるくせにそれも否定する。
 どうにも、子供の精神構造は理解に苦しむな。

 思春期だろうか?
 仮面の下の表情を見れば少しは解るかも知れないが、『ちょっと見せてくれ』なんて言うわけにもいかない。

 可能性の話で想像をするのなら、俺を殺せるかどうかの確認に来た――って所なのだろうか?
 だとしたら聖衣を着て現れたことも、報告でも見舞いでもないという言葉にも理解が行くのだが……。

 俺は未だによく解らない説明をしようとするシャイナに

「シャイナ、取り敢えず(理解不能と言うのが)わかった。
 コッチの二人にも話を聞きたいから、少しだけ待っててくれ」

 と言って、アルゲティとカペラに集中することにした。
 正直、此処に二人が居てくれて良かったと思う。

「それで、お前らは?」
「俺達?」
「俺達は、ほら――」

 俺の質問に、カペラとアルゲティの二人は互いに顔を見合わせると、ガシッと肩を組んだ。
 そして二人揃って

「「友達だからな!」」

 と言うのだった。
 この『友達』と言うのは、先ず間違い無く俺も含まれているのだろう。
 しかし、御年10歳の少年たちとは言え……なんとも恥ずかしい台詞を臆面も無く言う。

 だが――何だろうか?

 俺はこいつらの将来を知っているが、
 何なのだろうか?
 ほんの少しだけ、胸の奥がチクリと痛む。

 コイツらは将来、教皇の命令でアテナや星矢達を襲撃する。
 そして少なからず、それが星矢達にとって成長する切っ掛けに成るのだ。

 だが……俺に向かって笑顔を向けているコイツらは、正義の為に聖闘士を目指していたわけで――

「どうしたのさクライオス? 難しい顔をして」

 不意にシャイナが声を掛けてきた事で、俺は思考を中断させた。
 どうやら無意識のうちに、眉間に皺でも寄せていたらしい。

 俺は首を左右に振って、「いや、何でもないよ」とぎこちない笑みを浮かべるのだった。

「――ところで、魔鈴は元気にやってるのか?」

 皆の注意を他所に逸らすため、俺は別の話題として魔鈴の話を振った。
 とは言え、完全にそれだけが目的であったわけではなく、気にしているのも事実なのだが。

「気になるのか?」

 俺の問に対して、カペラが妙な表情を浮かべて聞いてくる。

「そりゃあな。俺があいつの師匠をぶっ飛ばしたせいで、今はアイオリアが師匠をやってるんだろ?」
「あー……そういう気になるね」

 何を期待したのだろうか?
 それ以外にある訳がないというのに。
 カペラもお年頃なのだろうか、妙な邪推が多いようだ。

 カペラは腕組をして、考えるような素振りを見せる。

「一応、魔鈴は元気にやってるみたいだぜ。
 あのアイオリア様も手加減を覚えたのか、あまり無茶な修業はしてないみたいだし――って……」
「どうしたんだクライオス? 急に蹲って」

 心配そうに言ってくるアルゲティだが、
 俺は不可思議な単語を耳にしたことでの衝撃が大きかったために返事をすることが出来ない。

 『手加減』……よもやアイオリア関連でその言語を聞くことに成ろうとは。
 俺は当時の修業風景を思い出して、

「いや、俺の時にその手加減を発揮して欲しかったな……と思ってな」

 そう呟くように言うのだった。
 そして溜息を一つ吐くと、もう一度立ち上がって3人に視線を向け直す。

 しかしアレだな。
 やっぱり俺は、他人との会話に飢えていたみたいだ。
 『一人双子座劇場』も、蟹相手に話しかけるのも、第三者から見れば末期症状に見えるだろうからな。
 久しぶりに会ったコイツら相手にも、不思議と会話が弾んでいるし。

 とは言え、何かもっとこう――

「……いい事を思いついた」

 俺はちょっとしたことを思い浮かび、ニコッと笑みを浮かべた。

「シャイナ――はちょっと待ってろ。アルゲティ、それとカペラ、ちょっとこっちに来い」
「ん?」
「何だ何だ?」

 チョイチョイと手招きをして、俺は二人を近くに呼び寄せた。

「見事に聖闘士になったお前たちに、俺からプレゼントをくれてやろうと思ってな」
「は? お前が――」
「――俺達にプレゼント?」

 不思議なことを聞いたとでも言いたげな、二人の反応。
 正直なところ少しばかり傷付くが、とは言えプレゼントなんて思いもしなかったのだろう。
 かく言う俺も、こんな事をしようなんて今しがたまで思いもしなかったからな。

「あぁ。もっとこう、コッチに手を向けろ。拳を握ってな」
「こ、こうか?」
「なんだよ、何をくれるんだ?」

 未だ若干手の届かない所に居た二人を更に近くに呼び寄せ、拳を前に突き出させる。
 そして

「おめでとさん、二人とも」

 と、言いながら『ゴツッ、ゴツッ』と互いの拳に自分の拳を打ち付けた。
 一瞬キョトンとしていたアルゲティとカペラだったが、

「お、おぉ」
「へへ、サンキュー」

 なんて、照れたような反応を返してくる。

 らしくないかなぁ、今日の俺って。
 きっと、少しづつ世界に順応してるんだと思うけど。 

 さて――と、この二人はこれで良いとして、後はシャイナだ。
 二人にはこんな恥ずかしいことをしておいて、シャイナには何もしないってのは後味悪いからな。

「シャイナ」
「ん?」
「お前もちょっとコッチに来なさい」

 少し離れたところで見ていたシャイナを、俺は先ほど同様に手招きをして呼び寄せた。
 そして代わりに、アルゲティとカペラには下がっているように言う。

 さて……本当にどうしたものか。

 呼び寄せておいて何だが、カペラ達と同じように拳を『ゴツッ』とやるか?
 でも、それは幾ら何でも男っぽいしな……。

「……」
「…………」

 いい考えが浮かばぬまま、無言で見つめ合う(仮面のせいで良く解らん)形になる俺とシャイナ。
 他所からどう見えるのかは知らないが、俺の内心は『何か無いか?』ってことで高速に思考展開がされている。

 そうやって暫く見つめ合う事10数秒、

「あっ!」

 いい考えが思いついたのだった。
 俺はシャイナを手で制して待っているように言うと、
 此処に来てから出来上がってしまった貝塚(俺の食事後)を漁り始める。

 そして目的の貝殻を発見すると、ソレを手刀で削って目的の物を取り出した。

「――シャイナ、お前にはコレをやろう」
「コレ……!?」

 俺がシャイナに手渡したのは、薄いピンク色に光る小さな物体。
 一般的に、コンクパールと呼ばれる真珠の一種だ。
 何日か前に食べた巻き貝の中に見つけたのだが、どうやらまだ残っていたらしい。

 シャイナは言葉少なく、手にした真珠をジッと見つめるようにしている。

「聖闘士就任おめでとう。
 まぁシャイナは女の子だから、カペラ達みたいなプレゼントは何か違うだろ? だから、ソレをあげる」

 俺は笑顔を向けながら、内心で『俺は年上だからな』と付け足した。
 肉体年齢で1歳、精神年齢だと20歳以上年上だからな……俺は。

「……まぁ、貰っておくよ」

 少しだけぎこちない感じで言ってくるシャイナ。
 ギュッと真珠を握りしめるとプイッと他所を向いて岩牢から遠ざかり、近くの岩壁に背中を預けてしまった。
 喜んでる……のか? いやもう本当に、仮面のせいで何を考えているのか良く解らん。
 他の連中は、女性聖闘士達とのコミュニケーションをどうやって取ってるんだ?
 機会が有ったら誰かにその方法を享受してもらおう。

「しかしアレだな。お前らもいずれは仕事とか貰って、どっか行ったりするんだろうな」

 ボソっと、俺は小さくそう言った。
 日本だったら青春真っ盛りとかいう年代で、コイツらは生き死にを掛けた殺伐とした生活を送るようになるのか……。
 それを思うと、ほんの少しだけ不憫に思えてならない。
 俺は――もう青春時代とか終わっちゃったから良いけどさ。

 だと言うのにこの子達は

「どんな任務をもらうのか、楽しみだよな♪」

 なんて、話をしてるのだ。
 俺は……それがちょっとばかし辛かった。

「なぁ、クライオスはもう仕事――」
「――馬鹿! アルゲティ!!」

 不意にアルゲティが俺に話を振ってきたのだが、それを慌てたように制するカペラ。
 俺はその慌てように「?」と首を傾げた。

 カペラはグイっとアルゲティを引っ張るように連れて行くと、耳打ちをするように小さな声で話を始める。

「(あのなぁ、アルゲティ。クライオスは不始末を起こしたから此処に居るんだぞ! そんな可哀想なことを聞くなよな!)」
「(そ、そうだったな。嬉しくてついよ……)」
「(そういう話は、クライオスが出てきてから――)」
「――あんた達、クライオスに聞こえてるよ。それ」
「「えッ!?」」

 驚いて俺の方を見る二人と、呆れたように肩を竦めて見せるシャイナ。
 えぇ、聞こえてます。
 聞こえていますともさ。

 まぁ、聞こえているからってどうするっって事でもないけどな。

「まったく……。しかし、俺はいつまで此処に入っていれば良いんだ?
 シャカの話だと、割と早いうちに出られるって事だったんだが」

 文句を言うように……というか、間違いなく文句を言っている俺の言葉に、
 カペラもアルゲティも、シャイナも顔を見合わせる。

「それは俺達には……なぁ?」
「そうだな、教皇には教皇のお考えがあるんじゃないのか?」

 そうだよな、ここに居る者達(俺を含めて)に解るわけがないのだ。
 ……シャカが未だに報告してない――ってなことは無いよな?

 少しだけ、ほんの少しだけだが不安に成るぞ。
 だが、その答えは不意にその場に現れた。

「――確かにその通りだ。教皇にはお考えが有ったようだな」

 周囲一帯に響くような声を発し、その場に突然現れた人物が居る。
 黄金の聖衣を身に纏い、薔薇を操る聖闘士。

「アフロディーテ!?」
「こ、これは」
「アフロディーテ様!」
「……」

 俺が名前を読んだことでハッとしたのか、3人は各々頭を下げるようにかしづいて見せた。

「フフ……そう硬くなるな。今日の私は、クライオスに用が有って来ただけなのだからな」
「俺に? ……って事は、ついにここから出られるのか!?」
「それはお前次第だな」

 歩くたびに周りに薔薇を撒き散らす……様な雰囲気を持っているアフロディーテ。
 だがお前次第ということは、代わりに何かを――ってことだろう。

 つまり

「クライオス、お前に教皇からの勅命を伝える」
「ハイ」

 俺の始めての任務と言うことだ。
 似合わないかも知れないが、俺はアフロディーテの言葉に背筋を伸ばすようにして聞く大勢をとった。

「……しかし勅命とは言ってもだ、別に『何かを倒せ――』と言うような類の話ではない。
 現在の聖域は安定しているし、その手の件は私たち黄金聖闘士が請け負うことが殆んどだからな。
 お前に与えられた任務とは、教皇の書かれた親書をある人物達に届けるというものだ。フフ、簡単なことだろう?」

 確かに簡単だ。
 むしろ、簡単すぎて怪しいくらいに。
 郵便で送る訳には行かない大切な物……って事は容易に想像がつくが、それなら雑兵でも良いだろう。
 あの人達も、並の人間よりは遥かに鍛えられた身体をしてるんだし。
 だがそれでも、あえて聖闘士にやらせるお使い任務って事は――

「質問があるんだけど?」
「ん、なんだ?」
「それって『やる内容』は簡単でも、『行う』のは大変って類の話?」

 つまりは、やることは親書を届けるってだけの事だけど、届けるのに苦労するってこと。
 現にアフロディーテは、俺の質問に対して「さぁ……私はそこまでは把握していないからな」と言いつつも、口元はニィっと笑っている。

 先ず間違い無く厄介な場所への配達だろう。

 まぁとは言え

「――白銀聖闘士、風鳥座エイパスのクライオス。
 その任務、謹んでお受けします」

 俺は跪くようにして、アフロディーテにそう言った。
 いつ出られるのか解らないこんな場所にずっと居るよりも、
 ちょっとくらい行くのが難しい場所へ行くほうがずっと気持ちも楽だろう。

 つまり、端から選択することなど何も無いのだ。

 俺の言葉に満足したような顔をするアフロディーテは、懐から便箋に閉じられた封書を何枚か取り出すと

「では説明をしようか」

 と言って、カペラとアルゲティ、そしてシャイナの3人を尻目に説明を始めるのだった。

 因みに――

 粗方の説明が終わった後

「なんで黄金聖闘士のアフロディーテが、伝聞係みたいな事をやってるのさ?」

 と聞くと、

「スニオン岬の岩牢は、昔から罪人が入れられる場所だと決まっているのだよ。
 非公式とは言え、そのような場所に入っている聖闘士の元に、経緯を知らない一般人を送れる訳にはいくまい?」

 とのことらしい。

 まぁ何にせよ、『お仕事』開始ってことだな。






 次回予告
 スニオン岬の岩牢から出る条件として、教皇からクライオスに与えられた任務。
 それは、教皇の親書を渡して回るというお使い任務だった。
 しかしクライオスはその任務が、決して簡単なものではないと直感する。

 次回、聖闘士星矢 『9年前から頑張って』 第18話 聖闘士任務編 その1『マイナスイオンが一杯』

 乞うご期待


 注:作品の進行上、題名を変更する可能性が有ります。




 あとがき
 えぇ~っと、最近感想掲示板とかによく『ロストキャンバス』を元にした感想が多いですが、
 筆者はロストキャンバスを全く読んではいません。
 アレは車田先生の作品である聖闘士星矢のオマージュ、または二次創作の類ではないだろうか?
 との思いが強く、それを正史としては捉えていないのです。
 なのでこの作品の過去の聖戦は、ロストキャンバスは全く関係が無いと思ってい頂きたい。
 そもそも車田先生の描いている『聖闘士星矢冥王神話』とでは、登場するキャラの名前も違いますからね。
 そのため、今後『聖闘士星矢G』のネタ、もしくわ設定が出る可能性なら有りますが、
 『ロストキャンバス』に出てきた設定、その他は恐らく出ることはないでしょう。

 それと、私は感想版にレス返しをするのは嫌なのでこの場で一つ返答をしたいのですが……。
 小宇宙の導きによって技を身に付けるのでは?
 との事ですが、作中に一言でも聖闘士がそうやって技を身に付けると言った描写は存在しませんので、
 それは私個人としてはあり得ないと判断しています。
 それならば技の修業をするのが馬鹿らしくなるでしょうしね。
 また、私はクライオスの容姿を取り分け美形だと書いたことはないですが、
 別にシャカの弟子だからと言う事で他の黄金聖闘士に人気があると書いたつもりも有りません。
 誰だって、それなりに付き合いのある人物に良いことがあれば、多少なりとも喜んでくれるのではないでしょうか?

 とは言え、その辺りのことを書き切れていなかった、私にも落ち度あるとは思います。
 今後も作品を良い方向に持って行きたいと私自身も思っておりますので、
 『こうではないだろうか?』との事が有りましたら感想をお願いしたく思います。

 筆者:雑兵A





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