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No.14901の一覧
[0] 聖闘士星矢 『9年前から頑張って』 (オリ主・転生?モノ)[雑兵A](2012/10/01 14:30)
[1] 第1話 此処は聖域! 死ぬって言ってんだろ!![雑兵A](2010/03/22 10:12)
[2] 第2話 昔の話をざっと飛ばして……[雑兵A](2009/12/29 13:24)
[3] 第3話 同期の人?……係わると自分にも死亡フラグが来る[雑兵A](2009/12/29 13:34)
[4] 第4話 修行の一コマ、取りあえず重りから[雑兵A](2010/01/06 00:01)
[5] 第5話 聖闘士候補生のときって……適用される?[雑兵A](2010/01/08 17:25)
[6] 第6話 これ以上は無理……!![雑兵A](2010/01/14 23:20)
[7] 番外編 第1話 少し前の巨蟹宮では[雑兵A](2010/03/12 12:11)
[8] 第7話 必殺技?――――どうだろうね?[雑兵A](2010/01/21 12:44)
[9] 第8話 クライオスの進歩と他所の考え[雑兵A](2010/02/04 13:27)
[10] 第9話 生命の危険が急上昇。[雑兵A](2010/02/25 13:02)
[11] 番外編 第2話前編 黄金会議(?)[雑兵A](2010/03/12 12:17)
[12] 番外編 第2話後編 力を見せろ[雑兵A](2010/03/17 18:02)
[13] 第10話 その素顔の下には[雑兵A](2010/03/31 18:01)
[14] 第11話 シャカの試練(?) 上[雑兵A](2010/04/21 15:06)
[15] 第12話 シャカの試練(中)[雑兵A](2010/04/28 22:50)
[16] 第13話 シャカの試練(下)[雑兵A](2010/07/27 13:00)
[17] 第14話 修行編の終り(?)[雑兵A](2010/09/26 01:10)
[18] 第15話 そろそろ有名な人が登場です。[雑兵A](2011/01/15 08:55)
[19] 第16話 男の行方、クライオスの行方[雑兵A](2011/01/17 19:37)
[21] 第17話 期待を裏切るようで悪いですが……[雑兵A](2011/01/25 19:54)
[22] 第18話 大方の予想通り……大滝です。[雑兵A](2011/11/30 17:18)
[23] 第19話 燃え上がれ小宇宙! 立ちはだかる廬山の大滝……じゃなくて、老師。[雑兵A](2011/11/30 17:20)
[24] 第20話 ムウは常識人? [雑兵A](2012/03/22 19:21)
[25] 第21話 セブンセンシズは必要?[雑兵A](2012/05/29 10:40)
[26] 第22話 アスガルド編01話[雑兵A](2012/06/08 19:43)
[27] 第23話 アスガルド編02話[雑兵A](2012/06/19 19:43)
[28] 第24話 アスガルド編03話[雑兵A](2012/09/26 17:17)
[29] 第25話 アスガルド編04話 [雑兵A](2012/10/02 13:36)
[30] 第26話 アスガルド編05話[雑兵A](2012/10/15 19:17)
[31] 第27話 アスガルド編06話[雑兵A](2013/02/18 10:02)
[32] 第28話 アスガルド編07話[雑兵A](2013/11/30 08:53)
[33] 第29話 アスガルド編08話[雑兵A](2014/05/28 19:11)
[34] 第30話 アスガルド編09話[雑兵A](2014/05/28 19:11)
[35] 第31話 アスガルド編10話[雑兵A](2014/06/16 17:48)
[36] 第32話 アスガルド編11話[雑兵A](2014/06/16 17:49)
[37] 第33話 アスガルド編12話[雑兵A](2015/01/14 09:03)
[38] 第34話 アスガルド編13話[雑兵A](2015/01/14 09:01)
[39] 第35話 アスガルド編14話[雑兵A](2015/01/14 09:02)
[40] 第36話 アスガルド編15話[雑兵A](2015/01/14 09:02)
[41] 第37話 アスガルド編最終話[雑兵A](2015/01/14 09:04)
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[14901] 第12話 シャカの試練(中)
Name: 雑兵A◆fa2f7502 ID:e2c9db82 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/04/28 22:50






 テアからの情報収集を続け、俺に解ったことは多いのか少ないのか……。
 ペテナという人物が見た『ヌグ』とテアが見たモノが同じかどうかも確証が無い。

 なんともまぁ、有意義だったのか無意味な時間だったのか良く解らないな。

 さて、現在は既に陽が沈みかけており、時刻は例の逢魔が刻……。
 詰まりは最初にゲスゲスやヌグが目撃されたらしい時間である。

 現在の俺達は荒れ野を見るように木の上から観察中。

「もうすぐ件の奴等が出てくる時間か……」
「…………」

 俺がそう口に出して言うと、隣に居るテアは何やら沈痛な面持ちを浮かべた。
 その様子に俺は少しだけだが心配をして、テアに声をかけようとしたのだが――――

 ザワ――――ッ

 瞬間、肌に感じる異質感を感じ取った。

 粘着質な、何かが纏わり付く様な、熱くて冷えた何かが有るような、兎に角そんな感覚だ。

 俺はこんなイヤらしい感覚は今まで味わったことは無かった。
 だが、それと同時にそれが何なのかは嫌というほどに良く分かる。

 普段から良く感じている感覚で、それでいて人の物とは違う。

「……これは、小宇宙だ」

 俺はそう呟くと、テアの心配も忘れて視線を小宇宙の元へと向けた。

 最初そこに見えたのは一つの青い炎。
 それがクルクルと踊るように動きを見せると、徐々にその大きさを増して広がり始め、ユックリと人型に形を変えていく。

 炎から輪郭が浮かび、身体を表す凹凸が見え始め、腕が伸び、足が現れる。
 辺りには幾つもの女性の笑い声が木霊し初め、それが合唱のように鳴り響いた。

「――――あ……あれが、ゲスゲス?」
「……違う。アレはゲスゲスじゃない。アレは――――ニンフだ」

 俺はテアの言葉に唇を噛みながらそう言った。
 目の前――――と言ってもそれなりに距離は離れているが、アレは恐らくニンフと同種の奴だ。
 一般的に精霊の類だと言われているが、実際の奴等は魔物と対して変りない。

 歌や踊り、そしてその容姿で人間を誘惑しては生気を奪って殺してしまう。
 それは男女等の性別の隔たりなど存在せず、それら一切を無視して虜にしてしまうのだ。
 まぁニンフ達には悪気はないのだが、だからこそ始末に悪い。

 かくいう俺でさえ、それと認識していなければフラフラと行ってしまいそうだ。……10歳なのに。

 と、俺はそこでハッとして隣のテアを見る。

 そうと解っていて小宇宙による防御をしている俺でさえこの状況だ、
 何でもない普通の人間であるテアにはどうなるか解ったものではない。

「ん? どうしたの?」
「…………いや、何でもない」

 そこには特に変調をきたしたようには見えないテアが居た。
 俺はそれに『何でだ?』と悩むことに成ったが、直ぐに『俺とは違って、身も心も子供だからだろうな……』と納得をした。
 ……少し羨ましい。

 そうして俺は、苦笑いを一つ浮かべて視線を元の方向へと戻す。
 そこには変わらずに、ニンフが独特な踊りを続けてクルクルと踊りまわっている。

「それにしても……こう言った『人外』の奴って本当に居るんだな。……ちょっとビックリだ」

 俺は遠目にニンフを眺めながらそう呟いた。
 聖域で修業をしている関係上、この手の人外の生き物が存在することは承知している。
 ただ『こんなのが居ますよ――――』と言われても、実際はよく解らないことが殆んどだ。
 なんて言ったかな……そう、百聞は一見にしかずってやつだな。
 こうして実際に目にすると、誰かに言われた言葉以上に理解することが出来る。

 しかし――――

「…………もし、これが事件の首謀者(?)だとしたら……少し厄介だよな」

 ニンフは自然界の精霊である。
 ソレは一つの植物に憑いていたり、もっと大きな森や山だったりと様々だ。
 だが、それが出てくる理由の大半は決まっている。

 それは『環境破壊』
 まるでどっかの保護団体みたいだな……。

 まぁそれは兎も角。
 ニンフはやり口はどう在れ、只々自然に対する警告として出てくる場合が非常に多いのだ。
 まぁそれとは別に、単純に気に入った相手を誘惑する為の場合もかなり多いのだが……。
 だが今回のように何度も何度も――――と成れば後者の可能性は無いだろう。

 ただ、本当にこれだけが原因だったら力技で解決しても良いのだろうが……何か引っかかるんだよな。

「仕方が無いかな……」
「どうすんの?」

 息を吐きながら言った俺に、テアが心配そうな顔を向けてきた。
 俺はそれに一瞥を向けることも無く返事を返す。

「そりゃ勿論……直接話を聞きに行く」
「ちょ、聞きにって! だってアレはゲスゲス――――」
「――――じゃない。精霊の一種でニンフだよ、アレは。
 かなり薄れてるだろうけど、一応は神の血を引いてるって聞いたことがあるし。まぁ、いきなり襲いかかるって事はないだろ」
「だって、ペテナさんは!」
「それが本当に『あの』ニンフがやったのかを確認するんだよ」

 指差しながら言ってテアを黙らせると、俺は「よっ」と口にしながら木から飛び降りてニンフの元に向かっていく。
 続いてテアも木から降りてきたようだが、俺は視線をニンフに向けたまま歩き続けた。

 そして距離が5m程になったくらいだろうか? ニンフはそのクルクルと回るようにしていた踊りを止めて、俺の方に視線を向けた。

「……さっきから見てるのは誰かなー……と思ったら、また随分の可愛らしい男の子達ね」
「あー……まぁ『男の子』って事に否定意見を出す事は出来ないけど、そうアッサリと言われると凹むものがある」

 開口一番で言われた言葉に、俺は少しだけ口元を引き攣らせて落ち込んで見せる。
 正直、その事は考えないように普段を過ごしている俺なのだ。出来れば触れないで貰いたい。

 俺は気持ちを切り替える意味も込めて、自分の頭を2~3回程軽く小突いた。

「――――その、どうもこんばんわニンフさん。俺はクライオスって言います」
「あらあら、これは御丁寧にありがとう。――――……私はニンフのオレイアス、一応はこの辺り一帯の精霊ってやつよ」

 「よろしく」と言いながら微笑むオレイアスに俺は頬を染める。
 一応言っておくが、断じてニコポではない。
 俺が照れた理由……それは、目の前に居るオレイアスが『全裸』だからだ。

 いやまぁね……人外の生き物に人の道理を説くつもりは有りませんがね。
 当然というか何と言うか……正直遠目で見てる時よりもかなりの破壊力がある事は確かなようで。
 使い古された言葉だが、正に『ボンキュッボン』と言うような体型。
 白く透き通るような肌に、ゆるくウェーブの掛かった金色の髪の毛等――――まぁ俺の精神衛生上には余り宜しくないような姿形をしている訳だ。

 俺はその自身の照れ隠しをする為に、
 背後で人の背中に隠れるようにしていたテアを引っ張り出してオレイアスの眼前に突き出す。

「あー……ほれ、テア」
「――――ひぅッ…………は、はじめまして」

 訝しげな表情を作り、ぶっきら坊に言うテアだった。

「クライオスちゃんは礼儀正しいけど……そっちの子は?」
「近くの集落に住んでる子供です。俺はこの辺の調査のためにギリシアから来たんですが、ここまでの案内を頼みまして」
「集落に?」

 何か気になる事でもあるのだろうか?
 オレイアスは一瞬驚いたような表情をすると、テアをマジマジと観察するように見つめている。
 まぁ、当のテアは怯えたように俺の背中にへばり付き――――いや、人の羽織っている外套を勝手に頭まで被って隠れている。

 ……マジヤメテ欲しい。

 その様子にオレイアスは人間らしく呆れて見せると「ふーん……まぁいいけど」と呟いた。

「それで? 私に会いに来たのは一体なんの用があってなの?」

 クスっと笑いながら言うオレイアス。
 俺は自身の外套を引っ張って、テアを外に放り出そうとしながら話を始めた。
 テアの奴め、中々にしぶとい……。

「実は聞きたいことが有りまして。……最近、この辺で騒ぎになってる事件は知っていますか?」
「事件……? ――――あぁ、あれはゲスゲスの仕業よ。私は関係ないわ」
「関係ない? それじゃあ此処で何を?」

 尋ねる俺にオレイアスはクルリと回ってみせて、そして腕を広げながら周囲に眼を向けるように促してきた。

 ……テアが邪魔でそれどころでは無いのだが。

 だが、オレイアスの言葉は新しく俺の中に疑問を作ることになる。

「人が居なくなっちゃったからね、代わりに草木が生い茂るように力を注いでいるの」
「……?」

 との事。
 何を言ってるのか解るだろうか?
 俺にはさっぱり解らない。

「どういう意味だろうか」
「……さぁ?」

 一応テアにも尋ねてみたが、俺と同様に意味は解らないらしい。
 言った本人であるオレイアスに「どういう意味ですか?」と聞き返してみたが。返ってくる答えは「秘密♪」って事。
 どうやら正解をそのまま教えるつもりは無いようだ。

 オレイアスがとった仕草は『この場所』を差しての事だ思う。
 でなければ、わざわざあんな動きをしたりはしないだろう。

 ……まぁ、ニンフだから実際はどうかは解らないけどさ。

 まぁこの場所をさして言っていると仮定して考えるけど……。その場合、『此処には人が居た』って事になる。
 この何も無いような、荒地のような場所にだ。

 だが今はご覧の有様。

 俺の沈黙を見て――――と言う訳ではないのだろうが、オレイアスは言葉を続けてくる。

「それにしても、何だかんだであの娘も可哀想よね。好き好んでゲスゲスに成りたい奴なんて居ないでしょうにね……」

 との事だ。
 どうやらオレイアスはそのゲスゲスの正体も、俺やシャカがギリシアから此処に来ることになった騒ぎの理由も全部知っているらしい。
 まぁそれも当たり前といえば、当たり前か。

 元々『オレイアス』と言う名前は、山のニンフを呼ぶ名前なのだから。

「あの……そもそもゲスゲスってのは何なんです?」
「簡単に言えば、無念の死を遂げた女性の霊が浄化されずに……要は冥府へ行けずに留まって、
 地上にある人の想念とか怨念なんかを取り込んだ魔物――――かなぁ、主に結婚前の女や出産前の女がそうなるわよ」

 俺はその言葉にピクッと眉を上げた。
 ニンフの語ったゲスゲスの特徴。
 それは、今回の事を綺麗に纏め上げるには必要な情報に感じるのだ。

 だが今のところ、それに繋がる答えを俺は持ってはいない。

 ……いや、本当は一瞬。
 ほんの一瞬だが、もしかしたらと思った答えはある。
 だがそれは流石に無茶苦茶で、『幾ら何でも』と思わずにいられない。

 大体そんな感じは――――

「……クライオスちゃん、物事はよく見てみないと解らないことって有るわよ」

 俺の悩んでいる様子を思ってか、オレイアスはそう優しく微笑んだ。
 それに対して俺は眼をパチクリとさせたが、その後腹を決める事にした。

「……テア、村に戻るぞ」
「――――え、何で? だって……」

 バサっと今まで以上に力を入れて外套を引っ張ってテアを外にだすと、俺はテアに説明をする。

「オレイアスさんは関係ない……俺の予想が正しいならだけど。……全く、きっとシャカはこの事を知っていたんだろうな」

 と、大きな溜息を吐きながら言った。
 今現在、俺が考えている内容が正しいとすれば、シャカの取った行動も多少は理解できる。
 正直そう有って欲しくはないのだけどな。

 俺はテアの首を引っ掴んでからオレイアスに一度だけ頭を下げ、

「……どうもお世話になりました。俺は、俺の仕事をしに行きます」

 そう言ってから最初に顔を出した集落に向かって駆け出していった。




 第12話 シャカの試練(中)




 オレイアスと話をしている内に陽は完全に沈み込み、辺りは完全に真っ暗になってしまった。
 もっとも、その程度で移動に困ったりなどはしない。
 伊達に今まで、アホみたいな修業をしてきた訳ではないのだ。

 俺はテアを背中に乗せ(おんぶ)ながら一気に森の中を駆け抜ける。
 そして既に寝ている者達も居るのだろうが、喧騒など無いような静かな集落へと戻ってきた。

 到着と同時にテアを地面に放り出し、俺は首を左右に傾けて『ゴキゴキ』と鳴らす。
 落着した荷物(テア)が「――――いってぇー!」と何やら文句を言うが、俺は取り敢えずそれを無視した。

「……つぅ……ったく。あのさ、凄い勢いで戻ってきたけど……これからどうするんだよ?」
「少し、静かにしててくれ」

 俺は尋ねるように聞いてきたテアにそう言うと、村中に視線を這わせるようにして見渡した。
 『違和感』一つ見逃さないように。
 『変なもの』など無いように。

 そうして見渡してみたのだが……

「……ひでぇよ。コレは」

 俺はそう呟くだけで精一杯だった。
 昼には解らなかった事が、今になると良く分かる。
 見えなかったものが良く見える。

「…………」

 もう一度、俺は力無く回りを見渡したが。
 やはり今見えるものはそのままに、昼間のようにそれを見ることは出来なかった。

 今の俺には、この村が常識から外れた異質なモノに見えて仕方がないのだ。
 そしてその異質なモノの中にある、それとは違う異質なモノがあるのも感じる。

 俺はテアに視線を向けてからその異質――――後者の方をテアに聞くことにした。

「テア……あそこ。あの洞窟は何なんだ?」
「洞窟?」

 指差しながら言う俺に、テアはその方向を見て「あれ?」と口にした。

「本当だ、洞窟がある……。何で?」

 と、今気づいたような返事を返してきた。
 俺はそのテアの声に「そうか……」と小さく言ってから

「あの洞窟が何なのか……少し調べようと思う」

 と言い、テアの返事を待たずにその場所へと向かって歩いていった。
 


 洞窟自体は特に隠してあった訳ではない。
 また、逆に何か飾り付けがある訳でもない。ただただ岩肌にポッカリと穴が開いているだけの、変哲のない普通の洞窟だ。
 ただ――――

「――――それ以上近づくな」

 俺達が洞窟へ近づこうと歩いていくと、周囲からゾロゾロと人が集まりだした。
 老若男女を問わずに集まりだし、あっと言う間に俺もテアもその人達に囲まれてしまう。

 俺達を囲んでいる連中を当然俺は知りはしないが、テアは知っている顔らしい。
 まぁ一応『同じ村』に住んでいるのだから当たり前だとも言えるが。

 だが俺はこうして囲まれた事に、少しだけ――――いや、かなり心が苦しく成る。
 自分がやらなければイケない事を再確認したからだ。

「……あ、あの、皆いきなりどうしたのさ? それに近づくなって?」

 急に大人数に囲まれた事で驚いたのか、恐る恐るといった感じでテアは周囲の者達に問いかけた。
 するとその中の一人が一歩前に進みだし、ギロッと睨みつけてくる。

「……近づくな」
「近づくな」「近づくな」「近づく……

 異口同音
 口々におなじことばをひたすら続ける村人達に、テアは「ヒッ……」と小さく声を漏らして縮こまる。
 さり気なく俺を盾にするようにしている様に感じるのは、きっと気の所為では無いだろう。

「……テア、お前はコイツらが言ってる言葉の意味が解るか?」
「――――解らない、解らないよ!!」

 酷く辛くて憂鬱で、だけどそういった物も含めてシャカは俺に任せたのだろう。
 だから俺は……自分に出来る事で対処をしようと思う。

 俺は背後に隠れるようにしているテアを引っ張り出して、背中を押すようにして自分から遠ざけた。

「な、何するんだよッ!?」
「良く見ろ」

 と言う俺の言葉に従うように、テアはゆっくりと視線を村人に向けた。
 視線を向けられた人達は未だ口々に『近づくな』と連呼している。

「どう思う?」
「……だから解らないって――――!」
「――――テア」

 大声を出して怯えを払拭……又は唯そうするしか出来なかっただけかも知れないが、
 そうしようとしたテアに声を掛けてくる人物が居た。

 鼻につく甘ったるい香り、俺達を囲んでいる人達の中で、唯一俺が面識のある人物。
 テアの姉だった。

「……姉さん?」
「テア? 大丈夫だった?」

 優しげな表情を浮かべるその女性は、昼とは違ってしっかりとした眼をしている。
 そして両手を左右に広げるようにしてテアに「さぁ、こっちにいらっしゃい」と微笑んだ。

 普通の10歳にも満たない子供で有るテアだ。
 目元に涙を浮かべながら、自身の姉であるその女性の元に走りだそうとするが……。

「……待った」

 それを俺が押さえ込んだ。

 一瞬『訳が分からない』と言うような表情を浮かべたテアだったが、俺が肩を掴んで動きを封じる。
 そして今度はテアと場所を入れ替わるようにして、俺が前に一歩踏み出した。

 俺のその行動に、女性の視線が強く鋭く成る。

「――――あなた、昼間にも会ったわよね?」
「えぇ……昼間は色々と騙されたよ」

 女性の視線を受け流すように、俺はやんわりと受け答えて返事を返した。
 だが相手はそれで気分を害したのか、より視線を強めて問い質してくる

「何を言ってるのかしら? それにこんな夜中にテアを連れて何の積り? ……どうして此の村に来たの?」

 問い質すように聞いてくる言葉。
 だが俺はその問に無視するように、テアへと声を掛けた。

「テア……お前、俺に言ったよな? 『姉さんを助けて』って」
「……? ――――うん」

 『何故こんな時に、こんな質問をされたのか解らない……』そんな顔をするテア。
 だが俺は、それに良い返事をしてやることは出来なかった。
 言えたのは

「……ゴメンな」

 と言った謝罪の言葉だった。

「良く見ろ! この村の本当の状態をッ!!」

 俺は声を挙げながら体内で燃やしていた小宇宙を爆発させ、

「――――オーム!!」

 それを一気に周囲へと解き放った。

 俺の発した小宇宙が光になって飛び広がり、今まで写していた景色を一変させて行く。

 並んであるように見えた家々は姿を消し、所々に朽ち果てた木々が転がっている。
 辺りには雑草が生い茂り、剥き出しの地面が荒れ果てた大地を表していた。

 しかし何より顕著な変化を示したのは村人達だった。
 ある者は白目を剥き、ある者は喉から血を流し、ある者は腕を失くし、ある者は体から骨が飛び出し……
 マトモに見える身体をしている者など極僅か。
 大体が何らかの怪我や欠損を持っているような……生きた死体のような様へと変わったのだった。

 其の突然の変化にテアは目を丸くして、もはや声も出ないようだ。

 だが俺は、それを半ば無視するかのように口を開いた。

「……これがこの村の本当の姿みたいだな。多分幻術か何かの類だろうけど、よくもまぁ騙したものだよ。
 きっと、シャカはこうなってるのを知っていたんだろうな……だからあんな態度を取っていたんだ」

 今ならシャカの態度が幾分だが理解できる。
 村に来た時の表情、村人との接し方……『何でだ?』と思うことは、結局はこれが答えだったんだろう。

 この場所に来た時から、シャカはこの光景を感じていたんだ。

 普通に目で見ていた俺とは違って、本質を見ているシャカにはそれが解っていたんだろう。

「ここまでで解るのは、テア……お前がさっき案内した場所は現場じゃないって事だ。
 もしアソコが現場なら、コイツらがこうしてこの場所に現れるのはおかしいからな……」

 詰まりは、本当に村があった場所はあのニンフの居たところ。
 テアが現場だと思っていたところだ。
 そう考えれば、ニンフの言っていた『人が居なくなっちゃったから――――』の意味も理解できる。

 何故テアが村のあった場所を現場だと勘違いしていたのか……そう『思い込んでいたのか』それとも『教えられていた』のか……。

「そして……理由はどうあれ、この騒ぎに関係しているのはあの洞窟……御丁寧に邪魔しに来てくれたからな。
 もっとも、それはテアが近づいたから――――じゃなくて、俺が近づいたからなんだろうけどね」

 そこまで言ってからニコっと俺が笑ってみせると、
 例のテアの姉は眉間に皺を寄せ、俺の事を睨んできた。

「駄目よ……駄目なのよ、お願いだからその洞窟には近づかないで……」

 テアの姉――――女性のその言葉に反応するように、周囲の村人達が動き始める。
 大人も子供も男も女も、皆が皆で俺やテアをこの場所から遠ざけようと動きを見せた。

 俺やテアの身体を引っ掴み、無理矢理この場所から遠ざけようと言うのだ。

 わらわらと集まっては俺やテアの身体に纏わりつき、
 四肢を拘束して身動きを封じようとする。

「……な、何? 何なんだよ!? 姉さん!」
「…………」

 テアの訴え掛ける様な声に、女性は一瞬表情を歪めたが……直ぐにそれを正すと

「お願い……テア。この洞窟には近づかないで、そして今日の事は忘れて……」

 と、悲しそうに言った。
 その表情と声色に、テアは声を失ってしまう。

 だがテアはその女性の雰囲気が、嘘でも何でもなく、本当に辛そうにしていると感じたのだろう

「姉さん?」

 と口にして手を伸ばした処で――――

『――――ディバイン・ストライク』

 俺は無理矢理に腕を振るい……拳を振るって、村人達を蹴散らすのだった。
 拳の軌跡が光の様に映って見えるそれは、音速を超えた弾丸と成って襲いかかる。

 全力で――――と言う訳ではないが、手を抜いて放った訳ではない俺の技。
 高速の突きを放つ必殺技だ。
 恐らく、普通の人間には『何かが迫ってきた』と感じることも出来なかっただろう。

 正直……自分の技を最初に使うのがこんな状態でとは思いもしなかった。

 俺やテアに纏わり付く様にしていた村人達は、俺が放った拳で吹き飛び、千切れて、穴を穿たれて目の前から消えていく。

 遥か遠くに飛んで行く者、

 その場で粉々になって崩れる者、

 俺は手に残る肉を裂いて叩く感覚に歯噛みして、ギュッと拳を握りしめた。
 そして力強く腕を一閃して表情を崩したくなりそうな気持ちを抑え込んだ俺は、腰を抜かしたように地面に座り込んでいるテアに声を掛けた。

「立つんだ……テア」

 そう言って腕を掴んで立ち上がらせようとすると、バッと俺の手を払うようにしてきた。

「――――……だよ……やり過ぎだよ! 村の皆が、こんなの!!」
「いいから良く見ろ――――って、昼間に騙されてた俺が言うことでもないけど……テア、良く見るんだ」

 そこに見えているのは死んだ村人の姿では無かった。
 千切れた身体も、倒れた人も、飛び散った血も、何もかもがそこには無く、ただ周囲を囲むように陣取っている者達が見えるだけである。

「テア……俺は最初にインドネシア政府からの要請で、『死んだ筈の人間が、昼夜を問わずに歩き回っている』との話を聞いて此処に来たんだ。
 最初にこの村に来た時、俺はこの村を被害にあってる村だと思ったんだが……」
「なに……言ってるんだよ」
「この村は――――いや、正確には此処も被害者なのかも知れないけど……。
 だが死んだ筈の人間、タウゴウは……この村の住人達の事だ」
「――――嘘だッ!!」

 俺の言葉に反発するように声を挙げるテア。
 だが俺はそれを聞いた上で、そのままに言葉を続けていく。

「ニンフの言葉を思い出せ。
 彼女が言っていたのは、『人が居なくなった』って事と『ゲスゲスが犯人』と言う二つのこと。
 そしてヒントとして『良く見ろ』って事だ。
 昼には気付けなかったが、今では良く分かる事が此の村の『異質』さ。そして現在体験している事としてタウゴウの存在」

 俺は言いながら足を進めて村人――――いや、タウゴウの群れに拳を見舞う。
 一度に数十に近い数が消し飛ぶが、どこから湧き出すのかまだまだ数が居るようだ。

 不意にテアの姉から「……化物」と呟くのが聞こえたが、
 俺はそれを聞き流して手刀突き――――ディバイン・ストライクを周囲に向かって繰り出し続けた。

 そして粗方のタウゴウが片付き、目の前が拓けたところで足を止めた。

「ただ……正直に言うと、未だに解らない事もあるんだ。ペテナさんって人やお前が見たって言うヌグの正体。
 これは今の俺には解らないことだな。……だけど、それ以外は今なら解る。こうして目の前にそれを見ていれば、嫌でもな!!」

 俺はその相手……ゲスゲスである女性――――テアの姉に向かって強く言い放った。

「……何を……何を、言ってるの。そんなの――――そんなの私は知らない!」

 睨むようにして言った俺の言葉に、女性は怯えるような顔を浮かべて反論をしてくる。
 とは言え、実際それは反論になるようなマトモな言い分では無かったが。

「何を言ってるってのは俺の台詞だよ。この状況で、こんな言い逃れの出来ないような状況で……どうしてそんな風に言えるのさ?」

 髪の毛を振り乱し言うゲスゲスに、俺は出来る限り感情を殺すように努める。
 俺は腕を振り上げて手刀を構え、目の前の相手を見据えた。

 そしてゆっくりと距離を詰めながら、構えを取る。

「何を言っても……答えは変わらないよ。だから、俺がすることも変わらな『ヒュッ』――――ッ」

 ――――ズバンッ!!

 風切り音と同時に、横合いから突然の衝撃を受けて身体が宙を舞った。
 俺は其の侭10m以上を飛ばされ地面を転がるが、直ぐさま手を地面に引っ掛けるようにして突いて体制を整える。

 痛い……

 咄嗟に『叩きつけられた何か』をガードはしたものの、何とも無いという事は無い。
 チラリと受け止めた腕を見ると、打ち身や骨折の類は無いようだが打ち付けられた箇所がザックリと裂けて血を流している。

「反撃される前にやっておくんだったな……」

 ボソリと、俺は目の前の相手を目にした感想を口にした。
 そして手をプラプラと振りながら、ゆっくりとした動きで歩いていく。
 見ると相手は腕を振り切ったような姿勢をとっていて、どうやら平手の一撃かな? それで俺を殴り飛ばしたんだろう。
 その指先から血(多分俺の)が滴っていた。

 俺は一瞬「腕長いなぁ……」と場違いな事を考えたが、それが表情に出たのか相手はギロリと睨みを利かせてくる。

「――――貴方に……貴方みたいな子供なんかに! 私の辛さが解る訳ないッ!!」

 まるで叫び声のような咆哮。
 最初に感じた変化は小宇宙の増大、そしてその後には見た目の変化が現れた。
 髪の毛を振り乱し、その双眸が紅く光ったように感じた。

 ……これってどこかの聖闘士とか冥闘士じゃないよね? 唯のお化けだよね?

 正直な所……。
 一応とは言え腹を括っている俺だ、相手を攻撃するのに躊躇う事はない。
 だが、今の俺は相手に対する同情以外の処で攻撃を躊躇っていた。

 一つは徐々に増大して感じる相手の小宇宙。
 さっきまでは特に何とも思わないレベルだったのに、今では『ちょっと驚き』といったレベルに成っている。

 それと他にはさっきの一撃、俺が吹き飛ばされた一撃だ。
 俺自身、特に気を抜いていた訳ではない。
 それなのに、それでも俺がマトモに反応しきる前に攻撃を叩き込まれた。

 自分では、少しは強い積りだったんだけどな……。

「私は人間に戻りたいのッ! だから、その為にはもっともっと……『人をこの場所から遠ざけなくちゃいけない』のよ!!」
「――――なんだって?」

 相手の言葉に俺は一瞬だけ眉をしかめたが、相手はそんな事はお構いなしと一気に襲いかかってきた。
 一瞬で間合いを詰めてくる敵に、俺は「クッ――――」と呻きながら迎え撃つ。

「ディバイン・ストライク!!」

 走りよってきた相手に、迎撃するように放つ『ディバイン・ストライク』。
 取り敢えずは動きを押さえ込んで、さっきの気になる一言を問いただしたい――――なんて、軽い気持ちで望んだの失敗だったか?
 直撃したと思った拳は相手をすり抜け、気づいた時には相手は宙に浮いて飛び掛ってきていた。

「死んでぇーーー!!」

 物騒なことを言う……と頭で思うのが精一杯で、

 ッズガァン!!

 といった音を出し、俺は相手が振り下ろしてきたその長い両腕の攻撃を頭からモロに受けてしまう。
 上から下へと叩きつけるような攻撃を受けた俺は、半壊させて陥没させた地面と一緒に沈んでしまった。

 やっぱり思ったよりも痛い。

 マズイな……さっさと起き上が――――

 ズガァン! ズガァン! ズガァン! ズガァン!!

「あぅがァッ――――」

 立ち上がろうとした俺の背中に向かって、続け様に攻撃が振り下ろされる。
 どういう形で叩き込まれてるのかは良く解らないが、打ち付けられる度に背中に熱を帯びた痛みが走っていく。
 どうやら爪が背中の肉を抉っているみたいだ。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……ッはぁ――――し、死んだかしら?」
「……死んでな――――」
「死んでってば!!」

 ゴガァンッ!!

 起き上がろうと身体を起こしかけた俺の頭に、踏みつけるような一撃が加えられた。
 その衝撃でより一層深く、俺は地面の中に埋まってしまった。

 そして今度は『ガン! ガン! ガン! ガン!』とストンピングの雨を浴びせられる始末。

 実際黄金聖闘士の攻撃に比べれば大した事ではないのだが、なんだってこんなコントみたいな事をしなければならんのか?
 それに、大した事はないと言っても無傷で済むようなモノでもないし……。

「……いい加減に――――しろッ!!」

 叩き込まれる攻撃を無視して無理矢理身体を起こし、俺は腕を振るって迎撃を行った。
 咄嗟に相手が振るった腕に拳がぶつかり、「キャッ!」なんて言う悲鳴を挙げて距離を取られる。

 ……『キャッ!』って何だ『キャッ!』って。

「うぅ……何で死なないのよ。そんなにボロボロなのに」
「…………」

 俺を睨みつけるように――――と言うか恨みがましい――――と言うか泣きそうな表情で言ってくる。
 実際、俺の身体は今のでそれなりにボロボロになっている。
 背中からは爪で抉られた傷跡から血が流れているし、頭にもさっきのストンピングの影響で結構な傷が出来上がっているらしい。

 聖闘士候補生の身分で、聖衣も無しにこんなに頑丈なのはシャカ達に鍛えられたからだろうか?

 ……嬉しかないけど。

「生憎とね……この程度の怪我で死ぬような『普通の身体』はしてないみたいでね」

 即時対応可能なように、腕を挙げて構えながら俺は言った。

 ……本当に、何時の間にこんな頑丈な男の子に成ったのやら。

「化物――――」

 ――――ドンッ!!

「……どっちがだッ!!」

 俺は相手が何かを言う前に、その懐へと一息で飛び込んで拳を叩き込んだ。
 周囲に打撃音が響き、相手は打たれた腹部を手で押さえ「がっ……あ」と呻きながら後ずさる。

 だがキッと睨むように視線を俺へと向けると、

「ガァッ!」

 腕を振って俺にめがけて攻撃を仕掛けてくる。

 しかし、俺は其の腕を片手で受け止めて防いだ。
 少しだけ相手の爪が、俺の皮膚に突き刺さって傷を作るが気にはしない。

 ズガァンッ!!

 其の侭に身体を捻るようにして回し蹴りを叩き込むと、相手は「げぅッ!!」声を挙げて今度は水平に飛んでいった。
 そしてさっきの俺と同様に10数mの距離を飛び、地面を転げまわってようやく止まる。

「こんな小さな子供を捕まえてさ……本物の化物が、化物なんて言うなよな」

 蹴りを入れた体勢のまま俺は言ったのだった。
 そのままピクリとも動こうとしない相手に、俺は「あれ?」と口にした。

「死んだか――――」
「死んでないわよ!!」

 俺の言葉に反応して、ガバっと一気に起き上がってくる。
 どうにも、相手が生身ではないからだろうか? 効いているのか居ないのか、少しばかり判断が難しい。
 手応えは有ったんだが、見た目に変化がある様には見えないんだよな。

「さっきのアンタじゃないけどさ……さっさと死んで――――いや、成仏した方が楽だよ?」

 少なくとも俺にとってはね。
 とは言え、このままチマチマとダメージを与えて行けば、その内に相手を倒すことは出来るだろう。
 この世界――――と言うのは変な言い方だけど、この世界は神でさえ死ぬのだから。
 ――――まぁ、中には非常にしぶといのも居るには居るが(主に女神ア◯ナ)。
 兎も角、目の前のモノがどれ程のモノなのかは解りにくいが、少なくとも神以上と言う事はないだろう。

 あーしかし何だな。
 本質としては人じゃないと解ってるとは言え、よくもまぁ女性の形をしてるものをポンポン蹴ったり殴ったり出来るもんだ。

 昔の俺なら先ず出来んぞ。

「……なんで……なんで……さっきより速い」
「本気じゃなかった。……だから無様に地面に叩きつけられた。
 そして、流石に今はそれなりに本気でやってる」

 自身に問うような呟きをする相手に、俺は表情を変えずに言った。
 そして腕をグルンと、一回だけ回して

『ディバイン・ストラ――――ッ!?』
「――――……止めて! もう、もう止めてよ!! これ以上、姉さんを苛めないで!!」

 技を放とうとしたのだが、その瞬間に俺と相手との間に飛び込むようにしてテアが飛び込んできた。
 俺は打とうとして振り上げた腕を、無理矢理引いて内心舌打ちをする。

 危うく諸共粉砕するところだったぞ?

 デスマスクなら確実にやってただろうし。

 俺は大きく溜息を吐いて、テアに諭すような事を言った――――が、

「あのなぁ……お前は俺の話しをちゃんと聞いてたのか? 手伝えとは言わないから、せめて邪魔を――――」

 途中まで口にしていた言葉をそこで区切った。
 あぁ……馬鹿だなって思う。
 俺が気を抜いた瞬間に、目の前から叩きつけられていた小宇宙。
 その攻撃的な小宇宙は増大し、膨れ上がり、『俺とテアを一直線で結ぶように』向けられていた。

「――――邪魔だテアッ!!」

 そう叫んだ俺は、咄嗟にテアの前に踊りでて両手を広げて盾になっていた。

 瞬間、目の前に広がる真っ赤な灼熱の炎。

 俺は全身を焼かれる感覚を感じながら

(ピッコロさんかよ……)

 と、心で呟いて膝を折るのだった。








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