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No.14901の一覧
[0] 聖闘士星矢 『9年前から頑張って』 (オリ主・転生?モノ)[雑兵A](2012/10/01 14:30)
[1] 第1話 此処は聖域! 死ぬって言ってんだろ!![雑兵A](2010/03/22 10:12)
[2] 第2話 昔の話をざっと飛ばして……[雑兵A](2009/12/29 13:24)
[3] 第3話 同期の人?……係わると自分にも死亡フラグが来る[雑兵A](2009/12/29 13:34)
[4] 第4話 修行の一コマ、取りあえず重りから[雑兵A](2010/01/06 00:01)
[5] 第5話 聖闘士候補生のときって……適用される?[雑兵A](2010/01/08 17:25)
[6] 第6話 これ以上は無理……!![雑兵A](2010/01/14 23:20)
[7] 番外編 第1話 少し前の巨蟹宮では[雑兵A](2010/03/12 12:11)
[8] 第7話 必殺技?――――どうだろうね?[雑兵A](2010/01/21 12:44)
[9] 第8話 クライオスの進歩と他所の考え[雑兵A](2010/02/04 13:27)
[10] 第9話 生命の危険が急上昇。[雑兵A](2010/02/25 13:02)
[11] 番外編 第2話前編 黄金会議(?)[雑兵A](2010/03/12 12:17)
[12] 番外編 第2話後編 力を見せろ[雑兵A](2010/03/17 18:02)
[13] 第10話 その素顔の下には[雑兵A](2010/03/31 18:01)
[14] 第11話 シャカの試練(?) 上[雑兵A](2010/04/21 15:06)
[15] 第12話 シャカの試練(中)[雑兵A](2010/04/28 22:50)
[16] 第13話 シャカの試練(下)[雑兵A](2010/07/27 13:00)
[17] 第14話 修行編の終り(?)[雑兵A](2010/09/26 01:10)
[18] 第15話 そろそろ有名な人が登場です。[雑兵A](2011/01/15 08:55)
[19] 第16話 男の行方、クライオスの行方[雑兵A](2011/01/17 19:37)
[21] 第17話 期待を裏切るようで悪いですが……[雑兵A](2011/01/25 19:54)
[22] 第18話 大方の予想通り……大滝です。[雑兵A](2011/11/30 17:18)
[23] 第19話 燃え上がれ小宇宙! 立ちはだかる廬山の大滝……じゃなくて、老師。[雑兵A](2011/11/30 17:20)
[24] 第20話 ムウは常識人? [雑兵A](2012/03/22 19:21)
[25] 第21話 セブンセンシズは必要?[雑兵A](2012/05/29 10:40)
[26] 第22話 アスガルド編01話[雑兵A](2012/06/08 19:43)
[27] 第23話 アスガルド編02話[雑兵A](2012/06/19 19:43)
[28] 第24話 アスガルド編03話[雑兵A](2012/09/26 17:17)
[29] 第25話 アスガルド編04話 [雑兵A](2012/10/02 13:36)
[30] 第26話 アスガルド編05話[雑兵A](2012/10/15 19:17)
[31] 第27話 アスガルド編06話[雑兵A](2013/02/18 10:02)
[32] 第28話 アスガルド編07話[雑兵A](2013/11/30 08:53)
[33] 第29話 アスガルド編08話[雑兵A](2014/05/28 19:11)
[34] 第30話 アスガルド編09話[雑兵A](2014/05/28 19:11)
[35] 第31話 アスガルド編10話[雑兵A](2014/06/16 17:48)
[36] 第32話 アスガルド編11話[雑兵A](2014/06/16 17:49)
[37] 第33話 アスガルド編12話[雑兵A](2015/01/14 09:03)
[38] 第34話 アスガルド編13話[雑兵A](2015/01/14 09:01)
[39] 第35話 アスガルド編14話[雑兵A](2015/01/14 09:02)
[40] 第36話 アスガルド編15話[雑兵A](2015/01/14 09:02)
[41] 第37話 アスガルド編最終話[雑兵A](2015/01/14 09:04)
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[14901] 第11話 シャカの試練(?) 上
Name: 雑兵A◆fa2f7502 ID:b1d6ba1a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/04/21 15:06




 教皇(サガ)にロックオンされてしまった俺には……コレ以外、他の選択肢など思い浮かばなかったんだ。
 例えそれが死に繋がるかも知れない事でも、喩えそれで取り返しのつかない事に成としても。
 簡単な事では何も変えられない、変わっていかない。
 だから俺は――――それを受け入れたんだ。

 と、いう事で。

 黄金聖闘士達の苛烈な虐めを享受しているクライオスです。
 あ、受け入れると言うのは黄金聖闘士の虐めの事だぞ。

 先日、『危うく黒サガに生命を狩られるかも知れない』とあわや思った俺だったが、
 どういう訳かそうは成らずに死を免れるに至りました。

 まぁ代わりにミロが死にかけることに成ったが、アレは自業自得なので問題無し。
 ほんの少しだけやり過ぎた気もするが、その前に俺はスカーレットニードルを12発もくらっているのだ。
 むしろあの程度の仕返しで済ませたのは慈悲深いとも言えるだろう。

 シャカという慈悲を持ち合わせていないような奴と比べれば、俺のこの慈悲深さは聖域に於いて貴重ではなかろうか?

 まぁ……どうでも良いや、そんな事は。

 あぁそうそう、一応だけど睡眠不足の方は多少改善がされました。
 とは言え、完全じゃないがね。

 前回、教皇に回収された時の事を踏まえて、俺はスターヒルのギリギリ近くに避難するという方法を思いついたのだ。
 『もう限界』『もう無理』なんて事になった場合はそこへと逃げ出し、睡眠を貪るようになった。
 もっとも俺が何処かで休んでいることはシャカには直ぐに解ったようで、その後の修業は普段よりも苛烈に成るというおまけ付きだったが……。

 ――――さて事件です。

 多少睡眠不足が改善されたとは言え、眠いものは眠い。
 睡眠欲求に悩まされつつも、何とか日々を過ごしていた俺だったが……。
 そんなある日、シャカに不可思議なことを言われたのが事の始まりでした……。

 今日も今日とて、目覚めと共に朝食の用意にとりかかった俺だったが、

「クライオス……何をしている? 早く準備をしたまえ」

 と、普段滅多ににしないようなシャカの催促が聞こえた。
 勿論『何だ?』と思いもしたが、『シャカだってそういう時くらいは有るだろう』と軽く流すことにした。

「今から作りますから待っててくださいよ。……全く、何時からそんな欠食児童みたいに成ったんですか?」

 と返したのだが、『ガッ』と頭を捕まれ万力のようにギリギリと頭を締め付けられた。

「イダダダダダッ!!」
「君は一体何を言っているのだ? 何時、私が、『早く食事を作れと』言ったかね?
 私は、出かける準備をしろと言っているのだ」
「で、出かける準備ですか?」

 締め付けられた頭部を摩りながら涙目で言う俺に、シャカは短く「そうだ」と返してきた。

「出かけるって……一体何処にですか? 今の時間じゃ、アテネ市街に行ってもまともな店はやってませんよ?」
「アテネではない」
「アテネじゃない? なら、一体――――」

 首を傾げて聞く俺に、シャカは口元を釣り上げてニィっと笑った。
 一応俺は嫌な予感がしたのだが……まぁ今更そんな予感なんて意味がない事

「ニューギニア島だ」
「はい?」

 この時は久しぶりに思ったものだよ。
 この人はやっぱりワケ分からん……と




 第11話 シャカの試練(?) 上




 シャカに言われて訳も分からぬまま遠出の準備をさせられた俺は、
 其のまま何の説明もなくシャカに連れられてニューギニア島に向かって移動を開始した。

 本来なら飛行機なり何なりを使うのだそうだが、時間が勿体無いという事で限界ギリギリまで走っていくことに成ってしまった。
 背中に自分の分の荷物とシャカの分の荷物を担いでいるため走りにくいことこの上ないが、まぁ最悪荷物がバラけない様に気をつけよう。
 結構な量を担いでいるはずなのに、問題なく担いで走れてしまう今の自分が少しだけ怖いな。

 もうアレだな、聖闘士が仮にオリンピックに出たら即座に金メダルを取れるな。
 まぁ……そんな事をすれば、間違いなく粛清の対象に成るだろうけど。
 むしろ銀河戦争(ギャラクシアンウォーズ)だったか?
 城戸沙織――――アテナが聖域を挑発するために開催する聖闘士同士のトーナメントだが、
 あの大会に参加していた青銅連中は、聖域から刺客が送られることを考慮に入れなかったのだろうか?
 もしかして……『刺客? ハッ! そんなの返り討ちにしてやるよ』ってノリだったのか?
 一応『私闘はダメ、絶対』と伝えられている筈なのだが……。

 まぁ……大体にして、刺客として送り込んだ氷河も向こう側にアッサリと寝返っているしな。
 もしかしたら余り深くは考えていないのかも知れない。

 少し話しがそれたな……。
 まぁ、聖闘士の身体能力云々については置いておくとして、今はこの状況について考えるとしよう
 ――――まぁ俺の感想を言うと、『これは何だ』と言うところだろうか?

 黄金聖闘士であるシャカが聖域を出るということは、何かしらの勅命が下ったと考えるのが普通なのだが……。
 だが、それに俺が連れて行かれる理由が理解できない。

 一つの任に二人以上の聖闘士が割り振られたり、また自身の従者を伴って任務に付く者も中には居るが、
 それらは其々が『聖闘士』であったり『従者』であるのだ。
 少なくとも聖闘士候補生が連れて行かれることなど有りはしない。

 だと言うのに、こうして俺が連れ出された理由は一体なんだ?

 教皇から俺の暗殺命令が下った? いやいや、それだったら聖域に居る段階で殺してるはず。
 だったら聖闘士候補生に任務をやらせる? 違うなそれこそ有り得ない。
 聖域は地上に於いて完璧でなければいけない筈だ。
 仮に任務に失敗をしたとしても、それには力を持ったものが行動したと言う――――所謂、見せ看板的な物が必要になる。
 幾ら何でもそれを候補生にやらせると言うことはしないだろう。

 ……ん? でもその為に黄金聖闘士が来てるのか?
 俺が失敗した時の為に、その後処理をするための保険として……。
 まぁ、幾ら何でも考えすぎか。
 一番考えられるのは……シャカが俺を『従者』として連れてきたってところか?
 ……なんだかなー。
 もしそうならば少しだけ凹む。
 社会科見学とかの意味合いも少しは含まれそうだけど、俺の荷物(自身の手荷物とシャカの大荷物)を見る限り違うとは言い切れない。

 あぁそうそう、因みに現在の俺達の服装だが……俺に関しては何時もと同じ服装に、上から外套……マント? それともボロか?
 上手く言い表すことが出来ないが、そんな布をスッポリ被り、シャカも黄金聖衣の上から同じ様に布を羽織っている。

 まぁ、普通に見れば変な格好この上ない服装では有るな。

 さてさて、俺がこうして連れてこられた理由は解らないが、それとは別に今度は任務の内容について説明しよう。
 シャカが言うにはだが、最近ニューギニア島の一地方で不可思議な現象が起きているらしい。
 何でも死んだ筈の人間が昼夜を問わず歩き回り、現地の男性や女性を誘惑しては……まぁ『ナニ』をするらしいのだ。

 そしてナニをされた相手は死んでしまい、またそういった話しが出てくるようになってから妙な病気が流行りだしたとか。

 今回はその話の信憑性を探ることと、そして何らかの手を打つことが可能ならば解決に導く事を任務にしているらしい。

 話を聞くとかなり胡散臭いことではあるが、恐らく『死んだ筈の人間が――――』という所で今回のシャカの派遣が決まったのだろう。
 ……俺が行く意味が解らないが。

 処で知っているだろうか?
 ニューギニア島は、東と西で領有している国が違うのだという事を。
 東をパプワニューギニア、西をインドネシアが領有しているのだ。
 今回俺達は西側のインドネシア方面から島に入り、その後は堺である島中央の山岳部へと向かって移動を開始した。
 最も被害に遭っていると言う集落へ向かうのだとか。その道中――――

「あぁ……言うのを忘れていたがなクライオス、病気に成りたくなければ常に小宇宙を燃やしておけ。
 この辺りは、どんな事で感染するかも解らない病気が有ったりするのでな」
「そういう事は早く言って下さい!」

 ってな事が有ったが……まぁどうでも良いか。

 件の集落に到着すると、……うん、まぁ本当に集落という言葉がピッタリとくるようなイメージ通りの所だ。
 昔からの伝統をしっかりと伝えていると言うような……悪く言えば閉鎖的で発展していないと言うような。
 そこに住む人達は、パッと見る限りでは随分と参っているように見える。

 まぁ、全身をマントで包んだ見知らぬ子供が、急に二人も現れては変な顔の一つもしようという物だが、
 それにも増してこの集落に住む人達は精神的に参ってしまっているようだ。

「――――……お前たち、一体どこから来たんだ?」

 集落の入口あたりで周囲を見回していた俺とシャカに、一人の若者が声を掛けてきた。
 その声には若干の警戒の色が見え隠れしていたが、それもまぁ当然と言える。
 若者の問い掛けにシャカは少しばかり気分を害したのか、眉を一瞬だがピクリと動かすと眉間に皺を作った。

 どうしたのだろうか?
 いつもは同じ聖闘士との掛け合いにも動じずに(むしろ上から目線で)いるシャカにしては珍しい。

 そんな俺の考えなど無視するようにシャカは「ふむ……」と少しだけ間を置くと懐に手をやって

「私達は"インドネシア政府"の要請で、この近辺で起きていると言う現象の調査に来た。
 ――――これが政府発行の指令書になる」

 そう言ってシャカは懐から一枚の紙を取り出すと、それを若者に見せた。
 正真正銘本物の指令書。
 とは言え、まぁその判断はそうそう出来ることでは無いだろうけどな。

「……ちょっと待て。じゃあ何か? 上の連中は此処の調査にお前らのような子供を送り込んできたってのか?」
「…………」
「いえ、あの……子供と言ってもですね、俺達は――――」
「巫山戯るなッ!!」

 俺が何とか鎮めようと声を掛けたのだが、そんなモノは若者の耳には届かないようだ。
 大声でがなり立て、苛立をぶつける様に文句を口にし始める。
 まぁ……こんな態度を取りたく成るのも頷けるけどな。
 人間、先ずは見た目の印象だよ。
 どう考えたって、子供よりも大人のほうが頼りになりそうだって誰だって思うだろうしな。
 俺だってそう思う。

 だが――――

「俺達は毎日毎日を怯えて過ごしているんだぞ! それが、此処に来るのがこんなガキが二人だと!!」

 そんなに『ガキガキ』連呼されると流石にイラッと来る。
 自分が子供なのは十分に解っているし、それはどうしようもない事なのだから言わないでも貰いたい。
 まぁ、そんな俺の考えなんてのは相手には関係ないって解ってるけどさ。

 しかし解っているのと認めるのは別問題で、俺はいい加減目の前で騒いでいる若者を黙らせようかと思った矢先――――

「――――静まりたまえ」

 『無駄』に周囲へ響く声で、シャカが言葉を発した。
 その言葉は小宇宙を乗せて発せられており、聞かずには居られないような……一種の強制力のような物を感じる。
 ……流石に俺は慣れたけど。

「……な、なんだお前」

 先程までの勢いや怒声はどうしたのか?
 若者はシャカに威圧されたかのように後退り、何とかそれだけ口にした。
 すると奥の方から集落の人達が『なんだ、なんだ』現れ始め、周囲を囲むように人垣が作られる。

 ゾロゾロ、ゾロゾロと……

 一体何処から集まってくるのかと言うような数の人がさっきから引っ切り無しに集まってくる。
 俺はその光景に驚きつつ「シャカって本当にすごいんだな……」と、自身の師匠の能力を再確認したのだった。
 まぁ普段が普段、すこし……色々とズレてる処があるシャカだが、やはり『最も神に近い男』という肩書きは伊達ではないらしい。

 いい感じに人が集まりきったところでシャカは再び小宇宙を高め――――

「多くの苦悩と哀しみを諸君等は経験してきたことだろう。
 だが怯えることは無い、悩める必要はない。その為に私達が来たのだから。
 悩みも、苦しみも……その一切を私が掬いとってみせよう。お前たちの苦悩は今日より終わるのだ――――」

 と、小宇宙全開で布教活動を始めてしまいましたよ此の人は……。

 シャカの一言一句に人々は感嘆の声を挙げ、何やら拝み手をする人達まで現れだした。
 『有り難や~』なんて声も聞こえてくる。いや、幾ら何でも拝まれ過ぎじゃないか?
 ――――と、言うかだ。此処の人達感化されすぎだ。
 しかも、さっきまで怒鳴り声を挙げていた筈の若者まで涙を流して手を合わせる始末。

 これはシャカが凄いのか、単に俺が舐められやすいのか?
 まぁ……俺は10歳だしな。
 舐められても仕方がないとは思うけどさ。

 ここに居る人達に、もし普段のシャカの様子を話したらどうなるのだろうか?
 ……きっと信じてくれないな、うん。

 まぁ良いや。
 こうなると暫くはどうしようも無くなるので、俺は俺で勝手にしますか。
 シャカがあぁやって趣味に没頭している間に、俺は他の人から話しを聞いておくとしよう。
 幸い……かどうかは兎も角、流石に集落中の人がシャカを拝みに来てる訳ではないようだしな。

 俺は説法を続けるシャカの邪魔に成らないように、念話を使って一言シャカに告げると集落の奥に進んでいった。




 奥に行くと、流石に全員がシャカの話しを聞きに行った訳ではないらしくて、何人かの住人が居る。
 だがどれもこれも入口辺りで見かけたのと同じ様な、やる気の無い、覇気のない顔をした連中ばかりだった。

「お仕事とはいえ……この人達から話しを聞くのか?」

 と、俺は気が滅入ってくる。
 何度でも言うが、今の俺は子供だ。
 日本人に解りやすく言えば、小学生程度の子供である。
 子供に心配されて困ったことはペラペラ喋るような奴が――――いや、中には結構いるかも知れないが、そうそう居るとは思えない。
 インドネシア政府からの召喚状を持ってれば少しは違うかも知れないが、アレは現在シャカの手の中だ。

 俺にアリエスのムゥと同じ程度の超能力があれば、
 シャカの手の中から瞬間移動させることも出来るのだろうけど……生憎と俺にはそんな能力は備わっていない。
 そう言えば、デスマスクも超能力を使えたんだよな……。
 現在の俺が出来る事って念話が精々なんだよな……何か更に気が滅入る。

 俺が余計なことを考えて更に気落ちしていると、トコトコと俺に向かって真っ直ぐ歩いてくる人影がある。
 そちらの方へ視線を向けると一人の少年?(若いうちは解りにくいことが多い)が、俺に強烈な視線を向けながら近づいてくる。

 そして

「お前、国の命令で来たんだろ? 強いのか?」

 と聞いてきた。
 相手は俺と同じか少し小さいくらいの身長で、ボサボサの髪の毛をしている。
 初対面の相手に聞いてくる内容としてはどうかと思うが、礼儀がどうの言える人間でも無いからな……俺は。

 だから一言

「弱いよ、俺は」

 と、簡潔に事実のみを伝えた。
 少なくとも、聖域には俺より強い連中が大勢いるからな。
 だが――――

「ケッ! なんだよ情けねーな。期待させやがってクソ」

 等と言われては、普段から爆発寸前の火薬庫のように成っている俺には止めることは出来ない。
 主に俺の言動と行動を……

 俺はニコッと笑って拳を振り下ろし――――

 ゴガァンッ!!!

 一気に地面を陥没させた。
 振り下ろした拳を中心にして、半径数mが円形に抉れている。そして俺は目の前の少年を一睨み

「うるせぇな、黙ってろ童(わっぱ)。俺だって好きで弱いわけじゃ無いんだよ」

 と、ドスを聞かせた声で言うのだった。
 何とも格好の悪いことではある。
 自分で言ってて格好悪いな――――と思うのだから相当だ。

 俺は溜息吐きつつその場から去ろうと踵を返したのだが――――グイっと外套を引っ張られてつんのめる。
 何だ? と思って視線を向けると、先程の少年が俯きながら俺の外套を握り締めていたのだった。

「……何だよ童、離せってば」

 俺は引き剥がすように外套を引っ張るが、少年はギュッと力を込めて離そうとはしない。
 何やら嫌な予感がしないでも無いが、俺はその少年に視線を向けたまま待ってみる事にした。

「――――……スッゲェ!!」
「…………」
「メチャクチャにスッゲェよ!!」

 少年はそう言いながら、俺の外套を頻りに力一杯に引っ張って興奮を表している。
 何と言うか……千切れるからヤメテ欲しい。

「解ったから……もう解ったから引っ張るな――――」
「お前なら、何とか出来るかもな!! 違う、絶対なんとか出来るよな!!」

 次第にその表情を曇らせ、羨望の眼差しから懇願のそれへと変化させた少年。
 俺は、その変化に少しだけ心にモヤッとした変な感じを受ける。
 嫌な予感しかしない少年の行動に、俺は眉を顰めながら尋ねることにしたのだった。

「オイ……一体どういう事だ?」
「――――頼むよ、お願いだよ……俺の話を……聞いてくれよ」

 ・
 ・
 ・
 ・

「詰まり、実際今の騒ぎは数ヶ月前から起きていて、政府の命令とやらで此処に来たのは俺達が初めてだと?」
「……うん」

 少年――――テアの説明を聞いた俺は、確認の為にその内容(と言っても、触りの部分だが)を聞き返した。
 そして続けて、「何だそれは……」と頭を抱えたくなる。
 騒ぎは数ヶ月前……要は『死んだ筈の人間が――――』といった現象が数ヶ月前に表面化したと言うのなら、
 実際にその現象が発生したのはもっと前の事だろう。
 それでもインドネシア政府は放っておいて、やばそうな雰囲気になってきたという事で聖域に丸投げしたってことか?

 ……信じられない事をするな。

「俺達は住んでる場所が場所だから……だから上の連中は動かないんだって、家の親が言ってたよ」
「場所?――――……そうか、そういう事か」

 山岳地帯の……所謂、国境付近の集落。
 大きな特産物がある訳でもなく、国の税収にそれ程関係してる訳でもない場所。
 国としては、『こんな未開の土地に一々構ってなど居られない』って事なのだろう。
 だが、その話がインドネシア本国の国民の方にまで飛び火してきてしまった。
 こう成っては流石に放っておく訳にも行かなくなったのだろう。

「――――なぁテア、お前の言ってる助けて欲しいってのはそういう事なのか?」

 俺はテアが『早く何とかして欲しい』といった積りなのか? と聞いたのだが、
 テアの表情は先程のように暗くなり、俺は首を傾げる事になった。

「……それもあるけど……姉さんを、姉さんを助けて欲しいんだ」
「姉さん?」

 尋ねるようにして聞いた俺に、テアは「こっちに来て」と言って手を引っ張ってきた。
 それに連れられるように俺は歩いて行くと、少しづつ鼻に付くような甘ったるい香りを感じるようになってくる。
 視線を這わせて香りの元を探ろうとしていると、テアが先導して行く先――――要は目的地付近に目が止まった。
 そのままその場所へと進み、到着した場所には一人の女性が座っていた。
 但し、目の焦点は有っておらず、何やら虚ろな表情を浮かべてはいたが……。

「あの人は?」
「……俺の姉さんだよ。少し前までさ……姉さんには婚約者が居たんだ。でもその相手が、今起きてる騒ぎで――――」
「そうか……」

 テアの説明を聞いた俺は、その視線を女性のほうへと戻す。
 心が病んでいる、とまでは言わないが、だがこの儘では余りいい結果にはならないかも知れない。
 何やら儚げで、生きている感じが余りしないのだ。

 こういう時、アフロディーテならバラを出すのだろうか?
 シャカなら突き離すようにするのだろうか?
 サガならば優しく諭すのだろうか?
 シュラなら…………困った顔をするのかな?

 俺なら……俺ならば、そうだな。

「どうしたの?」

 テアが無言の俺に問いかけてくる。
 俺はそんなテアにニコッと笑うと、その女性の前へと歩いていき『腕を振るった』。

 振るった腕の先……指先が女性の額に触れると、その女性は崩れるようにして倒れこむ。
 俺は倒れる女性を支えるように受け止めると、ゆっくりと横にして眠らせた。

「な、何してるんだ! 姉さんに何をした!!」

 俺が一連の動作を終えると、テアが激昂しながら駆け寄ってくる。
 あぁ……そうか、説明をしてからするべきだった。
 俺はそう反省してテアの方に手を向けながら制すると、説明をすることにした。

「落ち着け、テア。お前の姉さんは寝てるだけだ。よく見てみろ」

 と言って、テアに女性の様子を確認させる。
 テアは先程の、俺に掴み掛らんばかりの勢いとは違い、ゆっくりとした動作で女性の状態を確認していった。

「――――本当だ、寝てるだけだ」
「今は少しの間だが、『夢』を見て貰ってるだけだ。上手く乗り越えられるようにな」
「乗り越える?」

 俺の説明に、テアは首を傾げて質問をしてくる。
 そんなテアに俺は軽く笑って返した。

「こう言うのはな、回りから何かを言っても駄目なんだよ。自分で区切りを付けて、自分で上手く纏めなくちゃな」

 だから俺はその手助けをしたんだ。
 と言うと、テアは解ったのか解らなかったのか、

「――――うん、そうだね」

 と頷いて返してきた。

 俺はテアの頭を何度か撫でるようにすると、一度シャカの方を見つめ

《シャカ……俺は先に現場を調べに行ってきます》

 と念話を送る。
 シャカからは別に、『気をつけろ』や『無理をするな』との返事は帰ってこなかったが、それでもただ一言

《――――ならば今回の勅はお前に一任することにしよう。私は先に街へ戻っている……クライオス、心して掛かれ》

 と返事が返ってくるのだった。
 俺はそれに対して少しの驚きを感じた。

 今回、この島にシャカが派遣されたのは教皇からの勅である。
 それだと言うのに任務を丸投げ?
 確かにシャカは、普段の生活態度や人に対する接し方などにかなり問題がある社会不適格者の様には思うが、
 少なくともこういった仕事を放っておく様な事はしないと思っていたの――――

《――――クライオス。……何か、私に対して邪悪な意志のようなものを感じたが?》

「えぇッ!?」

 思考を中断するように念話を送ってきたシャカの言葉に、俺は素っ頓狂な声と同時にビクっと身体を震わせた。
 そして『ブンブン』と音が聞こえる位に首を左右に振ってから言い訳を始める。

《いやいやいやいやッ! 何にも変なことは考えてませんから!! ……ただ、ちょっとどうなのかなと――――》
《お前の言っている内容については、後日詳しく問い質すとして……私は任せると言ったぞ? 可能な限りやってみせたまえ》

 そう声が頭に聞こえると、視線の奥の方……集落の入口付近に居たシャカはクルリと踵を返して本当に帰ってしまった。
 何時の間にやらシャカに群がっていた人の群れは消えていて、シャカが歩いていってしまう姿がよく見える。

 俺はそんなシャカの背中を見ながら

「行ってきます」

 と一言告げてテアの方へと向き直った。
 テアは一瞬の俺の言葉に疑問を持ったようだが、それ程気にすることも無く

「じゃあ行こう。騒ぎの現場に案内するから」

 と言うと、俺の手を引いていく。
 その際に一瞬、集落の奥……山肌に面した所に奇妙な洞穴を見つけたのだが、
 「はやく、はやく!!」と急かすテアに負けて、俺はそっちを優先することにしたのだった。






 テアに手を引かれて森の中を1時間ほど、距離にすれば数キロの移動距離。
 到着した場所は幾分拓けたように成っている場所だった。

 一段窪んであるその場所は、森の中なのに植物が殆んど無く、地面は荒れ野のように剥き出しの地面を晒している。

「此処は?」
「最初に化物騒ぎがあった場所だよ」

 回りを見ながらそう言うテアは、何やら悔しそうな表情を浮かべていた。
 俺はこの荒地のような場所を見ながら首を捻る。

 雑草が点々と生えているだけで生い茂るほどの草木は無い。
 何かに吹き飛ばされたと言うほどの荒れ方ではなく、何かがあったけど無くなった……という言い方がしっくり来るような、
 そんな違和感をこの場所には感じた。

 しかし、俺はその荒地を見渡してみるが今一つ答えが出そうには無い。

 なので『仕方がない』と判断してもう一つの気になった点、テアの言った『化物騒ぎ』と言う事の確認をする事にした。

「――――化物騒ぎってのは、死んだ人が歩きまわるって奴か?」
「死んだ人?……うぅん、タウゴウとは別だよ。最初に出たのはヌグとゲスゲス」
「……ヌグ? とゲスゲスってなんだ?」

 何とも妙な固有名詞に、俺は眉をしかめて聞き返した。
 しかし『タウゴウ』『ヌグ』『ゲスゲス』と、他所の国人間である俺にはよく解らんな。
 『口裂け女』とか『お岩さん』とか『トイレの花子さん』のような固有名詞だとは思うが。

「俺は見た事ないんだけど……ゲスゲスは男か女の姿で出てくるんだってさ」
「――――あー……そっちか。まぁ見たこと無いだろうな」

 詰まりは『ナニ』をしてしまう奴ね……と俺は言葉には出さずに理解する。
 俺よりも年下に見えるテアがそういった手合いに出会っていたら、それはそれで大いに問題がある。

 しかし、俺はそこでふと疑問に思うことがあった。
 俺が此処に来る前に知らされていた話は、『死んだ人間が――――』であって、そのゲスゲスとやらがとは聞いていないのである。

「なぁ、テア。さっきのお前の言い方だと、タウゴウってのが死んだ人間の事だろ?」
「……? そうだよ」
「なら、タウゴウとゲスゲスってのは一緒じゃないんだよな?」

 まぁ、余り意味のある確認とも思えないが、俺はテアに質問をした。
 テアはそれに悩む素振りを見せて考え始める。

「うん……。細かく説明しろって言われても、俺もよく知らないから難しいけど……。
 タウゴウとゲスゲスは別々のモノだよ」

 との事。
 事前に話に聞いていた、『死んだ筈の人間が徘徊する』→これがタウゴウで、
 それとは別に居るゲスゲスとか言うのが、テアの言ってる化物の片割れ?
 こっちは俺の予想ではあるけど、恐らく『ナニ』をしてしまう奴だろう……。

 それが、ここいらの集落の人達を襲って被害を出している?

 なら最初に聞いていた『死んだ筈』云々というのは情報の伝達ミスか、それとも途中で混同されたのか?
 またはゲスゲスとは別に、そのタウゴウというのも存在しているのか……。

 俺が口元に手を当てて考え始めた事で、テアは会話の相手が居なくなってしまい手持ち無沙汰に成ったようだ。
 恐る恐ると言った表情で俺の顔を覗き込んでくる。

「えーっと、話しを戻すけど。最初に此処で騒ぎがあったのはもう一年近く前だったかな。
 集落に居たペテナさん(56歳♂)が見たらしいんだ」
「らしい?」
「……ペテナさん、その後に死んじゃったから」

 詰まりは犠牲者第一号って事ね。
 集落での仲間の死に際の話だ、言うのも辛いだろう――――と、俺はこの時までは思ったのだが、

「ペテナさんが言うには、日が傾いてきてもうすぐ夜になりそうだって時間。
 その時間に何かが『ブツかる音』がしたって言うんだ。で、気になって来てみたら此処でヌグとゲスゲスが闘って――――」
「――――ちょっと待った。……一体何だ? そのB級映画のノリは、怪獣大決戦か?」
「……びーきゅう映画?」

 まさか内容が『ゴ◯ラVSキング◯ング』とかそういった類とは思わなかった。
 だがテアの方は至って真面目で、俺の言ってることが理解できない……といった顔をしている。

「良く解らないけど、兎に角ペテナさんは此処でヌグとゲスゲスが争っているのを見たんだってさ。
 だけど、その二匹に気付かれて……」
「襲われたか?」
「……一応は帰って来たんだけど。ペテナさん、最初はニコニコした顔で『女神を見た』って言ってたんだ。
 その時にヌグから助けて貰ったって。でもその後、何日かしたら高熱を出して死んじゃった」
「……それで、ソイツの言ってた『女神』はゲスゲスじゃないかって?」
「うん、そういう事だよ」

 今のテアの話を要約すると。
 夕方――――日本で言うと逢魔が刻位に、この何も無い荒地でペテナさん(56歳♂)は二つの怪異を見た。
 一つは本人曰く『ヌグ』である。
 もう片方はテア曰く『ゲスゲス』だろうとの事。

 で、犠牲者は恐らくゲスゲスにヤラレタ(色んな意味で)と考えられる。
 そうやってヤラレタ人間が、タウゴウになって徘徊してるって事か?

 それじゃあ、ヌグって何?

「――――テア、ヌグってどんなの?」

 俺の問い掛けに、テアはクイッと肩を竦めて見せる。
 所謂『解りません』との仕草だ。

「知らない」
「……いや知らないってお前」
「一応、全身が巨大なワニみたいで、んでヒクイドリみたいな足をしてるんだって言われてるけどね……」

 とのことらしい。
 俺はそのテアの言葉を元に、脳内でヌグの想像図を構築してみた。
 ワニ――――爬虫類で四足歩行、むしろ腹這い。
 ヒクイドリ――――鳥類で直立二足歩行。

「……どんな生き物だ、それは」
「知らないよ、見たこと無いもん。本当はペテナさんも『でっかい鳥を見た』って言ってたんだけど、
 後になって『絶対にヌグだった』て言ったんだし……」
「…………それは普通に、ヒクイドリだったんじゃないの?」

 因みに、ヒクイドリとは世界で3番目に大きな飛べない鳥で、全長1.5m~2m。最も危険な鳥類としてギネスにも乗ってる危ないヤツだ。
 時速50kmで大地を駆け、固い鱗に覆われた脚と鋭い爪の一撃は容易く骨を砕いて肉を裂く。

 まぁ、一般人だと思われるそのペテナさんが、仮にもヒクイドリに襲われたとしてどうやって無事に帰還したのか――――
 例の『女神(ゲスゲス)』とやらに関係が有るだろうか?

 謎なことが多いな……。

「でも……正直な所、見間違いって思わなくも無いけど、ヒクイドリじゃない『何か』が居たのは本当だと思う」

 俺が頭を捻って悩んでいると、テアはそんな事を言ってくる。
 その言葉に俺は「はい?」と視線を向けた。

「俺もそれを見たことあるから」
「はぁ!?」

 俺は格好悪い事に、そんな返答をしてしまった。
 テアの言ってる『それ』とは、当然ヌグの事だろう。
 まぁ何だ、その事に俺は

「何でそれを早く言わないんだよ!!」

 と、ほんの少しの怒りをこめて言ったのだが

「物事には順序って物があるだろ? 急に答えに近づいたら味気ないじゃん」

 テアには全く効いてはいなかった。

 俺は「はー……」と溜息を吐いて肩を落とすと、テアは「どうしたの?」と無邪気に聞いてくる。
 『答えを急ぎすぎるのって悪いことなのだろうか?』

 と、俺はそう自問するのだった。









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